説明

踏切監視システム及び踏切監視システムの制御方法

【課題】平常時における高精度な検知率の確保と同時に、監視カメラの故障発生時に対し効果的に対処でき、しかも低コストで運用可能な踏切監視システムを提供する。
【解決手段】平常時に、踏切1内の監視領域を2台の監視カメラ2,3により分担して撮像するようにして、高精度な検知率を確保し、監視カメラ3の故障発生時に、故障した監視カメラ3の検知範囲を別の正常な監視カメラ2の撮像範囲でカバーして補完するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切の監視を行うための踏切監視システム及び踏切監視システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄道の踏切においては、障害物などを監視する必要があるため、監視システムを設けている。この種の監視システムにおいては、可視カメラ、赤外線カメラなどを用いた踏切障害物検知装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−145072号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記踏切障害物検知装置では、広範囲の障害物検知が可能であるが、カメラ映像において遠方の物体は小さくしか映らないこと、或いはより広い範囲を検知対象とするための手段として俯角を浅くする手段を講じると、自動車のヘッドライトや朝日/夕日等の高度の低い光の影響を受けてしまうこと、より広角系のレンズを使用する手段を講じるとゆがみにより周辺部の検知精度が落ちてしまう等の問題があり、検知対象エリアを複数の装置で分担して監視する方法が採られている。
【0004】
しかし、踏切内を複数の検知対象エリアに分割し、各分割エリアを複数の装置で分担して監視する形態をとった場合、そのうちの1つの装置の故障によってシステムとして障害物検知が行えないことになる。一方、同一のエリアを複数の装置の単純冗長で監視することは、装置の導入や保守、運用にかかるコストの点で問題がある。
【0005】
そこで、この発明の目的は、平常時における高精度な検知率の確保と同時に、監視カメラの故障発生時に対し効果的に対処でき、しかも低コストで運用可能な踏切監視システム及び踏切監視システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するために、以下のように構成される。
踏切内の監視領域を互いに分担し、各分担領域を撮像する第1及び第2の監視カメラ装置と、第1及び第2の監視カメラ装置のいずれか一方の故障を検出する検出手段と、この検出手段により故障が検出された場合に、第1及び第2の監視カメラ装置のうち正常な監視カメラ装置の撮像範囲を監視領域に略一致させる制御手段とを備えるようにしたものである。
【0007】
この構成によれば、平常時に、監視領域を2台の監視カメラ装置により分担して撮像することにより高精度な検知率を確保でき、監視カメラ装置の故障発生時に、故障装置の検知範囲を別の正常な監視カメラ装置が検知対象範囲を拡大することによって補完することが可能になり、結果、コストの増加を招くことなくシステム稼動率の高い踏切監視システムを提供できる。
【0008】
検出手段は、第1及び第2の監視カメラ装置間の通信により故障を検出することを特徴とする。
この構成によれば、第1及び第2の監視カメラ装置間で通信が行われることにより、特別な検出装置を用いることなく、簡単な手順で監視カメラ装置の故障を検出できる。
【0009】
制御手段は、平常時に、第1及び第2の監視カメラ装置で得られる撮像画像を分担領域に合わせてマスクし、故障時に、正常な監視カメラ装置で得られる撮像画像のマスク範囲を変更することを特徴とする。
この構成によれば、平常時または故障時ごとに、新たな監視カメラ装置に交換する必要がなく、既知の広角カメラを使用することができ、これにより低コストで運用できる。
【0010】
平常時に、第1及び第2の監視カメラ装置に対し分担領域を撮像させるための第1のコンフィグレーションデータと、故障時に、第1及び第2の監視カメラ装置に対し監視領域を撮像させるための第2のコンフィグレーションデータとを記憶する記憶手段をさらに備え、制御手段は、故障時に、記憶手段から第2のコンフィグレーションデータを読み出し、正常な監視カメラ装置にセットすることを特徴とする。
この構成によれば、故障時に、メモリに蓄積管理された第2のコンフィグレーションデータを読み出して、正常な監視カメラ装置にセットするだけの簡単な手順により、正常な監視カメラ装置に監視領域を監視させることができる。
【0011】
第1及び第2の監視カメラ装置のいずれか一方の故障が検出された場合に、警報を発生する警報発生手段をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、監視カメラ装置が故障した場合に警報を発するようにすれば、監視カメラ装置の故障等を素早く管理者に通知することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したようにこの発明によれば、平常時における高精度な検知率の確保と同時に、監視カメラの故障発生時に対し効果的に対処でき、しかも低コストで運用可能な踏切監視システム及び踏切監視システムの制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、この発明に係わる踏切監視システムの第1実施形態を示す概略構成図であり、1は踏切、2,3は監視カメラ、4,5は障害物検知装置、6,7は記憶装置をそれぞれ示している。
【0014】
監視カメラ2,3は、踏切1の周辺に設置されるもので、踏切1の監視領域を互いに分担し、各分担領域を撮像し、その撮像信号を対応する障害物検知装置4,5に供給する。障害物検知装置4は、監視カメラ2により撮像された踏切1の映像を画像処理することで、障害物の有無を判定する機能を有する。また、障害物検知装置4は、記憶装置6と、障害物検知装置5との間の通信機能とを備えている。
【0015】
障害物検知装置5は、監視カメラ3により撮像された踏切1の映像を画像処理することで、障害物の有無を判定する機能を有する。また、障害物検知装置5は、記憶装置7と、障害物検知装置4との間の通信機能とを備えている。
【0016】
記憶装置6には、通常時に監視カメラ2に対し踏切1の分担領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD1と、故障時に正常である監視カメラ2に対し踏切1の監視領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD2が記憶されている。記憶装置7には、通常時に監視カメラ3に対し踏切1の分担領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD1と、故障時に正常である監視カメラ3に対し踏切1の監視領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD2が記憶されている。
【0017】
次に、上記構成における処理動作について説明する。
図2(a)に示すように、通常時に、障害物検知装置4は、監視カメラ2で撮像された踏切1の映像に対し、誤検知の低減のために監視カメラ2から遠方側のエリア映像の部分についてマスク処理を行っている。
【0018】
ここで、障害物検知装置4は、図3に示す処理手順を実行する。
まず、障害物検知装置4は、自系が正常であるか否かを監視し(ステップST3a)、自系が正常である場合に、相手系が正常であるか否かを監視する(ステップST3b)。
【0019】
相手系が正常であれば、障害物検知装置4は監視カメラ2により撮像される踏切1の映像を画像処理することで、障害物の有無を検出し(ステップST3c乃至ステップST3e)、障害物がある場合に、障害物に対する処理を実行する(ステップST3f)。この場合、障害物検知装置4は踏切1内に障害物がある旨を列車もしくは指令室に通知する。
【0020】
一方、上記ステップST3bにおいて、監視カメラ3が故障した場合に、障害物検知装置4は、図2(b)に示すように、監視カメラ2より得られる踏切1の映像のマスクを外し、記憶装置6からコンフィグレーションデータD2を読み出して監視カメラ2にセットする(ステップST3g乃至ステップST3j)。
【0021】
そして、障害物検知装置4は自系が正常であるか否かを監視し(ステップST3k)、自系が正常である場合に、監視カメラ2により撮像される踏切1の映像を画像処理することで、障害物の有無を検出し(ステップST3l及びステップST3m)、障害物がある場合に、障害物に対する処理を実行する(ステップST3n)。
【0022】
一方、自系が異常である場合に、障害物検知装置4は警報を発生する(ステップST3o)。したがって、近くの管理者に対し監視カメラ2,3が故障した旨をいち早く知らせることができる。
【0023】
なお、上記ステップST3aにおいて、自系が異常である場合に、障害物検知装置4はステップST3oに移行して警報を発生する。
【0024】
また、上記ステップST3a乃至ステップST3oの処理は、障害物検知装置5でも実行される。
【0025】
以上のように上記第1の実施形態では、平常時に、踏切1内の監視領域を2台の監視カメラ2,3により分担して撮像するようにしているので、高精度な検知率を確保でき、監視カメラ3の故障発生時に、故障した監視カメラ3の検知範囲を別の正常な監視カメラ2の撮像範囲でカバーして補完するようにしているので、運用コストの増加を招くことなくシステム稼動率の高い踏切監視システムを提供できる。
【0026】
また、上記第1の実施形態では、平常時に、監視カメラ2,3で得られる映像の遠方側エリアをマスクすることで、踏切1内の障害物の検知精度を高精度に維持することができるので、平常時または故障時ごとに、新たな監視カメラに交換する必要がなく、監視カメラ2,3に既存の広角カメラを使用することができ、これにより低コストで運用できる。
【0027】
(第2の実施形態)
図4は、この発明に係わる踏切監視システムの第2の実施形態を示す概略構成図である。なお、図4において、上記図2と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
この第2の実施形態では、監視カメラ2,3の焦点距離を変更することで検知対象範囲を変更するようにしている。
【0029】
通常時においては、監視カメラ2,3も近傍側の範囲のみを撮像している。ここで、図4(b)に示すように、監視カメラ3が故障した場合に、監視カメラ2の焦点距離を広角系に切り替えて、監視カメラ3の正常時の検知範囲を監視カメラ2の視野に収めるようにしている。
【0030】
以上のように上記第2の実施形態であれば、平常時において、踏切1内の各分担領域を撮像するように監視カメラ2,3の焦点距離を調整しておくことで、踏切1内の障害物の検知精度を高精度に維持することができ、監視カメラ3の故障時に、監視カメラ2の焦点距離を広角系に切り替えて監視カメラ3の分担領域を含めた踏切1の監視領域をカバーするようにしているので、平常時または故障時ごとに、新たな監視カメラに交換する必要がなく、これにより低コストで運用できる。
【0031】
(第3の実施形態)
図5は、この発明に係わる踏切監視システムの第3の実施形態を示す概略構成図である。なお、図5において、上記図2と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0032】
この第3の実施形態では、監視カメラ2,3の俯角を変更することで検知対象範囲を変更するようにしている。
【0033】
通常時においては、図5(a)に示すように、監視カメラ2,3も近傍側の範囲のみを撮像している。ここで、図5(b)に示すように、監視カメラ3が故障した場合に、監視カメラ2の俯角を浅くすることにより、監視カメラ3の正常時の検知範囲を監視カメラ2の視野に収めるようにしている。
【0034】
以上のように上記第3の実施形態であれば、平常時において、踏切1内の各分担領域を撮像するように監視カメラ2,3の俯角を調整しておくことで、踏切1内の障害物の検知精度を高精度に維持することができ、監視カメラ3の故障時に、監視カメラ2の俯角を浅くして監視カメラ3の分担領域を含めた踏切1の監視領域をカバーするようにしているので、平常時または故障時ごとに、新たな監視カメラに交換する必要がなく、これにより低コストで運用できる。
【0035】
(その他の実施形態)
この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態では、2台の障害物検知装置4,5を用いた例について説明したが、図6に示すように1台の障害物検知装置4内で監視カメラ2,3の切り替えを行うようにしてもよい。なお、図6において、上記図1と同一部分には同一符号を付して示す。
【0036】
すなわち、図6に示すシステムにおいて、障害物検知装置4は、監視カメラ2を収容するインタフェース部(I/F部)41、監視カメラ3を収容するインタフェース部(I/F部)42、主制御部43、記憶部44を備え、相互間をデータバス45により接続している。主制御部43は、記憶部44に記憶された制御プログラムに基づいて、ソフトウェア処理により障害物検知装置4の各部の制御や監視カメラ2,3との間のデータ通信処理を行う。また、主制御部43は、監視カメラ2,3により撮像された踏切1の映像を画像処理することで、障害物の有無を判定する機能を有する。
【0037】
記憶部44には、通常時に監視カメラ2,3に対し踏切1の分担領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD1と、故障時に正常である例えば監視カメラ2に対し踏切1の監視領域を撮像するためのコンフィグレーションデータD2が記憶されている。
【0038】
主制御部43による障害物検知装置4の各部の制御には、障害物検知装置4を構成する各部の正常性をチェックする機能を含み、即ち、当該チェックにより例えば監視カメラ3或いは監視カメラ3を収容するインタフェース部(I/F部)42に障害が発生した事を検出し、当該検出をトリガとして前述のコンフィグレーションデータD1,D2の切替及び、監視領域の変更を行う機能を有する。
上記構成によれば、別途に、障害物検知装置を2系統分用意する必要がなく、その分低コストで運用できる。
【0039】
また、各実施形態では、撮像画像のマスク、監視カメラの焦点距離の調整、監視カメラの俯角の調整により、平常時、故障時に検知精度を維持するようにしていたが、これ以外に、故障時に正常な監視カメラの撮像範囲を踏切内の監視領域に略一致させる手法を用いてもよい。
【0040】
その他、システム構成、平常時及び故障時における検知範囲の変更方法等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係わる踏切監視システムの第1の実施形態を示す概略構成図。
【図2】同第1の実施形態において、平常時と故障時の監視カメラの撮像領域の変化を説明するための図。
【図3】同第1の実施形態における障害物検知装置の処理手順を示すフローチャート。
【図4】この発明に係わる踏切監視システムの第2の実施形態を示す概略構成図。
【図5】この発明に係わる踏切監視システムの第3の実施形態を示す概略構成図。
【図6】この発明の他の実施形態に係わる踏切監視システムの構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0042】
1…踏切、2,3…監視カメラ、4,5…障害物検知装置、6,7…記憶装置、41,42…インタフェース部(IF部)、43…主制御部、44…記憶部、45…データバス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切内の監視領域を互いに分担し、各分担領域を撮像する第1及び第2の監視カメラ装置と、
前記第1及び第2の監視カメラ装置のいずれか一方の故障を検出する検出手段と、
この検出手段により故障が検出された場合に、前記第1及び第2の監視カメラ装置のうち正常な監視カメラ装置の撮像範囲を前記監視領域に略一致させる制御手段とを具備したことを特徴とする踏切監視システム。
【請求項2】
前記検出手段は、前記第1及び第2の監視カメラ装置間の通信により故障を検出することを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項3】
前記制御手段は、平常時に、前記第1及び第2の監視カメラ装置で得られる撮像画像を前記分担領域に合わせてマスクし、故障時に、正常な監視カメラ装置で得られる撮像画像のマスク範囲を変更することを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項4】
前記制御手段は、故障時に、正常な監視カメラ装置のカメラレンズの焦点距離を前記撮像範囲が前記監視領域に略一致するように変更することを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項5】
前記制御手段は、故障時に、正常な監視カメラ装置の設置俯角を前記撮像範囲が前記監視領域に略一致するように変更することを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項6】
平常時に、前記第1及び第2の監視カメラ装置に対し前記分担領域を撮像させるための第1のコンフィグレーションデータと、故障時に、前記第1及び第2の監視カメラ装置に対し前記監視領域を撮像させるための第2のコンフィグレーションデータとを記憶する記憶手段をさらに備え、
前記制御手段は、故障時に、前記記憶手段から前記第2のコンフィグレーションデータを読み出し、正常な監視カメラ装置にセットすることを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項7】
前記第1及び第2の監視カメラ装置のいずれか一方の故障が検出された場合に、警報を発生する警報発生手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の踏切監視システム。
【請求項8】
踏切内の監視領域を互いに分担し、各分担領域を撮像する第1及び第2の監視カメラ装置のいずれか一方の故障を検出し、
故障が検出された場合に、前記第1及び第2の監視カメラ装置のうち正常な監視カメラ装置の撮像範囲を前記監視領域に略一致させるようにしたことを特徴とする踏切監視システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−50862(P2007−50862A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239076(P2005−239076)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】