説明

車上装置

【課題】 ATSシステムとATS−Pシステムとを共用する場合であっても、特別な制御が不要であり、各システムの設置スペースを小さくすることのできる車上装置を提供する。
【解決手段】 トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とを重ねて配置するとともに、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とは、これらトランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車上装置に係り、特に、ATSやATS−P等の列車制御装置に用いられる車上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ATSやATS−P等の列車制御装置においては、列車に搭載された車上子と、軌道に沿って配置された地上子とを電磁結合させることにより、車上側から地上側に信号を送信し、地上側において所定の制御を行うとともに、地上側から車上側に信号を送信し車上側で所定の制御を行うことが行われている。
【0003】
このような列車制御装置として、ATSシステムと称されるものと、ATS−Pシステムと称される2つのタイプが知られている。ATSシステムは、停止を現示する信号機に列車が接近したときに、乗務員に注意を促すとともに、一定時間経過しても乗務員のブレーキ手配がなかったときは、自動的にブレーキを作動させて車両を安全に停止させるシステムである。このATSシステムとしては、車上子が地上子と結合していないときと、結合しているときとで、車上装置の発振周波数に差を持たせるいわゆる変周式ATSシステムがよく知られている。一方、ATS−Pシステムは、ATSシステムを更に進化させたもので、地上子からのデジタル伝送情報によって車上側で車上速度パターンを発生させ、この速度パターンと実際の車両速度を照査しながら、車両を制御するシステムである。
【0004】
このようにATSシステムとATS−Pシステムとは、異なる機能を有しており、それに対応して、地上子および車上子の構成が互いに異なっている。すなわち、ATSシステム用地上子は、LC回路を主な構成要素とし、車上子と結合したときに、車上装置側の共振周波数が変化することを車両停止制御に利用するものである。これに対して、ATS−Pシステム用地上子には、無電源であって、車上子からの電力波を受信して電源を生成し、この電源を利用して、地上装置に含まれる送受信装置を動作させ、地上装置と車上装置との間で、車両制御のための信号の送受信を行うものが含まれている。
【0005】
そして、ATSシステムのために敷設された地上子を有する軌道においても、また、ATS−Pシステムのために敷設された地上子を有する軌道においても、異なる機能を有するATSシステムまたはATS−Pシステムによる車両制御ができるようにするためには、車上装置として、各システムの車上子を搭載する必要がある。
【0006】
このようにATSシステムおよびATS−Pシステムの車上子を搭載する場合、車両の床下に磁気的な影響を受けないように周囲に金属物体のない広いスペースを確保する必要があった。そのため、各システムの車上子重ね合わせて一体に設置するようにすれば、設置スペースを小さくすることができるが、ATSシステムとATS−Pシステムにおいては、ともに枠型のループコイルを使用しているため、各システムの車上子の磁気的分離が不十分であると、それぞれのシステムで使用する電磁波が互いに干渉してしまい、性能の著しい劣化を招くという問題がある。
【0007】
そのため、従来から、ATS−Pシステムによる電力波の送信タイミングを制御して、変周式ATSシステムを用いる場合に、電力波を出力しないようにして、ATSの動作に対する干渉を防止するようにした技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−094174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に記載の発明によれば、ATSシステムおよびATS−Pシステムの車上子を重ねて配置することにより、設置スペースの省スペース化を図ることができるものの、信号の送信タイミングを細かく制御する必要があり、制御が複雑となってしまうという問題を有している。
【0010】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、ATSシステムとATS−Pシステムとを共用する場合であっても、特別な制御が不要であり、各システムの設置スペースを小さくすることのできる車上装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために請求項1に係る発明は、車両の走行する軌道に沿って設けられた変周式地上子と電磁結合して信号を送受信する変周式車上子と、前記軌道に沿って設けられたトランスポンダ式地上子と電磁結合して信号を送受信するトランスポンダ式車上子とを備えてなる車上装置において、
前記トランスポンダ式車上子と、前記変周式車上子とを重ねて配置するとともに、前記トランスポンダ式車上子と前記変周式車上子とは、これらトランスポンダ式車上子と前記変周式車上子との電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記トランスポンダ式車上子と前記変周式車上子とは、これらトランスポンダ式車上子と前記変周式車上子との電磁結合が0となる位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2において、前記変周式車上子は、変周式送信コイルと変周式受信コイルとから構成されており、前記変周式送信コイルと前記変周式受信コイルとは、一部が重なるように配置されるとともに、前記車両の走行方向に沿って並べて配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、トランスポンダ式車上子と、変周式車上子とを重ねて配置するとともに、トランスポンダ式車上子と変周式車上子とを、これらトランスポンダ式車上子と変周式車上子との電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置するようにしているので、ATSシステムあるいはATS−Pシステムのいずれのシステムを用いる場合でも、トランスポンダ式車上子および変周式車上子の電磁結合を著しく低減させることができ、各車上子が電磁結合の影響を受けて出力が低下してしまうことなどを確実に防止して、トランスポンダ式車上子および変周式車上子を適正に動作させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、トランスポンダ式車上子と変周式車上子とを、これらトランスポンダ式車上子と変周式車上子との電磁結合が0となる位置に配置するようにしているので、ATSシステムあるいはATS−Pシステムのいずれのシステムを用いる場合でも、トランスポンダ式車上子および変周式車上子が互いに電磁結合してしまうことがなく、トランスポンダ式車上子および変周式車上子を適正に動作させることができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、変周式送信コイルと変周式受信コイルとを、一部が重なるように配置するとともに、車両の走行方向に沿って並べて配置するようにしているので、変周式送信コイルおよび変周式受信コイルのいずれについても、トランスポンダ式車上子との電磁結合を著しく低減させることができ、トランスポンダ式車上子および変周式車上子を適正に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車上装置を適用した車両制御装置の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態におけるトランスポンダ式車上子および変周式車上子を示す概略構成図である。
【図3】本実施形態におけるトランスポンダ式車上子と変周式車上子との距離と電磁結合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る車上装置を用いた車両制御装置の実施形態を示す概略構成図であり、この車両制御装置は、車上装置1と、地上装置2とを備えており、車上装置1は、変周式車上子3と、トランスポンダ式車上子4とを備えている。
【0020】
変周式車上子3は、環状を有する変周式送信コイル5と、この変周式送信コイル5に対して一部が重なり合うように配置された変周式受信コイル6とを備えており、変周式送信コイル5と、変周式受信コイル6とは、車両7の進行方向に沿って並べて配置されている。
【0021】
また、トランスポンダ式車上子4は、トランスポンダ情報コイル8と、ほぼ8字状に形成されトランスポンダ情報コイル8に重ねて配置されたトランスポンダ電力コイル9とを備えている。変周式送信コイル5は、後述する地上子に対して信号を送信するとともに、変周式受信コイル6は、後述する地上子からの信号を受信するように構成されている。また、トランスポンダ情報コイル8は、後述する地上子とデジタル情報の送受信を行うものであり、トランスポンダ電力コイル9は、地上子に電力波を送信するように構成されている。
【0022】
また、車上装置1は、信号処理部10を備えている。この信号処理部10は、変周式車上子3から送られる信号に基づいて、車両停止信号を生成するものである。また、信号処理部10は、トランスポンダ電力コイル9に必要な電力波信号を供給するものであり、信号処理部10は、トランスポンダ情報コイル8に情報波信号を送るとともに、トランスポンダ情報コイル8から供給された情報波信号を処理し、車両制御信号を生成するものである。
【0023】
また、地上装置2は、軌道13に沿って設けられた変周式地上子11と、トランスポンダ式地上子12とを備えており、これら各変周式地上子11とトランスポンダ式地上子12とは、軌道13の所定箇所に所定の間隔を保って複数個設けられるものである。変周式地上子11は、軌道13を構成する2本のレールの間であって一方のレール側に寄った位置に設置されるものであり、トランスポンダ式地上子12は、軌道13を構成する2本のレール間のほぼ中央に設置されるものである。
【0024】
変周式地上子11は、変周式車上子3と結合して、信号の送受信を行うように構成されている。また、トランスポンダ式地上子12は、トランスポンダ電力コイル9から送信される電力波を受信して電源を生成し、この電源により動作することにより、トランスポンダ情報コイル8との間で情報波の送受信を行うように構成されている。
【0025】
そして、変周式車上子3、変周式地上子11および信号処理部10により、変周式ATSシステムを構成するようになっており、また、トランスポンダ式車上子4、トランスポンダ式地上子12および信号処理部10により、ATS−Pシステムを構成するようになっている。このように本実施形態においては、1つの車両7で、ATSシステムおよびATS−Pシステムにいずれにも対応することができるように構成されている。
【0026】
ここで、本実施形態においては、変周式車上子3とトランスポンダ式車上子4とは、重ねて配置されており、トランスポンダ式車上子4と、変周式車上子3とを重ねて配置するとともに、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とは、これらトランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が0となる位置に設置されている。
【0027】
すなわち、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とを重ね合わせた場合に、トランスポンダ式車上子4の中心と、変周式車上子3の中心との距離lに対するトランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合の関係は、図3に示すように、電磁結合が最大となる位置から距離lを変化させていくと、電磁結合は徐々に小さくなっていく。そして、ある距離lの状態で、電磁結合が0になる位置が存在する。この位置からさらに距離lを変化させていくと、再び、電磁結合が大きくなっていく。これは、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3は、それぞれ枠型コイルで構成されており、2つの枠型コイルは、その一部分を重ねると、重なった部分と重なってない部分で電磁結合によって発生する起電力の位相が反転していることから、重なり位置によって相互の電磁的結合が0になるためである。したがって本実施形態においては、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とを、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が0となる位置に設置することにより、両者の電磁結合の影響を受けずに動作が可能となる。
【0028】
なお、トランスポンダ式車上子4の中心と変周式車上子3の中心との距離lは、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3の製造のばらつきが考えられるため常に一定ではない。そのため、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置すれば、ほぼ電磁結合の影響を受けない動作が可能となる。また、電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置した場合、トランスポンダ式車上子4に対する変周式車上子3のオフセット量は、従来のオフセット量に近い値となるため、変周式地上子11およびトランスポンダ式地上子12のいずれも既設位置を変更することなく、そのまま使用することが可能である。
【0029】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0030】
まず、ATSシステムを用いる場合は、車両7が運転を開始して車上装置1の電源が投入されたら、変周式車上子3は、軌道13に設置された変周式地上子11と電磁結合し、変周式車上子3と変周式地上子11との間で信号の送受信を行う。そして、信号処理部10は、変周式車上子3から送られる信号に基づいて車両停止信号を生成するようになっている。そして、車両停止信号に基づいて、停止を現示する信号機に列車が接近したときに、乗務員に注意を促すとともに、一定時間経過しても乗務員のブレーキ手配がなかったときは、自動的にブレーキを作動させて車両7を安全に停止させるようになっている。
【0031】
また、ATS−Pシステムを用いる場合は、トランスポンダ式車上子4は、軌道13に設置されたトランスポンダ式地上子12と電磁結合したときに、トランスポンダ電力コイル9から、信号処理部10から送られた電力波信号をトランスポンダ式地上子12に送るとともに、トランスポンダ情報コイル8から信号処理部10から送られた情報波信号をトランスポンダ式地上子12に送るようになっている。同時に、トランスポンダ式地上子12から送られた情報波信号を信号処理部10に送り、信号処理部10により、車両制御信号を生成するようになっている。
【0032】
このとき、本実施形態においては、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とが、これらトランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が0となる位置に設置されているので、ATSシステムあるいはATS−Pシステムのいずれのシステムを用いる場合でも、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3が互いに電磁結合してしまうことがなく、各車上子が電磁結合の影響を受けて出力が低下してしまうことなどを確実に防止して、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3を適正に動作させることができる。
【0033】
したがって、本実施形態においては、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とを、これらトランスポンダ式車上子4と変周式車上子3との電磁結合が0となる位置に設置するようにしているので、ATSシステムあるいはATS−Pシステムのいずれのシステムを用いる場合でも、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3が互いに電磁結合してしまうことがなく、各車上子が電磁結合の影響を受けて出力が低下してしまうことなどを確実に防止して、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3を適正に動作させることができる。
【0034】
また、トランスポンダ式車上子4と変周式車上子3とを設置した状態で、トランスポンダ式車上子4に対する変周式車上子3のオフセット量は、従来のオフセット量に近い値となるため、変周式地上子11およびトランスポンダ式地上子12のいずれも既設位置を変更することなく、そのまま使用することが可能であり、新たな設備が不要となり、設置コストを低減させることができる。
【0035】
さらに、変周式送信コイル5と変周式受信コイル6とを、車両7の走行方向に沿って並べて配置するようにしているので、変周式送信コイル5および変周式受信コイル6のいずれについても、トランスポンダ式車上子4との電磁結合を著しく低減させることができ、トランスポンダ式車上子4および変周式車上子3を適正に動作させることができる。
【0036】
なお、前記実施形態においては、変周式車上子3の変周式送信コイル5および変周式受信コイル6を車両7の走行方向に対して並べて配置するようにしているが、変周式送信コイル5および変周式受信コイル6を車両7の走行方向に対して直交する方向に並べて配置するようにしてもよい。
【0037】
また、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 車上装置
2 地上装置
3 変周式車上子
4 トランスポンダ式車上子
5 変周式送信コイル
6 変周式受信コイル
7 車両
8 トランスポンダ情報コイル
9 トランスポンダ電力コイル
10 信号処理部
11 変周式地上子
12 トランスポンダ式地上子
13 軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行する軌道に沿って設けられた変周式地上子と電磁結合して信号を送受信する変周式車上子と、前記軌道に沿って設けられたトランスポンダ式地上子と電磁結合して信号を送受信するトランスポンダ式車上子とを備えてなる車上装置において、
前記トランスポンダ式車上子と、前記変周式車上子とを重ねて配置するとともに、前記トランスポンダ式車上子と前記変周式車上子とは、これらトランスポンダ式車上子と前記変周式車上子との電磁結合が最大となる状態の約1/100以下の電磁結合状態となる位置に設置されていることを特徴とする車上装置。
【請求項2】
前記トランスポンダ式車上子と前記変周式車上子とは、これらトランスポンダ式車上子と前記変周式車上子との電磁結合が0となる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車上装置。
【請求項3】
前記変周式車上子は、変周式送信コイルと変周式受信コイルとから構成されており、前記変周式送信コイルと前記変周式受信コイルとは、一部が重なるように配置されるとともに、前記車両の走行方向に沿って並べて配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車上装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−259194(P2010−259194A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105230(P2009−105230)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】