説明

車両のエンジン冷却装置

【課題】簡素な配管構造で、走行風を受ける領域に比較的長く配備される放熱構造を採用することで、コスト低減を容易に図れる車両のエンジン冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】エンジンルーム4内のエンジン5より延出してエンジンルームより離れた走行風流動空間に対向配備された上でエンジンに戻る冷却水循環路15が車体に配設されてなり、冷却水循環路15のうち、車体前端部に設けられ走行風を正面から受ける前向き冷却域19が屈曲放熱パイプ37で形成され、車体フロア36の下面に設けられ走行風を受けるフロア下面冷却域18、23がフィン付き放熱パイプ27で形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動時に発生する熱を冷却水の循環する冷却水循環系を介して外気に放熱して、エンジンの運転を安定化させ、耐久性を確保する車両のエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に乗用車は、エンジンの搭載位置が、前車軸よりも前方側にエンジンを搭載したフロントエンジンタイプと、後車軸よりも後方側にエンジンを搭載したリヤエンジンタイプと、前後の車軸間にエンジンを搭載したミッドシップタイプとが存在する。フロントエンジン及びリヤエンジンの両タイプは、大きなキャビンを形成できるため、いわゆるファミリーカーに採用され、ミッドシップタイプは、キャビンスペースが犠牲になるものの旋回性等の運動性能に優れるため、スポーツ車等の特殊な車両に採用されている。
【0003】
ところで、車載されるエンジンはその燃焼駆動時に熱を発生し、これによるエンジン各構成部材の過度の高温化による作動不良や、早期劣化を防止するため、エンジン発生熱を冷却水により冷却水循環系を介してエンジン外部に導き、大気に放熱するようにしたエンジン冷却装置を採用している。
【0004】
この種のエンジン冷却装置は、エンジン本体内で冷却水が吸収した熱をエンジン外部に配備される熱交換器であるラジエータに導き、ここで加熱された冷却水の熱を大気側に放熱して冷却水温度を低下させ、低温化した冷却水を再度エンジン本体に戻している。この場合、フロントエンジン、リヤエンジン及びミッドシップタイプのエンジンであっても、ラジエータは一般的にはエンジン近傍に設置され、そのラジエータに走行風通路を介して車外からの走行風を導き、ラジエータの熱交換を可能としている。ところが、このような従来のラジエータは多数の細管と放熱フインがそれぞれ重層されることで通気性厚板体状を成しており、重量増、コスト増、エンジンルームレイアウトの自由度確保において、それぞれ制約要因となっている。
【0005】
なお、特開昭61−150822号公報(特許文献1)には、ラジエータをパネル状に形成し、同パネル状ラジエータをルーフとして構成し、走行風によるパネル状ラジエータの熱交換機能を用いることで、従来のラジエータを排除した冷却装置を開示している。更に、特開昭61−150824号公報(特許文献2)には、ラジエータをパネル状に形成し、同パネル状ラジエータをエンジンフードとして構成し、走行風によるパネル状ラジエータの熱交換機能を用いることで、従来のラジエータを排除した冷却装置を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−150822号公報
【特許文献2】特開昭61−150824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジン近傍に設置されたラジエータがエンジンとゴムホースで連結されるという従来構造のラジエータでは、車両の冷却装置での放熱機能の大部分はラジエータによってなされており、ラジエータとエンジンの間のゴムホース等からなる配管部分での放熱はほとんどなされていなかった。一方、特許文献1,2のように、従来のラジエータを排除し、パネル状ラジエータを別途作成し、これらを車体の外壁部材に代えて取り付けた冷却装置では、各車体の外壁部材の特有の形状を確保しつつ冷却水循環路を形成する必要があり、構成の複雑化、取り付け作業の複雑化、コスト増を招き易いという問題がある。
【0008】
ここで、エンジンの冷却水循環系の長さを十分に確保し、この距離を利用して簡素な金属配管等の構造のみにより、エンジン冷却装置を構成することが考えられる。このような金属配管等の放熱構造を十分に長く確保すれば、長さ相当の冷却効果が得られると見做される。
特に、走行風と対向することが容易なフロントエンジンに比べ、リヤエンジンやミッドシップタイプのエンジンでは、それらの冷却水循環系の一部を車体のフロント側に配備することで長さを十分に確保するとともに走行風と対向する領域に配管が十分可能である。このため、冷却水循環系の配管部分からの放熱のみで、十分な冷却効果が得られると推測される。
【0009】
本発明は、上述の問題点に着目してなされたもので、簡素な配管構造で、走行風を受ける領域に比較的長く配備される放熱構造を採用することで、コスト低減を容易に図れる、車両のエンジン冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、請求項1記載の車両のエンジン冷却装置は、エンジンルーム内のエンジンより延出して上記エンジンルームより離れた走行風流動空間に対向配備された上で上記エンジンに戻る冷却水循環路が車体に配設されてなる車両のエンジン冷却装置において上記冷却水循環路のうち、車体前端部に設けられ走行風を正面から受ける前向き冷却域が屈曲放熱パイプで形成され、車体フロア下面に設けられ走行風を受けるフロア下面冷却域がフィン付き放熱パイプで形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の車両のエンジン冷却装置は請求項1記載の車両のエンジン冷却装置において、上記冷却水循環路が車体のデッキ部内を迂回するデッキ放熱パイプで形成されたデッキ冷却域を更に備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の車両のエンジン冷却装置は請求項1又は2記載の車両のエンジン冷却装置において、上記冷却水循環路は上記前向き冷却域、上記フロア下面冷却域あるいは/及び上記デッキ冷却域以外の部位が金属製放熱パイプで形成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の車両のエンジン冷却装置は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の車両のエンジン冷却装置において、上記エンジンルームが車体中部あるいは後部に配設されることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の車両のエンジン冷却装置は、請求項1乃至4のいずれか1つに記載の車両のエンジン冷却装置において、上記屈曲放熱パイプが車体前部のフロントフードルームに配備されるエアコンコンデンサの前空間に配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の車両のエンジン冷却装置によれば、エンジンルーム内のエンジンから流出する冷却水がエンジンルームより離れた走行風流動空間を循環してからエンジンに戻るようにし、この際、屈曲放熱パイプで形成され走行風を正面から受ける前向き冷却域と、フィン付き放熱パイプで形成され車体フロア下面の走行風を受けるフロア下面冷却域とで十分な冷却水の冷却効果を得ることができ、しかも、屈曲放熱パイプやフィン付き放熱パイプを用いることより構造の簡素化を図れる。更に、屈曲放熱パイプやフィン付き放熱パイプは任意の形状を採るよう折り曲げ加工が容易であり、従来のラジエータでは不成立の冷却系レイアウトが可能となる。
【0016】
請求項2記載の車両のエンジン冷却装置によれば、請求項1と同様の効果に加え、車体のデッキ部が走行風流動空間の一部をなすことより、このデッキ部内を迂回するデッキ放熱パイプが走行風を効果的に受け、十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
【0017】
請求項3記載の車両のエンジン冷却装置によれば、前向き冷却域、フロア下面冷却域あるいは/及びデッキ冷却域以外の部位が金属製放熱パイプで形成されたので、より十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
【0018】
請求項4記載の車両のエンジン冷却装置によれば、冷却水循環路が車体中部あるいは後部より延出して、車体前部の前向き冷却域やフロア下面冷却域あるいは/及びデッキ冷却域に配備されるので、冷却水循環路が比較的長く形成されることなり、より十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
【0019】
請求項5記載の車両のエンジン冷却装置によれば、屈曲放熱パイプがエアコンコンデンサの前空間に配設され、走行風を容易に受けると共にエアコンコンデンサの強制換気風をも受けることができ、より十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1、2にはこの発明の一実施形態としての車両のエンジン冷却装置Aが設けられた車両1を示す。
車両1は後席2の後方に荷室3を備え、後席後部と荷室3の間にリヤエンジンルーム4を配備するリヤエンジンタイプのワゴン車である。
【0021】
リヤエンジンルーム4には、エンジン5、クラッチ6、不図示の変速機やデファレンシャルが配備され、これらからの出力は、左右の後輪駆動軸7を介して、左右の後輪8に伝達される。エンジン5は複数気筒を直列に配し、不図示の出力軸を車幅方向Yに向けて配置した横置きエンジン5とされている。また、図1、2に示すように、エンジン5は後席2に沿って起立させた立設状態で搭載され、シリンダヘッド9を上に、シリンダブロック11を下にして配設され、クラッチ6はシリンダブロック11に隣接して配設されている。
【0022】
エンジン5は吸気系よりの吸気と燃料供給を受けて、内燃機関の4サイクル運転駆動を実行し、排気管系に配備された触媒コンバータ12やマフラー13を経て排気を外気に放出し、これにより生じる駆動力を左右の後輪駆動軸7に出力して走行する。
【0023】
このようなエンジン5の本体に本発明の要旨を成す車両のエンジン冷却装置A(以後単に、エンジン冷却装置と記す)が装着される。このエンジン冷却装置Aは、図3に示すように、シリンダヘッド9及びシリンダブロック11内の上下のウォータージャケット9w、11wにおいて、エンジンの発生する熱を冷却水で吸収し、熱吸収した冷却水がエンジン外部の冷却水循環系を循環することで、その間に大気に熱を放散し、冷却された冷却水をエンジン5に戻すことでエンジンを適正温度に保持し、安定したエンジン作動を確保するようにしている。
【0024】
エンジン冷却装置Aはエンジン本体に装着されエンジン駆動力を受けて駆動するウォーターポンプ13と、エンジン本体に装着され、冷却水の温度に応じて冷却水の流動を加熱路14あるいは主循環路15に選択的に切り換えるサーモスタット16と、暖機促進路17と、主循環路15内に配備される往路フロア下面冷却域18と、前向き冷却域19及びデッキ冷却域21と、加熱路14に配備されるヒーター22及び復路フロア下面冷却域23と、を備える。
【0025】
暖機促進路17は比較的小径のパイプで形成され、シリンダヘッド9より比較的少量の冷却水を流出させ、一時滞留させるコンデンサタンク24と不図示の変速機内潤滑油を暖機するATF保温機25とを並列接続した流路に冷却水を導いた後、ウォーターポンプ13に冷却水を戻すよう形成されている。
【0026】
主循環路15はリヤエンジンルーム4より前後方向Xでの前側に位置し、走行風流動空間と対向する往路および復路フロア下面冷却域18、23と前向き冷却域19及びデッキ冷却域21とを有する。これら往路および復路フロア下面冷却域18、23と前向き冷却域19及びデッキ冷却域21とを構成する部位およびそれ以外の主要連絡部jはそれぞれ金属製のパイプであって、その外径D1が、例えば、10mmφに形成される。これにより主循環路15は十分な流量を確保できるよう形成され、主循環路15の全域での放熱効率の向上を図れるようにしている。
【0027】
主循環路15内の往路フロア下面冷却域18はフィン付き放熱パイプ27で形成される。図4(a)〜(c)に示すように、フィン付き放熱パイプ27はアルミ押し出し材として形成され、その長手方向を車両の前後方向Xに向けて車体床下に設置される。
このフィン付き放熱パイプ27はその主パイプ28の外径が主要連絡部の外径と同一のD1に形成され、主パイプ28の左右側部より水平フランジ29が幅bで主パイプ28の長さL0より幾分短くL1で延出形成され、その水平フランジ29の下面には所定高さh1の複数の縦向きのフィン30が互いに等間隔で主パイプ28に並行状態で延出形成される。
【0028】
更に、図4(c)に示すように、主パイプ28の前後方向Xにおける前後端には環状凹部32が形成される。しかも、図6に示すように、主パイプ28の前後端に突き合わされる前後の各主要連絡部jの突合せ端部にも環状凹部32が形成される。ここで、主パイプ28の前後端と各主要連絡部jの突合せ端部j1とが付き合わされた状態で、各突合せ部位はシール材29を介して締結ベルト31で一体結合するよう締め付け結合される。
【0029】
ここでのフィン付き放熱パイプ27はアルミ押し出し材によって形成されており、その押し出し成形後の後加工で、図4(b)に示すように、複数の縦向きのフィン30が所定の切欠域においてカットされ、その部位にスタッドボルト33の装着用の取り付け孔34が形成される。この取り付け孔34はフィン付き放熱パイプ27の長手方向の複数個所に分散形成される。更に、車両のフロア36には放熱パイプ27の主パイプ28と対向する位置に、主パイプ嵌合用の凹部35が形成され、しかも、フロア36には水平フランジ29締結用のスタッドボルト33が下向きに突出し配設される。
【0030】
このような往路フロア下面冷却域18を成すフィン付き放熱パイプ27は、その取り付け時において、複数の取り付け孔34をフロア36の対向するスタッドボルト33に差込、ナット締めすることで容易にフロア36の下面に固定され、走行風流動空間に対向配備される。
【0031】
図1、2、5に示すように、主循環路15内の前向き冷却域19は放熱屈曲パイプ37で形成される。放熱屈曲パイプ37は車両1のフロントフードルーム38の前端に車幅方向Yに向けて配備され、常装されるエアコンのコンデンサ39の直前であって、走行風流動空間と対向するように配置される。なお、コンデンサ39にはファン391及びファンモータ392が対向配備され、コンデンサ39の強制冷却時に冷却風を前方より後方に流動させることができる。放熱屈曲パイプ37は主要連絡部jと同様の外径D1で形成され、コンデンサ39と並行状態で車幅方向Yに配備され、上下に向け複数回蛇行するように屈曲形成される。放熱屈曲パイプ37は左右一対のブラケット41に不図示の留め金で固定される。しかも、左右一対のブラケット41はその上端部が屈曲され屈曲部411が車体基部を成すフロントアッパバー42にボルト止めされ、下端部がフロントロアバー43にボルト止めされる。
【0032】
図4(c)に示したフィン付き放熱パイプ27と同様に、図7(a)に示した放熱屈曲パイプ37には、その流入端371と流出端372に環状凹部44が形成される。しかも、これに突き合わされる前後の各主要連絡部jの突合せ端部j1にも環状凹部44が形成される。ここでも放熱屈曲パイプ37の流入端371と流出端372には各主要連絡部jの突合せ端部j1が付き合わされた状態で、各突合せ部位がシール材45を介して締結ベルト46で一体的に締め付け結合される。
【0033】
図7(a)に示すように、放熱屈曲パイプ37と前後の各主要連絡部jの外径D1は同一である。しかし、これに代えて、図7(b)に示すように、両主要連絡部jの外径D1に対し、放熱屈曲パイプ37’の外径D2を大きく形成してもよい。この場合、大径の放熱屈曲パイプ37’の流入端371’と流出端372’とに対向する、各主要連絡部jaの拡径突合せ端部ja1の所定の長さ部分があらかじめ拡径して形成されることとなる。大径の放熱屈曲パイプ37’の流入端371’と流出端372’のそれぞれには環状凹部44が形成され、これに突き合わされる前後の各主要連絡部j’の拡径突合せ端部ja1にも環状凹部44が形成される。その上で、放熱屈曲パイプ37’の流入端371’と流出端372’と各主要連絡部jaの拡径突合せ端部ja1とが付き合わされた状態で、シール材47を介して比較的大径化された締結ベルト48で締め付け結合される。
【0034】
このような、大径化された放熱屈曲パイプ37’は放熱面積が比較的拡大されることとなり、簡素な構造ではあるが十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
なお、図7(c)に示すように、往路フィン付き放熱屈曲パイプ37aの内壁面に直状の突起条部eを内周方向に分散して複数個形成し、その突起条部eに冷却水の熱を吸収し、パイプ外表面から放熱をより促進させるように形成してもよい。この場合も放熱屈曲パイプ37aが簡素な構造ではあるが十分な冷却水の冷却効果を得ることができる。
【0035】
図1,2、8に示すように、主循環路15内のデッキ冷却域21はデッキ放熱パイプ47で形成される。このデッキ放熱パイプ47は車両1のフロントウインドウ48の下部に沿って車幅方向Yに長く形成されたフロントデッキ48内のデッキ空間49に配設される。ここでフロントデッキ48はアウタパネル51とインナパネル52とを重ねて車幅方向Yに長いデッキ空間49を形成しており、ほぼ矩形断面の構造を採り、しかも、フロントデッキ48の左右端が不図示の左右のフロントピラー側に一体結合されており、車室前部上側の剛性を強化できるよう機能する。アウタパネル51とインナパネル52の両上側フランジ511,521の重合部はフロントウインドウガラス48の下端支持部を形成する。更に、アウタパネル51とインナパネル52の両下端フランジ512,522の重合部は車幅方向Yに長いダッシュパネル53の上端部と一体接合され、これによりフロントデッキ48は車体前部の剛性部材として十分に機能できる。
【0036】
このようなフロントデッキ48のアウタパネル51の上壁部513には複数箇所に開口が形成され、これよりデッキ空間49に外気を導入し、車室内の不図示のエアコンに新気を導くエア通路として機能する。なお、フロントデッキ48のアウタパネル51の上部513の主要部はフロントフード54の回動端側(図8で右側端)によって覆われ、両者間には通気隙間tが確保されている。
【0037】
更に、デッキ空間49にはウインドワイパー55の駆動部551が収容され、ワイパー回転軸552及びワイパーアーム553の基端部も一部収容され、ワイパー駆動時にはフロントフード54とフロントウインドウガラス48の下端支持部の空間域Eにおいて、ワイパーアーム553の基端部側の回動を許容するように形成されている。
【0038】
図8に示すように、フロントデッキ48の車幅方向Yに長いデッキ空間49は屈曲されたデッキ放熱パイプ47を収容しても十分な換気空間を確保できるだけの容量を備える。アウタパネル51とインナパネル52の両縦壁面には、屈曲されたデッキ放熱パイプ47がそれぞれ接近配備され、複数箇所を締結金具56を用いボルト止めされている。
【0039】
なお、屈曲されたデッキ放熱パイプ47の屈曲部47bは、他の直状部分47sより高さh2だけ上方に屈曲形成され、その屈曲部47bの上壁にはエア抜きハイプ47dが上向きで突出し形成される。このエア抜きハイプ47dの途中にはマニュアル操作可能な開閉弁61が取り付けられる。ここで比較的高位置にあるデッキ放熱パイプ47の屈曲部47bには冷却水内に生じたエアーが比較的容易に集まる。このためエンジン冷却装置A内の冷却水循環路の停止時において、適時に開閉弁61を開閉操作することで屈曲部47bに滞留したエアーを排除できる。
【0040】
このように、フロントデッキ48のデッキ空間49は十分な通気性を確保しており、デッキ放熱パイプ47が対向配備された走行風流動空間を成している。この場合、フロントフード54とフロントウインドウガラス48の下端支持部の空間域Eには雨水が流入し、雪等が積もる可能性があるが、フロントデッキ48の低壁部分には不図示のドレーン路が形成され、これによってデッキ空間49に流入した雨水は容易に排除される。しかも、ここで空間域Eに積雪がある場合、デッキ冷却域21をなすデッキ放熱パイプ47の放熱により、雪を溶解できるという積雪除去機能を発揮することができる。
【0041】
主循環路15内のデッキ放熱パイプ47の流入、流出端と、これに対向する主要連絡部jの突合せ端部j1との連結構造は上述の放熱屈曲パイプ37の場合と同様の構成を採ることより、ここでは重複説明を略す。
図3に示すように、デッキ放熱パイプ47の流出端より延びる主要連絡部jは加熱路14との合流部56を経て復路フロア下面冷却域23に達する。
【0042】
図2、3に示すように、復路フロア下面冷却域23は往路フロア下面冷却域18と同一のフィン付き放熱パイプ27で形成され、装着場所が車体フロア36の左右反対側の位置に装着される点のみが相違するため、重複説明を略す。更に、復路フロア下面冷却域23の下流側の主要連絡部jはウォーターポンプ13を経てエンジン5本体側の上下のウォータージャケット9w、11wに戻るように構成されている。
【0043】
次に、加熱路14はサーモスタット16より主循環路15と分岐して延出しており、主循環路15とは異なり、断熱された例えばゴムホース26で形成される。この加熱路14はヒーターの熱交換器22を通過後に合流部56で主循環路15と合流し、主循環路15の復路フロア下面冷却域23を経てウォーターポンプ13に戻る。
このように車体フロア36の床下に流出側と戻り側の前・後2個所に2本のフィン付き放熱パイプ27を設けたので、往路及び復路フロア下面冷却域18,23での走行風を十分に受け、冷却水を確実に冷却できる。
【0044】
このような構成のエンジン冷却装置Aの作動を説明する。
エンジンの冷態始動時に冷却水温度が暖気完了温度、たとえば、80℃未満である冷態運転域にあると、サーモスタット16は加熱路14及び主循環路15への冷却水流動を阻止するので、冷却水の放熱は抑制され、単に、常開に保持されている比較的小径の暖機促進路17のコンデンサタンク24とATF保温機25のみを冷却水が循環し、早期暖機が計られる。
【0045】
冷却水温度が暖気完了温度、たとえば、80℃以上になると、サーモスタット16は加熱路14及び主循環路15を開放し、量路に所定の流量比率で冷却水を循環供給する。これにより、ヒーターの熱交換器22が適正作動し、しかも、走行風流動空間に対設されている主循環路15の往路フロア下面冷却域18と前向き冷却域19とデッキ冷却域21と復路フロア下面冷却域23とにおいて冷却水の大気への放熱が効率よくなされ、過度に冷却水温度が高くなることを抑制できる。
【0046】
特に、往路及び復路フロア下面冷却域18、23のフィン付き放熱パイプ27は十分に大きな放熱面積を確保でき、十分な放熱効果を発揮でき、前向き冷却域19の放熱屈曲パイプ37は十分な風量の走行風を容易に受けることで、十分な放熱効果を発揮でき、デッキ冷却域21のデッキ放熱パイプ47は高位置に配備され、通気性のよいデッキ空間49で効率よく放熱でき、しかも積雪除去機能を発揮することができる。更に、放熱屈曲パイプ37は車両の停車時に、エアコン側のファンモータ392の駆動により、強制冷却風を受けることができるので、停車時の冷却効果を発揮できる。
【0047】
更に、本装置では冷却水循環路全体が放熱パイプであり、ラジエータより遥かに軽量化でき、ラジエータ廃止によるラジエータ用ファンモータ及び関連機器を排除でき、コスト低減を図れ、ラジエータと比較し飛び石等による破損を低減でき、比較的ゴミ詰まりが発生しないので、冷却性能が経年変化しないという利点がある。更に、冷却系の冷却水循環路全体が放熱パイプであるので、任意の形状での折り曲げ処理により、ラジエータを用いた場合には不成立であった冷却系レイアウトを採用することが可能となる。
【0048】
上述のところで、車両はリヤエンジンタイプであったが、これに代えてミッドシップタイプの車両に本発明を適用する場合もほぼ同様の作用効果が得られ、場合により、フロントエンジンタイプの車両にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態としての車両のエンジン冷却装置を装備する車両の概略斜視図である。
【図2】図1の車両に搭載されるエンジン冷却装置の概略平面図である。
【図3】図1のエンジン冷却装置が用いる冷却水循環系の配管構成図である。
【図4】図1中の往路及び復路フロア下面冷却域で用いるフィン付き放熱パイプを示し、(a)は端部正面図、(b)は要部断面図、(c)は切欠側面面である。
【図5】図1中の前向き冷却域で用いる放熱屈曲パイプの斜視図である。
【図6】図1中のフィン付き放熱パイプの連結構造説明図である。
【図7】図1中の前向き冷却域で用いる放熱屈曲パイプの連結構造説明図で、(a)は図1に開示の放熱屈曲パイプの連結構造説明図、(b)は他の実施形態例における連結構造説明図、(c)は他の実施形態例における放熱屈曲パイプの主パイプの部分切欠側面図である。
【図8】図1中のデッキ冷却域のデッキ放熱パイプ及びデッキ部分の概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
4 リヤエンジンルーム
5 エンジン
15 冷却水循環路(主循環路)
18 往路フロア下面冷却域
19 前向き冷却域
21 デッキ冷却域
22 熱交換器
23 復路フロア下面冷却域
27 フィン付き放熱パイプ
36 フロア
37 屈曲放熱パイプ
38 フロントフードルーム
39 コンデンサ
392 ファンモータ
47 デッキ放熱パイプ
48 フロントデッキ
49 デッキ空間
A 車両のエンジン冷却装置
X 前後方向
Y 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム内のエンジンより延出して上記エンジンルームより離れた走行風流動空間に対向配備された上で上記エンジンに戻る冷却水循環路が車体に配設されてなる車両のエンジン冷却装置において
上記冷却水循環路のうち、車体前端部に設けられ走行風を正面から受ける前向き冷却域が屈曲放熱パイプで形成され、車体フロア下面に設けられ走行風を受けるフロア下面冷却域がフィン付き放熱パイプで形成されたことを特徴とする車両のエンジン冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両のエンジン冷却装置において、
上記冷却水循環路が車体のデッキ部内を迂回するデッキ放熱パイプで形成されたデッキ冷却域を更に備えることを特徴とする車両のエンジン冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両のエンジン冷却装置において、
上記冷却水循環路は上記前向き冷却域、上記フロア下面冷却域あるいは/及び上記デッキ冷却域以外の部位が金属製放熱パイプで形成されたことを特徴とする車両のエンジン冷却装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の車両のエンジン冷却装置において、
上記エンジンルームが車体中部あるいは後部に配設されることを特徴とする車両のエンジン冷却装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の車両のエンジン冷却装置において、
上記屈曲放熱パイプが車体前部のフロントフードルームに配備されるエアコンコンデンサの前空間に配設されることを特徴とする車両のエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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