車両のカウル構造
【課題】フロントガラスに衝撃力が入力された際のカウルボックスの変形部を、初期反力を高くできる構成として、衝撃エネルギーを効率良く吸収できる車両のカウル構造の提供を図る。
【解決手段】フロントガラス1の下端部を保持するガラス保持面3と、その上端から車室内方に延在した上側壁4と、該上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、該縦壁5の下端から車両前方に延在した底壁6と、を備えてカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7の上側壁4に、カウルボックス2の内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部20を形成することにより、フロントガラス1の下部にインパクターPが斜め上方から衝突した際に、上側壁4が室外側に変形することにより初期反力が増大し、これによって上側壁4による衝撃エネルギーの吸収量を増大する。
【解決手段】フロントガラス1の下端部を保持するガラス保持面3と、その上端から車室内方に延在した上側壁4と、該上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、該縦壁5の下端から車両前方に延在した底壁6と、を備えてカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7の上側壁4に、カウルボックス2の内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部20を形成することにより、フロントガラス1の下部にインパクターPが斜め上方から衝突した際に、上側壁4が室外側に変形することにより初期反力が増大し、これによって上側壁4による衝撃エネルギーの吸収量を増大する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では歩行者保護対策の一環として、歩行者の頭部がフロントガラスに衝突した際の衝撃を緩和できるようにしたカウル構造が提案されている。
【0003】
即ち、車両ではインストルメントパネル前方でフロントガラス下方部分に、断面略矩形状となる閉断面構造をもって車幅方向に延在するカウルボックスが構成されており、このカウルボックスから車室内に外気を導入するようになっている。
【0004】
また、前記フロントガラスの下端部は、カウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルの上側壁に設けたガラス保持面に接着されて保持されており、このフロントガラスに入力した衝撃を吸収するためにカウルボックスの車室内側を隔成する縦壁に、車幅方向に延在する開口部を形成してここに断面くの字形の屈曲部を設け、該屈曲部が衝撃荷重の入力により折り畳まれるように屈曲変形して衝撃を吸収するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−27417号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロントガラスに入力した衝撃力の吸収は、歩行者保護の観点から初期反力を高くし、後半反力を低くするのが望ましいのであるが、前記従来のカウル構造では、開口部に設けた屈曲部によって前記衝撃力を吸収するようになっているため、屈曲部は衝撃力によって比較的容易に変形してしまい、衝撃力の入力に対して初期の変形が大きくなって初期反力を大きくすることができないため、衝撃エネルギーを十分に吸収し辛くなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、フロントガラスに衝撃力が入力された際のカウルボックスの変形部を、初期反力を高くできる構成として、衝撃エネルギーを効率良く吸収できる車両のカウル構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フロントガラスの下端部を保持する後傾したガラス保持面と、その上端から車室内方に延在した上側壁と、該上側壁の車室内方端部から垂設した縦壁と、該縦壁の下端から車両前方に延在した底壁と、を備えて閉断面のカウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルを備えた車両のカウル構造であって、前記上側壁に、カウルボックスの内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部を形成し、当該凹設部を、ガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス保持面から車室内方に延在するダッシュアッパパネルの上側壁に、カウルボックスの内方に凹となる凹設部を形成したので、フロントガラスに斜め上方から入力した衝撃力は、ガラス保持面から前記上側壁に伝達されてこの上側壁を変形させる。このとき、その上側壁に形成した凹設部はカウルボックスの内方に凹設されているため、該上側壁は室外側となるカウルボックスの内方に向かって変形するようにその変形がコントロールされる。従って、前記上側壁が室外側に変形することにより、該上側壁は前記衝撃力の作用方向に逆らう方向に変形するため初期反力が増大し、前記上側壁による衝撃エネルギーの吸収量を増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
(第1実施形態)図1はフロントドアおよびインストルメントパネルを取り外して車室前方を見た斜視図、図2は図1中A−A線に沿った拡大断面図、図3はダッシュアッパパネルを示す斜視図である。
【0011】
本実施形態にかかる車両のカウル構造は、図1,図2に示すようにフロントガラス1の下縁に沿って車幅方向に延在する閉断面構造のカウルボックス2を備え、このカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7の上側部分にフロントガラス1の下端部を保持する後傾したガラス保持面3が設けられ、このガラス保持面3の外面にフロントガラス1の下端部を接着して保持するようになっている。
【0012】
即ち、前記ダッシュアッパパネル7は、前記ガラス保持面3の上端から車室内方(図2中右方)に延在する上側壁4と、この上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、を備えており、かつ、この縦壁5の下端部から底壁6が車両前方に向かって折曲して延設されることにより、カウルボックス2のリヤ部を構成している。
【0013】
前記ガラス保持面3、上側壁4、縦壁5および底壁6からなる断面コ字状のダッシュアッパパネル7は、図3に示すように車室前側に設置される図外のインストルメントパネルに沿って湾曲されており、また、図2に示すように前記ガラス保持面3の前端部3aと前記底壁6の前端部6aとに跨って、断面逆コ字状のカウルフロント部8が結合されることにより、閉断面の前記カウルボックス2が構成される。
【0014】
そして、前記ダッシュアッパパネル7は、図2に示すように底壁6の下面が、フロントコンパートメントF・Cと車室Rとを隔成するダッシュロアパネル9の上端部9aに接合されるとともに、図1に示すように車幅方向両端部がフロントピラー10に接合されて車体側に支持される。
【0015】
また、前記カウルボックス2は、ガラス保持面3から車両前方に突出したカウルフロント部8の上面から取り入れた外気を、前記縦壁5に形成した外気導入口11(図3参照)から図外の空気調和装置に導入するようになっている。
【0016】
ここで、本発明にあっては、前記ダッシュアッパパネル7の上側壁4に、カウルボックス2の内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部20を形成してある。
【0017】
この凹設部20は、前記ガラス保持面3から縦壁5に亘って滑らかな湾曲形状として形成してある。
【0018】
更に、本実施形態では前記縦壁5を、車室内方、つまり、車両後方に膨出するように湾曲させてある。
【0019】
以上の構成による本実施形態のカウル構造によれば、図2に示すようにフロントガラス1の下部にインパクターPが斜め上方から衝突した場合、このインパクターPによる衝撃力Fは、ガラス保持面3の上端から車室内方に延在した上側壁4に伝達されて、この上側壁4を変形させる。
【0020】
このとき、前記上側壁4には、カウルボックス2内方に凹となる凹設部20を形成してあるので、フロントガラス1に斜め上方から入力した衝撃力Fによって、上側壁4は室外側となるカウルボックス2の内方に向かって変形するようにその変形がコントロールされる。
【0021】
従って、前記上側壁4が室外側に変形することにより、該上側壁4は前記衝撃力Fの作用方向Feに逆らう方向、つまり、この作用方向Feに向かって変形するため初期反力が増大し、これによって前記上側壁4による衝撃エネルギーの吸収量を増大することができる。
【0022】
また、本実施形態にあっては、前記上側壁4をガラス保持面3から縦壁5に亘って滑らかな湾曲形状として形成してあるため、局部的に応力集中して折れ曲がるのを回避できて、初期反力の増大効果を高めることができる。
【0023】
更に、本実施形態にあっては、前記上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させたので、前記衝撃力Fが上側壁4から縦壁5に伝達された際に、この縦壁5は湾曲部分によって高い反力を呈することなく変形するため、衝突現象の後半の反力を前半の反力よりも減少させることができるようになり、より少ないエネルギー吸収スペースでも効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、上側壁4と縦壁5との連設部分に稜線を持つ形状としてあるが、この稜線を無くして丸みを持って連設するようにしてもよい。
【0025】
(第2実施形態)図4はダッシュアッパパネルの断面図である。なお、本実施形態にかかる車両のカウル構造は、上記第1実施形態にかかる車両のカウル構造と同様の構成要素を備える。よって、それら同様の構成要素については共通の符号を付すとともに、重複する説明を省略する。
【0026】
本実施形態にかかる車両のカウル構造は、基本的に上記第1実施形態とほぼ同様の構成となり、図4に示すようにカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7Aは、ガラス保持面3の上端から車室内方に延在した上側壁4と、この上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、この縦壁5の下端から車両前方に延設した底壁6と、を備えており、上側壁4にカウルボックス2内方に凹設して車幅方向に延在する凹設部20が形成され、特に、本実施形態では、縦壁5は湾曲させることなく全体的に平坦な略垂直面として形成してある。
【0027】
従って、本実施形態のカウル構造によれば、縦壁5は平坦な略垂直面として形成されるが、衝撃力Fの初期反力の発生に支配的となる上側壁4に凹設部20を形成してあるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0028】
ところで、本発明の車両のカウル構造は、前記第1,第2実施形態に限ることなく各種の変形例を提供することができる。以下、本発明にかかるダッシュアッパパネルの第1〜第3変形例をそれぞれ示す。勿論、前記実施形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
【0029】
図5は、第1変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Bは、上側壁4にカウルボックス2内方に凹設して車幅方向に延在する凹設部20が形成されるとともに、前記縦壁5を、車室内方に膨出するように湾曲させてあり、特に、前記縦壁5の上端部に、前記上側壁4に連設する所要の上下幅w1の平坦面21を形成してある。
【0030】
前記平坦面21は、前記上側壁4の車室内方端部から略直角に垂設され、この平坦面21の下端から湾曲した前記縦壁5を下方に延在させてある。
【0031】
従って、本変形例によれば、縦壁5の上端部に平坦面21が形成されるが、上側壁4に凹設部20が形成されていることにより第1実施形態と同様の作用効果を奏することができ、また、フロントガラス1(図2参照)に入力された衝撃力Fは、前記上側壁4から平坦面21を介して湾曲した縦壁5に伝達されることにより、衝突現象の後半の反力を減少させることができるので、より少ないエネルギー吸収スペースでも効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0032】
図6は、第2変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Cは、上側壁4に凹設部20を形成してあり、また、その上側壁4の車室内方端部に、前記縦壁5に連設する所要の前後幅w2の平坦面22を形成してある。
【0033】
従って、本変形例によれば、上側壁4の車室内方端部に平坦面22が形成されるが、上側壁4に凹設部20が形成されているので、この凹設部20によって衝撃力Fの初期反力を増大させることができるとともに、本変形例にあっても縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させてあるため、第1実施形態および第1変形例と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
図7は、第3変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Dは、上側壁4に凹設部20を形成してあり、また、縦壁5は逆にカウルボックス2の内方(車両前方)に湾曲させてある。
【0035】
従って、本変形例によれば、縦壁5はカウルボックス2の内方に湾曲されるが、衝撃力Fの初期反力の発生に支配的となる上側壁4に凹設部20を形成してあるので、第1,第2実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
【0036】
ここで、上記第1実施形態と第2実施形態とを比較した説明図ならびに上記第2実施形態と比較例1および比較例2とを比較した説明図に基づいて、本発明の効果を更に説明する。
【0037】
まず、第1実施形態と第2実施形態とを比較した結果について説明する。
【0038】
図8は、上記第1実施形態と第2実施形態の反力特性を比較して示す説明図である。尚、図8は、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図8中、実線は上記第1実施形態による特性R1であり、破線は上記第2実施形態による特性R2である。ここで、図8を見ると、第1実施形態の初期反力のピークの方が第2実施形態の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、第1実施形態にかかる構造の方が第2実施形態にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0039】
次に、上記第2実施形態と比較例1とを比較した結果について説明する。
【0040】
図9は、本発明の比較例1のダッシュアッパパネルの断面図を示す図である。この比較例1に記載のダッシュアッパパネル7Eは、上側壁4に、カウルボックス2の内方に突出するように断面くの字形に屈曲させた凹設部20Eが形成されており、その他の構成は、基本的に上記第2実施形態とほぼ同様の構成となっている。
【0041】
図10は、上記第2実施形態と比較例1の反力特性を比較して示す説明図である。この図10においても、図8と同様に、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図10中、実線は上記第2実施形態による特性R2であり、破線は比較例1の特性R3である。ここで、図10を見ると、第2実施形態の初期反力のピークの方が比較例1の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、上記第2実施形態にかかる構造の方が比較例1にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0042】
最後に、上記第2実施形態と比較例2とを比較した結果について説明する。
【0043】
図11は、本発明の比較例2のダッシュアッパパネルの断面図を示す図である。この比較例2に記載のダッシュアッパパネル7Fは、上側壁4に、カウルボックス2の外方に湾曲させた凹設部20Fが形成されており、その他の構成は、基本的に上記第2実施形態とほぼ同様の構成となっている。
【0044】
図12は、上記第2実施形態と比較例2の反力特性を比較して示す説明図である。この図12においても、図8と同様に、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図12中、実線は上記第2実施形態による特性R2であり、破線は比較例2の特性R4である。ここで、図12を見ると、第2実施形態の初期反力のピークの方が比較例2の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、上記第2実施形態にかかる構造の方が、比較例2にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0045】
以上より、ダッシュアッパパネルの上側壁に、カウルボックスの内方に凹となる凹設部を設け、当該凹設部をガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状とすることで、初期反力が増大することがわかる。それに加えて、ダッシュアッパパネルの縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させることで、初期反力がより一層増大することがわかる。
【0046】
以上、本発明にかかる車両のカウル構造の好適な実施形態について説明したが、本発明の車両のカウル構造は、前記第1および第2実施形態や第1〜第3変形例に限るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるフロントドアおよびインストルメントパネルを取り外して車室前方を見た斜視図。
【図2】図1中A−A線に沿った拡大断面図。
【図3】本発明の第1実施形態にかかるダッシュアッパパネルを示す斜視図。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図5】本発明の第1変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図6】本発明の第2変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図7】本発明の第3変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図8】第1実施形態と第2実施形態の反力特性を比較して示す説明図。
【図9】比較例1のダッシュアッパパネルの断面図。
【図10】第2実施形態と比較例1の反力特性を比較して示す説明図。
【図11】比較例2のダッシュアッパパネルの断面図。
【図12】第2実施形態と比較例2の反力特性を比較して示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
1 フロントガラス
2 カウルボックス
3 ガラス保持面
4 上側壁
5 縦壁
7 ダッシュアッパパネル
20 凹設部
21,22 平坦面
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では歩行者保護対策の一環として、歩行者の頭部がフロントガラスに衝突した際の衝撃を緩和できるようにしたカウル構造が提案されている。
【0003】
即ち、車両ではインストルメントパネル前方でフロントガラス下方部分に、断面略矩形状となる閉断面構造をもって車幅方向に延在するカウルボックスが構成されており、このカウルボックスから車室内に外気を導入するようになっている。
【0004】
また、前記フロントガラスの下端部は、カウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルの上側壁に設けたガラス保持面に接着されて保持されており、このフロントガラスに入力した衝撃を吸収するためにカウルボックスの車室内側を隔成する縦壁に、車幅方向に延在する開口部を形成してここに断面くの字形の屈曲部を設け、該屈曲部が衝撃荷重の入力により折り畳まれるように屈曲変形して衝撃を吸収するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−27417号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロントガラスに入力した衝撃力の吸収は、歩行者保護の観点から初期反力を高くし、後半反力を低くするのが望ましいのであるが、前記従来のカウル構造では、開口部に設けた屈曲部によって前記衝撃力を吸収するようになっているため、屈曲部は衝撃力によって比較的容易に変形してしまい、衝撃力の入力に対して初期の変形が大きくなって初期反力を大きくすることができないため、衝撃エネルギーを十分に吸収し辛くなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、フロントガラスに衝撃力が入力された際のカウルボックスの変形部を、初期反力を高くできる構成として、衝撃エネルギーを効率良く吸収できる車両のカウル構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フロントガラスの下端部を保持する後傾したガラス保持面と、その上端から車室内方に延在した上側壁と、該上側壁の車室内方端部から垂設した縦壁と、該縦壁の下端から車両前方に延在した底壁と、を備えて閉断面のカウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルを備えた車両のカウル構造であって、前記上側壁に、カウルボックスの内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部を形成し、当該凹設部を、ガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス保持面から車室内方に延在するダッシュアッパパネルの上側壁に、カウルボックスの内方に凹となる凹設部を形成したので、フロントガラスに斜め上方から入力した衝撃力は、ガラス保持面から前記上側壁に伝達されてこの上側壁を変形させる。このとき、その上側壁に形成した凹設部はカウルボックスの内方に凹設されているため、該上側壁は室外側となるカウルボックスの内方に向かって変形するようにその変形がコントロールされる。従って、前記上側壁が室外側に変形することにより、該上側壁は前記衝撃力の作用方向に逆らう方向に変形するため初期反力が増大し、前記上側壁による衝撃エネルギーの吸収量を増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0010】
(第1実施形態)図1はフロントドアおよびインストルメントパネルを取り外して車室前方を見た斜視図、図2は図1中A−A線に沿った拡大断面図、図3はダッシュアッパパネルを示す斜視図である。
【0011】
本実施形態にかかる車両のカウル構造は、図1,図2に示すようにフロントガラス1の下縁に沿って車幅方向に延在する閉断面構造のカウルボックス2を備え、このカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7の上側部分にフロントガラス1の下端部を保持する後傾したガラス保持面3が設けられ、このガラス保持面3の外面にフロントガラス1の下端部を接着して保持するようになっている。
【0012】
即ち、前記ダッシュアッパパネル7は、前記ガラス保持面3の上端から車室内方(図2中右方)に延在する上側壁4と、この上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、を備えており、かつ、この縦壁5の下端部から底壁6が車両前方に向かって折曲して延設されることにより、カウルボックス2のリヤ部を構成している。
【0013】
前記ガラス保持面3、上側壁4、縦壁5および底壁6からなる断面コ字状のダッシュアッパパネル7は、図3に示すように車室前側に設置される図外のインストルメントパネルに沿って湾曲されており、また、図2に示すように前記ガラス保持面3の前端部3aと前記底壁6の前端部6aとに跨って、断面逆コ字状のカウルフロント部8が結合されることにより、閉断面の前記カウルボックス2が構成される。
【0014】
そして、前記ダッシュアッパパネル7は、図2に示すように底壁6の下面が、フロントコンパートメントF・Cと車室Rとを隔成するダッシュロアパネル9の上端部9aに接合されるとともに、図1に示すように車幅方向両端部がフロントピラー10に接合されて車体側に支持される。
【0015】
また、前記カウルボックス2は、ガラス保持面3から車両前方に突出したカウルフロント部8の上面から取り入れた外気を、前記縦壁5に形成した外気導入口11(図3参照)から図外の空気調和装置に導入するようになっている。
【0016】
ここで、本発明にあっては、前記ダッシュアッパパネル7の上側壁4に、カウルボックス2の内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部20を形成してある。
【0017】
この凹設部20は、前記ガラス保持面3から縦壁5に亘って滑らかな湾曲形状として形成してある。
【0018】
更に、本実施形態では前記縦壁5を、車室内方、つまり、車両後方に膨出するように湾曲させてある。
【0019】
以上の構成による本実施形態のカウル構造によれば、図2に示すようにフロントガラス1の下部にインパクターPが斜め上方から衝突した場合、このインパクターPによる衝撃力Fは、ガラス保持面3の上端から車室内方に延在した上側壁4に伝達されて、この上側壁4を変形させる。
【0020】
このとき、前記上側壁4には、カウルボックス2内方に凹となる凹設部20を形成してあるので、フロントガラス1に斜め上方から入力した衝撃力Fによって、上側壁4は室外側となるカウルボックス2の内方に向かって変形するようにその変形がコントロールされる。
【0021】
従って、前記上側壁4が室外側に変形することにより、該上側壁4は前記衝撃力Fの作用方向Feに逆らう方向、つまり、この作用方向Feに向かって変形するため初期反力が増大し、これによって前記上側壁4による衝撃エネルギーの吸収量を増大することができる。
【0022】
また、本実施形態にあっては、前記上側壁4をガラス保持面3から縦壁5に亘って滑らかな湾曲形状として形成してあるため、局部的に応力集中して折れ曲がるのを回避できて、初期反力の増大効果を高めることができる。
【0023】
更に、本実施形態にあっては、前記上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させたので、前記衝撃力Fが上側壁4から縦壁5に伝達された際に、この縦壁5は湾曲部分によって高い反力を呈することなく変形するため、衝突現象の後半の反力を前半の反力よりも減少させることができるようになり、より少ないエネルギー吸収スペースでも効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、上側壁4と縦壁5との連設部分に稜線を持つ形状としてあるが、この稜線を無くして丸みを持って連設するようにしてもよい。
【0025】
(第2実施形態)図4はダッシュアッパパネルの断面図である。なお、本実施形態にかかる車両のカウル構造は、上記第1実施形態にかかる車両のカウル構造と同様の構成要素を備える。よって、それら同様の構成要素については共通の符号を付すとともに、重複する説明を省略する。
【0026】
本実施形態にかかる車両のカウル構造は、基本的に上記第1実施形態とほぼ同様の構成となり、図4に示すようにカウルボックス2のリヤ部を構成するダッシュアッパパネル7Aは、ガラス保持面3の上端から車室内方に延在した上側壁4と、この上側壁4の車室内方端部から垂設した縦壁5と、この縦壁5の下端から車両前方に延設した底壁6と、を備えており、上側壁4にカウルボックス2内方に凹設して車幅方向に延在する凹設部20が形成され、特に、本実施形態では、縦壁5は湾曲させることなく全体的に平坦な略垂直面として形成してある。
【0027】
従って、本実施形態のカウル構造によれば、縦壁5は平坦な略垂直面として形成されるが、衝撃力Fの初期反力の発生に支配的となる上側壁4に凹設部20を形成してあるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0028】
ところで、本発明の車両のカウル構造は、前記第1,第2実施形態に限ることなく各種の変形例を提供することができる。以下、本発明にかかるダッシュアッパパネルの第1〜第3変形例をそれぞれ示す。勿論、前記実施形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
【0029】
図5は、第1変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Bは、上側壁4にカウルボックス2内方に凹設して車幅方向に延在する凹設部20が形成されるとともに、前記縦壁5を、車室内方に膨出するように湾曲させてあり、特に、前記縦壁5の上端部に、前記上側壁4に連設する所要の上下幅w1の平坦面21を形成してある。
【0030】
前記平坦面21は、前記上側壁4の車室内方端部から略直角に垂設され、この平坦面21の下端から湾曲した前記縦壁5を下方に延在させてある。
【0031】
従って、本変形例によれば、縦壁5の上端部に平坦面21が形成されるが、上側壁4に凹設部20が形成されていることにより第1実施形態と同様の作用効果を奏することができ、また、フロントガラス1(図2参照)に入力された衝撃力Fは、前記上側壁4から平坦面21を介して湾曲した縦壁5に伝達されることにより、衝突現象の後半の反力を減少させることができるので、より少ないエネルギー吸収スペースでも効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0032】
図6は、第2変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Cは、上側壁4に凹設部20を形成してあり、また、その上側壁4の車室内方端部に、前記縦壁5に連設する所要の前後幅w2の平坦面22を形成してある。
【0033】
従って、本変形例によれば、上側壁4の車室内方端部に平坦面22が形成されるが、上側壁4に凹設部20が形成されているので、この凹設部20によって衝撃力Fの初期反力を増大させることができるとともに、本変形例にあっても縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させてあるため、第1実施形態および第1変形例と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
図7は、第3変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図である。本変形例にかかるダッシュアッパパネル7Dは、上側壁4に凹設部20を形成してあり、また、縦壁5は逆にカウルボックス2の内方(車両前方)に湾曲させてある。
【0035】
従って、本変形例によれば、縦壁5はカウルボックス2の内方に湾曲されるが、衝撃力Fの初期反力の発生に支配的となる上側壁4に凹設部20を形成してあるので、第1,第2実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
【0036】
ここで、上記第1実施形態と第2実施形態とを比較した説明図ならびに上記第2実施形態と比較例1および比較例2とを比較した説明図に基づいて、本発明の効果を更に説明する。
【0037】
まず、第1実施形態と第2実施形態とを比較した結果について説明する。
【0038】
図8は、上記第1実施形態と第2実施形態の反力特性を比較して示す説明図である。尚、図8は、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図8中、実線は上記第1実施形態による特性R1であり、破線は上記第2実施形態による特性R2である。ここで、図8を見ると、第1実施形態の初期反力のピークの方が第2実施形態の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、第1実施形態にかかる構造の方が第2実施形態にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0039】
次に、上記第2実施形態と比較例1とを比較した結果について説明する。
【0040】
図9は、本発明の比較例1のダッシュアッパパネルの断面図を示す図である。この比較例1に記載のダッシュアッパパネル7Eは、上側壁4に、カウルボックス2の内方に突出するように断面くの字形に屈曲させた凹設部20Eが形成されており、その他の構成は、基本的に上記第2実施形態とほぼ同様の構成となっている。
【0041】
図10は、上記第2実施形態と比較例1の反力特性を比較して示す説明図である。この図10においても、図8と同様に、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図10中、実線は上記第2実施形態による特性R2であり、破線は比較例1の特性R3である。ここで、図10を見ると、第2実施形態の初期反力のピークの方が比較例1の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、上記第2実施形態にかかる構造の方が比較例1にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0042】
最後に、上記第2実施形態と比較例2とを比較した結果について説明する。
【0043】
図11は、本発明の比較例2のダッシュアッパパネルの断面図を示す図である。この比較例2に記載のダッシュアッパパネル7Fは、上側壁4に、カウルボックス2の外方に湾曲させた凹設部20Fが形成されており、その他の構成は、基本的に上記第2実施形態とほぼ同様の構成となっている。
【0044】
図12は、上記第2実施形態と比較例2の反力特性を比較して示す説明図である。この図12においても、図8と同様に、横軸に時間と縦軸に反力をとって示してあり、図12中、実線は上記第2実施形態による特性R2であり、破線は比較例2の特性R4である。ここで、図12を見ると、第2実施形態の初期反力のピークの方が比較例2の初期反力のピークよりも高くなっていることがわかる。すなわち、上記第2実施形態にかかる構造の方が、比較例2にかかる構造よりも初期反力の増大効果を高めることができることがわかる。
【0045】
以上より、ダッシュアッパパネルの上側壁に、カウルボックスの内方に凹となる凹設部を設け、当該凹設部をガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状とすることで、初期反力が増大することがわかる。それに加えて、ダッシュアッパパネルの縦壁5を車室内方に膨出するように湾曲させることで、初期反力がより一層増大することがわかる。
【0046】
以上、本発明にかかる車両のカウル構造の好適な実施形態について説明したが、本発明の車両のカウル構造は、前記第1および第2実施形態や第1〜第3変形例に限るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるフロントドアおよびインストルメントパネルを取り外して車室前方を見た斜視図。
【図2】図1中A−A線に沿った拡大断面図。
【図3】本発明の第1実施形態にかかるダッシュアッパパネルを示す斜視図。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図5】本発明の第1変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図6】本発明の第2変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図7】本発明の第3変形例にかかるダッシュアッパパネルの断面図。
【図8】第1実施形態と第2実施形態の反力特性を比較して示す説明図。
【図9】比較例1のダッシュアッパパネルの断面図。
【図10】第2実施形態と比較例1の反力特性を比較して示す説明図。
【図11】比較例2のダッシュアッパパネルの断面図。
【図12】第2実施形態と比較例2の反力特性を比較して示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
1 フロントガラス
2 カウルボックス
3 ガラス保持面
4 上側壁
5 縦壁
7 ダッシュアッパパネル
20 凹設部
21,22 平坦面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントガラスの下端部を保持する後傾したガラス保持面と、その上端から車室内方に延在した上側壁と、該上側壁の車室内方端部から垂設した縦壁と、該縦壁の下端から車両前方に延在した底壁と、を備えて閉断面のカウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルを備えた車両のカウル構造であって、
前記上側壁に、カウルボックスの内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部を形成し、当該凹設部を、ガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状としたことを特徴とする車両のカウル構造。
【請求項2】
前記縦壁を、車室内方に膨出するように湾曲させたことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【請求項3】
前記縦壁の上端部に、前記上側壁に連設する所要の上下幅の平坦面を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のカウル構造。
【請求項4】
前記上側壁の後端部に、前記縦壁に連設する所要の前後幅の平坦面を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のカウル構造。
【請求項5】
前記縦壁を、全体的に平坦な略垂直面として形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【請求項6】
前記縦壁を、カウルボックスの内方に膨出するように湾曲させたことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【請求項1】
フロントガラスの下端部を保持する後傾したガラス保持面と、その上端から車室内方に延在した上側壁と、該上側壁の車室内方端部から垂設した縦壁と、該縦壁の下端から車両前方に延在した底壁と、を備えて閉断面のカウルボックスのリヤ部を構成するダッシュアッパパネルを備えた車両のカウル構造であって、
前記上側壁に、カウルボックスの内方に凹設されて車幅方向に延在する凹設部を形成し、当該凹設部を、ガラス保持面から縦壁に亘って滑らかな湾曲形状としたことを特徴とする車両のカウル構造。
【請求項2】
前記縦壁を、車室内方に膨出するように湾曲させたことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【請求項3】
前記縦壁の上端部に、前記上側壁に連設する所要の上下幅の平坦面を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のカウル構造。
【請求項4】
前記上側壁の後端部に、前記縦壁に連設する所要の前後幅の平坦面を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のカウル構造。
【請求項5】
前記縦壁を、全体的に平坦な略垂直面として形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【請求項6】
前記縦壁を、カウルボックスの内方に膨出するように湾曲させたことを特徴とする請求項1に記載の車両のカウル構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−201402(P2008−201402A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259948(P2007−259948)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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