説明

車両のドアハンドル装置

【課題】車体への組み付け作業性が良好で、かつ、不適正操作が行われた際の部品への損傷を防止することのできる車両用ハンドル装置の提供を目的とする。
【解決手段】閉扉状態において回転端が重合する一対のドア1、2の被重合側ドア2に装着される車両のドアハンドル装置であって、
ハンドル本体3と、
ハンドル本体3により回転駆動される出力レバー4と、
ハンドル本体3への操作力の出力レバー4への伝達を断接するクラッチ部5と、
突出位置、および重合側ドア1に干渉した際の没入位置間を突出位置側に付勢されて移動自在で、没入位置においてクラッチ部5を”断”状態に遷移させる検知部材6と、
をハンドルベース7に装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアハンドル装置、特に、観音開きドアに装着されるドアハンドル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
観音開きドアを備えた車両のドアに装着されるハンドル装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。この従来例において、ハンドル装置は、オープニングハンドル(ハンドル本体)と、ハンドル本体により回転駆動され、回転動作に伴ってドアに固定されるドアロック装置を作動させるレバー(出力レバー)とを有して後部ドア(被重合側ドア)に装着される。
【0003】
ハンドル本体の前端部は、前部ドア(重合側ドア)が閉扉状の時に重合側ドアに当接するように形成されており、重合側ドアが開扉状態の時にのみ操作が可能とされる。
【0004】
しかし、この従来例において、重合側ドアが閉じられているときの被重合側ドアへの開放操作規制は、ハンドル本体の移動を規制することにより行われるために、ハンドル本体を無理に動作させようとした場合に、ハンドル本体、あるいはハンドル本体の移動をブロックしている前部ドアに過大な負荷がかかる虞があるという問題がある。
【0005】
かかる問題を解決可能な構成としては、特許文献2、3に記載されるように、重合側ドアが閉扉状態の時、ハンドル本体を空振りさせるものが提案されている。
【0006】
特許文献2記載の従来例は、回転操作されるリリースハンドル40(ハンドル本体)と、ハンドル本体により回転駆動される中間レバー56(出力レバー)と、揺動自在なロックアウトレバー44とを有してリアドア18に装着される。
【0007】
ハンドル本体と出力レバーとの間には、ハンドル本体に開設される窓58内を上記ロックアウトレバーにより駆動されて連結可能位置と連結解除位置との間で移動するフローティングピン64が介装され、ハンドル本体への操作力は、フローティングピンが連結可能位置にあるときにのみ出力レバーに伝達することができる。
【0008】
ロックアウトレバーは、操作ロッド78を介して操作レバー48(検知部材)に連結されており、検知部材がフロントドア16に当接した状態で初期位置から作動位置に回転する。検知部材の回転により、ロックアウトレバーは、フローティングピンが連結解除位置に移動するまで回転し、以後、ハンドル本体への操作力は出力レバー4に伝達されることがなくなる。
【0009】
さらに、特許文献3記載の従来例は、ハンドルベースに組み付けられるラッチ装置と、概ね三角形状に形成されてドアパネルの側壁に開設された窓部から突出する検出レバー(検知部材)と、オープンハンドル(ハンドル本体)をドアパネルに各々固定して連結される。ラッチ装置には、ハンドル本体に連結されるオープンレバー(入力レバー)と、ラッチユニットを作動させるオープンレバー(出力レバー)と、検知部材に連結され、検知部材が重合側ドアを検出した際に出力レバーを拘束するロックレバーと、入出力レバー間を連結する連結バネが配置され、ハンドル本体への操作力は連結バネを介して出力レバーに伝達される。
【0010】
重合側ドアが閉扉状態にあるとき、出力レバーはロックレバーにより拘束されており、ハンドル本体への操作変位は連結バネの弾性変形により吸収される。
【0011】
これら特許文献2、3記載の従来例は、ハンドル本体等への過大な負荷の発生を防止することができる点で特許文献1記載の従来例に比して利点を有するものであるが、一方、検知部材を別途適宜の固定手段を用いてドアパネルに固定する必要があり、組み付け作業性が悪い上に、検知部材と、ロックアウトレバー、あるいは入力レバーが各々パネルに設定された固定部に固定されるために、相対位置精度を高くすることが難しく、動作信頼性の低下を招きやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-308182号公報
【特許文献2】米国特許第5803516号明細書
【特許文献3】特開2005-240454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、車体への組み付け作業性が良好で、かつ、不適正操作が行われた際の部品への損傷を防止することのできる車両用ハンドル装置の提供を目的とする。また、本発明の他の目的は、上記ハンドル装置を使用した車両のドア構造の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ハンドル装置Aは、観音開きドアのように、閉扉状態において回転端が重合する一対のドア1、2の被重合側ドア2に装着され、ハンドル本体3、出力レバー4、クラッチ部5、および検知部材6をハンドルベース7に連結して形成される。
【0015】
クラッチ部5はハンドル本体3と出力レバー4との間に介装され、ハンドル本体3と出力レバー4との操作力伝達を断接する。クラッチ部5が”接”状態でハンドル本体3を操作すると、出力レバー4が回転し、ドア1、2内に配置されたドアロック装置を作動させることができる。これに対し、クラッチ部5が”断”状態において、ハンドル本体3への操作力は出力レバー4に伝達されることがないために、出力レバー4、延いては、ドアロック装置が作動することがない。
【0016】
クラッチ部5が”断”状態でハンドル本体3に操作力が加えられた場合、ハンドル本体3は空振り状態で動作するために、無理な操作力負荷による各部への損傷が防止される。
【0017】
クラッチ部5の断接状態を遷移させる検知部材6は、クラッチ部5の”接”状態に対応する突出位置と、クラッチ部5の”断”状態に対応する没入位置との間で移動自在で、突出位置側に付勢されてハンドルベース7に連結される。没入位置は重合側ドア1が閉じた状態において、該重合側ドア1により被重合側ドア2内方に押し込まれた状態であり、この状態で重合側ドア1が開放されると、付勢力により突出位置に移動する。
【0018】
したがって、重合側ドア1が閉じられた状態にあるとき、検知部材6は没入位置に移動し、クラッチ部5が”断”状態に移行し、ハンドル本体3による出力レバー4の操作は、重合側ドア1の開扉を条件に許容されることとなる。
【0019】
上記検知部材6、クラッチ部5、ハンドル本体3、および出力レバー4がハンドルベース7に予め搭載されている本発明において、ハンドルベース7を被重合側ドア2に固定するだけで、重合側ドア1の開閉状態を検出し、それに応じて出力レバー4へのアクセスを制御できるために、別途重合側ドア1の開閉検出手段を配置する場合に比して、組立作業性が向上する上に、検出精度は主としてハンドル装置Aの組立精度により決定され、ドア1、2の精度に影響されないために、動作の信頼性も向上する。さらに、開閉検出は、機械的手段によって、電気的手段を利用しないために、給電、配線等を要しない。
【0020】
クラッチ部5は、同一方向に移動自在な入出力部間に連結部材を配置し、該連結部材を、入出力部間を機械的に連結する連結位置と連結解除位置との間で移動させる周知の種々の構造を採用することが可能であり、連結部材の検知部材6への連動は、ロッド棒等の適宜の連結手段により双方を連結することにより実現できる。
【0021】
上記連結部材としてスライダ10を利用したクラッチ部5は、
出力レバー4と同軸周りに前記ハンドル本体3により回転駆動され、回転径方向所定範囲に押圧片8を備えた入力レバー9と、
出力レバー4に連結されて入出力レバー9、4間に介装され、検知部材6により径方向に駆動されて前記押圧片8に対する干渉位置と、干渉解除位置との間を移動するスライダ10とを有して構成することができる。
【0022】
かかる構成において、スライダ10が干渉位置にあるときに入力レバー9をハンドル本体3により回転駆動すると、入力レバー9の回転力が押圧片8を介してスライダ10に伝達され、結果、スライダ10に連結された出力レバー4を作動させることができるのに対し、スライダ10が干渉解除位置にあるときには、押圧片8によるスライダ10の駆動ができないため、出力レバー4を作動させることはできない。
【0023】
また、検知部材6を、被重合側ドア2の開閉方向に突出するように構成した場合には、ドア1、2への取り付け融通性が向上する上に、ドア1、2への装着作業性も向上する。すなわち、上述した特許文献2、3に記載の従来例のように、検知部材6が被重合側ドア2の開閉方向に対して直交する方向に突出している場合、検知部材6を挿通させるための窓12は、被重合側ドア2の開閉方向に対して直交する壁面に形成することが必須となり、結果、検知部材6を組み込んだハンドル装置Aの装着位置は、不必要に装置を大型化しない限り、窓12の形成壁面に近接した位置に限定されることとなり取付位置の設計に対する制約事項となる。
【0024】
また、一般にハンドル装置Aのドア基体2aへの装着作業は、ハンドル装置Aを室内側から室外側に向けて移動させることによりインナーパネル2bに開設されたハンドル装着孔15に嵌合させて行われるが、装着方向に対して直交する方向に開設される窓12への検知部材6挿通操作は余分な操作となって作業性を低下させる。
【0025】
これに対し、検知部材6を被重合側ドア2の開閉方向に突出させた場合には、被重合側ドア2の開閉方向に窓12を開放し、ハンドル装置Aの取付作業線を被重合側ドア2の開閉方向に設定すると、ハンドル装置Aのハンドル装着孔15への嵌合操作に伴って検知部材6の窓12への挿入操作が完了するために、組み付け作業性が向上する。
【0026】
検知部材6は、開閉方向に直線経路を通って進退する直杆形状に形成することも可能であるが、周方向に均一断面形状を有する円弧形状に形成し、円弧曲率中心周りに揺動自在に軸支した場合には、窓12から被重合側ドア2内への塵埃等の浸入量を少なくし、かつ、ハンドル装置Aの構造も簡単にすることができる。
【0027】
すなわち、検知部材6を揺動動作させることによって、検知部材6から被重合側ドア2の開閉方向に加え、これに公差する方向の変位成分を抽出することが可能になる。この結果、スライダ10の動作方向と被重合側ドア2開閉方向とが異なる場合であっても、方向変換機構を別途組み込む必要がないために、全体の構造が簡単になる。加えて、検知部材6の形状を揺動中心を曲率中心とする円弧形状に形成することによって、被重合側ドア2のアウターパネル2cとの交差位置、すなわち、窓12の位置は、検知部材6の揺動角が異なっても一定であり、かつ、円周方向に均一断面に形成することによって、窓12を通過する検知部材6の断面積も一定となる。この結果、窓12周縁と検知部材6との間隙を可及的に小さくすることが可能になり、窓12からの塵埃等の浸入を防止することができる。
【0028】
以上のハンドル装置Aを使用した車両のドア構造は、
閉扉状態において回転端が重合する一対のドア基体1a、2aと、被重合側ドア基体2aに装着されるハンドル装置Aとを有し、
前記ハンドル装置Aは、ハンドル本体3、ハンドル本体3により回転駆動される出力レバー4、ハンドル本体3への操作力の出力レバー4への伝達を断接するクラッチ部5、突出位置と重合側ドア基体1aに干渉した際の没入位置との間を突出位置側に付勢されて移動自在で、没入位置においてクラッチ部5を”断”状態に遷移させる検知部材6をハンドルベース7に連結して形成されるとともに、
重合側ドア基体1aには、閉扉状態において正対する開閉方向にほぼ直交する閉扉検出面11が形成され、
検知部材6は、被重合側ドア基体2aに開設される窓12を挿通して重合側ドア基体1aの閉扉検出面11を検知するように構成することにより、動作信頼性を向上させることができる。
【0029】
上記重合側ドア基体1aには開閉方向に直交し、閉扉状態において対向する閉扉検出面11が形成され、ハンドル装置Aの検知部材6は、被重合側ドア基体2aに開設された窓12から重合側ドア基体1aの閉扉検出面11に向けて突出する。閉扉検出面11は、当該閉扉検出面11として新たに設定したものであっても、あるいは、閉扉検出面11として設定されたものではない重合側ドア基体2aの周縁の面を利用するものであってもよい。
【0030】
上述した特許文献1、2記載の従来例において、検知部材6は、被重合側ドア2の側壁から突出し、重合側ドア1の側壁部に当接して重合側ドア1の開閉を検出する。しかし、重合側ドア1の側壁部は、傾斜面として形成されることに加え、外観に影響を与える外表面、および被重合側ドア2との重合部における板厚を決定する外表面に平行な裏面に比して寸法上の重要性が低いため、高い寸法精度を期待できない。この結果、重合側ドア1の側壁部を検知部材6の判定基準面として利用する上記各従来例は、重合側ドア1の閉扉に伴う検知部材6の移動量に大きなばらつきが発生し、判定精度が低くなる傾向がある。このばらつきを吸収して判定精度を高くするためには、判定基準面が離隔方向にばらついた場合でも判定基準面の閉扉対応位置への移動を検出できるように、検知部材6の初期の突出量を過度に大きくする必要が生じてしまうという欠点がある。
【0031】
これに対し、重合側ドア1の開閉方向にほぼ直交する閉扉検出面11を設定し、これを判定基準面とする場合には、最外表面とほぼ平行な閉扉検出面11の寸法の管理が比較的容易なことも相俟って、閉扉状態における判定基準面位置のばらつきを小さくすることが可能になる。このため、判定基準面位置のばらつきに対する過大な吸収を考慮する必要がなく、さらに、検知部材6、クラッチ部5がハンドルベース7に装着されることによってハンドル装置A自体に高い相対位置精度を期待できることから精度ばらつきに対する吸収量も低減させることが可能になり、これらを見込んだ検知部材6の突出量の増大を招くことがない。
【0032】
さらに、検知部材6を、周方向に均一断面形状を有する円弧形状に形成し、曲率中心周りに揺動自在に軸支するとともに、窓12に、検知部材6に摺接する舌片部13を備えて窓12を閉塞するキャップ部材14を装着すると、上述したように、窓12を検知部材6の断面積に基づく必要最小限の開口面積にすることが可能となる上に、窓12と検知部材6の側面との間を閉塞することができるために、ドア1、2体内への塵埃等の侵入を有効に防止できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、検知部材を含めた構成部材がハンドルベース上に組み付けられているために、車体への組み付け作業性が良好で、かつ、クラッチ部が”断”状態のときには、ハンドル本体が空振りして他の部品を動作させることがないために、不適正操作が行われた際の部品への損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明が適用された車両を示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)の1B-1B線断面図である。
【図2】ハンドル装置の背面図である。
【図3】ハンドル装置を示す図で、(a)は正面方向からみた斜視図、(b)は背面方向からみた斜視図である。
【図4】図2の断面図で、(a)は図2の4A-4A線断面図、(b)は図2の4B-4B線断面図である。
【図5】ハンドル装置の要部を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)の5B-5B線断面図である、(c)は(b)の5C線断面図である。
【図6】スライダの装着状態を示す図で、(a)は背面方向から見た分解図、(b)は(a)の6B方向矢視図、(c)は(a)の6C方向矢視図、(d)は(c)の6D方向矢視図である。
【図7】ハンドル本体を操作した状態を示す図で、(a)は背面図、(b)は図4(b)に対応する図である。
【図8】検知部材が作動した状態を示す図で、(a)は図4(a)に対応する図、(b)はハンドル本体を操作した状態の背面図である。
【図9】ハンドル装置を装着したドア構造を示す図で、(a)は図1(b)の要部拡大図、(b)は図1(b)の9B線断面図である。
【図10】重合側ドアを開放した状態を示す図で、(a)は図9(a)に対応する図、(b)は図9(b)に対応する図、(c)は図10(b)の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1にハンドル装置Aが装着される車両を示す。車両には、前端縁が軸支されて車両前部に配置されるフロントドア1と、後端縁が軸支されて車両後部に配置されるリアドア2とが装着される。これらフロントドア1とリアドア2は、各枢軸1d、2d周りに水平回転自在で、図1(b)において矢印Rで示すように、外方向に回転操作されて開扉操作される。フロントドア1を開扉操作するために、フロントドア1の車外側壁面にはアウトサイドハンドル1eが装着される。
【0036】
図1(b)に示すように、これらフロントドア1とリアドア2とは、閉扉状態において、回転端同士をリアドアが下(被重合側)に、フロントドア1を上(重合側)にした状態で重ね合わせられ、ハンドル装置Aは、被重合側ドア2であるリアドアの室内側壁面に装着される。
【0037】
図2以下にハンドル装置Aを示す。ハンドル装置Aは、適数の切断、折曲加工された金属板材を連結して形成されるハンドルベース7に連結されるハンドル本体3、出力レバー4、検知部材6、およびクラッチ部5を有する。後述するように、ハンドル装置Aはハンドルベース7をリアドア2のインナーパネル2bに止着して固定され、ハンドルベース7には止着子挿通孔16aが形成されたパネル取付片16が設けられる。
【0038】
上記ハンドル本体3は、合成樹脂材を射出成形して製せられ、操作部3aを室内方向に向けた姿勢で、軸長方向を上下方向(車高方向)に向けた枢軸3dを使用してハンドルベース7に回転自在に軸支される。以下、本明細書において、特に断りのない限り、ハンドル装置Aを装着した車両の車高方向を「上下」、車長方向を「前後」、車幅方向の室内側を「正面」、反対側を「背面」とする。
【0039】
ハンドル本体3は、図外のストッパにより、図4(b)に示す初期回転位置と、図7(b)に示す操作回転位置との間で回転可能であり、適宜の付勢手段によって初期回転位置側に付勢される。ハンドル本体3を付勢力に抗して操作回転位置まで回転操作するために、ハンドル本体3の後面壁には、上下方向に長い指掛け凹条3bが設けられる。
【0040】
また、ハンドル本体3の枢軸3dを挟んで操作部3aに対する反対端部には、ロッド連結孔3cが開設され、他端が入力レバー9に連結されるロッド棒17の一端が図外のロッドホルダを介して連結される。
【0041】
図4、5に示すように、入力レバー9は金属板材により形成され、軸長方向を正背方向に向けたレバー回転軸18を使用してハンドルベース7に回転自在に連結される。この入力レバー9は図5(a)に示すように、ハンドル本体3の初期位置に対応する初期回転位置と、図7(a)に示すように、ハンドル本体3の操作回転位置に対応する操作回転位置との間を回転自在で、初期位置側に付勢される。入力レバー9に付勢力を付与するために、レバー回転軸18には、脚部がバネ掛け部9aに係止されるトーションスプリング19が巻装される(図3、4参照)。
【0042】
また、入力レバー9には、上記ロッド棒17の他端が連結されるロッド連結片9bと、向心方向が閉塞され、遠心方向に開放されたスライダ嵌合凹部9cとが設けられる。スライダ嵌合凹部9cの操作回転位置側の壁面を形成するスライダ受け片9dが後述するスライダ10のストローク長の全長にわたる長さを有するのに対し、スライダ嵌合凹部9cの初期回転位置側の壁面を形成する押圧片8は、スライダ嵌合凹部9cの基端部にのみ形成される。
【0043】
さらに、上記入力レバー9の背面壁に沿うようにして出力レバー4が配置される。出力レバー4は、金属板材により形成され、図外のドアロック装置に連結されるラッチ連結片4aと、スライダ嵌合凹部9cの幅方向寸法よりやや幅狭で、スライダ受け9dの径方向の長さ寸法とほぼ等長の長孔4bとを備え、上記レバー回転軸18によりハンドルベース7に回転自在に連結される。この出力レバー4は、入力レバー9に対して独立に回転可能であり、図5(a)に示す初期回転位置において、入力レバー9のスライダ嵌合凹部9cに長孔4bが重なり合う。出力レバー4には、初期回転位置において入力レバー9のバネ掛け部9aに重なり合うバネ掛け部4cが設けられて上記トーションスプリング19の脚部が係止され、初期回転位置における回転姿勢の一致が保証される。
【0044】
上記入出力レバー9、4間には、出力レバー4の長孔4b、および入力レバー9とともにクラッチ部5を構成するスライダ10が介装される。図5、6に示すように、スライダ10は、ロッドガイド部10aの底壁面から上記出力レバー4の長孔4bに挿通可能な円筒部10bを突設したピース状部材であり、合成樹脂材を射出成形して形成される。
【0045】
ロッドガイド部10aは、出力レバー4の長孔4bの幅方向寸法よりやや長寸の幅寸法を有して直方体形状をなし、中央部長手通しに後述するロッド棒20が挿通可能な幅寸法を有するロッド保持凹溝10cが形成される。また、円筒部10bの自由端部には曲率面21aと平面21bとを周壁とする小判断面形状の駆動突部21が膨隆される(図6(d)参照)。駆動突部21の曲率面21aは、上記長孔4bの幅方向寸法に比して大径で、かつ、スライダ嵌合凹部9cの幅寸法に比して小径の円弧形状を有するとともに、平面21b間の間隔は円筒部10bの径寸法に等しく設定される。
【0046】
以上のように形成されるスライダ10は、駆動突部21の平面21bを長孔4bの長辺に沿わせた姿勢で背面方向から長孔4bに挿通させた後、円筒部10b周りに回転させて装着される。装着状態において、円筒部10bが長孔4bに挿通するとともに、曲率面21aが長孔4bに係止して抜け止めされ、さらに、駆動突部21の曲率面21aが入力レバー9のスライダ受け9dの辺縁に対峙する。
【0047】
この状態でスライダ10は図5に示すように、円筒部10bが長孔4bの下端近傍に位置し、駆動突部21が入力レバー9のスライダ嵌合凹部9cに嵌合する連結位置と、図8(b)に示すように、円筒部10bが長孔4bの上端近傍に位置し、駆動突部21がスライダ嵌合凹部9cから離脱する連結解除位置との間を移動することができる。
【0048】
したがって、この実施の形態において、ハンドル本体3を図4、5に示す初期位置から操作回転位置までストロークさせると、入力レバー9は、ロッド棒17に押されるようにして、図5において反時計方向に回転する。このとき、スライダ10が連結位置にあると、図7に示すように、駆動突部21がスライダ嵌合凹部9cの壁面、正確には押圧片8に押されて回転し、これに伴って円筒部10bが長孔4bに嵌合している出力レバー4も回転してハンドル本体3への操作力が出力レバー4に伝達される。
【0049】
これに対し、ハンドル本体3を操作した際、図8に示すように、スライダ10が連結解除位置にある場合、入力レバー9はスライダ10に回転力を伝達できないために、入力レバー9のみが回転し、ハンドル本体3が空振りして操作力が出力レバー4に伝達されない状態となる。
【0050】
さらに、スライダ10には一端が検知部材6に連結されるロッド棒20が連結される。図6に示すように、スライダ10には、ロッドガイド部10aの底壁、円筒部10b、および駆動突部21を貫通するロッド挿入孔10dが開設されるとともに、ロッド棒20のスライダ10との連結端はL字形状に屈曲されており、ロッド棒20は、屈曲部基端をロッドガイド部10aのロッド保持凹溝10cに嵌合させるとともに、屈曲先端をロッド挿入孔10dに挿入させて装着される。図5に示すように、ロッド棒20の自由端には、止め輪装着溝20aが形成されており、該止め輪装着溝20aに図外の止め輪を装着することによりロッド棒20のスライダ10からの脱離が規制される。
【0051】
上記検知部材6は、合成樹脂材により形成され、図3に示すように、軸長が前後方向を向く枢軸6aによりハンドルベース7に回転自在に連結される。図5に示すように、検知部材6には、回転中心からやや離隔した位置にロッド挿入孔6bが形成され、上記ロッド棒20の他端が挿入される。検知部材6のロッド挿入孔6bはロッド棒20を歳差移動可能に受容し、挿入方向が出力レバー4の回転方向に対して直交関係にあるロッド棒20に対して出力レバー4の回転方向への自由度(図5(a)における矢印S方向)が与えられる。
【0052】
さらに、検知部材6には検知片6cが設けられる。検知片6cは、矩形形状断面を有し、前面視において枢軸6aを中心とする円弧形状に形成される。図4(a)に示すように、検知部材6の円滑な揺動動作を保証するために、ハンドルベース7には、検知片6cを支承する合成樹脂製のスライドベース22が固定される。
【0053】
以上の検知部材6は、図4、5に示すように、検知片6cの先端が後述する窓12から突出する突出位置と、図8に示すように、リアドア2内に没入する没入位置との間で揺動自在であり、検知部材6が突出位置にあるとき、スライダ10はロッド棒20により下方に押し下げられ、連結位置に保持される。これに対し、検知部材6が没入位置に移動すると、スライダ10は上方に引き上げられて連結解除位置にドライブされる。
【0054】
上記検知部材6は、図3に示すように、トーションスプリング23により突出位置側に付勢されており、検知部材6に負荷を与えない状態において、ハンドル本体3への操作力は、クラッチ部5を介して出力レバー4に伝達され、ドアロック装置を操作できる。これに対し、トーションスプリング23の付勢力に抗して検知片6cの自由端部に背面側から正面方向に向けて押圧力を負荷して、検知部材6を没入位置に移動させると、クラッチ部5は断状態に移行し、ハンドル本体3の操作による出力レバー4の駆動が不能とされる。
【0055】
図9に上記ハンドル装置Aを含むドア構造を示す。リアドア2、およびフロントドア1は、室内側に配置されるインナーパネル1b、2bと、車両表面を構成するアウターパネル1c、2cとを袋状に接合したドア基体1a、2aを有し、上述したように、回転端において、リアドア2を下(室内側)に、フロントドア1を上(室外側)に重合させて閉扉される。
【0056】
上記フロントドア1のアウターパネル1cには、フロントドア1の外表面にほぼ平行な平面からなる閉扉検出面11が設けられるとともに、リアドア2のアウターパネル2cには、閉扉状態において閉扉検出面11にほぼ平行に正対する平面からなる窓形成面24が設けられる。
【0057】
上記ハンドル装置Aの装着は、ハンドル装置Aをリアドア2のインナーパネル2bに開設されたハンドル装着孔15に室内側から嵌合し、上述したハンドルベース7のパネル取付片16(図2、3参照)をインナーパネル2bに止着して行われる。
【0058】
また、リアドア2のインナーパネル2bの室内側壁面にはトリムパネル25が配置されるとともに、ハンドル装置Aには、トリムパネル25のハンドル装着開口25aを閉塞するようにしてエスカッション26が連結される。
【0059】
また、リアドア2の窓形成面24には窓12が開設されており、ハンドル装置Aを装着した状態で検知部材6の検知片6cが窓12を挿通する。図9に示すように、フロントドア1が閉塞状態にあるとき、検知片6はフロントドア1の閉扉検出面11により押し付けられるために、検知部材6が没入位置に保持され、ハンドル本体3の操作によって出力レバー4を駆動することはできない。
【0060】
この状態からフロントドア1が開放されると、図10に示すように、検知部材6に対する拘束が解除されるために、検知部材6はトーションスプリング23の復元力によって突出位置に復帰し、結果、クラッチ部5が切断状態から接続状態に遷移し、ハンドル本体3による出力レバー4の駆動が可能になる。
【0061】
図10(c)に示すように、窓12にはキャップ部材14が装着される。キャップ部材14は、比較的硬質の合成樹脂により形成されたキャップベース14aと、キャップ部材14に連結されるカバー部材14bとを有し、窓12への装着は、キャップベース14aを窓12の周縁に弾性的に係止させて行われる。
【0062】
上記カバー部材14bは、やや柔軟性を有する合成樹脂材料により形成され、中央部に検知片6cが挿通する挿通口14cが開設される。挿通口14cは検知片6cの断面に比してやや小さく形成されるとともに、挿通口14cには放射方向に切り込みが入れられて片持梁状の舌片部13が形成される。
【0063】
挿通孔14cに検知片6cを挿通させると、舌片部13は弾性的に撓んで自由端が検知片6cの側壁に圧接し、挿通孔14cの周縁と検知片6cとの間の間隙を閉塞してリアドア2内部への塵埃等の浸入を防止する。
【符号の説明】
【0064】
1 重合側ドア
1a 重合側ドア基体
2 被重合側ドア
2a 被重合側ドア基体
3 ハンドル本体
4 出力レバー
5 クラッチ部
6 検知部材
7 ハンドルベース
8 押圧片
9 入力レバー
10 スライダ
11 閉扉検出面
12 窓
13 舌片部
14 キャップ部材
A ハンドル装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉扉状態において回転端が重合する一対のドアの被重合側ドアに装着される車両のドアハンドル装置であって、
ハンドル本体と、
ハンドル本体により回転駆動される出力レバーと、
ハンドル本体への操作力の出力レバーへの伝達を断接するクラッチ部と、
突出位置、および重合側ドアに干渉した際の没入位置間を突出位置側に付勢されて移動自在で、没入位置においてクラッチ部を”断”状態に遷移させる検知部材と、
をハンドルベースに装着した車両のドアハンドル装置。
【請求項2】
前記検知部材は、被重合側ドアの開閉方向に突出するとともに、
前記クラッチ部は、出力レバーと同軸周りに前記ハンドル本体により回転駆動され、回転径方向所定範囲に押圧片を備えた入力レバーと、
出力レバーに連結されて入出力レバー間に介装され、検知部材により径方向に駆動されて前記押圧片に対する干渉位置と、干渉解除位置との間を移動するスライダと、
を有する請求項1記載の車両のドアハンドル装置。
【請求項3】
前記検知部材は、周方向に均一断面形状を有する円弧形状に形成され、円弧曲率中心周りに揺動自在に軸支される請求項2記載の車両のドアハンドル装置。
【請求項4】
閉扉状態において回転端が重合する一対のドア基体と、被重合側ドア基体に装着されるハンドル装置とを有し、
前記ハンドル装置は、ハンドル本体、ハンドル本体により回転駆動される出力レバー、ハンドル本体への操作力の出力レバーへの伝達を断接するクラッチ部、突出位置と重合側ドア基体に干渉した際の没入位置との間を突出位置側に付勢されて移動自在で、没入位置においてクラッチ部を”断”状態に遷移させる検知部材をハンドルベースに連結して形成されるとともに、
重合側ドア基体には、閉扉状態において正対する開閉方向にほぼ直交する閉扉検出面が形成され、
検知部材は、被重合側ドア基体に開設された窓を挿通して重合側ドア基体の閉扉検出面を検知する車両のドア構造。
【請求項5】
前記検知部材は、周方向に均一断面形状を有する円弧形状を有して曲率中心周りに揺動自在に軸支されるとともに、
前記窓には、検知部材に摺接する舌片部を備えて窓を閉塞するキャップ部材が装着される請求項4記載の車両のドア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−215034(P2012−215034A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81564(P2011−81564)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000170598)株式会社アルファ (433)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】