説明

車両のフロントピラーの排水構造

【課題】フロントワイパーの回転支点部周辺の被水を防止するためのカバーを小型化することができ、このカバーを安価に製作し、その組付作業性を向上させることができる車両のフロントピラーの排水構造を提供すること。
【解決手段】整流部材6は、左右方向に板面を向けて側方モール3に沿って配置した長尺本体部61と、フロントワイパー7の回転支点部71の周辺に対する側方位置において、側方モール3の前方側端部に対向して前後方向に板面を向けて長尺本体部61の前方側端部から設けた対向壁部62と、左右方向に板面を向けて対向壁部62から設けた案内壁部63とを有している。車両1のフロントピラー12の排水構造は、整流部材6及び側方モール3の表面側301を前方へ伝って流れる雨水Xを、対向壁部62及び案内壁部63によって下方へ排水するよう構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントガラスの側方部位を伝って流れる雨水を排水する車両のフロントピラーの排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフパネルに落下する雨水は、車両の前方へ流れるときには、車両のフロントガラスの側方において、側方モールとフロントピラー外板との間に設けた整流部材及び側方モールを伝って流下する。そして、整流部材及び側方モールの前方側端部から下方へ排水される。そして、主に、フロントガラスの右側前方には、ワイパーの回転支点部が設けてある。そのため、ワイパーの回転支点部が被水することを防止するために、この回転支点部を被水防止カバーで覆っている。
【0003】
例えば、特許文献1のフロントピラーとルーフに跨るモール構造においては、フロントピラーの範囲において、モールを安定して組み付けるための工夫が開示されている。例えば、特許文献2の車両用部品への水かかり防止構造においては、ウィンドウと、ウィンドウを室内側から支持する支持部材とを接続する接着部材を伝って落ちる水が、ウィンドウの下縁の下方に設置される部品にかかることを防止するための工夫が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−220929号公報
【特許文献2】特開2009−184400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被水防止カバーのみでワイパーの回転支点部への被水を防止しようとすると、この被水防止カバーを大きくせざるを得ない。そのため、車両のコストアップに繋がり、また、工場における組付作業性の負担が増大することになる。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、フロントワイパーの回転支点部周辺の被水を防止するためのカバーを小型化することができ、このカバーを安価に製作し、その組付作業性を向上させることができる車両のフロントピラーの排水構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両のフロントガラスの側方縁部に設けた側方モールとフロントピラー外板との間に目隠し及び雨水の整流を行う整流部材を設け、該整流部材及び上記側方モールの表面側を前方へ伝って流れる雨水を排水する構造において、
上記整流部材は、左右方向に板面を向けて上記側方モールに沿って配置した長尺本体部と、
フロントワイパーの回転支点部周辺に対する側方位置において、上記側方モールの前方側端部に対向して前後方向に板面を向けて上記長尺本体部の前方側端部から設けた対向壁部と、
左右方向に板面を向けて上記対向壁部から設けた案内壁部とを有しており、
上記整流部材及び上記側方モールの表面側を伝って前方へ流れる雨水を、上記対向壁部及び上記案内壁部によって下方へ排水するよう構成したことを特徴とする車両のフロントピラーの排水構造にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両のフロントピラーの排水構造においては、長尺本体部に対して対向壁部及び案内壁部を設けた整流部材を用いている。そして、車両のルーフパネルに落下した雨水は、整流部材及び側方モールの表面側を伝って前方へ流れた後、対向壁部及び案内壁部によって下方へ排水される。これにより、フロントワイパーの回転支点部周辺が被水しないようにすることができる。
それ故、本発明の車両のフロントピラーの排水構造によれば、フロントワイパーの回転支点部周辺の被水を防止するためのカバーを小型化することができ、このカバーを安価に製作し、その組付作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例における、フロントワイパーの回転支点部、整流部材の対向壁部及び案内壁部の周辺を示す斜視図。
【図2】実施例における、整流部材の周辺を前方から見た状態で示す断面図。
【図3】実施例における、整流部材の周辺を側方から見た状態で示す断面図。
【図4】実施例における、フロントガラスの周辺を示す説明図。
【図5】実施例における、右側のフロントピラーの後方端部の周辺を拡大して示す説明図。
【図6】実施例における、カウルの前方側端部の周辺を拡大して示す説明図。
【図7】実施例における、カウルの周辺を側方から見た状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述した本発明の車両のフロントピラーの排水構造における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記長尺本体部と上記対向壁部と上記案内壁部とは、上下方向に板面を向けた底壁部によって連結してあり、該底壁部には、排水穴が設けてあり、上記対向壁部及び上記案内壁部は、上記底壁部よりも上方の位置から下方の位置まで連続して形成してあることが好ましい(請求項2)。
この場合には、対向壁部及び案内壁部の強度を向上させると共に、これらの壁部によって雨水をより安定して排水することができる。
【0011】
また、上記フロントガラスの前方端部の下方に位置するカウルの前方側端部に、上方へ屈曲して突出部を設け、上記整流部材及び上記側方モールの裏面側から上記カウルに伝って流れる雨水を、上記突出部によって下方へ落下させるよう構成することが好ましい(請求項3)。
この場合には、整流部材及び側方モールの裏面側を伝って前方へ流れ、その後カウルへ流れる雨水をより安定して下方へ排水することができる。
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の車両のフロントピラーの排水構造にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の車両1のフロントピラー12の排水構造は、図1〜図3に示すごとく、車両1のフロントガラス2の側方縁部21に設けた側方モール3とフロントピラー外板4との間に目隠し及び雨水Xの整流を行う整流部材6を設け、整流部材6及び側方モール3の表面側301を伝って流れる雨水Xを排水する構造である。
【0013】
整流部材6は、左右方向に板面を向けて側方モール3に沿って配置した長尺本体部61と、フロントワイパー7の回転支点部71の周辺に対する側方位置において、側方モール3の前方側端部に対向して前後方向に板面を向けて長尺本体部61の前方側端部から設けた対向壁部62と、左右方向に板面を向けて対向壁部62から設けた案内壁部63とを有している。車両1のフロントピラー12の排水構造は、整流部材6及び側方モール3の表面側301を前方へ伝って流れる雨水Xを、対向壁部62及び案内壁部63によって下方へ排水するよう構成してある。
【0014】
以下に、本例の車両1のフロントピラー12の排水構造につき、図1〜図7を参照して詳説する。
図1は、フロントワイパー7の回転支点部71、整流部材6の対向壁部62及び案内壁部63の周辺を示す。図2は、整流部材6の周辺を前方から見た状態の断面で示し、図3は、整流部材6の周辺を側方から見た状態の断面で示す。各図において、車両1の前方を矢印Dで示し、車両1の側方外方を矢印W1で示す。
本例の整流部材6は、車両1の右側のフロントピラー外板4の中央側端部に沿って配置する。図1は、フロントワイパー7の回転支点部71に取り付けるワイパー本体部は省略して示し、フロントワイパー7のリンク部をルーバ(カバー)によって覆った状態を示す。同図においては、フロントガラス2を省略して示す。
【0015】
図2に示すごとく、フロントピラー外板4に対する室内側には、強度を確保するためのフロントピラー内板5が設けてある。フロントピラー外板4における中央側端部は、フロントガラス2の板面に対して略垂直になるよう折り曲げられている。フロントピラー内板5における中央側端部には、雨水Xが流れる排水通路51が折曲形成されている。フロントピラー外板4及びフロントピラー内板5は、鋼板を折り曲げて形成してある。
【0016】
フロントガラス2は、その裏面の側縁部に施したガラス粘着剤22によって、フロントピラー内板5の中央側端部に留め付けてある。側方モール3は、フロントピラー内板5の中央側端部とフロントガラス2の側方端部との間に挟持されている。
整流部材6の長尺本体部61は、フロントピラー外板4の中央側における折曲端部41とフロントピラー内板5の中央側端部との間の開口部分42を覆うように配置されている。
【0017】
側方モール3は、フロントガラス2に対面する対面部31と対面部31の下方に突出する突起部32とによる断面略T形状を有している。突起部32の端部は、フロントピラー内板5の表面に接触し、対面部31の中央側端部はフロントガラス2の側方端部の裏面に接触し、対面部31の外側端部は、整流部材6の表面に接触している。図2においては、側方モール3及び整流部材6は、組付時の変形前の状態で示す。
そして、ルーフパネル11に落下した雨水Xは、側方モール3の表面側301においては、フロントガラス2の側方端部と側方モール3の対面部31における表面と整流部材6の長尺本体部61における表面とによって囲まれて形成された溝部30に沿って前方へ流れる。
整流部材6は、樹脂から構成してあり、側方モール3は、ゴムから構成してある。
【0018】
図1、図3に示すごとく、整流部材6の前方側端部には、上下方向に板面を向けて対向壁部62から連続してカバー部65が形成されている。このカバー部65は、フロントガラス2の前方において開閉可能に設けたフードパネルのヒンジ部の取付部分75を覆うよう構成されている。
長尺本体部61と対向壁部62と案内壁部63との間のスペースには、上下方向に板面を向けた底壁部64が設けてあり、長尺本体部61と対向壁部62と案内壁部63とは、底壁部64によって連結されている。底壁部64には、排水穴641が設けてあり、対向壁部62及び案内壁部63は、底壁部64よりも上方の位置から下方の位置まで連続して形成してある。底壁部64の形成により、対向壁部62及び案内壁部63の強度を向上させると共に、対向壁部62及び案内壁部63によって雨水Xをより安定して排水することができる。
【0019】
図4は、フロントガラス2の周辺を示す図である。
図5は、右側のフロントピラー12(フロントピラー内板5)の後方端部(図4におけるa部)の周辺を拡大して示す。本例のルーフパネル11に落下した雨水Xは、フロントピラー12の後方端部から側方モール3の表面側301と裏面側302とに分かれて前方へ流れるよう構成されている(図2参照)図2において、側方モール3の表面側301を流れる雨水をX1、裏面側302を流れる雨水をX2で示す。
【0020】
図6は、カウル8の前方側端部の周辺を拡大して示し、図7は、カウル8の周辺を側方から見た状態の断面で示す。
フロントガラス2の前方側端部の下方に位置するカウル8の前方側端部には、上方へ屈曲して突出部83A、83Bが設けてある。カウル8の前方側端部は、下方へ屈曲した後、前方へ屈曲するフランジ部81として形成されている。突出部83A、83Bは、横に並ぶ2箇所に形成してある。外側の突出部83Aは、下方屈曲部82の前方に突出すると共にフランジ部81の上方に突出して形成してあり、中央側の突出部83Bは、フランジ部81の上方に突出して形成してある。カウル8は、鋼板を折り曲げて形成してある。
【0021】
本例の車両1のフロントピラー12の排水構造においては、右側のフロントピラー外板4に対向して、長尺本体部61に対して対向壁部62及び案内壁部63を設けた整流部材6を用いている。また、本例のルーフパネル11に落下した雨水Xは、フロントピラー内板5の後方端部から側方モール3の表面側301と裏面側302とに分かれて前方へ流れる。
そして、図1、図2に示すごとく、側方モール3の表面側301を前方へ流れる雨水Xは、フロントガラス2の側方端部と側方モール3の対面部31における表面と整流部材6の長尺本体部61における表面とによって囲まれた溝部30に沿って前方へ流れる。その後、この雨水Xは、長尺本体部61、対向壁部62及び案内壁部63によって前方への流れが遮られると共に、底壁部64の排水穴641から下方へ排水される。
このとき、対向壁部62及び案内壁部63が底壁部64よりも上方の位置から下方の位置まで連続して形成してあることにより、雨水Xを排水穴641の下方へ案内することができる。
【0022】
一方、図2、図6に示すごとく、側方モール3の裏面側302に入った雨水Xは、フロントピラー内板5の中央側端部に形成された排水通路51を流れた後、カウル8のフランジ部81において前方側端部の中央側へ流れる。そして、カウル8のフランジ部81に設けた外側の突出部83A(場合によっては中央側の突出部83B)に当たった後、下方へ排水される。
上記側方モール3の表面側301と裏面側302とにおいて雨水Xを排水することにより、フロントワイパー7の回転支点部71の周辺が被水しないようにすることができる。
それ故、本例の車両1のフロントピラー12の排水構造によれば、フロントワイパー7の回転支点部71の周辺の被水を防止するためのカバーを小型化することができ、このカバーを安価に製作し、その組付作業性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 車両
12 フロントピラー
2 フロントガラス
21 側方縁部
3 側方モール
301 表面側
302 裏面側
4 フロントピラー外板
5 フロントピラー内板
6 整流部材
61 長尺本体部
62 対向壁部
63 案内壁部
64 底壁部
641 排水穴
7 フロントワイパー
71 回転支点部
8 カウル
83A、83B 突出部
X 雨水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントガラスの側方縁部に設けた側方モールとフロントピラー外板との間に目隠し及び雨水の整流を行う整流部材を設け、該整流部材及び上記側方モールの表面側を前方へ伝って流れる雨水を排水する構造において、
上記整流部材は、左右方向に板面を向けて上記側方モールに沿って配置した長尺本体部と、
フロントワイパーの回転支点部周辺に対する側方位置において、上記側方モールの前方側端部に対向して前後方向に板面を向けて上記長尺本体部の前方側端部から設けた対向壁部と、
左右方向に板面を向けて上記対向壁部から設けた案内壁部とを有しており、
上記整流部材及び上記側方モールの表面側を伝って前方へ流れる雨水を、上記対向壁部及び上記案内壁部によって下方へ排水するよう構成したことを特徴とする車両のフロントピラーの排水構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のフロントピラーの排水構造において、上記長尺本体部と上記対向壁部と上記案内壁部とは、上下方向に板面を向けた底壁部によって連結してあり、
該底壁部には、排水穴が設けてあり、
上記対向壁部及び上記案内壁部は、上記底壁部よりも上方の位置から下方の位置まで連続して形成してあることを特徴とする車両のフロントピラーの排水構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両のフロントピラーの排水構造において、上記フロントガラスの前方端部の下方に位置するカウルの前方側端部に、上方へ屈曲して突出部を設け、
上記整流部材及び上記側方モールの裏面側から上記カウルに伝って流れる雨水を、上記突出部によって下方へ落下させるよう構成したことを特徴とする車両のフロントピラーの排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−126310(P2011−126310A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283812(P2009−283812)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】