説明

車両のブレーキ制御装置

【課題】エンジンを自動停止して車両が停止している状態でエンジンの再始動に失敗した場合であっても、所要の制動力を発生させることができる車両のブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン1を再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段と、エンジン1の吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストするブースタ(踏力アシスト手段)14と、電動モータ26によって駆動されるポンプによってブレーキ液圧を加圧する加圧制御ユニット21と、を備えた車両のブレーキ制御装置(ECU)13において、再始動条件の成立後にエンジン1の再始動が確認できない状態で車両が停止している場合であって、且つ、ブースタ負圧が設定値以上であるときには加圧制御ユニットによってブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)を加圧してブースタ14によるアシスト力の不足を補うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立するとエンジンを自動停止(アイドルストップ)させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させる車両のブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃費の向上、排気エミッションや騒音の低減等を図るため、所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段を備えた車両が出現している。
【0003】
又、車両には、作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段や、坂道で停止している車両のズリ下がりを防ぐために運転者がブレーキペダルから足を離した後もブレーキ液圧を保持するヒルホールド手段が設けられている。
【0004】
ところで、斯かる車両においては、エンジンが自動停止している状態で、運転者がブレーキペダルの踏み込みと開放を繰り返すポンピングブレーキ操作を行って車両を停止させようとすると、踏力アシスト手段の駆動源である負圧が減少するためにアシスト力が不足し、ブレーキペダルを強く踏み込む必要があり、運転者にブレーキ操作上の違和感を与えるという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するため、特許文献1には、エンジンの自動停止中にブースタの負圧が低下すると、停止制御を中止してエンジンを再始動させることによってアシスト力の低下による影響を事前に防止する提案がなされている。
【0006】
又、特許文献2には、踏力アシスト手段のアシスト力を検出し、エンジンの自動停止中に検出されるアシスト力の単位時間当たりの減少率が第1の設定値を超えるとエンジンを自動始動させる提案がなされている。
【0007】
更に、特許文献3には、エンジンを自動停止したときのマスタシリンダ圧が所定の閾値(エンジンを再始動したときの生じ得る車両の飛び出し感や坂路での車両のズリ下がりを抑制することができる程度の圧力)以上のときにはエンジンを再始動させてクリープトルクが出力されるまでホイールシリンダ圧を保持する保持制御を行い、マスタシリンダ圧が前記閾値未満のときにはホイールシリンダ圧を加圧する加圧制御を行う提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−104586号公報
【特許文献2】特開2002−070605号公報
【特許文献3】特開2005−153823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1,2において提案されているように踏力アシスト手段によるアシスト力が低下するとエンジンを再始動させる場合、或いは特許文献3において提案されているようにマスタシリンダ圧が所定の閾値未満のときにはホイールシリンダ圧を加圧する加圧制御を行う場合、車両の停止中にエンジンの再始動に失敗する場合がある。特に、車両が坂道で停止しているときにエンジンの再始動に失敗すると、車両が坂道に沿ってズリ下がる可能性がある。このような場合、ヒルホールド機能を備えた車両にあっては、直ちに車両のズリ下がりは発生しないが、エンジンの再始動が何回か繰り返される間に、運転者がブレーキペダルの踏み込みと開放を繰り返す所謂ポンピングブレーキ操作を行うと、エンジンの吸気管から負圧が供給されないため、踏力アシスト手段の駆動源である負圧(ブースタ負圧)が減少し、アシスト力が不足する可能性がある。このようにアシスト力が不足すると、坂道で停止している車両が坂道の沿って動き出す可能性があり、この車両の動き出しを防ぐには運転者がブレーキペダルを強く踏み込む必要があるという問題が発生する。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、エンジンを自動停止して車両が停止している状態でエンジンの再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作によって踏力アシスト手段の負圧が減少した場合であっても、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる車両のブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段と、
作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段と、
電動モータによって駆動されるポンプによってブレーキ液圧を加圧する加圧制御手段と、
を備えた車両のブレーキ制御装置において、
再始動条件の成立後にエンジンの再始動が確認できない状態で車両が停止している場合であって、且つ、踏力アシスト手段の負圧が設定値以上であるときには前記加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して前記踏力アシスト手段によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記加圧制御手段による加圧動作を車両の動き出しを検知したときに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、エンジンが自動停止して車両が停止している状態からエンジンの再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作等のブレーキ操作によって踏力アシスト手段の負圧が減少した場合には、加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して踏力アシスト手段によるアシスト力の不足分を補うようにしたため、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、車両の動き出しを検知したときに加圧制御手段による加圧動作を行うようにしたため、必要なときにだけホイールシリンダ圧の加圧動作を行うことができる。そして、この加圧動作においては電動モータの駆動に電力を消費するため、運転者のブレーキ操作力(踏力)のみで車両の動き出しを防ぐことが可能な場合には加圧制御手段を動作させず、該加圧制御手段の動作を必要最小限に抑えて消費電力を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図である。
【図2】本発明に係る車両のブレーキ制御装置の液圧回路構成図である。
【図3】本発明に係るブレーキ制御装置を備える車両のエンジン再始動の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る車両のブレーキ制御装置による制御のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。尚、以下の説明中において、負圧に関して「以上」、「未満」の表現を使用しているが、単純に圧力の大小を示すものとする。
【0017】
図1は本発明に係る車両のブレーキ制御装置の基本構成図であり、本ブレーキ制御装置を備える車両は、エンジン自動停止・再始動制御手段と踏力アシスト手段及びABSを備え、エンジン1を駆動源として走行するものである。又、本車両に設けられた後述のブレーキ装置3には、加圧制御手段としての加圧制御ユニット21が備えられている。
【0018】
上記エンジン自動停止・再始動制御手段は、所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立するとエンジン1を自動停止(アイドルストップ)させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジン1を再始動させるものである。
【0019】
又、車両に設けられた前記ブレーキ装置3は、上端を中心として車両前後方向に揺動するブレーキペダル8を備えており、このブレーキペダル8は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するための踏力アシスト手段を構成するブースタ14を介してマスタシリンダ15に連結されており、マスタシリンダ15は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0020】
ここで、車両の左右の前輪4L,4Rと左右の後輪5L,5Rにはディスクブレーキ16がそれぞれ設けられており、各ディスクブレーキ16は、ディスクロータ16aと該ディスクロータ16aの両面を挟持可能なブレーキパッド及びキャリパ16bによって構成されている。そして、それぞれのディスクブレーキ16の各キャリパ16bは、ブレーキ配管ライン17,18,19,20と前記加圧制御ユニット21及び該加圧制御ユニット21から延びるブレーキ配管22,23を介して前記マスタシリンダ15に接続されている。
【0021】
上記加圧制御ユニット21は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係に所要のブレーキ液圧を発生させるものであって、これには電磁弁である後述の各種バルブv1〜v12、油圧を発生させるポンプ24,25(図2参照)、これらのポンプを駆動する電動モータ(ポンプモータ)26等が設けられており、各種バルブv1〜v12と電動モータ26はコントロールユニット(以下、「ECU」と称する)13によって制御される。尚、加圧制御ユニット21の構成の詳細は後述する。
【0022】
上記ECU13は、本発明に係るブレーキ制御装置を構成するものであって、このECU13には、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ27、ブースタ14の負圧(ブースタ負圧)を検出する圧力センサ28、マスタシリンダ15の圧力を検出する圧力センサ29、ブレーキペダル8が踏み込み操作がなされているか否かを検知するブレーキスイッチ50等が電気的に接続されている。
【0023】
ところで、前記ABSは、車輪速センサ27によって検出される前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度と圧力センサ29によって検出されるマスタシリンダ15のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)に基づいて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度を算出し、算出した前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度に基づいてバルブv1〜v12を開閉制御するものであり、その機能はECU13が担っている。
【0024】
次に、前記加圧制御ユニット21の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0025】
図2は加圧制御ユニット21の液圧回路図であり、図示の加圧制御ユニット21は、前記電動モータ26によって駆動される2つのポンプ24,25を備えており、一方のポンプ24の吸入側にはリザーバ30から延びる液圧ライン31が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる一方のブレーキ配管22はポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン31にはチェックバルブ32が設けられており、ブレーキ配管22にはチェックバルブ33と第1カットバルブv1が設けられている。又、ブレーキ配管22に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン34にはリターンチェックバルブ35が設けられている。
【0026】
そして、ブレーキ配管22から分岐する液圧ライン36には前記圧力センサ29が接続されており、液圧ライン36から分岐する液圧ライン37は液圧ライン31のチェックバルブ32とリザーバ30の間に接続されており、この液圧ライン37には第1サクションバルブv2が設けられている。
【0027】
更に、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とチェックバルブ33の間から分岐して前記リザーバ30に接続された液圧ライン38にはFL昇圧バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン38に並列に接続された液圧ライン39にはRR昇圧バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン38のFL昇圧バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管ライン17(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン17は左前輪(FL)4Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン39のRR昇圧バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管ライン20(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン20は右後輪(RR)5Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0028】
他方、他方のポンプ25の吸入側にはリザーバ40から延びる液圧ライン41が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる他方のブレーキ配管23はポンプ25の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン41にはチェックバルブ42が設けられており、ブレーキ配管23にはチェックバルブ43と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管23に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン44にはリターンチェックバルブ45が設けられている。
【0029】
そして、ブレーキ配管23から分岐する液圧ライン46は前記液圧ライン41のチェックバルブ42とリザーバ40の間に接続されており、該液圧ライン46には第2サクションバルブv8が設けられている。
【0030】
更に、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とチェックバルブ43の間から分岐して前記リザーバ40に接続された液圧ライン47にはFR昇圧バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン47に並列に接続された液圧ライン48にはRL昇圧バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン47のFR昇圧バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管ライン18(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン18は右前輪(FR)4Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン48のRL昇圧バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管ライン19(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管19は左後輪(RL)5Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0031】
次に、ブレーキ操作時の加圧制御ユニット21の作用を図2に基づいて以下に説明する。
【0032】
車両の走行中に運転者がブレーキペダル8を踏み込むと、その踏力が踏力アシスト手段であるブースタ14によって倍力されてマスタシリンダ15に伝達され、マスタシリンダ15に所定圧のブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)が発生する。このとき、バルブv1,v3,v5,v7,v9,v11が開かれ、バルブv2,v4,v6,v8,v10,v12が閉じられる。すると、マスタシリンダ15のブレーキ液は、図2に太線にて示す経路、即ち、ブレーキ配管22,23からバルブv1,v7、液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ(不図示)に供給される。このように前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダにブレーキ液がそれぞれ供給されると、各キャリパ16bが駆動されて各ディスクロータ16aがキャリパ16bによって挟持され、該ディスクロータ16aとこれと共に回転する前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられ、車両が減速又は停止する。
【0033】
次に、本発明に係るブレーキ制御装置の要旨を図3及び図4に従って以下に説明する。
【0034】
図3は車両のエンジン再始動の処理手順を示すフローチャート、図4は本発明に係る車両のブレーキ制御装置による制御のタイミングチャートである。
【0035】
本発明に係るブレーキ制御装置を構成するECU13は、再始動条件の成立後にエンジン1の再始動が確認できない状態で車両が停止している場合であって、且つ、ブースタ負圧(踏力アシスト手段を構成するブースタ14に作用する負圧)が設定値以上(設定値よりも大気圧に近い)であるときには加圧制御ユニット21によってホイールシリンダ圧を加圧してブースタ14によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする。
【0036】
ここで、エンジン1の自動停止(アイドルストップ)がなされて停止している車両において、運転者がブレーキペダル8から足を離す等の再始動条件が成立したためにエンジン1を再始動する場合の処理手順を図3及び図4に基づいて以下に説明する。
【0037】
エンジン1が自動停止(アイドルストップ)している状態で車両が停止している場合(図3のステップS1)において、ブレーキ関係以外のアイドルストップ条件が崩れた場合(ステップS2での判定結果がNoである場合)には、スタータモータ2を駆動してエンジン1を再始動させるためにクランキングを開始する(ステップS6)。
【0038】
他方、ブレーキ関係以外の所定のアイドルストップ条件が成立している場合(ステップS2での判定結果がYesである場合)には、ブレーキ操作状態(運転者によるブレーキ操作がなされたか否か)が判定される(ステップS3)。運転者によるブレーキ操作がなされないとき(ステップS3での判定結果がNoであるとき)には、エンジン1を再始動させるためにクランキングがなされる(ステップS6)。例えば、図4に示すように時間t1において運転者がブレーキペダル8から足を離した(ブレーキスイッチOFF、ステップS3での判定結果がNo)ためにクランキングが開始される(ステップS6)。これに対して、運転者がブレーキ操作を行うと(ステップS3での判定結果がYesであると)、ブースタ負圧が閾値(エンジン再始動閾値)未満(負圧が確保されている)であるか否かが判定される(ステップS4)。
【0039】
ブースタ負圧が閾値未満である場合(ステップS4での判定結果がYesである場合)には、エンジン1の再始動はなされない(ステップS5)。
【0040】
他方、ブースタ負圧が閾値(エンジン再始動閾値)以上である場合(ステップS4での判定結果がNoである場合には)、負圧が不足してブースタ14によるアシスト力が不足するため、その不足分を補うためにエンジン1を再始動するためにクランキングがなされる(ステップS6)。
【0041】
上述のようにエンジン1を再始動のためにクランキングする場合、クランキングに成功したか否か(エンジン1の再始動に成功したか否か)が判定され(ステップS7)、クランキングに成功した場合(ステップS7での判定結果がYesである場合)にはエンジン1がそのまま再始動される(ステップS8)。これに対して、クランキングに失敗してエンジン1が再始動しなかった場合(ステップS7での判定結果がNoである場合)には、その後にブレーキ操作がなされたか否かが判定される(ステップS9)。ここで、運転者がブレーキペダル8を踏み込むブレーキ操作を行うと(ステップS9での判定結果がYesであると)、ブースタ負圧が所定の閾値(加圧制御閾値)未満(ブースタに負圧が確保されている)であるか否かが判定され(ステップS10)、ブースタ負圧が所定の閾値未満である場合(ステップS10での判定結果がYesである場合)には、エンジンストールモードによって運転者がエンジン1を手動で再始動させる(ステップS11)。つまり、再始動に失敗した場合でも、ブースタ14に負圧が確保されている状態のため、ブースタ14によるアシスト力を利用した制動力にて安全に車両を停止させ続けることができる。
【0042】
他方、ブースタ負圧が所定の閾値以上(ブースタ負圧の不足)である場合(ステップS10での判定結果がNoである場合)には、ブースタ14によるアシスト力が不足するために制動力(マスタシリンダ圧)が低下し、例えば坂道で停止していて運転者のブレーキペダル8を踏み込む能力が低い場合は、制動力の低下分を踏み増しできないで車両が図4に示すように時間t2において動き出す場合がある。
【0043】
そこで、本実施の形態では、ブースタ負圧が所定の閾値以上(ブースタ負圧の不足)である場合(ステップS10での判定結果がNoである場合)には、車両の動き出しを車輪速センサ27によって検出し、車両が動き出したか否かが判定される(ステップS12)。車両の動き出しが検出されると(ステップS12での判定結果がYesであると)、加圧制御ユニット21による加圧制御を行ってアシスト力の不足分を補い、十分な制動力を得るようにしている(ステップS13)。つまり、坂道で停止している車両が、ブレーキを踏んでいなくて動き出したり、ヒルホールド制御が終了して動き出したり、或いは、ブースタ14に作用する負圧が不足してブースタ14によるアシスト力が低下し、それに伴って制動力が低下したために車両が動き出す(時間t2)と、運転者は車両の動き出しを防ぐために図4に示す時間t3においてブレーキペダル8を踏み込むが、ブースタ14に作用する負圧が不足してブースタ14によるアシスト力が低下しているため、図4に示すようにマスタシリンダ圧は高くならず、十分な制動力が得られない。このため、本実施の形態では、加圧制御ユニット21による加圧制御を行ってアシスト力の不足分を補い、十分な制動力を得るようにしている。尚、車両の動き出しが検知されない場合は、この加圧制御は行わない。このため、制動力が不足して加圧動作が必要なときにだけ後述する電動モータ26によってポンプ24,25が駆動され、電力の不必要な消費を抑制することができる。
【0044】
即ち、加圧制御ユニット21においては、図2に示す状態からバルブv1,v7が閉じられるとともにバルブV2,V8が開かれた状態で、電動モータ26によってポンプ24,25が駆動され、液圧ライン37,46を通じてマスタシリンダから吸い出されてポンプ24,25によって昇圧されたブレーキ液は、チェックバルブ33,43を通過して液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ(不図示)に供給され、図4に示すように時間t4においてホイールシリンダ圧が高められるため、制動力の低下が防がれ、運転者によるブレーキペダル8の強い踏み込みを要することなく所要の制動力が発生し、この制動力によって車両が図4に示す時間t5において停止する。
【0045】
尚、加圧制御では、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧に対して所定量だけ加圧するようにしても良い。つまり、ポンプ24,25によって予め定められた所定量だけ加圧するようにして、加圧制御手段におけるポンプ24,25の吐出量(電動モータ26の回転数)によって制動力を容易に制御することができる。更に、加圧制御ユニット21によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧量を、ブースタ負圧の大きさに応じて変更し、ステップS4、ステップS10の所定の閾値よりも大きなブースタ負圧の第2の閾値以上であってより負圧が不足している場合は、第2の閾値未満の場合よりも昇圧量を大きく設定するようにしても良い。こうすることによって、より緊急性を要するアシスト力が大きく不足するときには、大きく昇圧して不足分を補うようにしたため、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダルの強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができ、車両を容易且つ迅速に停止させることができる。又、緊急性が少ない場合(或る程度ブースタのアシスト力が期待できる場合)は、昇圧量を小さくして加圧手段の負荷を軽減することができて耐久性が向上する。
【0046】
更に、加圧制御ユニット21によるホイールシリンダ圧の加圧動作による昇圧速度をマスタシリンダ圧に応じて変更しても良い。つまり、運転者のブレーキペダル8の踏み込みに対応して増大するマスタシリンダ圧に応じて、多段階にホイールシリンダ圧の昇圧速度を変更しても良い。具体的には、マスタシリンダ圧が所定の閾値を超える時間t1において昇圧速度をマスタシリンダ圧が閾値未満の場合よりも高く設定する。つまり、ブレーキペダル8が踏み込まれて加圧制御・加圧動作が開始すると、電動モータ26が所定の低速の回転速度でポンプ24,25の駆動を開始する。そして、マスタシリンダ圧が所定の閾値を超えると、電動モータ26が所定の高速の回転速度でポンプ24,25を駆動し、昇圧速度を速くして早期に目標ホイールシリンダ圧に到達させる。これにより、運転者がブレーキペダル8を強く踏み込んで強い制動力(より早い減速)を要望している場合に対応して、車両をより早く安全に停止させることができる。
【0047】
以上のように、本発明によれば、エンジン1が自動停止して車両が停止している状態からエンジン1の再始動に失敗し、その後のポンピングブレーキ操作によってブースタ負圧が減少した場合には、加圧制御ユニット21によってホイールシリンダ圧を加圧してブースタ14によるアシスト力の不足を補うようにしたため、制動力の低下を防いで運転者によるブレーキペダル8の強い踏み込みを要することなく所要の制動力を発生させることができる。
【0048】
又、本実施の形態では、例えば坂道における車両の動き出しを検知したときに加圧制御ユニット21による加圧動作を行うようにしたため、必要なときにだけホイールシリンダ圧の加圧動作を行うことができる。そして、この加圧動作においては電動モータ26の駆動に電力を消費するため、運転者のブレーキ操作力(踏力)のみで車両の動き出しを防ぐことが可能な場合には加圧制御ユニット21を動作させず、該加圧制御ユニット21の動作を必要最小限に抑えて消費電力を低く抑えることができる。
【0049】
尚、本発明の他の応用例としては、寒冷時のファーストアイドルによる暖気運転によってエンジン回転集が上昇しているために十分なブースタ負圧が得られない場合に、加圧制御ユニットを動作させてブレーキアシスト力の不足を補うようにすることが考えられる。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
3 ブレーキ装置
8 ブレーキペダル
13 ECU(ブレーキ制御装置)
14 ブースタ(踏力アシスト手段)
15 マスタシリンダ
16 ディスクブレーキ
21 加圧制御ユニット(加圧制御手段)
24,25 ポンプ
26 電動モータ
27 車輪速センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立すると自動停止しているエンジンを再始動させるエンジン自動停止・再始動制御手段と、
作動中のエンジンの吸気負圧を利用して運転者のブレーキ踏力をアシストする踏力アシスト手段と、
電動モータによって駆動されるポンプによってブレーキ液圧を加圧する加圧制御手段と、
を備えた車両のブレーキ制御装置において、
再始動条件の成立後にエンジンの再始動が確認できない状態で車両が停止している場合であって、且つ、踏力アシスト手段負圧が設定値以上であるときには前記加圧制御手段によってブレーキ液圧を加圧して前記踏力アシスト手段によるアシスト力の不足を補うことを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記加圧制御手段による加圧動作を車両の動き出しを検知したときに行うことを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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