説明

車両の前照灯装置

【課題】車両走行時の車両前方の状況変化に応じて、前照灯の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができ、運転者が行っていた前照灯の照射方向の切換え操作負荷を低減することができる、車両の前照灯装置を提供する。
【解決手段】車両の運転者の瞳孔径Pdを検出し、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd以上になった場合には、前照灯の照射方向を下方から上方に切換え、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さくなった場合には、前照灯の照射方向を上方から下方に切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前照灯装置に関し、特に、運転者の瞳孔径を検出し、その瞳孔径に応じて前照灯の照射方向を自動的に切換えるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の前照灯装置では、運転者が、前照灯のON/OFFスイッチを操作して前照灯を点灯/消灯させ、前照灯を点灯させた状態で、前照灯の照射方向切換スイッチを操作して、前照灯の照射方向が下方側になる所謂Lowビームと上方側になる所謂Hiビームとに選択的に切換える。尚、車外の照度を検出し、その照度に基づいて前照灯を自動的に点灯/消灯させる技術は公知である。
【0003】
一般に、運転者は、前照灯を点灯させた状態で、車両走行路が街路等で街路灯や他車両の前照灯等の車外光源により車両前方が比較的明るい場合には、前方視認性を維持しつつ前照灯をLowビームにし、車両走行路が山路等で車外光源が少なくて車両前方が比較的暗い場合には、前方視認性を確保するために前照灯をHiビームにし、車両前方の明るさの変化に応じて、前照灯をLowビームとHiビームとに選択的に手動で切換える。
【0004】
但し、運転者は、車両前方が比較的暗い場合に、先行車や対向車が近くに存在する場合には、前照灯のHiビームで先行車や対向車の乗員が眩しくならないように、前照灯をLowビームにし、前照灯をHiビームにした状態で、先行車や対向車が接近してきた場合には、前照灯をLowビームに手動切換え、その後、先行車や対向車が近くに存在しなくなった後に、前照灯を再度Hiビームに手動で切換える。
【0005】
他方、特許文献1には、レーダで先行車との距離を検出し、車内カメラで運転者の瞳孔径を検出し、先行車への接近度合と瞳孔径の変化率とを算出し、これらの算出情報に基づいて、運転者状態を検出して、警報や制御を行うか否か判断し、肯定判断した場合に、スピーカから警報を発したりブレーキを自動的に作動させたりする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−367100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の車両の前照灯装置では、前照灯の照射方向の(LowビームとHiビームとの)切換えを、運転者が前照灯の照射方向切換スイッチを操作して手動で行っているため、先ず、この前照灯の照射方向切換え操作が面倒であるという問題があり、更に、車両走行時の車両前方の状況変化に応じて、前照灯の照射方向を適切な照射方向(Lowビーム又はHiビーム)に切換えることができない虞がある。
【0007】
即ち、運転者が、前照灯をLowビームにした状態で、車両前方が比較的暗くなった場合に、前照灯をHiビームに切換えないために、前方視認性を確保できなくなること、逆に、前照灯をHiビームにした状態で、車外光源により車両前方が比較的明るくなった場合に、前照灯をLowビームにして前方視認性を維持できるが、前照灯をLowビームに切換えないこと、がある。
【0008】
また、運転者が、前照灯をHiビームにした状態で、先行車や対向車が接近してきた場合に、前照灯をLowビームに切換えないために、前照灯のHiビームで先行車や対向車の乗員が眩しくなること、先行車や対向車が接近してきて前照灯をLowビームに切換えても、その後、先行車や対向車が近くに存在しなくなった後に、前照灯を再度Hiビームに切換えないために、前方視認性を確保できなくなること、がある。
【0009】
本発明の目的は、車両走行時の車両前方の状況変化に応じて、前照灯の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができ、運転者が行っていた前照灯の照射方向の切換え操作負荷を低減することができる、車両の前照灯装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両の前照灯装置は、車両の前方を照射する前照灯と、この前照灯の照射方向を切換える照射切換手段とを備えた車両の前照灯装置において、車両の運転者の瞳孔径を検出する瞳孔径検出手段と、この瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径に応じて、前照灯の照射方向を切換えるように照射切換手段を制御する照射制御手段とを備えたもの(請求項1)であり、請求項1の発明においては、前記照射切換手段は、前照灯の照射方向を上下方向に切換えるものであり、前記照射制御手段は、前記瞳孔径が予め設定された瞳孔径閾値よりも小さくなった場合には、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えること(請求項2)、更に、請求項2の発明においては、前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値以上になった場合には、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えること(請求項3)、とすることが好ましい。
【0011】
請求項2、3の発明においては、前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値よりも小さくなった状態が継続した瞳孔径小継続時間を計時する計時手段を備え、この計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が一定時間以上になった場合に、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えること(請求項4)、更に、請求項4の発明においては、前記瞳孔径閾値として、前照灯の照射方向の上方から下方への切換え用に、前記計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が大きくなるに連れて小さくなる第1瞳孔径閾値が設定されたこと(請求項5)、とすることが好ましい。
【0012】
請求項3の発明においては、車両の先行車又は対向車を検出する他車両車検出手段を備え、前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値以上になった場合、前記他車両検出手段で先行車又は対向車が検出されない場合に、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えるとともに、前記先行車又は対向車が検出された場合に、前照灯の照射方向を下方に維持又は上方から下方に切換えること(請求項6)、とすることが好ましい。
【0013】
また、前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値以上になった状態が継続した瞳孔径大継続時間を計時する計時手段を備え、この計時手段で計時された瞳孔径大継続時間が一定時間以上になった場合に、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えること、更に、前記瞳孔径閾値として、前照灯の照射方向の下方から上方への切換え用に、前記計時手段で計時された瞳孔径大継続時間が大きくなるに連れて大きくなる第2瞳孔径閾値が設定されたこと、としてもよい。
【0014】
また、運転手の瞳孔径及びその拡縮には固体差があるものとし、その固体差を吸収して、前照灯の照射方向の切換え制御を適切に行うために、前記照射制御手段は、車両走行中における前照灯の照射方向の下方から上方への手動切換え時と上方から下方への手動切換え時に瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径に基づいて前記瞳孔径閾値を補正する瞳孔径閾値補正手段を備えたこと、としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の車両の前照灯装置によれば、瞳孔径検出手段により運転者の瞳孔径を検出し、照射制御手段により、瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径に応じて、前照灯の照射方向を切換えるように照射切換手段を制御するので、車両前方の明るさ及びその変化を瞳孔径及びその変化(運転者の明暗感度)から判断して、運転者が車両前方を明るいと感じた場合には、前方視認性を維持しつつ、前照灯の照射方向を下方や水平狭角側に自動的に切換えるように、また、運転者が車両前方を暗いと感じた場合には、前方視認性を確保するために、前照灯の照射方向を上方や水平広角側に自動的に切換えるように構成でき、つまり、車両走行時の車両前方の状況変化としての明るさの変化に応じて、前照灯の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができ、運転者が行っていた前照灯の照射方向の切換え操作負荷を低減することができる。
【0016】
請求項2の車両の前照灯装置によれば、照射切換手段は、前照灯の照射方向を上下方向に切換えるものであるので、この前照灯照射方向の上下方向の切換えにより車両前方の明るさを確実に変化させることができ、また、照射制御手段は、瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径が予め設定された瞳孔径閾値よりも小さくなった場合には、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えるので、運転者が車両前方を明るいと感じた場合には、前照灯の照射方向を下方に自動的に確実に切換えることができる。
【0017】
請求項3の車両の前照灯装置によれば、照射制御手段は、瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径が瞳孔径閾値以上になった場合には、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えるので、運転者が車両前方を暗いと感じた場合には、前照灯の照射方向を上方に自動的に確実に切換えることができる。
【0018】
請求項4の車両の前照灯装置によれば、照射制御手段は、瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径が瞳孔径閾値よりも小さくなった状態が継続した瞳孔径小継続時間を計時する計時手段を備え、この計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が一定時間以上になった場合に、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えるので、車両前方が一定時間継続して明るくなった場合に、前照灯の照射方向を上方から下方に確実に切換えることができ、また、車両前方が明るくなったという誤判断で、前照灯の照射方向を下方に切換えることを防止することができる。
【0019】
請求項5の車両の前照灯装置によれば、瞳孔径閾値として、前照灯の照射方向の上方から下方への切換え用に、計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が大きくなるに連れて小さくなる第1瞳孔径閾値を設定したので、車両前方が明るくなって、運転者が当初眩しく感じた明るさが徐々に慣れて適度な明るさに感じて、車両前方の視認性が確保される場合があり、この場合、運転者の瞳孔径が当初小さくなり徐々に大きくなるが、ここで、前記第1瞳孔径閾値を設定したことで、瞳孔径閾値を常に一定値とするよりも、瞳孔径が第1瞳孔径閾値よりも小さくなって一定時間経過するまでに、第1瞳孔径閾値以上になる可能性が高くなり、前照灯の照射方向を不必要に下方へ切換えることを抑えることができる。
【0020】
請求項6の車両の前照灯装置によれば、車両の先行車又は対向車を検出する他車両検出手段を備え、照射制御手段は、瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径が瞳孔径閾値以上になった場合、他車両検出手段で先行車又は対向車が検出されない場合に、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えるとともに、先行車又は対向車が検出された場合に、前照灯の照射方向を下方に維持又は上方から下方に切換えるので、照射方向が上方の前照灯の光で先行車や対向車の乗員が眩しくなることを防止し、つまり、車両走行時の車両前方の先行車又は対向車の有無を含む状況変化に応じて、前照灯の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の車両の前照灯装置は、車両の前方を照射する前照灯、この前照灯の照射方向を切換える照射切換手段、車両の運転者の瞳孔径を検出する瞳孔径検出手段、この瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径に応じて、前照灯の照射方向を切換えるように照射切換手段を制御する照射制御手段、を備えたものである。
【実施例1】
【0022】
図1、図2に示すように、自動車Cの前照灯装置1は、自動車Cの各種制御を行うECU2を備えるとともに、このECU2に電気的に接続された、ON/OFFスイッチ3、照射方向切換スイッチ4、照度センサ5、フロント車内カメラ6、フロント車外カメラ7、レーダユニット8、前照灯10、照射方向切換機構11を備えている。
【0023】
前照灯10は自動車Cの前方を照らすものであり、照射方向切換機構11は前照灯10の照射方向を上下方向に、即ち、前照灯10の照射方向が下方側になる所謂Lowビームと上方側になる所謂Hiビームとに切換えるものである。尚、前照灯10がLowビームからHiビームに切換わると、前照灯10の照射方向が水平広角側にも切換わり、前照灯10がHiビームからLowビームに切換わると、前照灯10の照射方向が水平狭角側にも切換わる。
【0024】
前照灯10と照射方向切換機構11は、夫々、左右1対設けられ、ECU2により制御され、車載バッテリ(図示略)からの電力により駆動される。例えば、各前照灯10は1つの前照用ランプを有し、各照射方向切換機構11は、各前照用ランプの光を前方に向ける反射鏡(図示略)の姿勢を切換えることで、前照灯10の照射方向を上下方向に切換えるものに構成されている。
【0025】
ON/OFFスイッチ3と照射方向切換スイッチ4は、運転者が操作可能に、例えば、ステアリングホイール(図示略)の近くに配置され、ON/OFFスイッチ3を操作して前照灯10を点灯/消灯させ、前照灯10を点灯させた状態で、照射方向切換スイッチ4を操作して前照灯10をLowビームとHiビームとに選択的に切換えることができる。
【0026】
照度センサ5は、車外の照度を検出するものであり、例えば、ダッシュボードCaの上面部に配置され、検出した照度をECU2に供給する。ECU2は、ON/OFFスイッチ3に付随のON/OFF自動スイッチ(図示略)の操作により、ON/OFF自動切換制御モードになっている場合に、照度センサ5から受けた照度に基づいて、前照灯10の点灯が必要か否か(夜間か否か)判断し、肯定判断した場合に前照灯10を自動点灯させ、否定判断した場合に前照灯10を自動消灯させる。
【0027】
フロント車内カメラ6は、特に運転者の瞳孔を撮像可能に、例えば、CCDカメラからなり、ダッシュボードCaの上側に運転席の方に向けて配置され、撮像した画像データをECU2に供給する。ECU2は、フロント車内カメラ6から受けた画像データを解析し、運転者の瞳孔を認識するとともにその瞳孔径Pdを算出する。尚、フロント車内カメラ6とECU2が、自動車Cの運転者の瞳孔径Pdを検出する瞳孔径検出手段に相当する。
【0028】
フロント車外カメラ7は、自動車Cの前方を撮像可能に、例えば、CCDカメラからなり、フロントヘッダCbの下側に前方に向けて配置され、撮像した画像データをECU2に供給する。ECU2は、フロント車外カメラ7から受けた画像データを解析し、自動車Cの先行車又は対向車が存在するか否か判断する。
【0029】
レーダユニット8は、例えば、ミリ波レーダユニットからなり、フロントバンパCcの後側に前方に向けて配置され、ミリ波を前方に水平走査して発信し、また、ミリ波(反射波)を前方から水平走査して受信し、その受信波の状態に応じて、自動車Cの前方の先行車や対向車等の障害物を検出し、その障害物と自動車Cとの距離及び相対速度を検出し、その検出情報をECU2に供給する。
【0030】
ECU2は、フロント車外カメラ7から受けた画像データの解析で得た、自動車Cの先行車又は対向車の存在有無と、レーダユニット8から受けたて検出情報とを総合判断して、自動車Cの先行車又は対向車が存在するか否かを精度良く判断する。尚、フロント車外カメラ7とレーダユニット8とECU2が、自動車Cの先行車又は対向車を検出する他車両車検出手段に相当する。
【0031】
さて、ECU2(照射制御手段)は、このECU2とフロント車内カメラ6で検出された瞳孔径Pd(以下単に、瞳孔径Pdという)に応じて、前照灯10の照射方向を上下方向に切換えるように照射切換機構11を制御し、具体的には、瞳孔径Pdが予め設定された瞳孔径閾値TPd(以下単に、瞳孔径閾値TPdという)以上になった場合には、前照灯10の照射方向を下方から上方に(前照灯10をLowビームからHiビームに)切換え、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さくなった場合には、前照灯10の照射方向を上方から下方に(前照灯10をHiビームからLowビームに)切換える。
【0032】
次に、ECU2が実行する前照灯10の前記照射方向の切換え制御を含む照射制御について、図3、図4に基づいて詳しく説明する。尚、この照射制御を実行する為の照射制御プログラムはECU2のROM等に格納されている。
【0033】
図3に示すように、この照射制御は、自動車Cのイグニションスイッチがオンされると開始され、初期設定(S1)の後、先ず、前照灯10のON/OFFスイッチ3がオンか否か又は夜間か否か判定される(S2)。夜間か否かの判定については、前記のように、ON/OFF自動切換制御モードになっている場合に、照度センサ5から受けた照度に基づいて、前照灯10の点灯が必要か否かの判断によって行われる。
【0034】
S2;Yes の場合、前照灯10が点灯され(S3)、S2;Yes の直後は、前照灯10がLowビームになるようにする。次に、前記のように、瞳孔径Pdが検出され(S4)、次に、その瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さいか否か判定される(S5)。S5;Noの場合、つまり、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd以上になった場合には、前記のように、先行車又は対向車が検出されたか否か判定される(S6)。
【0035】
S6;Noの場合、つまり、先行車又は対向車が検出されない場合に、前照灯10がLowビームの場合、前照灯10がLowビームからHiビームに切換えられ(S7)、リターンし、S6;Yes の場合、つまり、先行車又は対向車が検出された場合に、前照灯10がLowビームの場合、前照灯10がLowビームに維持され(S11)、リターンし、前照灯10がHiビームの場合、前照灯10がHiビームからLowビームに切換えられ(S11)、リターンする。
【0036】
一方、S5;Yes の場合、つまり、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さくなった場合には、前照灯10がHiビームか否か判定され(S8)、S8;Noの場合、S4へリターンし、S8;Yes の場合、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さくなった状態が継続した瞳孔径小継続時間t1が計時される(S9)。このS9が計時手段に相当する。尚、瞳孔径小継続時間t1はS1の初期設定において0にリセットされる。
【0037】
ここで、瞳孔径閾値TPdとして、図4に示すように、前照灯10のHiビームからLowビームへの切換え用に、S7で計時された瞳孔径小継続時間t1が大きくなるに連れて小さくなる第1瞳孔径閾値TPd1が設定されている。この第1瞳孔径閾値TPd1の先頭値はTPd1cであり、S5において、最初は、瞳孔径Pdが第1瞳孔径閾値TPd1の先頭値はTPd1cよりも小さいか否か判定される。
【0038】
S9の後、瞳孔径小継続時間t1が一定時間T1(例えば、T1=1〜10秒)以上になったか否か判定され(S10)、S10;Noの場合、S4へリターンし、S10;Yes の場合、前照灯10がHiビームからLowビームに切換えられ(S11)、リターンする。
【0039】
以上説明した前照灯装置1によれば次の効果を奏する。
運転者の瞳孔径Pdを検出し、その瞳孔径Pdに応じて、前照灯10の照射方向を切換えるように照射切換機構11を制御するので、自動車Cの前方の明るさ及びその変化を瞳孔径Pd及びその変化(運転者の明暗感度)から判断して、運転者が自動車Cの前方を明るいと感じた場合には、前方視認性を維持しつつ、前照灯10の照射方向を下方や水平狭角側に自動的に切換えるように、また、運転者が自動車Cの前方を暗いと感じた場合には、前方視認性を確保するために、前照灯10の照射方向を上方や水平広角側に自動的に切換えるように構成でき、つまり、自動車Cの走行時の前方の状況変化としての明るさの変化に応じて、前照灯10の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができ、運転者が行っていた前照灯10の照射方向の切換え操作負荷を低減することができる。
【0040】
照射切換機構11は、前照灯10の照射方向を上下方向に切換えるものであるので、この前照灯照射方向の上下方向の切換えにより自動車Cの前方の明るさを確実に変化させることができ、また、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPdよりも小さくなった場合には、前照灯10の照射方向を上方から下方に切換えるので、運転者が自動車Cの前方を明るいと感じた場合には、前照灯10の照射方向を下方に自動的に確実に切換えることができ、また、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd以上になった場合には、前照灯10の照射方向を下方から上方に切換えるので、運転者が自動車Cの前方を暗いと感じた場合には、前照灯10の照射方向を上方に自動的に確実に切換えることができる。
【0041】
瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd(TPd1)よりも小さくなった状態が継続した瞳孔径小継続時間t1を計時し、この瞳孔径小継続時間t1が一定時間T1以上になった場合に、前照灯10の照射方向を上方から下方に切換えるので、自動車Cの前方が一定時間継続して明るくなった場合に、前照灯10の照射方向を上方から下方に確実に切換えることができ、また、自動車Cの前方が明るくなったという誤判断で、前照灯10の照射方向を下方に切換えることを防止することができる。
【0042】
瞳孔径閾値TPdとして、前照灯10の照射方向の上方から下方への切換え用に、瞳孔径小継続時間t1が大きくなるに連れて小さくなる第1瞳孔径閾値TPd1を設定したので、自動車Cの前方が明るくなって、運転者が当初眩しく感じた明るさが徐々に慣れて適度な明るさに感じて、自動車Cの前方の視認性が確保される場合があり、この場合、運転者の瞳孔径Pdが当初小さくなり徐々に大きくなるが、ここで、第1瞳孔径閾値TPd1を設定したことで、瞳孔径閾値TPdを常に一定値とするよりも、瞳孔径Pdが第1瞳孔径閾値TPd1よりも小さくなって一定時間T1経過するまでに、第1瞳孔径閾値TPd1以上になる可能性が高くなり、前照灯10の照射方向を不必要に下方へ切換えることを抑えることができる。
【0043】
自動車Cの先行車又は対向車を検出可能に構成し、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd(TPd1)以上になった場合、先行車又は対向車が検出されない場合に、前照灯10の照射方向を下方から上方に切換えるとともに、先行車又は対向車が検出された場合に、前照灯10の照射方向を下方に維持又は上方から下方に切換えるので、照射方向が上方の前照灯10の光で先行車や対向車の乗員が眩しくなることを防止し、つまり、自動車Cの走行時の前方の先行車又は対向車の有無を含む状況変化に応じて、前照灯10の照射方向を適切な照射方向に自動的に切換えることができる。
【実施例2】
【0044】
実施例2は、実施例1において、ECU2が実行する前照灯10の前記照射方向の切換え制御を含む照射制御を変更したものであり、この実施例2の照射制御について、図5、図6に基づいて詳しく説明する。尚、この照射制御を実行する為の照射制御プログラムはECU2のROM等に格納されている。
【0045】
図5に示すように、この照射制御は、自動車Cのイグニションスイッチがオンされると開始されるが、S1〜S5、S8〜S11については、実施例1と同様であるので説明を省略する。S5;Noの場合、つまり、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd以上になった場合には、瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd以上になった状態が継続した瞳孔径大継続時間t2が計時される(S20)。尚、瞳孔径大継続時間t2はS1の初期設定において0にリセットされる。
【0046】
ここで、瞳孔径閾値TPdとして、図6に示すように、前照灯10のLowビームからHiビームへの切換え用に、S20で計時された瞳孔径大継続時間t2が大きくなるに連れて大きくなる第2瞳孔径閾値TPd2が設定されている。この第2瞳孔径閾値TPd2の先頭値はTPd2cであり、S5において、最初は、瞳孔径Pdが第2瞳孔径閾値TPd2の先頭値はTPd2cよりも小さいか否か判定される。
【0047】
S20の後、瞳孔径大継続時間t2が一定時間T2(例えば、T2=1〜10秒)以上になったか否か判定され(S21)、S21;Noの場合、S4へリターンし、S21;Yes の場合、その後は実施例1と同様に、先行車又は対向車が検出されたか否か判定され(S23)、S23;Noの場合、前照灯10がLowビームの場合、前照灯10がLowビームからHiビームに切換えられ(S24)、リターンし、S23;Yes の場合、前照灯10がLowビームの場合、前照灯10がLowビームに維持され(S11)、リターンし、前照灯10がHiビームの場合、前照灯10がHiビームからLowビームに切換えられ(S11)、リターンする。
【0048】
瞳孔径Pdが瞳孔径閾値TPd(TPd2)以上になった状態が継続した瞳孔径大継続時間t2を計時し、この瞳孔径大継続時間t2が一定時間T2以上になった場合に、前照灯10の照射方向を下方から上方に切換えるので、自動車Cの前方が一定時間継続して暗くなった場合に、前照灯10の照射方向を下方から上方に確実に切換えることができ、また、自動車Cの前方が暗くなったという誤判断で、前照灯10の照射方向を上方に切換えることを防止することができる。
【0049】
瞳孔径閾値TPdとして、前照灯10の照射方向の下方から上方への切換え用に、瞳孔径大継続時間t2が大きくなるに連れて大きくなる第2瞳孔径閾値TPd2を設定したので、自動車Cの前方が暗くなって、運転者が暗く感じた明るさが徐々に慣れて適度な明るさに感じて、自動車Cの前方の視認性が確保される場合があり、この場合、運転者の瞳孔径Pdが当初大きくなり徐々に小さくなるが、ここで、第2瞳孔径閾値TPd2を設定したことで、瞳孔径閾値TPdを常に一定値とするよりも、瞳孔径Pdが第2瞳孔径閾値TPd2以上になって一定時間T2経過するまでに、第2瞳孔径閾値TPd2よりも小さくなる可能性が高くなり、前照灯10の照射方向を不必要に上方へ切換えることを抑えることができる。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、実施例1又は2において、ECU2が実行する前照灯10の前記照射方向の切換え制御を含む照射制御を変更したものであり、この実施例3の照射制御について、図7に基づいて詳しく説明する。尚、この照射制御は、運転者の瞳孔径及びその拡縮には固体差があるものとし、その固体差を吸収して、前照灯10の照射方向の切換え制御を適切に行うために、運転者が自ら照射方向切換スイッチ4を操作して前照灯10の照射方向を切換えた時のタイミングを利用して、瞳孔径閾値TPd(TPd1,TPd2)を補正する瞳孔径閾値補正処理を含むものであり、この瞳孔径閾値補正処理は、例えば、図3、図5のS1の初期設定において行われる。
【0051】
図7に示すように、この瞳孔径閾値補正処理は、先ず、自動車C(自車両)が走行中か否か判定され(S30)、S30;Yes の場合、運転者が照射方向切換スイッチ4を操作することで、前照灯10がLowビームとHiビームの一方から他方へ切換えられたか否か判定される(S31)。S30;No、S31;Noの場合、リターンする。S32;Yes の場合、つまり、前照灯10がLowビームとHiビームの一方から他方へ手動操作で切換えられた場合、その手動切換え時の瞳孔径Pdが検出され、その瞳孔径Pdに基づいて瞳孔径閾値TPd(TPd1,TPd2)が補正され(S33)、リターンする。
【0052】
ECU2は、運転者が手動操作にて前照灯10をLowビームからHiビームに切換えた瞳孔径Pd、つまり、運転者が自動車Cの前方を暗く感じて明るくしたいときの瞳孔径Pdを認識し、また、運転者が手動操作にて前照灯10をHiビームからLowビームに切換えた瞳孔径Pd、つまり、運転者が自動車Cの前方を明るく感じて暗くしたいときの瞳孔径Pdを認識して、運転者の瞳孔径及びその拡縮の固体差を吸収して、前照灯10の照射方向の切換え制御を適切に行えるように、瞳孔径閾値TPd(TPd1,TPd2)を補正することができる。
【0053】
尚、実施例1〜3について次のように変更することが可能である。
(1)前記照射制御において、前照灯10のLowビームからHiビームへの自動切換え制御を行わないようにし、運転者が手動操作で前照灯10をLowビームからHiビームへ切換えた場合等に対して、前照灯10のHiビームからLowビームへの自動切換え制御のみを行うようにしてもよい。この場合、図3のS6とS7、図5のS20〜S24を省略し、S5;Noの場合にS4へリターンするようにして実現できる。
【0054】
(2)前記照射制御において、前照灯10のHiビームからLowビームへの自動切換え制御を行わないようにし、運転者が手動操作で前照灯10をHiビームからLowビームへ切換えた場合等に対して、前照灯10のLowビームからHiビームへの自動切換え制御のみを行うようにしてもよい。この場合、図3及び図5のS8〜S11を省略し、S5;Yes の場合にS4へリターンするようにして実現できる。
【0055】
(3)瞳孔径閾値を常に一定値とするようにしてもよい。
(4)瞳孔径閾値を検出照度に応じて補正してもよい。
(5)前照灯の照射方向を上下方向に無段階で切換え制御するようにしてもよい。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示事項以外の種々の変更を付加して実施可能であり、また、本発明については、種々の自動車等の車両に装備される前照灯装置に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】自動車の前照灯装置の要部を含む前方からの斜視図である。
【図2】自動車の前照灯装置のブロック図である。
【図3】実施例1の照射制御のフローチャートである。
【図4】実施例1の第1瞳孔径閾値等を表した図である。
【図5】実施例2の照射制御のフローチャートである。
【図6】実施例2の第2瞳孔径閾値等を表した図である。
【図7】実施例3の瞳孔径閾値補正処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
C 自動車
1 前照灯装置
2 ECU
6 フロント車内カメラ
7 フロント車外カメラ
8 レーダユニット
10 前照灯
11 照射切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方を照射する前照灯と、この前照灯の照射方向を切換える照射切換手段とを備えた車両の前照灯装置において、
車両の運転者の瞳孔径を検出する瞳孔径検出手段と、
この瞳孔径検出手段で検出された瞳孔径に応じて、前照灯の照射方向を切換えるように照射切換手段を制御する照射制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の前照灯装置。
【請求項2】
前記照射切換手段は、前照灯の照射方向を上下方向に切換えるものであり、
前記照射制御手段は、前記瞳孔径が予め設定された瞳孔径閾値よりも小さくなった場合には、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えることを特徴とする請求項1に記載の車両の前照灯装置。
【請求項3】
前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値以上になった場合には、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えることを特徴とする請求項2に記載の車両の前照灯装置。
【請求項4】
前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値よりも小さくなった状態が継続した瞳孔径小継続時間を計時する計時手段を備え、この計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が一定時間以上になった場合に、前照灯の照射方向を上方から下方に切換えることを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の前照灯装置。
【請求項5】
前記瞳孔径閾値として、前照灯の照射方向の上方から下方への切換え用に、前記計時手段で計時された瞳孔径小継続時間が大きくなるに連れて小さくなる第1瞳孔径閾値が設定されたことを特徴とする請求項4に記載の車両の前照灯装置。
【請求項6】
車両の先行車又は対向車を検出する他車両車検出手段を備え、
前記照射制御手段は、前記瞳孔径が前記瞳孔径閾値以上になった場合、前記他車両検出手段で先行車又は対向車が検出されない場合に、前照灯の照射方向を下方から上方に切換えるとともに、前記先行車又は対向車が検出された場合に、前照灯の照射方向を下方に維持又は上方から下方に切換えることを特徴とする請求項3に記載の車両の前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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