説明

車両の懸架装置支持構造

【課題】車体の重量増加を招くことなく、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力による車体フレームの撓みを抑制できる車両の懸架装置支持構造を提供する。
【解決手段】車体フレーム10に固定した受け部材19にショック・アブソーバ又は懸架スプリングの上端が連結されている車両の懸架装置支持構造において、サスペンション・ユニット18の上端部が連結される受け部材19を、記車体フレーム10の環状に閉じられた環状部分の角部17の内側に対し、その前部及び側部にて固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両においてショック・アブソーバや懸架スプリングの上端を車体フレームに連結する車両の懸架装置支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、その懸架装置であるショック・アブソーバや懸架スプリングは、その上端が車体フレームに連結され、その下端がサスペンション・アーム等の車輪支持部材に連結されている。
【0003】
ショック・アブソーバや懸架スプリングの上端は、例えば特許文献1に記載されているように、車体フレームに溶接された板状の受け部材を介して車体フレームに連結されている。また、懸架サスペンションの下端は、例えば特許文献2に記載されているように、略H字形状に構成されるトーション・ビーム式サスペンションに対し、その左右の両角部の内側に溶接された受け部材を介してそれぞれ連結されている。図5に示すように、トーション・ビーム式サスペンション40は、左右一対のサスペンション・アーム41と、この両サスペンション・アーム41の中央部同士を互いに連結するトーション・ビーム42とにより略H字形状に構成されている。そして、受け部材43は、その周縁前部においてトーション・ビーム42に直接溶接され、また、その周縁側部において、ショック・アブソーバの支持ブラケット44を介してサスペンション・アーム41に溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−113212号公報
【特許文献2】特開2006−182141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、懸架装置においては、車両の走行に伴って左右のショック・アブソーバ及び懸架スプリングから車体フレームに入力される力の大きさに、左右で大きな差があることが通常良くある。上記特許文献2のトーション・ビーム式サスペンション40は、このような左右のショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される差のある力を、トーション・ビーム42の捩れによって吸収するようになっている。
【0006】
上記特許文献1の構成において、受け部材を車体フレームの角部に溶接したと仮定すると、左右のショック・アブソーバ及び懸架スプリングから両者間で大きな差のある力が入力されたときに、車体フレームが捩れるように撓む虞がある。車体フレームがこのように撓んだ場合、車体フレームからショック・アブソーバ及び懸架スプリングに対して有効な反力が加わらず、車輪の接地性、しいては操縦安定性に悪影響がある。しかしながら、このような車体フレームの撓みを抑制するために、車体フレームの構成部材や受け部材の板厚を厚くすると、車体の重量増加を招くことになる。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、車体の重量増加を招くことなく、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力による車体フレームの撓みを抑制できる車両の懸架装置支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、車体フレームに固定した受け部材にショック・アブソーバ又は懸架スプリングの上端が連結されている車両の懸架装置支持構造において、前記受け部材は、記車体フレームの環状に閉じられた環状部分の角部に対し、その前部及び側部、又は、後部及び側部にて固定されていることを要旨とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、左右のショック・アブソーバ及び懸架スプリングから車体フレームに大きな差のある力が入力されると、車体フレームの環状部分が剛性を発揮し、左右のサスペンション・ユニットに対して共に有効な反力を付与する。ゆえに、車体フレームや受け部材の厚さを厚くすることによる車体の重量増加を招くことなく、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力による車体フレームの撓みを抑制することができる。この結果、左右両輪の接地性が良好に確保されて、操縦安定性が有効に維持される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記受け部材は、前記角部の内側に固定されていることを要旨とする。
請求項2に記載の発明によれば、受け部材が、その車体外側から角部により拘束されているため、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから上向きの力が入力されたときに変形し難い。ゆえに、車体フレームに対するショック・アブソーバ及び懸架スプリングの上端の位置の相対変位を抑制できるため、車輪の接地性が向上する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記車体フレームは、閉断面をなす管状部材により形成されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、閉断面をなす管状部材により形成された車体フレームの環状部分が、左右のショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力に対して有効な剛性を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、車体の重量増加を招くことなく、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力による車体フレームの撓みを抑制できる車両の懸架装置支持構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の車両の懸架装置支持構造を示す斜視図。
【図2】車体フレーム及び受け部材を示す斜視図。
【図3】車体フレームの角部に溶接された受け部材を示す平面図。
【図4】他の実施形態における車両の懸架装置支持構造を示す斜視図。
【図5】従来における懸架装置の支持構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、この発明を具体化した一実施形態の車両の懸架装置支持構造を図1〜図3を参照して説明する。
図1及び図2は、車両の車体フレーム10の前部を示し、この車体フレーム10は、角材等により構成される下部フレーム11の上に、環状に閉じられた環状部分を有する上部フレーム12を溶接又はボルト締付けして構成されている。本実施形態において、上部フレーム12は、閉断面をなす管状部材として丸パイプにより形成されている。なお、閉断面をなす管状部材は丸パイプに限定されるものではなく、角パイプ等の管状部材であってもよい。この車体フレーム10の前部には、操舵装置13が設置されている。
【0015】
上部フレーム12は、略逆U字形状をなし下部フレーム11の上に立設された第1フレーム部14を備え、この第1フレーム部14における左右両側部の上下中央部前側には略逆U字形状をなす第2フレーム部15が固着されている。さらに、第2フレーム部15の前部と下部フレーム11との間には、左右一対の柱状部材が板状の連結部材により互いに連結された第3フレーム部16が設けられている。そして、第2フレーム部15と、第1フレーム部14の上部とにより、環状に閉じられた環状部分が構成されている。
【0016】
第2フレーム部15の前部において車幅方向の左右両側に形成された角部17の内側には、懸架装置のサスペンション・ユニット18の上端を車体フレーム10に連結するための受け部材19がそれぞれ設けられている。このサスペンション・ユニット18は、ショック・アブソーバ18aと懸架スプリング18bとが一体化されたものである。
【0017】
図3に示すように、受け部材19は、板材をプレス成形して構成されており、その中央部に形成された取付孔19aには、サスペンション・ユニット18の上端が貫通して取り付け固定される。受け部材19は、その前部19bと側部19cとにおいて第2フレーム部15の角部17の内側に対し溶接により固定されている。
【0018】
上記のように構成された車両の懸架装置支持構造の作用を説明する。
車両の走行に伴って左右の各サスペンション・ユニット18から対応する受け部材19に入力された上向きの力は、各受け部材19の前部19b及び側部19cから第2フレーム部15の角部17に加わる。ここで、例えば、左側のサスペンション・ユニット18から受け部材19に入力された力が、右側のサスペンション・ユニット18から受け部材19に入力された力よりも大きかった場合、第2フレーム部15には、左側の角部17付近を右側の角部17付近よりも持ち上げるような捩れ力が加わる。これに対して、本実施形態では、第2フレーム部15と第1フレーム部14の上部とが環状に閉じられた構成であるため、上記捩れ力に抗して撓みが抑制される。この結果、左側のサスペンション・ユニット18に対しても有効な反力が付与されるため、左右両輪の接地性が有効に確保される。
【0019】
この実施形態では、以下の特徴を有する。
(1) サスペンション・ユニット18の上端部が連結される受け部材19が、記車体フレーム10の環状に閉じられた部分の角部17に対し、その前部及び側部にて固定されている。従って、左右のサスペンション・ユニット18から車体フレーム10に大きな差のある力が入力されると、車体フレーム10の環状部分が剛性を発揮し、左右のサスペンション・ユニット18に対して共に有効な反力を付与する。ゆえに、車体フレーム10や受け部材19の厚さを厚くすることによる車体の重量増加を招くことなく、サスペンション・ユニット18から入力される力による車体フレーム10の撓みを抑制することができる。この結果、左右両輪の接地性が良好に確保されて、操縦安定性が有効に維持される。
【0020】
(2) 受け部材19は、前記角部17の内側に固定されている。従って、受け部材19は、その車体外側から角部17により拘束されているので、サスペンション・ユニット18から上向きの力が入力されたときに変形しにくい。ゆえに、車体フレーム10に対するサスペンション・ユニット18の上端の位置の相対変位を抑制できるため、車輪の接地性を向上することができる。
【0021】
(3) 車体フレーム10は、閉断面をなす管状部材としての丸パイプにより形成されている。従って、閉断面をなす丸パイプにより形成された車体フレーム10の環状部分が、左右のサスペンション・ユニット18から入力される力に対して有効な剛性を発揮する。
【0022】
なお、この発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更しても良い。
・ 前記実施形態では、受け部材19は、第2フレーム部15と第1フレーム部14の上部とにより環状に構成された部分の内側の角部17に固定されていたが、図4に示すように、車体フレーム10の環状に閉じられた部分の外側に形成された角部17に固定されていてもよい。この構成によっても、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングから入力される力による車体フレーム10の撓みを抑制できる。
【0023】
・ 前記実施形態は、ショック・アブソーバ及び懸架スプリングが一体化されたサスペンション・ユニット18の上端部が受け部材19に連結された構成の懸架装置であったが、ショック・アブソーバ又は懸架スプリングのみの上端部が受け部材19に連結された構成の懸架装置支持構造であってもよい。
(他の技術的思想)
以下、前記各実施形態から把握され、請求項として挙げられていない技術的思想を記載する。
【0024】
・ 請求項3に記載の車両の懸架装置支持構造において、前記管状部材は丸パイプであることを特徴とする車両の懸架装置支持構造。
このような構成によれば、丸パイプの曲げ加工が容易であることから、車体フレームの製造が容易となる。
【符号の説明】
【0025】
10…車体フレーム、14…第1フレーム部、15…第2フレーム部、17…角部、18a…ショック・アブソーバ、18b…懸架スプリング、19…受け部材、19b…前部、19c…側部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに固定した受け部材にショック・アブソーバ又は懸架スプリングの上端が連結されている車両の懸架装置支持構造において、
前記受け部材は、記車体フレームの環状に閉じられた環状部分の角部に対し、その前部及び側部、又は、後部及び側部にて固定されていることを特徴とする車両の懸架装置支持構造。
【請求項2】
前記受け部材は、前記角部の内側に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の懸架装置支持構造。
【請求項3】
前記車体フレームは、閉断面をなす管状部材により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の懸架装置支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35454(P2013−35454A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174154(P2011−174154)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】