説明

車両の物体検知装置のエイミング用工具及びエイミング用基準標識物の設置方法

【課題】車両に搭載されたレーダ装置等の物体検知装置のエイミングを行なう場合に、車両を載置する床面上に、車両の左右方向の幅の中央位置を効率よく高精度に決定する。
【解決手段】車両1の車体フレーム11とこれに取付ける外装部品10とに車幅の中央位置で設けられている取付孔10a,11aに嵌挿可能に構成された工具取付用部材21と、紐部材22を介して工具取付用部材21に連結された錘23とを備えるエイミング用工具20を用い、取付孔10a,11aにエイミング用工具20の工具取付用部材21を嵌挿すると共に、工具取付用部材21から紐部材22を介して吊り下げられつつ、床面に接触するように錘23を配置し、床面と錘23との接触点を車幅の中央位置として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたレーダ装置等の物体検知装置のエイミング(光軸調整)に用いる工具と、エイミング用の基準標識物を車両の前方に設置する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波ビーム、レーザビーム等の電磁波ビームを車両の前方に放射するレーダ装置等の物体検知装置では、該車両に対する物体の位置や方位を正確に測定し得るようにするために、該車両に対する電磁波ビームの光軸の向きを適切に調整しておく必要がある。
【0003】
その光軸調整、すなわち、エイミングを行なうための技術としては、例えば特許文献1に見られる技術が従来より知られている。
【0004】
この技術では、車両の左右方向の幅の中央を通る中心線(車両を上方から見たときに前後方向に延在する中心線)を特定するために、紐の一端部が固定された固定機構部を、車両後部の開状態のトランクカバーの上部中央に、吸盤や、磁石、両面テープを用いて固定する。さらに、上記紐が、固定機構部から車両前部のボンネットの中央のエンブレムの真上を通るようにして車両の前方の路面(水平基準面)に向かって延ばされる。このように延ばした紐によって、車両の直進走行方向の軸線(車両の幅の中央を通る中心線)が設定される。そして、この紐が路面に接する交点に印が付され、その交点から横方向に所定のオフセット値だけずらした位置に、レーダ装置のエイミング用の標識となるコーナリフレクタ(擬似的な検知対象物体)が設置される。
【0005】
このように設置されたコーナリフレクタに対してレーダ装置からビームが放射される。そして、この時、該コーナリフレクタで反射されたビームの受信強度に基づいて、レーダ装置のエイミング(光軸調整)が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−235536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に見られる技術では、車両の幅の中心線を特定するための紐の一端部が固定された固定機構部が、吸盤や、磁石、両面テープを用いてトランクカバーに固定される。このため、該固定機構部の固定位置が、作業者の作業の仕方等によって、トランクカバーの中央位置に対してばらつきを生じやすい。また、上記紐を車両の前方に延ばすときに、単に、ボンネットの中央のエンブレムの真上を通すようにしているだけなので、該ボンネットの上方での紐の通過位置もばらつきを生じやすい。
【0008】
従って、前記特許文献1に見られる技術では、上記紐の、車両の後部側での位置と前部側での位置とが、車両の幅の中央位置に対してばらつきを生じやすい。その結果、車両の幅方向での紐の位置、あるいは、該紐の延在方向が、車両の幅の中心線に対しての誤差を生じやすい。
【0009】
その結果、前記コーナリフレクタの設置位置が、本来あるべき設置位置に対して誤差を生じやすく、ひいては、光軸調整(エイミング)が不正確なものとなる場合が生じる恐れがある。
【0010】
また、前記固定機構部をトランクカバーの中央位置にできるだけ精度よく固定するようにするためには、固定機構部の固定位置を計測する等の作業が必要となり、その作業工数の増大化を招くという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、車両に搭載されたレーダ装置等の物体検知装置のエイミングを行なう場合に、車両を載置する床面上に、車両の左右方向の幅の中央位置を効率よく高精度に決定することを可能とするエイミング用工具を提供することを目的とする。
【0012】
また、本願発明は、上記物体検知装置のエイミングを行なう場合に、車両の前方の設置するエイミング用の基準標識物を精度よく所要の位置に設置することを効率よく行なうことを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のエイミング用工具は、車両の前方を監視する物体検知装置のエイミングを行なうために、該車両を載置する水平な床面上に、該車両の左右方向の幅の中央を通る中心線上に存する位置である車幅中心位置を決定するための工具であって、前記車両の車体フレームに所定の外装部品を取り付けるための外装部品取付用部材が抜脱可能に嵌挿される取付孔であり、該車両の左右方向の幅の中央位置で該車体フレームと該外装部品とに設けられている取付孔に、前記外装部品取付用部材の抜脱状態で嵌挿可能に構成された工具取付用部材と、該工具取付用部材の軸心に挿通された紐部材を介して該嵌挿部材との間隔を調整可能に該工具取付用部材に連結された錘とを備え、前記車幅中心位置を決定するとき、前記取付孔に前記工具取付用部材を嵌挿した状態で、前記錘が該嵌挿部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように配置されることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明における「床面」は、屋内の通常的な床面だけを意味するものではなく、地面あるいは路面も含まれるものである。このことは、後述する本発明のエイミング用基準標識物の設置方法についても同様である。
【0015】
かかる本発明のエイミング用工具では、前記車両の車体フレームに所定の外装部品を取り付けるための外装部品取付用部材が抜脱可能に嵌挿される取付孔であり、該車両の左右方向の幅の中央位置で該車体フレームと該外装部品とに設けられている取付孔が、前記エイミング用工具を車両に取り付けるために利用される。
【0016】
すなわち、本発明のエイミング用工具は、その構成要素として、前記取付孔に嵌挿可能に構成された工具取付用部材を備えている。そして、前記外装部品取付用部材を前記取付孔から抜脱した後に、この工具取付用部材を該取付孔に嵌挿することによって、該エイミング用工具が車両に取り付けられる。
【0017】
このとき、前記取付孔は、車両の左右方向の幅の中央位置に配置されている孔であるので、前記工具取付用部材の取り付け位置(車両の幅方向での取り付け位置)は、車両の左右方向の幅(以下、単に車幅ということがある)の中央位置に精度よく合致することとなる。
【0018】
そして、このように前記取付孔に工具取付用部材を嵌挿した状態で、前記錘が該工具取付用部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように配置される。このとき、前記錘と床面との接触位置は、重力方向(鉛直方向)で前記取付孔の直下に位置することとなるので、前記車幅の中央位置に高精度に合致するものとなる。
【0019】
これにより、本発明のエイミング用工具を使用することで、前記車幅中心位置、すなわち、車両を上方から見たときの車幅の中心線が通るべき位置を高精度に決定できることとなる。ひいては、該中心線を精度よく特定できることとなる。
【0020】
この場合、前記外装部品取付用部材を前記取付孔から抜脱し、該外装部品取付用部材の代わりに、前記工具取付用部材を該取付孔に嵌挿するだけで、該工具取付用部材の車両への取り付け位置を、車幅の中央位置に精度よく合致させることができるので、前記車幅中心位置を決定するための作業を短時間で効率よく行なうことができる。
【0021】
なお、前記外装部品としては、例えば、バンパー、アンダーカバー等が挙げられる。
【0022】
かかる本発明のエイミング用工具においては、前記工具取付用部材は、前記外装部品取付用部材と同一の外形状に形成されていることが好ましい。
【0023】
これにより、エイミング用工具の工具取付用部材の前記取付穴への取り付けを、前記外装部品取付用部材の取り付けの場合と同じように確実に行なうことができる。
【0024】
次に、本発明のエイミング用基準標識物の設置方法は、車両の前方を監視する物体検知装置のエイミングを行なうために、該車両を載置する水平な床面上で、該車両の前方にエイミング用の基準標識物を設置する方法であって、前記車両の車体フレームに所定の外装部品を取り付けるための外装部品取付用部材が抜脱可能に嵌挿された取付孔であり、該車両の左右方向の幅の中央位置で該車体フレームと該外装部品とに設けられている取付孔から前記外装部品取付用部材を抜脱する第1工程と、前記外装部品取付用部材が抜脱された前記取付孔に嵌挿可能に構成された工具取付用部材と、該工具取付用部材の軸心に挿通された紐部材を介して該工具取付用部材との間隔を調整可能に該工具取付用部材に連結された錘とを備えるエイミング用工具を用い、前記第1工程によって前記外装部品取付用部材が抜脱された前記取付孔に前記エイミング用工具の工具取付用部材を嵌挿すると共に、該工具取付用部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように前記錘を配置し、該床面の該錘との接触点にマークを付する第2工程と、少なくとも該マークを通って、車両の前後方向に延在する直線に対して所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置する第3工程とを備えることを特徴とする。
【0025】
なお、前記基準標識物は、物体検知装置のエイミングを行なうために、該物体検知装置によって試行的な検知を行なう、所定の規格を有する標識物を意味する。
【0026】
かかる本発明によれば、前記第1工程において、車両の車幅の中央位置に存する前記取付孔から前記外装部品取付用部材を抜脱した後に、前記第2工程において、該取付孔に、前記エイミング用工具の工具取付用部材が嵌挿される。これにより、工具取付用部材が、車幅の中央位置に存するようにして、車両に取付られることとなる。
【0027】
さらに、第2工程では、該工具取付用部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように前記錘が配置される。
【0028】
このとき、前記した如く、エイミング用工具の錘と床面との接触位置は、重力方向(鉛直方向)で前記取付孔の直下に位置することとなるので、前記車幅中心位置に高精度に合致するものとなる。従って、該車幅中心位置に精度よく合致するように前記マークを床面に付することができる。
【0029】
そして、前記第3工程では、少なくとも該マークを通って、車両の前後方向に延在する直線に対して所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置する。このとき、上記直線は、少なくとも前記マークを通って、車両の前後方向に延在する直線であるので、該直線の方向が車両の前後方向に対して大きく乖離していない限り、実際の車幅の中心線との一致性が高いものとなる。
【0030】
そして、本発明では、この直線を前記基準標識物の設置位置の基準とするので、該基準標識物を、物体検知装置のエイミングのための本来あるべき所要の位置(車両に対する相対位置)に精度よく合致する位置に設置することができる。ひいては、物体検知装置のエイミングを適切に行うことが可能となる。
【0031】
かかる本発明の基準標識物の設置方法では、前記車両は、該車両の左右方向の幅の中央位置に存する前記取付孔を該車両の前部と後部との2箇所に備える車両であり、前記第1工程は、前記2箇所の取付孔から前記外装部品取付用部材を抜脱する工程であり、前記第2工程は、前記2箇所の取付孔に対応する2つの前記マークを前記エイミング用工具を用いて前記床面に付する工程であり、前記第3工程は、前記2つのマークを通る直線に対して前記所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置する工程であることが好適である。
【0032】
これによれば、前記第2工程では、前記エイミング用工具を使用して、前記2箇所の取付孔のそれぞれ直下(重力方向での直下)で床面上にマークが付されることとなる。このとき、それぞれのマークの位置は、車幅の中央位置に精度よく合致するので、これらの2つのマークを通る直線は、車幅の中心線に高精度に合致することとなる。従って、直線に対して前記所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置することによって、その設置位置を、本来あるべき所要の位置により高精度に合致させることができる。
【0033】
なお、この場合、前記第2工程において、単一のエイミング用工具を前記2箇所の取付孔に順番に取り付けるようにして、前記2つのマークを順番に付するようにしてもよいが、2つのエイミング用工具を使用して、それぞれのエイミング用工具を2箇所の取付孔に各別に取り付けるようにしてもよい。
【0034】
また、前記2箇所の取付孔にそれぞれ嵌挿する外装部品取付用部材を介して車体フレームに取付けられる外装部品は、同じ外装部品である必要はなく、各別の外装部品でよい。
【0035】
また、本発明の基準標識物の設置方法における上記外装部品としては、エイミング用工具の場合と同様に、例えば、バンパー、アンダーカバー等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態における車両と基準標識治具とを上方から見た平面図。
【図2】図1に示す車両の外装部品(バンパー)の取付構造を示す斜視図。
【図3】図3(a),(b)はそれぞれ、図1に示す車両に搭載されたレーダ装置のエイミング用工具の車両への取付前の状態と取付後の状態とを示す斜視図。
【図4】本実施形態におけるレーダ装置のエイミングを行なう場合の作業手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の一実施形態を説明する。
【0038】
図1に示す車両1は、エイミング(光軸調整)を行なう物体検知装置としてのレーダ装置2が搭載された車両である。このレーダ装置2の電磁波ビームの送受信部が、車両1の前端部で車両1の左右方向の幅(車幅)の中央位置に搭載されている。該レーダ装置2としては、例えば、特開2001−235536号公報にて説明されている如き公知のレーザレーダ装置、あるいは、公知のミリ波レーダ装置等を採用することができる。
【0039】
このレーダ装置2のエイミング(光軸調整)を行なう場合に、車両1は、水平な床面上に載置される。そして、車両1の前方に、基準標識物が組み付けられた治具3(以降、基準標識治具3という)が設置される。
【0040】
この基準標識治具3は、床面上を図示しないキャスタ等によって移動自在な基台4と、この基台4に立設された支柱5と、この支柱5に上下位置を調整自在に取り付けられた基準標識物としての基準反射体6とを備える。該基準反射体6は、レーダ装置2のエイミングを行なう際に、該レーダ装置2によって試行的に検知する検知対象物(電磁波ビームの反射体)であり、そのサイズや形状、性状等が所定の規格に従って設定されているものである。
【0041】
本実施形態では、レーダ装置2は、その送受信部が車両1の前端部で車幅の中央位置に搭載されているので、車両1及び基準標識治具3を上方から見たときに、車両1の車幅の中心線C(車幅の中央位置を通って車両1の前後方向に延在する直線。以降、車幅中心線Cという)上に前記基準反射体6が存するように、基準標識治具3を床面上に設置する必要がある。そして、このように基準標識治具3を設置するために、床面上に車幅中心線Cを決定(特定)する必要がある。
【0042】
この車幅中心線Cを決定するために、本実施形態では、図3に示すエイミング用工具20が使用される。
【0043】
このエイミング用工具20は、車両1の所定の外装部品を車体フレームに取り付けるための取付構造を利用して、車両1に取り付けることができるように構成されている。そこで、エイミング用工具20の構成を説明する前に、上記外装部品の取付構造に関して以下に説明しておく。
【0044】
本実施形態では、上記外装部品は、例えば、車両1の前部及び後部のそれぞれのバンパーである。詳細な図示は省略するが、本実施形態では、車両1の前部の車体フレームと、後部の車体フレームとには、それぞれ、前部のバンパーと後部のバンパーとを取付けるために使用する複数の孔(以降、車体側取付孔という)があらかじめ穿設されている。また、前部のバンパーと後部のバンパーとには、それぞれ、車体フレームへの取付け時に上記車体側取付孔にそれぞれ対向して連通する複数の孔(以降、外装部品側取付孔という)が穿設されている。
【0045】
そして、本実施形態の車両1では、図2に示す如く、パンパー10の外装部品側取付孔10aと、これに対向する車体フレーム11の車体側取付孔11aとに、グロメット12とクリップ部材13とを装着する取付構造によって、各バンパー10が車体フレーム11に取付られている。なお、図2に二点鎖線で概略的に示したバンパー10及び車体フレーム11は、車両1の前部及び後部のいずれか一方側の車体フレーム及びバンパーの部分を代表的に示している。
【0046】
上記取付構造においては、より詳しくは、互いに対向する外装部品側取付孔10a及び車体側取付孔11aに、貫通孔12aが軸心部に形成されているグロメット12が嵌挿される。さらに、このグロメット12の貫通孔12aに、該貫通孔12aよりも若干大きめの径を有するクリップ部材13のピン状の胴体部13aが挿入(押入)される。これにより、互いに対向する外装部品側取付孔10a及び車体側取付孔11aの箇所でのバンパー10と車体フレーム11との締結がなされている。換言すれば、クリップ部材13の胴体部13aを、グロメット12を介して外装部品側取付孔10a及び車体側取付孔11aに嵌挿することによって、バンパー11がグロメット12及びクリップ部材13を介して車体フレーム10に取付けられている。
【0047】
なお、クリップ部材13は、胴体部13aの一端部に円板状の大径部13bを備えており、胴体部13aをグロメット12の貫通孔12aに挿入した状態で、この大径部13bが貫通孔12aの開口端に係止されるようになっている。また、本実施形態では、上記クリップ部材13が本発明における外装部品取付用部材に相当するものである。
【0048】
以上が、各バンパー10と車体フレーム11との取付構造である。
【0049】
ここで、本実施形態では、車両1の前部のバンパー10を取り付ける車体フレーム11の複数の車体側取付孔11aのうちの1つの取付孔は(ひいては、当該1つの車体側取付孔11aと、これに対向する外装部品側取付孔10aとは)、車両1の車幅の中央位置に設けられている。同様に、車両1の後部のバンパー10を取り付ける車体フレーム11の複数の車体側取付孔11aのうちの1つの取付孔は(ひいては、当該1つの車体側取付孔11aと、これに対向する外装部品側取付孔10aとは)、車両1の車幅の中央位置に設けられている。以降、車両1の前部及び後部のそれぞれにおいて、車両1の車幅の中央位置に設けられている当該1つの車体側取付孔10aと、これに対向する外装部品側取付孔11aとを総称的に車幅中央取付孔10a,11aという。
【0050】
本実施形態では、上記車幅中央取付孔10a,11bが、本発明における取付孔に相当するものであり、エイミング用工具20を取り付けるために利用される。
【0051】
次に、エイミング用工具20を具体的に説明する。なお、以降の説明では、特にことわらない限り、グロメット12及びクリップ部材13は、上記車幅中央取付孔10a,11aに装着されるグロメット12及びクリップ部材13を意味するものとする。
【0052】
図3(a)に示す如く、本実施形態におけるエイミング用工具20は、前記クリップ部材13と同じ外形状(外観形状)に形成された工具側クリップ部材21と、この工具側クリップ部材21に可撓性の紐部材22を介して連結された錘23とから構成される。
【0053】
錘23は、先鋭な先端部を有するピン状に形成されており、その先端部と反対側の端部が紐部材22の一端部に固定されている。
【0054】
工具側クリップ部材21は、本発明における工具取付用部材に相当するものである。この工具側クリップ部材21は、前記クリップ部材13と同じ外形状に形成されているので、該クリップ部材13と同様に、ピン状の胴体部21aと大径部21bとを有し、該胴体部21aを前記グロメット12に挿入することが可能である。
【0055】
ただし、この工具側クリップ部材21にあっては、その軸心に、紐部材22が挿通されている。この場合、該工具側クリップ部材21は、該工具側クリップ部材21を紐部材22に係止する図示しないロック機構を内蔵しており、そのロック機構を解除した状態では、紐部材22に対して摺動可能となっている。これにより、該工具側クリップ部材21と錘23とが、それらの間の間隔を調整し得るように紐部材12を介して連結されている。
【0056】
なお、工具側クリップ部材21と錘23との間の間隔を調整するための機構は、錘23に設けるようにしてもよく、あるいは、工具側クリップ部材21と錘23との間に設けるようにしてもよい。
【0057】
以上が本実施形態におけるエイミング用工具20の構造である。このように構成されたエイミング用工具20にあっては、図3(a)に示す如く、前記車幅中央取付孔10a,11bに装着されているグロメット12からクリップ部材13を抜脱し、該クリップ部材12の代わりに上記工具側クリップ部材21をグロメット12の貫通孔12aに挿入することによって、図3(b)に示す如く、エイミング用工具20を、該工具側クリップ部材21及びグロメット12を介して車幅中央取付孔10a,11bに取り付けることができることとなる。
【0058】
なお、図3(a),(b)においては、車幅中央取付孔10a,11bは、その軸心が上下方向となる孔として記載しているが、該車幅中央取付孔10a,11bの軸心の向きは、車両1の前後方向もしくは左右方向等、上下方向に対して交差する方向であってもよい。
【0059】
次に、前記レーダ装置2のエイミングを行なう際の作業手順を以下に説明する。
【0060】
エイミング作業は、図4のフローチャートに示す手順で行なわれる。
【0061】
まず、STEP1において、水平な床面上に載置された車両1の前部及び後部のそれぞれにおける前記車幅中央取付孔10a,11aに装着されているクリップ部材13がグロメット12から抜脱される。なお、クリップ部材13を抜脱した後に車両1を水平な床面上に載置するようにしてもよい。
【0062】
次いで、STEP2において、エイミング用工具20を用いて、車両1を載置した床面上に、車両1の前側の車幅の中央位置と、車両1の後側の車幅の中央位置とを決定し、それぞれの中央位置にマークを付する。
【0063】
この場合、各中央位置の決定は次のように行なわれる。すなわち、車両1の前側における車幅の中央位置を決定する場合には、車両1の前部の車幅中央取付孔10a,11aに装着されているグロメット12にエイミング用工具20の工具側クリップ部材21を嵌挿し、該車幅中央取付孔10a,11aに工具側クリップ部材21をグロメット12を介して係止させる。これにより、エイミング用工具10が車幅中央取付孔10a,11aに取り付けられる。
【0064】
そして、工具側クリップ部材21と錘23との間の間隔を適宜調整することによって、錘23が工具側クリップ部材21から吊り下がるようにしつつ(紐部材22が弛まないようにしつつ)、錘23の先端を床面に接触させる。さらに、その錘23と床面との接触点に図1に示す如くマークMfを付する。
【0065】
この時、上記のように錘23の先端を床面に接触させた状態では、紐部材22は、錘23に作用する重力によって、重力方向に延在することとなるので、錘23の先端は、車幅中央取付孔10a,11bの直下(重力方向での直下)の位置で床面に接触することとなる。
【0066】
そして、この場合、該車幅中央取付孔10a,11bは、前記した如く、車幅の中央位置に設けられている取付孔である。
【0067】
このため、錘23と床面との接触点の位置、すなわちマークMfを付した位置は、床面上での車幅の中央位置(前記車幅中心線C上の位置)に精度よく合致することとなる。
【0068】
車両1の後側においても、上記と同様に、エイミング用工具10を用いて車幅の中央位置が特定され、その中央位置に図1に示す如くマークMrが付される。
【0069】
なお、図1では、マークMf,Mrを、×印で表記しているが、錘13と床面との接触点を示し得るマークであれば、その他の形状のマークを使用してもよい。
【0070】
補足すると、車両1の前側における車幅の中央位置を決定する作業(マークMfを付する作業)と、車両1の後側における車幅の中央位置を決定する作業(マークMrを付する作業)とは、単一のエイミング用工具10を使用して順番に行なうようにしてもよいが、2つのエイミング用工具10を用意できる場合には、車両1の前側と後側とで、各別のエイミング用工具10を使用して、車幅の中央位置を決定する作業を行なうようにしてもよい。
【0071】
次いで、STEP3において車両1の前側及び後側のマークMf,Mrを通る直線を、車幅中心線Cとし、この車幅中心線C上で、車両1の前端から所定距離L0を存する位置に、前記基準標識治具3を設置する。より詳しくは、車両1及び基準標識治具3を上方から見たとき、基準標識軸3の基準反射体6が車幅中心線C上に存するように基準標識治具3の基台4が床面上に設置される。
【0072】
この場合、より具体的には、例えば、図示しない紐が、床面上でマークMf,Mrを通るようにして直線状に延ばされ、テープなどにより床面に貼り付けられる。そして、この紐を車幅の中心線として、この紐に対する基準標識治具3の基台4の位置を調整することで、上記の如く基準標識治具3が設置される。
【0073】
上記のように基準標識治具3を所定の位置に設置した後に、次に、STEP4において、レーダ装置2のエイミング作業が行なわれる。このSTEP4では、車両1のレーダ装置2によって、試行的に、基準標識治具3の基準反射体6の位置及び方位(車両1に対する位置及び方位)の計測処理を行い、その計測した位置及び方位が、実際の位置及び方位に合致するように、レーダ装置2のエイミング(光軸調整)が行なわれる。なお、エイミング作業のより具体的な処理としては、例えば、前記した特開2001−235536号公報にて本願出願人が説明しているごとき、公知の処理を行うようにすればよい。
【0074】
以上が、本実施形態で前記レーダ装置2のエイミングを行なう際の作業手順である。
【0075】
以上説明した本実施形態では、外装部品としてのバンパー10を車両1の車体フレーム11に取り付けるために使用される取付孔10a,11aのうち、車幅の中央位置に設けられている車幅中央取付孔10a,11aを利用し、該車幅中央取付孔10a,11aに装着されているグロメット12から前記クリップ部材13を抜脱した後に、前記エイミング用工具20の工具側クリップ部材21を嵌挿することで、車両1の前側と後側とで、手間の掛かる作業を必要とすることなく容易に、車幅の中央位置を精度よく特定することができる。
【0076】
そして、車両1の前側と後側とにおける車幅の中央位置を精度よく特定できることから、これらの中央位置を通る直線を、精度よく、実際の車幅中心線Cに合致させることができる。ひいては、前記基準標識物としての前記基準反射体6を有する基準標識治具3を、エイミングのための所要の位置(本実施形態では、車幅中心線C上で車両1の前端から所定距離L0を有する位置)に設置することができる。その結果、レーダ装置2のエイミングを精度よく適切に行うことができる。
【0077】
また、本実施形態では、前記グロメット12とクリップ部材13とを使用する汎用性の高い外装部品の取付構造を利用するので、エイミング用工具10を複数種の車両1で使用することができる。従って、エイミング用工具10の汎用性を高めることができる。
【0078】
なお、以上説明した実施形態では、エイミング用工具20を取り付ける車幅中央取付孔10a,11bが、外装部品としてのバンパー10を車体フレーム11に取り付けるための取付孔である場合を例にとって説明したが、車幅の中央位置に設けられている取付孔であれば、車両1のアンダーカバー等、他の外装部品を車体フレームに取り付けるための取付孔に、エイミング用工具20を取り付けるようにしてもよい。
【0079】
また、本実施形態では、車両1の前側と後側とで、エイミング用工具20を使用して、車幅の中央位置を決定する場合を例にとって説明したが、例えば、車両1の前側及び後側のいずれか一方側でのみ、エイミング用工具20を使用して、車幅の中央位置を決定し、他方側については、より簡略的な手法で車幅の中央位置を決定するようにしてもよい。例えば、車両1の後部において、車幅の中央位置にエンブレム等の指標が設けられている場合には、車両1の前側で、前記実施形態と同様に、エイミング用工具20を使用して車幅の中央位置を決定する一方、車両1の後側においては、上記エンブレム等の指標から、紐部材を介して錘を吊り下げて、該錘の先端が床面に接触する点を、車両1の後側における車幅の中央位置として決定するようにしてもよい。
【0080】
このようにした場合であっても、車両1の前側における車幅の中央位置を精度よく特定できるので、車両1の前後で特定した車幅の中央位置を通る直線が、実際の車幅の中心線に対してばらつきを生じるのを抑制できる。
【0081】
また、本実施形態では、レーダ装置2を車両1の前部で車幅の中央位置に搭載していることから、前記基準標識治具3を車幅の中心線C上に設置するようにしたが、レーダ装置2が車幅の中心線Cから所定間隔だけ横方向(左右方向)にずらした位置に搭載されているような場合には、基準標識軸治具3を、特定した車幅の中心線(マークMf,Mrを通る直線)から横方向に上記所定間隔だけずらした位置に設置するようにすればよい。
【0082】
また、本実施形態では、エイミング用工具20の工具側クリップ部材21を前記クリップ部材13と同じ外形状に形成したものを例示したが、その形状は、車幅の中央位置に存する外装部品側取付孔と車体側取付孔とに嵌挿される部品の形状に合わせて適宜設定すればよい。例えば、工具側クリップ部材21を前記車幅中央取付孔10a,11aに嵌挿されるグロメット12と同一の外形状に構成してもよい。この場合には、車幅中央取付孔10a,11aのグロメット12を取り外した後に、該車幅中央取付孔10a,11aに工具側クリップ部材21を嵌挿して、エイミング用工具を車両1に取り付けるようにすればよい。
【符号の説明】
【0083】
1…車両、2…レーダ装置(物体検知装置)、6…基準反射体(基準標識物)、10…バンパー(外装部品)、11…車体フレーム、10a,11a…取付孔、13…クリップ部材(外装部品取付用部材)、20…エイミング用工具、21…工具側クリップ部材(工具取付用部材)、22…紐部材、23…錘、Mf,Mr…マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方を監視する物体検知装置のエイミングを行なうために、該車両を載置する水平な床面上に、該車両の左右方向の幅の中央を通る中心線上に存する位置である車幅中心位置を決定するための工具であって、
前記車両の車体フレームに所定の外装部品を取り付けるための外装部品取付用部材が抜脱可能に嵌挿される取付孔であり、該車両の左右方向の幅の中央位置で該車体フレームと該外装部品とに設けられている取付孔に、前記外装部品取付用部材の抜脱状態で嵌挿可能に構成された工具取付用部材と、
該工具取付用部材の軸心に挿通された紐部材を介して該嵌挿部材との間隔を調整可能に該工具取付用部材に連結された錘とを備え、
前記車幅中心位置を決定するとき、前記取付孔に前記工具取付用部材を嵌挿した状態で、前記錘が該嵌挿部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように配置されることを特徴とするエイミング用工具。
【請求項2】
請求項1記載のエイミング用工具において、
前記工具取付用部材は、前記外装部品取付用部材と同一の外形状に形成されていることを特徴とするエイミング用工具。
【請求項3】
車両の前方を監視する物体検知装置のエイミングを行なうために、該車両を載置する水平な床面上で、該車両の前方にエイミング用の基準標識物を設置する方法であって、
前記車両の車体フレームに所定の外装部品を取り付けるための外装部品取付用部材が抜脱可能に嵌挿された取付孔であり、該車両の左右方向の幅の中央位置で該車体フレームと該外装部品とに設けられている取付孔から前記外装部品取付用部材を抜脱する第1工程と、
前記外装部品取付用部材が抜脱された前記取付孔に嵌挿可能に構成された工具取付用部材と、該工具取付用部材の軸心に挿通された紐部材を介して該工具取付用部材との間隔を調整可能に該工具取付用部材に連結された錘とを備えるエイミング用工具を用い、前記第1工程によって前記外装部品取付用部材が抜脱された前記取付孔に前記エイミング用工具の工具取付用部材を嵌挿すると共に、該工具取付用部材から前記紐部材を介して重力方向に吊り下げられつつ、前記床面に接触するように前記錘を配置し、該床面の該錘との接触点にマークを付する第2工程と、
少なくとも該マークを通って、車両の前後方向に延在する直線に対して所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置する第3工程とを備えることを特徴とするエイミング用基準標識物の設置方法。
【請求項4】
請求項3記載のエイミング用基準標識物の設置方法において、
前記車両は、該車両の左右方向の幅の中央位置に存する前記取付孔を該車両の前部と後部との2箇所に備える車両であり、
前記第1工程は、前記2箇所の取付孔から前記外装部品取付用部材を抜脱する工程であり、
前記第2工程は、前記2箇所の取付孔に対応する2つの前記マークを前記エイミング用工具を用いて前記床面に付する工程であり、
前記第3工程は、前記2つのマークを通る直線に対して前記所定の位置関係を有する前記床面上の位置に前記基準標識物を設置する工程であることを特徴とするエイミング用基準標識物の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−191182(P2011−191182A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57570(P2010−57570)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】