説明

車両の発進制御システム

【課題】発進待機中に、次回の発進時にアイドル回転数を適切に上昇させるべく備える車両の発進制御システムの提供。
【解決手段】エンジン制御ユニット(9)と変速機制御ユニット(10)を備え、変速機制御ユニット(10)は、発進不能であるか否か(前回に発進が出来なかったか否か)を判断し、発進不能と判断された場合(前回に発進が出来なかったと判断された場合)には、アイドル回転数を(所定回転数まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進する機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式自動変速機を有する貨物自動車等の車両における発進制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械式自動変速機を有する車両の発進制御システムにおいて、自動発進時で、発進が困難な場合は、半クラッチ状態の発進待機時にエンジン回転数を通常時よりも高くなるように制御し、且つ、その時のトランスミッションのポジションも低段を選択する技術が知られている。
しかし、この技術は、その時点における問題に対処するものであって、次回の発進に備えるため、いわゆる「学習機能」を制御の内容として有している技術とは異なっている。
【0003】
その他の従来技術として、要求実圧縮比と最大実圧縮比との偏差に対応して、アイドリング回転数を上昇する技術が提案されている(特許文献1参照)。
係る従来技術(特許文献1)は発進補助に係る技術ではあるが、発進待機中に発進の補助を実行するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−332912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、発進待機中に、次回の発進時にアイドル回転数を適切に上昇させることが出来る車両の発進制御システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発進制御システムは、エンジン制御ユニット(エンジンコントロールユニット9)と変速機制御ユニット(トランスミッションコントロールユニット10)を備え、
変速機制御ユニット(10)は、発進不能であるか否か(前回に発進が出来なかったか否か)を判断し、発進不能と判断された場合(前回に発進が出来なかったと判断された場合)には、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進する機能を有していることを特徴としている。
【0007】
本発明において、クラッチ負荷を計測する計測手段(エンジントルク計測手段2、エンジン回転数検出手段3、トランスミッション入力軸回転数検出手段4、タイマ10T)を備え、前記変速機制御ユニット(10)は、クラッチ負荷を演算し、演算されたクラッチ負荷がしきい値を超えた場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進する機能を有しているのが好ましい。
【0008】
ここで、クラッチ負荷Qは、エンジントルクをT、半クラッチ初期のエンジン回転数をNe、半クラッチ初期のインプットシャフトの回転数をNiとすれば、
次式を、半クラッチ初期からエンジン回転数とインプットシャフトの回転数とが一致するまでの時間で積分して求められる。
すなわち、
dQ=∫2πT/60(Ne−Ni)dt
【0009】
また、本発明において、アクセル開度を計測するアクセル開度検出手段(1)を設け、前記変速機制御ユニット(10)は、アクセルペダル開度が最大となったが発進が中断された場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進する機能を備えているのが好ましい。
【0010】
或いは、前記変速機制御ユニット(10)は、発進に費やされた時間を計測する手段(タイマ10T)を備え、前記変速機制御ユニット(10)は、発進に費やされた時間がしきい値を超えた場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニットに発進する機能を備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明によれば、変速機制御ユニット(トランスミッションコントロールユニット10)が発進不能と判断した場合(前回に発進が出来なかったと判断した場合)に、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進するので、発進待機中におけるエンジンのアイドル回転が上昇し、発進やり直しの際において、車両の発進が容易になる。
【0012】
ここで、発進待機中におけるエンジンのアイドル回転を上昇させることは、クラッチ板の摩耗を惹起する恐れがある。
しかし、本発明においては、変速機制御ユニット(トランスミッションコントロールユニット10)が発進不能と判断した場合(前回に発進が出来なかったと判断した場合)にのみ、すなわち、車両の発信に必要な場合にのみエンジンのアイドル回転が上昇するので、クラッチ板の摩耗は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の発進制御システムの構成を示したブロック図である。
【図2】実施形態に係る発進制御方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面(図1、図2)を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示す発進制御システムは、エンジンコントロールユニット9と、トランスミッションコントロールユニット(以下、「コントロールユニット」と言う)10とを備えている。
さらに、発進制御システム100は、アクセル開度検出手段(以下、「アクセル開度センサ」と言う)1と、エンジントルク検出手段2と、エンジン回転数検出手段3と、トランスミッション入力軸回転数検出手段(以下、「インプットシャフト回転センサ」と言う)と、車速検出手段5と、クラッチストローク検出手段6と、ギヤ位置検出手段7と、ブレーキ信号検出手段8と、クラッチアクチュエータ11と、表示部12とを備えている。
【0015】
コントロールユニット10は、クラッチ制御部10Cと、タイマ10Tとを備えている。
そして、コントロールユニット10は、発進不能であるか否か、すなわち、前回に発進が出来なかったか否かを判断し、発進不能と判断した場合(前回に発進が出来なかったと判断した場合)には、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジンコントロールユニット9に発進する機能を有している。
ここで、650rpmという数値は例示であり、車両やエンジンの種類や仕様により、適宜設定させるべき数値である。
【0016】
或いは、コントロールユニット10は、クラッチ負荷を演算し、演算されたクラッチ負荷がしきい値を超えた場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジンコントロールユニット9に発進する機能を付帯させても良い。
【0017】
ここで、クラッチ負荷Qは、エンジントルクをT、半クラッチ初期のエンジン回転数をNe、半クラッチ初期のインプットシャフトの回転数をNiとすれば、
次式を、半クラッチ初期からエンジン回転数とインプットシャフトの回転数とが一致するまでの時間で積分して求められる。
すなわち、
Q=∫2πT/60(Ne−Ni)dt
【0018】
また、コントロールユニット10は、アクセル開度センサ1からの情報によって、アクセルペダル開度が最大となったが発進が中断された場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニット(9)に発進する機能を備えているのが好ましい。
【0019】
或いは、コントロールユニット10は、タイマ10Tの計時情報によって、発進に費やされた時間がしきい値を超えた場合に、発進不能である(前回に発進が出来なかった)と判断して、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジンコントロールユニット9に発進する機能を備えているのが好ましい。
【0020】
次に、図2のフローチャートに基づき、図1をも参照して、車両の発進制御方法を説明する。
図2のステップS1では、コントロールユニット10は、当該車両が発信できなかったか否かを判断する。
その時の、判断の根拠として、前回と同一条件(クラッチ負荷が前回以上、アクセル開度全開の一致、クラッチミートまでの経過時間の一致)で発進不能と判断する。
【0021】
車両が発信できなかった場合(ステップS1がYES)は、ステップS2に進み、車両が発信できた場合(ステップS1がNO)は、ステップS8まで進む。
ステップS2では、コントロールユニット10は、発進NGフラグAをONとしてステップS3に進む。
【0022】
ステップS3では、コントロールユニット10は、フラグAがONであるか否かを判断する。
フラグAがONであれば(ステップS3がYES)、ステップS4に進み、フラグAがONでなければ(ステップ3がNO)、ステップS6まで進む。
ステップS4では、コントロールユニット10は、アイドル回転数を所定値まで上昇させるべくエンジンコントロールユニット9に対して、燃料噴射に関する情報を発信する。
【0023】
ステップS5では、コントロールユニット10は、エンジンのアイドル回転数が所定値(例えば650rpm)以上に上昇したか否かを判断する。エンジンのアイドル回転数が所定値以上に上昇していなければ(ステップS5がNO)、ステップS4まで戻り、ステップS4以降を繰り返す。一方、エンジンのアイドル回転数が所定値以上に上昇していれば(ステップS5がYES)、発進制御を実行して(ステップS6)、ステップS7に進む。
【0024】
ステップS7では、コントロールユニット10は、車両が発進できたか否かを判断する。
ここで、車両が発進できたか否かの判断として、上述した様に、クラッチ負荷がしきい値を超えたか否か、或いは、アクセル開度が全開であるにもかかわらず発進が中断されたか、或いは、タイマ計時によって発進に費やされた時間がしきい値を超えたか否か、等を採用することが出来る。
発進できなければ(ステップS7がNO)、ステップS3まで戻り再びステップS3以降を繰り返す。一方、車両が発進できたならば(ステップS7がYES)、ステップS8に進んで、発進NGフラグAをOFFに切り換える。そして、ステップS1まで戻り、再びステップS1以降を繰り替える。
【0025】
図示の実施形態によれば、トランスミッションコントロールユニット10が発進不能と判断した場合(前回に発進が出来なかったと判断した場合)に、アイドル回転数を(所定回転数(例えば、650rpm)まで)上昇させる旨の制御信号をエンジンコントロールユニット9に発進するので、発進待機中におけるエンジンのアイドル回転が上昇し、発進やり直しの際において、車両の発進が容易になる。
【0026】
ここで、発進待機中におけるエンジンのアイドル回転を上昇させることは、クラッチ板の摩耗を惹起する恐れがある。
しかし、図示の実施形態においては、トランスミッションコントロールユニット10が発進不能と判断した場合(前回に発進が出来なかったと判断した場合)にのみ、すなわち、車両の発進に必要な場合にのみエンジンのアイドル回転が上昇するので、クラッチ板の摩耗は抑制される。
【0027】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0028】
1・・・アクセル開度検出手段/アクセル開度センサ
3・・・エンジン回転数検出手段/エンジン回転センサ
4・・・トランスミッション入力軸回転数検出手段/インプットシャフト回転センサ
6・・・クラッチストローク検出手段
9・・・エンジンコントロールユニット
10・・・トランスミッションコントロールユニット/コントロールユニット
10T・・・タイマ
11・・・クラッチアクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御ユニットと変速機制御ユニットを備え、
変速機制御ユニットは、発進不能であるか否かを判断し、発進不能と判断された場合には、アイドル回転数を上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニットに発進する機能を有していることを特徴とする車両の発進制御システム。
【請求項2】
クラッチ負荷を計測する計測手段を備え、前記変速機制御ユニットは、クラッチ負荷を演算し、演算されたクラッチ負荷がしきい値を超えた場合に、発進不能であると判断して、アイドル回転数を上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニットに発進する機能を有している請求項1の車両の発進制御システム。
【請求項3】
アクセル開度を計測するアクセル開度検出手段を儲け、前記変速機制御ユニットは、アクセルペダル開度が最大となったが発進が中断された場合に、発進不能であると判断して、アイドル回転数を上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニットに発進する機能を備えている請求項1の車両の発進制御システム。
【請求項4】
前記変速機制御ユニットは、発進に費やされた時間を計測する手段を備え、前記変速機制御ユニットは、発進に費やされた時間がしきい値を超えた場合に、発進不能であると判断して、アイドル回転数を上昇させる旨の制御信号をエンジン制御ユニットに発進する機能を備えている請求項1の車両の発進制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112280(P2012−112280A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260917(P2010−260917)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】