説明

車両の走行制御装置

【課題】車両の前方の物体を検知し、車両の走行軌跡を推定し、該推定された走行軌跡に基づいて、該車両の前方に所定の検知エリアを設定する。
【解決手段】物体の検知結果および設定された検知エリアに基づいて先行車を抽出し、目標車間距離に基づいて、該先行車に追従走行するよう車両を制御する。ここで、検知エリア内で検知された先行車に対する距離が目標車間距離以下であるとき、追従走行の開始に応じて該検知エリアを拡大すると共に、該先行車に対する距離が該目標車間距離より大きいとき、該検知エリアの拡大を、該追従走行を開始してから所定時間が経過するまで禁止する。こうして、隣車線上の他の車両を誤って追従走行しようとする場合には、該他の車両に安定追従する前に、該他の車両を検知エリアから外すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の走行を制御する装置に関し、より具体的には、前方の物体を検知するエリアの大きさを制御可能な走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自車両の前方に先行車を検知したときには、該先行車との車間距離を目標値に維持する定車間走行を行うと共に、自車両の前方に先行車を検知しないときには、車速を目標値に維持する定速走行を行う走行制御装置(ACCシステムとも呼ばれる)が提案されている。
【0003】
下記の特許文献1には、このようなACCシステムにおいて、自車両前方の先行車を検知するための検知エリアを、乗員による減速意思が検出された場合には拡大し、乗員による加速意思が検出された場合には縮小する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−100336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載のように、走行制御装置では、自車両の走行軌跡を推定し、該走行軌跡に基づいて検知エリアを設定し、該検知エリア内に先行車が検知されたならば、該先行車に追従走行することが行われる。
【0006】
ここで、走行軌跡は、たとえばヨーレートセンサ等の検出結果に基づいて推定されるが、たとえば該センサの検出結果にドリフト(ずれ)が生じている場合には、推定される走行軌跡と、実際の走行軌跡との間にずれが生じるおそれがある。その結果、たとえば、隣車線を走行している他の車両を、追従走行のターゲット(追従対象)として誤って認識してしまうおそれがある。
【0007】
特に、検知エリアを拡大することによって先行車の見失いを回避しやすくなるという利点があるものの、推定走行軌跡の誤差が比較的大きい場合に検知エリアを拡大すると、このようなターゲットの誤りを解除するのに時間がかかったり、該誤ったターゲットに安定的に追従走行してしまうおそれがある。
【0008】
したがって、検知エリアの大きさを適切に制御して、推定走行軌跡の精度が良好でない場合でも、誤ったターゲットへの追従走行を極力回避することのできる走行制御が所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一つの側面によると、車両の追従走行制御装置は、車両の前方の物体を検知する物体検知手段と、前記車両の走行軌跡を推定する手段と、前記推定された走行軌跡に基づいて、該車両の前方に所定の検知エリアを設定する検知エリア設定手段と、前記物体検知手段の検知結果および前記設定された検知エリアに基づいて、先行車を抽出する手段と、目標車間距離に基づいて、前記先行車に追従走行するよう前記車両を制御する手段と、を備え、前記検知エリア設定手段は、前記検知エリア内で検知された前記先行車に対する距離が前記目標車間距離以下であるとき、前記追従走行の開始に応じて前記検知エリアを拡大すると共に、該先行車に対する距離が該目標車間距離より大きいとき、前記検知エリアの拡大を、該追従走行を開始してから所定時間が経過するまで禁止する、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、検知エリアの拡大によって、先行車を見失うのを回避しやすくなる。しかしながら、一律に検知エリアを拡大すると、推定された走行軌跡の精度が比較的低いために隣車線の他の車両をターゲットとして誤って認識したような場合には、該他の車両が検知エリアから外れるのに時間がかかるおそれがあると共に、該ターゲットに安定的に追従してしまうおそれがある。このような現象は、先行車に対する距離が目標車間距離より大きいとき、すなわち自車両が先行車に対する距離を縮めようとするときに起こりやすい。この発明によれば、このような場合には、検知エリアの拡大を、所定時間経過するまで禁止する。これにより、該所定時間の間に、該他の車両が検知エリアから外れることが可能となり、よって、該他の車両をターゲットから外すことが可能となる。よって、誤ったターゲットに安定的に追従するのを回避することができる。
【0011】
また、先行車までの距離が目標車間距離以下のときには、自車両は減速することとなる。このような場合に検知エリアの拡大をしないと、走行軌跡の推定精度の低さによっては、車両の減速によって追従走行が解除され、その後、目標車速に向けて加速する際に追従走行が再開されるというハンチング(繰り返し)現象が生じるおそれがある。この発明によれば、検知エリアの拡大の遅延は、検知された先行車に対する距離が目標車間距離より大きいときにのみ行われ、それ以外の場合、すなわち検知された先行車に対する距離が目標車間距離以下のときには、所定時間の経過を待つことなく検知エリアを拡大する。したがって、このようなハンチング現象を回避することができる。
【0012】
この発明の一実施形態によると、さらに、前記車両と前記先行車の相対速度を算出する手段を備え、前記検知エリア設定手段は、前記相対速度の大きさが小さいほど、前記所定時間を大きくする。また、一実施形態によると、検知エリア設定手段は、前記車両の車速が小さいほど、前記所定時間を大きくする。
【0013】
誤ってターゲットとなった隣車線の他の車両が検知エリアから外れるのに要する時間は、自車両と先行車の相対速度の大きさが小さいほど、また自車両の車速が小さいほど、長くかかる。したがって、上記のように所定時間の長さを調整することによって、より確実に、該所定時間が経過する間に、誤ってターゲットとされた他の車両が検知エリアから外れるのを可能にすることができる。
【0014】
本発明のその他の特徴及び利点については、以下の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一実施例に従う、走行制御装置のブロック図。
【図2】隣車線の車両を誤ってターゲットとした場合に起こりうる、該車両に対する距離と目標車間距離との関係に基づく現象を説明するための図。
【図3】自車線上の車両をターゲットした場合に起こりうる、先行車の距離と目標車間距離との関係に基づく現象を説明するための図。
【図4】この発明の一実施形態に従う、図2のケースと図3のケースについて、自車両の車速に対する各種距離のグラフを示す図。
【図5】この発明の一実施例に従う、自車両の車速に対するロックオフ時間を、ヨーレートの誤差および先行車の相対速度毎に示したグラフ。
【図6】この発明の一実施例に従う、追従走行における検知エリアの拡大制御プロセスを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、この発明の一実施形態に従う、車両に搭載される、車両の走行を制御するための走行制御装置10の構成を示すブロック図である。走行制御装置10は、たとえば中央処理装置(CPU)およびメモリを備えるコンピュータである電子制御装置(ECU)に実現されることができる。走行制御装置10は、車両の前方に先行車が検知されたときには、予め設定した目標車間距離を維持して該先行車に追従走行し、先行車が検知されないときには、予め設定された目標車速で定速走行するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)システムを実現するよう構成されている。
【0018】
走行制御装置10には、該車両のヨーレートおよび車速を検出するヨーレートセンサ11および車速センサ12が接続されている。走行軌跡推定部21は、ヨーレートセンサ11によって検出されたヨーレートと、車速センサ12によって検出された車速とに基づいて、自車両の将来の走行軌跡を推定する。具体的には、走行軌跡推定部21は、検出されたヨーレートおよび車速から、車両の旋回半径を算出し、自車両の現在の進行方向に、該算出した旋回半径の円弧を連ねることにより、自車両の将来の走行軌跡を推定することができる。
【0019】
走行軌跡の推定には任意の手法を用いることができ、付加的に、または代替的に、他のセンサ等からの情報を用いてもよい。たとえば、舵角センサを用いて、該センサから検出されたステアリングホイールの舵角を用いてもよい。
【0020】
検知エリア設定部22は、推定された走行軌跡を中心線として、該中心線に沿う所定幅の検知エリアを設定する。
【0021】
走行制御装置10には、車両の前方の物体を検知するレーダ装置15が接続されている。レーダ装置15は、レーザ光やミリ波等の電磁波を送信し、その電磁波が物体から反射された反射波を受信することで、物体の方向、物体までの距離、物体との相対速度等を検知する。先行車抽出部23は、レーダ装置15によって検知された物体のうち、検知エリア内に存在する車両を、追従対象(ターゲット)となる先行車として抽出する。なお、以下の説明において、該ターゲットの決定を「ロックオン」と呼び、決定された該ターゲットの解除を「ロックオフ」と呼ぶことがある。
【0022】
制御目標値決定部24は、先行車抽出部23によってターゲットが抽出された場合には、該抽出されたターゲットに自車両を追従走行させるための目標車速および目標車間距離を含む制御目標値を決定する。これらの目標値の決定手法には、任意の適切な手法を用いることができる。たとえば、自車両の現在の車速と、先行車への目標到達時間(たとえば、乗員により、車間距離の所望の大きさに応じて設けられたスイッチ等を介して選択されることができる)とを乗算することにより、目標車間距離を算出し、該目標車間距離に到達するように、各制御サイクルの目標車速を決定することができる。
【0023】
他方、制御目標値決定部24は、先行車抽出部23によってターゲットが抽出されない場合には、定速走行を実現するための目標車速を含む制御目標値を決定する。該目標値についても、任意の適切な手法で決定されることができ、たとえば、所定のスイッチ等を介して乗員により設定された車速を目標車速とすることができる。
【0024】
車両制御部25は、決定された制御目標値に基づいて、車両の加速アクチュエータ31および減速アクチュエータ32を駆動する。加速アクチュエータ31として、たとえば、スロットルバルブの開度を制御するアクチュエータや、吸気バルブのリフト量を制御するアクチュエータがある。また、減速アクチュエータとして、ブレーキの作動を制御するブレーキ装置がある。車両制御部25は、これらのアクチュエータの駆動を介して、決定された目標車速および目標車間距離を実現するよう車両を制御する。
【0025】
距離比較部26は、先行車抽出部23によって抽出されたターゲットの自車両からの距離(ロックオン距離と呼び、レーダ装置15によって検出される)と、制御目標値決定部24によって設定された目標車間距離とを比較する。
【0026】
検知エリア設定部22は、距離比較部26による比較の結果、ロックオン距離が目標車間距離以下であるとき、追従走行が開始されたことに応じて(先行車抽出部23によって先行車がターゲットとして抽出されたときから、車両制御部25によって実際に追従走行が開始されるときまでの間の任意の時点を、追従走行開始時点とすることができ、以下同様である)、速やかに、検知エリアの上記所定幅を、左右両側に所定量ずつ拡大する。これにより、次の制御サイクルにおいては、先行車抽出部23は、該拡大された検知エリアを用いて、ターゲットとなる先行車の抽出を行う。
【0027】
他方、検知エリア設定部22は、距離比較部26による比較の結果、ロックオン距離が目標車間距離より大きいときには、追従走行が開始されたときから所定時間が経過するまで、該検知エリアの拡大を禁止し、該所定時間が経過した後に、上記のような該検知エリアの拡大を行う。
【0028】
拡大された検知エリアは、追従走行が解除されるまで用いられる。すなわち、先行車抽出部23によってターゲットとなる先行車が抽出されなくなった場合には、追従走行が解除され、該解除を示す信号が、たとえば距離比較部26によって検知エリア設定部22に送られる。これに応じて、検知エリア設定部22は、検知エリアの幅を通常の上記所定幅に戻し、これが、次の制御サイクルにおいて先行車抽出部23によって用いられる。
【0029】
こうして、ロックオン距離が目標車間距離以下のときには、検知エリアを拡大するが、ロックオン距離が目標車間距離より大きいときには、該拡大を、所定時間経過するまで遅らせる。このような検知エリアの制御を行う理由および効果について、以下説明する。
【0030】
図2は、隣車線の他車両を誤ってターゲットとした場合の、ロックオン距離と目標車間距離の間の関係によって生じうる現象を説明するための図である。
【0031】
(a)は、自車両V1が、2車線のうちの右側車線を走行しており、他の車両V2が、左側車線を走行している。自車両V1の走行制御装置10によって車両V1の走行軌跡が推定され、該走行軌跡に沿って上記の所定幅を持つよう設定された検知エリアが、符号101のハッチングされた領域で示されている。本来であれば、自車両V1は右側車線を直線走行しているため、走行軌跡は、右側車線に沿って直線状に推定されるべきである。しかしながら、たとえばヨーレートセンサのドリフト等に起因して、走行軌跡が、実際の走行車線に対して隣車線に向かって旋回するように推定されることがありうる。その結果、検知エリア101も、図に示すように、隣車線に向かって旋回するように推定される。
【0032】
(a)では、他の車両V2が、検知エリア101内の位置P1において、追従対象(ターゲット)として誤って認識された様子が示されている(すなわち、車両V2のロックオン)。ここで、ロックオン距離は、目標車間距離よりも大きいものとする。
【0033】
仮に、(a)における車両V2をターゲットとした追従走行の開始に応じて、検知エリア101の幅を拡大すると、(b)または(c)のような現象が起こりうる。これらの図において、検知エリア101は、(a)に比べて、左右両側に所定量づつ拡大されている。(b)は、目標車間距離が比較的短い場合であり、(c)は、目標車間距離が比較的長い場合を示している。いずれの場合も、自車両V1は、目標車間距離に達するよう、車間距離を縮めようとする。
【0034】
(b)では、目標車間距離が比較的短いため、車両V1とV2の間の距離が目標車間距離に向けて縮まった結果、車両V2は、検知エリア101から外れている(位置P2)。しかしながら、検知エリア101の幅が拡大したために、車両V2が、検知エリア101内の位置P1でターゲットとなってから、検知エリア101外の位置P2で該ターゲットが解除されるのに、時間がかかる。
【0035】
また、(c)では、目標車間距離が比較的長いため、(b)ほどには車間距離が縮まらず、結果として、車両V2は、検知エリア101内に留まっている(位置P3)。検知エリア101が拡大したために、このような留まりが安定的に生じるおそれがあり、よって、自車両V1が、車両V2に安定追従(所定時間以上にわたる継続した追従)するおそれがある。
【0036】
(b)および(c)のような現象を回避するため、ロックオン距離が目標車間距離よりも大きいときには、所定時間が経過するまで、検知エリア101の拡大を禁止する。この場合の現象が、(d)に示されている。検知エリア101は、拡大されておらず、(a)と同じ幅となっている。自車両V1が他の車両V2との距離を縮めるため、車両V2は、自車両V1に対して、位置P1から位置P4に移動している。検知エリア101の幅が比較的狭いため、車両V2が、検知エリア101内の位置P1でターゲットとなってから、検知エリア101外の位置P4で該ターゲットが解除されるのに、(c)に比べて短時間ですむ。このように、検知エリアの拡大を所定時間禁止することにより、該所定時間の間に他の車両V2を検知エリア101から外すことができ、よって、該他の車両V2を誤ったターゲットとして安定追従することを回避することができる。
【0037】
図3は、自車線上の先行車をターゲットした場合の、ロックオン距離と目標車間距離の間の関係によって生じうる現象を説明するための図である。
【0038】
(a)は、自車両V1が、2車線のうちの右側車線を走行しており、先行車V3も、同じ右側車線を走行している。自車両V1の走行制御装置10によって車両V1の走行軌跡が推定され、該走行軌跡に沿って上記の所定幅を持つよう設定された検知エリアが、符号101のハッチングされた領域で示されている。図2と同様に、たとえばヨーレートセンサのドリフト等に起因して、走行軌跡が、実際の走行車線に対して隣車線に向かって旋回するように推定されることがありうる。その結果、検知エリア101も、図に示すように、隣車線に向かって旋回するように推定される。
【0039】
(a)では、先行車V3が、検知エリア101内の位置P1において、追従対象(ターゲット)として認識された様子が示されている(すなわち、車両V3のロックオン)。
【0040】
図2の場合には、ロックオン距離が目標車間距離よりも大きいときには、検知エリアの拡大を遅らせ、ロックオン距離が目標車間距離以下の場合には、遅延することなく検知エリアを即時に拡大した。同様のことを、図3の場合について適用してみる。
【0041】
(b)は、(a)におけるロックオン距離が目標車間距離よりも大きい場合を示し、よって、検知エリアの拡大はまだ行われていない(遅延されている)。自車両V1は先行車V3との車間距離を縮めようとするため、先行車V3は、自車両V1に対して、位置P1からP2に移動し、検知エリア101内に留まる。したがって、自車両V1は、先行車V3をターゲットとして安定した追従走行を行うことができる。所定時間経過後に検知エリア101は拡大されるが、該拡大により、先行車V3の見失いを、より確実に防止することができる。
【0042】
(c)および(d)は、(a)におけるロックオン距離が目標車間距離以下の場合において、仮に、検知エリアの即時の拡大を行わないとどうなるかを示している。自車両V1は、目標車間距離にまで先行車V3との距離を広げようとするため、自車両V1に対して、先行車は、位置P1から位置P3に移動する。検知エリア101の幅が比較的狭いため、この移動により、先行車V3は検知エリア101から外れることとなり、ターゲットが解除される。自車両V1は、検知エリア101内に先行車が検知されなくなったので、追従走行を解除し、定速走行を行う。目標車速に到達しようとして自車両V1が加速すると、検知エリア101の幅が比較的狭いために、(d)に示されるように、先行車V3は、位置P3から、検知エリア101内の位置P4に移動するおそれがある。その結果、先行車V3は再びターゲットとなり、追従走行が開始される。このように、検知エリア101の幅が比較的狭いと、(c)および(d)の現象を交互に繰り返すハンチング現象が生じるおそれがある。このようなハンチング現象を回避するため、ロックオン距離が目標車間距離以下の場合には、図2と同様に、検知エリア101を即時に拡大するのがよい。この拡大により、(e)に示すように、先行車V3が、相対的に位置P1からP3に移動しても、検知エリア101内に留まりやすくなるため、上記のようなハンチング現象を回避することができる。
【0043】
以上のように、図2のように隣車線の車両を誤ってターゲットとした場合でも、図3のように自車線上の先行車をターゲットとした場合でも、ロックオン距離が目標車間距離より大きい場合には、検知エリア101の拡大を、所定時間が経過するまで遅らせればよく、ロックオン距離が目標車間距離以下の場合には、該検知エリア101の拡大を即時に行えばよい。こうすることで、ハンチング現象を回避しつつ、誤ったターゲットを安定追従する前に、該ターゲットを解除することができる。ヨーレートセンサの精度によって走行軌跡が図に示すようにずれるおそれがあるが、このような検知エリアの制御を行うことにより、ヨーレートセンサに要求される精度要件を緩和させることができる。
【0044】
図4の(a)は、図2の隣車線の他の車両V2を誤ってターゲットとした場合の、自車両の速度に対する各種距離の推移を、シミュレーション等を介して取得した結果を示すグラフである。ここで、走行軌跡は、ヨーレートセンサの検出値の誤差(ずれ)が1(度/秒)である状態で推定されたものとする。各種距離は、自車両V1に対する距離を示している。
【0045】
符号201は、目標車間距離を示し、車速が大きくなるほど、目標車間距離も大きくなるよう設定されている。符号203は、検知エリア101が拡大されていない場合のロックオン距離を示し、これは、図2の例でいえば、位置P1に車両V2があるときの自車両Vに対する距離を示す。符号205は、検知エリア101が拡大されない場合にロックオフ(検知エリア外に抜けたためにターゲットが解除されること)されるときの距離(ロックオフ距離と呼ぶ)を示し、これは、図2の例でいえば、位置P4に車両V2があるときの自車両Vに対する距離を示す。符号207は、検知エリア101が拡大された場合のロックオフ距離を示し、これは、図2の例でいえば、位置P2に車両V2があるときの自車両Vに対する距離を示す。
【0046】
検知エリア101を拡大しない場合のロックオフ距離205は、検知エリア101を拡大した場合のロックオフ距離207より大きく(すなわち、車両から遠く)、これは、検知エリア101が拡大すると、他の車両V2が、該検知エリア101から外れるのに要する時間が長くなることを示している。
【0047】
このグラフに示されるように、ロックオン距離203が目標車間距離201より大きいため、自車両V1は、車両V2への距離を縮めようとする。自車両V1の車速がVs1以下の領域では、検知エリア101を拡大した場合のロックオフ距離207が目標車間距離201より大きい。これは、図2の(b)に示すケースに相当し、自車両V1が車間距離を縮めることによって、他の車両V2は検知エリア101から外れる。しかしながら、検知エリア101から外れるための距離(ロックオン距離203とロックオフ距離207の差)が大きいため、該検知エリア101から外れるのに、比較的長い時間を要する。
【0048】
また、車速がVs1以上の領域では、検知エリア101を拡大した場合のロックオフ距離207より、目標車間距離201の方が大きい。これは、図2の(c)のケースに相当し、検知エリア101内に安定的に車両V2が存在しうることを示し、該車両V2に誤って安定的に追従してしまうおそれがある。
【0049】
したがって、前述したように、ロックオン距離203が目標車間距離201より大きい場合には、検知エリアの拡大を所定時間の間禁止する。これにより、ロックオフ距離は符号205で示されるものとなり、該所定時間の間は、ロックオン距離203とロックオフ距離205の間の差が小さいままに維持される。したがって、他の車両V2は、上記のような安定追従となる前に、検知エリア101から外れることができる。
【0050】
図4の(b)は、図3の自車線上の先行車V3をターゲットとした場合の、自車両の速度に対する各種距離の推移を、シミュレーション等を介して取得した結果を示すグラフである。図4の(a)と同様に、走行軌跡は、ヨーレートセンサの検出値の誤差(ずれ)が1(度/秒)である状態で推定されたものとする。各種距離は、自車両に対する距離を示している。
【0051】
符号211は、目標車間距離を示し、車速が大きくなるほど、目標車間距離も大きくなるよう設定されている。符号213は、検知エリア101が拡大されていない場合のロックオン距離を示し、これは、図3の例でいえば、位置P1に先行車V3があるときの自車両V1に対する距離を示す。符号215は、検知エリア101が拡大された場合のロックオン距離を示し、これは、図3の例でいえば、位置P3に車両V2があるときの自車両V1に対する距離を示す。
【0052】
自車両V1の車速がVs2以下の領域では、検知エリア101を拡大しないときのロックオン距離213が目標車間距離211より大きいため、自車両V1は、車間距離を縮めようとする。この場合、図3の(b)を参照して前述したように、所定時間経過後に検知エリアを拡大する。前述したように、所定時間が経過するまでの間も、車間距離が縮まるために、先行車V3は、検知エリア101内に留まることができ、よって、所定時間が経過する前後において、先行車V3を安定的に追従することができる。
【0053】
他方、自車両V1の車速がVs2より大きい領域では、検知エリア101を拡大しないときのロックオン距離213が目標車間距離211より小さいため、自車両V1は、車間距離を広げようとする。図3の(c)および(d)を参照して述べたように、検知エリアを拡大しないと、ハンチング現象が発生しやすくなる。したがって、この場合には、即時に検知エリアを拡大し、ロックオン距離を符号215で示すものにする。これにより、ロックオン距離215が目標車間距離211より大きくなるため、ハンチング現象を回避することができる。
【0054】
上記の検知エリアの拡大を遅らせる「所定時間」は、好ましくは、ヨーレートセンサ11の精度、ロックオンした時の自車両の速度、ロックオンしたターゲットの速度と自車両の速度の相対速度の大きさ、のうちの少なくとも1つに基づいて決定する。前述したように、検知エリアの拡大に遅延時間を設けるのは、該遅延時間の間に、誤ってターゲットとした隣車線上の車両が検知エリアから外れるようにするためである。検知エリア内でターゲットとして認識されてから、該ターゲットが検知エリアから外れるまでに要する時間(ロックオフ時間と呼ぶ)は、推定走行軌跡の精度、自車両の速度、および、ターゲットの速度と自車両の速度の間の相対速度の大きさに応じて変化しうる。したがって、少なくともこれらのいずれかに基づいて「所定時間」を決定するのがよい。
【0055】
ここで、図5の(a)を参照すると、自車両の速度に対するロックオフ時間を、ヨーレートの誤差毎に計測してグラフにしたものである。ここで、相対速度の大きさは、5(km/時間)であり、自車両とターゲット(隣車線上の他の車両)の車間距離は、該相対速度の大きさに応じて縮まることとなる。符号301は、ヨーレートの誤差が0.5(度/秒)のものであり、符号303は、ヨーレートの誤差が0.75(度/秒)のものであり、符号305は、ヨーレートの誤差が1.0(度/秒)のものである。これらのグラフにされるように、自車両の速度が小さくなるにつれて、ロックオフ時間は長くなる。また、ヨーレートの誤差が大きくなるほど、推定された走行軌跡の誤差が大きくなるため(図2の場合、たとえば、ヨーレート誤差が大きいほど、自車線からの角度が大きいように、走行軌跡は旋回される)、ロックオフ時間は長くなる。
【0056】
また、図5の(b)は、自車両の速度に対するロックオフ時間を、相対速度の大きさ毎に計測してグラフにしたものである。ここで、ヨーレートの誤差は、1.0(度/秒)としている。符号311は、相対速度の大きさが5(km/時)のものであり、符号313は、相対速度の大きさが20(km/時)のものであり、符号315は、相対速度の大きさが30(km/時)のものである。(a)と同様に、自車両の速度が小さくなるにつれて、ロックオフ時間は長くなる。また、相対速度の大きさが小さいほど、自車両に対するターゲットの動きが遅いことを示すため、検知エリアから外れるのに時間を要し、よって、ロックオフ時間が長くなる。
【0057】
したがって、上記の所定時間は、自車両の速度、ヨーレートセンサ11の検出値の誤差、およびターゲットの速度と自車両の速度の相対速度の大きさに対応するロックオフ時間以上の値に設定されると共に、自車両の速度が小さいほど、ヨーレートの誤差が大きいほど、また、相対速度の大きさが小さいほど、該所定時間が長くなるように設定されるのが好ましい。こうして、より確実に、所定時間経過までに、誤ってターゲットとされた車両が検知エリアから外れるようにすることができる。
【0058】
ヨーレートセンサ11の検出値の誤差、自車両の速度、および相対速度の大きさの各値に対する所定時間の値を、予めマップに規定してメモリ等の記憶装置に記憶することができる。図1の検知エリア設定部22は、車速センサ12によって検出された自車両の速度、該検出された自車両の速度と、レーダ装置15を介して検出されたターゲットの速度との間の相対速度の大きさ、および、ヨーレートセンサ11の検出値の誤差(これは、任意の適切な手法で求めることができる)に基づいて該マップを参照し、対応する所定時間を決定すればよい。代替的に、ヨーレートセンサ11の検出値の誤差、自車両の速度、および相対速度の大きさのうちの1つまたは2つを用いる場合には、該用いるパラメータの値毎の所定時間を予めマップに規定して記憶しておけばよい。
【0059】
図6は、走行制御装置10によって実行される、上記の検知エリアの拡大を制御するプロセスのフローチャートを示す。該プロセスは、或る車両がターゲットとして検知エリア内で検知されたこと(ロックオン)に応じて、実行されることができる。
【0060】
ステップS11において、検知エリア内で該ターゲットを抽出したときの、該ターゲットの自車両からの距離すなわちロックオン距離と、目標車間距離とを比較する。ロックオン距離が目標車間距離以下であるとき、すなわち、自車両が車間距離を広げようとするとき、ターゲットが隣車線上に存在する場合にはターゲットと自車両間の距離が広がるので該ターゲットが検知エリアに留まることにはならないため、また、図3の(c)および(d)を参照して説明したように、ターゲットが自車線上に存在する場合にはハンチング現象を回避するため、ステップS16に進み、検知エリアを速やかに拡大する。具体的には、検知エリアの所定幅を、推定走行軌跡を中心に、所定量だけ拡大する。
【0061】
ステップS11において、ロックオン距離が目標車間距離より大きいとき、すなわち、自車両が車間距離を縮めようとするとき、ステップS12に進み、ロックオン距離と目標車間距離の差の大きさが所定値以上かどうかを調べる。これは、ロックオン距離の誤差を考慮するためである。該差の大きさが所定値以上でないときには、該誤差によって、実際には、ロックオン距離が目標車間距離以下であることも考えられるため、ステップS16に進む。該差の大きさが所定値以上のとき、ステップS13に進む。
【0062】
ステップS13において、ヨーレートセンサ11の精度(検出値の誤差)、自車両の速度、ターゲットの速度と自車両の速度の間の相対速度の大きさ、の少なくとも1つに基づいて、たとえば前述したように図5の(a)および(b)に基づいて作成されたマップを参照し、対応する所定時間を求める。該所定時間は、ヨーレートセンサ11の精度が低下するほど、自車両の速度が小さいほど、また、相対速度の大きさが小さいほど、長くなるよう設定される。こうして、該所定時間の計時を開始する。
【0063】
ステップS14において、該所定時間が経過するまで待機する。所定時間が経過したならば、ステップS15において、該ターゲットへのロックオンがなお継続しているかどうかを判断する。すなわち、図2の(b)および(c)を参照して述べたような、隣車線上の車両V2を誤ってターゲットとした場合には、ステップS14において所定時間が経過するまでの間に、該車両V2は検知エリアから外れているはずであり、よって、該車両V2をターゲットとする誤ったロックオンは解除されているはずである。しかしながら、図3の(b)を参照して述べたような、自車線上の先行車V3をターゲットとした場合には、所定時間が経過しても、なお、該車両V3へのロックオンが継続している可能性がある。
【0064】
したがって、ステップS15において、ロックオンがなお継続している場合には、該ターゲットとされている先行車を見失わないようにするため、検知エリアを所定幅だけ拡大する。該拡大された検知エリアは、該先行車がロックオフされるまで、継続して使用されることとなる。ステップS15において、該ロックオンが継続していない場合には、ターゲットとする先行車はもはや存在しないため、検知エリアの幅を拡大することなく、当該プロセスを抜ける。
【0065】
以上のように、この発明の特定の実施形態について説明したが、本願発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0066】
10 走行制御装置
11 ヨーレートセンサ
12 車速センサ
15 レーダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の追従走行制御装置であって、
車両の前方の物体を検知する物体検知手段と、
前記車両の走行軌跡を推定する手段と、
前記推定された走行軌跡に基づいて、該車両の前方に所定の検知エリアを設定する検知エリア設定手段と、
前記物体検知手段の検知結果および前記設定された検知エリアに基づいて、先行車を抽出する手段と、
目標車間距離に基づいて、前記先行車に追従走行するよう前記車両を制御する手段と、を備え、
前記検知エリア設定手段は、前記検知エリア内で検知された前記先行車に対する距離が前記目標車間距離以下であるとき、前記追従走行の開始に応じて前記検知エリアを拡大すると共に、該先行車に対する距離が該目標車間距離より大きいとき、前記検知エリアの拡大を、該追従走行を開始してから所定時間が経過するまで禁止する、ことを特徴とする車両の追従走行制御装置。
【請求項2】
さらに、前記車両と前記先行車の相対速度を算出する手段を備え、
前記検知エリア設定手段は、前記相対速度の大きさが小さいほど、前記所定時間を大きくする、
請求項1に記載の追従走行制御装置。
【請求項3】
前記検知エリア設定手段は、前記車両の車速が小さいほど、前記所定時間を大きくする、請求項1または2に記載の追従走行制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−11947(P2012−11947A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152236(P2010−152236)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】