説明

車両の運動制御装置

【課題】ヨーレート偏差に基づくアンダーステア抑制および横滑り角速度に基づくスピン抑制制御をともに実行可能とするとともに、コントロール性の向上を図る。
【解決手段】制御量決定手段13は、規範ヨーレートの絶対値が検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態ではヨーレート偏差に基づいて車両に旋回内向きのモーメントを発生させるように選択されたアクチュエータの第1の制御量を決定し、横滑り角速度が所定値を超える第2の状態では前記横滑り角速度に基づいて車両に旋回外向きのモーメントを発生させるように選択されたアクチュエータの第2の制御量を決定し、第1および第2の状態が同時に発生しているときには第1および第2の協調制御用制御量の絶対値のうち大きい方の値が対象とするアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの制御量を第1および第2の協調制御用制御量の合算値として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御装置に関し、特に、ヨーレートに基づく運動制御と、車両の横滑り角速度に基づく運動制御をともに実行し得るようにした車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両旋回時のアンダーステア時には、操舵角および車速に基づいて定められる規範ヨーレートならびに検出したヨーレートの差であるヨーレート偏差に基づく運動制御を実行し、車両旋回時のオーバーステア時には横滑り角速度に基づく運動制御を実行するようにした車両の運動制御装置が、特許文献1で既に知られている。
【特許文献1】特許第3324965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両のオーバーステア抑制制御、アンダーステア抑制制御およびスピン抑制制御が実行されるのは、ヨーレート偏差および横滑り角速度に応じて図4で示す領域となるものであり、ヨーレート偏差に基づく運動制御および横滑り角速度に基づく運動制御を実行すべき領域が重なる部分があり、特にアンダーステアを抑制するためのヨーレート偏差に基づくヨーレート抑制制御と、横滑り角速度に基づくスピン抑制制御が重なる領域では、要求される旋回モーメントの方向が相互に逆となる。このためアンダーステアを抑制するためのヨーレート偏差に基づくアンダーステア抑制制御の制御量および横滑り角速度に基づくスピン抑制制御をともに実行して旋回モーメントを発生させると、状況によって旋回内向きのモーメントが発生したり、旋回外向きのモーメントが発生したりすることになり、車両の運転者にとっては運動制御が旋回促進方向に作用するか、旋回抑制方向に作用するかを予見し難くなり、車両のコントロール性の低下を招く可能性がある。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ヨーレート偏差に基づくアンダーステア抑制および横滑り角速度に基づくスピン抑制制御をともに実行可能とするとともに、コントロール性の向上を図った車両の運動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、運転者による操舵角を検出する操舵角検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、車両の横滑り角速度を検出する横滑り角速度検出手段と、前記操舵角検出手段で検出された操舵角ならびに前記車速検出手段で検出された車速に基づいて運転者の意図する規範ヨーレートを算出する規範ヨーレート算出手段と、該規範ヨーレート算出手段で算出された規範ヨーレートならびに前記ヨーレート検出手段で検出された検出ヨーレートの偏差であるヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出手段と、前記横滑り角速度検出手段の検出値ならびに前記ヨーレート偏差算出手段の算出値に基づいて車両に旋回モーメントを発生させるアクチュエータのうち必要なアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの制御量を定める制御量決定手段とを備え、該制御量決定手段は、前記規範ヨーレートの絶対値が前記検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態では前記ヨーレート偏差算出手段で算出されたヨーレート偏差に基づいて前記アクチュエータのうち車両に旋回内向きのモーメントを発生させるアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの第1の制御量を決定し、前記横滑り角速度検出手段で検出される横滑り角速度が所定値を超える第2の状態では前記横滑り角速度に基づいて前記アクチュエータのうち車両に旋回外向きのモーメントを発生させるアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの第2の制御量を決定し、前記第1および前記第2の状態が同時に発生しているときには前記第1および前記第2の状態が同時に発生しているときには正負が相互に逆である前記第1および前記第2の制御量にそれぞれ個別に基づいて第1および第2の協調制御用制御量を定め、第1および第2の協調制御用制御量の絶対値のうち大きい方の協調制御用制御量が対象とするアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの制御量を第1および第2の協調制御用制御量の合算値として決定することを特徴とする。
【0006】
なお実施例の車輪ブレーキ5FL,5FR,5Rl,5RRが本発明のアクチュエータに対応する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記構成によれば、規範ヨーレートの絶対値が前記ヨーレート検出手段で検出された検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態すなわちアンダーステア抑制制御が必要な状態と、横滑り角速度が所定値を超える第2の状態すなわちスピン抑制制御が必要な状態とがともに発生しているときには、ヨーレート偏差に基づいて旋回内向きのモーメントを発生させるための第1の制御量に基づく第1の協調制御用制御量の絶対値と、横滑り角速度に基づいて旋回外向きのモーメントを発生させるための第2の制御量に基づく第2の協調制御用制御量の絶対値とを比較し、絶対値が大きい方の協調制御用制御量が対象とするアクチュエータを選択し、選択されたアクチュエータの制御量を、第1および第2の協調制御用制御量の合算値として決定するので、アンダーステア抑制制御が必要かつスピン抑制制御が必要な状態で旋回内向きおよび旋回外向きのモーメント制御が干渉することを防止し、スピン抑制制御中にも車両運転者の意志に基づくアンダーステア抑制制御を反映させてコントロール性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図3は本発明の一実施例を示すものであり、図1は運動制御装置の構成を示すブロック図、図2は制御量決定手段での制御量決定手順を示すフローチャート、図3は旋回外向きのモーメントを発生させる制御を実行するか否かを判断するための横滑り角速度の所定値を示す図である。
【0010】
先ず図1において、四輪自動車は、アクチュエータとしての左前輪用車輪ブレーキ5FL、右前輪用車輪ブレーキ5FR、左後輪用車輪ブレーキ5RLおよび右後輪用車輪ブレーキ5RRを前後左右に備えており、車両旋回時の運動制御にあたっては、それらの車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち運動制御に必要な車輪ブレーキが選択され、選択された車輪ブレーキがブレーキ作動することで旋回時の車両の運動制御がなされる。
【0011】
旋回時の車両の運動制御にあたって、運転者による操舵角が操作角検出手段6で検出され、車両のヨーレートがヨーレート検出手段7で検出され、車両の横加速度が横加速度検出手段8で検出され、車速がたとえば従動輪の速度に基づいて車速検出手段9で検出される。
【0012】
前記操作角検出手段6で検出された操舵角ならびに前記車速検出手段9で検出された車速は、規範ヨーレート算出手段10に入力されるものであり、該規範ヨーレート算出手段10は、前記操舵角および前記車速に基づいて、運転者の意図する規範ヨーレートを算出する。また規範ヨーレート算出手段10で算出された規範ヨーレートならびに前記ヨーレート検出手段7で検出された検出ヨーレートはヨーレート偏差算出手段11に入力され、このヨーレート偏差算出手段11は、規範ヨーレートおよび前記検出ヨーレートの偏差であるヨーレート偏差を算出する。
【0013】
ところでヨーレート偏差算出手段11は、たとえば右旋回側の規範ヨーレートおよび検出ヨーレートにプラスの符号を付し、左旋回側の規範ヨーレートおよび検出ヨーレートにマイナスの符号を付して規範ヨーレートから検出ヨーレートを減算する処理を実行するものである。
【0014】
前記ヨーレート検出手段7で検出された検出ヨーレート、前記横加速度検出手段8で検出された横加速度、ならびに車速検出手段9で検出された車速は横滑り角速度検出手段12に入力され、この横滑り角速度検出手段12は、たとえば横加速度を車速で割った値から検出ヨーレートを差し引くことで車両の横滑り角速度を演算する。
【0015】
また前記ヨーレート偏差算出手段11で得られたヨーレート偏差、前記横加速度検出手段8で得られた横加速度、ならびに前記横滑り角速度検出手段12で得られた横滑り角速度は、制御量決定手段13に入力されるものであり、この制御量決定手段13は、前記ヨーレート偏差、前記横加速度および前記横滑り角速度に基づいて、前記各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち車両に旋回モーメントを発生させるのに必要な車輪ブレーキを選択するとともに選択された車輪ブレーキの制御量を定める。
【0016】
この制御量決定手段13での決定手順について図2を参照しながら説明するが、図2において、ヨーレート偏差に基づくオーバステア抑制制御はOS抑制制御、ヨーレート偏差に基づくアンダーステア抑制制御はUS抑制制御、横滑り角速度に基づくスピン抑制制御はSP抑制制御とそれぞれ表記する。
【0017】
ステップS1ではヨーレート偏差算出手段11で得られたヨーレート偏差に基づいてオーバーステア抑制制御介入条件が成立しているか否かを判断する。すなわちヨーレート偏差算出手段11では、規範ヨーレート算出手段10で得られた規範ヨーレートからヨーレート検出手段7で得られた検出ヨーレートを減算することでヨーレート偏差が算出されるのであるが、前記検出ヨーレートの絶対値が前記規範ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい状態となったときに、オーバーステア抑制制御介入条件が成立すると判断する。すなわち、たとえば右旋回時に前記ヨーレート偏差がマイナス側に所定値以上の値となり、また左旋回時に前記ヨーレート偏差がプラス側に所定値以上の値となったときにオーバーステア抑制制御介入条件が成立すると判断するものである。而してステップS1でオーバーステア抑制制御介入条件が成立していないと判断したときには、ステップS2に進む。
【0018】
このステップS2では、アンダーステア抑制制御介入条件が成立しているか否かを、前記ヨーレート偏差に基づいて判断するものであり、前記規範ヨーレートの絶対値が前記検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい状態となったときに、アンダーステア抑制制御介入条件が成立すると判断する。たとえば右旋回時に前記ヨーレート偏差がプラス側に所定値以上の値となり、また左旋回時に前記ヨーレート偏差がマイナス側に所定値以上の値となったときにアンダーステア抑制制御介入条件が成立すると判断するものであり、アンダーステア抑制制御介入条件が成立していないと判断したときには.ステップS3に進む。
【0019】
ステップS3では、スピン抑制制御介入条件が成立したか否かを、横滑り角速度検出手段12で検出した横滑り角速度が所定値を超えているか否かによって判断する。而して前記所定値は、図3で示すように、横加速度検出手段8で検出された横加速度に応じて変化するものであり、たとえば右旋回方向をプラス側、左旋回方向をマイナス側としたときに、右旋回側の横滑り角速度はマイナス側に設定された前記所定値以下のマイナス領域(斜線で示す領域)にあるときにスピン抑制制御介入条件が成立したと判断し、左旋回側の横滑り角速度はプラス側に設定された前記所定値以上のプラス領域(斜線で示す領域)にあるときにスピン抑制制御介入条件が成立したと判断する。
【0020】
前記ステップS3でスピン抑制制御介入条件が成立していないと判断したときには、ステップS4で制御量を「0」と定め、またスピン抑制制御介入条件が成立していると判断したときにはステップS5で制御量を「BDRES」と定め、次のステップS6でスピン抑制制御での要求ヨーモーメントDMBDを演算し、ステップS7で各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち横滑り角速度に基づくスピン抑制制御を実行して車両に旋回外向きのモーメントを発生させる車輪ブレーキを選択する。
【0021】
ステップS1でオーバーステア抑制制御介入条件が成立したと判断したときには、ステップS1からステップS8に進み、このステップS8では、オーバーステア抑制制御での要求ヨーモーメントDMOSを演算する。次いでステップS9ではスピン抑制制御介入条件が成立するか否かを判定し、スピン抑制制御介入条件が成立していないと判断したときには、ステップS10で制御量をYRRESと定めた後、ステップS11で、オーバーステア抑制制御を選択し、各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち車両に旋回外向きのモーメントを発生させる車輪ブレーキを選択する。
【0022】
またステップS9において、スピン抑制制御介入条件が成立したと判断したときには、ステップS12に進んでスピン抑制制御での要求ヨーモーメントDMBDを演算した後のステップS13で、オーバーステア抑制制御での要求ヨーモーメントDMOSの絶対値|DMOS|と、スピン抑制制御での要求ヨーモーメントDMBDの絶対値|DMBD|とを比較する。その結果、|DMOS|≧|DMBD|が成立したときにはステップS13からステップS11に進み、また|DMOS|<|DMBD|であったときにはステップS13からステップS7に進む。
【0023】
ステップS2でアンダーステア抑制制御介入条件が成立したと判断したとき、すなわち規範ヨーレートの絶対値が検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態となったときには、ステップS2からステップS14に進み、スピン抑制制御介入条件が成立するか否か、すなわち第2の状態になったか否かを判定する。而してスピン抑制制御介入条件が成立していないと判断したときには、ステップS15で第1の制御量をYRRESと定め、次のステップS16で、アンダーステア抑制制御での要求ヨーモーメントDMUSを演算し、さらにステップS17で各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうちヨーレート偏差に基づくアンダーステア抑制制御を実行して車両に旋回内向きのモーメントを発生させる車輪ブレーキを選択する。
【0024】
またステップS14において、スピン抑制制御介入条件が成立したと判断したとき、すなわちアンダーステア抑制制御介入条件が成立した状態である第1の状態と、スピン抑制制御介入条件が成立した状態である第2の状態とがともに成立したと判断したときには、ステップS18に進む。ここでアンダーステア抑制制御およびスピン抑制制御は、車両に相互に逆向きのモーメントを発生させる制御であり、アンダーステア抑制の制御量である第1の制御量YRRESと、スピン抑制制御の制御量である第2の制御量BDRESとは正負が相互に逆である。そこでステップS18では、アンダーステア抑制制御の重み付け係数をKyとし、スピン抑制制御の重み付け係数をKbとして、前記第1および第2の制御量YRRES,BDRESにそれぞれ個別に基づいて第1の協調制御用制御量Ky・YRRESおよび第2の協調制御用制御量Kb・BDRESを定め、それらの協調制御用制御量Ky・YRRES,Kb・BDRESの合算値(Ky・YRRES+Kb・BDRES)を制御量として定める。
【0025】
さらに次のステップS19では、前記第1および第2の協調制御用制御量Ky・YRRES,Kb・BDRESの絶対値|Ky・YRRES|,|Kb・BDRES|のいずれが大きいかを選択し、|Ky・YRRES|≧|Kb・BDRES|であるときには、ステップS16に進んでアンダーステア抑制制御を選択し、|Ky・YRRES|<|Kb・BDRES|であるときには、ステップS20でスピン抑制制御での要求ヨーモーメントDMBDを演算した後、ステップS7に進んでスピン抑制制御を選択する。
【0026】
すなわち制御量決定手段13は、規範ヨーレートの絶対値が検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態と、横滑り角速度が所定値を超える第2の状態とが同時に発生している状態では、第1の状態で定める第1の制御量YRRESに基づく第1の協調制御用制御量Ky・YRRRESの絶対値と、第2の状態で定める第2の制御量BDRESに基づく第2の協調制御用制御量Kb・BDRESの絶対値とを比較し、各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち前記両絶対値の大きい方の値が対象とする車輪ブレーキを選択するとともに選択された車輪ブレーキの制御量を第1および第2の協調制御用制御量Ky・YRRRES,Kb・BDRESの合算値(Ky・YRRES+Kb・BDRES)として決定することになる。
【0027】
制御量決定手段13での車輪ブレーキの選択および制御量の決定に基づいて、アンダーステア抑制制御ロジック回路14、オーバーステア抑制制御ロジック回路15およびスピン抑制制御ロジック回路16が、各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち選択された車輪ブレーキの作動量を定め、それらのロジック回路14,15,16から入力される信号に応じてブレーキ制御回路17が、各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち選択された車輪ブレーキの作動を制御する。
【0028】
次にこの実施例の作用について説明すると、制御量決定手段13は、規範ヨーレートの絶対値が前記検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態ではヨーレート偏差算出手段11で算出されたヨーレート偏差に基づいて各車輪ブレーキ5FL〜5RRのうち車両に旋回内向きのモーメントを発生させる車輪ブレーキを選択するとともに選択された車輪ブレーキの第1の制御量YRRESを決定し、横滑り角速度検出手段12で検出される横滑り角速度が所定値を超える第2の状態では横滑り角速度に基づいて車両に旋回外向きのモーメントを発生させる車輪ブレーキを選択するとともに選択された車輪ブレーキの第2の制御量BDRESを決定し、第1および前記第2の状態が同時に発生しているときには正負が相互に逆である第1および第2の制御量YRRES,BDRESにそれぞれ個別に基づいて定めた第1および第2の協調制御用制御量Ky・YRRES,Kb・BDRESの絶対値のうち大きい方の値が対象とする車輪ブレーキを選択するとともに選択された車輪ブレーキの制御量を第1および第2の協調制御用制御量の合算値(Ky・YRRES,Kb+BDRES)として決定する。
【0029】
このような制御量決定手段13によれば、第1の状態すなわちアンダーステア抑制制御が必要な状態と、第2の状態すなわちスピン抑制制御が必要な状態とがともに発生しているとき、すなわちアンダーステア抑制制御が必要かつスピン抑制制御が必要な状態で旋回内向きおよび旋回外向きのモーメント制御が干渉することを防止し、スピン抑制制御中にも車両運転者の意志に基づくアンダーステア抑制制御を反映させてコントロール性の向上を図ることができる。
【0030】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】運動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】制御量決定手段での制御量決定手順を示すフローチャートである。
【図3】旋回外向きのモーメントを発生させる制御を実行するか否かを判断するための横滑り角速度の所定値を示す図である。
【図4】オーバーステア抑制制御、アンダーステア抑制制御およびスピン抑制制御を実行すべき領域を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
5FL,5FR,5RL,5RR・・・アクチュエータである車輪ブレーキ
6・・・操舵角検出手段
7・・・ヨーレート検出手段
9・・・車速検出手段
10・・・規範ヨーレート算出手段
11・・・ヨーレート偏差算出手段
12・・・横滑り角速度検出手段
13・・・制御量決定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による操舵角を検出する操舵角検出手段(6)と、車速を検出する車速検出手段(9)と、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段(7)と、車両の横滑り角速度を検出する横滑り角速度検出手段(12)と、前記操舵角検出手段(6)で検出された操舵角ならびに前記車速検出手段(9)で検出された車速に基づいて運転者の意図する規範ヨーレートを算出する規範ヨーレート算出手段(10)と、該規範ヨーレート算出手段(10)で算出された規範ヨーレートならびに前記ヨーレート検出手段(7)で検出された検出ヨーレートの偏差であるヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出手段(11)と、前記横滑り角速度検出手段(12)の検出値ならびに前記ヨーレート偏差算出手段(11)の算出値に基づいて車両に旋回モーメントを発生させるアクチュエータ(5FL,5FR,5RL,5RR)のうち必要なアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの制御量を定める制御量決定手段(13)とを備え、該制御量決定手段(13)は、前記規範ヨーレートの絶対値が前記検出ヨーレートの絶対値よりも設定値以上大きい第1の状態では前記ヨーレート偏差算出手段(11)で算出されたヨーレート偏差に基づいて前記アクチュエータのうち車両に旋回内向きのモーメントを発生させるアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの第1の制御量を決定し、前記横滑り角速度検出手段(12)で検出される横滑り角速度が所定値を超える第2の状態では前記横滑り角速度に基づいて前記アクチュエータ(5FL〜5RR)のうち車両に旋回外向きのモーメントを発生させるアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの第2の制御量を決定し、前記第1および前記第2の状態が同時に発生しているときには正負が相互に逆である前記第1および前記第2の制御量にそれぞれ個別に基づいて第1および第2の協調制御用制御量を定め、第1および第2の協調制御用制御量の絶対値のうち大きい方の協調制御用制御量が対象とするアクチュエータを選択するとともに選択されたアクチュエータの制御量を第1および第2の協調制御用制御量の合算値として決定することを特徴とする車両の運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−246006(P2007−246006A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74602(P2006−74602)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】