説明

車両ドア操作機構

【課題】モータの失陥等によるドアラッチ不能な非常時に迅速にドアラッチ可能な状態に復帰させることが可能な車両ドア操作機構の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の車両ドア操作機構100Kは、モータ動力伝達レバー120に形成されたL型長孔123と、ラチェット連動レバー130に形成されたI型長孔133と、I型長孔133及びL型長孔123を共に貫通してそれらI型長孔133及びL型長孔123内を移動可能な連結ピン134と、室内ロック操作部16の操作により連結ピン134をI型長孔133内の施錠位置と解錠位置とに移動させるロッキングレバー180とを備えている。モータ動力伝達レバー120及びラチェット連動レバー130が第1回動方向の回動終端位置で異常停止した状態で室内ロック操作部16を施錠操作すると連結ピン134が施錠位置に移動して、モータ動力伝達レバー120をラチェット連動レバー130から切り離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの動力を利用してラッチ・ラチェット機構によるドアの閉止保持(以下、適宜「ドアラッチ」という)を解除可能な車両ドア操作機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両ドア操作機構では、ドアラッチを解除した状態でモータが失陥等すると、再度、ドアラッチを行うことができなくなる。そのような非常時に対応可能な従来の車両ドア操作機構として、ドアの内部にモータ切り離し操作部を備えたものが知られている。この車両ドア操作機構では、ドアに貫通形成された操作孔にツールを挿し込んでモータ切り離し操作部を操作することで、上記した非常時にモータをラッチ・ラチェット機構から切り離して、ドアラッチ可能な状態に復帰させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31569号公報(段落[0079]、[0080]第11図〜第13図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の車両ドア操作機構では、モータ切り離し操作部及びその操作孔の存在を知らないために、非常時に修理関係者に連絡をしたり、車両マニュアルを調べたりする等の対応を強いられ、迅速にドアラッチ可能な状態に復帰させることができない事態が生じ得た。また、モータ切り離し操作部及びその操作孔の存在を知っていても、操作孔越しの困難な操作を強いられるために、迅速にドアラッチ可能な状態に復帰させることが難しかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、モータの失陥等によりドアの閉止保持が不可能な非常時に、迅速にドアの閉止保持が可能な状態に復帰させることが可能な車両ドア操作機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る車両ドア操作機構は、車両のドアを閉止状態に保持するラッチ・ラチェット機構のラチェットに連動し、ラッチ・ラチェット機構による閉止保持を解除する際に、メイン支持軸回りを原点位置から第1回動方向に回動するラチェット連動レバーと、ドアの室内面に配置された車内操作ハンドルの開操作による操作動力を受けてメイン支持軸回りを原点位置から第1回動方向に回動し、ラチェット連動レバーに第1回動方向を向いた動力を付与可能な車内ハンドル連動レバーと、ドアの室外面に配置された車外操作ハンドルの開操作による操作動力を受けてメイン支持軸回りを原点位置から第1回動方向に回動し、ラチェット連動レバーに第1回動方向を向いた動力を付与可能な車外ハンドル連動レバーとを備えると共に、車外ハンドル連動レバーにリリースモータを連結し、車内操作ハンドル又は車外操作ハンドルの開操作に起因してリリースモータが出力したモータ動力を、車外ハンドル連動レバーを経由してラチェット連動レバーに第1回動方向を向いた動力として付与することでドアの閉止保持の解除を補助可能とした車両ドア操作機構において、車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへの動力伝達経路の途中に設けられてドアの室内面に配置された室内ロック操作部の施解錠操作に伴って作動し、車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへと第1回動方向を向いた動力を伝達する動力伝達位置と、その動力の伝達を遮断する動力遮断位置との間を移動可能な動力中継部材を備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両ドア操作機構において、ラチェット連動レバーと車外ハンドル連動レバーの何れか一方のレバーに形成され、回動半径方向に延びたL型第1辺経路の一端部からメイン支持軸を中心とした円弧状のL型第2辺経路を延ばしてなるL型長孔と、ラチェット連動レバーと車外ハンドル連動レバーの何れか他方のレバーに形成され、ラチェット連動レバー及び車外ハンドル連動レバーが共に原点位置に配置された状態でL型第1辺経路に重ね合わさるI型長孔と、I型長孔及びL型長孔を共に貫通して、それらI型長孔及びL型長孔内を長手方向に沿って移動可能な動力中継部材としての連結ピンとを備え、I型長孔のうちL型第2辺経路から離れた端部を動力伝達位置とする一方、I型長孔のうちL型第2辺経路側の端部を動力遮断位置としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、ドアが閉止保持された状態で室内ロック操作部を操作して動力中継部材を動力遮断位置に移動すると、車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへの動力の伝達が遮断される。これにより、ドアの外側で車外ハンドルを操作してもドアを開くことができない施錠状態になる。一方、室内ロック操作部を操作して動力中継部材を動力伝達位置に移動すると、車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへと第1回動方向を向いた動力の伝達が可能になり、ドアの外側で車外ハンドルを操作してドアを開くことが可能な解錠状態になる。また、動力中継部材が動力伝達位置に配置されていれば、ドアが閉止保持された状態で車内操作ハンドル又は車外操作ハンドルが開操作されたときに、リリースモータからのモータ動力が車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーに伝達される。これにより、リリースモータによる補助を受けてドアの閉止保持を解除することができる。
【0009】
ここで、リリースモータの失陥やモータ動力の伝達経路の異常等により車外ハンドル連動レバーが第1回動方向の回動終端位置で異常停止して動かなくなり、ドアを閉止保持することができなくなった非常時には、室内ロック操作部を操作して動力中継部材を動力伝達位置から動力遮断位置に移動すればよい。すると、上記したように車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへの動力の伝達が遮断され、その結果、モータ動力の伝達経路に異常を有したリリースモータや失陥したリリースモータがラッチ・ラチェット機構から切り離される。これにより、ラチェット連動レバー及びラチェットが原点位置に戻ることができ、ドアの閉止保持が可能な状態に復帰する。
【0010】
このように本発明の車両ドア操作機構によれば、通常は、ドアの施解錠操作に使用される室内ロック操作部を、モータ切り離し操作の操作対象に兼用したので、リリースモータの失陥等によりドアの閉止保持が不可能となった非常時に、車両マニュアルを調べる等しなくても、試行錯誤によって室内ロック操作部の操作により迅速にドアの閉止保持が可能な状態に復帰させることができる。しかも、モータ切り離し操作のために従来のようにツールを必要とすることもないので、この点においても迅速にドアの閉止保持が可能な状態に復帰させることができる。また、モータ切り離し操作によりドアを閉止保持させた状態で、車内操作ハンドルを通常時と同じように開操作すれば、車内ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーに動力が付与されてドアの閉止保持が解除され、ドアを開けることが可能である。
【0011】
[請求項2の発明]
請求項2の発明では、動力中継部材としての連結ピンが、ラチェット連動レバーと車外ハンドル連動レバーの何れか一方と他方とに形成されたI型長孔及びL型長孔とに共に貫通している。そして、I型長孔とL型長孔のL型第1辺経路とは、共に回動半径方向に延び、L型長孔のL型第2辺経路は、ラチェット連動レバーと車外ハンドル連動レバーの回動中心であるメイン支持軸を中心とした円弧状になっているので、連結ピンが、I型長孔のうちL型第2辺経路から離れた端部の動力伝達位置に配置されたときに、車外ハンドル連動レバーとラチェット連動レバーとが一体回動して車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへと動力の伝達が可能になり、連結ピンが、I型長孔のうちL型第2辺経路側の端部の動力遮断位置に配置されたときに、車外ハンドル連動レバーとラチェット連動レバーとが一体回動不能になって、車外ハンドル連動レバーからラチェット連動レバーへの動力の伝達が遮断される。これにより、ラッチ・ラチェット機構に対するリリースモータの接続及び切り離しが可能になる。
【0012】
なお、L型長孔を車外ハンドル連動レバーに形成した場合には、L型第2辺経路をL型第1辺経路の一端部から第1回動方向とは逆向きに延ばして形成すればよい。また、L型長孔をラチェット連動レバーに形成した場合には、L型第2辺経路をL型第1辺経路の一端部から第1回動方向に延ばして形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両ドア操作機構を備えた車両の概念図
【図2】前側ドアロック装置、リモコン装置等を備えたスライドドアの概念図
【図3】ラッチとストライカが噛み合う前のラッチ・ラチェット機構の側面図
【図4】ラッチとストライカが噛み合った状態のラッチ・ラチェット機構の側面図
【図5】リモコン装置の正面図
【図6】リモコン装置の背面図
【図7】原点位置における車両ドア操作機構の正面図
【図8】原点位置における車両ドア操作機構(全開ロックレバーを除く)の正面図
【図9】原点位置におけラチェット連動レバー、車外ハンドル連動レバー、ロッキングレバーの正面図
【図10】車内操作ハンドルを閉操作したときの車両ドア操作機構の正面図
【図11】車内操作ハンドルを開操作したときの車両ドア操作装置の正面図
【図12】車外操作ハンドルを開操作又はリリースモータが作動したときの車両ドア操作機構の正面図
【図13】車外ハンドル連動レバーの異常停止後、室内ロックレバーを施錠操作したときの車両ドア操作装置の正面図
【図14】モータ切り離し操作後に車内操作ハンドルを開操作したときの車両ドア操作機構の正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図14に基づいて説明する。図1には、例えば、運転席側のドアにスライドドア90を用いた車両200が示されている。このスライドドア90は、例えば、車両本体99の昇降口を閉止した状態から斜め後方に後退しかつ、途中から真っ直ぐ後退して全開状態になる。スライドドア90を開閉操作するために、スライドドア90の室外面には車外操作ハンドル17(図5参照)が配置され、室内面には車内操作ハンドル18(図2参照)が配置されている。車外操作ハンドル17は、例えば、グリップ式ハンドルであって手前側に引いて操作する。また、スライドドア90の室内面には、車外操作ハンドル17及び車内操作ハンドル18が開操作されても開かないようにスライドドア90を施錠するための室内ロック操作部16が備えられている。車内操作ハンドル18及び室内ロック操作部16については後述する。
【0015】
図2に示すように、スライドドア90の内部には、スライドドア90を閉止状態に保持するための前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bと、全開状態に保持するための全開ドアロック装置10Cと、それらドアロック装置10A,10B,10Cと連結したリモコン装置100とが備えられている。
【0016】
各ドアロック装置10A,10B,10Cは、スライドドア90における所定各所に配置されており、これらに対応して、ドア枠99W(昇降口の枠)の内側面における三箇所にはストライカ40が設けられている(図1には、二箇所のストライカ40のみが示されている)。
【0017】
図3に示すように、前側ドアロック装置10Aは、ベース盤11に、ラッチ20、ラチェット30、ストライカ受容溝12等を有するラッチ・ラチェット機構20Kを設けた構成となっている。
【0018】
ストライカ受容溝12は水平方向に延びかつ、その一端部が車内側に向かって開放しており、他端部は閉じている。スライドドア90を閉じるとストライカ受容溝12の一端部からストライカ受容溝12内にストライカ40が進入する。
【0019】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より下方には、ラチェット30が回動可能に軸支されている。ラチェット30は、回動軸30Jからラッチ20に向かって突出している。ラチェット30とベース盤11との間にはトーションコイルバネ30Sが備えられ、このトーションコイルバネ30Sによってラチェット30が図3における反時計回り方向に付勢されている。また、ラチェット30は、ベース盤11を隔てて反対側にラチェット駆動レバー30Rを一体に備えており、そのラチェット駆動レバー30Rとリモコン装置100とがオープンケーブル91Wにて連結されている。オープンケーブル91Wは、トーションコイルバネ30Sによってラチェット30側に引っ張られており、トーションコイルバネ30Sの付勢力に抗してオープンケーブル91Wがリモコン装置100側に引っ張られると、ラチェット30が図3における時計回り方向に回動する。
【0020】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より上方にはラッチ20が回動可能に軸支されている。ラッチ20には、1対の係止爪21,22が備えられ、それら係止爪21,22の間がストライカ受容部23になっている。また、ラッチ20は、ベース盤11との間に設けたトーションコイルバネ20Sによりラッチ解除方向(図3における時計回り方向)に付勢されている。そして、スライドドア90を開けた状態では、図3に示すように、ラッチ20がラッチ解除方向の一端に位置決めされる。
【0021】
この状態でスライドドア90を閉方向にスライドさせると、ストライカ受容溝12に進入したストライカ40が図3に示すように、ラッチ20のストライカ受容部23内に受容されると共に、ストライカ40が後側の係止爪22を押してラッチ20がラッチ解除方向とは逆のラッチ方向(図3における反時計回り方向)に回動する。これにより、図4に示すようにラッチ20がストライカ40と噛み合った状態になる。
【0022】
またこのとき、ラッチ20の前側の係止爪21にラチェット30が当接して、ラッチ解除方向(図4における時計回り方向)へのラッチ20の回動が禁止される。即ち、ラッチ20がストライカ40と噛み合った状態に保持される。
【0023】
また、ラッチ20とストライカ40が噛み合った(スライドドア90が閉止保持された)状態で車外操作ハンドル17又は車内操作ハンドル18を開操作すると、オープンケーブル91Wがリモコン装置100側に引っ張られる。すると、図4において二点鎖線で示したように、ラチェット30が図4における時計回り方向に回動して、ラッチ20の回動領域の外側に退避し、ラチェット30によるラッチ20の回動規制が解除され、ラッチ解除方向へのラッチ20の回動が可能になる。
【0024】
以上が前側ドアロック装置10Aの説明であるが、後側ドアロック装置10Bにも、前側ドアロック装置10Aと同様に動作するラッチ・ラチェット機構(図示せず)が備えられている。後側ドアロック装置10Bのラチェットとリモコン装置100との間はオープンケーブル92W(図2参照)にて連結されており、スライドドア90の車外操作ハンドル17又は車内操作ハンドル18を開操作すると、オープケーブル92Wがリモコン装置100側に引っ張られて、ラチェットによるラッチの回動規制が解除される。
【0025】
そして、前側ドアロック装置10Aと後側ドアロック装置10Bの両方のラッチ・ラチェット機構20Kにおいて、ラチェット30によりラッチ20とストライカ40とが噛み合った状態(図4に示す状態)に保持されたとき、スライドドア90は閉止状態に保持(ドアラッチ)される。また、前側ドアロック装置10Aと後側ドアロック装置10Bの両方のラッチ・ラチェット機構20Kにおいて、ラチェット30によるラッチ20の回動規制が解除されると、スライドドア90の閉止保持が解除されて、スライドドア90を開ける(開方向にスライドさせる)ことが可能になる。
【0026】
全開ドアロック装置10Cにも前側ドアロック装置10Aと同様にラッチ・ラチェット機構が備えられている。このラッチ・ラチェット機構は、スライドドア90を全開状態にしたときに、ラッチとストライカ40とが噛み合うと共に、そのラッチにラチェットが当接してラッチ解除方向への回動を規制する。全開ドアロック装置10Cのラチェットとリモコン装置100との間はオープンケーブル93W(図2参照)にて連結されている。
【0027】
スライドドア90が全開状態のときに、車外操作ハンドル17又は車内操作ハンドル18を閉操作すると、オープンケーブル93Wがリモコン装置100側に引っ張られる。すると、ラチェットによるラッチの回動規制が解除され、全開状態のスライドドア90を閉める(閉方向にスライドさせる)ことが可能になる。
【0028】
さて、リモコン装置100は、図2に示すようにスライドドア90の前端寄り位置に配置されている。また、図5に示すようにリモコン装置100は、機構盤101に車両ドア操作機構100Kを設けた構成となっている。
【0029】
図6に示すように、機構盤101のうち車両ドア操作機構100Kとは反対側の面には、車内操作ハンドル18及び室内ロック操作部16が設けられている。機構盤101は、車内操作ハンドル18及び室内ロック操作部16が設けられた方の面をスライドドア90の室内側ドアパネルに内側から宛がって固定されている。
【0030】
車内操作ハンドル18は、上下方向に延びた縦長構造をなし、スライドドア90の室内面に露出している。車内操作ハンドル18は、スライドドア90のスライド方向に傾動可能となっている。具体的には、車内操作ハンドル18は、トーションコイルばね18A(図5参照)によって図6に示す原点位置に付勢されており、原点位置からスライドドア90の閉方向側(図6における左側)に傾動させる閉操作と、原点位置からスライドドア90の開方向側(図6における右側)に傾動させる開操作とを行うことが可能となっている。
【0031】
室内ロック操作部16は、車内操作ハンドル18の下方に配置され、スライドドア90の室内面に露出している。室内ロック操作部16は、スライドドア90のスライド方向に移動可能となっている。詳細は後述するが、室内ロック操作部16を図6に示した位置からスライドドア90の閉方向側に移動操作すると、車内操作ハンドル18及び車外操作ハンドル17によりスライドドア90を開けることが不可能な施錠状態になる。逆に、室内ロック操作部16を、スライドドア90の開方向側に移動操作して図6に示した位置にすると、車内操作ハンドル18又は車外操作ハンドル17によりスライドドア90を開けることが可能な解錠状態となる。以下、室内ロック操作部16をスライドドア90の閉方向側に移動操作することを「施錠操作」といい、室内ロック操作部16をスライドドア90の開方向側に移動操作することを「解錠操作」という。
【0032】
図5に示すように、車両ドア操作機構100Kは、機構盤101に近い側から順に、車外ハンドル連動レバー120、ラチェット連動レバー130、車内ハンドル連動レバー140、全開ロックレバー170を重ねて、それらを機構盤101から起立したメイン支持軸102に回動可能に軸支すると共に、機構盤101から起立したサブ支持軸103(図6参照)にロッキングレバー180を回動可能に軸支した構成となっている。例えば、ロッキングレバー180は樹脂製であり、その他のレバー120〜140,170は金属製である。以下、車両ドア操作機構100Kについて詳説する。
【0033】
図7には車両ドア操作機構100Kの主要部が示されている。同図に示すように、全開ロックレバー170は、メイン支持軸102から相反する方向に張り出した1対のレバー突片171,172を有している。一方のレバー突片172にはオープンケーブル93Wを介して全開ドアロック装置10Cのラチェットが連結されている(図2及び図5を参照)。他方のレバー突片171にはメイン支持軸102を中心とした円弧状の長孔175が貫通形成されている。その長孔175にはスライドブシュ175Bが摺動可能に支持され、そのスライドブシュ175Bに車内操作ハンドル18から延びたロッド105の末端が固定されている(図5参照)。車内操作ハンドル18を閉操作する(図6における左方向に傾ける)と、ロッド105が全開ロックレバー170側に押される。すると図7から図10への変化に示すように、全開ロックレバー170は、原点位置からメイン支持軸102回りを第1回動方向(図7における時計回り方向)に回動する。これにより、レバー突片172に連結されたオープンケーブル93Wがリモコン装置100側に引っ張られて、全開ドアロック装置10Cのラチェットによるラッチの回動規制が解除される。なお、車内操作ハンドル18を開操作すると、ロッド105が車内操作ハンドル18側に引かれるが、スライドブシュ175Bが長孔175内を移動するので、全開ロックレバー170は図7に示す原点位置に留まる。
【0034】
全開ロックレバー170には、スイッチ押下突片174が一体形成されている。スイッチ押下突片174は、機構盤101に固定されたスイッチ110(図5を参照)に向かって突出しており、全開ロックレバー170が第1回動方向に回動したときにスイッチ押下突片174がスイッチ110を押下するようになっている。
【0035】
図7に示すように、車内ハンドル連動レバー140は、全開ロックレバー170におけるレバー突片172に重ねられている。図8に示すように、車内ハンドル連動レバー140のうち、メイン支持軸102から離れた先端部には、メイン支持軸102を中心とした円弧状の長孔142が貫通形成されている。長孔142にはスライドブシュ142Bが摺動可能に支持されており、そのスライドブシュ142Bに車内操作ハンドル18から延びたロッド106の末端が固定されている(図5参照)。また、車内ハンドル連動レバー140は、機構盤101との間に連結されたコイルばね145(図5及び図6を参照)によって第1回動方向とは逆向きの第2回動方向(図8における反時計回り方向)に付勢されている。
【0036】
車内操作ハンドル18を開操作する(図6における右方向に傾ける)と、ロッド106が車内操作ハンドル18側に引っ張られる。すると、図8から図11への変化に示すように、車内ハンドル連動レバー140がメイン支持軸102回りを第1回動方向(図8における時計回り方向)に回動する。なお、車内操作ハンドル18を閉操作すると、ロッド106が車内ハンドル連結レバー140側に押されるが、スライドブシュ142Bが長孔142内を移動するので、車内ハンドル連動レバー140は図8に示す原点位置に留まる。
【0037】
車内ハンドル連動レバー140にはスイッチ押下突片143が一体形成されている。スイッチ押下突片143は、機構盤101に固定されたスイッチ111(図5を参照)に向かって突出しており、車内ハンドル連動レバー140が第1回動方向に回動したときに、スイッチ押下突片143がスイッチ111を押下するようになっている。
【0038】
ところで、スライドドア90が閉止保持された状態では、スライドドア90とドア枠99Wとの間で防音部材(図示せず)が押し潰され、その反力により前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの各ラチェット30とラッチ20とが摩擦係合した状態になる。一方、スライドドア90を開くには、これらラチェット30とラッチ20との摩擦抵抗に抗して前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの両ラチェット30を回動させる必要があり、手動操作で両ラチェット30を回動させる(ラッチ・ラチェット機構20Kにドアラッチを解除する)には、大きな力を必要とする。
【0039】
そこで、リモコン装置100にはラッチ・ラチェット機構20Kによるドアラッチの解除をアシストするためのリリースモータ60(図5参照)が備えられており、そのモータ動力が車外ハンドル連動レバー120を経由してラチェット連動レバー130に伝達されるようになっている。リリースモータ60は、車内操作ハンドル18又は車外操作ハンドル17の開操作に起因して作動する。また、リモコンキー等の遠隔操作によっても作動する。
【0040】
図8に示すように、車外ハンドル連動レバー120は、メイン支持軸102から車内ハンドル連動レバー140とは反対側に向かって延びている。車外ハンドル連動レバー120のうち、メイン支持軸102から離れた先端側部分には1対の長孔121,122が貫通形成されている。これら長孔121,122は共に、メイン支持軸102を中心とした円弧状をなしており、その内側にスライドブシュ121B,122Bが摺動可能に支持されている(図5参照)。
【0041】
車外ハンドル連動レバー120のうち、メイン支持軸102に近い方の長孔122に支持されたスライドブシュ122Bには、リリースモータ60から延びたオープンケーブル95Wの末端が連結されている(図5参照)。リリースモータ60が作動すると、そのもモータ動力によりオープンケーブル95Wがリリースモータ60側に引っ張られる。これにより、車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向(図9における時計回り方向)に回転駆動される。
【0042】
また、図5に示すように、メイン支持軸102から遠い方の長孔121に支持されたスライドブシュ121Bには、車外操作ハンドル17から延びたオープンケーブル94Wの末端が連結されている。車外操作ハンドル17を開操作する(手前に引く)と、その操作動力によってオープンケーブル94Wが車外操作ハンドル17側に引っ張られて、車外ハンドル連動レバー120がメイン支持軸102回りを第1回動方向に回動するようになっている。つまり、車外ハンドル連動レバー120は、リリースモータ60のモータ動力及び車外操作ハンドル17の開操作による操作動力の両方を受けて、第1回動方向に回動するようになっている。
【0043】
車外ハンドル連動レバー120のうち、1対の長孔121,122よりメイン支持軸102に近い部分には、L型長孔123が貫通形成されている。図9に示すように、L型長孔123は、回動半径方向に延びたL型第1辺経路123Aと、そのL型第1辺経路123Aのうちメイン支持軸102から離れた端部から第2回動方向に延びたL型第2辺経路123Bとからなる。このL型長孔123を後述する連結ピン134が貫通している。
【0044】
ここで、車外ハンドル連動レバー120のうち第1回動方向を向いた側縁部からは全開ロックレバー170に向かって(図9の紙面手前側に向かって)連動当接突片125が直角に曲げ起こされている。この連動当接突片125に対応して、全開ロックレバー170のレバー突片171のうち第1回動方向側を向いた側縁部からは、図7に示すように車外ハンドル連動レバー120に向かって(図7の紙面奥側に向かって)連動当接突片173が直角に曲げ起こされている。
【0045】
リリースモータ60のモータ動力又は車外操作ハンドル17の開操作による操作動力により、車外ハンドル連動レバー120がメイン支持軸102回りを第1回動方向に回動すると、連動当接突片125,173同士が当接することにより、全開ロックレバー170が車外ハンドル連動レバー120に押され、それら両レバー120,170が第1回動方向に一体回転する。また、連動当接突片125,173同士が当接することで、車外ハンドル連動レバー120は、全開ロックレバー170を介してコイルばね176の付勢力を受けることになり、第2回動方向に付勢される。そして、車外ハンドル連動レバー120及び全開ロックレバー170は、車外ハンドル連動レバー120が機構盤101のストッパ104(図5を参照)と当接した原点位置(図7及び図8参照)に位置決めされている。
【0046】
図9に示すように、ラチェット連動レバー130はメイン支持軸102から相反する方向に向かって延びた1対のレバー突片131,132とを有している。これら1対のレバー突片131,132のうち、全開ロックレバー170のレバー突片172と同じ側に延びたレバー突片131の先端部には、オープンケーブル91W,92Wを介して前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの各ラチェット30が連結されている(図5参照)。
【0047】
1対のレバー突片131,132のうち、車外ハンドル連動レバー120と重なったレバー突片132の先端部には、回動半径方向に延びたI型長孔133が貫通形成されている。I型長孔133は、レバー突片132のうちメイン支持軸102から離れた先端寄り部分に形成されている。I型長孔133は、車外ハンドル連動レバー120及びラチェット連動レバー130が共に原点位置に位置するときに、L型長孔123のL型第1辺経路123Aと重ね合わせ可能となっており、I型長孔133とL型長孔123とを共通の連結ピン134が貫通している。連結ピン134は、I型長孔133に支持されると共にI型長孔133の長手方向に延びた1対の側辺にガイドされてI型長孔133及びL型長孔134の長手方向に往復動可能となっている。なお、連結ピン134は、断面円形状になっていたが、直線長孔133の幅に対応した断面矩形状にしてもよい。連結ピン134は、本発明の「動力中継部材」に相当する。
【0048】
図9に示すように、ラチェット連動レバー130には動力伝達突片136が一体形成されている。動力伝達突片136は、車内ハンドル連動レバー140に対して第1回動方向の前方に配置されている。動力伝達突片136の先端部は車内ハンドル連動レバー140側(図9の紙面手前側)に曲げ起こされており、原点位置から第1回動方向に回動した車内ハンドル連動レバー140と当接可能となっている。即ち、車内操作ハンドル18が開操作された場合に、車内ハンドル連動レバー140に押されてラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動するようになっている。
【0049】
動力伝達突片136とメイン支持軸102との間にはトーションコイルばね129が備えられ、そのトーションコイルばね129によってラチェット連動レバー130は第2回動方向(図9における反時計回り方向)に付勢されている。そして、レバー突片131の先端部に備えたストッパ部135が機構盤101と当接することで(図5及び図6参照)、ラチェット連動レバー130が図8に示す原点位置に位置決めされている。なお、原点位置に位置する状態で、車内ハンドル連動レバー140と動力伝達突片136は、近接或いは接触するように配置されている。
【0050】
図9に示すように、ラチェット連動レバー130には、スイッチ押下突片138が一体形成されている。スイッチ押下突片138は機構盤101に固定されたスイッチ111(図5参照)に向かって突出しており、ラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動したときに、スイッチ押下突片138がスイッチ111を押下するようになっている。そして、スイッチ押下突片138がスイッチ111を押下したことでもって、車内操作ハンドル18又は車外操作ハンドル17が開操作されたことを検出するようになっている。
【0051】
図5に示すように、機構盤101には、連結ピン134をI型長孔133の長手方向で移動させるためのロッキングレバー180及びロッキングアクチュエータ185が組み付けられている。ロッキングレバー180は、サブ支持軸103からロッキングアクチュエータ185に向かって突出したレバー突片181と、サブ支持軸103から連結ピン134に向かって突出したレバー突片182とを有している(図9参照)。
【0052】
ロッキングレバー180における一方のレバー突片182には、円弧状の連結ピン貫通長孔183が貫通形成されている。連結ピン貫通長孔183はI型長孔133及びL型長孔123と重ね合わせ可能となっており連結ピン134が移動可能に貫通している。
【0053】
ロッキングアクチュエータ185は、遠隔操作(例えば、リモコンキー又は車内の集中ドアロックボタンの操作)により作動する電動モータを主要部とし、その出力レバー186(図5参照)がロッキングレバー180のレバー突片181にピン(図示せず)及び長孔184を介して連結されている。また、出力レバー186と室内ロック操作部16の間は、室内ロック操作部16の施解錠操作によって出力レバー186が往復回動するように連結されている(図5参照)。
【0054】
室内ロック操作部16の施解錠操作を行うか又は、ロッキングアクチュエータ185が作動すると、ロッキングレバー180がサブ支持軸103回りに回動して、連結ピン134がI型長孔133のうちメイン支持軸102側の端部の動力伝達位置(図8の実線で示す位置)と、I型長孔133のうちL型第2辺経路123B側の端部の動力遮断位置(図8の二点鎖線で示す位置)との間を移動する。
【0055】
例えば、室内ロック操作部16を解錠操作すると、その操作動力によりロッキングレバー180がサブ支持軸103回りを図8における時計回り方向に回動して、連結ピン134が動力遮断位置から動力伝達位置に移動する。この動力伝達位置で、連結ピン134はI型長孔133とL型第1辺経路123Aとを貫通するので、ラチェット連動レバー130と車外ハンドル連動レバー120とが連結ピン134により一体回転可能に連結される。
【0056】
これに対し、例えば、室内ロック操作部16を施錠操作(スライドドア90の閉方向に移動操作)すると、その操作動力によりロッキングレバー180がサブ支持軸103回りを図8における反時計回り方向に回動して、連結ピン134が動力伝達位置から動力遮断位置に移動する。このとき、連結ピン貫通長孔183はL型第2辺経路123Bと重なり、連結ピン134はI型長孔133とL型第2辺経路123Bとを貫通してL型第2辺経路123B内を長手方向に移動可能となる。即ち、車外ハンドル連動レバー120とラチェット連動レバー130は相対回転可能に切り離される。よって、車外ハンドル連動レバー120がメイン支持軸102回りを第1回動方向に回動した場合に、その動力がラチェット連動レバー130に伝達されず、ラチェット連動レバー130は図8に示す原点位置に留まることになる。
【0057】
本実施形態の構成は以上であり、次に、車両ドア操作機構100Kの動作について説明する。スライドドア90が全開状態のときに、車内操作ハンドル18を原点位置から閉操作する(閉方向側に傾動させる)と、その操作動力によってロッド105が直動し、図7から図10への変化に示すように、ロッド105に押されて全開ロックレバー170がメイン支持軸102回りを第1回動方向に回動する。すると、全開ロックレバー170(レバー突片172)に連結されたオープンケーブル93W(図5参照)がリモコン装置100側に引っ張られ、全開ドアロック装置10Cのラッチ・ラチェット機構によるスライドドア90の全開保持が解除される。これにより、スライドドア90を全開状態から閉方向にスライドさせることが可能になる。
【0058】
スライドドア90が全開状態のときに車外操作ハンドル17を閉操作する(手前に引く)と、その操作動力によりオープンケーブル94Wが引かれて車外ハンドル連動レバー120がメイン支持軸102回りを第1回動方向に回動し、車外ハンドル連動レバー120の連動当接突片125が全開ロックレバー170の連動当接突片173を第1回動方向に押す。これにより、全開ロックレバー170が第1回動方向に回動して、全開ドアロック装置10Cによるスライドドア90の全開保持が解除される。
【0059】
スライドドア90が全開状態のときに、車内操作ハンドル18や車外操作ハンドル17を操作せずに遠隔操作(リモコンキー又は車内のドア開閉ボタンを操作)を行うと、リリースモータ60が作動し、そのモータ動力を受けて車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向に回転駆動される。すると、全開ロックレバー170が車外ハンドル連動レバー120に押されて第1回動方向に回動し、全開ドアロック装置10Cによるスライドドア90の全開保持が解除される。
【0060】
次に、ドアロックを解錠状態(連結ピン134を動力伝達位置)にして、ラッチ・ラチェット機構20Kにより閉止保持されたスライドドア90を開けるための操作を行った場合の車両ドア操作機構100Kの動作を説明する。
【0061】
図8から図11への変化に示すように、車内操作ハンドル18を原点位置から開操作すると、その操作動力を受けて車内ハンドル連動レバー140が第1回動方向に回動し、さらに車内ハンドル連動レバー140に押されてラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動する。また、車内操作ハンドル18の開操作(ラチェット連動レバー130によるスイッチ111の押下)に起因してリリースモータ60が作動し、車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向に回転駆動される。すると、リリースモータ60のモータ動力が、車外ハンドル連動レバー120を介してラチェット連動レバー130に伝達され、ラチェット連動レバー130の第1回動方向への回動がリリースモータ60のモータ動力によってアシストされる。
【0062】
ラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動することでオープンケーブル91W,92Wがリモコン装置100側に引っ張られる。そして、ラチェット連動レバー130及び車外ハンドル連動レバー120が、原点位置から第1回動方向に離れた回動終端位置(図11に示す位置)に至ると、前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの各ラッチ・ラチェット機構20Kにおいて、ラチェット30によるラッチ20の回動規制が解除される(図3を参照)。即ち、リリースモータ60の補助を受けてスライドドア90の閉止保持が解除され、スライドドア90を開方向にスライドさせることが可能になる。
【0063】
図8から図12への変化に示すように、車外操作ハンドル17を開操作する(手前に引く)と、その操作動力によって車外ハンドル連動レバー120とラチェット連動レバー130とが第1回動方向に一体回転する。また、車外操作ハンドル17の開操作(ラチェット連動レバー130によるスイッチ111の押下)に起因してリリースモータ60が作動し、車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向に回転駆動される。以下、車内操作ハンドル18を開操作した場合と同様に、リリースモータ60の補助を受けてラチェット連動レバー130が第1回動方向の回動終端位置まで回動し、前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bに備えた各ラッチ・ラチェット機構20Kによるスライドドア90の閉止保持が解除される。
【0064】
車内操作ハンドル18や車外操作ハンドル17の開操作ではなく、リモコンキーやドア開閉ボタンによる遠隔操作を行った場合は、原点位置から第1回動方向の回動終端位置に至るまで、リリースモータ60のモータ動力だけで車外ハンドル連動レバー120及びラチェット連動レバー130が回転駆動される。そして、上述したように前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの各ラッチ・ラチェット機構20Kによるスライドドア90の閉止保持が解除される。
【0065】
ドアロックが施錠状態(連結ピン134を図8の二点鎖線で示す位置)のときに車内操作ハンドル18を開操作すると、解錠状態のときと同様に、その操作動力によって車内ハンドル連動レバー140及びラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動し、前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bの各ラッチ・ラチェット機構20Kによるスライドドア90の閉止保持が解除される。つまり、本実施形態の車両ドア操作機構100Kでは、車内操作ハンドル18を開操作すれば、ドアロックの施解錠状態(連結ピン134の位置)とは無関係に、常にスライドドア90を開けることが可能となっている。なお、このときも、車内操作ハンドル18の開操作を起因にしてリリースモータ60が作動し、車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向に回転駆動されるが、連結ピン134はI型長孔133の動力遮断位置に保持された状態でL型第2辺経路123Bを移動するため、リリースモータ60のモータ動力はラチェット連動レバー130に伝達されない。つまり、ドアロックが施錠状態のときは、車内操作ハンドル18の開操作による操作動力だけでスライドドア90の閉止保持が解除されることになる。
【0066】
ドアロックが施錠状態のときに、車外操作ハンドル17を開操作又は遠隔操作を行った場合、操作動力又はモータ動力が車外ハンドル連動レバー120が第1回動方向に回動するが、このとき、連結ピン134はI型長孔133の動力遮断位置に保持されたまま、L型第2辺経路123B内を移動するため、車外ハンドル連動レバー120からラチェット連動レバー130への動力の伝達が遮断され、ラチェット連動レバー130は図8に示す原点位置に留まる。よって、前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bによるスライドドア90の閉止保持が維持される。
【0067】
さて、図11及び図12に示すように、車外ハンドル連動レバー120及びラチェット連動レバー130が原点位置から第1回動方向に離れた回動終端位置に位置した状態で、リリースモータ60の失陥やモータ動力の伝達経路の異常等により、車外ハンドル連動レバー120及びラチェット連動レバー130が動かなくなると、ラッチ・ラチェット機構20Kが、スライドドア90の閉止保持を解除した状態(即ち、ラチェット30が図4において二点鎖線で示す位置)から元に戻らなくなる。
【0068】
このような非常時には、室内ロック操作部16を施錠操作すればよい。すると、連結ピン134が動力伝達位置から動力遮断位置に移動してL型長孔123におけるL型第2辺経路123B内を長手方向に移動可能となる。即ち、車外ハンドル連動レバー120からラチェット連動レバー130への動力の伝達が遮断されて、モータ動力の伝達経路に異常を有したリリースモータ60や失陥したリリースモータ60がラッチ・ラチェット機構20Kから切り離される。すると、図13に示すように、トーションコイルばね129の付勢力によってラチェット連動レバー130が第2回動方向に回動して原点位置に復帰する。このとき、連結ピン134は、I型長孔133の動力遮断位置を保持したままL型第2辺経路123B内をL型第1辺経路123Aから離れる側に移動する。これにより、オープンケーブル91W,92Wが前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bに備えたラッチ・ラチェット機構20K側に戻されて、それらラッチ・ラチェット機構20Kを、スライドドア90の閉止保持が可能な状態に復帰させることができる。
【0069】
また、上述したリリースモータ60の切り離し操作により閉止保持されたスライドドア90は、車内操作ハンドル18を通常時と同じように開操作することで開けることができる。即ち、車外ハンドル連動レバー120が回動終端位置で異常停止しかつモータ切り離し操作が行われた後の状態で車内操作ハンドル18を開操作すると、図13から図14への変化に示すように、車内操作ハンドル18が第1回動方向に回動してラチェット連動レバー130を第1回動方向に押す。このとき、連結ピン134がL型第2辺経路123B内をL型第1辺経路123Aに向かって移動することで、ラチェット連動レバー130が第1回動方向に回動して、オープンケーブル91W,92Wがリモコン装置100側に引っ張られ、前側ドアロック装置10A及び後側ドアロック装置10Bのラッチ・ラチェット機構20Kによるスライドドア90の閉止保持を解除することができる。
【0070】
このように、本実施形態の車両ドア操作機構100Kによれば、通常は、スライドドア90の施解錠操作に使用される室内ロック操作部16を、モータ切り離し操作の操作対象として兼用したので、リリースモータ60の失陥等によりスライドドア90の閉止保持が不可能となった非常時に、車両マニュアルを調べる等しなくても、試行錯誤によって室内ロック操作部16の操作により迅速にスライドドア90の閉止保持が可能な状態に復帰させることができる。しかも、モータ切り離し操作のために従来のようにツールを必要とすることもないので、この点においても迅速にドアの閉止保持が可能な状態に復帰させることができる。また、モータ切り離し操作によりスライドドア90を閉止保持させた状態で、車内操作ハンドル18を通常時と同じように開操作すれば、車内ハンドル連動レバー140からラチェット連動レバー130に操作動力が付与されてスライドドア90の閉止保持が解除され、スライドドア90を開けることが可能である。
【0071】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0072】
(1)上記実施形態では、ラチェット連動レバー130にI型長孔133を形成し、車外ハンドル連動レバー120にL型長孔123を形成していたが、ラチェット連動レバー130にL型長孔を形成し、車外ハンドル連動レバー120にI型長孔を形成してもよい。ラチェット連動レバー130にL型長孔を形成する場合は、L型第1辺経路のメイン支持軸102から離れた端部から第1回動方向にL型第2辺経路を延ばせばよい。
【0073】
(2)上記実施形態では、全開ロックレバー170が備えられていたが、全開ドアロック装置10Cが搭載されていない場合には、全開ロックレバー170を省いてもよい。
【0074】
(3)上記実施形態では、車外操作ハンドル17の操作動力とリリースモータ60のモータ動力とが共に車外ハンドル連動レバー120に入力するようになっていたが、リリースモータ60の操作に連動して第1回動方向に回動し、車外ハンドル連動レバー120及びラチェット連動レバー130に第1回動方向を向いたモータ動力を付与可能なモータ動力伝達レバーを、車外ハンドル連動レバー120とは別部品にして設けてもよい。但し、上記実施形態の構成は、車外ハンドル連動レバー120がモータ動力伝達レバーを兼用した構成になっているので、部品点数を抑えることができるという点で優れる。
【0075】
(4)上記実施形態では、運転席側のスライドドア90に対して本発明の車両ドア操作機構100Kを搭載していたが、助手席や後席のスライドドアに対して本発明の車両ドア操作機構を搭載してもよい。また、ヒンジ式のドアに本発明の車両ドア操作機構を搭載してもよい。
【符号の説明】
【0076】
16 室内ロック操作部
18 車内操作ハンドル
17 車外操作ハンドル
20K ラッチ・ラチェット機構
60 リリースモータ
90 スライドドア
100K 車両ドア操作機構
102 メイン支持軸
120 車外ハンドル連動レバー
123 L型長孔
123A L型第1辺経路
123B L型第2辺経路
129 トーションコイルばね
130 ラチェット連動レバー
133 I型長孔
134 連結ピン(動力中継部材)
140 車内ハンドル連動レバー
200 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアを閉止状態に保持するラッチ・ラチェット機構のラチェットに連動し、前記ラッチ・ラチェット機構による閉止保持を解除する際に、メイン支持軸回りを原点位置から第1回動方向に回動するラチェット連動レバーと、
前記ドアの室内面に配置された車内操作ハンドルの開操作による操作動力を受けて前記メイン支持軸回りを原点位置から前記第1回動方向に回動し、前記ラチェット連動レバーに前記第1回動方向を向いた動力を付与可能な車内ハンドル連動レバーと、
前記ドアの室外面に配置された車外操作ハンドルの開操作による操作動力を受けて前記メイン支持軸回りを原点位置から前記第1回動方向に回動し、前記ラチェット連動レバーに前記第1回動方向を向いた動力を付与可能な車外ハンドル連動レバーとを備えると共に、
前記車外ハンドル連動レバーにリリースモータを連結し、前記車内操作ハンドル又は前記車外操作ハンドルの開操作に起因して前記リリースモータが出力したモータ動力を、前記車外ハンドル連動レバーを経由して前記ラチェット連動レバーに前記第1回動方向を向いた動力として付与することで前記ドアの閉止保持の解除を補助可能とした車両ドア操作機構において、
前記車外ハンドル連動レバーから前記ラチェット連動レバーへの動力伝達経路の途中に設けられて前記ドアの室内面に配置された室内ロック操作部の施解錠操作に伴って作動し、前記車外ハンドル連動レバーから前記ラチェット連動レバーへと前記第1回動方向を向いた動力を伝達する動力伝達位置と、その動力の伝達を遮断する動力遮断位置との間を移動可能な動力中継部材を備えたことを特徴とする車両ドア操作機構。
【請求項2】
前記ラチェット連動レバーと前記車外ハンドル連動レバーの何れか一方のレバーに形成され、回動半径方向に延びたL型第1辺経路の一端部から前記メイン支持軸を中心とした円弧状のL型第2辺経路を延ばしてなるL型長孔と、
前記ラチェット連動レバーと前記車外ハンドル連動レバーの何れか他方のレバーに形成され、前記ラチェット連動レバー及び前記車外ハンドル連動レバーが共に原点位置に配置された状態で前記L型第1辺経路に重ね合わさるI型長孔と、
前記I型長孔及び前記L型長孔を共に貫通して、それらI型長孔及びL型長孔内を長手方向に沿って移動可能な前記動力中継部材としての連結ピンとを備え、
前記I型長孔のうち前記L型第2辺経路から離れた端部を前記動力伝達位置とする一方、前記I型長孔のうち前記L型第2辺経路側の端部を前記動力遮断位置としたことを特徴とする請求項1に記載の車両ドア操作機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−67568(P2012−67568A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215658(P2010−215658)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000100827)アイシン機工株式会社 (122)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】