説明

車両ドア用のウォータプルーフフィルム

【課題】石油由来材料をできる限り用いることなく、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる、車両ドア用のウォータプルーフフィルムを提供する。
【解決手段】車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装される車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分とから成るジカルボン酸成分と、グリコール成分とを構成成分として有するポリエステルにより形成され、該芳香族ジカルボン酸成分は、70〜95モル%であり、該脂肪族ジカルボン酸成分は、5〜30モル%であり且つ炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を有し、該グリコール成分は、炭素数が10以下から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来材料を用いた、車両ドア用のウォータプルーフフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のドアにおいて、インナパネルとドアトリムとの間にウォータプルーフフィルムを介装し、車両の外部からインナパネルに形成された穴部を通じてドアトリム側(即ち、車室側)に水が浸入することを防ぐ技術が知られている。なお、このようなウォータプルーフフィルムについては、以下の特許文献1などにその技術が開示されている。
そして、このウォータプルーフフィルムは、例えば、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)といった石油に由来する材料(石油由来材料)で作られるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、近年は地球環境への悪影響が少ない材料を使用することが強く求められており、PEやPVCといった石油由来材料に換えて、植物に由来する材料(植物由来材料)によりウォータプルーフフィルムを作ることが求められている。また生分解性材料はポリマーの構造上、将来的に石油に由来する材料(石油由来材料)から植物に由来する材料(植物由来材料)に置き換えられる可能性があり、更に地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能である。
【0004】
そこで、当初、本発明者らは、植物由来の材料であるダイマー酸を用いてウォータプルーフフィルムを作ることを検討し、考察を重ねた。
【特許文献1】実開平1−73017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的なポリエステルにより作られたウォータプルーフフィルムは、硬質であるために、異音を発生しやすいという課題がある。つまり、走行による振動、或いは、ドアに装着されたカーオーディオのスピーカによる振動などの原因により、ウォータプルーフフィルムからは異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合があり、一般的なポリエステル製のウォータプルーフフィルムでは、このような異音を抑制することが困難である。
【0006】
かつ、車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間の空間は雨水の侵入と直射日光の照射によって高温多湿となり、一般的なポリエステル製のウォータプルーフフィルムでは、加水分解を抑制することが困難である。
他方、上述したPEやPVCにより形成されたウォータプルーフフィルムであれば、このような異音は発生しにくいという利点はあるが、地球環境の保護という観点からは、石油由来材料であるPEやPVCをできる限り用いないようにすることが望まれる。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、石油由来材料をできる限り用いないようにしながら、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる、車両ドア用のウォータプルーフフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルム(請求項1)は、車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装される車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分とから成るジカルボン酸成分と、グリコール成分とを構成成分として有するポリエステルにより形成され、該芳香族ジカルボン酸成分は、70〜95モル%であり、該脂肪族ジカルボン酸成分は、5〜30モル%であり且つ炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を有し、該グリコール成分は、炭素数が10以下であることを特徴としている。
【0009】
また、請求項2記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1に記載の内容において、弾性率が150MPa以下であることを特徴としている。
また、請求項3記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1または2に記載の内容において、該脂肪族ジカルボン酸成分が、ダイマー酸またはダイマー酸誘導体を有し、且つ、該グリコール成分が、発酵法によって合成される1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオールを有することを特徴としている。
【0010】
また、請求項4記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の内容において、末端カルボキシル基封鎖剤として、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1つが用いられることを特徴としている。
また、請求項5記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の内容において、添加剤としてのリン化合物として、リン酸、リン酸エステル、リン酸金属塩から選ばれる少なくとも1つが用いられ、該フィルム中には、20ppm以上150ppm以下のリン原子が含有されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムによれば、ポリエステルを特定の構造とすることにより、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる。(請求項1)
ポリエステルの弾性率を150MPa以下とすることによりウォータプルーフフィルムからの異音(いわゆる、ビビリ音)を抑制することができる。(請求項2)
また、植物由来材料を用いることで地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能となり、ポリエステルを構成する脂肪族ジカルボン酸成分およびグリコール成分を特定の構成とすることで、環境性能と車両ドアウォータプルーフフィルムとしての必要性能、即ち、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐという性能とを両立させることができる。(請求項3)
また、末端カルボキシル基封鎖剤を用いて改質することで、加水分解の原因となるカルボオニル基を減少させることができる。(請求項4)
また、添加剤としてリン化合物を用い、フィルム中に20ppm以上150ppm以下のリン原子を含有させて改質することで、加水分解の原因となるカルボニル基の増加を抑制することができる。(請求項5)
また、必要に応じて各種粒子や添加剤を加えることで、フィルム間の粘着性を抑制し、取扱い性や工程内作業性を良好なものとすることができる。(請求項6)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
なお、以下の説明において、ある原料モノマーに由来するポリマーの繰り返し単位を表わす場合に、その原料モノマーの化合物名に「単位」という言葉を付して表わす場合がある。例えば、ダイマー酸に由来する繰り返し単位は「ダイマー酸単位」という。
【0013】
〔I ポリエステル〕
本発明の車両用ウォータプルーフフィルム(以下、適宜、「本発明のウォータプルーフフィルム」という)に使用されるポリエステルとしては、特に制限されるものではないが、通常は以下に規定するものを用いる。
【0014】
〔I−A 構造〕
本発明におけるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分および脂肪族ジカルボン酸成分とグリコール成分とで構成され、グリコールとジカルボン酸とがエステル結合により交互に結合した構造を有する。さらに詳しくは、ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸成分70〜95モル%と、炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分5〜30モル%から構成され、グリコール成分として炭素数が10以下のグリコール成分を少なくとも1種以上含有している必要がある。
【0015】
上記ポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸成分は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸成分の中で、より好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ポリエステルの全ジカルボン酸中の芳香族ジカルボン酸の含有量は、70〜95モル%である必要があり、より好ましくは、75〜93モル%、特に好ましくは、80〜90モル%である。
【0016】
芳香族ジカルボン酸を70〜95モル%含有することにより、耐熱性を高め、温度条件による物性変化の低減できる。
さらには、脂肪族ジカルボン酸成分による柔軟化効果を高めるために、芳香族ジカルボン酸成分は2種以上から構成されることが好ましい。例えば、テレフタル酸とイソフタル酸から構成され、全ジカルボン酸中のイソフタル酸の含有量は、10〜30モル%が好ましく、より好ましくは15〜25モル%の範囲である。特に脂肪族ジカルボン酸成分量を10モル%未満とする必要がある場に、芳香族ジカルボン酸成分を2種以上とすることが好ましい。
【0017】
上記ポリエステルにおいて、脂肪族ジカルボン酸成分は、下記式(1)で示される炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする必要がある。炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を用いることにより、効率的に柔軟性が付与でき、また疎水性を高めた構造とすることができる。好ましくは炭素数10〜30の不飽和脂肪酸から得られる誘導体である。脂肪族ジカルボン酸成分は、主として不飽和脂肪酸の二量化により得られる二量化脂肪酸(以下二量体と略称する)あるいは二量体のエステル形成誘導体から得られる。
【0018】
CH3(CH2)m(CH=CH−CH2)k(CH2)nCOOR ・・・(1)
(式中のRは、水素原子またはアルキル基、mは1〜25の整数、kは1〜5の整数、nは0〜25の整数、m、kおよびnは、8≦m+3k+n≦28の関係式を満足する。)
この不飽和脂肪酸の二量化反応においては、二量体とともに不飽和脂肪酸の三量化により得られる三量化脂肪酸(以下三量体と略称する)も生成する。よって不飽和脂肪酸の二量化反応により得られる脂肪族ジカルボン酸誘導体中には、二量体、三量化された三量体及び未反応であった単量体が含まれている。
【0019】
この脂肪族ジカルボン酸誘導体を複数回の蒸留等の精製を行うことで、二量体量が95%以上、さらには98%以上の高純度脂肪族ジカルボン酸誘導体を得ることが可能である。高純度脂肪族ジカルボン酸誘導体を用いる場合、色調の面で良好なポリエステルを得ることが可能である。しかし、蒸留工程によって脂肪族ジカルボン酸誘導体のコストが著しく大きくなるため、脂肪族ジカルボン酸共重合ポリエステルの色調とコストの点で良好とする範囲としては、脂肪族ジカルボン酸誘導体中の、二量体、三量体の比率がそれぞれ70〜90重量%、10〜30重量%であることが好ましい。
【0020】
また、本発明のポリエステルの製造時において使用される脂肪族ジカルボン酸誘導体には、不飽和脂肪酸の二量化反応により生成する不飽和結合が存在するが、これをそのまま重合原料として使用しても、水素添加反応により還元させた後に使用しても構わない。しかし、特に耐熱性、耐候性ならびに透明性が要求される場合には、水素添加により不飽和結合をなくした二量体を用いることが好ましい。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸成分として、具体的には、炭素数36の二量体であるダイマー酸およびダイマー酸をエステル化したダイマー酸誘導体が好ましい。ダイマー酸は、リノール酸やリノレイン酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化して得られるものであり、例えば、クローダ・インターナショナル社から“プリポール”(“PRIPOL”)、あるいはこれらの各種エステル形成誘導体が市販されている。上記化合物の1種あるいは2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明におけるダイマー酸とは、炭素数16以上の不飽和脂肪族カルボン酸の二量体をいう。このダイマー酸は、例えば、大豆油や菜種油、牛脂、トール油などの非石油原料から抽出された炭素数16以上の不飽和カルボン酸(例えば、リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物を粘土触媒を用い、二量体化して得ることができる。
【0023】
ダイマー酸は種々の方法で製造可能であり、例えば、230〜250℃の範囲で粘土触媒、助触媒としてのリチウム塩の存在下で1〜3時間反応を行った後、リン酸水溶液を加えて触媒をリン酸塩とし、濾過によりリン酸金属塩を除去、回転薄膜式蒸留によって不飽和脂肪族カルボン酸を分離することによって製造することができる。
ダイマー酸の色調は、ガードナー色差計での値で、1.0以下であることが好ましい。ガードナー色差計で1.0を超えるとポリエステル組成物のb値(黄味)が高くなり、外観が損なわれる可能性がある。ガードナー色差計で1.0以下のダイマー酸を得るには、原料を選択したり、不飽和脂肪酸を精製することで可能であるが、更に低くしたい場合には、合成時の反応を緩やかに行ったり(反応温度を下げ時間をかける)、蒸留条件を厳しくすることで得ることができる。
【0024】
本発明のポリエステル中の脂肪族ジカルボン酸成分の量が、全ジカルボン酸成分中の5〜30モル%が好ましく、より好ましくは5〜25%であり、さらに好ましくは5〜20モル%である。共重合ポリエステル中の脂肪族ジカルボン酸成分の量が、全ジカルボン酸成分中の30モル%を超えると、柔軟性が優れるものの、ポリマーカット性の悪化など生産性が低下するほか、ウォータプルーフフィルムとする場合に表面の粘着性が過大となるので好ましくない。逆に共重合ポリエステル中の脂肪族ジカルボン酸成分の量が、全ジカルボン酸成分中の5モル%未満の場合は、柔軟性が不十分となり、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生するため好ましくない。
【0025】
本発明におけるポリエステルは、グリコール成分として、炭素数が10以下のグリコール成分を少なくとも1種以上含有されていることが必要である。
炭素数が10以下のグリコール成分とは、具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンチルグリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−シクロブタンジオール、1,3−シクロブタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールから選ばれた少なくとも1種以上であることが柔軟性の点で好ましい。
【0026】
中でも発酵法によって合成される1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを用いると、ダイマー酸と併せてポリエステル組成物の植物由来成分の割合を向上することができるため、環境保護の観点から特に好ましい。これらのグリコール成分は、複数選択してもよく、複数のグリコール成分を共重合し、配合量を変更することで結晶性を制御することが可能である。
【0027】
本発明におけるポリエステルとして使用される具体的なポリマーとしては、ジカルボン酸成分のうち、脂肪族ジカルボン酸成分を必須成分として、芳香族ジカルボン酸成分のイソフタル酸、テレフタル酸、グリコール成分として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを組み合わせた共重合ポリマー、例えば、イソフタル酸−テレフタル酸−ダイマー酸−エチレン−ブチレン共重合体、イソフタル酸−テレフタル酸−ダイマー酸−ブチレン共重合体、テレフタル酸−ダイマー酸−ブチレン共重合体、テレフタル酸−ダイマー酸−プロピレン共重合体等が挙げられる。
【0028】
また、ポリエステルには、本発明の効果を損なわれない範囲であれば、他の成分を共重合してもよく、また他の成分からなるポリマーを混合しても構わない。
本発明におけるポリエステルには、フィルムの強度および弾性率低下の原因となる加水分解を少なくするため、リン酸、リン酸エステル、リン酸金属塩から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を用いて改質することが好ましい。リン化合物を用いる場合には、ポリエステル中にリン原子として20ppm以上150ppm以下の範囲で含有することが耐加水分解性を良好にするほか色調、耐熱性の点から好ましい。より好ましくは30ppm以上100ppmの範囲である。リン化合物としては、リン酸、リン酸二水素アルカリ金属塩、リン酸水素二アルカリ金属塩、亜リン酸、亜リン酸アルカリ金属塩、リン酸トリメチル、エチルジエチルホスホノアセテートなどのリン酸エステルなどをあげることができるが、中でもリン酸、リン酸二水素アルカリ金属塩、リン酸水素二アルカリ金属塩であることが耐熱性、色調、耐加水分解性の点から好ましい。重合反応性、耐加水分解性の点からリン酸水素二アルカリ金属塩、リン酸二水素アルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種以上であることが好ましく、特にリン酸水素二アルカリ金属塩、リン酸二水素アルカリ金属塩の併用であることが好ましい。
【0029】
また、本発明におけるポリエステルには、イソシアネート化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等を作用させ、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。これらはポリエステルの未反応の末端基、あるいはポリエステルの分解に伴い生成する末端基に作用する末端封鎖剤と称する多官能性化合物であり、本発明におけるポリエステルの末端基として代表的なカルボキシル基と反応性を有する化合物である。
【0030】
このような末端封鎖剤を用いることにより、カルボキシル基量を低減し、かつ分解に伴い生成する末端基を低減することにより、分解による物性低下を抑制することができる。このような化合物として、例えば、末端ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物およびこれらをポリマー化したポリカルボジイミドや、末端にイソシアネート基を有するイソシアネート末端カルボジイミド化合物等、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、レゾルシングリシジルエーテル、ヒドロキノングリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、トリスグリシジルイソシアヌレート、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミドエポキシ化大豆油等のグリシジルエーテル化合物あるいはグリシジルエステル化合物等エポキシ化合物、トリレンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、スチレンー2−イソプロピルー2−オキサゾリン共重合体などのオキサゾリン化合物等が挙げられる。さらには、カルボジイミド基、グリシジル基、オキサゾリン基、イソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する高分子型の化合物を用いても良い。また、これらの多官能性化合物は単独で用いても良いし、2種類以上併用しても良い。中でも反応性が高く、優れた経時安定性を得ることができる点から、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
【0031】
これらの末端封鎖剤を用いる場合には、ポリエステルの末端基量に対し等量または等量以上となるように配合すればよいが、例えばポリエステルに対し0.1〜2重量%の範囲で配合することが好ましく、より好ましくは、0.3〜1.5重量%の範囲である。末端封鎖剤が0.1重量%未満では、ポリエステルの全末端基を封鎖できない場合や分解に伴い生成する末端基を封鎖する効果が不十分となる場合がある。また、2重量%を超える場合には、未反応の末端封鎖剤が過剰に残存するため、透明性が低下したり、自己架橋反応によりゲル等の異物を生成したりする場合がある。
【0032】
また、末端封鎖剤を用いる場合には、前記リン化合物とともに配合することが、加水分解抑制および経時安定性を向上の効果がより顕著となるため、特に好ましい。リン化合物と併用する場合には、リン化合物の影響による末端封鎖剤の架橋物を生成しにくい点で、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
本発明のポリエステルは、特に制限されるものではないが、通常酸価が30当量/トン以下であることが好ましい。より好ましくは20当量/トン以下、さらに好ましくは15当量/トン以下である。ポリエステル中の酸性度が高くなる場合、カルボキシル基量が多い場合、ポリエステルの加水分解が促進され、ウォータプルーフフィルム物性低下が発生する場合がある。ポリエステルの酸価は、ポリエステルの重縮合条件、リン化合物、末端封鎖剤等の種類や量、さらにはフィルム製造時の温度条件等によって制御されるが、ウォータプルーフフィルムとして、30当量/トン以下であることが好ましい。
【0033】
また、本発明におけるポリエステルには、本発明を損なわない範囲で、熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、抗酸化剤、ワックス類、イオン交換剤あるいは、ブロッキング防止や滑り性付与、着色顔料等として無機微粒子や有機粒子、有機化合物を必要に応じて添加してもよい。
【0034】
例えば、酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などが例示される。
また、フィルムの易滑性や耐ブロッキング性の向上を目的として、無機微粒子や有機粒子を添加する際には、例えば、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーンなどの粒子を用いることができる。同様の目的で用いる有機化合物としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、N−ステアリルエルカアミド、エチレンビスステアリン酸アミド 、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等のアミド系有機滑剤、また、ラウリン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル等長鎖脂肪酸アルコールエステル、べへニン酸べへニン、ミリスチン酸セチル等のモノエステル系有機滑剤、さらにはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム等の脂肪酸塩、シリコン系化合物、カルナウバワックス、キャンデリラワックスなどが挙げられる。なかでもアミド系滑剤が優れた滑り性の発現、耐ブリードアウト性などの点から好適に使用することが可能である。ポリエステルへの分散性の点からは、ステアリル酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミドが好ましく、より好ましくはステアリン酸アミドである。
【0035】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄などの無機粒子などが用いられる。
【0036】
〔I−B ガラス転移温度および結晶性〕
本発明で使用するポリエステルのガラス転移温度は、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)の抑制、特に低温条件下で使用される場合の異音抑制の点から、ガラス転移温度が−20〜0℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が0℃を越えると異音の抑制が不十分となる場合がある。逆にガラス転移温度が−20℃未満であるとポリマーのカッテング性など生産性、取り扱い性が悪化する場合がある。
【0037】
また、本発明で使用するポリエステルの結晶性は、示差走査熱量計測定において10℃/分で昇温した際のDSC曲線から結晶融解に基づく吸熱ピークの面積より得られる結晶融解熱量として、5〜30J/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは、10〜25J/gの範囲である。結晶融解熱量が5J/g未満では、結晶性が低いため、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの粘着性が増すなど取り扱い性が問題となる場合があり、30J/gを超える場合には、結晶性が高いため、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)を抑制する十分な柔軟性が得られず問題となる場合がある。
【0038】
なお示差走査熱量計測定は、例えばパーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融し、−50℃に急冷した後に10℃/分の速度で昇温した際に得られるDSC曲線から求められる。このDSC曲線から、JISK7121、JISK7122に準拠し、階段状変化の前後の各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とし、結晶融解に伴う吸熱ピークの面積から結晶融解熱量を求めるものである。
【0039】
〔I−C メルトフローインデックス(MFR)〕
本発明で使用するポリエステルのMFRは、製膜方法により適正な粘度が異なるため、特に限定されないがスリット状口金よりシート状に押出してフィルムを得る方法を用いる場合は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常、5g/10分以上であり、上限が通常、30g/10分以下、好ましくは20g/10分以下、特に好ましくは15g/10分以下である。MFRが30g/10分を超える場合、粘度不足のため、製膜が困難になることがある。またMFRが5g/10分未満の場合には、押し出し状態が安定せず、不均一な膜厚のものとなることがある。さらに、部分的に肉厚になったところが白化して斑点状になることがある。なおMFRはJIS K7210に準拠して測定される。
【0040】
本発明のポリエステルのMFRを上記の範囲とするためには、本発明のポリエステルの固有粘度は、0.6〜1.4の範囲が好ましい。また、得られたポリエステルに固相重合を施したり、末端封鎖剤などの多官能化合物を配合して適宜調整してもよい。
【0041】
〔I−D 入手法〕
本発明で使用するポリエステルは、公知の方法で製造することができる。例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、グリコール成分並びに必要に応じて使用されるその他のモノマー成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0042】
本発明のポリエステル組成物の製造方法としては、直重法で製造することが生産性の点から好ましい。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、1,3−プロパンジオールまたは1,4−ブタンジオールを仕込み、チタン化合物の存在下、140〜230℃でエステル化反応を行い、次いで従来の方法により重縮合反応を行うことができる。
このとき、ダイマー酸の添加時期は、エステル化反応の後半から重合初期の間に添加することが色調、耐熱性の点から好ましい。特に、エステル化反応後半において、反応系を200℃〜220℃に制御しながらダイマー酸を徐々に添加することが生産性の点から好ましく、特に200〜210℃に制御することが色調の点から好ましい。ダイマー酸の添加方法は、加温して低粘度化して添加することがハンドリング性の点から好ましく、その温度は50℃〜70℃であることがハンドリング性の点から好ましい。
【0043】
また、ダイマー酸は単独で添加してもよいが、反応性の点から、1,3プロパンジオール、または1,4ブタンジオールと混合して添加することが反応性の点から好ましい。このときのダイマー酸とグリコール成分の混合比は、ダイマー酸1molに対して0.8〜1.2molであることが反応性、生産性の点から好ましい。このようなダイマー酸は少量ずつバッチ式で添加しても、ポンプで連続供給してもかまわない。
【0044】
また、重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く1族〜14族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が挙げられる。
【0045】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、チタン化合物及びゲルマニウム化合物がさらに好ましい。チタン化合物としては、チタンキレート化合物、チタンアルコキシドがあげられるが、中でもチタンアルコキシドが反応性、色調の点から好適である。グリコール成分として1,3プロパンジオールを用いる場合には、チタンイソプロポキシド、またはチタン−n−プロポキシドが反応性の点から好ましい。また、グリコール成分として1,4ブタンジオールを用いる場合にはチタン−n−ブトキシドが反応性、ハンドリング性の点から好ましい。
【0046】
チタン化合物を用いる場合には、ポリエステルに対し、チタン原子として100ppm以上200ppm以下であることが好ましい。100ppm未満では十分な重合反応性が得られない場合があり、200ppmを越えると、耐熱性が低下し、着色する場合がある。
エステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。
【0047】
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
その後の重縮合反応は、通常0.4×103Pa以下、好ましくは0.14×103Pa以下の真空度下として行う。この時の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲である。反応時間は、下限が通常2時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは5時間以下である。
【0048】
本発明においてポリエステルを製造する反応装置としては、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
【0049】
本発明におけるポリエステルにリン化合物を用いる場合には、ポリエステルの重縮合工程で含有させてもよく、得られたポリエステルに二軸押出機等で混練し含有させてもよい。重縮合工程で含有させる場合には、エステル化反応終了後またはエステル交換反応終了後から重縮合反応初期までの間で添加することが好ましい。
また、本発明におけるポリエステルに、イソシアネート化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等を用いる場合には、ポリエステルの重縮合工程で含有させてもよく、得られたポリエステルに二軸押出機等で混練し含有させてもよい。重縮合工程で含有させる場合には、重縮合反応終了後に配合することが好ましい。二軸押出機で混練する方法は、ポリエステル中に高濃度に含有させ、マスター原料を製造し、フィルム製造時に希釈して用いることができ、ポリエステルの分子量低下を抑えられることから、特に好ましく用いられる。
【0050】
また、本発明におけるポリエステルに、熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、滑材、ブロッキング防止剤、核剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤などの各種添加剤を用いる場合も、ポリエステルの重縮合工程で含有させてもよく、得られたポリエステルに二軸押出機等で混練し含有させてもよいが、好ましくは二軸押出機等でポリエステル中に高濃度に混練してマスター原料を製造し、フィルム製造時に希釈して用いる方法である。
【0051】
本発明のポリエステルの構成成分を特定の範囲とする方法は、上述した方法で直接重合して得る方法でも良く、また2種類以上の重合体および/または共重合体を押出機内で溶融混練して均一化する方法でもよい。後者の方法としては、例えば、芳香族ジカルボン酸とグリコール成分から構成される芳香族ポリエステルと、芳香族ジカルボン酸、脂肪酸誘導体及びグリコール成分から構成される脂肪族−芳香族ポリエステル共重合体とを押出機内で溶融混練して前記した特定重合組成となるようにする方法等が挙げられる。この方法は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の汎用芳香族ポリエステルを用いることができるというコスト的利点、および芳香族ポリエステルと共重合体の混合量の変更のみでポリエステル中の構成成分をコントロールできるハンドリング性の観点から、芳香族ポリエステルと脂肪族−芳香族ポリエステル共重合体を押出機内で溶融混練して前記した特定重合組成とする方法が好ましい。
【0052】
〔II ウォータプルーフフィルム〕
本発明のウォータプルーフフィルムは、上述のポリエステルを用いれば、その他に特に制限はないが、好ましくは以下の特徴を有するものである。
【0053】
〔II−A フィルム厚さ〕
本発明のウォータプルーフフィルムの厚さは、特に制限されるものではないが、フィルム製造時の製膜安定性や取扱い性の点で10〜200μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、30〜100μmの範囲である。厚みが10μm未満では、車両ドアへ装着する際に容易に変形してしまうほか、振動の影響を受けやすく、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。
【0054】
〔II−B フィルムの面配向係数〕
本発明のウォータプルーフフィルムの面配向係数fnは、0.00〜0.04の範囲であることが好ましい。面配向係数fnを0.00〜0.04としたフィルムを得るためには、無延伸フィルムとする方法や高温延伸あるいは低倍率での延伸フィルムとする方法が挙げられる。
【0055】
無延伸フィルムであっても製膜時にドラフトがかかり、機械(長手)方向にフィルムがやや配向する場合があるので、面配向係数を0.00〜0.04とするためには無延伸の場合であっても配向を抑制することが重要である。面配向係数fnが0.04を越えると、フィルムの柔軟性が不十分となり、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合があるので好ましくない。より好ましくは、0.00〜0.03の範囲であり、さらに好ましくは0.00〜0.02の範囲である。ここで、面配向係数(fn)とは、アッベ屈折計などを用いて測定されるフィルム長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(それぞれNx、Ny、Nz)から下式(2)により算出される値である。
【0056】
面配向係数:fn={(Nx+Ny)/2}−Nz ・・・(2)
ここで、フィルムの長手方向や幅方向が分からない場合は、フィルム面内において最大屈折率を有する方向を長手方向、フィルム面内における長手方向に直行する方向を幅方向、フィルム面内に対して直行する方向を厚み方向として、面配向係数(fn)を求めることができる。また、フィルム面内における最大屈折率の方向は、面内全ての方向の屈折率をアッベ屈折率計で測定してもよいし、例えば、位相差測定装置(複屈折測定装置)などにより遅相軸方向を決定することで求めてもよい。
【0057】
〔II−C フィルムの弾性率、破断強度、破断伸度〕
本発明のウォータプルーフフィルムの弾性率は、23℃の雰囲気下で150MPa以下であることが好ましい。23℃の雰囲気下での弾性率が150MPaを越えると、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が問題となる場合がある。また、23℃の雰囲気下での弾性率が10MPa未満であるとポリマーのカッテング性など生産性、取り扱い性が悪化するため、好ましくは10〜150MPaの範囲である。より好ましくは10〜120MPaの範囲、さらに好ましくは10〜100MPaの範囲、特に好ましくは10〜70MPaの範囲である。23℃の雰囲気下での弾性率を上記範囲とするには、ジカルボン酸成分のダイマー酸成分の共重合量を10モル%以上とするほか、必要に応じてイソフタル酸の共重合量を15モル%以上とする方法、また、グリコール成分をエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールから選ばれた少なくとも1種以上とし、好ましくは、1,4−ブタンジオールおよび/または1,3−プロパンジオールを選択することが好ましい。さらには1,4−ブタンジオールおよび/または1,3−プロパンジオールの全グリコール成分中の割合が80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上とすることで達成できるものである。
【0058】
上記ダイマー酸成分の上限は、ポリマーの生産性、取扱い性、ウォータプルーフフィルムの粘着性抑制の点から30モル%である。ウォータプルーフフィルムの弾性率は、例えば長さ200mm、幅10mmのサンプルを切り出し、ASTM−D−882−81(A法)に従い、23℃雰囲気下で引張速度50mm/分で測定することができる。
本発明のウォータプルーフフィルムの破断強度は、23℃の雰囲気下で20MPa以上であることが好ましい。より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上である。破断強度の上限は、特に限定されないが、120MPa以下である。
【0059】
また、本発明のウォータプルーフフィルムの破断伸度は、23℃の雰囲気下で200%以上であることが好ましい。より好ましくは300%以上、さらに好ましくは400%以上である。破断伸度の上限は、特に限定されないが、1500%未満である。
23℃の雰囲気下での破断強度が20MPa未満あるいは破断伸度が200%未満であると、車両ドア用のウォータプルーフフィルムの装着作業時にフィルムが破断するなどの問題が発生する場合があるため好ましくない。
【0060】
本発明のウォータプルーフフィルムの弾性率、破断強度、破断伸度は、車両ドアに装着し使用される間、上述の範囲を満足することが好ましい。また初期物性に対し、50%以上の物性保持率を有していることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0061】
〔II−D 製造方法〕
本発明のウォータプルーフフィルムの製造方法は特に制限されず、任意の方法で製造することが可能であるが、主な方法としては、(i)上述のポリエステル、並びに必要に応じて用いられる成分を混合し、フィルム状に直接成形する方法(以下「直接成形法」という。)、(ii)上述のポリエステル、並びに必要に応じて用いられる成分を、溶媒に溶解又は分散させた液を用い、溶媒を除去して硬化させる方法(以下「溶媒法」という。)である。
【0062】
直接成形法の場合、成形の手法は特に制限されないが、押出成形、射出成形、プレス成形等が挙げられる。中でも押出成形が好ましい。押出成形は、公知の押出成形機を用いて行なうことができる。
また、ウォータプルーフフィルムの特性改善等の目的で、加熱処理、延伸加工処理、表面処理等の各種の処理を行ってもよい。
【0063】
押出成形による製造方法としては、上述したポリエステルを必要に応じて乾燥した後、公知の方法で溶融押出機に供給し、環状口金やスリット状口金よりチューブ状、シート状に押出して、溶融状態から冷却固化することで得ることができる。溶融押出機は、単軸押出機でも、ベント口等を有した二軸押出機などでもよい。
本発明のフィルムの製造においては、熱分解を抑制し高分子量のフィルムとするため、ポリエステルをあらかじめ乾燥した後に押出機に供給することが好ましく、少なくともポリエステル中の水分率を300ppm以下に乾燥を施すことが好ましい。また同様の理由により、押出温度をより低温とすることが好ましく、また滞留時間をより短時間とすることが好ましい。具体的には押出機やポリマー配管、口金などの温度は、使用するポリエステルの融点+20〜30℃とすることが好ましく、ポリエステルが押出機内で溶融されてから口金より吐出されるまでの滞留時間は20分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、5分以下であることがさらに好ましい。
【0064】
スリット状口金より押し出されたシートは、シートを帯電させて密着させる静電印加の方式やエアーノズル、エアーチャンバーなどの方式、吸引チャンバーの方式などにより、表面温度10〜80℃に調整したキャスティングドラムに密着させ、溶融状態から冷却固化することで、面配向係数fnが0.00〜0.04の実質的に無配向の無延伸フィルムを得ることができる。
【0065】
キャスティングドラムは、鏡面ドラムでも、梨地ドラムでも構わないが、フィルムのドラムへの密着性、粘着性の点から梨地ドラムが好ましい。梨地ドラムの表面粗さは、中心線表面粗さRaで100〜1000nmの範囲が好ましい。さらに好ましくは、200〜500nmの範囲である。梨地ドラムを用いた場合、ドラムへの密着性が不十分となり易く、透明性が劣るフィルムとなることがあるので他の密着方式を併用することが好ましい。例えば、両端部に針状エッジピニング装置の静電印加方式と全面エアーチャンバー方式の併用が好ましい。
【0066】
本発明のウォータプルーフフィルムは、このようにして得られた無延伸フィルムを必要に応じて延伸して製造してもよい。延伸フィルムの製造方法は、インフレーション法、チューブラー法、ステンター式逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法などの方法を用いることができ、例えばインフレーション法とは、円形にスリット部が設けられた円筒状の環状ダイからチューブ状にポリマーを押出し、チューブ内に空気を封入し、その圧力でバブル状に膨らませることで延伸し、空気あるいは水などの媒体により冷却することにより延伸フィルムを得るものである。
【0067】
また、ステンター式逐次二軸延伸法とは、例えば、無延伸フィルムを加熱ロールの周速差を利用したロール延伸で長手方向に延伸し、次いで連続クリップを有するテンター内で1段目延伸方向と直交する方向への延伸を施し、延伸に引き続いてテンター内および/または巻き取り後に必要に応じて熱処理を施し得ることができる。
いずれの延伸方法を用いる場合にも本発明のウォータプルーフフィルムの性能を得るため、面配向係数fnを低くする必要があり、予熱・延伸温度を高温とする方法や低倍率延伸とする方法などを用いることが好ましい。
【0068】
〔具体的な適用例〕
以下、図面により、本発明の実施形態に係る本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムを、実際に車両用ドアに用いる場合について説明する。
【0069】
図1はウォータプルーフフィルムが用いられる車両用ドアを示す模式的な正面図であり、図2にはウォータプルーフフィルムの構成成分と物性とを示し、図3にはウォータプルーフフィルムにおけるリン化合物および末端封鎖剤の配合割合を示している。
なお、図2および図3の表は、〔実施例〕として後述する実験とその結果とを説明する際に詳しく説明する。
【0070】
図1に示すように、車両用ドア(以下、単にドア)10は、アウタパネル11、インナパネル12、ウォータプルーフフィルム13およびドアトリム(図示略)から主に構成されている。
これらのうち、アウタパネル11はドア10の外側を形成する板材であり、また、インナパネル12はアウタパネル11の内側に対して溶接により固着された板材である。また、これらのアウタパネル11とインナパネル12との間にはパワーウィンドウ機構(図示略)と窓ガラス16とが設けられ、この窓ガラス16がパワーウィンドウ機構により上下動できるようになっている。
【0071】
ドアトリムは、ドア10の車内側の面を形成する樹脂製の部材であって、インナパネル12に対して固定されるようになっている。
そして、このウォータプルーフフィルム13は、インナパネル12とドアトリムとの間に介装される防水シートであって、インナパネル12の内側に対してブチルラバーテープ(図示略)により貼付され、インナパネル12に形成された複数の穴部(図示略)を塞ぐことができるようになっている。
【0072】
そして、このウォータプルーフフィルム13は、本発明に規定のポリエステルからなる。
これらのうち、本発明におけるポリエステルは、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)といった石油に由来する材料(石油由来材料)ではなく、植物より得られるダイマー酸に代表される脂肪酸および/または、発酵法による1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを構成成分とする植物に由来する材料(植物由来材料)である。
【0073】
本発明者らの実験により、ポリエステルの構成成分を変化させることによってウォータプルーフフィルム13から生じる異音を低減できることが判明した。つまり、発明が解決しようとする課題の欄で上述したように、ウォータプルーフフィルムからは異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合があるが、この異音の大きさは、ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分および炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分、炭素数10以下のグリコール成分の配合量を特定の範囲に変化させることによって抑制することができるのである。
【0074】
そして、ウォータプルーフフィルム13表面の粘着性が増大し過ぎると、ウォータプルーフフィルム13の管理することが困難になるという課題もある。具体例を挙げると、例えば、ドア10の生産ラインでは、複数枚のウォータプルーフフィルム13を積み上げておき、必要に応じてウォータプルーフフィルム13を1枚ずつインナパネル12に貼付するが、このとき、ウォータプルーフフィルム13表面の粘着性が増大し過ぎると、積み上げられた複数枚のウォータプルーフフィルム13が互いに接着してしまうのである。
【0075】
上記の理由により、ポリエステルの全ジカルボン酸中の炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分量は30モル%が上限であることが判明した。
また、ポリエステルの全ジカルボン酸中の炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分量を5〜30モル%の間で変化させた場合には、異音特性および粘着特性のいずれにおいても大きな変化は見られないため、5〜30モル%の間であれば任意の割合にすればよいが、好ましくは10モル%以上に設定する。より好ましくはポリエステル中のグリコール成分を1,4−ブタンジオールおよび/または1,3−プロパンジオールとし、全グリコール成分中の割合が80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上に設定する。
【0076】
つまり、このウォータプルーフフィルム13が適用されるのは、車両のドア10であるが、車両は種々の温度環境下で使用されるため、この温度変化を予め考慮した場合には、ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分および炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分、炭素数10以下のグリコール成分の配合量を特定の範囲に設定することすることが好ましいのである。
【0077】
例えば、冬季中、車両が氷点下の環境で走行するような場合、ウォータプルーフフィルム13の柔軟性は低下し、異音は発生しやすくなる。他方、夏季中、車両が炎天下で走行するような場合、このウォータプルーフフィルム13の柔軟性は増大し、異音は発生しにくくなるものの、粘着性が増大しその表面がベトつくおそれがある。
そこで、ウォータプルーフフィルム13におけるポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分および炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分、炭素数10以下のグリコール成分の配合量を特定の範囲に設定しておけば、このような温度環境の変化にも対応することが可能となるのである。
【0078】
このように、本発明の一実施形態に係る車両ドア用のウォータプルーフフィルムによれば、植物由来材料を構成成分とするポリエステルを用いることで地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能となり、また、車両が使用される温度環境に耐え、且つ、異音の発生を防ぐことができる。
また、特に弾性率を低減する効果の高い植物由来材料である炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を構成成分とすることで、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)の発生しにくさを良好に保つことができる。
【0079】
また、ポリエステルの全ジカルボン酸中の炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を主体とする脂肪族ジカルボン酸成分量を30モル%以下とすることで、ウォータプルーフフィルム13の表面の粘着性が過大となる(いわゆるベトつきが生じる)ことを防ぐことができる。
以上、本発明の具体的な適用例を説明したが、本発明は係る適用例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
以下の実施例に記載の手順により、ウォータプルーフフィルムを作製し、その物性を測定した。
【0081】
〔1〕ポリエステルの組成分析
ポリエステルをアルカリにより加水分解し、各成分をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーにより分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。
【0082】
カルボン酸成分は、1mol/Lの濃度のナトリウムメチラート、及び酢酸メチルを加えて環流加熱で2時間処理した後、高速液体クロマトグラフィーにて測定を行った。測定条件は既知の方法で分析することができる。例えば以下に一例を示す。
装置:島津LC−10A(島津製作所製)
カラム:YMC−Pack ODS−A 150×4.6mm S−5μm
120A
カラム温度:40℃
流量:1.2ml/min
検出器:UV 240nm
グリコール成分の定量はガスクロマトグラフィーを用いて既知の方法で分析することができる。例えば以下に一例を示す。
【0083】
装置 :島津9A(島津製作所製)
カラム:SUPELCOWAX−10 キャピラリーカラム30m
カラム温度:140℃〜250℃(昇温速度5℃/min)
流量 :窒素 25ml/min
検出器:FID
【0084】
〔2〕脂肪族ジカルボン酸(誘導体)中の分析
脂肪族ジカルボン酸(誘導体)を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。測定条件は既知の方法で実施することができるが、以下に一例を示す。
【0085】
カラム :Interstil ODS−3 2.0mmφ×250mm
移動相 :H3PO4水溶液/メタノール=80/20−(20min)
20/80−(40min)
流速 :0.4mL/min
カラム温度:45℃
検出器 :フォトダイオードアレイ(200〜400nm)
クロマトグラムは21512を使用
ここで、フィルム中の脂肪族ジカルボン酸(誘導体)中の単量体、二量体、三量体の組成比を求める場合は次のように行うことができる。さらにゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などのクロマトグラフィーや核磁気共鳴測定(NMR)などを用いることで、脂肪族ジカルボン酸(誘導体)を同定して、その単量体、二量体、三量体の組成比を求めるなどの方法がある。
【0086】
〔3〕ポリエステルの固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から下式(3)によって計算される値を用いる。
【0087】
ηsp/C=[η]+K[η]2×C ・・・(3)
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(g/100ml)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0088】
〔4〕ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)および結晶融解熱量(ΔHm)
パーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融し、−50℃に急冷した後に10℃/分の昇温条件で示差走査熱量計測定を行い、得られるDSC曲線から求めた。このDSC曲線から、JISK7121、JISK7122に準拠し、階段状変化の前後の各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度(Tg)とし、結晶融解に伴う吸熱ピークの温度を融点(Tm)とし、その吸熱ピークの面積から結晶融解熱量(ΔHm)を求めた。
【0089】
〔5〕フィルム厚み
フィルム厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、切り出した各試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均して求めた。
【0090】
〔6〕面配向係数(fn)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの表面の長手方向屈折率(Nx),幅方向屈折率(Ny),厚み方向屈折率(Nz)を測定し、下式(4)から面配向係数(fn)を算出した。
【0091】
面配向係数 fn={(Nx+Ny)/2}−Nz ・・・(4)
【0092】
〔7〕弾性率、破断強度、破断伸度
フィルムから、長さ200mm、幅10mmのサンプルを切り出し、ASTM−D−882−81(A法)に従い、23℃雰囲気下で引張速度50mm/分で測定し、弾性率を求めた。同様の方法で破断強度および破断伸度を求めた。試験数は長手方向をn=5回、幅方向をn=5とし、長手方向、幅方向の平均値を求めてこれを弾性率、破断強度、破断伸度とした。
【0093】
〔8〕ウォータプルーフフィルムの性能の評価
図2および図3に示すように、ポリエステルの構成を変更し温度23℃、湿度50%RHの条件下で評価した。
【0094】
また、異音については、ウォータプルーフフィルムを実際に車両ドアに組み付けて温度35℃、20℃、−40℃の各条件下でドアの開閉、オーディオの使用、或いは40km/hから150km/hの間で走行した際に、実験者が実際に聞こえた異音の大きさにより評価した。音が発生しないものを○、やや音がするものを△、はっきりとした異音が確認できるものを×として評価した。
【0095】
また、表面の粘着性については、ウォータプルーフフィルムを実験者が実際に手で触って評価した。粘着性の無いもの、実用レベルのものを○、やや粘着するものを△、強い粘着が確認でき、取扱い性が不良であるものを×として評価した。
また、湿熱条件下での物性保持性について、フィルムサンプルを温度80℃、湿度95%RH条件に制御した恒温恒湿槽内に250時間保管後、取り出して温度23℃、湿度50%RHの条件下で24時間静置後に引張り試験を行った。得られた破断伸度から伸度保持率を求め、評価した。伸度保持率が90%以上のものを◎、80%以上90%未満のものを○、50%以上80%未満のものを△、50%未満を×として評価した。
【0096】
実施例には、以下のポリエステルおよびマスター原料を使用した。
[ポリエステル1] PBT/I10/DA10
テレフタル酸51.1重量部、イソフタル酸6.4重量部、1,4−ブタンジオール63重量部の混合物に、テトラブチルチタネート0.03重量部、IRGANOX1010FP(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)0.011重量部を仕込み、150℃から210℃まで昇温しながら常法に従いエステル化反応せしめた後、リン酸0.01重量部を添加し、その10分後にテトラブチルチタネート0.066重量部、IRGANOX1010FP(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)0.025重量部、あらかじめ50℃に加熱したダイマー酸(PRIPOL1098:クローダ・インターナショナル社製)21.8重量部/1,4−ブタンジオール4重量部の混合スラリーを添加した。缶内温度が210℃に復帰後、30分間攪拌してから重合反応槽へ移行し、常法に従って重縮合反応を行った。最終的には240℃、1.33×102Pa以下で重縮合反応を行い、固有粘度1.02、テレフタル酸90モル%、ダイマー酸10モル%のダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート:ポリエステル1を得た。
【0097】
[マスター原料1(MS−1)]
上記で得られたポリエステル90重量部、芳香族ポリカルボジイミド(スタバクゾール P100:ラインケミー社製)10重量部の混合物を30mmφのベント式異方向二押出機(L/D=35)を用い、230℃で混練し、ポリカルボジイミドを10重量%含有した末端封鎖剤のマスター原料1(MS−1)を作製した。
【0098】
[マスター原料2、3(MS−2、MS−3)]
ポリカルボジイミドに替えて、カルボジイミド変性イソシアネート(カルボジライト LA−1:日清紡社製)に変更すること以外は、マスター原料1と同様の方法にて末端封鎖剤のマスター原料2(MS−2)を作製した。また、同様にトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(TEPIC−S:日産化学工業社製)に変更した末端封鎖剤のマスター原料3(MS−3)を作製した。
【0099】
[原料の乾燥条件]
ポリエステルおよびマスター原料は、減圧下130℃×6時間乾燥を行い、以下の実施例および比較例に用いた。
(実施例1)
ダイマー酸10モル%、イソフタル酸10モル%を共重合したポリブチレンテレフタレート:ポリエステル1のペレット(100重量%)を用い、押出温度230℃に設定した単軸押出機に供給し、スリット間隙0.8mmのTダイ口金に導きフィルム状に押出した。押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加方式およびエアーチャンバー方式を併用し、表面温度60℃の梨地キャスティングドラム(中心線表面粗さRa=200〜350nm)に密着させて冷却固化し、厚み60μmのウォータプルーフフィルムを作製した。
【0100】
フィルムの面配向係数(fn)は、0.00であった。フィルムは安定に製膜でき、カールなど生じず、取扱性に優れていた。物性を図2に示す。
(実施例2〜7、比較例1、2)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、グリコール成分としてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを変更したポリエステルを用いること以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。物性を図2に示す。
(実施例8〜11)
実施例3および実施例4で用いたポリエステルに、さらに含有せしめるリン化合物を変更し、末端封鎖剤のマスター原料を使用し末端封鎖剤がポリエステル中に1重量%となるように各々混合すること以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。物性を図3に示す。
【0101】
炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を全く配合しなかった場合(0%)、ウォータプルーフフィルム13からは異音が生じてしまうが、その重量割合を約5%まで増加させると、異音の大きさを抑制することができる。
また、その重量割合を約10モル%以上に増加させると、異音は発生しなくなる。
他方、その重量割合を約25モル%とすると、ウォータプルーフフィルム13の表面の粘着性が現れ、約30モル%を超えると粘着性が過度に増大して取扱い性が不良となることが予想される。
【0102】
つまり、表面の粘着性の観点からは、炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸をむやみに増加すればよいというわけではないことが判明した。
また、第2成分ポリエステルの配合割合を約10〜20モル%の間で変化させた場合には、異音特性および粘着特性のいずれにおいても大きな変化は見られないため、約10〜20モル%の間であれば任意の割合にすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両ドア用のウォータプルーフフィルムが適用されるドアを示す模式的な正面図である。
【図2】本発明の実施例において作製した車両ドア用のウォータプルーフフィルムにおける構成成分と物性を示す図である。
【図3】本発明の実施例において作製した車両ドア用のウォータプルーフフィルムにおけるリン化合物および末端封鎖剤の配合割合を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
10 車両用ドア(ドア)
11 アウタパネル
12 インナパネル
13 ウォータプルーフフィルム
16 窓ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装される車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジカルボン酸成分とから成るジカルボン酸成分と、グリコール成分とを構成成分として有するポリエステルにより形成され、該芳香族ジカルボン酸成分は、70〜95モル%であり、該脂肪族ジカルボン酸成分は、5〜30モル%であり且つ炭素数10以上の不飽和脂肪酸から誘導される二量化脂肪酸を有し、該グリコール成分は、炭素数が10以下であることを特徴とする、車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【請求項2】
該ウォータプルーフフィルムは、弾性率が150MPa以下であることを特徴とする、請求項1に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【請求項3】
該脂肪族ジカルボン酸成分が、ダイマー酸またはダイマー酸誘導体を有し、且つ、該グリコール成分が、発酵法によって合成される1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオールを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【請求項4】
末端カルボキシル基封鎖剤として、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1つが用いられることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【請求項5】
添加剤としてのリン化合物として、リン酸、リン酸エステル、リン酸金属塩から選ばれる少なくとも1つが用いられ、該フィルム中には、20ppm以上150ppm以下のリン原子が含有されることを特徴とする、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−220777(P2009−220777A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69859(P2008−69859)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】