説明

車両内装用吸音材並びにその製造方法

【課題】繊維集合体からなる車両内装用吸音材の材質としてリサイクル材を使用することで、資源の有効利用並びにコスト低減を図る。
【解決手段】主繊維用リサイクル材Aと熱融着繊維用リサイクル材Bとを同時に解繊処理することで、主繊維に対して熱融着繊維が偏在することなく、均一に混合されることにより、熱融着繊維としてリサイクル材Bの使用を可能にし、資源の有効利用並びにコスト低減を図るとともに、配合比率を高めることで成形安定性を確保し、加えて吸音材の造形自由度を拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主繊維と主繊維を結合させる熱融着繊維からなる車両内装用吸音材に係り、特に、主繊維、熱融着繊維双方にリサイクル材を使用することで、資源の有効利用を図るとともに、主繊維中に熱融着繊維を偏在することなく均一に混合させることで、成形性を向上させた車両内装用吸音材並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両には、走行時における静粛性を確保するために、内装トリムの裏面に吸音機能を有する吸音材を貼付する構成が採用されるか、あるいは吸音材をベースとした各種インシュレータが設置されている。例えば、図6に示すように、エンジンルームEと車室Rとを区画するダッシュパネル1の室内面側には、ダッシュインシュレータ2が装着されている。一般にダッシュインシュレータ2の構成としては、図7に示すように、製品表面側に位置する遮音材3の裏面に多孔質吸音機能を有する吸音材4が一体化されて構成されている。そして、この吸音材4は、図8に示すように、主繊維4aと主繊維4aを結合させる熱融着繊維4bとから構成されている。主繊維4aは、ポリエステル、高融点ポリプロピレン、ビニロン等の高融点をもつ合成繊維や、綿、麻、ウール等の天然繊維が使用され、最近ではコスト面を考慮して布地、産業端材を解繊処理したリサイクル材の使用が注目されている。
【0003】
一方、熱融着繊維4bとしては、低融点繊維を使用し、例えば、ポリエチレン、低融点ポリプロピレン等の低融点の単一構造の繊維及び/もしくは、加工の安定性を確保するためにシース・コア繊維、サイド・バイ・サイド繊維等の複合構造の熱融着繊維4bを使用する。尚、主繊維4aと熱融着繊維4bとからなる吸音材4であって、主繊維4aにリサイクル材を使用する従来例としては、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−27383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の吸音材4は、高融点繊維からなる主繊維4aと低融点繊維からなる熱融着繊維4bとから構成されており、コスト面を考慮して、主繊維4aにリサイクル材を使用する構成が注目されているが、熱融着繊維4bとしては、成形安定性を確保するため通常リサイクル材は使用されていない。従って、コスト高を招来するとともに、資源の有効利用を図る上で障害となっていた。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内装トリムの裏面に貼付される吸音材、あるいはインシュレータの主要部を構成する吸音材として使用する車両内装用吸音材において、リサイクル材を解繊した主繊維にリサイクル材を解繊した熱融着繊維を混綿することで資源の有効利用が可能となり、コストダウンを招来でき、かつ熱融着繊維の配合比率を高めることで成形安定性を確保した車両内装用吸音材並びにその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明者等は、鋭意研究の結果、リサイクル材からなる主繊維とリサイクル材からなる熱融着繊維を独立して解繊処理するのではなく、同一の混合装置内で同時に解繊処理することで、熱融着繊維が偏在することなく、両繊維が均一に混ざり合うことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、内装トリムの裏面に貼付して吸音性を付与する吸音材、あるいは車体パネルの室内面側に装着されるインシュレータを構成する吸音材として採用される車両内装用吸音材において、前記吸音材は、高融点繊維をベースとした主繊維用リサイクル材を解繊してなる主繊維と低融点繊維をベースとした熱融着繊維用リサイクル材を解繊処理して得られる熱融着繊維とから構成されており、全重量に対して熱融着繊維の比率が20〜70重量部に調整され、主繊維に対して熱融着繊維が局部的に偏在することなく万遍なく混在していることを特徴とする。
【0009】
ここで、車両内装用吸音材は、ルーフトリム、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ドアトリム等、内装トリムの裏面適宜位置に貼付する吸音材として使用するか、あるいはダッシュパネルやフロアパネルの室内面側に装着されるダッシュインシュレータ、フロアインシュレータ等の吸音材として使用することができる。
【0010】
吸音材を構成する主繊維としては、布地、産業端材を解繊処理した合成繊維、天然繊維等、高融点の繊維類で構成されている。一方、主繊維を結合させる熱融着繊維としては、これも布地、産業端材の解繊処理によって得られる繊維類であり、好ましくは、シース・コア繊維、サイド・バイ・サイド繊維が適している。また、主繊維と熱融着繊維の配合比率としては、主繊維:熱融着繊維が30〜80重量部:70〜20重量部のように熱融着繊維の配合比率を高比率に設定する。上記車両内装用吸音材としては、厚み1〜70mm、密度0.01〜1.0g/cm3 に調整されており、通気量としては10〜100cc/cm2 /s(フラジール測定法による)に設定されている。
【0011】
次いで、本発明は、内装トリムの裏面に貼付して吸音性を付与する吸音材、あるいは車体パネルの室内面側に装着されるインシュレータを構成する吸音材として採用される車両内装用吸音材の製造方法において、高融点繊維からなる主繊維用リサイクル材と低融点繊維からなる熱融着繊維用リサイクル材を同一の解繊機内で同時に解繊処理することで、主繊維と熱融着繊維とを均一に混合処理した後、所定厚みのマットを形成し、このマットを加熱軟化処理後、プレス成形することにより、所要形状の車両内装用吸音材が得られることを特徴とする。
【0012】
すなわち、車両内装用吸音材の製造方法としては、主繊維用リサイクル材と熱融着繊維用リサイクル材を同時に解繊機内に投入して同時に解繊処理する解繊工程と、その後、解繊処理した繊維集合体を所定厚みの原反マットとして形成するマット形成工程と、このマットを加熱軟化処理して成形可能な状態とする加熱工程と、最終的にプレス金型で所要形状にプレス成形するプレス成形工程とからなっている。そして、特に本発明においては、主繊維用リサイクル材と熱融着繊維用リサイクル材を同時に解繊機内に投入して解繊処理すれば、熱融着繊維が偏在することなく、主繊維と熱融着繊維を均一に混合することができる。
【0013】
参考までに、主繊維用リサイクル材と熱融着繊維用リサイクル材とを別々に解繊処理し、その後、混合した場合には、均一に混ざり合わない。その理由としては、熱融着繊維の解繊時、摩擦熱により熱融着繊維同士が付着し合い、解繊機の内壁に付着したり、あるいは大きな塊のまま主繊維と混ざり合うため、均一な混合が困難になるものと考えられる。
【0014】
このように、本発明によれば、車両内装用吸音材の素材として主繊維用リサイクル材と熱融着繊維用リサイクル材とを使用することで資源の有効利用を図り、コストも大幅に低減することができる。また、主繊維に対して熱融着繊維を偏在することなく均一にかつ高い配合比率で混合されるため、成形性を高め、吸音材の造形自由度を拡大することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した通り、本発明に係る車両内装用吸音材並びにその製造方法によれば、主繊維用リサイクル材と熱融着繊維用リサイクル材を同一の解繊機内で同時に解繊処理することにより、熱融着繊維用リサイクル材の使用を可能としたものであるから、資源の有効利用を図るとともに、吸音材のコストを低減化することができるという効果を有する。
【0016】
更に、本発明方法によれば、解繊機の内壁に熱融着繊維が付着することを有効に防止できるとともに、熱融着繊維の配合比率を高めることができるため、解繊機の長寿命化に貢献できるとともに、吸音材の複雑な形状に対しても有効に対応でき、吸音材の造形自由度を拡大させることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両内装用吸音材の一実施例を示すルーフトリムの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すルームトリムの裏面に貼付される吸音材の構成を示す断面図である。
【図3】図2に示す吸音材の製造方法における工程チャート図である。
【図4】本発明に係る車両内装用吸音材の一実施例としてのダッシュインシュレータを示す断面図である。
【図5】図4に示すダッシュインシュレータにおける吸音材の変形例を示す断面図である。
【図6】従来のダッシュインシュレータの設置箇所を示す説明図である。
【図7】従来のダッシュインシュレータの構成を示す断面図である。
【図8】従来のダッシュインシュレータにおける吸音材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両内装用吸音材並びにその製造方法の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0019】
図1乃至図5は本発明の一実施例を示すもので、図1はルーフトリムの裏面に本発明に係る車両内装用吸音材を適用した構成を示す断面図、図2は同吸音材の構成を示す断面図、図3は同車両内装用吸音材の製造方法における各工程を示す工程チャート図、図4,図5は本発明に係る車両内装用吸音材をダッシュパネルに装着するダッシュインシュレータに適用した構成を示す各断面図である。
【0020】
図1において、ルーフトリム10は、所要形状にプレス成形されたルーフトリム本体20の裏面所定位置に吸音材30が貼付されており、図示しないルーフパネルを透過して車室内に伝播する騒音を吸音材30の多孔質吸音機能により吸音処理することで、車室内の静粛性の向上に貢献している。この吸音材30としては、図2に示すように、主繊維31と、主繊維31を結合させる熱融着繊維32とから構成されている。特に、本発明においては、主繊維31は勿論、熱融着繊維32についてもリサイクル材を解繊処理した繊維質材料が使用されていることが特徴である。そのため、資源の有効利用を図るとともに、コスト低減に大きく役立っている。
【0021】
上記主繊維31としては、布地、産業端材を解繊処理した繊維類でポリエステル、高融点ポリプロピレン、ビニロン等の高融点をもつ合成繊維や、綿、麻、ウール等の天然繊維を素材としている。一方、熱融着繊維32としても、生理用品やオムツカバー等の布地、産業端材の解繊繊維であり、このものは比較的低融点のポリエチレン、低融点ポリプロピレンが使用されている。また、熱融着繊維32は、加工性を考慮して、シース・コア繊維、サイド・バイ・サイド繊維が使用される傾向にあり、シース・コア繊維としては、ポリエステル、高融点ポリプロピレン等、高融点樹脂からなるコアに対して、ポリエチレン、低融点ポリプロピレン等、低融点樹脂からなるシースで被包する構成であり、サイド・バイ・サイド繊維としては、低融点樹脂として100〜160℃のポリエチレン、低融点ポリプロピレンと、高融点樹脂として140〜260℃のポリエステル、高融点ポリプロピレンとが使用されている。また、この吸音材30の厚みとしては1〜70mm、密度は0.01〜1.0g/cm3 に設定されており、通気度は10〜100cc/cm2 /s(フラジール測定法による)で、また、主繊維31と熱融着繊維32との配合比率は、主繊維=30〜80重量部:熱融着繊維=70〜20重量部に調整されている。
【0022】
そして、本発明に係る車両内装用吸音材30は、主繊維31と熱融着繊維32の双方の素材としてリサイクル材を使用することで資源の有効利用を図るとともに、コスト低減が可能になるが、以下に説明する製造方法を採用することでリサイクル材による熱融着繊維32の使用が可能になり、かつ高い配合比率での混合を可能にしている。ここで、図3に示すように、この吸音材30の製造方法は、主繊維31、熱融着繊維32の同時解繊工程と、マット化工程、加熱工程、プレス成形工程の4工程に大別することができる。
【0023】
そして、特に、解繊工程に本発明の特徴がある。すなわち、主繊維31の素材である主繊維用リサイクル材Aと、熱融着繊維32の素材である熱融着繊維用リサイクル材Bを同時に解繊処理することで、低融点である熱融着繊維32同士が摩擦熱により付着し合うことを防止し、解繊機の内壁に熱融着繊維32が付着することがなく、熱融着繊維32の摩擦熱は、主繊維31により緩和されるために熱融着繊維32が偏在することがないので、均一に主繊維31内に混ざり合うことができるものと推察できる。
【0024】
次いで、マット化工程について説明する。すなわち、主繊維31と熱融着繊維32とが解繊処理された後、ベルトコンベア上にフリース状に供給され、厚み調整ロールで所望の厚みに調整され、熱処理加工、もしくはニードルパンチング加工によりマットが形成されるか、あるいは、加熱軟化処理した後プレス加工で所望の厚みのマットを形成するようにしても良い。そして、マットの形成が完了すれば、熱風加熱炉により加熱された後、プレス金型内で所要形状にプレス成形されて所望の車両内装用吸音材30が得られる。
【0025】
このように、本発明方法によれば、同一の解繊機内に主繊維31の素材である主繊維用リサイクル材Aと熱融着繊維32の素材である熱融着繊維用リサイクル材Bとを投入して、同時に解繊処理を行なうことで、熱融着繊維用リサイクル材Bを熱融着繊維32の素材として利用することができ、資源の有効利用が可能となり、大幅なコストダウンが見込める。更に、主繊維31と熱融着繊維32とが有効に混ざり合うため、熱融着繊維32は20〜70重量部の配合比率が可能となり、成形安定性を有効に確保できることから、車両内装用吸音材30の造形自由度が飛躍的に拡大するという利点がある。
【0026】
上述した吸音材30の形態としては、ルーフトリム本体20の裏面に接着剤等により貼付する使用形態であるが、ルーフトリム10の他にリヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ドアトリム等、内装トリムにおけるトリム本体の裏面に貼付する吸音材として有効に適用することができる。
【0027】
次いで、図4,図5は、エンジンルームEと車室Rとを区画するダッシュパネル40の室内面側に装着されるダッシュインシュレータ50の構成について適用したもので、ダッシュインシュレータ50は、本発明に係る吸音材30の表面に所望ならば遮音材51が設定されている。そして、このダッシュインシュレータ50における吸音材30についても、図2に示す断面図と同様、低コストで成形性の高いリサイクル材料が使用されている。尚、遮音材51としては、再生塩ビシート、再生ゴムシート等の非通気性遮音シートの他に、高密度不織布シート等を使用することができる。また、図5は、本発明に係る吸音材30の変形例であるが、吸音材30の両面にほつれ防止、あるいは見栄え向上を目的とした不織布60が貼付されている。この不織布60は、図5では吸音材30の両面に貼付したが、片側のみに設定することもできる。不織布60の材質としては、ポリエステル、フエルト等の繊維類やウレタンフォーム等の発泡体等が使用される。厚みは0.2〜5.0mm(好ましくは0.5〜2.0mm)で、密度は0.01〜1.0g/cm3 (好ましくは0.01〜0.1g/cm3 )が好ましい。そして、この変形例においては、図2の断面図に示すように、リサイクル材A,Bを使用した主繊維31、熱融着繊維32を使用することで、低コストな吸音材30を提供できるとともに、不織布60を少なくとも片面に配置することで、吸音材30のほつれを防止できるとともに、製品表面側に設定した場合は、外観見栄えを高めることができるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明した実施例は、ルーフトリム本体20裏面に貼付される吸音材30及びダッシュパネル40の室内面側に添装されるダッシュインシュレータ50の吸音材30にそれぞれ適用したが、ルーフトリム10の他に、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム、ドアトリム等の内装トリムにおけるトリム本体の裏面に貼付する吸音材に適用することもできるとともに、ダッシュインシュレータ50以外の防音材として、フロアインシュレータ等の防音材に適用することもできる。すなわち、繊維集合体からなるリサイクル吸音材全般に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 ルーフトリム
20 ルーフトリム本体
30 吸音材
31 主繊維
32 熱融着繊維
40 ダッシュパネル
50 ダッシュインシュレータ
51 遮音材
60 不織布
A 主繊維用リサイクル材
B 熱融着繊維用リサイクル材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内装トリム(20)の裏面に貼付して吸音性を付与する吸音材(30)、あるいは車体パネル(40)の室内面側に装着されるインシュレータ(50)を構成する吸音材(30)として採用される車両内装用吸音材(30)において、
前記吸音材(30)は、高融点繊維をベースとした主繊維用リサイクル材(A)を解繊してなる主繊維(31)と低融点繊維をベースとした熱融着繊維用リサイクル材(B)を解繊処理して得られる熱融着繊維(32)とから構成されており、全重量に対して熱融着繊維(32)の比率が20〜70重量部に調整され、主繊維(31)に対して熱融着繊維(32)が局部的に偏在することなく万遍なく混在していることを特徴とする車両内装用吸音材。
【請求項2】
内装トリム(20)の裏面に貼付して吸音性を付与する吸音材(30)、あるいは車体パネル(40)の室内面側に装着されるインシュレータ(50)を構成する吸音材(30)として採用される車両内装用吸音材(30)の製造方法において、
高融点繊維からなる主繊維用リサイクル材(A)と低融点繊維からなる熱融着繊維用リサイクル材(B)を同一の解繊機内で同時に解繊処理することで、主繊維(31)と熱融着繊維(32)とを均一に混合処理した後、所定厚みのマットを形成し、このマットを加熱軟化処理後、プレス成形することにより、所要形状の車両内装用吸音材(30)が得られることを特徴とする車両内装用吸音材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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