説明

車両前部構造

【課題】 異なる車両型式間でアンダーカバーを共用としても、連通口に関する性能を車両型式毎に十分に発揮させる。
【解決手段】 エンジンルームERの下方に配されるアンダーカバー1と、アンダーカバー1に形成された開口4,6を塞ぐ閉塞部材7と、を備え、閉塞部材7にアンダーカバー1の内外を連通する連通口8を形成し、閉塞部材7のみ変更又は交換できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームの下方にアンダーカバーが配される車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に車両のエンジンルームの下方には、車両下側を流通する空気を整流するとともに、エンジンから放射される音を遮蔽するアンダーカバーが配される。アンダーカバーを装着することによりエンジンルームの下部が外部と遮られるため、エンジン、空調装置、ブレーキ装置等の冷却に不利とならないようアンダーカバーに冷却用の連通口が形成される場合がある。
【0003】
この種の車両前部構造としては、連通口より導入した外気をエンジンルーム側の冷却対象物に指向させるダクトがアンダーカバーに形成されたもの(例えば、特許文献1参照。)や、連通口を利用してエンジンルーム内に導入された空気をブレーキ装置へ向けて排出するもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【特許文献1】特開2003−276648号公報
【特許文献2】特開平7−156666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、異なる車種であってもアンダーフロアを共用する場合にアンダーカバーを共用としたり、同車種でエンジン、仕向地等が異なる場合にもアンダーカバーを共用とするなどして、部品の共用化により製造コストを低減することが望ましい。
しかしながら、前述のいずれの車両前部構造であっても、アンダーカバーに開口を直接形成するため、エンジン、仕向地等に応じて連通口の形状等を変更することができない。これにより、異なる連通口の仕様ごとにアンダーカバーを製造する必要が生じる。また、仮にアンダーカバーを共用とすると、連通口を全ての車両型式に適応させることができず、全ての車両型式において連通口に関する性能を十分に発揮させることはできなくなる。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、異なる車両型式間でアンダーカバーを共用としても、連通口に関する性能を車両型式毎に十分に発揮させることのできる車両前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両前部構造において、エンジンルームの下方に配されるアンダーカバーと、前記アンダーカバーに形成された開口を塞ぐ閉塞部材と、を備え、前記閉塞部材に前記アンダーカバーの内外を連通する連通口を形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、閉塞部材に形成された連通口を通じて、アンダーカバーを跨いで空気が流通することから、エンジン、ブレーキ装置等の冷却性能を向上させることができる。
ここで、アンダーカバーの開口を塞ぐ閉塞部材に連通口を形成したことから、異なる閉塞部材を装着することにより、連通口の仕様を変更することができる。これにより、エンジンの設置位置、ブレーキの仕様、仕向地等に対応して閉塞部材を別個に製造しておき、車両型式に応じて異なる閉塞部材を装着することにより、アンダーカバーを共用としつつ、車両型式に適した連通口の性能を発揮させることができる。
さらに、車両型式が同じであっても、季節や車両の使用用途に応じてエンジン等の冷却性能等が変化するので、これらに対応させて閉塞部材を交換することもできる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車両前部構造において、前記連通口は、空気の流通を許容し雪の侵入を抑制する抑制部を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の作用に加え、抑制部により雪の侵入が抑制されることから、連通口を通じてエンジンルーム内に雪が侵入してエンジンルーム内に雪が堆積したり、エンジンルーム内の電子部品に水分が付着するという不具合が生ずることはない。これにより、エンジン等の冷却性能を確保しつつ、寒冷地向けの車両に有利な耐雪構造をとることができる。
尚、寒冷地向け以外の車両に抑制部を有する閉塞部材を装着して閉塞部材の共用化を図ってもよいし、寒冷地向け以外の車両には抑制部のない閉塞部材を装着してもよい。
ここで、雪が詰まって連通口が塞がれる場合も考えられるが、雪が存在する雰囲気下では外気温度は比較的低いので、連通口を通じた空気の流通がない状態であっても、エンジン、ブレーキ装置等に要求される冷却性能を満足させることができ、車両走行に支障をきたすことはない。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の車両前部構造において、前記連通口は、前記閉塞部材に前記エンジンルーム側へ突出するよう形成された前後へ延びるダクト部を有し、前記ダクト部の最後部に前記抑制部を配したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の作用に加え、前後に延びるダクト部により、車両走行時に後方へ向かって流れる外気が滑らかにエンジンルーム内へ案内される。また、ダクト部はエンジンルーム側へ突出するので、車両下側の空気の流れが乱れることはない。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両前部構造において、前記閉塞部材のエンジンルーム側に、前記連通口から導入された外気の方向を調整する風向調整部を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれか一項の作用に加え、風向調整部によりエンジンルーム内に導入される外気の方向が調整されるので、エンジン等の冷却対象物に的確に外気を指向させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両前部構造において、前記アンダーカバーの前記開口はオイルパンのドレンプラグの下方に設けられ、前記閉塞部材は、オイル交換時に、前記開口の閉塞位置から退去する板部材であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から4のいずれか一項の作用に加え、オイル交換のメンテナンス用の部品を用いて閉塞部材とすることができ、部品点数が増大するということはない。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明の車両前部構造によれば、異なる車両型式間でアンダーカバーを共用としても、連通口に関する性能を車両型式毎に十分に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1から図5は本発明の一実施形態を示すもので、図1は車両前部の概略下面図、図2は車両前部の縦断面図、図3は閉塞部材の外観斜視図、図4は閉塞部材の上面図、図5はスリット材の正面図である。
【0018】
図1に示すように、この車両前部構造は、フロントエンジン車のエンジンルームERの下方にアンダーカバー1が配されている。図1に示すように、アンダーカバー1におけるオイルパン2のドレンプラグ3及びオイルフィルター4の下方には開口5が形成される。
【0019】
また、この車両前部構造は、アンダーカバー1の開口5を塞ぎ、前端左側に回動固定部6を有する閉塞部材7が備えられる。この閉塞部材7は、板部材であり、略前後に延びる前後延在部7aと、前後延在部7aの後端から左方に延びる左右延在部7bとを有する。本実施形態においては、前後延在部7aの前端左側にてアンダーカバー1に回動自在に接続され、閉塞位置にて複数のボルト、クリップ等によりアンダーカバー1に固定される。すなわち、閉塞部材7は、オイル交換時に、ボルト、クリップ等を取り外すことにより、図1中の矢印に示すように、開口5の閉塞位置から退去させることができるようになっている。
【0020】
図1に示すように、この前後延在部7aには、アンダーカバー1の内外を連通する連通口8が形成される。これにより、図示しないエンジンの冷却が促進されるようになっている。本実施形態においては、連通口8は閉塞部材7にエンジンルームER側へ突出するよう形成された前後へ延びるダクト部9を有する。本実施形態においては、図1に示すように、ダクト部9の入口は前後延在部7aに後方へ向かって拡がるよう形成された略矩形状の吸入口9aであり、図2に示すようにダクト部9により吸入口9aがエンジンルームER側から略覆われるようになっている。
【0021】
また、図2に示すように、このダクト部9は、前後延在部7aから後方へ延びる後上がりの傾斜壁10と、この傾斜壁10の左右両辺に接続し前後延在部7aに略垂直に形成された右壁11及び左壁12とを有する。図3に示すように、傾斜壁10、右壁11及び左壁12の後端によりダクト部9の吐出口9bが形成され、この吐出口9bに傾斜壁10と略直交するスリット材13が設けられる。
【0022】
図5に示すように、このスリット材13は、略上下に延びる複数のスリット13aが左右に並んで形成された板状の部材である。本実施形態においては、抑制部としてのスリット材13により、エンジンルームER側への空気の流通が許容され雪の侵入が抑制される。尚、各スリット13aの幅は約5mmであり、実験により約5mmのスリット13aが雪の侵入抑制に最適であることが確認されている。
【0023】
さらに、図4に示すように、前後延在部7aのエンジンルームER側におけるダクト部9の吐出口9bの後方には、連通口8から導入された外気の方向を調整する導風板14が立設される。図2に示すように、風向調整部としての導風板14は、前後延在部7aに略垂直に形成される。本実施形態においては、図3に示すように、導風板14は、ダクト部9の右壁11及び左壁12を後方に延長して形成され、ダクト部9の吐出口9bを後方より半包囲するようになっている。
【0024】
以上のように構成された車両前部構造によれば、図2の矢印に示すように、閉塞部材7に形成された連通口8を通じて、アンダーカバー1を跨いで空気が流通することから、エンジン、ブレーキ装置等の冷却性能を向上させることができる。
ここで、アンダーカバーの開口5を塞ぐ閉塞部材7に連通口8を形成したことから、異なる閉塞部材7を装着することにより、連通口8の仕様を変更することができる。これにより、エンジンの設置位置、ブレーキの仕様、仕向地等に対応して閉塞部材7を別個に製造しておき、車両型式に応じて異なる閉塞部材7を装着することにより、アンダーカバー1を共用としつつ、車両型式に適した連通口8の性能を発揮させることができる。
さらに、車両型式が同じであっても、季節や車両の使用用途に応じてエンジン等の冷却性能等が変化するので、これらに対応させて閉塞部材7を交換することもできる。
【0025】
また、本実施形態の車両前部構造によれば、スリット材13により雪の侵入が抑制されることから、連通口8を通じてエンジンルームER内に雪が侵入してエンジンルームER内に雪が堆積したり、エンジンルームER内の電子部品に水分が付着するという不具合が生ずることはない。これにより、エンジン等の冷却性能を確保しつつ、寒冷地向けの車両に有利な耐雪構造をとることができる。
尚、寒冷地向け以外の車両にスリット材13を有する閉塞部材7を装着して閉塞部材7の共用化を図ってもよいし、寒冷地向け以外の車両にはスリット材13のない閉塞部材7を装着してもよい。
ここで、雪が詰まって連通口8が塞がれる場合も考えられるが、雪が存在する雰囲気下では外気温度は比較的低いので、連通口8を通じた空気の流通がない状態であっても、エンジン、ブレーキ装置等に要求される冷却性能を満足させることができ、車両走行に支障をきたすことはない。
【0026】
また、本実施形態の車両前部構造によれば、前後に延びるダクト部9により、車両走行時に後方へ向かって流れる外気が滑らかにエンジンルームER内へ案内される。また、ダクト部9はエンジンルームER側へ突出するので、車両下側の空気の流れが乱れることはない。
【0027】
また、本実施形態の車両前部構造によれば、導風板14によりエンジンルームER内に導入される外気の方向が調整されるので、冷却対象物であるエンジンに的確に外気を指向させることができる。
【0028】
また、本実施形態の車両前部構造によれば、オイル交換のメンテナンス用の部品を用いて閉塞部材7とすることができ、部品点数が増大するということはない。
【0029】
尚、前記実施形態においては、連通口8として外気をエンジンルームER側へ導入するものを示したが、エンジンルームER側から外部へ空気を排出するものであってもよい。また、冷却対象物がエンジン以外のものであってもよい。すなわち、例えば、エンジンルームER内の空気をブレーキ装置に向けて排出する連通口に本発明を適用することもできる。
【0030】
また、前記実施形態においては、抑制部としてスリット材13を用いたものを示したが、例えばメッシュ状の板材や格子状の板材を用いてもよい。さらには、抑制部としてダクト部9の傾斜壁10、右壁11及び左壁12の内側に突部を形成してもよい。
【0031】
また、前記実施形態においては、導風板14が略垂直に形成されたものを示したが、例えば図6に示すようにダクト部9の吐出口9bから吐出される空気の流れに対応させて後方へ傾斜させてもよいし、エンジンの搭載位置に応じて変更してもよい。また、風向調整板として導風板14でなく、閉塞部材7自体に傾斜部分を形成したものであってもよい。
【0032】
また、前記実施形態においては、アンダーカバー1におけるオイルパン2のドレンプラグ3及びオイルフィルター4の下方に開口5を形成したものを示したが、ドレンプラグ3及びオイルフィルター4の設置位置とは無関係に開口を形成してもよく、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両前部の概略下面図である。
【図2】車両前部の縦断面図である。
【図3】閉塞部材の外観斜視図である。
【図4】閉塞部材の上面図である。
【図5】スリット材の正面図である。
【図6】変形例を示す閉塞部材の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 アンダーカバー
2 オイルパン
3 ドレンプラグ
5 開口
7 閉塞部材
8 連通口
9 ダクト部
13 スリット材
13a スリット
14 導風板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの下方に配されるアンダーカバーと、
前記アンダーカバーに形成された開口を塞ぐ閉塞部材と、を備え、
前記閉塞部材に前記アンダーカバーの内外を連通する連通口を形成したことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記連通口は、空気の流通を許容し雪の侵入を抑制する抑制部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記連通口は、前記閉塞部材に前記エンジンルーム側へ突出するよう形成された前後へ延びるダクト部を有し、
前記ダクト部の最後部に前記抑制部を配したことを特徴とする請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記閉塞部材のエンジンルーム側に、前記連通口から導入された外気の方向を調整する風向調整部を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記アンダーカバーの前記開口はオイルパンのドレンプラグの下方に設けられ、
前記閉塞部材は、オイル交換時に、前記開口の閉塞位置から退去する板部材であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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