説明

車両検知器

【課題】道路上の監視範囲に存在する車両の速度を精度よく検出する車両検知器、及びこの検知器を具える車両検知システムを提供する。
【解決手段】この車両検知器は、道路100上の監視範囲に存在する車両の速度を検出するものであり、検知対象が発する赤外線を感知する第一サーモパイル素子及び第二サーモパイル素子と、これら両素子から得られた入力レベル値を用いて車両200の速度を演算する速度検出部とを具える。両素子は、各素子に基づく監視範囲3A、3Bが一車線の車線方向に並ぶように配置される。速度検出部は、各素子から得られた入力レベル値の出力波形の時間差を演算する時間差演算手段と、得られた時間差と、二つの監視範囲3A、3B間の距離とから車両200の速度を演算する速度演算手段とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の速度を検出する車両検知器、及びこの車両検知器を具える車両検知システムに関するものである。特に、車両の速度をより正確に求めることができる車両検知器、及びこの検知器を具える車両検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、交通量や占有率などの交通流を調べるために車両を検知する車両検知器として、超音波検知器などがよく知られている。
【0003】
超音波検知器は、一般に、自ら超音波を発してその反射波を感知するいわゆるアクティブセンサが用いられており、超音波を送波し、車両からの反射波と道路からの反射波とが戻ってくるまでの時間差を検出して車両を検知するものである。このような超音波検知器として、例えば、特許文献1に記載のものがある。
【0004】
【特許文献1】特開昭60-78373号公報(特許請求の範囲参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より的確な渋滞状況を検知するには、車両の速度をより正確に求めることが望まれる。
【0006】
しかし、従来の車両検知器では、車両の速度を精度よく求めることが困難な場合がある。
超音波検知器は、上記のように送波した超音波の反射波を受波することで車両の検知を行う。そのため、超音波の反射が行われにくい材質、例えば、トラックの幌などに送波された場合、反射波の受波が的確に行われにくく、車両の検知が困難なだけでなく、車両の速度を精度よく求めることができない。
【0007】
また、渋滞時において車両検知器は、車両を検知し続ける必要がある。図22(A)に示すように、渋滞時、車両検知器の下方、即ち、検知器に基づいて形成される監視範囲に車両200が停車していれば、車両200を検知し続けることができる。しかし、図22(B)に示すように車両200間に車両検知器が位置してしまう、即ち、検知器に基づいて形成される監視範囲外に車両200が停車している状態が続くと、渋滞中であるにもかかわらず、占有率が低く検出されてしまう。車両検知器は、通常、車両200が道路100を占有する時間の割合を占有率として出力するが、図22(B)に示す状態では占有率が適切に検出されない。この状態では、車両の速度も適切に求めることができない。
【0008】
更に、超音波検知器は、アクティブセンサであるため、消費電力が大きい傾向にある。そのため、超音波検知器は、通常、ケーブルなどの有線により電力供給が行われており、電力供給のためのケーブル接続工事が必要であるばかりでなく、消費電力が大きいことからコスト高になり易い。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、車両の速度を適切に求めることができる車両検知器を提供することにある。また、本発明の別の目的は、車両の検知を精度よく行うことができる車両検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明車両検知器は、パッシブ(受動的)に赤外線を感知する少なくとも二つのサーモパイル素子を、各素子に基づく監視範囲が一車線の車線方向に並ぶように配置し、両素子から得られた入力レベル値を用いて速度の演算を行う構成とすることで、上記主目的を達成する。
【0011】
具体的には、本発明車両検知器は、道路上の監視範囲に存在する車両の速度を検出するものであり、検知対象が発する赤外線を感知する第一サーモパイル素子及び第二サーモパイル素子と、これら両素子から得られた入力レベル値を用いて車両の速度を演算する速度検出部とを具える。両サーモパイル素子は、各素子に基づく監視範囲が一車線の車線方向に並ぶように配置される。速度検出部は、各素子から得られた入力レベル値の出力波形の時間差を演算する時間差演算手段と、得られた時間差と、二つの監視範囲間の距離とから車両の速度を演算する速度演算手段とを具える。
【0012】
従来、車両の検知によく用いられている超音波検知器では、超音波を受波する材質によって、反射波の受波が的確に行われにくく、車両や速度を検出しにくいことがある。
【0013】
また、超音波検知器は、一般に、道路を通過する車両に対してほぼ垂直に送波できるように、送波部/受波部が道路を通過する車両のほぼ真上に位置するように設置する必要がある。具体的には、道路傍の支柱に水平材を取り付け、超音波検知器の送波部/受波部が道路や車両に対してほぼ真下を向くようにこの水平材に固定される。そのため、水平材は、超音波検知器が車両のほぼ真上に位置するように道路の中ほどまで突出できる程度の長さが必要である。従って、超音波検知器を用いる場合、設置のために比較的長尺な水平材が必要であり、この水平材が道路の中ほど上方に突出して支柱に取り付けられることで、美観を損なうだけでなく、設置コストが高くなる。
【0014】
そこで、美観の改善と設置コストの低減とを図るべく、上記水平材を除去又は短くして、いわゆる直上式の設置ではなく、車両検知器が車両の斜め上方に位置するように支柱に取り付ける、いわゆるサイドファイア式に設置することが考えられる。しかし、サイドファイア式に設置した場合、超音波検知器は、送波部/受波部が道路や車両に対して斜め下を向いているため、風雨の影響や多重反射の影響を受けて、車両の速度を求められなかったり、車両を誤認する恐れがある。具体的には、横降りの雨などが超音波振動子に当たって振動子が固有振動周波数で振動した場合や、車両から直接返ってくる反射波以外のマルチパスで返ってくる反射波を受波した場合などで、車両有りと判断されることがある。従って、超音波検知器では、美観の改善などを図るべくいわゆるサイドファイア式に設置すると、精度よく車両や速度を検出することが難しい、或いは車両の検知が行えない場合がある。
【0015】
一方、物体が発する赤外線の量は、ステファン・ボルツマンの法則により、物体の絶対温度のほぼ4乗に比例すると共に、物体の放射率εに比例する。道路上の物体、例えば、道路面や道路を走行する車両の放射率εは、通常、ほぼ同等(通常0.9以上)であり大差がないことが多い。そのため、赤外線を感知するセンサを道路面の方向に向けて設置しておけば、道路などの車両以外の物体と温度が異なる車両がこの道路面を通過した際、センサが感知する赤外線の量が変化することで、車両を検知することができる。また、このセンサから得られたデータを用いて車両の速度を求めることができる。そこで、車両の材質によらず車両や速度を検出でき、また、いわゆるサイドファイア式に設置しても精度よく車両や速度を検出できるように、超音波を用いた検知ではなく、検知対象が発する赤外線を感知するセンサを用い、道路面と車両との温度差、即ち、赤外線の量の差に基づき車両を検知することが考えられる。このようなセンサとして、本発明では、自ら発した赤外線を感知せず、検知対象が発する赤外線を感知するセンサ、いわゆるパッシブセンサを用いる。具体的には、赤外線が有する熱効果によって温められて温度の上昇によって生じる電気的性質の変化を検出できるセンサ、特に、赤外線により熱電対に発生した温度変化を熱起電力として出力するサーモパイル素子が挙げられる。
【0016】
他方、ある道路を長距離に亘る区間で考えた場合、その道路上には、通常、車両検知が望まれるエリアが複数存在する。この一エリア内の一車線に対して、従来、車両検知器は一つずつ設けられるため、この一エリア内の一車線に監視範囲は、一つ形成される。従って、従来は、一エリア内の一車線を通過する車両を一台の車両検知器で、即ち、一つの監視範囲で検知していた。しかし、本発明者らが種々検討した結果、サーモパイル素子を一つ具える車両検知器を上記従来と同様に一車線につき一台配置して、この素子に基づいて監視範囲を一つ形成して車両の検知を行うと、車両の検知が困難なときがあるとの知見を得た。
【0017】
エンジン部、タイヤ、ルーフなどといった車両の各部位において、道路面との温度差が、主に熱容量の違い、熱伝導率の違いや太陽光の熱吸収率の違いによって発生する部位がある。例えば、ルーフが該当する。このような部位では、道路面との温度差がほとんどなくなってしまう時間帯が1日に2回あることが知られている(赤外線工学、編者:電子情報通信学会、著者:久野治義、平成6年3月20日初版、136ページ、図6.3参照)。従って、一つの監視範囲により、監視範囲を通過する車両の特定の一部位を監視し、この部位からの赤外線を感知する場合、部位によっては上記のような時間帯になると車両を検知しにくいことがある。特に、雨や雪の際は、熱伝導率の差や熱放射率の差などを水滴が吸収して、熱伝導率の差などを小さくし易い。そのため、上記の道路面との温度差がほとんどなくなる時間帯では、もともと熱伝導率の差や熱放射率の差が小さい上に更に水滴がそれらの差を吸収することで、ますます道路面との温度差が小さくなり易い。このように車両において同じ部位のみを監視する場合、部位によっては、車両の検知が正確に行いにくく、車両の速度も算出しにくくなる。特に、雨や雪などの天候によっては、車両の検知がより行いにくくなる。これらの事情から、車両において、時間帯によらず、更に雨や雪などの天候でも、道路面との温度差が生じ易い部位を監視することが望まれる。
【0018】
そこで、図23に示すように道路100傍の支柱300に取り付けた車両検知器400の監視範囲401を一車線全体となるように広げることが考えられる。このとき、サーモパイル素子は、車両200の複数の異なる部位からの赤外線を感知可能である。しかし、図23に示すように監視範囲401の大きさを広げて、一車線全体からの赤外線を感知しても、サーモパイル素子の出力電圧は、その監視範囲全体の絶対温度の4乗平均になるため、S/N比(シグナルとノイズの比)が低下してしまう。従って、出力結果が道路面と同様になる場合(時間帯)があり、上記車両の一部位からの赤外線を感知する場合と同様になる。
【0019】
ここで、一車両の各部位、即ち、エンジン部、タイヤ、ボンネット、側面、ルーフなどは、通常、均一な温度でなく異なっている。また、各部位によって、道路面との温度差を生じる主な原因が異なっていることがある。例えば、ルーフや側面などは、主に熱容量、熱伝導率、太陽光の熱吸収率の違いにより、道路面との温度差が生じる部位であるが、エンジン部やタイヤなどでは、主に自ら熱を発することで道路面との温度差を生じ易い部位である。
【0020】
そこで、一つのサーモパイル素子を用いて、一車線における監視範囲の大きさを広げるのではなく、複数の素子を用いて、一車線における監視範囲を複数設ける構成とすることで、車両の検知が困難となる場合を低減する。即ち、道路上に設けられる車両検知が望まれる一エリア内の一車線に対し、監視範囲を複数形成するべく、複数のサーモパイル素子を具える構成では、これらの監視範囲を通過する一車両において複数の異なる部位が発する赤外線をそれぞれ異なる素子で感知することができる。
【0021】
従って、上記一車線における監視範囲を複数設ける構成は、一車両において、ある部位と道路面との温度差(赤外線の量の差)が生じにくい場合(時間帯)であっても、他の部位との間で温度差が得られる可能性を高めることができる。また、一車線に複数の監視範囲を設ける構成では、雨や雪などの天候においても安定して高い温度を示す部位、即ち、赤外線の量が大きくなる傾向が強いタイヤ、エンジン部、マフラーなどの部位を検知できる可能性が高くなる。更に、サーモパイル素子を複数具えて、素子一つ当りの一車線における監視範囲を比較的小さくすると共にこのような監視範囲を複数設ける構成とすることで、一つの素子で一車線における監視範囲を大きくした際に生じる温度の平均化による検知レベルの低下が生じることがない。従って、この構成では、車両の検知を行うことが困難な場合を効果的に低減することができると共に、検知レベルを低下させることなく精度よく車両の検知や速度の検出を行うことができる。
【0022】
加えて、サーモパイル素子という消費電力が小さいパッシブセンサを用いる構成では、消費電力の減少を実現し、コストの低減をも図ることができる。従来の超音波検知器は、一般に消費電力が大きいため、通常、太陽電池などによる電力供給が困難であり、有線による電力供給が必要である。これに対し、パッシブセンサを用いる構成とすると、センサを連続作動しても消費電力が小さく、太陽電池などによる電源にて電力供給も可能である。また、この構成は、有線による電力供給でなくてもよいため、ケーブルの接続工事なども不要である。
【0023】
上記知見に基づき、本発明車両検知器は、一車線に複数の監視範囲を形成するように複数のサーモパイル素子を具える、特に、各素子に基づく監視範囲が一車線の車線方向に並んで配置されるように二つの素子を具えることで、車両からの赤外線をより確実に感知できる。このようなサーモパイル素子と、速度検出部を具えることで、本発明車両検知器は、車両の速度を精度よく求められる。以下、本発明を詳しく説明する。
【0024】
複数のサーモパイル素子を具える場合、一車線の道路面上に複数の監視範囲を並べる形態としては、一車線の車幅方向に並べる形態、一車線の車線方向に並べる形態、一車線の車幅方向及び車線方向にずらして並べる形態が挙げられる。本発明では、少なくとも車線方向に並べる形態とする。車幅方向、車線方向のいずれの場合も、各監視範囲は、他の監視範囲と一部が重複するように設けてもよいし、隣接するように設けてもよいし、適当な間隔を空けて設けてもよい。また、車幅方向及び車線方向のいずれの方向にも、複数の監視範囲を設けてもよい。本発明では、車線方向に少なくとも二つの監視範囲を設ける。そして、各監視範囲は、少なくとも一車両の異なる部位が通過可能なように一車線に設ける。また、各サーモパイル素子は、各監視範囲が上記のような配置位置となるように本発明車両検知器に具える。
【0025】
速度検出部は、時間差演算手段と、速度演算手段とを具える。時間差演算手段が演算する両出力波形の時間差は、両出力波形から相関関数を求め、この相関関数に基づいて求めることが挙げられる。より具体的には、例えば、相関関数の最大値を利用する。速度演算手段が演算する二つの監視範囲間の距離は、例えば、当該車両検知器の配置位置と両サーモパイル素子の指向角の差とを用いて求められる。求めた距離は、設定値として速度検出部のメモリに保存しておき、速度演算手段が呼び出せるようにしておく。
【0026】
その他、本発明検知器は、赤外線を感知する範囲を絞って適当な範囲に調整でき、かつ赤外線をサーモパイル素子に集め易くするために、素子の検知方向前方に、赤外線透過レンズを具えることが好ましい。赤外線透過レンズは、赤外線を透過するものであればよく、特に形状は問わない。例えば、一面が球面状のものでもよい。また、赤外線透過レンズは、特に、ZnSから形成されるものが好ましい。赤外線透過レンズとして、従来Ge(ゲルマニウム)などから形成されるものが知られているが、従来のレンズでは、ガラス系やシリコン系の補助材が必要である。しかし、本発明者らが検討した結果、ZnSからなるレンズは、耐候性に優れており、これ自体を外部に露出させても十分使用に耐え得るとの知見を得た。このようなレンズは、サーモパイル素子の数に応じて一つずつ具えてもよいし、一つのレンズに対して、複数の素子を配置してもよい。前者の場合、レンズの中心軸に沿ってサーモパイル素子を配置した状態で各レンズの指向角を変化させることで、各素子が形成する監視範囲の配置状態を変化させることができる。また、レンズの中心軸に対するサーモパイル素子の配置位置を変化させることでも、各素子が形成する監視範囲の配置状態を変化させることができる。一つの赤外線透過レンズに複数の素子を配置する後者の場合、レンズの中心軸に対する各サーモパイル素子の位置をずらすことで、各素子が形成する監視範囲の配置状態を変化させることができる。この場合、赤外線透過レンズの個数を少なくすることができる。
【0027】
加えて、本発明検知器は、サーモパイル素子を収納する筐体を具えることが好ましい。このような筐体は、軽量のアルミニウムなどから形成されるものが好ましい。上記赤外線透過レンズは、この筐体に収納されるサーモパイル素子と焦点距離が合うように筐体に配置する。このとき、筐体内でサーモパイル素子を支持する支持部と、赤外線透過レンズを支持する支持部とを別個に設けてもよいが、一体に形成された支持部でもよい。一体に形成された支持部とする場合、この支持部には、サーモパイル素子及び赤外線透過レンズを配置した際、適切な焦点距離となるように、それぞれ上記素子、レンズの配置個所を形成することが好適である。このような支持部を用いると、サーモパイル素子及び赤外線透過レンズを適宜各配置箇所に配置することで、焦点距離が適切に合わせられる一体部材が得られ、これらを筐体の所定の場所に配置する際、焦点距離の調整を行う必要がなく、筐体への設置作業が容易にできて好ましい。
【0028】
また、上記筐体には、赤外線透過レンズの指向角を目的の方向に合わせるための照準部を具えることが好ましい。サーモパイル素子及び赤外線透過レンズを具えた筐体を道路傍の支柱などに設置する際、同レンズの指向角を目的の方向に合わせる必要がある。そこで、照準部を具える筐体を用いると、筐体に配置された赤外線透過レンズの指向角が容易に把握できて、設置作業性がよい。照準部は、指向角を目的の方向に合わせることができる目印となるものであればよく、例えば、凹状突起と、凸状突起とを組み合わせた突起などの目印を設けたり、レーザポインタなどを設ける構成が挙げられる。前者の場合、より具体的には、筐体の一面において一端に凹状突起、他端に凸状突起を具え、凹状突起の凹みから凸状突起を確認し、この凹みと凸状突起の凸部とを繋ぐ直線を目的の方向に合わせることで、指向角を適切な方向にできる構成が挙げられる。
【0029】
上記筐体は、道路際に設けられている支柱に対し、いわゆるサイドファイア式に設置して、赤外線の感知を道路の側方から行ってもよい。具体的には、筐体の取り付け位置を道路面から車両の高さ以上とする場合、道路や車両などに対し筐体(サーモパイル素子の検知方向)が斜め下を向くように支柱に取り付け、車両を斜め上方から検知してもよい。本発明検知器は、赤外線を感知するサーモパイル素子を用いることで、道路を通過する車両のほぼ真上でなく道路の側方に設置されていても、車両からの赤外線を精度よく感知することができ、車両の速度を精度よく求められる。また、本発明検知器は、従来の超音波検知器のように設置の際に水平材を全く用いなくてもよく、或いは水平材を用いたとしても、従来の水平材よりも短いものでよく、美観を損なうことが少ない。
【0030】
上記本発明車両検知器と、この検知器に具える各サーモパイル素子から得られた入力レベル値を用いて、監視範囲に存在する車両の有無を判定する車両有無判定部とを具えるシステムを構築することで、車両の速度の検出に加えて、車両の誤認が少なく、高精度に車両の検知を行える。このシステムは、複数のサーモパイル素子を具えて、一車線に対して複数の監視範囲を設けているため、各監視範囲にて一車両の異なる部位、特に、温度の異なる部位を検知することができる。そのため、このシステムは、気温や天候などの環境や渋滞時などにおいても精度よく車両を検知できる。特に、後述する本発明検知器で算出した車両の速度を利用して車両の同一性を判定する同一性判定部を具える本発明車両検知システムを構築することで、車両の台数の誤認を低減できる。
【0031】
従来の車両検知器を用いた車両検知システムでは、一つのセンサから得られたデータのみで車両の有無を判定していた。これに対し、本発明システムでは、車両の検知が望まれる一エリア中の一車線に複数の監視範囲を設け、複数のサーモパイル素子からそれぞれ入力レベル値を取得し、得られた複数のデータ(入力レベル値)を利用して車両の有無を判断する。そのため、車両の検知精度を高めることができる。
【0032】
特に、一車線の車線方向に複数の監視範囲を配置する本発明検知器を具える本発明システムは、渋滞中であっても、車線方向に並ぶいずれかの監視範囲に車両が停車する可能性が高くなる。そのため、監視範囲を形成するいずれかのサーモパイル素子が車両を検知する可能性を高めることができる。従って、渋滞中における車両の台数カウントの精度や占有率測定精度をより向上させることが可能である。なお、占有率とは、道路に占める車両の割合のことで、この値が大きいと、渋滞中であることを示すものである。
【0033】
また、一車線の車線方向に複数の監視範囲を配置する本発明システムは、車両の台数の誤認を低減することができる。一車両において、例えば、先頭部及び後部の温度が高く、その中間部は、道路面との温度差が小さいといった車両が比較的多く存在する。このとき、各サーモパイル素子から得られたデータには、二つの波形が連続的に現れる。このような車両が低速で走行すると、二つの波形から1台の車両を2台と検知する恐れがある。しかし、車線方向に複数の監視範囲を設ける本発明システムは、後述する同一性判定部により、二つの波形が同一の車両のものかどうかを判定し、精度よく区別することができる。
【0034】
本発明に用いるサーモパイル素子として、特に、熱起電力の出力が大きいサーモパイル素子を用いると共に、後述するように車両の有無の判定を行うアルゴリズムを工夫することで、焦電センサなどの他のセンサを用いず、サーモパイル素子のみで十分な赤外線の感知を行って車両を検知することができる。
【0035】
更に、後述するように回路構成を工夫すると、渋滞時や停滞時などで車両が停止している場合であっても、精度よく車両の検知を行うことができる。これに対し、焦電センサは、一般に大きな出力が得られるが、測定対象の温度の変化に対応した電圧を出力する素子であるため、車両が停止すると、温度の変化がなくなることで出力が原点に戻ってしまい、適切な検知が行いにくい。
【0036】
車両有無判定部としては、例えば、次の手段を具える構成が挙げられる。即ち、各サーモパイル素子から得られた入力レベル値において、車両以外の物体が発する赤外線の量に基づく値を各監視範囲の背景レベルとし、この赤外線の量に基づく値から各監視範囲の背景レベルを演算する背景レベル演算手段と、各監視範囲の入力レベル値と背景レベルとの差に基づく値を比較値とし、比較値と閾値とを比較し、車両の有無を判定する総合判定手段とを具える構成が挙げられる。
【0037】
各サーモパイル素子から得られた入力レベル値をそのまま用いることも考えられるが、本発明では、得られた複数の入力レベル値を用いて適当な演算を行い、この演算値を用いて車両の有無の判定を行う。即ち、本発明システムにおける車両検知の手順を説明すると、まず、各サーモパイル素子により赤外線を感知し、それぞれ入力レベル値を得る。得られた入力レベル値を用いて、後述するように各入力レベル値に基づく背景レベルを演算する。また、各サーモパイル素子からの入力レベル値と背景レベルとの差を監視範囲毎にそれぞれ求める。得られた入力レベル値と背景レベルとの差に基づく値を演算し、これを比較値とする。そして、例えば、比較値が閾値以上の場合、車両有りと判定し、比較値が閾値未満の場合、車両無しと判定する。その後、得られた判定結果を信号制御機や管理センターなどに送信する。
【0038】
背景レベルは、車両以外の物体が発する赤外線の量に基づく値とし、上述のように入力レベル値を用いて演算する。本発明では、背景レベルとして測定データを用いるため、背景レベルを実際の環境の値に近似させることができ、より精密な検知を行うことができる。
【0039】
入力レベル値を用いた演算値としては、過去の背景レベルを用いた指数平滑法によるものが挙げられる。指数平滑法は、一般にf0=α×d−1+(1−α)f−1=f−1+α×(d−1−f−1)と表され(f0:次期予測値、α:平滑係数、d−1:前期の実績値、f−1:前期の予測値)、前期の実績値(ここでは、入力レベル値)を反映させることができる。そのため、背景レベルが実際の環境(路面状況)に即したより的確な値となり得る。より具体的には、平滑係数αで決まる追従速度で背景レベルを入力レベル値に追従させる。平滑係数αは、一定値としてもよいが、前回の車両判定結果に応じて変化させると、車両の赤外線の量(温度)に左右されずに背景レベルをより確実に把握することができて好ましい。例えば、前回の車両判定結果が車両有りの場合、渋滞時などでは、現在の入力レベル値は、車両からの赤外線により得られた値であると考えられる。従って、渋滞時などでは追従速度を大きくすると異常な背景レベルとなるため、追従速度を比較的小さくする又は0にすることが好ましい。即ち、平滑係数αを比較的小さく或いは0にする。このとき、前期の実績値(ここでは、入力レベル値)をほとんど関与させず前回の背景レベルをほぼそのまま用いることになる。一方、前回の車両判定結果が車両無しの場合、現在の入力レベル値は、車両以外から、即ち、道路からの赤外線により得られた値であると考えられる。従って、追従速度を比較的大きくする、即ち、平滑係数αを比較的大きくして、前期の実績値(ここでは、現在の入力レベル値)による補正を行うことが好ましい。
【0040】
比較値としては、例えば、監視範囲毎の入力レベル値と背景レベルとの差(以下、背景差分と呼ぶ)の総和を用いてもよい。総和をとることで、少なくとも一つの監視範囲において温度変化があれば、車両の検知を行うことができると共に、全ての監視範囲において微小な温度変化しかなくても、その変化を増大することができるため、車両の検知をより確実に行うことができる。各監視範囲の背景差分の総和は、そのまま用いてもよいが、本発明者らが検討した結果、渋滞時などで赤外線の量の変化が穏やかに行われた場合や、車両の温度変化(赤外線の量の変化)が大きく入力レベル値が背景レベルと同様となるときがある場合などでは、車両無しと判定される可能性があるとの知見を得た。そして、このような場合に対しては、瞬間的な入力レベル値ではなく、一定時間内の入力レベル値を積算した値を用いることが有効であり、同積算値を用いることで、赤外線の放射量の変化における本質的な傾向を把握でき、車両の検知をより精度よく行うことができるとの知見も得た。そこで、比較値として、各監視範囲の背景差分の総和を一定時間積算した値を用いることを提案する。
【0041】
また、比較値として、上記背景差分の総和に加えて、各入力レベル値の単位時間当たりの変化量を用いることが好ましいとの知見も得た。そこで、比較値として、上記変化量を用いることを提案する。特に、各監視範囲における変化量の総和を比較値に用いると、上記と同様に車両の検知をより確実に行うことができて好ましい。この変化量は、例えば、各監視範囲において直前の入力レベル値と現在の入力レベル値との差でもよいが、少し前の入力レベル値と現在の入力レベル値との差、例えば、10ms毎に入力レベル値を測定する場合、160ms前の入力レベル値との差とする方がより有効である。この変化量は、背景レベルを加味して演算していないことから、背景レベルによる影響を受けないため、背景差分が小さくとも、入力レベル値が変化している間は、車両が存在しているとの判定を得易い。従って、上記と同様に車両の認識できない場合などを低減する。このような変化量を用いた比較値による車両の有無の判定は、例えば、各監視範囲の背景差分の総和により第一の判定を行い、更に、上記変化量の総和により第二の判定を行うことで行ってもよい。具体的には、背景差分の総和が閾値以上の場合、車両有りと判定し、閾値未満の場合、車両無しと判定し、次に上記変化量の総和による判定を行うと、車両の誤認を低減し、より正確に車両の存在を検知することができる。
【0042】
更に、比較値は、上記背景差分の総和を一定時間積算した値と、上記変化量とを併用することがより好ましい。上記積算した値を比較値として単独で用いると、この値が0(ゼロ)となることがあるが、それでも入力レベル値が変化している間は、上記変化量を用いることで車両が存在しているとの判定を得易い。このように出力の大きいサーモパイル素子を用いると共に、積算した値だけでなく、変化量をも考慮した値を車両判定のアルゴリズムに用いることで、焦電センサなどの別個のセンサを具えずサーモパイル素子のみでも、焦電センサと同等以上の機能を有することができる。
【0043】
車両の有無の判定に用いる閾値(スレッショルド)は、一定値としてもよいが、実際の環境に応じて変化させることが好ましい。例えば、赤外線の量の変化(温度変化)が大きいとき、即ち、分散が大きいときは、閾値を比較的大きな値とし、赤外線の量の変化(温度変化)が小さいとき、即ち、分散が小さいときは、閾値を比較的小さな値としてもよい。これらの閾値は、演算により求めてもよく、例えば、閾値を設定値+補正値として、補正値を変化させることで閾値を変化させてもよい。補正値は、入力レベル値に基づいて変化させることが好ましい。例えば、上記背景差分の総和を用いてもよい。また、補正値は、前回の車両判定結果に応じて変化させると、閾値が大きくなりすぎることを防止することができて好ましい。例えば、前回の車両判定結果が車両有りの場合、補正値を比較的小さくし、前回の車両判定結果が車両無しの場合、補正値を比較的大きくすることが好ましい。この場合、一旦、車両有りとの判定が得られると、車両有りとの判定を継続し易く、例えば、渋滞中などで車両停止中は車両有りとの判定を継続し、車両が走行を開始する際、車両有りとの判定を停止し易い状態にできる。
【0044】
別の車両有無判定部として、例えば、次の手段を具える構成が挙げられる。
I. 各サーモパイル素子から得られた入力レベル値において、車両以外の物体が発する赤外線の量に基づく値を各監視範囲の背景レベルとし、この赤外線の量に基づく値から各監視範囲の背景レベルを演算する背景レベル演算手段。
II. 各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の和をとると共に、前記背景レベル演算手段から得られた各背景レベルの和をとり、この入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づく値を第一比較値とし、第一比較値と第一閾値とを比較して車両の存在を判定する第一判定手段。
III. 各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の差をとると共に、前記背景レベル演算手段から得られた各背景レベルの差をとり、この入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づく値を第二比較値とし、第二比較値と第二閾値とを比較して車両の存在を判定する第二判定手段。
IV. 上記第一判定手段の第一存在結果と、第二判定手段の第二存在結果との双方の和に基づき車両の有無を判定する総合判定手段。
【0045】
この構成では、複数のサーモパイル素子のそれぞれから得られた入力レベル値の和及び差をとり、これら和値及び差値に基づいて、それぞれ第一判定手段、第二判定手段により車両の存在状況を判定する。そして、入力レベル値の和値による結果(第一存在結果)と、入力レベル値の差値による結果(第二存在結果)とに基づいて総合判定手段により車両の有無を最終的に判定する。即ち、第一及び第二判定手段では、各サーモパイル素子から得られたデータを直接用いて車両の存在状況を判定し、この結果を仮の結果とし、総合判定手段では、この仮の結果を用いて、車両の有無を判定する、というように多段的に判定する。この構成により、車両の検知が困難な場合を効果的に低減する。
【0046】
また、入力レベル値の和値を用いる構成では、ノイズを約1.4倍、シグナルを約2程度にすることができるため、S/N比を上げてノイズを軽減することができる。そのため、この構成は、第一存在結果をより的確に判定することが可能である。更に、この構成は、入力レベル値の差値を用いることで、各サーモパイル素子からの入力レベル値の差を確認することができる。車両の部位によっては、入力レベル値が背景レベルよりも小さい場合もあり、背景レベルよりも大きい入力レベル値と、背景レベルよりも小さい別の入力レベル値との和値がほとんど0となる場合が考えられる。従って、入力レベル値の和値だけでは、車両の存在の判定が困難な場合もあり得る。そこで、本発明では、入力レベル値の和値だけでなく、入力レベル値の差値をも用いることで、入力レベル値が背景レベル(道路面からの赤外線の量)と同様になって車両の検知が行いにくい場合を効果的に低減することができる。
【0047】
上記構成を具える本発明システムにおける車両検知の手順を説明すると、まず各サーモパイル素子により赤外線を感知し、それぞれ入力レベル値を得て和及び差をとる。一方、各入力レベル値に基づいて、上記のアルゴリズムと同様に背景レベルをそれぞれ演算し、背景レベルの和及び差をとる。得られた入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づく値を演算して第一比較値とし、第一判定手段にて、この第一比較値が第一閾値以上の場合、車両有りと判定し、第一閾値未満の場合、車両無しと判定する。同様に、入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づく値を演算して第二比較値とし、第二判定手段にて、この第二比較値が第二閾値以上の場合、車両有りと判定し、第二閾値未満の場合、車両無しと判定する。そして、第一判定手段及び第二判定手段からの結果の和をとり、総合判定手段にて、最終的に車両の有無を判定する。その後、得られた判定結果を信号制御機や管理センターなどに送信する。
【0048】
入力レベル値の和値は、全ての入力レベル値の和、即ち、総和をとるとよい。入力レベル値の差値は、一つの入力レベル値からその他の入力レベル値を全て引いたもの、即ち、入力レベル値がA、B、Cと三つある場合は、A−B−Cとしてもよい。これは、後述する背景レベルの和値、差値についても同様である。
【0049】
背景レベルは、実際の環境(路面状況)に即したより的確な値となるように、上記のアルゴリズムと同様に、過去の背景レベルを用いた指数平滑法による演算値を用いてもよい。
【0050】
また、第一比較値となる入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づく値、及び第二比較値となる入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づく値は、上記アルゴリズムと同様に、その差をそのまま用いるよりも、一定時間内の入力レベル値の和値(差値)を積算した値を用いることが好ましい。このとき、車両の検知をより精度よく行うことができる。更に、第一比較値、第二比較値として、上記アルゴリズムと同様に入力レベル値の和値における単位時間当たりの変化量、及び入力レベル値の差値における単位時間当たりの変化量を用いることも好ましい。より好ましい第一比較値、第二比較値は、上記積算した値、及び上記変化量を併用することである。このように出力の大きいサーモパイル素子を用いると共に、積算値だけでなく、変化量をも考慮した値を比較値に用いることで、上記アルゴリズムと同様にサーモパイル素子のみでも、焦電センサと同等以上の機能を有することができる。
【0051】
第一閾値及び第二閾値は、上記アルゴリズムと同様に実際の環境に対応させて変化させることが好ましい。例えば、設定値+補正値とし、補正値を変化させてもよい。具体的な変化のさせ方は、上記アルゴリズムと同様とするとよい。
【0052】
総合判定手段では、第一判定手段及び第二判定手段からの存在結果に基づいて車両の有無を総合的に判定する。総合判定手段には、入力レベル値の和値に基づく第一存在結果、及び入力レベル値の差値に基づく第二存在結果の二つの存在結果が送られる。本発明では、これらの存在結果の和(or)をとることで、車両の有無を判定する。即ち、第一存在結果及び第二存在結果の双方が車両有りの場合だけでなく、第一存在結果及び第二存在結果の一方が車両有り、他方が車両無しと双方の存在結果が異なる場合、総合判定手段は、車両有りと判定し、第一及び第二存在結果の双方が車両無しの場合、車両無しと判定する。
【0053】
更に、本発明システムは、上記二つのアルゴリズムにおいて、各サーモパイル素子からの入力レベル値に基づいて車両の有無判定を行うことに加えて、得られた入力レベル値が同一の車両によるものであるかの判定を行う同一性判定部を具える。具体的には、複数の入力レベル値に基づいて車両の速度と車両間の距離とを演算し、その速度における車両間の距離が限界値以下の場合、同一車両と判定する。特に、車両の速度は、本発明車両検知器により求める構成とする。より具体的には、同一性判定部は、両素子から得られた入力レベル値の出力波形のいずれかにおいて、隣り合う第一波形と第二波形との間の時間差と、本発明検知器により演算した速度とから、第一波形に対応する第一車両と第二波形に対応する第二車両と間の距離を演算する車両間距離演算手段と、演算した車両間距離と設定値とを比較し、第一車両と第二車両が同一か否かを判定する同一性判定手段とを具える。このような判定により、本発明システムは、複数のサーモパイル素子を具えて一車線あたりに複数の監視範囲を車線方向に設け、上記アルゴリズムに基づく操作を行うことで、車両の検知が困難である場合を低減できることに加えて、1台の車両を2台以上の複数台と誤認することを低減することが可能である。
【0054】
また、本発明システムは、上記二つのアルゴリズムにおいて、各サーモパイル素子からの入力レベル値に基づいて車両の有無判定を行うことに加えて、車両有無判定部が車両有りとの判定を行ったとき、本発明検知器に有する速度検出部により、この車両の速度を演算するように構成することができる。
【0055】
なお、本発明システムにおいて、車両有りから車両無しの状態に移行する際は、一定の保持時間を持たせて、車両有りとの判定を延長させることが望ましい。車両によっては、温度分布にばらつきがあり、温度のばらつきによって赤外線の量もばらつきが生じることから、1台の車両を2台以上と誤認する恐れがある。そのため、一定の保持時間を追加する構成とすることで、誤認を効果的に抑制することができる。このような補填は、極めて短時間にのみ車両無しとなること、例えば、複数台の車両が比較的短い車間距離で高速に走行することは、現実的にありえないために実現できる。保持時間としては、例えば、115ms程度が挙げられる。
【0056】
上記背景レベルの演算、比較値の演算や閾値の演算、その他車両の有無の判定などの処理は、公知の中央演算処理装置(CPU)などを用いて行うとよい。CPUは、各サーモパイル素子に対して一つずつ具えてもよいし、複数のサーモパイル素子に対して一つ具えてもよい。また、これら演算や判定などを行う車両有無判定部は、本発明検知器に具える筐体にサーモパイル素子と共に収納してもよいし、別個の制御ボックスなどに収納して本発明検知器を取り付けた支柱、又はこの支柱近傍に設置してもよい。
【0057】
本発明システムにおいて基本回路には、複数のサーモパイル素子と、これらの素子からの起電力を増幅するアンプと、増幅された電圧を読み取り、この値を用いて車両の有無を判定する判定手段(例えば、CPUなど)とを具える。このような回路において、上記アンプは、交流成分だけでなく、直流成分をも増幅する構成とすることで、渋滞時などで車両が停止している場合に車両の検知が行いにくい焦電センサと異なり、停止している車両も検知し続けることができる。特に、一つのサーモパイル素子に対してアンプを複数具えて、各素子において、素子側に接続されるアンプAには、増幅率の比較的大きいものを用い、判定手段に接続されるアンプBには、増幅率の比較的小さいものを用いると共に、アンプBは、アンプAの出力とリファレンス電圧との差を増幅する構成が好ましい。このように一つのサーモパイル素子に対して、複数のアンプを用い、アンプBにリファレンス電圧を入力することにより、判定手段のダイナミックレンジを向上させることができる。
【0058】
本発明システムにおいて総合判定手段から得られた結果は、集計しておき、信号制御機や管理センターなどに送信する。結果の送信は、有線にて行ってもよいが、上記システムに更に集計結果を無線により送信する無線通信手段を具えておき、無線により送信してもよい。このとき、無線通信手段に電力を間欠的に供給する電源制御部を具えておき、一定時間のみ電力の供給を行うと、電力をより低減することができて好ましい。電源制御部は、例えば、タイマなどを具えておき、一定周期で一定時間のみ電源をONにして、電源がONのときにのみ、集計結果の受信及び送信を行うようにする。
【発明の効果】
【0059】
以上説明したように本発明車両検知器によれば、車両の速度をより正確に求めることができ、より的確な渋滞状況の検知に貢献することができる。このような本発明検知器を具える本発明システムは、車両の検知が行いにくい場合や車両の台数の誤認を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
<車両検知器>
本発明車両検知器は、検知対象(車両や道路など)が発する赤外線を感知する二つのサーモパイル素子と、両素子から得られた入力レベル値を用いて車両の速度を演算する速度検出部とを具える。特に、この車両検知器は、一車線に対して、各サーモパイル素子に基づく監視範囲が車線方向に並んで配置されるように両素子を具える。速度検出部は、各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の出力波形の時間差を演算する時間差演算手段と、得られた時間差と、二つの監視範囲間の距離とから車両の速度を演算する速度演算手段とを具える。
【0061】
図1は、サーモパイル素子から得られた入力レベル値の出力波形を示すモデル図である。サーモパイル素子からの入力レベル値の出力波形3A',3B'において、波形A,Bは、車両によるものである。上記車両検知器は、この波形を利用して車両の速度を演算する。具体的には、まず、車線方向に設ける二つの監視範囲間の距離xを予め求めておき、この距離xを設定値として速度検出部のメモリに保存しておく。そして、時間差演算手段は、各サーモパイル素子に基づく入力レベル値の出力波形3A',3B'の時間差tを演算する。より正確には、両出力波形3A'、3B'の波形A(波形B)から相関関数を計算し、その相関関数の最大値を求める。次に、速度演算手段は、メモリから呼び出した距離xと演算により求めた時間差tとから車両の速度v=x/tを演算する。
【0062】
本発明車両検知器は、車両の速度をより正確に求めることができる。従って、この速度を利用した場合、より的確な渋滞状況を検知することができると考えられる。また、この検知器を後述する車両検知システムに具えることで、車両の検知を行えると共に、車両の速度だけでなく、同一性をも判別することができる。なお、後述する車両検知システムを構築する場合、車両有りとの判定が得られたとき、出力波形の波形A,Bが車両に基づくものであることが分かる。従って、車両検知器は、車両有りとの判定が得られた際、車両の速度の算出を行うように構成することができる。
【0063】
次に、本発明車両検知システムを説明する。
<車両検知システムの全体構成>
図2は、本発明車両検知システムの機能ブロック図である。本発明車両検知システム1は、検知対象(車両や道路など)が発する赤外線を感知するサーモパイル素子3を有する車両検知器(図示せず)と、素子3から得られた感知結果(入力レベル値)を用いて車両の有無を判定する感知処理を行う車両有無判定部10と、素子3から得られた入力レベル値の出力波形を用いて車両の同一性を判定する同一性判定部(図示せず)とを具える。特に、本発明システムでは、サーモパイル素子3を複数具え、一車線に対して各素子3に基づく監視範囲を複数設け、これらの監視範囲に存在する一車両に対し複数の素子3で検知を行うものである。
【0064】
図2に示す本発明検知システムでは、その他、車両有無判定部10からの結果を信号制御機や管理センターなどに送信するための無線通信部11、サーモパイル素子3を有するセンサ部2や判定部10の電力供給用に太陽電池部12を具え、太陽電池12aにより電力を供給している。
【0065】
この構成により、検知対象からの赤外線を車両検知器内のセンサ部2に具える複数のサーモパイル素子3で感知し、各素子3に生じた起電力をアンプ13にて増幅して車両有無判定部10に送り、A/D変換器14でデジタル信号にそれぞれ変換して、各素子3からの入力レベル値を得る。そして、車両有無判定部10は、得られた複数の入力レベル値を用いた演算値が閾値以上かどうかで車両の存在を判定する。車両検知器は、得られた入力レベル値を用いて速度の算出を行う。また、同一性判定部は、得られた入力レベル値を用いて車両の同一性を判定する。得られた結果は、集計して無線通信部11に送り、送受信部11aを介して信号制御機や交通管理センターなどに集計結果を送る。なお、図2では、無線通信部を介して結果を管理センターなどに送信する場合を示したが、ケーブルなどの有線を介して行ってもよい。以下、本発明システムの構成要素及び車両の有無判定のアルゴリズム、同一性の判定手順を詳しく説明する。
【0066】
(実施例1:監視範囲を車線方向に配置する場合)
《サーモパイル素子及び監視範囲》
図3(A)は、車線方向に二つの監視範囲を形成する本発明車両検知システムを模式的に示した正面図、(B)はその側面B−B断面図、図4は、この車両検知システムを道路傍の支柱に取り付けた状態を示す説明図である。以下、図面において同一符号は、同一物を示す。本発明車両検知システム1aは、筐体4内に、道路100の側方から車両200や道路100が発する赤外線を感知するサーモパイル素子3a、3bを有するセンサ部2と、各素子3a、3bから得られたデータを用いて車両の有無の判定を行うCPU基板5cを有する車両有無判定部10とを具える。また、システム1aは、各素子3a、3bから得られたデータを用いて車両の速度を演算する速度検出部と、車両の同一性を判定する同一性判定部(いずれも図示せず)とを具える。この車両検知システム1aは、道路100傍の支柱300に取り付けられて、センサ部2のサーモパイル素子3a、3bに基づき形成される監視範囲3A、3Bを通過する車両200を検知する。特に、センサ部2は、サーモパイル素子3a、3bを二つ具え、各素子3a、3bに基づいて形成される各監視範囲3A、3Bが道路100の一車線において、車線方向に隣り合うように(図4参照)、両素子3a、3bを配置している。各サーモパイル素子3a、3bの配置については、後述する。
【0067】
このような本発明システム1aは、例えば、渋滞時において、監視範囲3A又は監視範囲3Bの少なくとも一方に車両が停止する可能性を高めることができる。従って、本発明システムは、車両の検知が困難な場合を低減することができる。特に、本発明システムは、車両の台数の誤認を低減して占有率測定の精度を高め、車両の速度もより正確に求めることができ、より的確な渋滞状況の検知を実現する。
【0068】
また、本発明車両検知器は、設置条件に制約がある超音波ではなく、サーモパイル素子を用いることで、車両の側方から車両の検知を行っても、精度よく行うことができる。更に、サーモパイル素子は、消費電力のより小さいパッシブセンサであるため、センサを連続的に作動させても消費電力の低減を実現することができる。
【0069】
《筐体》
車両検知システム1aでは、図3(B)に示すように筐体4にサーモパイル素子3a、3bを収納している。これらサーモパイル素子3a、3bは、それぞれ基板5a、5bに実装されて筐体4に配置される。また、各基板5a、5bは、コネクタなどを介してCPU基板5cに接続される。
【0070】
筐体4は、軽量なアルミニウムから形成される箱状体である。本例では、後述するように照準機構を具えるものを用いる。また、筐体4の外周にカバーを具えてもよい。
【0071】
《レンズ》
サーモパイル素子3a、3bの検知方向前方(図3(B)において左方)には、それぞれ赤外線透過レンズ6a、6bを一面(図3(B)では球面)が露出するように配置している。本例では、ZnSから形成される球面状のレンズを用いており、耐候性に優れるため、ガラス系やシリコン系の補助材を別途配置しなくてもよい。
【0072】
これらサーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6a、6bは、ブロック状の支持部7aにより支持されて、筐体4に配置される。本例において支持部7aは、図5に示すようにサーモパイル素子3a、3bと赤外線透過レンズ6a、6bとを支持するものであり、素子3a、3bおよびレンズ6a、6bを支持する箇所に貫通孔が形成されたものである。また、この支持部7aは、サーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6a、6bを配置した際、適切な焦点距離となるように前記貫通孔により適当な空間8を設けて素子3a、3b及びレンズ6a、6bの設置個所を形成している。従って、サーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6a、6bを支持部7aの所定の設置個所に配置すると、自動的に焦点距離が合うことになる。このような支持部7aを用いると、容易に焦点距離を合わせることができ、サーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6a、6bを支持部7aに配置して一体となった部材を筐体4に取り付ける際、焦点距離の調整がいらず筐体4への取付作業性に優れる。
【0073】
なお、本例では、サーモパイル素子3a、3bを実装した基板5a、5bは、それぞれ支持部7aに配置した後、ネジ9で支持部7aに固定する。赤外線透過レンズ6a、6bは、レンズ押え6cを介し、同様にネジ9で支持部7aに固定する。また、本例では、一つの支持部に二つのサーモパイル素子及び二つの赤外線透過レンズを支持する構成としたが、二つの支持部を用意して、それぞれの支持部に素子及びレンズを一つずつ支持してもよい。後述する実施例についても同様である。
【0074】
《サーモパイル素子及び赤外線透過レンズの配置1》
図6は、サーモパイル素子と赤外線透過レンズとの配置状態を説明する模式図であり、各素子に対してそれぞれレンズを具える例で、(A)は、レンズに対する素子の位置をずらした例、(B)は、支持部の位置をずらした例である。一車線において監視範囲を効果的にずらすためには、赤外線透過レンズに対するサーモパイル素子の位置を変えたり、素子とレンズとを一体の支持部で支持する場合、支持部の位置を変えることが有効である。具体的には、図6(A)で示すように二つのサーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6a、6bを一つの支持部7aで支持する場合、一方の素子3aの位置をレンズ6aの中心軸6dに沿って配置し、他方の素子3bの位置をレンズ6bの中心軸6dからずらして配置する。このとき、サーモパイル素子3a、3bの指向角が変わることで、指向性の向きが変わる。従って、各サーモパイル素子3a、3bが形成する監視範囲3A、3B(図4参照)の位置を数十cm〜数mずらすことができる。本例では、図3に示すように左右方向にずらすと共に、赤外線透過レンズの中心軸に対するサーモパイル素子の位置を適宜調整し、車両検知システムを支柱に設置した際、各素子が形成する監視範囲を車線方向に並べて設ける。もちろん、赤外線透過レンズの中心軸に対するサーモパイル素子の位置調整だけでも、各素子が形成する監視範囲を車線方向に並べて設けることができる。
【0075】
また、図6(B)に示すように二つの支持部7a'、7a”を用意し、支持部7a'でサーモパイル素子3a及び赤外線透過レンズ6aを支持し、支持部7a”で素子3b及びレンズ6bを支持し、各素子3a、3bは、それぞれレンズ6a、6bの中心軸6dに沿って配置する場合、一方の支持部7a'に対して他方の支持部7a”を中心軸6dが交差するようにずらして配置する。このとき、上記と同様にサーモパイル素子3a、3bの指向角が変わるため、各素子3a、3bが形成する監視範囲3A、3B(図4参照)の位置を数十cm〜数mずらすことが可能である。
【0076】
《サーモパイル素子及び赤外線透過レンズの配置2》
図7は、サーモパイル素子と赤外線透過レンズとの配置状態を説明する模式図であり、一つのレンズに対して二つの素子を具える例である。図3に示す車両検知システム1aでは、サーモパイル素子一つに対して赤外線透過レンズを一つ配置する例を示しているが、図7のように複数のサーモパイル素子に対して一つのレンズを配置してもよい。このとき、各サーモパイル素子が形成する監視範囲は、赤外線透過レンズに対するサーモパイル素子の位置を変えることでずらすことができる。具体的には、サーモパイル素子3a、3bの位置をそれぞれ赤外線透過レンズ6の中心軸6dに対してずらして配置する。このとき、サーモパイル素子3a、3bの指向角が変わることで、指向性の向きが変わる。従って、各サーモパイル素子3a、3bが形成する監視範囲3A、3B(図4参照)の位置を数十cm〜数mずらすことができる。なお、この場合、サーモパイル素子3a、3b及び赤外線透過レンズ6は、一つの支持部7にて支持するとよい。なお、これらサーモパイル素子及び赤外線透過レンズの配置1及び2は、後述する実施例2についても同様である。
【0077】
《照準部》
図8は、本発明車両検知システムの概略を示す斜視図である。本発明車両検知システム1aは、図8に示すように筐体4の外部に赤外線透過レンズ(図3参照)の指向角を目的の方向に容易に合わせることができるように、レンズの指向角を合わせる照準部4aを具える。本例では、筐体4の一面において、一端に凹状突起4bを設け、他端に凸状突起4cを設けている。これらの突起4b、4cは、凹状突起4bの凹みと凸状突起4cの凸部とを繋ぐ直線方向を目的の方向とすると、指向角を適切に合わせることができるように設けている。従って、図4に示すように本発明車両検知システム1aの筐体4を支柱300などに設置する際、作業者は、凹状突起4bの凹みから凸状突起4cに向かって覗きながら、凹状突起4bの凹みと凸状突起4cの凸部とを繋ぐ直線が目的の方向になるように設置位置を調整するとよい。図8において筐体4の端面(図8では左端面)に設けられた円形状の穴4dは、赤外線透過レンズを突出させて配置させるために設けたものである。
【0078】
なお、本例では、筐体4内に車両有無判定部10を具える例を示したが、判定部10を制御ボックス内に収納して、筐体4を設置した支柱にこのボックスを取り付けてもよい。また、太陽電池部12も筐体4を設置した支柱に取り付けるとよい(図4参照)。このことは、後述する本発明車両検知器の実施例2についても同様である。
【0079】
(実施例2:監視範囲を車幅方向及び車線方向の双方にずれて配置する場合)
図9(A)は、車幅方向及び車線方向にずれてそれぞれ監視範囲を形成する本発明車両検知システムを模式的に示した正面図、(B)はその側面B−B断面図、図10は、この車両検知器を道路傍の支柱に取り付けた状態を示す説明図である。本発明車両検知システム1bの基本的構成は、上記実施例1と同様であり、筐体4内に、二つのサーモパイル素子3a、3bを有するセンサ部2と、各素子3a、3bからのデータにより車両の有無を判定するCPU基板5cを有する車両有無判定部10とを具える。また、システム1bは、各素子3a、3bから得られたデータを用いて車両の速度を演算する速度検出部と、車両の同一性を判定する同一性判定部(いずれも図示せず)とを具える。素子3a、3b及びレンズ6a、6bは、支持部7bに支持される。車両検知システム1bでは、特に、各サーモパイル素子3a、3bに基づいて形成される各監視範囲3A、3Bが道路100の一車線において対角線上に並ぶように(図10参照)、両素子3a、3bを配置する点が異なる。本例では、図9(A)に示すように素子3a、3bを上下方向に互い違いに、即ち、対角線上にずらすと共に、赤外線透過レンズに対するサーモパイル素子の位置を適宜調整し、車両検知システムを支柱に設置した際、各素子が形成する監視範囲を車幅方向及び車線方向にずらして並べて設ける。なお、赤外線透過レンズの中心軸に対するサーモパイル素子の位置調整だけでも、各素子が形成する監視範囲を車線方向及び車線方向にずらして並べることができる。
【0080】
二つの監視範囲を車幅方向にも並べることでシステム1bは、例えば、サーモパイル素子3aに基づいて形成される監視範囲3Aにて車両200のエンジン部、素子3bに基づいて形成される監視範囲3Bにて車両のルーフというように、一車両の異なる部位を異なる監視範囲3A、3Bにて監視する、即ち、異なる素子3a、3bにて検知することができる。
【0081】
このようにシステム1bは、複数のサーモパイル素子を具えて、車両の検知が望まれる一エリア内の一車線に対して複数の監視範囲を設けることで、それぞれの監視範囲に一車両の異なる部位が通過できる。即ち、各監視範囲に存在する車両の各部位からの赤外線をそれぞれ異なるサーモパイル素子にて感知することで、車両のある部位と道路面との温度差がほとんど生じない時間となっても、別の部位と道路面との温度差が生じる可能性を高めることができる。特に、少なくとも一つの監視範囲は、車両において温度が比較的高い部位、例えば、エンジン部、タイヤなどが通過するように設けると、雨天においても、水滴による影響を受けることが少なく、車両をより的確に検知できる可能性を高めることができる。
【0082】
従って、本発明検知システム1bは、上記実施例1の優れた効果を奏すると共に、上述した監視範囲を車幅方向に並べて設ける効果をも奏することができる。即ち、このシステムは、車幅方向に二つの監視範囲を設けることで、少なくとも一方の監視範囲に車両と道路面との温度差を生じる可能性が向上するため、気温や天候などの環境に影響されず、車両を高精度に検知できる。また、このシステムは、車線方向に二つの監視範囲を設けることで、渋滞時において、少なくとも一方の監視範囲に車両が停止する可能性が向上するため、占有率測定の精度を高めて、より的確な渋滞状況を検知することができる。従って、本例に示す本発明車両検知システムを用いると、車両の検知が困難な場合を更に低減することができる。
【0083】
<車両の有無判定のアルゴリズム1>
次に、上記実施例1,2に示す車両検知システムを構築した際、車両の有無の判定を行う車両検知の操作手順について具体的に説明する。図11は、車両有無判定部における処理手順の一例を示すフローチャートである。本例において車両有無判定部は、センサ部の作動に伴い処理が始まる(ステップ20)。処理開始直後は、背景レベルと閾値の初期学習を行う(ステップ21)。CPUによっては車両が走行している際のデータから背景となるデータのみを割り出すことが困難な場合も考えられる。そのため、背景レベルの初期学習中は、車両の有無の判定を行わないことが好ましい。従って、センサ部や車両有無判定部の電源は、車両がいないときにONにしたり、或いはリセットなどのトリガを設けておくことが好ましい。背景レベルの初期学習は、車両がいないときに行うため、できるだけ短い時間、例えば1秒程度とすることが好ましい。背景レベルの初期学習としては、具体的には、例えば、車両が存在していないときの入力レベル値の平均値をとることが挙げられる。一方、車両が存在している際に背景レベルの初期学習を行う場合は、例えば、一定時間の入力レベル値の最頻値をとってもよい。
【0084】
そして、背景レベルの初期学習が済んだ後、車両有無判定部は、一定時間(例えば、10秒程度)閾値の学習を行う。閾値は、初期値を十分に大きくしておけば、学習により自動的に適切な値に下がる。このような手順で初期学習を行わせることで、背景レベル及び閾値共により正常な値、即ち、実際の環境により即した値をとることができる。得られた背景レベル及び閾値は、メモリに保存する。
【0085】
上記初期学習の後、車両有無判定部は、車両の有無の判定を始める。まず、車両有無判定部にはセンサ部の各サーモパイル素子から得られた起電力がそれぞれ増幅されて送られ、入力レベル値を得る(ステップ22)。これらの入力レベル値を基に後述する手順で比較値を演算する(ステップ23)。また、これら入力レベル値を基に後述する手順で閾値を演算する(ステップ24)。そして、これら入力レベル値に基づき演算された比較値と閾値とを比較する(ステップ25)。比較値が閾値以上の場合、車両有りと判定し(ステップ26)、感知集計結果に「車両有り」と書き込み、メモリに保存する(ステップ27)。本例では、各入力レベル値も保存しておき(ステップ29)、後述する背景レベルの演算に用いる。
【0086】
一方、比較値が閾値未満の場合、車両有無判定部は、車両無しと判定し(ステップ28)、同様に感知集計結果に「車両無し」と書き込み、メモリに保存する(ステップ27)。このとき、いずれのサーモパイル素子も、道路などの背景を検知したことになる。判定に用いた各入力レベル値は、演算に用いるために保存し(ステップ29)、これら入力レベル値を用いて背景レベル演算手段は、背景レベルの演算を行う(ステップ30)。
【0087】
本例のシステムでは、上記感知集計結果を信号制御機や管理センターに無線にて送信する無線通信部を具える(図2参照)。この無線通信部は、ステップ27で得られた感知集計結果がメモリに保存されていないかを適宜確認し、後述する手順にて集計結果を信号制御機などに送る。なお、無線通信部への電力供給を間欠的に行う場合、上記信号制御機などへの集計結果の送信は、無線通信部の送受信部の電源がONのときに行う。送受信部の電源がOFFのときは、そのまま保存しておき、ONになってから送信する。
【0088】
次に、本例に示すシステムに用いる背景レベルについて説明する。本例では、指数平滑法による演算値を背景レベルとして用いる。背景レベルは、各サーモパイル素子から得られたそれぞれの入力レベル値に基づいて、背景レベル演算手段がそれぞれ別個に求める。例えば、図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]に基づいて背景レベル[1]を演算し、素子3bからの入力レベル値[2]に基づいて背景レベル[2]を演算し、二つの背景レベル[1]、[2]を得る。背景レベルの具体的な演算としては、入力レベル値をbn、次回の判定に用いる背景レベルをan、平滑係数をαとするとき、an=an−1+α×(bn−an−1)とする(an−1は前回の車両判定に用いた背景レベル)。また、本例において平滑係数αは、車両の温度に左右されず、実際の環境により即した背景レベルとなるように前回の車両判定結果に応じて変化させる。具体的には、前回の判定結果が車両有りのときは、平滑係数αをより小さい値(αON)、例えば0とし、前回の判定結果が車両無しのときは、平滑係数αを比較的大きな値(αOFF)、例えば、0.025とする。このような指数平滑法による背景レベルを用いることで、実際の環境に即したより的確な値が得られ、より正確な車両の有無の判定を行うことができる。
【0089】
背景レベルを演算する手順を説明する。図12は、背景レベルの演算手順を示すフローチャートである。まず、車両有無判定部は、メモリから前回の車両判定結果を呼び出し、判定結果が車両有りかどうかを確認する(ステップ40)。前回の判定が車両有りの場合、平滑係数は、αONを選択する(ステップ41)。また、前回の判定が車両無しの場合、平滑係数は、αOFFを選択する(ステップ42)。そして、背景レベル演算手段は、入力レベル値bn、メモリから呼び出した前回の背景レベルan−1及び選択された平滑係数を上記背景レベルの演算式an=an−1+α×(bn−an−1)に代入して、背景レベルを演算する(ステップ43)。この一連の手順を入力レベル値毎に行い、各入力レベル値に基づく背景レベルをそれぞれ得る。
【0090】
次に、本例に示すシステムに用いる比較値について説明する。本例では、上記演算により得た背景レベルと入力レベル値との差に基づく値を演算して、この演算値を比較値として用いる。具体的には、車両有無判定部は、入力レベル値毎に、入力レベル値bnと前回の背景レベルan−1との差の絶対値(背景差分と呼ぶ)を求める。図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]と背景レベル[1]との差の絶対値、素子3bからの入力レベル値[2]と背景レベル[2]との差の絶対値という二つの背景差分[1]、[2]を得る。次に、得られた背景差分同士の和(これを差分和と呼ぶ)をとり(上記例では背景差分[1]+背景差分[2])、この差分和の一定時間における積算値を比較値とする。入力レベル値毎に入力レベル値と背景レベルとの差の絶対値をそれぞれ求め、これら背景差分の和をとることで、少なくとも一つの監視範囲において温度変化がある可能性を高めて車両の検知を可能とすると共に、全ての監視範囲において温度変化が小さくてもその変化を増大して、車両の検知をより確実に行うことができる。また、上記差分和の積算値を比較値とすることで、渋滞時などであっても、車両の誤認や認識できない場合などを低減することができる。
【0091】
この比較値を演算する手順を説明する。図13は、比較値の演算手順を示すフローチャートであり、比較値として積算値を用いる場合を示す。まず、車両有無判定部は、各入力レベル値において、入力レベル値と背景レベルとの差分(背景差分)を演算する(ステップ50)。本例において背景差分Snは、bnとan−1との差の絶対値、即ち、Sn=|bn−an−1|とする。図3,9に示す例では、二つの背景差分Sn[1]、Sn[2]を求める。次に、得られた背景差分の和(差分和)をとる(ステップ51)。上記例では、差分和SSn=Sn[1]+Sn[2]を演算する。そして、この差分和SSnを一定時間積算した積算値In=ΣSSを演算する(ステップ52)。本例において各サーモパイル素子は、一定時間毎、例えば、10ms毎にそれぞれ入力レベル値を取得して、それぞれ背景差分を求め、一定時間、例えば、160ms分の差分和、即ち、16回分の差分和を積算する。本例では、このようにして得られた積算値Inを比較値として用いる。なお、積算時間や積算回数などは適宜変更してもよい。後述する積算値及び各入力レベル値の単位時間当たりの変化量を比較値とする場合についても同様である。
【0092】
別の比較値について説明する。上記積算値だけでは、0をとる場合があり、このとき、車両を誤認する恐れがある。そこで、比較値として、積算値と各入力レベル値の単位時間当たりの変化量とを用いた演算値を利用することが好適である。具体的には、車両有無判定部は、上記と同様に入力レベル値毎に、入力レベル値と前回の背景レベルとの差の絶対値(背景差分)をそれぞれ求めて和(差分和)をとり、この差分和の一定時間における積算値を求める。次に、入力レベル値毎に変化量を求め、更に、得られた変化量の平均値をそれぞれ求めて和(以下、変化量和と呼ぶ)をとる。図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]の変化量[1]、素子3bからの入力レベル値[2]の変化量[2]という二つの変化量[1]、[2]を得て、変化量[1]の平均値と変化量[2]の平均値の和をとる。この変化量和を定数倍した値と上記積算値とを加えて比較値とする。このように積算値だけでなく、変化量をも用いて演算した値を比較値とすることで、車両の誤認や認識できない場合などを更に低減する。また、出力の大きいサーモパイル素子を用いると共に、このように変化量をも考慮した値をアルゴリズムに用いることで、焦電センサなどの他のセンサを用いることなく、サーモパイル素子のみでも十分に赤外線の感知を行って、車両の有無を判定することができる。
【0093】
この比較値を演算する手順を説明する。図14は、比較値の演算手順を示すフローチャートであり、比較値として積算値及び変化量を用いる場合を示す。まず、図13と同様に、車両有無判定部は、各入力レベル値において、入力レベル値と背景レベルの差分、即ち、背景差分Sn=|bn−an−1|を演算する(ステップ50)。次に、得られた背景差分の和(差分和)SSnを演算する(ステップ51)。更に、この差分和SSnを一定時間積算した積算値In=ΣSSを演算する(ステップ52)。本例では、各入力レベル値において、上記と同様に16回分の差分和SSnを積算する。次に、各入力レベル値において、入力レベル値の単位時間当たりの変化量Dnを演算する(ステップ53)。本例では、直前の入力レベル値との差ではなく、少し前の入力レベル値との差とした。具体的には、例えば、10ms毎に入力レベル値を取得する場合、160ms前の入力レベル値bn−16との差の絶対値|bn−bn−16|を変化量Dnとする。図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]の変化量Dn[1]、素子3bからの入力レベル値[2]の変化量Dn[2]を演算する。次に、得られた各変化量の平均値をそれぞれ演算して和をとり、変化量和ISnを求める(ステップ54)。本例では、特定個数、例えば、8個分の変化量の平均をとる。即ち、平均値Bn=1/8×ΣD(但し、k=n−7〜n)とする。上記の例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]について平均値Bn[1]=1/8×ΣDk[1]、素子3bからの入力レベル値[2]について平均値Bn[2]=1/8×ΣDk[2]を求め、これら平均値Bn[1]、Bn[2]を足して、変化量和ISn=Bn[1]+Bn[2]を演算する。そして、積算値Inと変化量和ISnの定数倍との和を演算して、比較値を求める(ステップ55)。即ち、本例において比較値は、In+ISn×A(但し、Aは定数、例えばA=0〜255、初期値30)より得られる。定数Aは、積算値In、変化量和ISnをそれぞれどの程度関与させるかによって決定される任意の値である。なお、各ステップの演算値は、次回の演算に用いることができるように、メモリに保存しておく。また、平均値を求める特定個数や、定数Aは適宜変更してもよい。
【0094】
次に、本例に示すシステムに用いる閾値について説明する。閾値も、実際の環境に応じて変化させることが好ましい。本例では、赤外線の量の変化、即ち、温度変化の大小で閾値を異ならせる。ここで、温度変化の大小は、前回の車両判定結果に伴って生じる傾向にある。そこで、本例では、前回の車両判定結果に応じて閾値を変化させる。具体的には、設定値を最低値とし、設定値に補正値を加えることで、環境に追従させる。本例では、この補正値を前回の車両判定結果に応じて変化させる。本例において補正値は、前回の補正値に、上記積算値の平均値に基づく値を加えたものとする。具体的には、今回の補正値=前回の補正値+{(積算値の平均値×β)−前回の補正値}×θとする(但し、βは補正係数、θは定数、例えば0.01とする)。そして、前回の車両判定結果に応じて補正値を変化させるために、βを変化させる。より具体的には、前回の判定結果が車両有りのときは、補正係数βをより小さい値(βON)、例えば12とし、前回の判定結果が車両無しのときは、補正係数βを比較的大きな値(βOFF)、例えば36とする。このように補正値を変化させて閾値を異ならせることで、一旦、車両有りとの判定が得られると、車両ありとの判定を継続し易い。また、渋滞中などで車両停止中は、車両有りとの判定を継続し易く、停止していた車両が走行を始めると車両無しとの判定が行い易い状態にすることができる。なお、このように閾値を演算にて求める場合、場合によっては、閾値が大きくなりすぎることもある。そこで、閾値には、最大値を設けておくことが好ましい。
【0095】
この閾値を演算する手順を説明する。図15は、閾値の演算手順を示すフローチャートである。まず、車両有無判定部は、各入力レベル値における積算値の平均値を演算する(ステップ60)。本例では、例えば、1/16×Inとする。従って、例えば、上記と同様に10ms毎に入力レベル値を取得する場合、各入力レベル値において10ms毎にそれぞれ背景差分を求めて和をとり、160ms分の差分和、即ち、16回分の差分和を積算した積算値Inを16で割ったものを用いる。メモリに保存された積算値Inを呼び出して用いてもよい。次に、背景レベルの演算のときと同様にメモリから前回の車両判定結果を呼び出し、判定結果が車両有りかどうかを確認する(ステップ61)。前回の判定が車両有りの場合、補正係数は、βON(図15ではβL)を選択する(ステップ62)。この補正係数βONを用いて補正値CLを演算する(ステップ63)。即ち、CL=前回の補正値+{(1/16×In×βON)−前回の補正値}×0.01を求める(θ=0.01とする)。そして、この補正値CLを設定値(例えば1000)に加えて、閾値L'を演算する(ステップ64)。更に、閾値L'にヒステリシス係数をかけて閾値Lを演算する(ステップ65)。
【0096】
本例では、閾値Lとして、ヒステリシス係数×[設定値+〔前回の補正値+{(積算値の平均値×β)−前回の補正値}×θ〕]を用いる。閾値Lにのみヒステリシス係数をかけることで、後述する閾値Hとの差が付け易く、比較値が閾値付近を変動した際、車両有りの判定と車両無しの判定とが非常に短時間に繰り返し生じるといった過剰な判定を防止することができる。ヒステリシス係数は、例えば、前回の判定結果が車両有りの場合:0.7、同車両無しの場合:1.0が挙げられる。
【0097】
一方、前回の判定が車両無しの場合、車両有無判定部は、補正係数としてβOFF(図15ではβH)を選択する(ステップ66)。この補正係数βOFFを用いて補正値CHを演算する(ステップ67)。即ち、CH=前回の補正値+{(1/16×In×βOFF)−前回の補正値}×0.01を求める(θ=0.01とする)。そして、この補正値CHを設定値(例えば1000)に加えて、閾値Hを演算する(ステップ68)。
【0098】
なお、補正係数β、平均値を求める特定個数、定数θは適宜変更してもよい。特に、比較値として、積算値のみを用いる場合と積算値及び変化量を用いる場合とでは、これらの値を変更することで閾値を異ならせてもよいし、その他の演算により閾値を異ならせてもよい。また、各ステップの演算値は、次回の演算に用いることができるように、メモリに保存しておく。
【0099】
<車両の同一性を検知するアルゴリズム>
実施例1,2に示す車両検知システム(図3,9参照)は、車両が検出しにくい時間帯においても車両の検知を行い易く、渋滞中における占有率測定の精度を向上させるといった効果のほかに、同一性判定部を具えることで、1台の車両を2台以上と誤認する恐れを低減することができる。
【0100】
同一性判定部は、両サーモパイル素子から得られた入力レベル値の出力波形を用いて車両の同一性を判定するものである。具体的には、同一性判定部は、いずれかの出力波形において隣り合う第一波形と第二波形との間の時間差と、車両検知器で演算した速度とから、第一波形に対応する第一車両と第二波形に対応する第二車両と間の距離を演算する車両間距離演算手段と、演算した車両間距離と設定値とを比較し、第一車両と第二車両が同一か否かを判定する同一性判定手段とを具える。以下、車両の台数誤認を低減する操作手順を説明する。
【0101】
図16は、サーモパイル素子から得られた入力レベルが同一の車両のものであるかを判定する操作手順を表すフローチャートである。サーモパイル素子からの入力レベル値において、図1に示すように連続的に波形が現れる場合、隣り合う二つの波形(ここでは波形A(第一波形)、波形B(第二波形))、或いは二つ以上の波形が同一の1台の車両によるものか、別の車両によるものか区別がつきにくいことがある。このような場合、図4に示すように車線方向に複数の監視範囲(図4では二つ)を設けることができる本発明車両検知システムでは、車両検知器により入力レベル値から車両の速度を求めることができ、かつ、同一性判定部を具えることで、波形を描く車両間の距離を求め、入力レベル値に現れる連続的な波形が同一の車両によるものか判定することができる。
【0102】
具体的には、まず、図4に示すように車線方向に設ける二つの監視範囲3A、3B間の距離xを予め求めておく。距離xは、例えば、車両検知システム1aの設置位置と、二つのサーモパイル素子の指向角の差とを用いて求めることができる。この距離xを設定値としてメモリに保存しておく。また、特定の速度で走行する車両間の距離の限界値を予め設定してメモリに保存しておく。例えば、時速70kmで走行する場合、車両間の距離の限界値を5m、というように設定する。
【0103】
次に、車両検知器は、各サーモパイル素子に基づく出力波形3A'、3B'の時間差tを演算する(ステップ110)。より正確には、両出力波形3A'、3B'の波形A(波形B)から相関関数を計算し、その相関関数の最大値を求める。次に、メモリから呼び出した距離xと演算により求めた時間差tとから車両の速度v=x/tを演算する(ステップ111)。そして、車両間距離演算手段は、出力波形A'(出力波形B')から波形Aと波形B間の時間taを求めて、速度vと時間taとから波形Aを描く車両と波形Bを描く車両間の距離dを演算する(ステップ112)。次に、同一性判定手段は、メモリから速度vに対する車両間の距離の限界値を呼び出し、演算により求めた距離dと呼び出した限界値とを比較する(ステップ113)。距離dが限界値以上の場合、同一性判定手段は、波形Aを描く車両と波形Bを描く車両とは異なる車両であると判定する(ステップ114)。一方、距離dが限界値未満の場合、同一性判定手段は、波形Aを描く車両と波形Bを描く車両とは同一の車両であると判定する(ステップ115)。これらの手順は、例えば、図11,後述する図19に示す操作手順において、例えば、入力レベル値の取得(ステップ22、92)後に行うとよい。具体的には、車両有無判定部が車両有りとの判定を行った後に行うことが挙げられる。
【0104】
次に、本例に示すシステムに用いられる無線通信手段について説明する。図2に示す無線通信部11には、無線制御部11bと、アンテナなどを有する送受信部11aとを具えており、車両有無判定部10から送られてきた集計結果を信号制御機や管理センターなどに送信するものである。本例では、タイマ(図示せず)を用いた電源制御部により、送受信部11bに電力を間欠的に供給し、一定周期で一定時間のみ送受信部11aに電力が投入され、集計結果の送受信を行う。図17は、タイマの制御手順を示すフローチャート、図18は、無線制御部における処理手順を示すフローチャートである。
【0105】
図17に示すようにタイマは、例えば、10ms周期でカウントアップを行い(ステップ70)、10s周期で送受信部の電源のON/OFFを制御する。10s周期のうち、0〜500msの500ms間送受信部の電源をONにして(ステップ71)、感知処理結果の送受信を行い、500msになったら送受信部の電源をOFFにして(ステップ72)、送受信をやめる。また、100msに無線制御部の処理を開始させる(ステップ73)。そして、10sになったらリセットし(ステップ74)、新たにカウントアップを始め、これを繰り返す。本例では、無線制御部の処理開始時間(100ms)を送受信部の作動開始時間(0ms)よりも100ms遅らせているが、同時としてももちろんよい。また、カウントアップの周期、送受信部の電源ONの開始時間や作動時間、リセットの周期などは、適宜変更してもよい。
【0106】
送受信部の電源ONに伴い、図18に示すように無線制御部の処理が始まる(ステップ80)。無線制御部では、車両有無判定部から受け取った感知集計結果を読み込み(ステップ81)、送受信部を介して読み込んだ結果を信号制御機や管理センターなど送信する(ステップ82)。送信後は、メモリに記憶された感知集計結果をクリアにする(ステップ83)。なお、感知集計結果をクリアにせず蓄積しておき、最新の感知集計結果のみを送信するようにしてもよい。
【0107】
<車両の有無判定のアルゴリズム2>
本発明車両検知システムを構築した際、車両の有無の判定を行う車両検知の操作手順について別の例を説明する。図19は、車両有無判定部における処理手順の別の例を示すフローチャートであり、図20は、総合判定の手順を示すフローチャートである。この例に示す車両有無判定部は、第一判定手段と第二判定手段とを具え、これら判定手段により、各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の和値、及び差値を用いた車両の有無の判定(以下、存在判定と呼ぶ)を行い、この存在判定の結果から最終的に判定(以下、総合判定と呼ぶ)を行う、という多段的な判定を行う構成である。本例において車両有無判定部は、上記アルゴリズム1と同様にセンサ部の作動に伴い処理が始まる(ステップ90)。処理開始直後は、アルゴリズム1と同様の手順で背景レベルと閾値の初期学習を行った後(ステップ91)、車両の有無の判定を始める。
【0108】
車両の有無の判定は、まず、存在判定を行う。具体的には、アルゴリズム1と同様にセンサ部の各サーモパイル素子から入力レベル値を得る(ステップ92)。得られた入力レベル値の和及び差をとり、入力レベル値の和値及び入力レベル値の差値をそれぞれ演算する(ステップ93)。差の演算は、入力レベル値の差の絶対値をとることが挙げられる。
【0109】
次に、車両有無判定部は、得られた入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づく値、及び入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づく値をそれぞれ比較値(第一比較値及び第二比較値)とし、これら比較値を後述する手順でそれぞれ演算する(ステップ94)。また、これら和値、及び差値を基に後述する手順でそれぞれに対する閾値(第一閾値及び第二閾値)を演算する(ステップ95)。
【0110】
次に、車両有無判定部の第一判定手段は、和値に基づき演算された第一比較値と第一閾値とを比較して、存在判定を行う(ステップ96)。同様に第二判定手段は、差値に基づき演算された第二比較値と第二閾値とを比較する。それぞれの比較において、比較値が閾値以上の場合、車両有りと判定し(ステップ97)、その結果をメモリに一時的に保存する(ステップ98)。入力レベル値の和値に基づく車両の存在結果を第一存在結果とし、入力レベル値の差値に基づく車両の存在結果を第二存在結果とする。
【0111】
一方、それぞれの比較において、比較値が閾値未満の場合、第一判定手段及び第二判定手段は、車両無しと判定し(ステップ99)、同様にその結果(第一存在結果、第二存在結果)をメモリに一時的に保存する(ステップ98)。また、存在判定に用いた入力レベル値は保存して(ステップ100)、背景レベルの演算(ステップ101)に用いる。以上の手順で存在判定が終わる。
【0112】
次に、車両有無判定部の総合判定手段は、図20のフローチャートに示す総合判定を行う。具体的には、得られた第一存在結果及び第二存在結果の和(or)をとる(ステップ102)。このor結果で車両の有無を判定して、最終的に判定を行う(ステップ103)。第一存在結果及び第二存在結果の双方が車両有りの場合、or結果は、車両有りとなる。従って、最終的に車両有りと判定する(ステップ104)。また、第一存在結果及び第二存在結果の一方が車両有り、他方が車両無しの場合、or結果は、車両有りとなる。従って、最終的に車両有りと判定する(ステップ104)。一方、第一存在結果及び第二存在結果の双方が車両無しの場合、or結果は、車両無しとなる。従って、最終的に車両無しと判定する(ステップ105)。総合判定の結果を感知集計結果に書き込み、メモリに保存する(ステップ106)。本例では、存在判定に用いた和値及び差値も保存しておき(ステップ107)、後述する比較値の演算に用いる。得られた感知集計結果は、無線通信部により信号制御機や管理センターに送信する。
【0113】
本例に示すシステムに用いる背景レベルは、アルゴリズム1と同様に指数平滑法による演算値を用いるとよい。即ち、背景レベルは、各サーモパイル素子から得られた入力レベル値に基づいて、それぞれ別個に求めて用いる。例えば、図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]に基づいて背景レベル[1]を演算し、素子3bからの入力レベル値[2]に基づいて背景レベル[2]を演算し、二つの背景レベル[1]、[2]を得る。背景レベルの具体的な演算としては、入力レベル値をbn、次回の存在判定に用いる背景レベルをan、平滑係数をαとするとき、an=an−1+α×(b−an−1)とする(an−1は、前回の存在判定に用いた背景レベル)。なお、平滑係数は、アルゴリズム1と同様に前回の存在判定の結果に応じて変化させると、実際の環境に即したより的確な値が得られ、より正確な車両の存在判定を行うことができて好ましい。
【0114】
背景レベルを演算する手順は、アルゴリズム1と同様にするとよい。即ち、まず、メモリから前回の存在判定の結果を呼び出し、判定結果が車両有りかどうかを確認して、車両有りの場合、平滑係数は、αONを選択し、車両無しの場合、平滑係数は、αOFFを選択する。そして、入力レベル値bn、メモリから呼び出した前回の背景レベルan−1及び選択された平滑係数を上記背景レベルの演算式an=an−1+α×(bn−an−1)に代入して、各入力レベル値に対する背景レベルを演算する。そして、本例では、後述する比較値の演算に、上記演算により得られた背景レベルの和値、及び差値を用いる。例えば、図3,9に示す例では、サーモパイル素子3aからの入力レベル値[1]、及び入力レベル値[1]に基づく背景レベル[1]、素子3bからの入力レベル値[2]、及び入力レベル値[2]に基づく背景レベル[2]を得る。このとき、入力レベル値の和値は、入力レベル値[1]+入力レベル値[2]、背景レベルの和値は、背景レベル[1]+背景レベル[2]とし、入力レベル値の差値は、入力レベル値[1]−入力レベル値[2]、背景レベルの差値は、背景レベル[1]−背景レベル[2]とするとよい。
【0115】
次に、本例に示すシステムに用いる比較値について説明する。本例では、入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づき演算した値を第一比較値、入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づき演算した値を第二比較値とする。具体的には、入力レベル値の和値(差値)と前回の背景レベルの和値(差値)との差分(背景差分と呼ぶ)を求め、この背景差分の一定時間における積算値を第一比較値(第二比較値)とする。このように上記入力レベル値の和値(差値)と背景レベルの和値(差値)との差を用いた演算値を比較値とすることで、車両の誤認や認識できない場合などを低減する。
【0116】
この比較値の演算する手順を説明する。まず、比較値として積算値を用いる場合を説明する。入力レベル値の和値と前回の背景レベルの和値との差分Sn[1](背景差分[1])、入力レベル値の差値と前回の背景レベルの差値との差分Sn[2](背景差分[2])をそれぞれ演算する。本例では、アルゴリズム1と同様に入力レベル値の和値(差値)と前回の背景レベルの和値(和値)との差分の絶対値をとる。例えば、図3,9に示す例では、背景差分[1]を|(入力レベル値[1]+入力レベル値[2])−(背景レベル[1]+背景レベル[2])|、背景差分[2]を|(入力レベル値[1]−入力レベル値[2])−(背景レベル[1]−背景レベル[2])|とするとよい。次に、アルゴリズム1と同様に、この背景差分[1]、[2]を一定時間積算した積算値[1]:In[1]=ΣSk[1]、積算値[2]:In[2]=ΣSk[2]をそれぞれ演算する。本例では、このようにして得られた積算値Inを第一比較値、第二比較値として用いる。なお、積算時間や積算回数などは適宜変更してもよい。後述する積算値及び変化量を比較値とする場合についても同様である。
【0117】
次に、比較値として、変化量を併せて用いる場合を説明する。具体的には、上記と同様に入力レベル値の和値(差値)と前回の背景レベルの和値(差値)との差分、即ち、背景差分[1]、[2]をそれぞれ求めて、これら背景差分[1]、[2]の一定時間における積算値[1]、[2]を求める。次に、入力レベル値の和値(差値)の変化量を求め、更に、得られた変化量の平均値を求める。この変化量を定数倍した値と上記積算値とを加えて、比較値とする。このように積算値だけでなく、変化量をも用いて演算した値を比較値とすることで、車両の誤認や認識できない場合などを更に低減する。また、出力の大きいサーモパイル素子を用いると共に、このように変化量をも考慮した値をアルゴリズムに用いることで、焦電センサなどの他のセンサを用いることなく、サーモパイル素子のみでも十分に赤外線の感知を行って、車両の有無を判定することができる。
【0118】
この比較値を演算する手順を説明する。上記積算値[1]、積算値[2]を第一比較値、第二比較値とする場合と同様に、入力レベル値の和値(差値)と背景レベルの和値(差値)の差分、背景差分[1]、背景差分[2]を求め、これら背景差分[1]、[2]を一定時間積算した積算値[1]:In[1]、積算値[2]:In[2]を演算する。次に、入力レベル値の和値及び差値において、単位時間当たりの変化量[1]:Dn[1]、変化量[2]:Dn[2]をそれぞれ演算する。例えば、160ms前の入力レベル値の和値(差値)との差の絶対値を変化量Dnとする。次に、得られた変化量Dn[1]の平均値Bn[1]、及び変化量Dn[2]の平均値Bn[2]を演算する。例えば、8個分の変化量の平均値Bn=1/8×ΣD(但し、k=n−7〜n)とする。そして、積算値In[1]と平均値Bn[1]の定数倍との和In[1]+Bn[1]×A(但し、Aは定数、例えばA=0〜255、初期値30)を演算して、入力レベル値の和値に基づく第一比較値を得る。また、積算値In[2]と平均値Bn[2]の定数倍との和In[2]+Bn[2]×A(但し、Aは定数、例えばA=0〜255、初期値30)を演算して、入力レベル値の差値に基づく第二比較値を得る。定数Aは、積算値In、平均値Bnをそれぞれどの程度関与させるかによって決定される任意の値である。なお、各ステップの演算値は、次回の演算に用いることができるように、メモリに保存しておく。また、平均値を求める特定個数や、定数Aは適宜変更してもよい。
【0119】
本例に示すシステムに用いる閾値は、入力レベル値の和値及び差値に対してそれぞれ設けると共に、アルゴリズム1と同様に実際の環境に応じて変化させるべく、演算値を用いる。具体的には、今回の補正値=前回の補正値+{(積算値の平均値×β)−前回の補正値}×θとし(但し、βは補正係数、θは定数、例えばθ=0.01)とし、前回の存在判定の結果に応じてβを変化させる。このように閾値を変化させることで、車両の停止中、車両有りとの存在判定を継続し易く、停止していた車両が走行を始めると車両無しとの存在判定が行い易い状態にすることができる。なお、閾値には、最大値を設けておくことが好ましい。
【0120】
この閾値を演算する手順は、アルゴリズム1と同様にするとよい。即ち、まず、入力レベル値の和値及び差値の積算値In[1]、In[2]をそれぞれ求めて、これら積算値In[1]、In[2]の平均値をそれぞれ演算する。例えば、入力レベル値の和値(差値)の積算値Inの平均を1/16×Inとする。メモリに保存された和値(差値)の積算値Inを呼び出して用いてもよい。次に、背景レベルの演算のときと同様にメモリから前回の存在判定の結果を呼び出し、存在判定の結果が車両有りかどうかを確認し、車両有りの場合、補正係数は、βONを選択する。この補正係数βONを用いて入力レベル値の和値(差値)に対する補正値CL=前回の補正値+{(1/16×In×βON)−前回の補正値}×0.01(θ=0.01)を演算し、この補正値CLを設定値(例えば1000)に加えて、入力レベル値の和値(差値)に対する閾値L'を演算する。更に、この閾値L'にヒステリシス係数をかけて閾値Lを求める。
【0121】
一方、前回の存在判定が車両無しの場合、補正係数は、βOFFを選択し、この補正係数βOFFを用いて、入力レベル値の和値(差値)に対する補正値CH=前回の補正値+{(1/16×In×βOFF)−前回の補正値}×0.01(θ=0.01)を演算する。この補正値CHを設定値(例えば1000)に加えて、入力レベル値の和値(差値)に対する閾値Hを演算する。なお、補正係数β、平均値を求める特定個数、定数θは適宜変更してもよい。特に、比較値として、積算値のみを用いる場合と積算値及び変化量を用いる場合とでは、これらの値を変更することで閾値を異ならせてもよいし、その他の演算により閾値を異ならせてもよい。
【0122】
<回路構成>
上記の例では、サーモパイル素子のみを用いても精度よく車両の検知が行えるように、出力の大きなサーモパイル素子を用いると共にアルゴリズムに用いる値を特定の演算値とすることを述べた。その他、渋滞時などにおいても車両の検知を行うことが可能な構成として、回路構成を工夫することが挙げられる。図21は、本発明車両検知システムにおいて、サーモパイル素子とCPUとの接続状態を模式的に示した回路図である。先に説明したように、回路には、サーモパイル素子3a、3bと、CPUを有する車両有無判定部10とを具えると共に、各素子3a、3bに生じた起電力を増幅して判定部10に送るアンプ13a、13bとを具える。本例では、図21に示すように各素子3a、3bに対して、それぞれ二つのアンプ13a、13bを具え、各素子3a、3bに接続されるアンプ13aは、増幅率が大きいもの(図21では1000倍)、CPUに接続されるアンプ13bは、増幅率が小さいもの(同10倍)とする。そして、アンプ13bは、D/A変換器15に接続することによって、リファレンス電圧を加えてアンプ13aの出力とリファレンス電圧との差を増幅する構成である。この構成により、CPUのダイナミックレンジを向上させて、処理を適切に行うことができる。つまり、各素子3a、3bに生じた起電力をアンプ13a、13bで増幅した入力レベル値は、車両の検知や車両の速度の算出、車両の同一性の判定に利用できる。
【0123】
なお、加えるリファレンス電圧は、アンプ13bの電位を適宜調べて調整してもよい。また、本例においてリファレンス電圧は、CPUにて調整する。図21に示す例では、二つのサーモパイル素子3a、3bに対して、一つのCPUを具える構成としているが、各素子3a、3bに対し一つずつCPUを具えてもよい。このように交流成分だけでなく、直流成分をも増幅することで、停止している車両も検知し続けることができる。従って、渋滞や停滞時などで車両が停止している場合であっても、精度よく車両の検知を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明車両検知器は、道路上を走行する車両の速度を求める場合に好適に利用することができる。また、この検知器を具える本発明車両検知システムは、道路上に存在する車両の有無の検知、この車両の速度の検知に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】サーモパイル素子から得られた入力レベル値の波形を示すモデル図である。
【図2】本発明車両検知システムの機能ブロック図である。
【図3】(A)は、車線方向に二つの監視範囲を形成する本発明車両検知システムを模式的に示した正面図、(B)はその側面B−B断面図である。
【図4】車線方向に二つの監視範囲を形成する本発明車両検知システムを道路傍の支柱に取り付けた配置した状態を示す説明図である。
【図5】本発明車両検知システムにおいて赤外線透過レンズ部分の断面を示す拡大模式図である。
【図6】サーモパイル素子と赤外線透過レンズとの配置状態を説明する模式図であり、各素子に対してそれぞれレンズを具える例で、(A)は、レンズに対する素子の位置をずらした例、(B)は、支持部の位置をずらした例である。
【図7】サーモパイル素子と赤外線透過レンズとの配置状態を説明する模式図であり、一つのレンズに対して二つの素子を具える例である。
【図8】本発明車両検知システムの概略を示す斜視図である。
【図9】(A)は、車幅方向及び車線方向にずれてそれぞれ監視範囲を形成する本発明車両検知システムを模式的に示した正面図、(B)はその側面B−B断面図である。
【図10】車幅方向及び車線方向にずれて二つの監視範囲を形成する本発明車両検知システムを道路傍の支柱に配置した状態を示す説明図である。
【図11】本発明車両検知システムにおいて、車両有無判定部における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図12】本発明車両検知システムにおいて、背景レベルの演算手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明車両検知システムにおいて、比較値の演算手順を示すフローチャートであり、比較値として積算値を用いる場合示す。
【図14】本発明車両検知システムにおいて、比較値の演算手順を示すフローチャートであり、比較値として積算値及び変化量を用いる場合を示す。
【図15】本発明車両検知システムにおいて、閾値の演算手順を示すフローチャートである。
【図16】本発明車両検知システムにおいて、サーモパイル素子から得られた入力レベルが同一の車両のものであるかを判定する操作手順を表すフローチャートである。
【図17】本発明車両検知システムにおいて、無線通信部のタイマの制御手順を示すフローチャートである。
【図18】本発明車両検知システムにおいて、無線通信部における処理手順を示すフローチャートである。
【図19】本発明車両検知システムにおいて、車両有無判定部における処理手順の別の例を示すフローチャートである。
【図20】本発明車両検知システムにおいて、総合判定の手順を示すフローチャートである。
【図21】本発明車両検知システムにおいて、サーモパイル素子とCPUとの接続状態を模式的に示した回路図である。
【図22】渋滞時において、車両検知器が車両を検知する状態を示す説明図であって、(A)は、車両検知器の監視範囲に車両が存在する場合、(B)は、車両検知器の監視範囲に車両が存在しない場合を示す。
【図23】車両検知器において、監視範囲を一車線全体となるように広げた状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0126】
1,1a,1b 車両検知システム 2 センサ部 3,3a,3b サーモパイル素子
3A,3B 監視範囲 4 筐体 4a 照準部 4b 凹状突起 4c 凸状突起 4d 穴
5a,5b 基板 5c CPU基板 6,6a,6b 赤外線透過レンズ 6c レンズ押え
6d 中心軸 7,7a,7a',7a",7b 支持部 8 空間 9 ネジ
10 車両有無判定部 11 無線通信部 11a 送受信部 11b 無線制御部
12 太陽電池部 12a 太陽電池 13,13a,13b アンプ 14 A/D変換器
15 D/A変換器
100 道路 200 車両 300 支柱 400 車両検知器 401 監視範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の監視範囲に存在する車両の速度を検出する車両検知器であって、
検知対象が発する赤外線を感知する第一サーモパイル素子及び第二サーモパイル素子と、
前記両素子から得られた入力レベル値を用いて車両の速度を演算する速度検出部とを具え、
前記両素子は、各素子に基づく監視範囲が一車線の車線方向に並ぶように配置され、
前記速度検出部は、
各素子から得られた入力レベル値の出力波形の時間差を演算する時間差演算手段と、
得られた時間差と、二つの監視範囲間の距離とから車両の速度を演算する速度演算手段とを具えることを特徴とする車両検知器。
【請求項2】
時間差演算手段は、両出力波形から相関関数を求め、この相関関数に基づいて時間差を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両検知器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両検知器と、
両サーモパイル素子から得られた入力レベル値を用いて監視範囲に存在する車両の有無を判定する車両有無判定部と、
車両の同一性を判定する同一性判定部とを具え、
前記同一性判定部は、
両素子から得られた入力レベル値の出力波形のいずれかにおいて、隣り合う第一波形と第二波形との間の時間差と、車両検知器が演算した速度とから、第一波形に対応する第一車両と第二波形に対応する第二車両と間の距離を演算する車両間距離演算手段と、
演算した車両間距離と設定値とを比較し、第一車両と第二車両が同一か否かを判定する同一性判定手段とを具えることを特徴とする車両検知システム。
【請求項4】
車両検知器は、車両有無判定部が車両有りと判定したとき、時間差及び速度の演算を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両検知システム。
【請求項5】
車両有無判定部には、
各サーモパイル素子から得られた入力レベル値において、車両以外の物体が発する赤外線の量に基づく値を各監視範囲の背景レベルとし、この赤外線の量に基づく値から各監視範囲の背景レベルを演算する背景レベル演算手段と、
各監視範囲の入力レベル値と背景レベルとの差に基づく値を比較値とし、比較値と閾値とを比較し、車両の有無を判定する総合判定手段とを具えることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両検知システム。
【請求項6】
比較値として、各監視範囲の入力レベル値と背景レベルとの差の総和を一定時間積算した値を用いることを特徴とする請求項5に記載の車両検知システム。
【請求項7】
比較値として、各入力レベル値の単位時間当たりの変化量を用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の車両検知システム。
【請求項8】
車両有無判定部には、
各サーモパイル素子から得られた入力レベル値において、車両以外の物体が発する赤外線の量に基づく値を各監視範囲の背景レベルとし、この赤外線の量に基づく値から各監視範囲の背景レベルを演算する背景レベル演算手段と、
各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の和をとると共に、前記背景レベル演算手段から得られた各背景レベルの和をとり、この入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差に基づく値を第一比較値とし、第一比較値と第一閾値とを比較し、車両の存在を判定する第一判定手段と、
各サーモパイル素子から得られた入力レベル値の差をとると共に、前記背景レベル演算手段から得られた各背景レベルの差をとり、この入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差に基づく値を第二比較値とし、第二比較値と第二閾値とを比較し、車両の存在を判定する第二判定手段と、
前記第一判定手段の第一存在結果と、第二判定手段の第二存在結果との双方の和に基づき車両の有無を判定する総合判定手段とを具えることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両検知システム。
【請求項9】
第一比較値として、入力レベル値の和値と背景レベルの和値との差を一定時間積算した値を用い、第二比較値として、入力レベル値の差値と背景レベルの差値との差を一定時間積算した値を用いることを特徴とする請求項8に記載の車両検知システム。
【請求項10】
第一比較値として、入力レベル値の和値における単位時間当たりの変化量を用い、第二比較値として、入力レベル値の差値における単位時間当たりの変化量を用いることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−73058(P2007−73058A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266085(P2006−266085)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【分割の表示】特願2003−92897(P2003−92897)の分割
【原出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】