説明

車両用クラッチ制御装置

【課題】クラッチなどが過度に昇温した場合、駆動力の低下を回避すると共に、運転者に予期しない違和感を与えることがないようにした車両用クラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの出力を変速機に伝達する機械式摩擦クラッチとクラッチを開閉方向または締結方向に駆動するアクチュエータの少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断し、温度上昇抑制制御が必要と判断されるとき、目標クラッチ容量が所定値以上か否か判定し(S102)、所定値以上と判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従するようにアクチュエータの動作を制御する一方、所定値以上ではないと判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間より長い時間内に追従するように目標クラッチ容量を補正する(S104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用クラッチ制御装置に関し、より具体的には運転者によるクラッチペダル操作に応じてアクチュエータの動作を制御してクラッチを断接するようにしたCBW(Clutch by Wire)型のクラッチの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、上記したCBW型、あるいはAMT(Automated Manual Transmission)と呼ばれるクラッチペダルを除去した型の変速機が提案されているが、その種の変速機においてはショックの緩和やクラッチ操作を容易にするためのクラッチスリップ制御によってクラッチが過度に昇温した場合、クラッチの締結を解除させるように構成している。その例としては下記の特許文献1記載の技術を挙げることができる。
【0003】
また、特許文献2記載の技術にあっては、クラッチの差回転を検出すると共に、他のセンサによる検出値から軸トルクを算出し、それら差回転と軸トルクとの積からクラッチの発熱量を推定し、推定された発熱量が高温となったときは軸トルクを低下させるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−132776号
【特許文献2】特開2008−057670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2記載の技術は上記のようにクラッチなどが過度に昇温した場合、駆動力を低減するように制御しているが、その場合でも駆動力が低下されることは望ましくない。他方、クラッチ制御を直ちに中止すると、運転者に予期しない違和感を与えることがある。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、クラッチなどが過度に昇温した場合、駆動力の低下を回避すると共に、運転者に予期しない違和感を与えることがないようにした車両用クラッチ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、車両に搭載されるエンジンの出力を入力して変速して車輪に伝達する変速機と、前記エンジンの駆動軸と変速機の間に介挿され、スプリングによって前記エンジンの駆動軸に押圧されることで締結して前記エンジンの出力を前記変速機に伝達する機械式摩擦クラッチと、前記車両の運転席に設けられたクラッチペダルと、運転者による前記クラッチペダルの操作量を示す出力を生じるクラッチペダルストロークセンサと、前記クラッチに接続され、前記クラッチを開放方向または締結方向に駆動するアクチュエータと、少なくとも前記クラッチペダルストロークセンサの出力に基づいて予め設定された特性に従って目標クラッチ容量を算出し、前記算出された目標クラッチ容量に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段とを備えた車両用クラッチ制御装置において、前記クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する温度上昇抑制制御要否判断手段と、前記温度上昇抑制制御が必要と判断されるとき、前記目標クラッチ容量が所定値以上か否か判定する目標クラッチ容量判定手段とを備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上と判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従するように前記アクチュエータの動作を制御する一方、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上ではないと判定されるときは前記運転者のクラッチペダル操作に前記所定時間より長い時間内に追従するように前記目標クラッチ容量を補正する如く構成した。
【0008】
請求項2に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、前記所定値は前記クラッチが前記エンジンの駆動軸に締結あるいはほぼ締結されることに相当する値である如く構成した。
【0009】
請求項3に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、前記温度上昇抑制制御要否判断手段は、前記クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかの温度または温度変化をしきい値と比較して前記温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、前記しきい値にヒステリシスを持たせる如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、エンジンの出力を変速機に伝達する機械式摩擦クラッチとクラッチを開放方向または締結方向に駆動するアクチュエータの少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断し、温度上昇抑制制御が必要と判断されるとき、目標クラッチ容量が所定値以上か否か判定し、所定値以上と判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従するようにアクチュエータの動作を制御する一方、所定値以上ではないと判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間より長い時間内に追従するように目標クラッチ容量を補正する如く構成したので、クラッチなどが過度に昇温した場合でも、予め設定された特性に従ったクラッチ制御を中止することでそれ以上の昇温を防止できると共に、駆動力を低下することがないために走行を継続することができる。
【0012】
また、目標クラッチ容量が所定値以上か否かを判定し、所定値以上ではないと判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間より長い時間内に追従するように目標クラッチ容量を補正、即ち、クラッチ制御を直ちには中止しないように構成したので、所定値を適宜設定することで運転者に予期しない違和感を与えるのを回避することができる。
【0013】
請求項2に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、所定値はクラッチがエンジンの駆動軸に締結あるいはほぼ締結されることに相当する値である如く構成したので、目標クラッチ容量がクラッチ締結(あるいはほぼ締結)相当値にあって運転者はエンジンの出力が変速機にそのまま伝達される変速を期待している場合には例えば微小な値に設定される所定時間内に運転者のクラッチペダル操作にそのまま追従させて運転者の期待に応える一方、然らざる場合、その所定時間より長い時間をかけて運転者のクラッチペダル操作に追従させることで運転者に違和感を与えるのを回避することができる。
【0014】
請求項3に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかの温度または温度変化をしきい値と比較して温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する如く構成したので、上記した効果に加え、温度上昇抑制制御の要否を精度良く判断することができる。
【0015】
請求項4に係る車両用クラッチ制御装置にあっては、しきい値にヒステリシスを持たせる如く構成したので、上記した効果に加え、制御ハンチングを生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施例に係る車両用クラッチ制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示すCCUなどの詳細を示すブロック図である。
【図3】図1に示すアクチュエータのストロークに対するクラッチ容量の特性を示す説明図である。
【図4】図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図5】図4のクラッチ温度推定処理を示す説明図である。
【図6】図4のPCB温度判定処理を説明するタイム・チャートである。
【図7】図4の温度保護制御を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図8】図4の目標クラッチ容量移行処理を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る車両用クラッチ制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0018】
図1はこの発明の実施例に係る車両用クラッチ制御装置を全体的に示す概略図である。
【0019】
以下説明すると、符号10は車両(図示せず)に搭載されるエンジン(ENG)12の出力を入力して変速して車輪14に伝達する変速機を示す。エンジン10は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなり、変速機10は前進5速、後進(RVS)1速の変速段を有する手動変速機からなる。
【0020】
エンジン12の駆動軸(クランク軸)と変速機10の間にはクラッチ16が介挿される。クラッチ16は機械式摩擦クラッチからなる。
【0021】
クラッチ16はエンジン12の駆動軸12a、より正確には駆動軸12aに固定されたフライホイール12bに接触可能なドーナツ状のクラッチディスク(摩擦材)16aが円周上に貼り付けられたクラッチプレート16bと、その背後に配置されるクラッチディスク16aと同一形状のプレッシャプレート(摩擦材)16cと、その背後に配置されるダイヤフラム状のスプリング16dを備える。
【0022】
クラッチディスク16aとプレッシャプレート16cからなる摩擦材はスプリング16dによってエンジン12のフライホイール12bに押圧されることで締結してエンジンの出力を変速機10に伝達する。
【0023】
車両運転席の床面に運転者の操作(踏み込み)自在に設けられるクラッチペダル20とクラッチ16との機械的な連結は断たれ、クラッチ16はアクチュエータ22を介して操作される。
【0024】
このように、変速機10は、運転者によるクラッチペダル操作に応じてアクチュエータ22の動作を制御してクラッチ16を断接するようにしたCBW(Clutch by Wire)型の変速機からなる。
【0025】
変速機10は、エンジン12の駆動軸12aに接続されてエンジン12の出力を入力する入力軸(メインシャフト)10aと、前記入力軸10aと平行に設けられると共に、車輪14に接続される出力軸(カウンタシャフト)10bを備える。入力軸10aと出力軸10bはベアリング10cを介して変速機ケース10dに回転自在に支承される。
【0026】
入力軸10aには1速ドライブギヤ10eと2速ドライブギヤ10fとRVS(後進)ドライブギヤ10gとが回転不能に配置されると共に、出力軸10bには3速ドライブギヤ10hと4速ドライブギヤ10iと5速ドライブギヤ10jとが回転不能に配置される。
【0027】
また、出力軸10bには1速ドライブギヤ10eと噛合する1速ドリブンギヤ10kと2速ドライブギヤ10fと噛合する2速ドリブンギヤ10lとが回転可能に配置されると共に、入力軸10aには3速ドライブギヤ10hと噛合する3速ドリブンギヤ10mと4速ドライブギヤ10iと噛合する4速ドリブンギヤ10nと5速ドライブギヤ10jと噛合する5速ドリブンギヤ10oとが回転可能に配置される。
【0028】
さらに、RVS軸10pにはRVSドライブギヤ10gと噛合可能なRVSギヤ10qがRVS軸10pに対して回転不能に配置されると共に、出力軸10bにはギヤ10rが出力軸10bに対して回転不能に配置される。
【0029】
ギヤ10rはギヤ10sを介してディファレンシャル機構10tに接続される。ディファレンシャル機構10tはドライブ軸10uを介して車輪14に接続される。
【0030】
入力軸10aと出力軸10bの付近には1−2速スリーブ10vと3−4速スリーブ10wと5速スリーブ10xとが配置される。これらスリーブ10v,10w,10xは車両運転席に運転者の操作自在に配置されるシフトレバー24にロッドやシフトフォーク(共に図示せず)などを介して機械的に接続される。
【0031】
シフトレバー24は、1−5速段(ギヤ段)とR(RVS後進)とN(ニュートラル)からなるシフトパターンを有するスロット内を運転者の操作に応じて移動自在に構成される。
【0032】
クラッチ16が図示の接続位置にある場合、運転者によってシフトレバー24が1速位置に操作されると、それに応じて1−2速スリーブ10vは図1で左動して1速ドリブンギヤ10kを出力軸10bに固定する。
【0033】
その結果、1速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16を介して入力軸10aに伝達され、1速ドライブギヤ10e、1速ドリブンギヤ10k、出力軸10b、ギヤ10r、ギヤ10s、ディファレンシャル機構10t、ドライブ軸10u、車輪14へと伝達され、車両を前進方向に走行させる。
【0034】
シフトレバー24が2速位置に操作されると、1−2速スリーブ10vは図1で右動して2速ドリブンギヤ10lを出力軸10bに固定する結果、2速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、2速ドライブギヤ10f、2速ドリブンギヤ10l、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
【0035】
シフトレバー24が3速位置に操作されると、3−4速スリーブ10wは図1で左動して3速ドリブンギヤ10mを入力軸10aに固定する結果、3速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、3速ドリブンギヤ10m、出力軸10b、3速ドライブギヤ10h、ギヤ10rへと伝達される。
【0036】
シフトレバー24が4速位置に操作されると、3−4速スリーブ10wは図1で右動して4速ドリブンギヤ10nを入力軸10aに固定する結果、4速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、4速ドリブンギヤ10n、4速ドライブギヤ10i、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
【0037】
シフトレバー24が5速位置に操作されると、5速スリーブ10xは図1で左動して5速ドリブンギヤ10oを入力軸10aに固定する結果、5速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、5速ドリブンギヤ10o、5速ドライブギヤ10j、出力軸10b、ギヤ10rへと伝達される。
【0038】
シフトレバー24がR(RVS)位置に操作されると、RVSギヤ10qは図1で左動してRVSドライブギヤ10gと噛合する結果、後進1速段が確立され、エンジン12の出力はクラッチ16、入力軸10a、RVSドライブギヤ10g、RVSギヤ10q、1−2速スリーブ10v、出力軸10b、ギヤ10r、ギヤ10s、ディファレンシャル機構10t、ドライブ軸10u、車輪14へと伝達され、車両を後進方向に走行させる。
【0039】
上記したアクチュエータ22について説明すると、アクチュエータ22は電動モータ22aとマスタシリンダ(油圧シリンダ)22bとスレーブシリンダ22c(油圧シリンダ)と、レリーズフォーク22dと、レリーズピボット22eからなる。
【0040】
電動モータ22aは例えばDCモータからなり、車両搭載バッテリ(図2に「BATT」と示す)から通電されて回転する。電動モータ22aの回転はボールスクリュー(図示せず)を介してマスタシリンダ22bのピストンロッド22b1に連結される。
【0041】
マスタシリンダ22bの内部にはピストンロッド22b1の他端に取り付けられたピストン22b2が摺動自在に収容される。ピストン22b2はボールスクリューを介して直線運動に変換された電動モータ22aの回転に応じてマスタシリンダ22bの内部を移動する。
【0042】
マスタシリンダ22bにおいてピストン22b2で形成される油室にはリザーバ22b3から作動油(ブレーキオイル)が供給される。マスタシリンダ22bは配管22b4を介してスレーブシリンダ22cに接続される。
【0043】
スレーブシリンダ22cの内部にはピストン22c1が摺動自在に収容される。スレーブシリンダ22cにおいてピストン22c1で形成される油室には配管22b4を介してマスタシリンダ22bから作動油が供給される。
【0044】
ピストン22c1はピストンロッド22c2に一端に取り付けられると共に、ピストンロッド22c2の他端はレリーズフォーク22dに連結される。レリーズフォーク22dは変速機ケース10dに固定されるレリーズピボット22eを介してクラッチ16のスプリング16dに連結される。
【0045】
アクチュエータ22にあっては、電動モータ22aが通電されて通電量に応じた量だけ回転すると、その回転はボールスクリューを介してマスタシリンダ22bからスレーブシリンダ22cに油圧として伝えられ、回転量に相当する距離だけスレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2はストローク(前進あるいは後退)してレリーズフォーク22dを前後方向に駆動する。
【0046】
図示の如く、レリーズピボット22eはレリーズフォーク22dの中央位置よりもクラッチ16に接近して配置されるので、そこを支点とするレリーズフォーク22dの移動は増力されてクラッチ16のスプリング16dに伝達される。
【0047】
よって電動モータ22aが例えば正転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2は回転量に相当する分だけ前方にストローク(前進)し、レリーズフォーク22dを駆動してスプリング16dを押圧してクラッチ16(のクラッチプレート16b)をエンジン12の駆動軸12aから離間する方向に駆動する。
【0048】
他方、電動モータ22aが逆転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2は回転量に相当する分だけ後方にストローク(後退)する。その結果、クラッチ16(のクラッチプレート16b)はスプリング16dの付勢力によってエンジン12の駆動軸12aに押圧される締結位置に向けて移動する。
【0049】
さらに電動モータ22aが逆転方向に回転させられると、スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2とレリーズフォーク22dはさらに後方に移動してスプリング16dを押圧する力が零となると、クラッチ16は図示の接続位置に復帰する。
【0050】
マスタシリンダ22bの付近にはピストンストロークセンサ30が配置され、マスタシリンダ22b内のピストン22b2の移動を通じてアクチュエータ22のストローク量(レリーズフォーク22dの移動量)に応じた出力を生じる。
【0051】
マスタシリンダ22bとスレーブシリンダ22cを接続する配管22b4の適宜位置には油圧センサ32が配置され、その部位の油圧(作動油の圧力)に応じた出力を生じる。
【0052】
車両運転席床面に配置されるクラッチペダル20の付近にはクラッチペダルストロークセンサ20aが配置され、運転者によるクラッチペダル20の操作量を示す出力(電圧)を生じる。
【0053】
車両運転席床面にクラッチペダル20と並んで配設されるブレーキペダル34の付近にはブレーキスイッチ34aが配置されて運転者によるブレーキペダル34の踏み込み(ブレーキ操作)がなされる度に信号を出力すると共に、アクセルペダル36の付近にはアクセル開度センサ36aが配置されて運転者によるアクセルペダル36の踏み込み量に応じた出力を生じる。
【0054】
変速機10の入力軸10aの付近には第1の回転数センサ40が配置されて入力軸10aの回転数NMを示す出力を生じると共に、ドライブ軸10uの付近には第2の回転数センサ42が配置されてドライブ軸10uの回転数、即ち、車速を示す出力を生じる。
【0055】
上記した、ピストンストロークセンサ30を除く、大部分のセンサの出力はFI−ECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)46に入力される。FI―ECU46はマイクロコンピュータを備え、車両運転席付近の適宜位置に配置されるケース(図示せず)内に収容される。
【0056】
アクチュエータ22のマスタシリンダ22bのケース(図示せず)にはPCB(Print Circuit Board。電子回路基板)50が配置され、その上にCCU(Clutch Control Unit)52が搭載される。CCU52もマイクロコンピュータを備えるECUからなる。
【0057】
図2はFI−ECU44とCCU52などの詳細を示すブロック図である。
【0058】
図示の如く、上記したセンサのうち、ピストンストロークセンサ30とクラッチペダルストロークセンサ20aと油圧センサ32の出力はCCU52に入力される。
【0059】
CCU52はクラッチペダルストロークセンサ20aの出力(電圧値)を適宜な特性に従って変換して運転者によるクラッチペダル20の踏み込み(ストローク)量を検出すると共に、(所定の時間当たりの)踏み込み変化量を算出する。
【0060】
即ち、クラッチペダルストロークセンサ20aが生じる、「運転者によるクラッチペダル20の操作量を示す出力」は、クラッチペダル20の踏み込み量と踏み込み変化量の双方を含む出力を意味する。
【0061】
CCU52はFI−ECU44とCAN(Controller Area Network)を介して通信自在に接続され、検出されたクラッチペダル20の操作踏み込み量と、算出されたクラッチペダル20の踏み込み変化量と、検出されたアクチュエータ22の油圧とをFI−ECU46に出力する。
【0062】
図示は省略するが、FI−ECU46はクランク角センサ、絶対圧センサなどの出力も入力され、それらからエンジン回転数NE、吸気管内絶対圧PBA(エンジン負荷)を検出し、エンジン12のFI(Fuel Injection。燃料噴射)、点火時期などの動作を制御する。
【0063】
FI−ECU46はまた、第2の回転数センサ42の出力と減速比から出力軸10bの回転数NCを算出し、その回転数NCと第1の回転数センサ40の出力(入力軸10aの回転数NM)との比から変速比を算出する。
【0064】
FI−ECU46はさらに、CCU52から送られるクラッチペダル20の踏み込み量などに基づいて目標クラッチ容量(クラッチ伝達トルク)を決定し、CCU52に出力する。CCU52は決定されたクラッチ容量となるようにアクチュエータ22の電動モータ22aの通電量を決定して通電回路52aから電動モータ52に通電する。
【0065】
このように、FI−ECU46はCCU52の通電回路52aを介してアクチュエータ22の電動モータ22aに通電してアクチュエータ22の(スレーブシリンダ22cのピストンロッド22c2の)ストロークを制御することでクラッチ16の容量を締結(クラッチ接)と開放(クラッチ断または切り)とその間の半クラッチ状態の間で制御する。
【0066】
図3はアクチュエータ22のストローク(Actストローク)に対するクラッチ容量の特性を示す説明図である。この明細書で「クラッチ容量」はクラッチ16が伝達可能なトルク、即ち、クラッチ伝達トルクを意味する。
【0067】
図示の如く、クラッチ容量は、Actストロークが零でクラッチ16が締結(クラッチ接)されるとき最大となり、Actストロークが切り(クラッチ断。切れ点位置)に向けて増加するにつれて減少し、切り(開放)のとき零となる。図3に示す特性が実験を通じて理論クラッチ容量として予め設定され、CCU52のマイクロコンピュータのメモリに格納される。
【0068】
図2の説明に戻ると、PCB50上において通電回路52aの付近には温度センサ54が配置され、PCB50の温度、より具体的には通電回路52aのパワートランジスタなどの構成部品の温度を示す出力を生じる。
【0069】
温度センサ54の出力もCCU52に送られる。CCU52は温度センサ54の出力からアクチュエータ22の電動モータ22aの通電による発熱(異常)、即ち、電動モータ22aの異常の発生の有無を監視する。
【0070】
図4はFI−ECU46の動作、具体的にはクラッチ制御、より具体的にはアクチュエータ22のストローク(Actストローク)の決定を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはFI−ECU46によって所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0071】
以下説明すると、S10においてクラッチペダル20の基準補正を行う。クラッチペダル20のストローク(踏み込み量)はクラッチペダルストロークセンサ20aの出力(電圧)から検出されるが、ペダルストッパなどの製造バラツキによる半クラッチ位置のバラツキをなくすため、S10においてはクラッチペダル20が踏み込まれたときのセンサ出力をスケーリングして基準補正を行う。
【0072】
次いでS12に進み、通常クラッチ制御を実行する。これは運転者のクラッチペダル20の操作(踏み込み)に応じてアクチュエータ22を動作させてクラッチ16を締結、開放あるいは半クラッチ状態に制御する通常の制御である。
【0073】
次いでS14に進み、クラッチ16の温度を推定する。
【0074】
図5はその温度推定処理を示す説明図である。図示の如く、クラッチ16の推定温度は、PP推定温度、即ち、クラッチ16のプレッシャプレート16cの推定温度を求め、それに係数A,Bを用いて算出される。
【0075】
PP推定温度は図示の式に従って算出される。式中のQはクラッチ吸収エネルギであり、以下の式に従って算出される。
Q=TRQENG×(NE−NM)/60×2π×0.01
上記でTRQENG:エンジントルク(エンジン回転数NEと吸気管内絶対圧PBAなどの負荷からマップ検索して得られるエンジン12の出力トルク)、NM:入力軸10aの回転数である。Cppはプレッシャプレート16bの熱容量、係数A,Bは実測から求められる値である。
【0076】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、PCB温度判定を行う。
【0077】
図6はその処理を説明するタイム・チャートである。
【0078】
S16の処理は、PCB50上に配置された温度センサ54から検出される温度の変化量が所定値(図示せず)を超える場合(図6(a))、あるいは温度センサ54から検出される温度がしきい値を超える場合(図6(b))にあるか否か判断することで行う。
【0079】
図6(a)に示す所定値を超える場合は具体的には、所定時間、例えば同図において時刻t1からt2の間の検出温度の変動幅が所定値(図示せず)より大きくなると共に、収束しない場合である。
【0080】
図6(b)に示す如く、しきい値はヒステリシスを設けて制御ハンチングが生じないこととする。図示は省略するが、図6(a)の場合も所定値にヒステリシスを設けることとする。
【0081】
図4フロー・チャートにおいては次いでS18に進み、温度保護を実施すべきか否か判断する。具体的には、クラッチ16とアクチュエータ22の少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否かの要否を判断する。
【0082】
より具体的には、S14で推定されたクラッチ温度が所定値を超えるか否か判断し、所定値を超えると判断されるとき、S18の判断は肯定されてS20に進み、温度保護制御(温度上昇抑制制御)を実施する。
【0083】
あるいはS16の判定においてPCB温度の変化量が所定値を超えると判定されたか、PCB温度自体がしきい値を超えると判定されたとき、S18の判断は肯定されてS20に進み、温度保護制御(温度上昇抑制制御)を実施する。 尚、S20に進むときは当然ながらS22以降の処理が実施されることはない。
【0084】
図7はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0085】
以下説明すると、S100においてクラッチ自動制御中か否か判断する。ここで「クラッチ自動制御」は、クラッチ16のアクチュエータ22による制御を、図3に示す特性に従って運転者によるクラッチペダル操作とは独立に行う制御を意味する。
【0086】
S100で否定されるときは以降の処理をスキップする。即ち、運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従させる。
【0087】
その結果、図4フロー・チャートの後述するS32の処理において目標クラッチ容量に基づいてアクチュエータ22のストロークが決定され、それに従ってアクチュエータ22がクラッチ16を締結方向、開放方向(あるいは半クラッチ状態)に駆動される。
【0088】
他方、S100で肯定されるときはS102に進み、目標クラッチ容量が所定値以上か否か判断する。所定値はクラッチ16がエンジン12の駆動軸12aに締結あるいはほぼ締結、より正確にはクラッチ16が駆動軸12aに完全に締結あるいはほぼ完全に締結されることに相当する値を意味する。
【0089】
S102で肯定されるときは以降の処理をスキップする(運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従させる)一方、否定されるときはS104に進み、目標クラッチ容量を徐々に、換言すれば所定時間より長い時間内にクラッチペダル操作量に移行(置換)する。
【0090】
図8はS104の処理を説明するタイム・チャートである。
【0091】
図示の如く、S102で肯定されて目標クラッチ容量が所定値以上と判断される(あるいはS100で否定されてクラッチ自動制御中にないと判断される)ときは、同図に符号aで示す如く、所定時間(10msec)内、即ち、次のプログラムループ時に運転者のクラッチペダル操作に追従するように目標クラッチ容量を補正する。
【0092】
他方、S102で否定されて目標クラッチ容量が所定値以上ではないと判断されるときはS104に進み、同図に符号bで示す如く、目標クラッチ容量をステップ状に、具体的には図4フロー・チャートがプログラムループ(所定時間)度に1ステップずつ増減するように長い時間をかけてクラッチペダル操作量に移行(置換)する。
【0093】
このように目標クラッチ容量を階段状に増減することにより、エンジントルクTRQENGの急変を回避でき、制御切替時の急激なクラッチ締結や開放を抑制することができ、運転者に予期しない違和感を与えるのを回避することができる。
【0094】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、一方、S18で否定されるときはS22に進み、クラッチ特性補正1を実行する。これはクラッチ16の磨耗、劣化によって図3に示すクラッチ容量特性を補正する補正値を算出する処理である。
【0095】
次いでS24に進み、クラッチ特性補正2を実行する。これは、スリップ時に理論クラッチ容量と実クラッチ容量の差を求めて補正値を算出する処理である。
【0096】
次いでS26に進み、ショック低減制御を実行する。これは、例えば高アクセル開度かつ低速ギヤ段で走行しているとき、アクセルペダル36が大きく踏み込まれてエンジン回転数NEが急増した場合などに、入力軸回転数NMを低く抑制してショックを低減する制御である。
【0097】
次いでS28に進み、歯打ち音低減制御を実行する。これは、所定の走行状況においてクラッチ16を滑らせて変速機10のギヤのバックラッシュによる騒音を低減する制御である。
【0098】
次いでS30に進み、S22,S24で得られた補正値によって図3に示す理論クラッチ容量の特性を補正する。
【0099】
次いでS32に進み、算出された目標クラッチ容量から図3に示す理論クラッチ容量の特性に従ってActストロークを決定して終わる。このとき、特性が補正されていれば補正された特性に従ってActストロークが決定されるのはいうまでもない。
【0100】
上記した如く、この実施例にあっては、車両に搭載されるエンジン(内燃機関)12の出力を入力して変速して車輪14に伝達する変速機10と、前記エンジン12の駆動軸12aと変速機10の間に介挿され、スプリング16dによって前記エンジンの駆動軸に押圧されることで締結して前記エンジンの出力を前記変速機に伝達する機械式摩擦クラッチ16と、前記車両の運転席に設けられたクラッチペダル20と、運転者による前記クラッチペダルの操作量を示す出力を生じるクラッチペダルストロークセンサ20aと、前記クラッチ16に接続され、前記クラッチを開放方向または締結方向に駆動するアクチュエータ22と、少なくとも前記クラッチペダルストロークセンサ20aの出力に基づいて予め設定された特性(クラッチ容量特性)に従って目標クラッチ容量を算出し、前記算出された目標クラッチ容量に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段(FI−ECU46)とを備えた車両用クラッチ制御装置において、前記クラッチ16とアクチュエータ22の少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する温度上昇抑制制御要否判断手段(S14からS16)と、前記温度上昇抑制制御が必要と判断されるとき、前記目標クラッチ容量が所定値以上か否か判定する目標クラッチ容量判定手段(S20,S102)とを備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上と判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従するように前記アクチュエータの動作を制御する一方、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上ではないと判定されるときは前記運転者のクラッチペダル操作に前記所定時間より長い時間内に追従するように前記目標クラッチ容量を補正する(S104)如く構成したので、クラッチ16などが過度に昇温した場合でも、予め設定された特性に従ったクラッチ制御を中止することでそれ以上の昇温を防止できると共に、エンジン12の駆動力を低下することがないために走行を継続することができる。
【0101】
また、目標クラッチ容量が所定値以上か否かを判定し、所定値以上ではないと判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間より長い時間内に追従するように目標クラッチ容量を補正、即ち、クラッチ制御を直ちには中止しないように構成したので、所定値を(例えば10msecなどと)適宜設定することで運転者に予期しない違和感を与えるのを回避することができる。
【0102】
また、前記所定値は前記クラッチが前記エンジンの駆動軸に締結あるいはほぼ締結されることに相当する値である如く構成したので、目標クラッチ容量がクラッチ締結(あるいはほぼ締結)相当値にあって運転者はエンジン12の出力が変速機にそのまま伝達される変速を期待している場合には例えば微小な値に設定される所定時間内に運転者のクラッチペダル操作にそのまま追従させて運転者の期待に応える一方、然らざる場合、その所定時間より長い時間をかけて運転者のクラッチペダル操作に追従させることで運転者に違和感を与えるのを回避することができる。
【0103】
また、前記温度上昇抑制制御要否判断手段は、前記クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかの温度または温度変化をしきい値と比較して前記温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する(S14,S16)如く構成したので、上記した効果に加え、温度上昇抑制制御の要否を精度良く判断することができる。
【0104】
また、前記しきい値にヒステリシスを持たせる如く構成したので、上記した効果に加え、制御ハンチングを生じることがない。
【0105】
尚、上記において、変速機の構造はクラッチで締結あるいは開放される限り、例示した構成に止まらず、どのような構成であっても良い。
【符号の説明】
【0106】
10 変速機、12 エンジン(内燃機関)、12a 駆動軸、14 車輪、16 クラッチ、16d スプリング、20 クラッチペダル、20a クラッチペダルストロークセンサ、22 アクチュエータ、22a 電動モータ、22b マスタシリンダ、22c スレーブシリンダ、22d レリーズフォーク、24 シフトレバー、30 ストロークセンサ、32 油圧センサ、34 ブレーキペダル、34a ブレーキスイッチ、36 アクセルペダル、36a アクセル開度センサ、40,42 回転数センサ、46 FI−ECU(アクチュエータ制御手段)、50 PCB、52 CCU、54 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジンの出力を入力して変速して車輪に伝達する変速機と、前記エンジンの駆動軸と変速機の間に介挿され、スプリングによって前記エンジンの駆動軸に押圧されることで締結して前記エンジンの出力を前記変速機に伝達する機械式摩擦クラッチと、前記車両の運転席に設けられたクラッチペダルと、運転者による前記クラッチペダルの操作量を示す出力を生じるクラッチペダルストロークセンサと、前記クラッチに接続され、前記クラッチを開放方向または締結方向に駆動するアクチュエータと、少なくとも前記クラッチペダルストロークセンサの出力に基づいて予め設定された特性に従って目標クラッチ容量を算出し、前記算出された目標クラッチ容量に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段とを備えた車両用クラッチ制御装置において、前記クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかが温度上昇を抑制すべき温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断する温度上昇抑制制御要否判断手段と、前記温度上昇抑制制御が必要と判断されるとき、前記目標クラッチ容量が所定値以上か否か判定する目標クラッチ容量判定手段とを備えると共に、前記アクチュエータ制御手段は、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上と判定されるときは運転者のクラッチペダル操作に所定時間内に追従するように前記アクチュエータの動作を制御する一方、前記目標クラッチ容量が前記所定値以上ではないと判定されるときは前記運転者のクラッチペダル操作に前記所定時間より長い時間内に追従するように前記目標クラッチ容量を補正することを特徴とする車両用クラッチ制御装置。
【請求項2】
前記所定値は前記クラッチが前記エンジンの駆動軸に締結あるいはほぼ締結されることに相当する値であることを特徴とする請求項1記載の車両用クラッチ制御装置。
【請求項3】
前記温度上昇抑制制御要否判断手段は、前記クラッチとアクチュエータの少なくともいずれかの温度または温度変化をしきい値と比較して前記温度上昇抑制制御を必要とするか否か判断することを特徴とする請求項1または2記載の車両用クラッチ制御装置。
【請求項4】
前記しきい値にヒステリシスを持たせることを特徴とする請求項3記載の車両用クラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−36485(P2013−36485A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170649(P2011−170649)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】