説明

車両用クラッチ装置

【課題】エンジンの動力損失を抑制するとともに、複数のクラッチ手段を精度よく選択的に作動させることができる車両用クラッチ装置を提供する。
【解決手段】車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側に伝達又は遮断させるための第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2と、これらクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段3とを具備した車両用クラッチ装置において、作動手段3は、任意タイミングにて通電することにより駆動するモータ4と、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2にそれぞれ対応したカム溝5a、5bが形成されたドラム5と、ドラム5のそれぞれのカム溝と連結され、モータ4が駆動してドラム5が回転することによりカム溝の作用を受けて動作し、第1クラッチ手段1又は第2クラッチ手段2をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段6とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側に伝達又は遮断させるための複数のクラッチ手段と、該複数のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段とを具備した車両用クラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ツインクラッチと称される車両用クラッチ装置は、従来、車両が具備するエンジンの駆動力を変速機側に伝達又は遮断させるための一対のクラッチ手段と、これら一対のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る油圧供給手段とを具備していた(例えば、特許文献1参照)。かかるクラッチ手段は、複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板)を有しており、油圧供給手段による油圧供給にてディスククラッチを圧接させ、エンジンの駆動力を変速機側に伝達させ得る状態とされるとともに、付与した油圧を解放して圧接力を緩めることにより、エンジンの駆動力の変速機側への伝達を遮断し得るよう構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の車両用クラッチ装置においては、クラッチ手段に対する油圧供給手段による油圧供給がエンジンと連動するオイルポンプを駆動源として行われていたため、その分だけ燃費を悪化させてしまう虞があった。特に、従来の如く油圧供給手段を用いるものにおいては、クラッチ手段の作動の有無に関わらず、油圧を常時高いレベルに保持しておく必要があり、動力損失が比較的大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、エンジンの動力損失を抑制するとともに、複数のクラッチ手段を精度よく選択的に作動させることができる車両用クラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側に伝達又は遮断させるための複数のクラッチ手段と、該複数のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段とを具備した車両用クラッチ装置において、前記作動手段は、任意タイミングにて通電することにより駆動する駆動手段と、該駆動手段の駆動により回転し得るとともに、前記クラッチ手段にそれぞれ対応したカムが形成されたドラムと、該ドラムのそれぞれのカムと連結され、前記駆動手段が駆動して当該ドラムが回転することにより前記カムの作用を受けて動作し、前記クラッチ手段をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両用クラッチ装置において、前記駆動手段は、通電により出力軸を回転駆動させるモータから成るとともに、該モータの出力軸と前記ドラムとが連結されて連動可能とされたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の車両用クラッチ装置において、前記ドラムの回転角度を検出し得る検出手段を具備するとともに、当該検出手段により検出された回転角度に応じて前記駆動手段の駆動が制御されることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の車両用クラッチ装置において、前記ドラムを所定の回転角度で保持させ得る保持手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1つに記載の車両用クラッチ装置において、前記ドラムに形成されたカムは、前記連結手段の当該カムとの連結部を所定位置にて嵌合させ得る嵌合形状を有し、当該嵌合形状に当該連結部が嵌合した状態にて前記連結手段が保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、作動手段は、任意タイミングにて通電することにより駆動する駆動手段と、該駆動手段の駆動により回転し得るとともに、クラッチ手段にそれぞれ対応したカムが形成されたドラムと、該ドラムのそれぞれのカムと連結され、駆動手段が駆動して当該ドラムが回転することにより前記カムの作用を受けて動作し、クラッチ手段をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段とを備えたので、エンジンの動力損失を抑制するとともに、複数のクラッチ手段を精度よく選択的に作動させることができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、駆動手段は、通電により出力軸を回転駆動させるモータから成るとともに、該モータの出力軸と前記ドラムとが連結されて連動可能とされたので、よりスムーズ且つ精度よく複数のクラッチ手段を選択的に作動させることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、ドラムの回転角度を検出し得る検出手段を具備するとともに、当該検出手段により検出された回転角度に応じて駆動手段の駆動が制御されるので、より一層精度よく複数のクラッチ手段を選択的に作動させることができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、ドラムを所定の回転角度で保持させ得る保持手段を備えたので、エンジンの振動や車両の走行時の振動などが付与された場合であっても、ドラムの回転位置がずれてしまうのをより確実に回避することができる。
【0015】
請求項5の発明によれば、ドラムに形成されたカムは、連結手段の当該カムとの連結部を所定位置にて嵌合させ得る嵌合形状を有し、当該嵌合形状に当該連結部が嵌合した状態にて連結手段が保持されるので、連結手段を動作してクラッチ手段を作動させる機能と、所定位置で連結手段を保持させる機能とを併せて持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用クラッチ装置及び変速機を示す全体縦断面図
【図2】同車両用クラッチ装置を示す拡大断面図
【図3】同車両用クラッチ装置を示す正面模式図
【図4】同車両用クラッチ装置におけるクラッチの接続状態及びシフトポジションを説明するためのグラフ
【図5】同車両用クラッチ装置におけるドラムの展開図
【図6】本発明の第2実施形態に係る車両用クラッチ装置を示す断面図
【図7】同車両用クラッチ装置におけるカムが形成されたドラムを示す模式図
【図8】本発明の他の実施形態に係る車両用クラッチ装置における保持手段を示す正面模式図
【図9】本発明の更に他の実施形態に係る車両用クラッチ装置におけるカムの形状を示すためのドラムの展開図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1実施形態に係る車両用クラッチ装置は、所謂ツインクラッチと称される車両の変速機(ミッション)に用いられるもので、図1〜3に示すように、一対のクラッチ手段(1、2)と、これらクラッチ手段(1、2)の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段3(モータ4(駆動手段)、ドラム5及び連結手段6)と、角度センサ7(検出手段)と、制御手段8とから主に構成されている。なお、図中符号A1は、本実施形態におけるクラッチ装置を示すとともに、符号A2は、変速ギア群を示している。
【0018】
クラッチ装置A1におけるクラッチ手段(第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2)1は、図中左右に隣接して配設されるとともに、その内部に内側シャフトS1及び外側シャフトS2から成るメインシャフトが貫通して配設されている。かかるメインシャフトは、管状の外側シャフトS2内に軸状の内側シャフトS1が形成されて成るとともに、変速ギア群A2まで延設されており、クラッチ装置A1に伝達されたエンジンの駆動力を変速ギア群A2まで伝達し得るよう構成されている。
【0019】
変速ギア群A2は、シフトポジションに応じた複数の変速ギア(G1〜G6)を有したもので、本実施形態においては、奇数段の変速ギア(G1、G3、G5)が内側シャフトS1に連結されるとともに、偶数段の変速ギア(G2、G4、G6)が外側シャフトS2に連結されている。また、内側シャフトS1及び外側シャフトS2から成るメインシャフトと略平行にカウンタシャフトS3が配設されている。
【0020】
このカウンタシャフトS3は、車両の車輪(駆動輪)に連結されるもので、各変速ギア(G1〜G6)とそれぞれ噛み合う複数のギアが形成されている。なお、変速ギア群A2は、シフトに応じた径の複数のギアを有して成るものであり、本実施形態においては、1〜6速に対応する変速ギア(G1〜G6)を具備している。そして、シフト操作に応じて任意のシフトフォーク(不図示)を作動させることにより、カウンタシャフトS3に動力伝達させる変速ギア(G1〜G6)を切換可能とされている。
【0021】
一方、クラッチ装置A1は、エンジンの駆動力を変速ギア(G1〜G6)側に伝達又は遮断させるための複数の(本実施形態においては2つの)クラッチ手段(第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2)と、複数のクラッチ手段(第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2)の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段3(モータ4(駆動手段)、ドラム5及び連結手段6)とを有している。なお、クラッチ装置A1と変速ギア群A2とは、共通のミッションケースに配設されて、車両の変速機を構成している。
【0022】
第1クラッチ手段1は、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側(変速ギア群A2側)に伝達又は遮断させるためのものであり、図1、2に示すように、入力部材F1と、複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板a及び被動側クラッチ板b)と、作動部材9及び連動部材11と、伝達部材13とから主に構成されている。入力部材F1は、エンジンのクランク軸(不図示)と連結された入力ギアg3に固定(具体的には、入力ギアg3の図中右側に固定)されたもので、複数の駆動側クラッチ板aが取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板aは、図中左右方向(メインシャフトの長手方向)への摺動が許容されるとともに、図中上下方向(メインシャフトの径方向)の移動が規制された円環状のクラッチ板から成る。
【0023】
伝達部材13は、内側シャフトS1の外周面に形成されたスプラインと嵌合して配設され、当該内側シャフトS1を軸として回転可能とされるとともに、入力部材F1と対向する部位には複数の被動側クラッチ板bが取り付けられている。かかる被動側クラッチ板bは、駆動側クラッチ板aと交互に配設され、図中左右方向(メインシャフトの長手方向)への摺動は許容されるとともに、図中上下方向(メインシャフトの径方向)の移動が規制された円環状のクラッチ板から成る。
【0024】
作動部材9は、連結手段6の係止部6abとベアリングB1を介して係合するとともに、伝達部材13に対して図中左右方向へ摺動可能とされたものである。この作動部材9には、連動部材11が取り付けられており、当該作動部材9と共に連動部材11が図中左右方向に移動可能とされている。かかる連動部材11と伝達部材13との間には、これら連動部材11及び伝達部材13を互いに離間させる方向に付勢し得るスプリング15が介装されており、当該伝達部材13に対して作動部材9及び連動部材11が離間する方向に常時付勢されて組み付けられている。
【0025】
しかるに、作動部材9及び連動部材11がスプリング15の付勢力に抗して図中左側に押圧されて同方向に摺動すると、駆動側クラッチ板aと被動側クラッチ板bとが圧接されて動力伝達が可能な状態となるため、当該作動部材9及び連動部材11と共に伝達部材13が回転して内側シャフトS1を回転させ得る状態となる。一方、作動部材9及び連動部材11に対する押圧力を緩めると、スプリング15の付勢力により駆動側クラッチ板aと被動側クラッチ板bとの圧接が解放されて動力伝達が遮断された状態となる。
【0026】
なお、本実施形態においては、皿ばねeにより、駆動側クラッチ板aと被動側クラッチ板bとが圧接する方向に付勢されており、その圧接力にて第1クラッチ手段1を作動させ得るよう構成されているとともに、第1クラッチ手段1が非作動な状態では、皿バネeの付勢力が作動部材9及びベアリングB1を介して連結手段6に伝達され、当該連結手段6の第1連結部材6aを図2中右側に付勢している。上記第1クラッチ手段1と隣接した位置には、第2クラッチ手段2が配設されている。
【0027】
第2クラッチ手段2は、第1クラッチ手段1と同様、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側(変速ギア群A2側)に伝達又は遮断させるためのものであり、図1、2に示すように、入力部材F2と、複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板c及び被動側クラッチ板d)と、作動部材10及び連動部材12と、伝達部材14とから主に構成されている。入力部材F2は、エンジンのクランク軸(不図示)と連結された入力ギアg3に固定(具体的には、入力ギアg3の図中左側に固定)されたもので、複数の駆動側クラッチ板cが取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板cは、図中左右方向(メインシャフトの長手方向)への摺動が許容されるとともに、図中上下方向(メインシャフトの径方向)の移動が規制された円環状のクラッチ板から成る。
【0028】
伝達部材14は、外側シャフトS2の外周面に形成されたスプラインと嵌合して配設され、当該外側シャフトS2を軸として回転可能とされるとともに、入力部材F2と対向する部位には複数の被動側クラッチ板dが取り付けられている。かかる被動側クラッチ板dは、駆動側クラッチ板cと交互に配設され、図中左右方向(メインシャフトの長手方向)への摺動は許容されるとともに、図中上下方向(メインシャフトの径方向)の移動が規制された円環状のクラッチ板から成る。
【0029】
作動部材10は、連結手段6の係止部6bbとベアリングB2を介して係合するとともに、伝達部材14に対して図中左右方向へ摺動可能とされたものである。この作動部材10には、連動部材12が取り付けられており、当該作動部材10と共に連動部材12が図中左右方向に移動可能とされている。かかる連動部材12と伝達部材14との間には、これら連動部材12及び伝達部材14を互いに離間させる方向に付勢し得るスプリング16が介装されており、当該伝達部材14に対して作動部材10及び連動部材12が離間する方向に常時付勢されて組み付けられている。
【0030】
しかるに、作動部材10及び連動部材12がスプリング16の付勢力に抗して図中右側に押圧されて同方向に摺動すると、駆動側クラッチ板cと被動側クラッチ板dとが圧接されて動力伝達が可能な状態となるため、当該作動部材10及び連動部材12と共に伝達部材14が回転して外側シャフトS2を回転させ得る状態となる。一方、作動部材10及び連動部材12に対する押圧力を緩めると、スプリング16の付勢力により駆動側クラッチ板cと被動側クラッチ板dとの圧接が解放されて動力伝達が遮断された状態となる。
【0031】
なお、本実施形態においては、皿ばねfにより、駆動側クラッチ板cと被動側クラッチ板dとが圧接する方向に付勢されており、その圧接力にて第2クラッチ手段2を作動させ得るよう構成されているとともに、第2クラッチ手段2が非作動な状態では、皿バネfの付勢力が作動部材10及びベアリングB2を介して連結手段6に伝達され、当該連結手段6の第2連結部材6bを図2中左側に付勢している。
【0032】
駆動手段としてのモータ4は、任意タイミングにて通電することにより駆動するものであり、通電により出力軸4aを回転駆動させるものである。この出力軸4aには、ギアg1が噛み合って配設されており、当該出力軸4aと共にギアg1が回転し得るよう構成されている。モータ4の駆動は、制御手段8により制御されるものとされ、車両のシフト操作時における任意タイミングにて駆動されるようになっている。
【0033】
ドラム5は、モータ4(駆動手段)の駆動により回転し得るとともに、クラッチ手段(1、2)にそれぞれ対応したカム溝5a、5bが図中左右一対に形成されたものである。すなわち、ドラム5は、その一端にギアg1と噛み合ったギアg2が形成されており、モータ4が駆動すると、出力軸4aの回転駆動力がギアg1、ギアg2を介して伝達され、軸周りに回転し得るよう構成されているのである。
【0034】
カム溝5a、5bは、図5に示すように、ドラム5の外周面において周方向に亘って形成された所定形状の溝から成り、車両のシフト操作に応じた位置にて屈曲形成されている。なお、一方のカム溝5aは、第1クラッチ手段1の作動タイミングに対応した形状とされるとともに、他方のカム溝5bは、第2クラッチ手段2の作動タイミングに対応した形状とされており、これら2本のカム溝(5a、5b)がドラム5の周方向に亘って並行して形成されている。しかるに、図5中「CLEARANCE=0」は、駆動側クラッチ板a、cと被動側クラッチ板b、dとが密着した状態であるものの圧接されておらず、動力が伝達されない状態を示しているとともに、符号Qは、その「CLEARANCE=0」の状態が、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2でオーラーバップした状態を示している。なお、本実施形態においては、図5からも明らかなように、ニュートラル(N)から1速までのドラム5の回転角度と、2速以降のドラム5の回転角度とが異なるよう構成されている。
【0035】
連結手段6は、ドラム5のそれぞれのカム溝5a、5bと連結された第1連結部材6a、第2連結部材6bから成り、モータ4(駆動手段)が駆動して当該ドラム5が回転することによりカム溝(5a、5b)の作用を受けてそれぞれ動作し、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2をそれぞれ任意タイミングで作動させ得るものである。より具体的には、第1連結部材6a及び第2連結部材6bは、棒状の案内部材Dにて支持及び案内されるとともに、カム溝(5a、5b)に嵌入し得る凸部6aa、6baがそれぞれ形成されており、ドラム5の回転によりカム溝(5a、5b)のカム作用を受けて、それぞれ独立して左右方向に摺動し得るよう構成されている。
【0036】
さらに、第1連結部材6a及び第2連結部材6bには、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2に向かって延びるフォーク部(図3参照)が形成されており、その先端に係止部6ab、6bbが形成されている。係止部6abは、第1クラッチ手段1における作動部材9とベアリングB1を介して係止されるとともに、係止部6bbは、第2クラッチ手段2における作動部材10とベアリングB2を介して係止されている。
【0037】
そして、ドラム5の回転によりカム溝(5a、5b)のカム作用を受けて第1連結部材6a、第2連結部材6bが図中左右方向に摺動すると、その摺動動作に伴って作動部材9又は作動部材10がスプリング15、16の付勢力に抗して押圧され、第1クラッチ手段1又は第2クラッチ手段2が作動してエンジンの駆動力が内側シャフトS1又は外側シャフトS2の何れかに選択的に伝達可能とされる。
【0038】
例えば、図4に示すように、シフトポジションが1速のとき、第1クラッチ手段1が接続状態(駆動力を伝達させる状態)及び第2クラッチ手段2が開放状態(駆動力の伝達が遮断された状態)とされ、シフトポジションが2速のとき、第1クラッチ手段1が開放状態(駆動力の伝達が遮断された状態)及び第2クラッチ手段2が接続状態(駆動力を伝達させる状態)と、順次交互に接続されるよう設定されている。
【0039】
このように、奇数段(1速、3速、5速)のシフトポジションとする際、第1クラッチ手段1を作動させつつ第2クラッチ手段2の作動を停止させることにより、内シャフトS1のみ回転させることができるとともに、偶数段(2速、4速、6速)のシフトポジションとする際、第2クラッチ手段2を作動(動力伝達状態とする)させつつ第1クラッチ手段2の作動を停止(動力伝達を遮断させた状態とする)させることにより、外シャフトS2のみ回転させることができる。
【0040】
ここで、本実施形態においては、ドラム5の回転角度を検出し得る角度センサ7(検出手段)を具備するとともに、当該角度センサ7により検出された回転角度に応じてモータ4(駆動手段)の駆動が制御されるよう構成されている。具体的には、角度センサ7は、ドラム5の軸部に配設されるとともに、例えばマイコン等から成る制御手段8と電気的に接続されており、検出したドラム5の回転角度を制御手段8に送信し得るようになっている。
【0041】
なお、本実施形態においては、検出手段として角度センサ7を用いているが、ドラム5の回転角度を検出し得るとともに、検出された回転角度に応じてモータ4(駆動手段)の駆動を制御するものであれば、他の汎用的な検出手段を用いるようにしてもよい。その場合、他の検出は、ドラム5の軸部に配設されるものに限定されず、種々部位に配設されたものとすることができる。
【0042】
また、制御手段8は、モータ4(厳密にはモータ4の電圧印加制御部)と電気的に接続されており、ドラム5を任意タイミングにて回転駆動させるとともに、所定の回転角度で停止させるよう構成されている。而して、第1クラッチ手段1を作動状態としつつ第2クラッチ手段2を非作動状態とする位置、第1クラッチ手段1を非作動状態としつつ第2クラッチ手段を作動状態とする位置、作動状態と非作動状態との間の過渡状態にある位置、及び第1クラッチ手段1と第2クラッチ手段2を共に非作動状態とする位置の間で第1連結部材6a及び第2連結部材6bが動作するよう、モータ4の駆動が制御される。
【0043】
本実施形態によれば、複数(2つ)のクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段3は、任意タイミングにて通電することにより駆動する駆動手段(モータ4)と、該駆動手段の駆動により回転し得るとともに、クラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)にそれぞれ対応したカム溝5a、5bが形成されたドラム5と、該ドラム5のそれぞれのカム溝5a、5bと連結され、駆動手段(モータ4)が駆動して当該ドラム5が回転することによりカム溝5a、5bの作用を受けて動作し、クラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段6とを備えたので、油圧にてクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)を選択的に作動させるものに比べ、エンジンの動力損失を抑制するとともに、複数のクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)を精度よく選択的に作動させることができる。
【0044】
また、1つの駆動手段(モータ4)(共通の駆動手段)により複数のクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)を選択的に作動させることができるので、それぞれのクラッチ手段に対応させて駆動手段を複数個配設させるものに比べ、製造コストを抑制することができる。さらに、ドラム5のカム溝5a、5bによるカム作用で連結手段6を動作させるので、ドラム5が所定角度とされた後、エンジンの振動や車両の走行時の振動などが付与された場合であっても、ドラム5の回転位置がずれてしまうのを回避することができる。特に本実施形態によれば、ドラム5の回転位置のずれを回避できることから、モータ4(駆動手段)に常時通電させ続けることなく、エンジンの振動や車両の走行時の振動などが付与された場合であっても、ドラム5の回転位置がずれてしまうのをより確実に回避することができる。
【0045】
また更に、本実施形態によれば、駆動手段は、通電により出力軸4aを回転駆動させるモータ4から成るとともに、該モータ4の出力軸4aとドラム5とが連結されて連動可能とされたので、よりスムーズ且つ精度よく複数のクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)を選択的に作動させることができる。さらに、ドラム5の回転角度を検出し得る角度センサ7を具備するとともに、当該角度センサ7により検出された回転角度に応じてモータ4(駆動手段)の駆動が制御されるので、より一層精度よく複数のクラッチ手段(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)を選択的に作動させることができる。
【0046】
特に、本実施形態によれば、ドラム5の回転によりカム溝(5a、5b)のカム作用を受けて第1連結部材6a、第2連結部材6bが図中左右方向に摺動し、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2を任意選択的に作動させ得るので、カム溝(5a、5b)の形状を各々任意設定することにより、これら第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2のトルク遷移量(例えば、図4における符号Rで示した範囲であって、接続に向かう直線の傾きと開放に向かう直線の傾き、及びこれら直線を交叉させる位置により定まる量)を容易に設定することができる。
【0047】
次に、本願発明に係る第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る車両用クラッチ装置は、第1実施形態と同様、所謂ツインクラッチと称される車両の変速機(ミッション)に用いられるもので、図6、7に示すように、一対のクラッチ手段(1、2)と、これらクラッチ手段(1、2)の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段を具備している。
【0048】
なお、本実施形態においても、作動手段における駆動手段としてのモータ(不図示)或いは制御手段(不図示)を具備するとともに、該モータの駆動により動作するドラム26及び連結手段27、28(何れも本発明の作動手段を構成する)を備えている。しかるに、第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付すものとし、それらの詳細な説明を省略する。但し、本実施形態に係る車両用クラッチ装置は、第1の実施形態とは異なり、クラッチ手段1、2が常時オン状態(即ち、クラッチ手段1、2における複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板a、c及び被動側クラッチ板b、d)が常時圧接されて動力伝達が可能な状態)とされるものである。
【0049】
第1クラッチ手段1は、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側(変速ギア群A2側:図1参照)に伝達又は遮断させるためのものであり、図6に示すように、入力部材F1と、複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板a及び被動側クラッチ板b)と、作動部材20と、伝達部材21とから主に構成されている。また、第2クラッチ手段2は、第1クラッチ手段1と同様、車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側(変速ギア群A2側:図1参照)に伝達又は遮断させるためのものであり、図6に示すように、入力部材F2と、複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板c及び被動側クラッチ板d)と、作動部材23と、伝達部材24とから主に構成されている。
【0050】
ドラム26は、モータ(駆動手段)の駆動により回転し得るとともに、クラッチ手段(1、2)にそれぞれ対応したカム26a、26bが図7中上下一対に形成されたものである。すなわち、ドラム26は、図1で示した第1実施形態と同様、その一端にギアg1と噛み合ったギアg2が形成されており、モータ4が駆動すると、出力軸4aの回転駆動力がギアg1、ギアg2を介して伝達され、軸周りに回転し得るよう構成されているのである。
【0051】
カム26a、26bは、ドラム26の所定部位に形成された所定形状のカム部材から成り、その外周面(プリフィル面)が車両のシフト操作に応じた形状とされている。なお、一方のカム26aは、第1クラッチ手段1の作動タイミングに対応した形状とされるとともに、他方のカム26bは、第2クラッチ手段2の作動タイミングに対応した形状とされており、これら2つのカム(26a、26b)がドラム26の所定部位に所定寸法離間しつつ形成されている。
【0052】
連結手段としての第1連結部材27及び第2連結部材28は、ドラム26のそれぞれのカム26a、26bの外周面(カム面)と当接した部材から成り、モータ4(駆動手段)が駆動して当該ドラム26が回転することによりカム(26a、26b)の作用を受けてそれぞれ動作し、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2をそれぞれ任意タイミングで作動させ得るものである。より具体的には、第1連結部材27及び第2連結部材28は、棒状の案内部材Dにて支持及び案内されるとともに、カム(26a、26b)のカム面と当接した当接部27a、28aがそれぞれ形成されており、ドラム26の回転によりカム(26a、26b)のカム作用を受けて、それぞれ独立して左右方向に摺動し得るよう構成されている。なお、図6中符号SPは、第1連結部材27と第2連結部材28との間に介装されたスプリングを示している。
【0053】
さらに、第1連結部材27及び第2連結部材28には、第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2に向かって延びるフォーク部(図3参照)が形成されており、その先端に係止部27b、28bが形成されている。係止部27bは、第1クラッチ手段1における作動部材20とベアリングB1を介して係止されるとともに、係止部28bは、第2クラッチ手段2における作動部材23とベアリングB2を介して係止されている。
【0054】
そして、ドラム26の回転によりカム(26a、26b)のカム作用を受けて第1連結部材27、第2連結部材28が図中左右方向に摺動すると、その摺動動作に伴って作動部材20又は作動部材23がスプリング22、25の付勢力に抗して押圧されて当該第1連結部材27、第2連結部材28と同じ方向に移動し、伝達部材21、24に対して選択的に動力が遮断される(即ち、クラッチ手段1、2における複数のディスククラッチ(駆動側クラッチ板a、c又は被動側クラッチ板b、d)の圧接が解かれて動力伝達が不可能とされる)ようになっている。而して、第1クラッチ手段1又は第2クラッチ手段2が作動してエンジンの駆動力が内側シャフトS1又は外側シャフトS2の何れかに選択的に伝達可能とされることとなる。なお、カム(26a、26b)のカム作用を受けた第1連結部材27及び第2連結部材28の動作タイミングについては、第1実施形態の制御手段8で制御されるものと同様である。
【0055】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図8に示すように、ドラム5を所定の回転角度で保持させ得る保持手段17を備えたものとしてもよい。かかる保持手段17は、揺動軸部18aを中心に揺動自在なアーム部18と、該アーム部18の先端側に形成されたローラ部18bと、ドラム5の一端部(角度センサ7が配設された端部とは反対側の端部)に固定された外周面に凹凸形状が形成された回転部材19とを有したものとされている。
【0056】
アーム部18は、ローラ部18bが回転部材19に押圧される方向に付勢されており、当該回転部材19の回転に伴いローラ部18bが外周面の凹凸形状に沿って摺動するようになっている。かかる回転部材19の凹凸形状(特に凹部)は、ドラム5における所定回転角度に対応した位置(ドラム5が停止する位置)となるよう設定されている。これにより、ドラム5を所定の回転角度で保持させることができ、エンジンの振動や車両の走行時の振動などが付与された場合であっても、ドラム5の回転位置がずれてしまうのをより確実に回避することができる。
【0057】
さらに、上記第1実施形態の構成を前提とするとともに、ドラム5に形成されたカム(カム溝5a、5b)は、図9に示すように、連結手段6の当該カム(カム溝5a、5b)との連結部(具体的には凸部6aa、6ba)を所定位置(シフトに応じた位置)にて嵌合させ得る嵌合形状(5aa、5ba)を有し、当該嵌合形状(5aa、5ba)に当該連結部(凸部6aa、6ba)が嵌合した状態にて連結手段6が保持されるよう構成することもできる。
【0058】
すなわち、連結手段6を構成する第1連結部材6aの凸部6aaは、皿ばねeによって図中α方向に付勢されており、ドラム5の回転過程において凸部6aaが嵌合形状5aaに至ると、当該嵌合形状5aaに合致して嵌合することとなる。同様に、連結手段6を構成する第2連結部材6bの凸部6baは、皿ばねfによって図中β方向に付勢されており、ドラム5の回転過程において凸部6baが嵌合形状5baに至ると、当該嵌合形状5baに合致して嵌合することとなる。
【0059】
かかる実施形態によれば、ドラム5に形成されたカム(カム溝5a、5b)は、連結手段6の当該カム(カム溝5a、5b)との連結部(凸部6aa、6ba)を所定位置にて嵌合させ得る嵌合形状(5aa、5ba)を有し、当該嵌合形状(5aa、5ba)に当該連結部(凸部6aa、6ba)が嵌合した状態にて連結手段6が保持されるので、連結手段6を動作してクラッチ手段(第1クラッチ手段1及び第2クラッチ手段2)を作動させる機能と、所定位置(第1クラッチ手段1又は第2クラッチ手段が任意のシフトに達した位置)で連結手段6を保持させる機能とを併せて持たせることができる。
【0060】
一方、本実施形態においては、クラッチ手段が2つ(第1クラッチ手段1、第2クラッチ手段2)配設されているが、3つ以上のクラッチ手段を配設させ、作動手段3(駆動手段、ドラム及び連結手段)にて複数のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得るよう構成してもよい。また、本実施形態に係る駆動手段は、通電により出力軸4aを回転駆動させるモータ4から成るものとされているが、任意タイミングにて通電することにより駆動する汎用的な他の駆動手段としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
複数のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段3が、任意タイミングにて通電することにより駆動する駆動手段と、該駆動手段の駆動により回転し得るとともに、クラッチ手段にそれぞれ対応したカムが形成されたドラムと、該ドラムのそれぞれのカムと連結され、駆動手段が駆動して当該ドラムが回転することによりカムの作用を受けて動作し、クラッチ手段をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段とを備えた車両用クラッチ装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付与されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 第1クラッチ手段
2 第2クラッチ手段
3 作動手段
4 モータ(駆動手段)
5 ドラム
5a、5b カム溝
6 連結手段
7 角度センサ
8 制御手段
9、10 作動部材
11、12 連動部材
13、14 伝達部材
15、16 スプリング
17 保持手段
18 アーム部
19 回転部材
20、23 作動部材
21、24 伝達部材
22、25 スプリング
26 ドラム
26a カム
27 第1連結部材(連結手段)
28 第2連結部材(連結手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が具備するエンジンの駆動力を変速ギア側に伝達又は遮断させるための複数のクラッチ手段と、
該複数のクラッチ手段の何れかを任意選択的に作動させ得る作動手段と、
を具備した車両用クラッチ装置において、
前記作動手段は、
任意タイミングにて通電することにより駆動する駆動手段と、
該駆動手段の駆動により回転し得るとともに、前記クラッチ手段にそれぞれ対応したカムが形成されたドラムと、
該ドラムのそれぞれのカムと連結され、前記駆動手段が駆動して当該ドラムが回転することにより前記カムの作用を受けて動作し、前記クラッチ手段をそれぞれ任意タイミングで作動させ得る連結手段と、
を備えたことを特徴とする車両用クラッチ装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、通電により出力軸を回転駆動させるモータから成るとともに、該モータの出力軸と前記ドラムとが連結されて連動可能とされたことを特徴とする請求項1記載の車両用クラッチ装置。
【請求項3】
前記ドラムの回転角度を検出し得る検出手段を具備するとともに、当該検出手段により検出された回転角度に応じて前記駆動手段の駆動が制御されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用クラッチ装置。
【請求項4】
前記ドラムを所定の回転角度で保持させ得る保持手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の車両用クラッチ装置。
【請求項5】
前記ドラムに形成されたカムは、前記連結手段の当該カムとの連結部を所定位置にて嵌合させ得る嵌合形状を有し、当該嵌合形状に当該連結部が嵌合した状態にて前記連結手段が保持されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の車両用クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202464(P2012−202464A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66994(P2011−66994)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】