説明

車両用シートのストラップ

【課題】ストラップを掴むために予期しない無理な姿勢を強いられ、長くすると乱雑な印象を与えるおそれがある。
【解決手段】 伸縮しないストラップ本体40aに伸縮性素材からなる拘束バンド40bを組み合わせてストラップ40が構成されている。ストラップ本体はその上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる。拘束バンドは、その下端がシートバックの背面の下端でラゲージフロアの床面30aに着脱自在に取付けられ、その上端がストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に縫合されている。たとえば、ストラップ本体はシートベルトと同じ非伸縮性素材から、拘束バンドは伸縮自在なゴム材から成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの前倒しされたシートバックを引き上げるためのストラップに関する。
【背景技術】
【0002】
広い格納スペースを確保するために、セカンドシート、サードシートなどのリヤシートのシートバックを前倒し可能とした車両用シートが広く知られている。
たとえば、従来の車両シートにおいては、リクライニング装置のロックを解除すると、シートバックがシートクッションの座面上に前倒しされ、シートバックはその背面を車床面と略水平にして格納されることによって、フロントシートの背後に広い格納スペースが確保される。また、シートクッション上に前倒ししたシートバックをシートクッションとともに前方に跳ね上げてシートバック、シートクッションを車床に対して起立させて格納することにより、その背後に格納スペースを設定する構成もある。
【0003】
前倒しされたシートバックの上縁やヘッドレストを掴んで後方に引き上げることによって、着座可能なもとの起立位置にシートバックは戻される。たとえば、車両後部のハッチ(跳ね上げ式後部ドア)を上にあげ、車外側から上半身を車内に入れて伸ばした手でシートバックを掴んで引き上げることによりシートバックは引き上げられる。しかしながら、引き上げのために無理な姿勢を強いられ、シートバックの引き上げが容易に行えない。
【0004】
そのため、引き上げをアシストするストラップ(シートバック引き上げ用ストラップ)をシートバックの背面に設けることが提案されており、ストラップはその上端をシートの背面上部に取付けられ、その下端を車外側から掴んで牽引すれば、無理な姿勢を強いられることなくシートバックを引き上げることができる(たとえば、特開2008−062829号公報)。ここで、ストラップが伸縮するとシートバックを引き上げることが難しいため、ストラップは非伸縮性の素材から、たとえばシートベルトと同じ素材から帯状に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−062829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シートバック背面のストラップは、下端がフリーで拘束されていないため、その下端がシートクッション背面からシートバックの前や横に垂れ下がるなどして車外側から手の届く位置からずれることがあり、ストラップを掴むために予期しない無理な姿勢を強いられることがある。そして、長ければ長いほどストラップを掴みやすいとはいえ、拘束されていないため、長くすると乱雑な印象を与えるおそれがある。
【0007】
また、シートバックを前倒ししないその起立位置(シートの着座位置)では、ストラップは垂れ下がって外観意匠を損なうとともに、車両の走行時に生じる振動によってシートバック背面に当たってドライバーの注意力を妨げるおそれがある。
さらに、シートバック背面のストラップは、シートバックの引き上げ時以外には何ら用途がなく、シートの着座位置では無用のものでしかない。
【0008】
本発明は、長くても乱雑な印象を与えることなく車外側から手の届く位置に常にあり、その着座位置においても有用に利用できる車両用シートのストラップの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため、本発明においては、従来のストラップをストラップ本体とし、この伸縮しないストラップ本体に伸縮性素材からなる拘束バンドを組み合わせてストラップを構成している。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、リヤシートのシートバックの背面上部にその上端が取付けられ、そのフリーの下端を掴んで引くことによって、前倒しされているシートバックを引き上げてもとの着座位置に戻す車両用シートのストラップにおいて、その上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる非伸縮性の素材からなるストラップ本体と、その下端がシートバックの背後で車床側に取付けられ、上端がストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に連結された伸縮性の素材からなる拘束バンドとを有し、ストラップ本体の上端、拘束バンドの下端のいずれかが着脱自在となっている。
【0010】
また、請求項4に係る本発明によれば、リヤシートのシートバックの背面上部にその上端が取付けられ、そのフリーの下端を掴んで引くことによって、前倒しされているシートバックを引き上げてもとの着座位置に戻す車両用シートのストラップにおいて、その上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる非伸縮性の素材からなるストラップ本体と、その下端がシートバックの背後で車床側に取付けられ、上端がストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に連結された伸縮性の素材からなる拘束バンドとを有し、ストラップ本体の上端、拘束バンドの下端の双方が着脱自在となっている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明では、拘束バンドの上端がストラップ本体の中間部に連結されているが、拘束バンドは伸縮自在であり、ストラップ本体の下端を掴んで引くと、ストラップ本体の牽引に伴って拘束バンドは伸長し、拘束バンドに妨げられることなく、従来と同様に、前倒しされているシートバックが引き上げられる。
ストラップ本体は、拘束バンドの弾性力のもとでシートバック背面上に拘束されるため、長くても乱雑な印象を与えるおそれがない。また、拘束されているため、ストラップ本体の下端がシートバックの前や横に垂れ下がることがなく、車外側から手の届く位置に常に位置し、ストラップを掴むために無理な姿勢を強いられることもない。
さらに、シートバックを起立させたその着座位置はもちろん、シートバックを前倒しした状態においても、拘束バンドの弾性力のもとでシートバック背面との間に物を挟持することができ、シートバックの引き上げ以外でもストラップを有効に利用できる。
【0012】
請求項4に係る本発明では、請求項1に係る本発明の効果に加えて、不使用時にストラップを外して格納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係るストラップの装着された車両用シートの着座位置における概略側面図を示す。
【図2】本発明の一実施例に係るストラップの装着された車両用シートのリヤシートのシートバックを前倒しした概略側面図を示す。
【図3】リヤシートの一部破断の背面斜視図を示す。
【図4】(A)(B)はシートバックの起立位置、前倒し位置でのリヤシートの概略側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
その上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる非伸縮性の素材からなる従来の構成でのストラップをストラップ本体とし、この伸縮しないストラップ本体に伸縮性素材からなる拘束バンドを組み合わせてストラップを構成している。すなわち、その下端がシートバックの背面の下端で車床側に着脱自在に取付けられた伸縮性の素材からなる拘束バンドの上端をストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に連結し、ストラップ本体に伸縮可能な拘束バンドを組み合わせている。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係るストラップの装着された車両用シートの着座位置における概略側面図、図2はリヤシートのシートバックを前倒しした概略側面図をそれぞれ示す。
図1、図2に示すように、車両用シート1は、ドライバーシートなどのフロントシート10の背後にリヤシート20を備えて構成され、リヤシートの後方はラゲージフロア(荷物室)30となっている。なお、リヤシート20はフロントシート10の位置する車床2より高い車床の段部2aに設けられている。
【0016】
フロントシート10、リヤシート20の基本的な構成は従来の構成と同じであり、本発明の要部でもないため、簡単に説明する。
たとえば、リヤシート20はシートバック可倒式シートとされ、起立位置にあるシートバック20Bを前に倒せば、シートバックはシートクッション20Cの座面に略水平に前倒しされて、リヤシートのシートバックの背面、ラゲージフロアの床面30aを連続した略水平の平面とした大きな空間30’が形成される。そのため、ラゲージフロア30だけでなく、リヤシートのシートバック20Bの背面上が格納空間として利用可能となる(図2参照)。そして、前倒しされたシートバック20Bを後方に引き上げれば、シートバックはもとの起立位置に戻されてリヤシート20の着座位置が設定される(図1参照)。
【0017】
前倒しされたシートバックの引き上げをアシストするストラップ(シートバック引き上げ用ストラップ)40がシートバックの背面に設けられている。
本発明では、ストラップ40は、非伸縮性の素材からなるストラップ本体40aに伸縮性の素材からなる拘束バンド40bを組み合わせて構成されている。ストラップ本体40aは、その上端がシートバック20Bの背面上部に取付けられ、たとえば、車両後部のハッチ(跳ね上げ式後部ドア)を上にあげ、車外側から上半身を車内に入れて伸ばした手でその下端を掴んで引き上げることによりシートバック20Bを引き上げることができ、従来におけるストラップそのものに相当する。
【0018】
図3はリヤシートの一部破断の背面斜視図を示し、実施例では、ストラップ本体40aは、上端がシートバック背面上部でシートバックフレーム(図示しない)に取付けられ、シートバック背面の嵌合片41を介してシートバックの後方に延出し、そのフリーの下端は掴みやすいように折り返して環状となっている。たとえば、ストラップ本体40aはシートベルトと同じ非伸縮性の素材から帯状に形成される。
【0019】
拘束バンド40bは伸縮性の素材からなり、その下端がシートバックの背後で車床側、たとえばラゲージフロアの床面30aに取付けられ、その上端はストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に縫合によって連結されている。伸縮性の素材として、伸縮自在なゴム素材を例示でき、縫合によるストラップ本体40aへの拘束バンド40bの上端の連結は一例であり、縫合以外の方法で拘束バンド上端をストラップ本体の中間部に連結してもよい。
【0020】
実施例では、フック40b1が拘束バンド40bの下端に取付けられるとともに、ストライカー(門型の係止部材)40b2がシートバック40Bの背後でラゲージフロアの床面30aにボルト止めされており、図3に2点鎖線で示すように、下端のフックをストライカーに係合することによって拘束バンド下端が車床側に着脱自在に取付けられている。
【0021】
下端が車床側に取付けられた拘束バンド40bの上端がストラップ本体40aの中間部に連結されているとはいえ、拘束バンドは伸縮性の素材から成形されて伸縮自在であるため、ストラップ本体40aの下端を掴んで引くと、ストラップ本体の牽引に伴って拘束バンドは伸長する。そのため、図2において、ストラップ本体40aの下端を掴んで引けば、拘束バンド40bに妨げられることなく、従来と同様に、前倒しされているシートバック20Bを引き上げてその起立位置に戻すことができ、リヤシート20の着座位置が設定される。
【0022】
また、拘束バンド40bによって拘束されているため、ストラップ本体40aの下端がシートバック20Bの前や横に垂れ下がることがなく、車外側から手の届く位置に常に位置し、ストラップ40(正確にいえば、ストラップ本体40a)を掴むために無理な姿勢を強いられることもない。
【0023】
図4(A)(B)はシートバックの起立位置、前倒し位置でのリヤシートの概略側面図を示す。
ストラップ本体40aの中間部に伸縮可能な拘束バンド40bの上端が連結されることによってストラップ40に弾性力が付与されているため、その弾性力のもとでストラップ40によってシートバック背面に物41を挟持できる。すなわち、図4(A)(B)に示すように、シートバック20Bを起立させたその着座位置はもちろん、シートバックを前倒しした状態においても、拘束バンド40bの弾性力のもとでシートバック背面との間に物41を挟持できる。
【0024】
このように、非伸縮性の素材からなるストラップ本体40aに伸縮性の素材からなる拘束バンド40bを組み合わせることによって、ストラップ40は、シートバックの引き上げるという本来の機能に加えて、シートバックの起立位置、前倒し位置のいずれにおいてもシートバック20Bの背面に物41を挟持でき、ストラップの有効利用が可能となる。
【0025】
実施例では、拘束バンド40bの下端をラゲージフロアの床面30aに固定することなく、フック40b1、ストライカー40b2の係合によって着脱自在に取付けている。そのため、その係合を外し、シートバック背面に物41に置いてストラップ40をその上から掛けてからフック40b1をストライカー40b2に係合してシートバック背面に物を挟持できる。この方法では、シートバック背面、ストラップ40の間に物41を押し込んで挟持するよりもシートバック背面に無理なく物を挟持できる。
【0026】
ストラップ本体40aの上端がトリムカバーに縫合されていると、厚手の物を挟持するとき、ストラップ本体40aの上端が剥離してストラップが破損するおそれがある。しかしながら、実施例では、その上端をシートバックフレームに固定しているため、破損するおそれはなく、厚手の物もシートバック背面に挟持できる。
もちろん、シートバック背面のストラップ40が車床側に対して着脱自在であるため、車両内へのリヤシート20の据え付けの障害となることもない。
【0027】
実施例では、ストラップ本体40aの上端をシートバックフレームに固定してシートバック背面に設けるとともに、拘束バンドの下端を車床側に着脱自在に設けている。しかしながら、ストラップ本体40aの上端、拘束バンドの下端のいずれかを着脱自在とすれば、シート1の据え付けの障害とならず、実施例とは逆に、拘束バンドの下端を固定し、ストラップ本体の上端を着脱自在に取付けてもよい。たとえば、シートバックフレームにストライカーを溶着などして突出させ、このストライカーにストラップ本体上端に設けたフックを係合させる構成ともよい。
【0028】
フック、ストライカーの組合せで拘束バンドの下端、ストラップ本体の上端を着脱自在とすることとしているが、拘束バンドの下端を車床側に、ストラップ本体の上端をシートバックフレームに着脱自在に取付ける構成はフック、ストライカーの組合せに限定されない。たとえば、車床側にフックを設け、拘束バンドの下端にリングを設けるなどしてもよい。
【0029】
通常、ストラップ40はストラップ本体40aの上端、拘束バンド40bの下端のいずれかが着脱自在として構成される。しかしながら、ストラップ本体40aの上端、拘束バンド40bの下端の双方を着脱自在とし、不使用時には取り外してドアポケットなどに格納する構成としてもよい。不使用時にストラップ40を格納すれば、シートバック背面の外観意匠がすっきりしたものとなる。
【0030】
上記のように本発明によれば、ストラップ本体の下端を掴んで引くと、前倒しされているシートバックが引き上げられ、ストラップ本体は、拘束バンドの弾性力のもとでシートバック背面上に拘束されるため、長くしても乱雑な印象を与えるおそれがなく、車外側から手の届く位置に常に位置し、ストラップを掴むために無理な姿勢を強いられることもない。そして、拘束バンドの弾性力のもとでシートバック背面との間に荷物を挟持することができ、シートバックの引き上げ以外でもストラップを有効に利用できる
【0031】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0032】
たとえば、シートバックがシートクッションの座面上に前倒しされるリヤシートについて述べたが、シートクッション上に前倒ししたシートバックをシートクッションとともに前方に跳ね上げてシートバック、シートクッションを車床に対して起立させて格納する跳ね上げタイプのリヤシートに本発明のストラップを設けてもよい。
さらに、セカンドシート、サードシートからなるリヤシートにおいては、サードシードのみまたはサードシート、セカンドシートの双方に本発明のストラップを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、シートバックが前倒しされるシートであれば足り、自動車のシートに限定されず、飛行機、船舶、電車等の車両のシートに広範囲に応用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 車両用シート
10 フロントシート
20 リヤシート(シートバック可倒式シート)
20B シートバック
20C シートクッション
30 ラゲージフロア
30a ラゲージフロアの床面(車床側)
40 ストラップ
40a ストラップ本体
40b 拘束バンド
40b1 フック
40b2 ストライカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤシートのシートバックの背面上部にその上端が取付けられ、そのフリーの下端を掴んで引くことによって、前倒しされているシートバックを引き上げてもとの着座位置に戻す車両用シートのストラップにおいて、
その上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる非伸縮性の素材からなるストラップ本体と、
その下端がシートバックの背後で車床側に取付けられ、上端がストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に連結された伸縮性の素材からなる拘束バンドと、
を有し、
ストラップ本体の上端、拘束バンドの下端のいずれかが着脱自在であることを特徴とする車両用シートのストラップ。
【請求項2】
ストラップ本体の上端はシートフレームに固定されてシートバックの背面上部に取付けられ、
拘束バンドの下端は車床側に着脱自在に取付けられている請求項1記載の車両用シートのストラップ。
【請求項3】
ストラップ本体の上端はシートフレームに着脱自在に取付けられてシートバックの背面上部に設けられ、
拘束バンドの下端は車床側に固定されている請求項1記載の車両用シートのストラップ。
【請求項4】
リヤシートのシートバックの背面上部にその上端が取付けられ、そのフリーの下端を掴んで引くことによって、前倒しされているシートバックを引き上げてもとの着座位置に戻す車両用シートのストラップにおいて、
その上端がシートバックの背面上部に取付けられ、フリーの下端が掴まれて引き上げられる非伸縮性の素材からなるストラップ本体と、
その下端がシートバックの背後で車床側に取付けられ、上端がストラップ本体の中間部でストラップ本体の裏面に連結された伸縮性の素材からなる拘束バンドと、
を有し、
ストラップ本体の上端、拘束バンドの下端の双方が着脱自在であることを特徴とする車両用シートのストラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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