説明

車両用シートの連結装置

【課題】環境性の良い材料を用いて、車両用シートの連結装置の楔部材の摺動性を良くする。
【解決手段】車両用シートの連結装置(リクライニング装置4)は、内歯車11を有する内歯部材10と、内歯車11の内周歯面に沿って噛合い位置を変化させながら相対回転するように内歯部材10に組み付けられる外歯車21を有する外歯部材20と、両部材10,20の間の隙間内に配置され、リングバネ50の附勢力によって上記隙間内に両挟み状に摺動して押し込まれることにより両部材10,20の相対回転を係止させる一対の楔部材40A,40Bと、楔部材40A,40Bをリングバネ50の附勢力に抗した方向に動かして外歯車21を内歯車11に対して噛合い位置を変化させる方向に移動させる操作軸64と、を有し、楔部材40A,40Bの摺動面に、バインダ樹脂にポリエチレンを添加した樹脂組成物Coがコーティングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの連結装置に関する。詳しくは、車両用シートを構成する第1の部材と第2の部材とを互いに相対回転可能な状態に連結する車両用シートの連結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートのリクライニング装置(連結装置)として、下記特許文献1に開示されたものが知られている。この連結装置は、外歯車と内歯車とが互いの噛合い位置を変化させながら相対回転するように組み付けられた構造となっており、この両者の相対回転を係止させるための手段として、両者の隙間内にバネ附勢力によって入り込んで回転を係止させる楔部材が設けられている。また、上記楔部材の摺動性を良くするために、楔部材が摺動する相手側部材にグリースが塗布されており、楔部材にはバインダ樹脂にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子の添加された樹脂組成物がコーティングされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−6265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記開示の従来技術では、楔部材のコーティング材に用いられるPTFEは、それ自体は化学的に不活性で毒性はないが、一定以上の高温に達すると分解されて環境に良くない物質が生成されるとの指摘があり問題である。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、環境性の良い材料を用いて楔部材の摺動性を良くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートの連結装置は次の手段をとる。
先ず、第1の発明は、車両用シートを構成する第1の部材と第2の部材とを互いに相対回転可能な状態に連結する車両用シートの連結装置であり、第1の部材に固定される第1の連結部材と、第2の部材に固定される第2の連結部材と、両連結部材の間の隙間内に配置される一対の楔部材と、楔部材を操作する操作軸と、を有する。第1の連結部材は、内歯車を有する。第2の連結部材は、第1の連結部材に対して内歯車の内周歯面に沿って噛合い位置を変化させながら相対回転するよう組み付けられる外歯車を有する。楔部材は、両連結部材の間の隙間内にバネの附勢力によって両挟み状に摺動して押し込まれることにより、両連結部材の相対回転を係止させる。操作軸は、楔部材を上記バネの附勢力に抗した方向に動かして、外歯車を内歯車に対して噛合い位置を変化させる方向に移動させる。楔部材の摺動面又は楔部材が摺動する両連結部材の被摺動面に、バインダ樹脂にポリエチレンを添加した樹脂組成物がコーティングされている。
【0007】
この第1の発明によれば、楔部材の摺動面にポリエチレンの添加された樹脂組成物がコーティングされていることにより、楔部材の摺動摩擦が低減され、楔部材の摺動性が良くなる。上記ポリエチレンは、溶接熱などの高温の外部熱が伝えられて高温となっても、環境に良くない物質を生成することがなく、環境性に優れている。また、ポリエチレンは、バインダ樹脂に添加されることでバインダ樹脂に被覆されて設けられていることにより、楔部材の摺動面に強固に結着された状態で設けられると共に、上記外部熱の影響を受け難くなり硬化し難くなる。また、ポリエチレンは、グリースと馴染みやすい性質を有しており、楔部材の摺動の繰り返しによってバインダ樹脂から剥離しても、グリースと馴染んでグリースの潤滑性を更に高めるように機能するようになる。このように、環境性の良い材料を用いて楔部材の摺動性を良くすることができる。
【0008】
次に、第2の発明は、上述した第1の発明において、第1の部材の第1の連結部材への固定、又は第2の部材の第2の連結部材への固定の少なくとも一方の固定が溶接により行われ、楔部材の摺動面と楔部材が摺動する両連結部材の被摺動面との間に、固体潤滑材を含まないグリースが塗布されているものである。
【0009】
この第2の発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などといった固体潤滑材が含まれないグリースは、固体潤滑材が含まれているグリースと比べると、それ自体の潤滑性は低下するが、低廉であり、高温な溶接熱が伝えられても、固体潤滑材がないため環境に良くない物質が生成されたり硬化が生じたりすることがない。上記固体潤滑材の含まれないグリースを用いても、楔部材の摺動の繰り返しによりポリエチレンがバインダ樹脂から剥離してグリースと馴染むことにより、グリースの潤滑性が高められる。したがって、環境性の良い材料を用いて楔部材の摺動性を更に良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のリクライニング装置の分解斜視図である。
【図2】リクライニング装置が適用された車両用シートの全体斜視図である。
【図3】リクライニング装置の正面図である。
【図4】リクライニング装置の内部構造を表した部分断面図である。
【図5】操作部材が図示反時計回り方向に回転して図示左方側の楔部材に当接した状態を表した部分断面図である。
【図6】図5の状態から操作部材が更に回転して図示左方側の楔部材が押し回された状態を表した部分断面図である。
【図7】楔部材の摺動面に施された樹脂組成物を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
始めに、実施例1の車両用シートの連結装置の構成について、図1〜図7を用いて説明する。本実施例の車両用シートの連結装置は、図2に示すように、車両用シート1に設けられており、シートバック2をシートクッション3に対して背凭れ角度調整可能に連結するリクライニング装置4,4として構成されたものとなっている。これらリクライニング装置4,4は、シートバック2の左右両サイドの下端部とシートクッション3の左右両サイドの後端部とをそれぞれ連結しており、互いに協働した作動によってシートバック2をシートクッション3に対して前倒れ回転させたり後倒れ回転させたりするようになっている。
【0013】
具体的には、上記した各リクライニング装置4,4は、常時は共にシートバック2の背凭れ角度を固定した回転止め状態となって保持されているが、それらの内部に挿通された操作軸64,64が軸回転操作される動きによって、シートバック2の背凭れ角度を変化させるよう作動するようになっている。ここで、各操作軸64,64は、連結ロッド4rによって互いに一体的に連結されており、連結ロッド4rに連結された図示しない電気モータが駆動回転することによって、互いに一体的となって軸回転操作されるようになっている。
【0014】
上記した図示しない電気モータは、例えば車両用シート1の側部に設けられたスイッチの操作によって正転・逆転方向に駆動操作され、スイッチ操作をやめることによってOFF状態に切り換えられるようになっている。上記した各リクライニング装置4,4は、各操作軸64,64が軸回転操作される前の常時は、シートバック2の背凭れ角度を固定した状態に保持されている。そして、各リクライニング装置4,4は、電気モータの駆動回転によって各操作軸64,64が一斉に軸回転操作されることにより、シートバック2の背凭れ角度を変動させるよう作動するようになっている。
【0015】
以下、上記した各リクライニング装置4,4の具体的な構成について詳しく説明していく。ここで、各リクライニング装置4,4は、互いに左右対称の構成となっており、実質的には同じ構成のものとなっている。したがって、以下では、これらを代表して、図2の紙面向かって左側に示されているリクライニング装置4の構成についてのみ説明をすることとする。
【0016】
リクライニング装置4は、図1に示すように、円盤形状の内歯部材10及び外歯部材20と、湾曲した駒形状の一対の楔部材40A,40Bと、開リング形状のリングバネ50(本発明のバネに相当する。)と、操作軸64を一体に備えた円板形状の操作部材60と、薄型の円筒形状に形成された外周リング70とが一つに組み付けられて構成されている。これら各部材は、同図に示されている並び順に軸線方向に順にセットされることによって、一つに組み付けられている(図3参照)。
【0017】
上記内歯部材10は、シートバック2(図2参照)に一体に連結されて固定され、外歯部材20は、シートクッション3(図2参照)に一体に連結されて固定される。これら内歯部材10及び外歯部材20は、後述するように互いに相対回転可能な状態に組み付けられ、この相対回転により、シートバック2のシートクッション3に対する背凭れ角度を変化させるようになっている。ここで、シートバック2が本発明の第1の部材に相当し、シートクッション3が本発明の第2の部材に相当する。
【0018】
以下、上記した各部材の具体的な構成について詳しく説明していく。先ず、内歯部材10の構成について説明する。図1に示すように、内歯部材10は、円盤状に形成されており、その外周縁部に、外歯部材20への組み付け方向となる軸線方向側に向かって円筒状に突出する内歯車11が形成されている。この内歯車11の内周面には、その全周にわたって内歯11a・・(・・は複数を表す。)が形成されている。また、内歯部材10の中心部(内歯車11の中心部ともなる。)には、内歯車11と同心円状で、かつ、同じ軸線方向側に突出する円筒部12が形成されている。
【0019】
この円筒部12の筒内には、上述した操作軸64を軸線方向に挿通させるための正円状の軸孔12aが形成されている。上記内歯車11及び円筒部12は、それぞれ、内歯部材10が板厚方向に半抜き加工されることによって形成されている。上記内歯部材10は、その内歯車11が突出する方向とは反対側となる外側の盤面が、シートバック2(図2参照)の骨格(図示省略)の板面に溶接されて強固に一体的に固定されている。これに伴い、内歯部材10の外側の盤面上には、シートバック2の骨格に形成された孔(図示省略)内に嵌め込まれて同骨格との結合強度を強固なものとするためのダボ13・・が円周方向の複数箇所(本実施例では四箇所)に突出して形成されている。
【0020】
次に、図1に戻って、外歯部材20の構成について説明する。外歯部材20は、上述した内歯部材10よりもひとまわり大きな外径を有した円盤形状に形成されている。この外歯部材20は、その中央部に、板厚方向への半抜き加工によって、内歯部材10への組み付け方向となる軸線方向側に向かって円筒状に突出する外歯車21が形成されている。この外歯車21の外周上には、その全周にわたって外歯21a・・が形成されている。
【0021】
上記した外歯車21は、内歯車11よりも外径が小さく、かつ、内歯車11よりも少ない歯数で形成されている。具体的には、外歯車21は、その外歯21a・・の歯数が33個となっており、内歯車11は、その内歯11a・・の歯数が34個となっている。これにより、外歯車21は、図4に示すように、その外歯21a・・が内歯車11の内歯11a・・と噛合するように、内歯車11に対して偏心した状態(中心点10r,20r同士が互いに偏心した状態)に組み付けられて、内歯車11の内周面に沿って噛合位置を変えながら回転することができるようになっている。
【0022】
そして、この外歯車21の内歯車11に対する回転により、両歯車21,11間の歯数差によって、外歯車21の内歯車11に対する回転向きが漸次変えられていくようになっている。ここで、図1に戻って、外歯部材20は、その外周縁部に、半径方向に凹んだ凹部23・・と半径方向に膨らんだ凸部24・・とが円周方向に交互に繰り返す態様で形成されている。これら凹部23・・と凸部24・・の機能については後に詳しく説明することとする。
【0023】
上記した外歯部材20は、その外歯車21が突出する方向とは反対側となる外側の盤面が、シートクッション3(図2参照)の骨格(図示省略)の板面に溶接されて強固に一体的に固定されている。これに伴い、外歯部材20の外側の盤面上、詳しくは、外歯部材20の外歯車21から半径方向の外方側に外れた外側の盤面上の部位には、シートクッション3の骨格に形成された孔(図示省略)内に嵌め込まれて同骨格との結合強度を強固なものとするためのダボ25・・が円周方向の複数箇所(本実施例では六箇所)に突出して形成されている。
【0024】
したがって、上記構成により、外歯車21が内歯車11に対して回転する動きに伴って、シートバック2のシートクッション3に対する背凭れ角度が漸次変化していく。ところで、上記外歯部材20の中心部(外歯車21の中心部ともなる。)には、外歯車21と同心円状の大孔22が軸線方向に貫通して形成されている。上記した大孔22は、図3〜図4に示すように、外歯車21が内歯車11内に組み付けられることによって、その孔内に、前述した内歯部材10に突出形成された円筒部12が差し込まれた状態となって組み付けられるようになっている。
【0025】
詳しくは、上記した大孔22と円筒部12との配置関係は、外歯車21と内歯車11とが互いに偏心した状態となって組み付けられる関係により、両者は互いに同心円の配置関係とはならず、互いの中心点10r,20rが偏心した配置関係となっている。これにより、上記した大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間には、空間の広い部分と狭い部分とが円周方向に並ぶ、環状の隙間が形成されるようになっている。そして、この隙間内には、上記した外歯車21と内歯車11との間の相対回転を止めたり、外歯車21を内歯車11の内周面に沿って噛合位置を変化させるように回転させたりする一対の楔部材40A,40Bが組み付けられている。
【0026】
次に、楔部材40A,40Bの構成について説明する。楔部材40A,40Bは、図3〜図4に示すように、互いに左右対称に湾曲した形に形成されており、その半径方向の内周面と外周面とが、それぞれ、前述した大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間の隙間形状に沿った滑らかに湾曲した形状に形成されている。すなわち、各楔部材40A,40Bは、上記した隙間の形に沿うように半径方向の肉厚が厚い部分と薄い部分とを有した形に形成されており、上記した大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間の隙間内にセットされることで、この隙間の一部を埋めた状態となって設けられている。ここで、各楔部材40A,40Bの内周面と外周面が、それぞれ、本発明の摺動面に相当し、これら摺動面が摺動する大孔22の内周面と円筒部12の外周面が、それぞれ、本発明の被摺動面に相当する。
【0027】
上記した各楔部材40A,40Bは、それらの肉厚が厚くなる図示上方側の周端部に窪み形成された各バネ掛部41A,41Bに、リングバネ50の一端51と他端52とがそれぞれ掛着されている。ここで、リングバネ50は、各楔部材40A,40Bに対して、一端51と他端52とを開く方向にそれぞれ附勢力をかけるようになっている。これにより、各楔部材40A,40Bは、常時は、上記リングバネ50の附勢力によって、上記した大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間の狭くなる隙間内に押し込まれた状態となって保持されている。
【0028】
この状態では、各楔部材40A,40Bは、その内周面が、円筒部12の外周面上の図示上方側の円周領域の左右二箇所の点P1,P2で接触する。これにより、各楔部材40A,40Bは、その狭くなる隙間内に向かって両挟み状に押し込まれる力によって、円筒部12の外周面に対して大孔22の内周面を図示上方側へと押圧し、外歯車21を内歯車11の内周面に半径方向に押し付けた状態にして保持するようになっている。
【0029】
これにより、両歯車11,21は、互いの噛合部がバックラッシのない状態とされて回転止めされた状態に保持される(図4参照)。この両楔部材40A,40Bが狭くなる隙間内に押し込まれて両歯車11,21が回転止めされた状態は、両楔部材40A,40Bの先細となる下側の先端部と先端部との間に設けられた操作部材60の操作部63が、どちらか一方側に軸回転操作されることによって解除される。
【0030】
次に、この操作部材60の構成について説明する。操作部材60は、図1に示すように、円板状の押さえ板61と、この押さえ板61の中心部に軸線方向に突出して形成された円筒部62と、押さえ板61上から円筒部62と同じ軸線方向側に円弧状に突出して形成された操作部63と、円筒部62の中心部に軸線方向に嵌め込まれて円筒部62と一体的に結合される操作軸64と、を有する。
【0031】
上記した操作部材60は、図3〜図4に示すように、その円筒部62が内歯部材10の円筒部12内に差し込まれてセットされ、円筒部62が内歯部材10の円筒部12によって軸回転可能に支持された状態となって組み付けられる。そして、この組み付けにより、操作部材60は、その円板状の押さえ板61が、上述した大孔22と円筒部12との間に組み付けられた各楔部材40A,40Bに蓋をする状態となって組み付けられ、これら組み付け部品が外れ落ちないようにガイドするようになっている。
【0032】
なお、図3〜図6では、楔部材40A,40Bの組み付け状態を分かり易く表示するために、押さえ板61が仮想線によって示されている。上記した操作部材60は、上記した組み付けによって、操作部63が両楔部材40A,40Bの先細となる下側の先端部と先端部との間の空間内に差し込まれた状態となって組み付けられる。これにより、操作部材60は、これと一体に組み付けられた操作軸64がどちらか一方側に軸回転操作されることによって、その回転操作された操作方向に応じて、どちらか一方側の楔部材40A(40B)の下端面(被押圧面42A(42B))を、操作部63の端面(押圧面63A(63B))によって押動するようになっている。
【0033】
具体的には、上記した操作部材60は、図5に示すように、例えば操作軸64によって図示時計回り方向に回転操作されることにより、その操作部の図示左方側の端面(押圧面)が、図示左方側の楔部材40Aの被押圧面と当接し、楔部材40Aをその回転方向に押し回す。これにより、同側の楔部材40Aが、上記した大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間の狭い隙間から外し出され、両楔部材40A,40Bによって上記隙間が詰められていた状態が弛められる。
【0034】
このとき、操作部材60は、上記回転に伴って、その押さえ板61の外周部に形成された二つのバネ押部61A,61Bの一方(図示左方側のバネ押部61A)により、図示左方側の楔部材40Aに掛けられているリングバネ50の一端51を同方向に押動し、同側の楔部材40Aにかかるリングバネ50の附勢力を解除しながら楔部材40Aを図示時計回り方向に押動するようになっている。これにより、操作部材60によって直接、リングバネ50をその附勢に抗した方向に押すことができるため、楔部材40Aの押動操作を滑らかに行うことができる。
【0035】
また、上記楔部材40Aは、操作部材60によって上記のように図示時計回り方向に押し回されることにより、その回転した先の端部が右方側の楔部材40Bの端部と当接し、同楔部材40Bを同方向に押し回す態様で一緒に引き連れて回転するようになっている。この両楔部材40A,40Bの回転により、両楔部材40A,40Bが外歯部材20の大孔22の内周面を押圧する方向が回転方向に漸次変化していくため、外歯車21が内歯車11の内周面に沿って図示反時計回り方向に噛み合い位置を変えていくように回転移動していく。
【0036】
上記した両歯車21,11の相対回転は、操作部材60の回転操作が止められて、両楔部材40A,40Bが再びリングバネ50の附勢力によって、大孔22の内周面と円筒部12の外周面との間の狭くなる隙間内に押し込まれた状態となることにより、前述した状態と同じ回転止めされた状態へと戻される(図4参照)。なお、操作部材60が上記回転方向とは逆の反時計回り方向に回転操作された場合には、各楔部材40A,40Bは、上記とは逆の回転方向に移動する態様でそれぞれ移動操作されることとなる。
【0037】
次に、図1に戻って、外周リング70の構成について説明する。外周リング70は、薄い鋼板がリング状に打ち抜かれた形に形成されており、更にその中空円板のリング部分が板厚方向(軸線方向)に半抜き加工されることによって、その内周部と外周部とが段差状に軸線方向に面を向けたリング状の第1座面部71と第2座面部72としてそれぞれ形成され、更に、第2座面部72の外周部側から軸線方向に向かって複数のひれ片73・・が延出した形状に形成されている。
【0038】
詳しくは、上記第2座面部72の外周部には、第2座面部72と面一状に半径方向の外方側に向かって面を延出させる当接部72A・・と、上記したひれ片73・・とが円周方向に交互に繰り返されるように形成されている。上記のように構成された外周リング70は、その円筒内部に内歯部材10と外歯部材20とが組み付けられることにより、第1座面部71によって内歯車11の外側の盤面を軸線方向に面当接させ、第2座面部72によって外歯部材20の内側の盤面を軸線方向に面当接させた状態となる。
【0039】
詳しくは、第2座面部72は、上述した外歯部材20の内側の盤面と面当接すると共に、その外周部に形成された上述した各当接部72A・・を、外歯部材20の外周部に形成された各凸部24・・に軸線方向に面当接させた状態となる。これにより、外歯部材20が第2座面部72に対して広く面当接されるようになっている。そして、上記のように外歯部材20が外周リング70の円筒内に組み付けられることにより、外周リング70に形成された各ひれ片73・・が外歯部材20の外周部に形成された各凹部23・・内に軸線方向に差し込まれた状態となる。
【0040】
そして、上記各ひれ片73・・の各凹部23・・内に差し込まれて軸線方向に突出した先の各突片(かしめ部73A・・)を、半径方向の内方側に折り曲げて、上記第2座面部72との間に外歯部材20を挟み込むように軸線方向にかしめることにより、外周リング70が外歯部材20と一体となった状態に組み付けられる。これにより、外周リング70は、外歯部材20と内歯部材10とを軸線方向に挟み込んだ状態として、外歯車21と内歯車11とを相対回転させられる状態に組み付けた状態に保持した状態となる。
【0041】
ところで、前述した各楔部材40A,40Bの摺動面となる内周面及び外周面の各面上には、その摺動時の摩擦抵抗力を低減させるための手段として樹脂組成物Coがそれぞれコーティングされている。更に、上記各楔部材40A,40Bが摺動する外歯部材20の大孔22の内周面と内歯部材10の円筒部12の外周面には、固体潤滑材を含まないグリースGrがそれぞれ塗布されている。
【0042】
具体的には、上記樹脂組成物Coは、バインダ樹脂BiにポリエチレンパウダーPEを添加した構成となっているものであり、浸漬法や噴霧法によって各楔部材40A,40Bの摺動面上に塗布されて200℃で30分加熱硬化されることにより、金属製の各楔部材40A,40Bの摺動面上に被膜状に強固に一体に密着して設けられている。上記バインダ樹脂Biとしては、エポキシ樹脂に硬化剤となるキシレンを混合させたものが用いられているが、その他にも、ポリアミド樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等をバインダ樹脂として用いることができる。
【0043】
上記バインダ樹脂Biは、ポリエチレンパウダーPEを被覆保護して熱劣化させないようにし、下地である各楔部材40A,40Bに強固に密着するとともに、ポリエチレンパウダーPEを結着する役割をする。ポリエチレンパウダーPEは、成形用の粉末であっても、いわゆる固体潤滑剤用の微粉末であってもよい。ポリエチレンパウダーPEは、外歯部材20や内歯部材10をシートクッション3やシートバック2の骨格に溶接する際の高温の溶接熱が外部から伝えられて高温になることがあっても、環境に良くない物質を生成することがなく、環境性に優れている。このポリエチレンパウダーPEは、バインダ樹脂Biに添加されることでバインダ樹脂Biに被覆されて設けられるため、各楔部材40A,40Bの摺動面に強固に結着された状態で設けられると共に、上記外部熱の影響を受け難く硬化しにくくなっている。
【0044】
グリースGrは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子等の潤滑性を良くするための固体潤滑材を含まないものとなっている。したがって、グリースGrは、上記高温の溶接熱が外部から伝えられても、固体潤滑材がないため環境に良くない物質が生成されたり、硬化が生じて潤滑性を悪化させたりすることがない。また、上記ポリエチレンパウダーPEは、グリースGrと馴染みやすい性質を有しており、楔部材40A,40Bの摺動の繰り返しによってポリエチレンパウダーPEがバインダ樹脂Biから剥離しても、グリースGrと馴染んで固体潤滑材として機能するかの如く、グリースGrの潤滑性を更に高めるように機能するようになる。
【0045】
したがって、グリースGrは、固体潤滑材が含まれているものと比べると、それ自体の潤滑性は低下するが、低廉であり、上記のように楔部材40A,40Bの摺動の繰り返しによってポリエチレンパウダーPEがバインダ樹脂Biから剥離して馴染むことにより、ポリエチレンパウダーPEが固体潤滑材として機能してその潤滑性が高められる。このように、環境性の良い材料を用いて楔部材40A,40Bの摺動性を良くすることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。上記実施例では、車両用シートの連結装置として、シートバック2をシートクッション3に対して背凭れ角度調整可能に連結するリクライニング装置4を例示したが、車両用シートの連結装置は、車両用シートを構成する二つの部材を互いに相対回転可能な状態に連結する様々な用途に適用することができるものである。具体的には、例えば、オットマンをシートクッション3の前部に回転可能に連結するものなどが挙げられる。
【0047】
また、上記実施例では、各楔部材40A,40Bの摺動性を良くするために樹脂組成物Coを各楔部材40A,40Bの摺動面にそれぞれコーティングしたものを例示したが、各楔部材40A,40Bが摺動する被摺動面となる外歯部材20の大孔22の内周面と内歯部材10の円筒部12の外周面とに樹脂組成物Coをそれぞれコーティングしたものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 車両用シート
2 シートバック(第1の部材)
3 シートクッション(第2の部材)
4 リクライニング装置(車両用シートの連結装置)
4r 連結ロッド
10 内歯部材(第1の連結部材)
10r 中心点
11 内歯車
11a 内歯
12 円筒部
12a 軸孔
13 ダボ
20 外歯部材(第2の連結部材)
20r 中心点
21 外歯車
21a 外歯
22 大孔
23 凹部
24 凸部
25 ダボ
40A,40B 楔部材
41A,41B バネ掛部
42A,42B 被押圧面
50 リングバネ(バネ)
51 一端
52 他端
60 操作部材
61 押さえ板
61A,61B バネ押部
62 円筒部
63 操作部
63A,63B 押圧面
64 操作軸
70 外周リング
71 第1座面部
72 第2座面部
72A 当接部
73 ひれ片
73A かしめ部
P1,P2 点
Co 樹脂組成物
Bi バインダ樹脂
PE ポリエチレンパウダー
Gr グリース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートを構成する第1の部材と第2の部材とを互いに相対回転可能な状態に連結する車両用シートの連結装置であって、
前記第1の部材に固定され内歯車を有する第1の連結部材と、
前記第2の部材に固定され、前記第1の連結部材に対して前記内歯車の内周歯面に沿って噛合い位置を変化させながら相対回転するよう組み付けられる外歯車を有する第2の連結部材と、
当該両連結部材の間の隙間内に配置され、バネの附勢力によって前記隙間内に両挟み状に摺動して押し込まれることにより当該両連結部材の相対回転を係止させる一対の楔部材と、
該楔部材を前記バネの附勢力に抗した方向に動かして前記外歯車を前記内歯車に対して噛合い位置を変化させる方向に移動させる操作軸と、を有し、
前記楔部材の摺動面又は該楔部材が摺動する前記両連結部材の被摺動面に、バインダ樹脂にポリエチレンを添加した樹脂組成物がコーティングされていることを特徴とする車両用シートの連結装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの連結装置であって、
前記第1の部材の前記第1の連結部材への固定、又は前記第2の部材の前記第2の連結部材への固定の少なくとも一方の固定が溶接により行われ、前記楔部材の摺動面と該楔部材が摺動する前記両連結部材の被摺動面との間に、固体潤滑材を含まないグリースが塗布されていることを特徴とする車両用シートの連結装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−240758(P2011−240758A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112871(P2010−112871)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(592065058)エスティーティー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】