説明

車両用シートロック装置

【課題】部品点数の増加,ロック構造の複雑化及び操作フィーリングの悪化を招くことなく、衝突時にシートバックのロックが外れるのを防止できる車両用シートロック装置を提供する。
【解決手段】フック部材17の開口部20dには、シートバック12に車両前後方向の衝突荷重が作用したときに、ストライカ部材16に噛み込んで該ストライカ部材16の移動を阻止する凹み20e,20fが、前記開口部20dの縁部を抉るように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションに配設されたシートバックを乗員が着座可能な起立位置にロックするようにした車両用シートロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のリヤシートでは、シートクッションにより配置された可倒式のシートバックを車体部材にロック可能とするとともに、該シートバックに車両前後方向の衝突荷重が作用したときに、前記シートバックのロックが外れないようにしたシートロック装置を備える場合がある。
【0003】
このようなシートロック装置として、例えば、特許文献1では、車体部材に取り付けられたストライカと、シートバックに取り付けられ、該ストライカに係脱可能に係合するフック部を有するロックプレートと、車両後突時にストライカが移動してフック部から外れるのを阻止するプロテクタとを備えたものが提案されている。
【特許文献1】特開平6−206486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来のシートロック装置は、別部材のプロテクタを設けることにより、ストライカの移動を阻止する構造であり、該プロテクタの分だけ部品点数が増えるとともに、ロック構造が複雑になり易いという問題がある。
【0005】
ここで、別部材のプロテクタを用いることなく、ストライカがフック部から外れるのを防止するには、フック部のストライカとの係合溝を長くしたり、フック部のロック方向への付勢力を大きくしたりすることが考えられる。しかしながら、このようにするとロックを解除する際のフック部の作動角及び操作力が大きくなり、操作フィーリングが悪化するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、部品点数の増加,ロック構造の複雑化及び操作フィーリングの悪化を招くことなく、衝突時にシートバックのロックが外れるのを防止できる車両用シートロック装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シートクッションに車両前後方向に回動可能に又は着脱可能に配設されたシートバックを、乗員が着座可能な起立位置にロックする車両用シートロック装置であって、前記シートバック又は車体部材の何れか一方に取り付けられた棒形状のストライカ部材と、他方に取り付けられ、該ストライカ部材に係脱可能に係合して前記シートバックを起立位置にロックする開口部を有するフック部材とを備え、該フック部材の開口部には、前記シートバックに車両前後方向の衝突荷重が作用して前記ストライカ部材とフック部材とが車両前後方向に相対移動したときに、前記ストライカ部材に噛み込んで該ストライカ部材のロック解除方向への移動を阻止する凹みが形成されており、前記フック部材は、前記ストライカ部材の長手方向に一定の厚みをもつ板状部材で構成され、前記凹みは前記開口部の前記厚み方向の両縁部の少なくとも一方を抉るように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシートロック装置によれば、フック部材の開口部に、シートバックに車両前後方向の衝突荷重が作用したときに、ストライカ部材に噛み込んで該ストライカ部材のロック解除方向への移動を阻止する凹みを形成したので、シートバックのロックが外れるのを防止できる。例えば、シートバックの後側に搭載した荷物等が、車両衝突時に慣性力により前方に移動してシートバックに衝突した場合には、該シートバックの前方移動に伴ってストライカ部材が移動し、フック部材の開口部から外れてしまうおそれがある。これに対して、本発明では、フック部材の開口部に形成した凹みがストライカ部材に噛み込むことによって、該ストライカ部材のロック解除方向への移動を阻止することとなり、ひいてはシートバックが倒れるのを防止できる。
【0009】
また前記凹みを、開口部の厚み方向両縁部の少なくとも一方を抉ることにより形成したので、フック部材の製造時に凹みも同時に形成でき、別部材を必要としたり、操作フィーリングを悪化させたりすることはなく、簡単な構造でかつ低コストで衝突時の安全性能を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図8は、本発明の一実施形態による車両用シートロック装置を説明するための図であり、図1はリヤシートに配設されたシートロック装置の分解斜視図、 図2は自動車の側面図、図3,図4はシートロック装置のフック部材の斜視図、図5はフック部材の室内側から見た側面図、図6〜図8はそれぞれフック部材の断面図(図5のVI-VI 線断面図,VII-VII 線断面図,VIII-VIII 線断面図)である。
【0012】
図において、1は自動車を示しており、該自動車1の車体2は、フロントドア3,リヤドア4が配設された左,右のサイドパネル5,5の上端間にルーフパネル6を配設するとともに、下端間にフロアパネル7を配設して車室2aを形成し、前記車体2の後端面にバックドア8を配設した構造を有する。
【0013】
前記フロアパネル7の前側にはフロントシート9が、後側にはリヤシート10が配設されている。該リヤシート10の後側のフロアパネル7は荷室7aとなっており、該荷室7aは前記バックドア8により開閉可能となっている。
【0014】
前記リヤシート10は、フロアパネル7に固定されたシートクッション11と、該シートクッション11にヒンジ部材13,13を介してシートクッション11の上面に当接する前可倒位置aと、乗員が着座する起立位置bとの間で前後方向に回動可能に支持されたシートバック12とを備えている。
【0015】
前記シートバック12と、該シートバック12に対向する左,右のサイドパネル5,5との間にはシートロック装置15が配設されている。
【0016】
このシートロック装置15は、前記シートバック12の左,右側壁面12aの上端部に取り付けられた棒形状の左,右のストライカ部材16,16と、前記左,右のサイドパネル5のリヤピラー部材(車体部材)5aに取り付けられ、前記ストライカ部材16に係脱可能に係合して前記シートバック12を起立位置bにロックする左,右のフック部材17,17とを有する。
【0017】
前記左,右のストライカ部材16は、前記シートバック12のシートフレーム(不図示)に固定され、左,右側壁面12aから車幅方向外側に突出する円柱状のストライカ部16aと、該ストライカ部16aの外端面に一体形成され、該ストライカ部16aより大径のつば部16bとを有する。
【0018】
前記左,右のフック部材17は、樹脂製のフック本体20と、該フック本体20をロック位置Aとロック解除位置Bとの間で前後に揺動可能に支持する板金製の支持部材21と、該支持部材21を前記リヤピラー部材5aに固定するボルト22と、前記支持部材21とフック本体20とに介設され、該フック本体20を常にロック位置Aに付勢するコイルばね23とを有する(図5,図6参照)。
【0019】
前記フック本体20は、前記支持部材21を覆うように収容するハウジング部20aと、該ハウジング部20aに続いて上方に延びるロック解除レバー20bと、前記ハウジング部20aに続いてロック解除レバー20bの前側を斜め上向きに屈曲して延びるフック部20cとを有する。
【0020】
前記フック部20cは、後斜め上向きに開口する開口部20dを有しており、該開口部20dにストライカ部材16が係脱可能に係合している。
【0021】
前記フック部20cの車幅方向寸法tは、ストライカ部16aの軸線方向に一定の長さを有するよう設定され、詳細にはストライカ部16aの略直径と同じ値に設定されている。また開口部20dの開口幅wは、ストライカ部16aの直径dと略同じ値に設定されている(図7参照)。
【0022】
前記シートバック12のロックを解除するには、図5に示すように、左,右のロック解除レバー20bを前方にロック解除位置Bまで回動させる。するとこれにより、ストライカ部材16の開口部20dとの係合が外れる。
【0023】
前記左,右のフック本体20の開口部20dには、前記シートバック12に車両前後方向の衝突荷重が作用したときに、前記ストライカ部材16に噛み込んで該ストライカ部材16が開口部20dとのロック解除方向に移動するのを阻止する2つの凹み20e,20fが形成されている。
【0024】
この各凹み20e,20fは、前記開口部20dの車内側縁部及び車外側縁部の一部を抉り取ることにより形成されており、前記フック本体20を樹脂成形する際に同時に一体成形されたものである。
【0025】
前記車内側の凹み20e及び車外側の凹み20fは、ロック位置Aに位置するストライカ部16aに直径方向に略対向するよう配置され、かつ該ストライカ部16aの外周面に沿うよう略球面状をなしている。
【0026】
また前記各凹み20e,20fの曲率半径は、ストライカ部16aの直径の1/2程度に設定されている。
【0027】
シートバック12に車両後方から衝撃荷重が作用すると、左,右のストライカ部材16は開口部20dを中心に前方に回動するように移動し、これと同時にストライカ部16aにこれを押し上げる力が加わり、ストライカ部材16は開口部20dから外れる方向に、つまりロック解除方向に移動しようとする。
【0028】
本実施形態ではストライカ部材16の移動初期段階で、開口部20dの各凹み20e,20fがストライカ部16aに噛み込み、該ストライカ部16aのロック解除方向の移動を阻止する。これと同時に、つば部16bがフック部20cの外壁面に食い込み、該フック部20cの外壁面と各凹み20e,20fとの3点でストライカ部材16が固定されることとなる(図7,図8参照)。
【0029】
このように本実施形態によれば、左,右のフック本体20の開口部20dに、シートバック12に車両前後方向の衝突荷重が作用したときに、ストライカ部材16に噛み込んで該ストライカ部材16がロック解除方向に移動するのを阻止する凹み20e,20fを形成したので、衝突時にシートバック12がフック部材17から外れるのを防止できる。
【0030】
即ち、リヤシート10の後側の荷室7aに搭載した荷物等が、車両衝突時に慣性力により前方に移動してシートバック12に衝突した場合には、該シートバック12の前方移動に伴って左,右のストライカ部材16が移動し、フック部材17の開口部20dから外れてしまうという懸念があった。これに対して、本実施形態では、前記開口部20dの内,外縁部に形成した2つの凹み20e,20fがストライカ部材16に噛み込んで該ストライカ部材16を固定することができる。
【0031】
本実施形態では、前記凹み20e,20fを、開口部20dの車内側及び外車側縁部の一部を抉り取ることにより形成したので、フック本体20を樹脂成形する際に凹み20e,20fも同時に形成でき、別部材を設ける必要がなく、また、操作フィーリングを悪化させることなく簡単な構造でかつ低コストで衝突時の安全性能を向上できる。
【0032】
なお、前記実施形態では、開口部20dの両縁部に2つの凹み20e,20fを形成したが、本発明では、どちらか一方の縁部のみに凹みを設ければよく、また凹みの曲率半径をストライカ部の直径の1/2より大きい値に設定してもよい。
【0033】
また前記実施形態では、シートバック12にストライカ部材16を配置し、リヤピラー部材5aにフック部材17を配置したが、本発明では、シートバックにフック部材を,リヤピラー部材にストライカ部材を配置しても良い。
【0034】
さらに前記実施形態では、シートクッション11にヒンジ部材13を介してシートバック12を回動可能に支持したが、本発明では、シートバックをシートクッションに対して着脱可能としたシートにも適用可能である。
【0035】
さらにまた前記シートクッション11をフロアパネル7に固定したが、本発明は、シートクッションを前後方向にスライド可能としたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態によるシートロック装置の分解斜視図である。
【図2】前記シートロック装置が配設された自動車の側面図である。
【図3】前記シートロック装置のフック部材の斜視図である。
【図4】前記フック部材の斜視図である。
【図5】前記フック部材の室内側から見た側面図である。
【図6】前記フック部材の断面図(図5のVI-VI 線断面図)である。
【図7】前記フック部材の断面図(図5のVII-VII 線断面図)である。
【図8】前記フック部材の断面図(図5のVIII-VIII 線断面図)である。
【符号の説明】
【0037】
5a リヤピラー部材(車体部材)
11 シートクッション
12 シートバック
15 シートロック装置
16 ストライカ部材
17 フック部材
20c フック部
20d 開口部
20e,20f 凹み
b 起立位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションに車両前後方向に回動可能に又は着脱可能に配設されたシートバックを、乗員が着座可能な起立位置にロックする車両用シートロック装置であって、
前記シートバック又は車体部材の何れか一方に取り付けられた棒形状のストライカ部材と、他方に取り付けられ、該ストライカ部材に係脱可能に係合して前記シートバックを起立位置にロックする開口部を有するフック部材とを備え、
該フック部材の開口部には、前記シートバックに車両前後方向の衝突荷重が作用して前記ストライカ部材とフック部材とが車両前後方向に相対移動したときに、前記ストライカ部材に噛み込んで該ストライカ部材のロック解除方向への移動を阻止する凹みが形成されており、前記フック部材は、前記ストライカ部材の長手方向に一定の厚みをもつ板状部材で構成され、前記凹みは前記開口部の前記厚み方向の両縁部の少なくとも一方を抉るように形成されていることを特徴とする車両用シートロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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