説明

車両用シート構造

【課題】シートクッション前部のロック部の前後方向の剛性を高めてロック部の大きな変形又は破損ないしシートクッションの脱落を防止することを課題とする。
【解決手段】座部を形成するパッド内にワイヤ部材を有するシートクッションをパッドの下面から下方に突出する下方突出部21bを介して車体に取り付ける。下方突出部21bのU字状の2つの基部のうちの一方の基部を前方に曲折して、略車両前後方向の前方に延びる前方延長部21cを形成する。この前方延長部21cを下方突出部21bの前方近傍で車幅方向に延びる第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bと交差させ、その交点Wで両者21c,22bを溶接により固定し一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シート構造、より詳しくは、座部を形成するパッドと、このパッド内に配置されてパッドを補強するワイヤ部材とを有するシートクッションを備える車両用シート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両においては、車室の床部を構成するフロアパネル上に、フロントシートとして運転席及び助手席がそれぞれ個別にスライドレールを介して前後位置が調整可能に備えられ、その後方で、リヤシートとして横長のベンチシートが車体に固定されている。この点、例えば特許文献1には、座部を形成するクッション体と、このクッション体を補強するワイヤフレームとで構成されたリヤシートクッションを車床に取り付ける技術が開示されている。すなわち、前記ワイヤフレームの前部に下方にU字状に突出するワイヤ製の取付杆を一体に設けると共に、前記ワイヤフレームの後部には板金製の取付片を一体に設けて、これらの取付杆及び取付片を車床の取付孔にビス止めすることにより、前記リヤシートクッションを車床に固定するのである。
【0003】
【特許文献1】実開平5−1349号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記技術のようにリヤシートクッションを前部と後部との両方で車体に固定すると、その取付作業に時間がかかってしまうので、図7(a)に例示するように、ヒンジブラケットaを介してフロアパネルbに組み付けられたシートバックcとシートクッションdとを有するリヤシートにおいて、シートクッションdの前部においては、該クッションdに内装された不図示のワイヤフレームの一部を下方に例えば正面視でU字状に突出させ、これを、シートクッションdをフロアパネルbに締結具で固定するための前部ロック部eとすると共に、シートクッションdの後部においては、ワイヤフレームの一部を後方に突出させ、これを、シートクッションdをシートバックcの下端部とフロアパネルbとの間に引っ掛けて係止するための後部ストッパ部fとすることが提案される。こうすれば、このシートクッションdを車体に取り付ける際には、後部ストッパ部fがシートバックcの下端部とフロアパネルbとの間を通るようにシートクッションdを前方のやや斜め上方から差し込んだ後、シートクッションdの前部ロック部eのみをフロアパネルbに固定すればよいこととなり、このシートクッションdの取付作業の短縮化が図られる。
【0005】
しかしながら、この場合、車両の前面衝突時等に前部ロック部eが大きく変形又は破損し、シートクッションcの取付けが外れて、シートクッションcが前方へ脱落するという問題が発生する可能性がある。すなわち、車両の前面衝突時等には、それまでの走行慣性力により、図7(a)に矢印iで示したように、シートクッションdに前方への荷重が加わる。このとき、クッションdの前部は前部ロック部eにより固定されているため、クッションdが全体的に撓んだりあるいは短く変形し、図7(b)に示すように、後部ストッパ部fがシートバックcの下端部から前方に抜けて外れる。すると、後部ストッパ部fが機能しなくなって、図7(b)に矢印iiで示したように、シートクッションdに前部ロック部eを中心とする前方上方への回転力が作用し、前部ロック部eが栓抜き状態となって大きく変形又は破損する。その結果、図7(c)に示すように、前部ロック部eにおけるシートクッションdの固定が外れて、シートクッションdが前方のフロントシートに接触してしまうのである。
【0006】
本発明は車両用シート構造における前記不具合に対処するもので、シートクッションの前部ロック部の前後方向に対する剛性ないし強度を高めることにより、たとえシートクッションの後部ストッパ部の係止が抜けて外れても、前部ロック部の大きな変形又は破損ないしシートクッションの脱落を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本願の請求項1に記載の発明は、座部を形成するパッドと、このパッド内に配置されてパッドを補強するワイヤ部材とを有するシートクッションを備え、前記ワイヤ部材の第1部位に、車両前後方向の前部においてワイヤ部材の一部が略U字状に曲成されてパッドの下面から下方に突出する下方突出部が設けられ、この下方突出部を介して前記シートクッションが車体に取り付けられる車両用シート構造であって、前記下方突出部の2つの基部のうちの少なくとも一方の基部は、略車両前後方向の前方又は後方に延びる第1延長部に接続していると共に、前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第2部位を有し、この第2部位と前記第1延長部とが前記下方突出部の近傍で接続していることを特徴とする。
【0008】
なお、ここで、「接続」とは、あとから結合する場合の他、もともと連続してしている場合も含んでいる(請求項2〜4において同じ)。
【0009】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、前記第2部位は、前記第1延長部と接続する車幅方向延長部と、この車幅方向延長部の端部が曲折されて車両前後方向に延びる前後方向延長部とを有していることを特徴とする。
【0010】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、前記下方突出部の他方の基部は、前記第1延長部と略反対方向に延びる第2延長部に接続していると共に、前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第3部位を有し、この第3部位と前記第2延長部とが前記下方突出部の近傍で接続していることを特徴とする。
【0011】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項2に記載の車両用シート構造であって、前記下方突出部の他方の基部は、前記第1延長部と略反対方向に延びる第2延長部に接続していると共に、前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第3部位を有し、この第3部位と前記第2延長部とが前記下方突出部の近傍で接続し、この第3部位と前記第2部位の前後方向延長部とが前記下方突出部の近傍で接続し、かつ、前記第1延長部は前方に延び、前記第2延長部は後方に延びて、前記第2部位と前記第1延長部との接続点は下方突出部の前方に位置し、前記第3部位と前記第2延長部との接続点及び前記第3部位と前記第2部位の前後方向延長部との接続点は下方突出部の後方に位置していることを特徴とする。
【0012】
そして、本願の請求項5に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、前記ワイヤ部材に、車両前後方向の後部においてワイヤ部材の一部がパッドから後方に突出する後方突出部が設けられ、この後方突出部がシートバックの下端部とフロアパネルとの間に係止されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
まず、請求項1に記載の発明によれば、座部を形成するパッドと、このパッドを補強するワイヤ部材とを有するシートクッションが車体に取り付けられる車両用シート構造において、前記ワイヤ部材の第1部位に、パッドの下面から下方に突出する略U字状の下方突出部、すなわちロック部を車両前後方向の前部に設け、この前部ロック部を介してシートクッションを車体に取り付けるようにした。そして、この前部ロック部のU字状の2つの基部のうちの少なくとも一方の基部に、略車両前後方向の前方又は後方に延びる第1延長部を接続すると共に、この第1延長部に、車幅方向に延びるワイヤ部材の第2部位を前部ロック部の近傍で接続した。これにより、たとえシートクッションに前部ロック部を中心とする前方上方への回転力が作用し、前部ロック部が栓抜き状態となっても、前記第1部位の第1延長部が前部ロック部近傍で前後方向に突っ張ることとなり、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度が向上することとなる。その結果、前部ロック部の大幅な変形や破損が抑制でき、シートクッションの前方脱落を防止することができる。
【0014】
次に、請求項2に記載の発明によれば、前記第2部位に、前記第1延長部と接続する車幅方向延長部の他、この車幅方向延長部の端部を曲折して車両前後方向に延設した前後方向延長部を形成した。これにより、前部ロック部を中心とする前方上方への回転力に対しては、第1部位の第1延長部に加えて、この第2部位の前後方向延長部もまた前後方向に突っ張ることとなり、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度がより一層向上することとなる。
【0015】
次に、請求項3に記載の発明によれば、前部ロック部のU字状の2つの基部のうちの他方の基部に、前記第1延長部と略反対方向に延びる第2延長部を接続すると共に、この第2延長部に、車幅方向に延びるワイヤ部材の第3部位を前部ロック部の近傍で接続した。これにより、前部ロック部を中心とする前方上方への回転力に対しては、第1部位の第1延長部に加えて、この第1部位の第2延長部もまた前部ロック部近傍で前後方向に突っ張ることとなり、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度がより一層向上することとなる。しかも、第1延長部と第2部位との接続点と、第2延長部と第3部位との接続点とは、前部ロック部を間に挟んで前後に反対側にあるので、これにより、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度がなお一層向上することとなる。
【0016】
次に、請求項4に記載の発明によれば、前記第1部位の第1延長部を前方に延設し、第2延長部を後方に延設して、第1延長部と第2部位との接続点を前部ロック部の前方に配置し、第2延長部と第3部位との接続点及び第2部位の前後方向延長部と第3部位との接続点を前部ロック部の後方に配置した。これにより、前部ロック部の周囲に3つの接続点が散在することとなり、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度がより一層向上することとなる。
【0017】
そして、請求項5に記載の発明によれば、前記ワイヤ部材に、パッドから後方に突出する後方突出部、すなわちストッパ部を車両前後方向の後部に設け、この後部ストッパ部をシートバックの下端部とフロアパネルとの間に係止するようにした。これにより、シートクッションの取付作業の短縮化が図られると共に、たとえこの後部ストッパ部がシートバックの下端部から前方に抜けて外れ、その結果、シートクッションに前部ロック部を中心とする前方上方への回転力が作用して、前部ロック部が栓抜き状態となっても、前部ロック部の前後方向の剛性ないし強度が向上し、前部ロック部の大きな変形又は破損が抑制でき、シートクッションの前方脱落を防止することが可能となる。以下、発明の最良の実施形態を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本実施形態に係る車両の車室内を示す平面図である。車室の前部床部を構成するフロアパネルフロント11には、フロントシート13として、前後位置が調整可能な運転席及び助手席が左右に並設され、車室の後部床部を構成するフロアパネルリヤ12には、リヤシート14として、横長のベンチシートが備えられている。リヤシート14は、乗員が着座するシートクッション15と、乗員を背後から支えるシートバック16とを有する。シートクッション15は、座部を形成する発泡樹脂製のパッド(符号40:図3、図5、図6参照)の中に該パッド40を補強するための金属製のワイヤフレーム20が内装された構成である。
【0019】
図2は、前記シートクッション15に内装されたワイヤフレーム20を示す透過平面図である。図示したように、ワイヤフレーム20は、第1ワイヤ21〜第5ワイヤ25の5種類の異なる形状のワイヤが左右対称に枠形状に組み立てられたものである。本実施形態では、ワイヤ同士が交差する交点ではワイヤは例えば溶接等の手法により結合され一体化されている。
【0020】
第1ワイヤ21は、略車両前後方向に長く延びる形状で、後に詳しく述べるように、その後部が後部ストッパ部31に属し、その前部が前部ロック部32に属している。第2ワイヤ22は、第1ワイヤ21の内側で前後方向に長く延びる前後方向延長部22aと、この前後方向延長部22aの前端部が外方に曲折されて車幅方向に短く延びる車幅方向延長部22bと、この車幅方向延長部22bの外方端部が3段階に曲折されてこのワイヤフレーム20の側部を形成したのち後端部に至る側部形成部22cとを含んでいる。第3ワイヤ23は、シートクッション15の中央前部で車幅方向に延び、その両端部が第2ワイヤ22の前後方向延長部22a及び第1ワイヤ21と交差し結合されている。
【0021】
第4ワイヤ24及び第5ワイヤ25はこのワイヤフレーム20の後縁部を構成している。平面視コ字状の第4ワイヤ24はシートクッション15の中央後部に配置され、平面視クランク形状の第5ワイヤ25は第4ワイヤ24、第2ワイヤ22及び第1ワイヤ21と交差し結合されている。ここで、第4ワイヤ24と第5ワイヤ25とで形成される凹部は、不図示のヒンジブラケットを避けるための形状である。
【0022】
図3は、図2のI−I線に沿う前記リヤシート14の縦断面図である。シートバック16は、不図示のヒンジブラケットを介してフロアパネルリヤ12に組み付けられている。シートクッション15は、後部ストッパ部31においてシートバック16の下端部とフロアパネルリヤ12との間に係止され、前部ロック部32においてフロアパネルリヤ12に固定されている。ここで、ワイヤフレーム20は、発泡樹脂製パッド40の比較的底部近傍に位置している。また、シートクッション15の前部の厚みAは、およそ15センチメートル以上である。これにより、リヤシート14の着座性が向上する一方、シートクッション15には比較的大きな慣性力が作用することとなる。
【0023】
そして、ワイヤフレーム20の第1ワイヤ21には、車両前後方向の前部において、パッド40の下面から下方に突出する下方突出部21bが設けられている。この下方突出部21bは、ワイヤフレーム20の一部が正面視で略U字状に曲成されたもので(図5参照)、前部ロック部32を構成している。シートクッション15は、この前部ロック部32と、フロアパネル12のキックアップ部12aの近傍に固着された樹脂製クリップ50とを用いて車体に取り付けられている[請求項1の構成]。一方、ワイヤフレーム20の第1ワイヤ21には、車両前後方向の後部において、パッド40の後面から後方に突出する後方突出部21dも設けられている。この後方突出部21dは、ワイヤフレーム20の一部が平面視で略U字状に曲成されたもので(図2参照)、後部ストッパ部31を構成している。シートクッション15は、この後部ストッパ部31を用いて、シートバック16の下端部とフロアパネルリヤ12との間に係止されている[請求項5の構成]。
【0024】
図4は、前記ワイヤフレーム20の前部ロック部32周辺(図2に円で囲んだ部分)を示す斜視図である。第1ワイヤ21の下方突出部21bのU字状の2つの基部のうちの内側の基部が前方に曲折されて、略車両前後方向の前方に延びる前方延長部(第1延長部)21cが形成されている。また、第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bが下方突出部21bの前方近傍を通過している。そして、この第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bと第1ワイヤ21の前方延長部21cとが下方突出部21bの前方近傍で交差し、その交点において結合され一体化されている(接合部W)[請求項1の構成]。
【0025】
第2ワイヤ22は、前述したように、第1ワイヤ21の前方延長部21cと結合されている車幅方向延長部22bと、この車幅方向延長部22bの内側の端部が後方に曲折されて車両前後方向に延びる前後方向延長部22aとを有している[請求項2の構成]。その場合に、図2に示したように、前後方向延長部22aの後端部は、車幅方向に延びるワイヤフレーム20の後縁部を構成する第5ワイヤ25まで至り、その交点において第5ワイヤ25と結合され一体化されている。
【0026】
第1ワイヤ21の下方突出部21bのU字状の2つの基部のうちの外側の基部が略後方(より詳しくは車両外方に向かう斜め後方)に曲折されて、略車両前後方向の後方に延びる後方延長部(第2延長部)21aが形成されている。また、第3ワイヤ23が下方突出部21bの後方近傍を通過している。そして、この第3ワイヤ23と第1ワイヤ21の後方延長部21aとが下方突出部21bの後方近傍(より詳しくは比較的車両外方の後方近傍)で交差し、その交点において結合され一体化されている(接合部W)[請求項3の構成]。
【0027】
このように、第1ワイヤ21の第1延長部21cは前方に延び、第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bとの交点が下方突出部21bの前方近傍に位置している。また、第1ワイヤ21の第2延長部21aは略後方に延び、第3ワイヤ23との交点が下方突出部21bの比較的車両外方の後方近傍に位置している。さらに、第2ワイヤ22の前後方向延長部22aと第3ワイヤ23とが下方突出部21bの比較的車両内方の後方近傍で交差し、その交点において結合され一体化されている(接合部W)[請求項4の構成]。
【0028】
図5は、前部ロック部32を前方から見た縦断面図、図6は、側方から見た縦断面図である。シートクッション15の前部を車体に取り付けるための樹脂製クリップ50(図3参照)は、キックアップ部12aの直後方においてフロアパネルリヤ12の上面に形成された開口に嵌合されている。そして、発泡樹脂製パッド40の前部下面から下方に突出するワイヤフレーム20の下方突出部21bは、パッド40の下面にて前記樹脂製クリップ50に押し込まれ圧入されている。これにより、シートクッション15の前部がフロアパネルリヤ12に固定されている。その場合に、シートクッション15の取付後は、これらの下方突出部21bや樹脂製クリップ50を含む前部ロック部32がシートクッション15で隠されて見えなくなるので、リヤシート14を見栄え良く取り付けることができ、車両の商品性を損なうことがない。
【0029】
次に、本実施形態の作用を説明する。例えば、この車両が前面衝突等した際には、それまでの走行の慣性力により、図3に矢印iで示すように、シートクッション15に前方への荷重が加わる。このとき、クッション15の前部は前部ロック部32により固定されているため、クッション15全体が撓んだり前後に短く変形し、それがため後部ストッパ部31がシートバック16の下端部から前方に抜けて外れる。すると、後部ストッパ部31がストッパとして機能しなくなり、図3に矢印iiで示すように、シートクッション15に前部ロック部32を中心とする前方上方への回転モーメントが作用し、その結果、前部ロック部32が栓抜き状態となって大幅に変形もしくは破損してしまう可能性が生じる。
【0030】
しかし、本実施形態においては、前部ロック部32に属する第1ワイヤ21の下方突出部21bの2つの基部のうちの内側の基部に、略車両前後方向の前方に延びる第1延長部21cを形成すると共に、この第1延長部21cと、車幅方向に延びる第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bとを前記ロック部32の前方近傍で交差させてその交点で一体化させたから(図2、図4参照)、これにより、たとえシートクッション15に前部ロック部32を中心とする前方上方への回転モーメントが作用し、前部ロック部32が栓抜き状態となっても、前記第1ワイヤ21の第1延長部21cが前部ロック部32近傍で前後方向に突っ張ることとなり、前部ロック部32の前後方向の剛性ないし強度が向上し、その結果、前部ロック部32の大幅な変形や破損が抑制でき、シートクッション15の前方脱落を防止することができる。
【0031】
しかも、前記第2ワイヤ22に、第1ワイヤ21の第1延長部21cと一体化する車幅方向延長部22bの他、この車幅方向延長部22bの内側端部を曲折して車両前後方向に延設した前後方向延長部22aを形成したから(図2、図4参照)、これにより、前方上方への回転モーメントに対してこの第2ワイヤ22の前後方向延長部22aもまた前後方向に突っ張ることとなり、前部ロック部32の前後方向の剛性ないし強度がより一層向上することとなる。
【0032】
その場合に、第2ワイヤ22の前後方向延長部22aの後端部は、車幅方向に延びるワイヤフレーム20の後縁部を構成する第5ワイヤ25に固定されているから(図2参照)、これによっても、パッド40の取付剛性の向上が図られることとなる。
【0033】
さらに、前部ロック部32に属する第1ワイヤ21の下方突出部21bの2つの基部のうちの外側の基部に、前記第1延長部22cとは略反対方向の車両前後方向の後方に延びる第2延長部21aを形成すると共に、この第2延長部21aと、車幅方向に延びる第3ワイヤ23とを前記ロック部32の後方近傍で交差させてその交点で一体化させたから(図2、図4参照)、これにより、前記第1延長部21cに加えて、この第2延長部21aもまた前方上方への回転モーメントに対して前部ロック部32近傍で前後方向に突っ張ることにより(しかもその位置は前部ロック部32を間に挟んで第1延長部21cと反対側である)、前部ロック部32の前後方向の剛性ないし強度がより一層向上することとなる。
【0034】
さらに、前記第1ワイヤ21の第1延長部21cと第2ワイヤ22の車幅方向延長部22bとの一体化した交点を前部ロック部32の前方に配置し、前記第1ワイヤ21の第2延長部21aと第3ワイヤ23との一体化した交点を前部ロック部32の比較的車両外方の後方に配置し、前記第2ワイヤ22の前後方向延長部22aと第3ワイヤ23との一体化した交点を前部ロック部32の比較的車両内方の後方に配置したから(図4参照)、これにより、前部ロック部32を囲んでその周囲に3つの交点が散在することとなり、前部ロック部32の前後方向の剛性ないし強度がなお一層向上することとなる。
【0035】
そして、ワイヤフレーム20に、パッド40から後方に突出する後方突出部21d、すなわち後部ストッパ部31を車両前後方向の後部に設け、この後部ストッパ部31をシートバック16の下端部とフロアパネル12との間に係止するようにしたから、これにより、シートクッション15の取付作業の短縮化が図られると共に、たとえ後部ストッパ部31がシートバック16の下端部から前方に抜けて外れ、その結果、シートクッション15に前部ロック部32を中心とする前方上方への回転モーメントが作用して、前部ロック部32が栓抜き状態となっても、前部ロック部32の前後方向の剛性ないし強度が向上し、前部ロック部32の大きな変形や破損が抑制でき、シートクッション15の前方脱落を防止することが可能となる。
【0036】
なお、前部ロック部32はシートクッション15の前縁部において他の部位よりも前方に位置しているが、この部分は着座した乗員の両脚の間に位置する部分であるから、着座した乗員の邪魔にならず、着座性が低下することはない。
【0037】
なお、前記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の修正や変更を施してよいことはいうまでもない。例えば、前記実施形態では、ワイヤフレーム20を5種類のワイヤ21〜25で作製したが、これより少ない数のワイヤで作製してもよく、その場合に、ワイヤ同士が交差する交点を1本の連続するワイヤを曲折して形成してもよい。また、前記実施形態では、後部ストッパ部31を第1ワイヤ21の後端部で作製したが、他のワイヤ、例えば第5ワイヤ25の一部等を使って作製することもできる。また、前記実施形態では、下方突出部21bを正面視でU字状に曲成したが、例えば側面視でU字状に曲成しても構わない。また、前記実施形態では、下方突出部21bのU字状の2つの基部のうちの内側の基部を前方に曲折して前方延長部に接続し、外側の基部を後方に曲折して後方延長部に接続したが、逆に、内側の基部を後方に曲折して後方延長部に接続し、外側の基部を前方に曲折して前方延長部に接続してもよい。あるいは、両方の基部を前方に曲折して前方延長部に接続したり、両方の基部を後方に曲折して後方延長部に接続することもでき、さらには、いずれか一方の基部のみを前方に曲折して前方延長部に接続したり、後方に曲折して後方延長部に接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、シートクッション前部のロック部の前後方向に対する剛性ないし強度を高めることにより、たとえシートクッション後部のストッパ部の係止が外れても、前記ロック部の大幅な変形もしくは破損ないしシートクッションの脱落を防止することが可能な技術であるから、車両用シート構造、より詳しくは、シートクッションに内装されたワイヤフレームの改良の技術分野において広範な産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の最良の実施の形態に係る車両の車室内の平面図である。
【図2】前記車両のリヤシートのシートクッションに内装されたワイヤフレームを示す透過平面図である。
【図3】図2のI−I線に沿う前記リヤシートの縦断面図である。
【図4】前記ワイヤフレームの前部ロック部周辺の斜視図である。
【図5】前記前部ロック部を前方から見た縦断面図である。
【図6】同じく側方から見た縦断面図である。
【図7】本発明が解決しようとする課題の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
12 フロアパネルリヤ
14 リヤシート
15 シートクッション
16 シートバック
20 ワイヤフレーム(ワイヤ部材)
21〜23 第1〜第3ワイヤ(第1〜第3部位)
21a 第1ワイヤ後方延長部(第2延長部)
21b 第1ワイヤ下方突出部
21c 第1ワイヤ前方延長部(第1延長部)
21d 第1ワイヤ後方突出部
22a 第2ワイヤ前後方向延長部
22b 第2ワイヤ車幅方向延長部
31 後部ストッパ部
32 前部ロック部
40 発泡樹脂製パッド
50 樹脂製グリップ
W 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部を形成するパッドと、このパッド内に配置されてパッドを補強するワイヤ部材とを有するシートクッションを備え、
前記ワイヤ部材の第1部位に、車両前後方向の前部においてワイヤ部材の一部が略U字状に曲成されてパッドの下面から下方に突出する下方突出部が設けられ、
この下方突出部を介して前記シートクッションが車体に取り付けられる車両用シート構造であって、
前記下方突出部の2つの基部のうちの少なくとも一方の基部は、略車両前後方向の前方又は後方に延びる第1延長部に接続していると共に、
前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第2部位を有し、
この第2部位と前記第1延長部とが前記下方突出部の近傍で接続していることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、
前記第2部位は、前記第1延長部と接続する車幅方向延長部と、この車幅方向延長部の端部が曲折されて車両前後方向に延びる前後方向延長部とを有していることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項3】
前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、
前記下方突出部の他方の基部は、前記第1延長部と略反対方向に延びる第2延長部に接続していると共に、
前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第3部位を有し、
この第3部位と前記第2延長部とが前記下方突出部の近傍で接続していることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項4】
前記請求項2に記載の車両用シート構造であって、
前記下方突出部の他方の基部は、前記第1延長部と略反対方向に延びる第2延長部に接続していると共に、
前記ワイヤ部材は、車幅方向に延びる第3部位を有し、
この第3部位と前記第2延長部とが前記下方突出部の近傍で接続し、
この第3部位と前記第2部位の前後方向延長部とが前記下方突出部の近傍で接続し、かつ、
前記第1延長部は前方に延び、前記第2延長部は後方に延びて、
前記第2部位と前記第1延長部との接続点は下方突出部の前方に位置し、
前記第3部位と前記第2延長部との接続点及び前記第3部位と前記第2部位の前後方向延長部との接続点は下方突出部の後方に位置していることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項5】
前記請求項1に記載の車両用シート構造であって、
前記ワイヤ部材に、車両前後方向の後部においてワイヤ部材の一部がパッドから後方に突出する後方突出部が設けられ、
この後方突出部がシートバックの下端部とフロアパネルとの間に係止されることを特徴とする車両用シート構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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