説明

車両用シート

【課題】シートフレームの剛性を高めても、乗員への振動伝達を低減可能な車両用シートを提供すること。
【解決手段】車体側に支持される第1シートフレームと、着座面を支持する第2シートフレームと、前記第1シートフレームと前記第2シートフレームとを相対変位自在に連結する連結機構と、を備えたことを特徴とする車両用シートが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの振動や路面の凹凸等により生じる車両の振動は乗員に不快感を与える一因となる。車両の振動はシートを介して乗員に伝達されるため、シートに振動低減構造を設けたものが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−226250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝突安全性向上等の観点から、シートの骨格をなすシートフレームには一定の剛性を確保することが求められる。しかし、シートフレームの剛性を高めると、車体からの振動がシートフレームを介して乗員に伝達され易くなり、乗員が振動を感じやすくなる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、シートフレームの剛性を高めても、乗員への振動伝達を低減可能な車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、車体側に支持される第1シートフレームと、着座面を支持する第2シートフレームと、前記第1シートフレームと前記第2シートフレームとを相対変位自在に連結する連結機構と、を備えたことを特徴とする車両用シートが提供される。
【0007】
この構成によれば、車体からの振動が伝達されることになる前記第1シートフレームと、乗員の体圧を支えることになる前記第2シートフレームと、が相対変位自在であることから、前記第1シートフレームから前記第2シートフレームへの振動伝達が減少し、乗員への振動伝達を低減できる。また、前記第2シートフレームが前記第1シートフレームに対して変位可能であればよいので、前記第1及び第2シートフレームの剛性を高めても乗員への振動伝達を低減できる。
【0008】
本発明において、前記連結機構は、前記第2シートフレームを、前記第1シートフレームに対して所定方向にスライド自在に連結してもよい。比較的簡易な構成で、前記第1及び第2シートフレーム間を相対変位自在としながら連結できる。
【0009】
また、本発明において、前記連結機構は、前記第1及び第2シートフレームの一方に設けられ、前記所定方向に形成された孔部と、前記第1及び第2シートフレームの他方に設けられ、前記孔部に挿通する軸部と、を備えてもよい。比較的簡易な構成で、前記第1及び第2シートフレーム間を相対変位自在としながら連結できる。
【0010】
また、本発明においては、前記第2シートフレームの前記所定方向のスライド範囲を規制する、前記孔部を挿通不能な一対のストッパを前記軸部に設けたてもよい。振動低減に必要な範囲で前記第1及び第2シートフレーム間を相対変位自在とすることができる。
【0011】
また、本発明においては、前記孔部に、前記孔部に対して前記軸部を滑動させる滑動部材を設けることもできる。乗員の体圧が作用していても、前記第1及び第2シートフレーム間を、よりスムーズに相対変位させることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記第1シートフレームと前記第2シートフレームとの間に設けられ、前記第1シートフレームに対する前記第2シートフレームの位置が予め定めた初期位置となるように前記第2シートフレームを付勢する弾性部材を備えることもできる。前記第1及び第2シートフレーム間が相対変位した後、前記初期位置に戻るようにすることで、繰り返し前記所定方向の双方向に相対変位を生じさせることができる。
【0013】
また、本発明においては、前記所定方向が前記車両用シートの左右方向であってもよい。乗員が振動を不快に感じやすい振動方向において、振動低減を図れる。
【発明の効果】
【0014】
以上述べた通り、本発明によれば、シートフレームの剛性を高めても、乗員への振動伝達を低減可能な車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用シート1の外観斜視図。
【図2】(A)はシートバック20のシートフレーム22、23の正面図、(B)はシートフレーム22の斜視図、(C)はシートフレーム23の斜視図。
【図3】シートフレーム22、23の動作説明図。
【図4】(A)乃至(C)は連結機構の他の構成例を示す説明図。
【図5】(A)は連結機構の他の構成例を示す説明図、(B)は図5(A)の線I−Iに沿う断面図。
【図6】(A)は連結機構の他の構成例を示す説明図、(B)は図6(A)の線II−IIに沿う断面図、(C)は図6(A)の線III−IIIに沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る車両用シート1の外観斜視図である。車両用シート1は、シートレール或いは脚部を介して車体に支持されるシートクッション10と、シートクッション10に対して傾倒可能に連結されたシートバック20と、シートバック20の上部に連結されたヘッドレスト30と、を備える。
【0017】
シートクッション10は乗員の臀部及び大腿部の着座面11aを形成する着座面形成部材11を有し、シートバック20は乗員の腰部及び背部の着座面21aを形成する着座面形成部材21を有する。本実施形態の場合、着座面形成部材11、21はいずれも、ウレタン等のパッドを、布や皮等の表皮材で被覆して構成されている。しかし、例えば、パッドを設けずに着座面形成部材11、21を表皮材のみとすることも可能である。
【0018】
次に、シートバック20の骨格をなすシートフレームの構造について説明する。図2(A)はシートバック20のシートフレーム22、23の正面図、図2(B)はシートフレーム22の斜視図、図2(C)はシートフレーム23の斜視図である。
【0019】
シートバック20のシートフレームは、互いに別体のシートフレーム22、23を備える。シートフレーム22は、着座面形成部材21を支持することで着座面21aを支持する。本実施形態の場合、シートフレーム22は、左右方向に離間した一対の板状の基材221、221と、これら基材221、221間に梁状に架設され、上下方向に離間して左右方向に延びる、断面円形の2つの軸部222、222とを備える。
【0020】
また、基材221、221間には、左右方向に延びる棒材223が複数設けられている。棒材223は基材221の前方端部において上下方向に複数配設されるとともに、後方端部においても上下方向に複数配設されている。基材223の前方端部に配設された棒材223は着座面形成部材21を介して乗員からの体圧を受ける。
【0021】
シートフレーム23は車体側に支持される。ここで、車体側に支持されるとは、車体に直接接続されて支持される構成と、他の部材を介して車体に間接的に接続されて支持される構成の双方を含む。本実施形態は後者の構成であり、シートフレーム23は、シートクッション10のシートフレーム(不図示)及びこれと車体を連結するシートレール或いは脚部を介して車体に接続されて支持される。
【0022】
本実施形態の場合、シートフレーム23は、左右方向に離間した一対の板状の基材231、231と、これら基材221、221間に架設された、天部の基材232と、底部の基材233と、を備える。基材232にはヘッドレスト30の支持軸31が挿入されるボス部232a、232aが設けられている。各基材231には、シートクッション10に対してシートバック20を傾倒可能とする枢軸(不図示)が挿入される孔部235が形成されている。
【0023】
各基材231には各軸部222が挿通する孔部234、234が、その向きが左右方向となるように形成されており、シートフレーム23は、シートフレーム22の内側、つまり、基材223及び棒材223で囲まれる空間内に配置される。着座面形成部材21はシートフレーム22の周囲を被覆するようにして配設され、シートフレーム23は着座面形成部材21を支持しない。
【0024】
シートフレーム22と、シートフレーム23とは、孔部23に軸部222が挿通することで互いに連結される。つまり、孔部23、軸部222はシートフレーム22とシートフレーム23とを連結する連結機構を構成している。シートフレーム22とシートフレーム23との連結部位は、孔部23及び軸部222のみ(4箇所)となっている。
【0025】
このため、シートフレーム22は、シートフレーム23に対して軸部222の軸方向である左右方向にスライド自在であり、シートフレーム22とシートフレーム23とは左右方向に相対変位自在に連結されている。
【0026】
軸部222には、シートフレーム22の左右方向のスライド範囲を規制するストッパ222a、222bが設けられている。ストッパ222a、222bは孔部23を挿通不能な径を有して形成されている。シートフレーム23の基材231は、ストッパ222a、222bの間に配設され、ストッパ222a又は222bと基材231とが干渉することで、シートフレーム22のスライド範囲を規制される。
【0027】
なお、本実施形態ではシートフレーム22に軸部222を、シートフレーム23に孔部234を、それぞれ設けたが、これとは逆にシートフレーム22に孔部を、シートフレーム23に軸部を、それぞれ設ける構成も可能である。
【0028】
また、本実施形態では、1か所の連結部位に対して、外側のストッパ222aと内側のストッパ222bとを設けたが、1か所の連結部位に対して、外側のストッパ222aのみ或いは内側のストッパ222bのみとしてもよい。また、本実施形態では軸部222にストッパ222a、222bを形成したが、シートフレーム22の左右方向のスライド範囲を規制できれば、どうようなストッパ構造であってもよい。更に、シートフレーム22、23の構造は一例であり、種々の構造を採用可能である。
【0029】
次に、係る構成からなるシートフレーム22、23の作用について図3を参照して説明する。図3はシートフレーム22、23の動作説明図である。
【0030】
状態ST1は初期状態を示し、シートフレーム23の基材231は、ストッパ222aとストッパ222bとの中間に位置している。状態ST2、状態ST3は、車両に左右方向の振動が生じた場合の挙動を示している。シートフレーム23は車体側に支持されているため車両と一体的に振動する。一方、本実施形態では、上記のとおり、シートフレーム22とシートフレーム23とは左右方向に相対変位自在に連結されているため、シートフレーム23が図3の矢印方向に移動しても、シートフレーム22は直ちに移動せず両者に相対変位が生じる。このため、シートフレーム22とシートフレーム23とで、振動の位相にずれを生じさせて、振動伝達を減少することができる。
【0031】
このように、本実施形態では、車体からの振動が伝達されることになるシートフレーム23と、乗員の体圧を支えることになるシートフレーム22と、が相対変位自在であることから、シートフレーム23からシートフレーム22への振動伝達が減少し、乗員への振動伝達を低減できる。また、シートフレーム22がシートフレーム23に対して変位可能であればよいので、これらのシートフレーム22、23の剛性を高めても乗員への振動伝達を低減できる。
【0032】
シートフレーム22、23の相対変位量は、相対変位時に乗員が違和感を感じないようにし、かつ、微振動に乗員が不快感を感じること等の観点から、最大で数ミリ程度とされることが望ましい。本実施形態の場合、ストッパ222aとストッパ222bの距離から基材231の厚さを引いた値が最大の相対変位量(最大スライド範囲)となる。ストッパ222a、222bを設けたことで、不必要にシートフレーム22、23が相対変位することを防止できる。
【0033】
本実施形態ではシートフレーム22、23の相対変位方向を左右方向としたが、上下方向や前後方向としてもよく、更に、多方向に相対変位可能としてもよい。尤も、一般に左右方向の振動(横揺れ)を乗員が不快に感じやすいことから、少なくとも左右方向にシートフレーム22、23が相対変位可能とすることが好ましい。
【0034】
シートフレーム22、23間を相対変位可能に連結する連結機構としては、本実施形態のようにスライド自在な機構とすることで、比較的簡易に構成することができ、特に、孔部234と軸部222とによるスライド機構とすることで簡易に相対変位を実現できる。 本実施形態では、シートバック20のシートフレームについて、このような振動低減構造を設けたが、シートクッション10に設けてもよく、或いは、シートクッション10及びシートバック20の双方に設けてもよい。
【0035】
ミニバン等のように複数列のシートを有する車両においては、中間列のシートに本実施形態の適用が特に有効である。中間列のシートとは、たとえば、3列シートの車両であれば2列目のシート、4列シートの車両であれば、2列目と3列目のシートである。複数列のシートを有する車両では、一般的に前後方向の中間部のボディ剛性が低く、特に中間列のシートはボディのねじれにより、車両を伝搬する振動が複雑に合成されて左右振動が作用しやすく、シートの構造による振動低減が効果的であるからである。
【0036】
<他の実施形態>
<弾性部材>
シートフレーム23に対してシートフレーム22が最大変位した状態のままであると、両者の相対変位が左右方向の一方に偏って振動低減がうまく働かない場合がある。例えば、図3の状態ST2、ST3のように、シートフレーム23がストッパ222a、222bに当接した状態のままでは、左右方向の相対変位が一方に偏る。
【0037】
そこで、シートフレーム22とシートフレーム23との間に弾性部材を設けてシートフレーム22が初期位置(図3のST1)に付勢することが好ましい。図4(A)はその一例を示す。
【0038】
図4(A)の例では、ストッパ222aと基材231との間、及び、ストッパ222bと基材231との間において、それぞれ、軸部222にコイルスプリング24、24を挿通している。コイルスプリング24、24の弾性力により、シートフレーム22が初期位置(図3のST1)に常時付勢される。これにより、シートフレーム22、23に相対変位が生じると、コイルスプリング24、24により初期位置に戻るようにシートフレーム22が付勢されるので、繰り返し左右方向双方向の相対変位を生じさせることができる。
【0039】
なお、図4(A)の例では弾性部材としてコイルスプリング24を設けたが、他の種類の弾性部材でもよく、また、配置部位もストッパ222a、222bと基材231との間以外でもよい。
【0040】
<相対変位時の防音>
シートフレーム22、23の相対変位により、基材231と、ストッパ222a又はストッパ222bとが当接すると、衝突音を生じる可能性がある。そこで、このような衝突音の発生を軽減することが好ましい。図4(B)はその一例を示す。
【0041】
図4(B)の例では、ストッパ222a、222bの、基材231側の面に、軸部222が挿通する円盤状の防音材(例えばゴム)を設けた例を示す。基材231と、ストッパ222a、ストッパ222bとの間に、衝撃緩衝材として防音材が介在するので、これらの衝突時の衝撃が緩衝され、音の発生を軽減することができる。
【0042】
<滑動部材>
シートフレーム22には乗員からの体圧が作用する。よって、シートフレーム22、23がスムーズに相対変位するよう、孔部234に、孔部234に対して軸部222を滑動させる滑動部材を設けることが好ましい。図4(C)は孔部234に滑り軸受26を設けた連結機構の例を示している。滑り軸受26は、たとえば、樹脂材料(例えばフッ素樹脂材料)から形成され、軸部222が挿通する孔を有し、孔の内周面は平滑にされている。滑り軸受26を設けたことにより、軸部222がスムーズに変位する。よって、シートフレーム22に乗員からの体圧が作用しても、シートフレーム22、23をスムーズに相対変位させることができる。
【0043】
滑動部材としては、図4(C)の滑り軸受26以外に、転がり軸受であってもよい。図5(A)はその一例を示し、図5(B)は図5(A)の線I−Iに沿う断面図である。
【0044】
同図の例では、基材231にボール軸受261が設けられている。ボール軸受261は外形が角型の筒状をなし、その内壁上部と下部に溝261bと、この溝261bに受け入れられるボール261aを備えている。また、その内壁両側部には、ボール軸受261の振動を減衰させて騒音を防止するゴム等の振動吸収材が配設されている。
【0045】
軸部222に代わる軸部2221は、角柱形状の軸体であり、その上面と下面にボール261aを受け入れる溝2221aを有している。軸部2221には、また、ストッパ222a、222bに代わるストッパ222a’、222b’が設けられている。ストッパ222a’、222b’はボール軸受261の左右方向両端部と当接してスライド範囲を規制する。図5(A)及び(B)に示すように、滑動部材として転がり軸受を採用することで、シートフレーム22に乗員からの体圧が作用しても、シートフレーム22、23を更にスムーズに相対変位させることができる。
【0046】
図6(A)も滑動部材として転がり軸受を採用した例を示し、図6(B)は図6(A)の線II−IIに沿う断面図、図6(C)は図6(A)の線III−IIIに沿う断面図である。
【0047】
図6(A)乃至図6(C)の例は、シートフレーム22、23を左右方向だけでなく前後方向にも相対変位できるように構成している。図5(A)及び(B)の例と異なる点について説明すると、溝261b、2221aに代わる溝261b’、2221a’がボール261a毎に一つずつ区画して形成されており、それぞれが、左右方向に幅W1、前後方向に幅W2を有している。幅W1、W2はいずれもボール261aの直径よりも大きい。このため、シートフレーム22、23は左右方向だけでなく前後方向にも相対変位できる。
【0048】
本例では溝261b’、2221a’がストッパの役目を果たすため、ストッパ222a’、222b’は設けられていない。最大の相対変位量は、例えば、左右方向で数ミリ程度、前後方向で1mm未満である。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用シート
22、23 シートフレーム
222 軸部
234 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に支持される第1シートフレームと、
着座面を支持する第2シートフレームと、
前記第1シートフレームと前記第2シートフレームとを相対変位自在に連結する連結機構と、
を備えたことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記連結機構は、
前記第2シートフレームを、前記第1シートフレームに対して所定方向にスライド自在に連結することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記連結機構は、
前記第1及び第2シートフレームの一方に設けられ、前記所定方向に形成された孔部と、
前記第1及び第2シートフレームの他方に設けられ、前記孔部に挿通する軸部と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記第2シートフレームの前記所定方向のスライド範囲を規制する、前記孔部を挿通不能なストッパを前記軸部に設けたことを特徴とする請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記孔部に、前記孔部に対して前記軸部を滑動させる滑動部材を設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記第1シートフレームと前記第2シートフレームとの間に設けられ、前記第1シートフレームに対する前記第2シートフレームの位置が予め定めた初期位置となるように前記第2シートフレームを付勢する弾性部材を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記所定方向が前記車両用シートの左右方向であることを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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