説明

車両用シート

【課題】ウォークイン操作が簡便で、かつ、乗降スペースを広く空けられる構成を得る。
【解決手段】シートクッション3は、通常時、その後端部とシートバック2との間にシート前後方向の空きを形成する空所3Aを有した形状とされている。シートバック2は、その下端部からシート前方側に延出して設けられたアーム部2Aが、シートクッション3に対し、上記空所3Aよりもシート前方側の位置(回転中心4A)で回転止め可能にヒンジ連結されてその背凭れ角度が固定された状態とされている。上記空所3Aにより、シートバック2を上記ヒンジ連結された点(回転中心4A)のまわりに前方回転させて前傾姿勢の状態に切り替えた際にシート後方側に形成される乗降スペースSPが拡張される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、シートバックとシートクッションとを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、その外側の乗降ドアから後側の乗員が乗り降りするスペースを空けるために、シート本体を車両前方側へ退避させた状態に切り替えられる、いわゆるウォークイン機構が搭載されているものがある(特許文献1)。具体的には、シート本体の前下部が、フロアに対してヒンジ連結されており、このヒンジ連結点を中心にシート本体を前傾させることにより、その後側に広い乗降スペースが確保される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−193003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の従来技術では、シート本体全体を前傾させる構成であるため、操作が大掛かりとなる。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ウォークイン操作が簡便で、かつ、乗降スペースを広く空けられる構成を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートは次の手段をとる。
第1の発明は、シートクッションとシートバックとを有する車両用シートである。シートクッションは、通常時、その後端部とシートバックとの間にシート前後方向の空きを形成する空所を有した形状とされている。シートバックは、その下端部からシート前方側に延出して設けられたアーム部が、通常時、フロアに対して固定された状態とされるベース部材に対し、上記空所よりもシート前方側の位置で回転止め可能にヒンジ連結されてその背凭れ角度が固定された状態とされている。上記空所により、シートバックを上記ヒンジ連結された点を中心に前方回転させて前傾姿勢の状態に切り替えた際にシート後方側に形成される空きスペースが拡張される。
【0006】
この第1の発明によれば、シートクッションの後端部とシートバックとの間に形成された空所により、シートバックを前傾姿勢の状態に切り替えた際に、そのシート後方側に形成される空きスペースが拡張される。このように、シートバックのみを単体で前傾させて、その後方部に後側の乗員が乗り降りするスペースを空ける構成としても、シートクッションの後方部に形成した空所により、乗降スペースを広く空けられる構成を得ることができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、アーム部のヒンジ連結点が、ベース部材となるシートクッションの前端箇所に設定されているものである。
【0008】
この第2の発明によれば、アーム部のヒンジ連結点は、シートクッションの前端箇所に設定されることで、後方部に形成された空所から遠く離れた位置に設定される。したがって、シートバックを前傾させたときに、アーム部が空所から離れやすくなり、空所及びそのまわりをより広く空けて、乗降スペースをより広く空けることができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、シートバックに、上記空所内に延出してシートクッションと共に着座部を形成する延出部が形成されているものである。
【0010】
この第3の発明によれば、シートバックに形成された延出部により、通常使用時に、シートクッションの後端部とシートバックとの間に形成された空所に着座部が形成されて、着座乗員の尻部が広く支えられるようになる。したがって、通常使用時には、良好な着座感が得られ、シートバックを前傾姿勢に切り替えることで広い空きスペースを得ることのできる構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両用シートの概略構成を示した側面図である。
【図2】シートバックを前傾姿勢に切り替えた状態を示した側面図である。
【図3】リクライニング装置の分解斜視図である。
【図4】リクライニング装置のロック状態を示した内部断面図である。
【図5】リクライニング装置のアンロック状態を示した内部断面図である。
【図6】実施例2の車両用シートの構成を表した斜視図である。
【図7】実施例3の車両用シートの構成を表した側面図である。
【図8】実施例4の車両用シートの構成を表した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シート1の構成について、図1〜図5を用いて説明する。図1に示すように、本実施例の車両用シート1は、前後に1席ずつ並んで配される2人乗り車両の前席シートとして構成されている。この車両用シート1は、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、後頭部を支えるヘッドレスト2Cと、を備える。上記シートクッション3は、車両のフロアF上に固定されて設けられている。
【0014】
シートバック2は、その左右両サイドの下端部からシート前方側に延出して設けられた各アーム部2Aが、それぞれ、シートクッション3の左右両サイドの側面部の前端部に回転止め可能にヒンジ連結されており、常時はその背凭れ角度が固定された状態に保持されている。ここで、各アーム部2Aは、シートバック2の下端部から下方側に延びてからシート前方側へ延びるL字状に延びる形に形成されており、そのシート前方側へ延びる各部分が、シートクッション3の左右両サイドの側面に沿ってそれぞれ延びるように設けられている。これにより、各アーム部2Aは、着座乗員の左右両サイドの空き空間に露呈することがない状態とされて配設されている。ここで、シートクッション3が本発明の「ベース部材」に相当する。
【0015】
上記車両は、その前席となる車両用シート1の左右両外側(或いはどちらか一方の外側)にのみ乗降ドア(図示省略)が設けられており、この乗降ドアから、前席となる車両用シート1、及びその後側の後席シート(図示省略)への乗り降りをするようになっている。そこで、上記前席となる車両用シート1には、上記乗降ドアから後席シート(図示省略)の乗員が乗り降りする際に、その乗降スペースSPを広く空けられるように、シートバック2を図2に示す前傾姿勢の状態に切り替えられるようにするウォークイン機構が搭載されている。
【0016】
具体的には、図1に示すように、上記シートバック2は、その左右両サイドの下端部から延びるアーム部2Aの先端が、それぞれ、回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置4を間に介して、シートクッション3の左右両サイドの前端部に連結されている。これにより、シートバック2は、常時は、各リクライニング装置4がロック状態に保持されるロック構造により、シートクッション3に対する回転が止められた状態として、その背凭れ角度が固定された状態に保持されている。
【0017】
上記シートバック2の背凭れ角度の固定状態は、シートクッション3の車両外側の側部に設けられた図示しないレバーが操作されることによって解除される。この解除により、シートバック2は、上記シートクッション3とのヒンジ連結点(リクライニング装置4の回転中心4A)まわりに前後に傾動回転することができる状態となり、その背凭れ角度を前後に自由に調整することができる状態となる。ここで、上記シートバック2とシートクッション3とのヒンジ連結部には、シートバック2に常時前回転させる方向に附勢力をかけるばね部材(図示省略)が掛着されている。
【0018】
これにより、シートバック2は、車両用シート1に人が座った状態で、各リクライニング装置4のロックが解除されると、上記ばね部材の附勢力によって、上記ヒンジ連結点(回転中心4A)まわりに着座者の背部に押し当たる位置まで回転して、着座者の背部を前後に傾動させる動きに合わせて自由にその背凭れ角度を追従移動させるようになっており、着座者の背部を動かした各角度位置にその背凭れ角度位置が調整されるようになっている。ここで、シートバック2の背凭れ角度の調整ピッチは、各リクライニング装置4に設定された噛み合い歯の噛合ピッチ(約2°のピッチ)により、3°前後の角度ピッチに設定されている。
【0019】
一方、上記シートバック2は、車両用シート1に人が座っていない状態で、車両の乗降ドアの外側や後席側から上記レバー(図示省略)が操作されて、各リクライニング装置4のロックが解除された場合には、上記ばね部材(図示省略)の附勢力によって、図2に示す前傾した姿勢となる位置まで回転して、シートクッション3に設けられたストッパ(図示省略)に当たって係止された状態となる。具体的には、シートバック2は、アーム部2Aが空所3Aをシート上方側に越える位置まで回転して、シートバック2がシートクッション3の直上領域にかかる位置まで前傾して係止されるようになっている。これにより、シートバック2の後方側に形成される後席への乗降スペースSP(空きスペース)が広く空けられた状態となり、後席への乗り降りをスムーズにすることができる。
【0020】
ところで、図1に示すように、上記シートクッション3は、シートバック2が背凭れとして使用される通常時には、その後端部とシートバック2との間にシート前後方向に空きが形成される空所3Aを有した前後幅の短い構成とされている。この空所3Aは、シートクッション3の後端部とシートバック2との間に、シート幅方向に一様の空きを形成する形状とされている。この空所3Aは、乗員がシートクッション3に着座した際に、座骨が位置する部位よりも後方側の領域部に位置しており、シートクッション3の着座感を阻害することなく良好な着座感を保てる程度の空きを形成するものとして形成とされている。
【0021】
上記空所3Aにより、図2に示すように、シートバック2を上述したヒンジ連結点(回転中心4A)まわりに回転させて前傾姿勢の状態に切り替えた際に、シート後方側に形成される乗降スペースSP(空きスペース)が更に拡張されて、後席への乗り降りが更にスムーズに行えるようになっている。詳しくは、上記空所3Aは、シートクッション3の左右両サイドの後方部にそれぞれ空きを形成する形となっていることから、シートクッション3の左右両サイド(或いは一方のサイド)の後方部領域を通って乗降ドアと後席との間を行き来する乗降スペースSPが好適に拡張されるようになっている。
【0022】
また、上記空所3Aは、シートクッション3の後方部にシート幅方向の全域に亘って一様の空きを形成する形となっていることから、後側の乗員が降車する際に、その乗降ドアから遠い側の足を出口側へ移動させたり、後席に乗車してから体の向きを変えたりするときなどに必要となる、後席付近の足元スペースが広く確保され、このような点でも後側の乗員の乗り降りを更にスムーズにすることができるようになっている。また、上記空所3Aは、上記シートクッション3の後方部領域に形成されていることにより、後席の着座使用時(前席の車両用シート1も着座使用時)にも、後席の乗員の足元スペースを広げるように機能するようになっている。
【0023】
以下、上述した各リクライニング装置4の具体的な構成について、図3〜図5を用いて詳しく説明する。なお、各リクライニング装置4は、互いに左右対称となる同じ構成となっているため、以下ではこれらを代表して一方側の構成についてのみ説明することとする。図4に示すように、リクライニング装置4は、円盤形状のラチェット10及びガイド20と、2個のポール30と、スライドカム40と、ヒンジカム50と、渦巻きばね60と、外周リング70と、を有し、これらが互いに軸方向に1つに組み付けられて構成されている。
【0024】
上記ラチェット10は、その円盤部11の外周部に、ガイド20への組み付け方向となる板厚方向に円筒状に突出する円筒部12が形成されている。この円筒部12の内周面には、後述する各ポール30の外周歯面30aをそれぞれ噛合させることのできる内歯を有した内周歯面12aと、内歯のない滑らかな円弧面状に突出する乗上げ面12bと、が円周方向に並んで形成されている。上記ラチェット10は、その円盤部11の外側の盤面が、前述したシートバック2から延びるアーム部2Aに接合されて一体的に連結されている。上記ラチェット10の円盤部11の中心部には、リクライニング装置4のロック・アンロックの切換え操作を行う図示しない操作軸を挿通するための貫通孔14が形成されている。
【0025】
ガイド20は、上述したラチェット10よりもひとまわり大きな外径をもつ円盤形状に形成され、その円盤部21の外周部には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向(軸方向)に円筒状に突出する円筒部22が形成されている。上記円筒部22は、その内径がラチェット10の円筒部12の外径よりも僅かに大きくなっており、その円筒内部にラチェット10の円筒部12を軸方向に組み付けることにより、両円筒部12,22が互いに内外に緩やかに嵌合した状態となって、ラチェット10とガイド20とが互いに相対回転可能に内外に支え合った状態に組み付けられるようになっている。そして、上記組み付けられたラチェット10とガイド20は、これらの外周部間に跨って組み付けられる外周リング70によって、互いに軸方向に外れ止めされた状態として保持されるようになっている。
【0026】
上記ガイド20の円盤部21上の円周方向の4箇所の位置には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向に突出する案内壁21a,21b,21c,21d(以下、案内壁21a〜21dとする。)が形成されている。これら案内壁21a〜21dは、図4〜図5に示すように、ガイド20の円盤部21上にセットされる各ポール30を、それぞれ半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支持する構成となっている。上記ガイド20は、図3に示すように、その円盤部21の外側の盤面が、シートクッション3のフレーム部に接合されて一体的に連結されている。上記ガイド20の円盤部21の中心部には、前述した図示しない操作軸を挿通するための貫通孔25が形成されている。
【0027】
上記ガイド20の円盤部21には、その内側の盤面上に、「十」符号状に凹んだガイド溝23が形成されている。上記ガイド溝23は、その「十」符号状に凹んだ溝形状のうち、ガイド20の中心部から図示上側と下側にそれぞれ延び出す2つの溝部が、それぞれ、上述した2つのポール30をそれぞれ半径方向の内外方に移動可能に内部に収容することのできるポール溝23aとして形成されている。また、上記ガイド溝23のうち、中央部とその図示左右方向に延び出す溝部は、後述するスライドカム40を上記各ポール30の移動方向とは垂直な方向に移動可能に内部に収容することのできるカム溝23bとして形成されている。
【0028】
ポール30は、前述したガイド20に形成された各ポール溝23a内にセットされて、各ポール溝23a内の形状に沿って半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支えられた状態として配設されている。これらポール30は、それらの外周面が、前述したラチェット10の円筒部12の内周歯面12aと噛合可能にそれぞれ湾曲して外歯を有した外周歯面30aとされて形成されている。上記各ポール30は、図4に示すように、後述するスライドカム40のスライド動作によって半径方向の外側に押し出されることにより、それらの外周歯面30aがラチェット10の円筒部12の内周歯面12aに噛合された状態となる。これにより、各ポール30は、ラチェット10に対して回転方向(円周方向)に一体的な状態とされて保持される。
【0029】
上記各ポール30は、ガイド20との関係においては、各案内壁21a〜21dによる円周方向の支えによって、半径方向の内外方にしかスライドすることができないようになっている。したがって、ラチェット10は、上記各ポール30が噛合されることにより、これらポール30を介してガイド20に対して回転方向に一体的とされた状態、すなわちガイド20に対する回転がロックされた状態となって保持される。これにより、リクライニング装置4が回転ロックされた状態となる。
【0030】
このリクライニング装置4の回転ロック状態は、図5に示すように、スライドカム40が逆方向にスライド操作されて、各ポール30がスライドカム40のフック44によって引掛部31が半径方向の内側に引き込まれてラチェット10との噛合状態から外されることにより解除されるようになっている。上記スライドカム40は、その中心部の貫通孔41内に挿通されたヒンジカム50の回転により、図示左右方向にそれぞれスライド操作されるようになっている。上記ヒンジカム50は、その一部がガイド20の中心部に形成された貫通孔25内に嵌め込まれて回転可能に軸支されており、その中心部に挿通された操作軸(図示省略)が前述したレバー(図示省略)によって操作されることで回転操作されるようになっている。上記ヒンジカム50は、常時は、ガイド20との間に掛着された渦巻きばね60の附勢力によって、スライドカム40を図4に示すスライド方向に押し動かした状態として、各ポール30をラチェット10の内周歯面12aに噛合させた状態(ロック状態)に保持した状態となっている。そして、ヒンジカム50は、上記図示しないレバーの操作によって上記附勢に抗した方向に回されることで、スライドカム40を上記とは反対方向に移動操作して、各ポール30をラチェット10との噛合状態から外すようになっている。
【0031】
ところで、上述した各ポール30は、ラチェット10のガイド20に対する回転位置が、いずれかのポール30の移動先の位置に乗上げ面12bが位置する状態となる時には、そのロック移動が乗上げ面12bに乗り上がって阻止されて、ロック作動できないようになっている。具体的には、上記いずれかのポール30が乗上げ面12bに乗り上がることにより、各ポール30に押し出し方向の押圧力をかけているスライドカム40の移動も制止された状態となる。これにより、全てのポール30のロック作動が止められた状態として、リクライニング装置4がアンロック状態に留められるようになっている。このように、上述した乗上げ面12bがいずれかのポール30と干渉する回転角度領域では、リクライニング装置4のロック作動が阻止されるため、前述したレバー(図示省略)の操作状態が解除されても、リクライニング装置4はロック状態に戻されることなくアンロック状態に保たれるようになっている(フリーゾーン)。
【0032】
このフリーゾーンの回転角度領域は、図2に示すように、シートバック2を通常時、背凭れとして使用する角度位置から前方側へ回転させていく角度領域に設定されている。これにより、シートバック2を前傾姿勢となる位置まで回転させていく操作の途中で、上記図示しないレバーの操作をやめてしまっても、シートバック2を途中位置で止めることなく前傾位置まで簡便に傾倒させていけるようになっている。また、シートバック2を上記前傾位置から元の背凭れ使用する位置まで戻す操作時にも、上記レバーの操作をし続けることなく簡便に行えるようになっている。
【0033】
このように、本実施例の車両用シート1の構成によれば、シートクッション3の後端部とシートバック2との間に形成された空所3Aにより、シートバック2を前傾姿勢の状態に切り替えた際に、そのシート後方側に形成される空きスペース(乗降スペースSP)が拡張される(図2参照)。このように、シートバック2のみを単体で前傾させて、その後方部に後席の乗員が乗り降りするスペースを空ける構成としても、シートクッション3の後方部に形成した空所3Aにより、乗降スペースSPを広く空けられる構成を得ることができる。
【0034】
また、アーム部2Aのヒンジ連結点は、シートクッション3の前端箇所に設定されており、シートクッション3の後方部に形成された空所3Aから遠く離れた位置に設定されている。したがって、シートバック2を前傾させたときに、アーム部2Aが空所3Aから離れやすくなり、空所3A及びそのまわりの空間をより広く空けて、乗降スペースSPをより広く空けることができる。
【実施例2】
【0035】
続いて、実施例2の車両用シート1の構成について、図6を用いて説明する。なお、本実施例では、実施例1で説明した車両用シート1と実質的な構成及び作用が同じとなっている箇所については、これらと同一の符号を付して説明を省略し、異なる箇所について異なる符号を付して詳しく説明することとする。本実施例の車両用シート1は、シートクッション3の後端部が、次のような形に形成されている。
【0036】
すなわち、シートクッション3の後端部には、そのシート幅方向の中央部に、シートバック2との間にシート前後方向の空きが形成されないようにシート後方側へ延びる尻支え部3Bが形成されている。そして、この尻支え部3Bの左右両サイド部に、実施例1で示した構成と同じ機能をする空所3Aが形成されている。このように、シートクッション3の後方部において、シート幅方向の両サイド部にのみ空所3Aを形成するようにしても、シートバック2を前傾姿勢の状態に切り替えた際に、シートクッション3の左右両サイド(或いは一方のサイド)の後方部領域を通って乗降ドアと後席との間を行き来する乗降スペースSPを好適に拡張することができる。
【0037】
また、後席の着座使用時(前席の車両用シート1も着座使用時)にも、後席の乗員の足元スペースを両サイド部において広く確保することができる。また、尻支え部3Bが形成されていることにより、上記のように乗降スペースSPを広く拡張できる構成としつつも、シートクッション3への着座使用時には、着座者の尻部を広い面で支えて、良好な着座感を得られるようにすることができる。
【実施例3】
【0038】
続いて、実施例3の車両用シート1の構成について、図7を用いて説明する。なお、本実施例では、実施例1で説明した車両用シート1と実質的な構成及び作用が同じとなっている箇所については、これらと同一の符号を付して説明を省略し、異なる箇所について異なる符号を付して詳しく説明することとする。本実施例の車両用シート1は、シートバック2に、その下端部から、シートクッション3の後方部に空いた空所3A内に延出する延出部2Bが形成された構成となっている。
【0039】
この延出部2Bは、シートバック2の下端部から下方側に延びて前方側に延び出すL字状に延出する形に形成されており、着座乗員の身体の形に合うように、シートバック2及びシートクッション3の面とそれぞれ面一状に面を延長させるようにL字状に面を延ばす形に形成されている。この延出部2Bにより、シートクッション3の後方部に形成された空所3Aが詰められて、シートクッション3の着座使用時に、着座者の尻部を広い面で支えて、良好な着座感が得られるようにすることができる。この延出部2Bは、シートバック2が前傾姿勢に切り替えられることにより、シートバック2と共に移動して、空所3Aから離れるため、実施例1で示した構成と同じように乗降スペースSPを阻害することなく広く確保することができる。
【実施例4】
【0040】
続いて、実施例4の車両用シート1の構成について、図8を用いて説明する。なお、本実施例では、実施例1で説明した車両用シート1と実質的な構成及び作用が同じとなっている箇所については、これらと同一の符号を付して説明を省略し、異なる箇所について異なる符号を付して詳しく説明することとする。本実施例の車両用シート1は、シートバック2の下端部から延出するアーム部2Aのシートクッション3に対するヒンジ連結点(回転中心4A)が、シートクッション3の左右両サイドの側面部の後端寄りの中間部位に設定されている。
【0041】
このように、シートバック2のヒンジ連結点(回転中心4A)が、シートクッション3の後端寄りの中間部位に設定されていても、空所3Aより前方側の位置に設定されていることで、シートバック2を前傾位置まで傾倒させた際に、アーム部2Aを空所3Aからある程度離して、乗降スペースSPを拡張させることができる。また、アーム部2Aに必要なシート前後方向の長さが短くなるため、シートバック2の傾倒操作が高さ方向にコンパクトに行えるようになると共に、軽い力で行えるようにもなる。
【0042】
以上、本発明の実施形態を4つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、シートバックから延びるアーム部をヒンジ連結する対象は、シートクッションでなくてもよく、通常時、フロアFに対して固定された状態とされるベース部材であれば構わない。例えば、ベース部材は、フロアとの間にスライド装置が設けられていて、通常時は、フロアに対して固定された状態とされるが、所定時に、スライドロックを解除してスライド位置を変えられるように構成されたものであってもよい。
【0043】
また、アーム部は、シートバックを前傾姿勢の状態に切替えたときに、空所から完全には離れずに、空所のサイド部にかかるように残ってしまう構成であっても構わない。この場合であっても、後席の着座使用時(前席の車両用シートも着座使用時)に、後席の乗員の足元スペースを空所によって広く確保することはできる。また、アーム部は、後席への乗降性を重視して、L字状に曲がった形ではなく、シートバックの下端や中間箇所からベース部材とのヒンジ連結点に向けて真っ直ぐに延びる形状にして、シートバックが前傾姿勢に切り替えられた状態時に、空所から効果的に離れる構成としたものであっても構わない。但し、この場合には、前席の着座使用時に、着座者の両サイド部にアーム部が張り出して、使用感が損なわれるおそれがあることに留意が必要となる。
【0044】
また、本発明の車両用シートは、3列シートを備えた車両の2列目のシートとして適用されていても、好適な作用効果を奏するものである。すなわち、車両用シートは、シート全体ではなく、シートバックのみを前傾移動させる構成であることから、傾倒させたシート部材(シートバック)がその前側のシートと干渉するおそれが少なく、十分な傾倒量を確保して後席への乗降スペースを広げることができる。
【0045】
また、後席への乗降スペースを空けるためのシートバックの前傾姿勢への切り替えは、シートバック自体が前傾姿勢となる位置まで行われるものでなくてもよい。すなわち、シートバックが背凭れとして使用される角度位置から前傾した状態となっていれば、シートバック自体は垂直よりも後傾した姿勢状態となっているものであっても構わない。シートバックの「前傾姿勢」とは、シートバックを背凭れとして使用する角度位置から前方側に傾けた姿勢状態を指し、シートバックの傾き角度自体は特に制限されないものである。
【符号の説明】
【0046】
1 車両用シート
2 シートバック
2A アーム部
2B 延出部
2C ヘッドレスト
3 シートクッション(ベース部材)
3A 空所
3B 尻支え部
4 リクライニング装置
4A 回転中心
10 ラチェット
11 円盤部
12 円筒部
12a 内周歯面
12b 乗上げ面
14 貫通孔
20 ガイド
21 円盤部
21a〜21d 案内壁
22 円筒部
23 ガイド溝
23a ポール溝
23b カム溝
25 貫通孔
30 ポール
30a 外周歯面
31 引掛部
40 スライドカム
41 貫通孔
44 フック
50 ヒンジカム
60 渦巻きばね
70 外周リング
F フロア
SP 乗降スペース(空きスペース)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを有する車両用シートであって、
前記シートクッションは、通常時、その後端部と前記シートバックとの間にシート前後方向の空きを形成する空所を有した形状とされており、
前記シートバックは、その下端部からシート前方側に延出して設けられたアーム部が、通常時、フロアに対して固定された状態とされるベース部材に対し前記空所よりもシート前方側の位置で回転止め可能にヒンジ連結されてその背凭れ角度が固定された状態とされており、
前記空所により前記シートバックを前記ヒンジ連結された点を中心に前方回転させて前傾姿勢の状態に切り替えた際にシート後方側に形成される空きスペースが拡張されることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
前記アーム部のヒンジ連結点が、前記ベース部材となる前記シートクッションの前端箇所に設定されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用シートであって、
前記シートバックに、前記空所内に延出して前記シートクッションと共に着座部を形成する延出部が形成されていることを特徴とする車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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