説明

車両用シールド導電体及び車両用シールド導電体の製造方法

【課題】車両用シールド導電体における放熱性の向上を図る。
【解決手段】車両用シールド導電体Waは、金属製のパイプ10内に、電線20を挿通させた形態であって空気よりも熱伝導率の高い伝熱体30を収容した構造になる。パイプ10内における電線20との隙間には伝熱体30が介在されているので、通電により電線20で発生した熱は、伝熱体30に伝達され、伝熱体30からパイプ10に伝達され、パイプ10の外周から大気中へ放出される。伝熱体30は、空気よりも熱伝導率が高いので、伝熱体がパイプ内に収容されていないものと比較すると、電線20で発生した熱を放出する性能に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シールド導電体及び車両用シールド導電体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノンシールド電線を使用したシールド導電体としては、複数本のノンシールド電線を、金属細線をメッシュ状に編んだ筒状の編組線からなるシールド部材で包囲することにより一括してシールドする構造のものが考えられている。この種の車両用シールド導電体においてシールド部材と電線を保護する方法としては、一般に、シールド部材を合成樹脂製のプロテクタで包囲する手段がとられるが、プロテクタを用いると部品点数が増えるという問題がある。
【0003】
そこで、本願出願人は、特許文献1に記載されているように、ノンシールド電線を金属製のシールドパイプ内に挿通する構造を提案した。この構造によれば、シールドパイプが、電線をシールドする機能と電線を保護する機能を発揮するので、シールド部材とプロテクタを用いたシールド導電体に比べて部品点数が少なくて済むという利点がある。
【特許文献1】特開2004−171952公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールドパイプを用いたシールド導電体では、電線とシールドパイプとの間に空気層が存在しているため、通電時に電線で発生した熱が、熱伝導率の低い空気によって遮断されてシールドパイプに伝わり難く、しかも、シールドパイプには、編組線における編み目の隙間のような外部との通気経路が存在しないため、電線で発生した熱がシールドパイプの内部に籠もり易く、放熱性が低くなる傾向がある。
ここで、電線に所定の電流を流したときの発熱量は、電線の導体の断面積が大きい程小さくなり、発熱に起因する電線の温度上昇値は、導電路の放熱性が高いほど小さく抑えられる。したがって、電線の温度上昇値に上限が定められている環境下では、上記のように放熱効率の低いシールド導電体の場合、導体の断面積を大きくして発熱量を抑える必要がある。
ところが、導体の断面積を増大することは、シールド導電体が大径化し重量化することを意味するため、その対策が望まれる。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、シールドパイプを用いたシールド導電体における放熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、電気自動車に取り付けられる車両用シールド導電体であって、前記電気自動車に取り付けられる金属製のパイプと、前記パイプに挿通されて前記電気自動車の動力用線路を構成する電線と、前記パイプ内において前記電線の外周を包囲して設けられた伝熱体とを備えているところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記伝熱体の外面と前記パイプの内周面との間に、流動性を有する伝熱材が充填されているところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記伝熱体の外周面には、前記電線の延長方向に沿って延びる複数本のリブが形成されているところに特徴を有する。
請求項4の発明は、請求項3に記載のものにおいて、前記リブが、前記伝熱体の外周面に螺旋状に巻き付く形状であるところに特徴を有する。
【0008】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記伝熱体が、複数本の前記電線を一括して包囲する形態とされているところに特徴を有する。
【0009】
請求項6の発明は、電気自動車に取り付けられる車両用シールド導電体を製造する方法であって、前記電気自動車の動力用線路を構成する電線の外周を、合成樹脂からなる伝熱体によって包囲して伝熱体付き電線を成型するステップと、前記伝熱体付き電線を金属製のパイプに挿入するステップとを実行するところに特徴を有する。
【0010】
請求項7の発明は、請求項6に記載のものにおいて、前記伝熱体付き電線を前記パイプ内に挿入するのに先立ち、前記伝熱体の周囲に流動性を有する伝熱材を付着させ、その状態で前記伝熱体付き電線を前記パイプに挿入することで、前記伝熱体の外面と前記パイプの内周面との間に前記伝熱材を充填させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
<請求項1及び請求項6の発明>
パイプ内における電線との隙間には伝熱体が介在しているので、通電により電線で発生した熱は、伝熱体に伝達され、伝熱体からパイプに伝達され、パイプの外周から大気中へ放出される。本発明によれば、パイプ内周と電線との間に断熱性の高い空気層が存在しているものと比較すると、電線で発生した熱を放出する性能に優れている。
【0012】
<請求項2及び請求項7の発明>
伝熱体の外面とパイプの内周面との隙間に伝熱材が充填されているので、伝熱体の外面とパイプの内周との間に断熱性の高い空気層が介在しているものに比べると、伝熱体からパイプへの熱の伝達効率に優れている。
【0013】
<請求項3の発明>
パイプ内に伝熱体と電線を挿通した状態でパイプに曲げ加工を施す場合には、曲げ部でパイプの断面形状が扁平に変化するのであるが、この扁平への形状変化を妨げる力は曲げ加工の抵抗となる。この点に鑑み、本発明では、伝熱体の外周面に、部分的に突出する形態であって比較的容易に潰れ変形するリブを形成しているので、パイプは、その内周でリブを潰しつつ扁平状に形状変化することができ、ひいては、円滑な曲げ加工が行われる。
また、伝熱体の外周に伝熱材が塗布されている場合は、伝熱材がリブによって周方向への流動を規制されるので、伝熱体の全周に亘って伝熱材が塗布された状態に保たれる。これにより、伝熱体の外周とパイプの内周との間に空気層が発生するのを確実に防止することができる。
【0014】
<請求項4の発明>
伝熱体をパイプに挿入する際には、伝熱材がパイプの内周との摩擦抵抗により挿入方向後方へずれていき、挿入方向前端側では伝熱材の充填量が不足することが懸念される。しかし、本発明では、リブを螺旋状として、リブの側面が、堰となって伝熱材の後退を規制するようにしたので、伝熱体の前端側において、伝熱材の充填量が不足することがなく、伝熱材の不足に起因する空気層の発生が防止される。
【0015】
<請求項5の発明>
1本の電線を個別に伝熱体で包囲するものでは、伝熱体同士の間に空気層が生じることが懸念されるが、本発明では、伝熱体が複数本の電線を一括して包囲しているので、1本のパイプ内に挿通する伝熱体の数を1つだけとすることができ、伝熱体同士の間に空気層が介在することを回避できる。
尚、伝熱体で複数本の電線を一括して包囲する手段としては、金型に複数本の電線をセットして伝熱体をモールド成形する方法があるが、この場合は、電線の外周を伝熱体に対して隙間なく密着させることができる。これにより、電線と伝熱体との隙間に空気が介在するものと比較すると、電線から伝熱体への伝熱効率に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図8を参照して説明する。本実施形態の車両用シールド導電体Waは、電気自動車EVにおいて走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの機器(図示せず)の間に配索されるものであり、一括シールド機能と電線保護機能を兼ね備えるパイプ10内に、3本のノンシールドタイプの電線20を挿通するとともに、放熱性能を向上させるための伝熱体30を収容した構成となっている。
【0017】
パイプ10は、金属製(例えば、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス等)であって、空気よりも熱伝導率が高い。パイプ10の断面形状は、電線20と同様、真円形をなしている。かかるパイプ10は、製造工程のうち後述する伝熱体付き電線25を挿挿入する前及び挿入する過程においては一直線状をなしている。そして、伝熱体付き電線25をパイプ10に挿通させた後は、伝熱体付き電線25とともにパイプ10に曲げ加工を施す。
【0018】
電線20は、金属製(例えば、アルミニウムや銅及び銅合金類など)の芯線21の外周を合成樹脂製の絶縁被覆22で包囲した形態であり、芯線21は、複数本の細線(図示せず)を螺旋状に寄り合わせた撚り線、又は棒状の単芯線からなる。電線20の断面形状については芯線21と絶縁被覆22の双方が真円形とされている。また、絶縁被覆22の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が用いられている。かかる電線20は、電気自動車EVの動力用線路を構成する。
【0019】
伝熱体30は、後述するように3本の電線20を一括して包囲する形態でモールド成形されたものであって、全体として円形断面の細長い形状をなしている。また、伝熱体30の材料としては、電線20の絶縁被覆22と同じ種類であって、空気よりも熱伝導率の高い合成樹脂が用いられている。3本の電線20は伝熱体30を貫通した形態となっており、伝熱体30の内部において、3本の電線20は、互いに当接するとともに概ね俵積み状(電線20の中心を結んだときにほぼ正三角形を描く形態)をなすように束ねられた状態となっている。電線20の絶縁被覆22の外周面と伝熱体30との間には隙間がなく、3の電線20によって囲まれた中央空間内にも伝熱体30を構成する合成樹脂材料が充填されている。また、3本の電線20は、その3本の電線に外接する包絡円が伝熱体30と概ね同心となるように配置されているとともに、包絡円の外径は伝熱体30の外径よりも小さい寸法とされている。
【0020】
伝熱体30の外周には、周方向に所定の間隔を空けた複数のリブ31が、伝熱体30の全長に亘って連続し、且つ伝熱体30の軸線方向(長さ方向)と平行に直線状に延びるように突出形成されている。各リブ31の横断面形状は、概ね扇形、即ち長方形をその長辺が湾曲するように変形させた形状をなしている。即ち、リブ31の外周面は、伝熱体30の外周面と同心の円に沿った円弧面となっており、このリブ31の外周面を結ぶ円の径は、パイプ10の内径と同じかそれよりも僅かに小さい寸法とされている。また、周方向における各リブ31の幅寸法は、周方向に隣り合うリブ31の間隔とほぼ同じ寸法であって、径方向におけるリブ31の突出寸法に比べて十分大きい寸法となっている。そして、周方向に隣り合うリブ31によって構成される溝32内には、空気よりも熱伝導率の高い合成樹脂製(例えば、ポリウレタン等)の液体状をなす(即ち、流動性を有する)伝熱材33が塗布(充填)されている。尚、溝32の横断面形状も、リブ31と同じ形状をなしている。
【0021】
次に、車両用シールド導電体Waの製造工程を説明する。
まず、図2に示すように端末処理が施されていない3本の電線20を、概ね俵積み状に束ねたモールド金型40内にセットする(図3を参照)。モールド金型40は、伝熱体30を押し出し成形するためのものであって、流動状態とした樹脂材料の流路と、伝熱体30の断面形状と同一形状であって流路をモールド金型40外へ連通させる押し出し口とを備えている。3本の電線20は、端部を押し出し口に臨ませた状態で、流路内に収容されている。押し出し口からは、3本の電線20を一括して包囲する状態で伝熱体30が成形されつつ押し出される。つまり、3本の電線20は伝熱体30と一体となって押し出し口からモールド金型40外へ導出され、伝熱体付き電線25となる。モールド成形後は、3本の電線20を伝熱体30によって一括して包囲した形態の伝熱体付き電線25を、必要な長さに切断する。切断済みの伝熱体付き電線25の端面からは電線20は突出していない。
【0022】
図4に示すように伝熱体付き電線25(伝熱体30)を成形した後、伝熱体30の外周の各溝32に伝熱材33を塗布(充填)する(図5を参照)。このとき、リブ31の外周面にも伝熱材33が塗布されていてもよい。この後、伝熱体付き電線25をパイプ10の一端の開口からパイプ10内に挿入する(図6を参照)。
パイプ10に伝熱体付き電線25を挿通させた状態では、伝熱体30のリブ31の外周面とパイプ10の内周面との間に殆ど隙間がなく、概ね面接触した状態となるので空気層が殆ど存在しない。尚、リブ31の外周面に伝熱材33が塗布されている場合には、その伝熱材33がリブ31とパイプ10との隙間を埋めるので、空気層は全く存在しない。また、伝熱体30の外周面とパイプ10の内周面との間には伝熱材33が介在しているので、空気層は存在しない。
尚、伝熱体付き電線25をパイプ10に挿入するときには、伝熱体30の外周に伝熱材33が付着されているので、伝熱体30(伝熱体付き電線25)の外面とパイプ10の内周面との間の摩擦抵抗は大幅に低減されており、挿入作業は円滑に行われる。
【0023】
また、パイプ10に伝熱体付き電線25を挿通させた状態では、伝熱体30の端部がパイプ10の外部へ突出されているので、この突出している端部に対し、まず、伝熱体30を除去する処理を施し、次いで、各電線20の絶縁被覆22を除去し、芯線21を露出させた状態にする。
尚、伝熱体付き電線25の挿入時には、予め、パイプ10の端部は外周側へ折り返すように曲げ加工されており、この曲げ加工部11には、金属細線をメッシュ状に編んだ筒状の編組線からなる可撓性シールド部材12の端部が固着されるようになっている。
【0024】
また、この電線20に対する端末処理と前後して、パイプ10には曲げ加工が施される。このとき、パイプ10内の伝熱体付き電線25も一緒に曲げ加工される。パイプ10内に伝熱体30と電線20を挿通した状態でパイプに曲げ加工を施す場合には、曲げ部でパイプ10の断面形状が扁平に変化するのであるが、この扁平への形状変化を妨げる力は曲げ加工の抵抗となる。つまり、パイプ10の内周が伝熱体30の外周面に当接し、伝熱体30(及びその内部の電線20)の剛性のために扁平への変形を規制されることが、曲げの抵抗となるのである。とこが、本実施形態では、伝熱体30の外周面に、部分的に突出する形態であって比較的容易に潰れ変形可能なリブ31を形成しているので、パイプ10は、その内周でリブ31を潰すことによって扁平状に形状変化することができる。したがって、円滑な曲げ加工が行われる。
以上により、本実施形態の車両用シールド導電体Waの製造が完了する。
【0025】
製造された車両用シールド導電路Waは、電気自動車EVに取り付けられる。ここで、電気自動車EVについて説明する。図8に示すように、電気自動車EVの車体Bdの前部にはエンジンルームが設けられ、エンジンルーム内には、走行用モータを駆動するための動力回路を構成するインバータIvとガソリン駆動のエンジンEgとが収容されている。車体Bdの後部には動力回路を構成するバッテリBtが搭載されている。また、エンジンルームの下方には、前輪駆動用のモータMが配置されており、車体Bdの後部には、後輪駆動用のモータ(図示せず)が配置されている。
【0026】
インバータIvとバッテリBtとの間には車両用シールド導電体Waと車内用導電路Wiが配索され、インバータIvと前輪駆動用のモータMとの間には車内用導電路Wiが配索され、インバータIvと後輪駆動用のモータとの間には車両用シールド導電体Waと車内用導電路Wiが配索されている。
【0027】
インバータIvとバッテリBtとの間に配索される車両用シールド導電体Waは、車体Bdの床下(床板Fpの下方)に沿うように概ね水平に配索され、ブラケット(図示せず)により車体Bdに支持されている。
【0028】
車内用導電路Wiは、車両用シールド導電路Waの両端部に接続されたものであり、パイプ10の外部において3本の電線20を一括して包囲する編組線からなる筒状のシール部材を備えており、容易に屈曲できるようになっている。そのため、ボディBd内やエンジンルーム内などの狭い空間内に配索するにも適している。
【0029】
次に、本実施形態の効果について説明する。
伝熱体がパイプ内に収容されていない従来の車両用シールド導電体(図示せず)では、電線とパイプとの間に空気層が存在しているため、通電時に電線で発生した熱が、熱伝導率の低い空気層によって遮断されてパイプに伝わり難く、しかも、パイプには、編組線における編み目の隙間のような外部との通気経路が存在しないため、電線で発生した熱がパイプの内部に籠もり易く、放熱性が低くなる傾向がある。
【0030】
しかし、本実施形態の車両用シールド導電体Waは、パイプ10内に、空気よりも熱伝導率の高い合成樹脂製の伝熱体30を収容するとともに、伝熱体30の外周とパイプ10の内周の隙間に伝熱材33を充填し、伝熱体30を電線20の外周とパイプ10の内周に面接触させるとともに、伝熱材33をパイプ10の内周にせ接触させたので、電線20で発生した熱は、(1)電線20の絶縁被覆22の外周から伝熱体30に伝達され、伝熱体30の内部を伝わり、リブ31の外周からパイプ10の内周に伝達される経路、又は(2)電線20の絶縁被覆22の外周から伝熱体30に伝達され、伝熱体30の内部を伝わり、伝熱体30の外周から伝熱材33に伝達され、伝熱材33からパイプ10の内周に伝達される経路を通り、パイプ10の外周から大気中に放出されるようになっている。伝熱体30と伝熱材33は、空気よりも熱伝導率が高いので、伝熱体と伝熱材が設けられていないものに比べると、本実施形態では、電線20で発生した熱をパイプ10の外周面から大気中へ放出する性能に優れている。
また、伝熱体30が、電線20を包囲する形態でモールド成形されているので、電線20の絶縁被覆22の外周を伝熱体30に対して隙間なく密着させることができる。これにより、電線20と伝熱体30との隙間に空気が介在するものと比較すると、電線20から伝熱体30への伝熱効率に優れている。
【0031】
上記のように放熱性能が向上したことによる効果としては、車両用シールド導電体Waの軽量化を図ることが期待できる。即ち、電線20(芯線21)に所定の電流を流したとき、芯線21の断面積が小さい程、電線20の発熱量が大きくなるのであるが、本実施形態のように放熱性に優れていれば、電線20の発熱量が大きくても電線20の温度上昇を低く抑えることができる。したがって、電気自動車EVのように電線20の温度上昇値に上限が定められている環境下では、従来の車両用シールド導電体を、伝熱体30を備えることで放熱性を向上させた本実施形態の車両用シールド導電体Waに変更することで、電線20における発熱許容量が相対的に大きくなる。そして、電線20における発熱許容量が相対的に大きくなる、ということは、電線20の温度上昇値に上限が定められた環境下において使用可能な芯線21の断面積を小さくできることを意味し、芯線21の断面積を小さくすることで、車両用シールド導電体Waの軽量化及び小径化が可能となる。
【0032】
また、伝熱体30の外周とパイプ10の内周との隙間に伝熱材33が介在しているので、伝熱体30をパイプ10内に挿入する際には、摩擦抵抗が低減されて作業性に優れている。
また、伝熱材33は伝熱体30の外周に塗布されているのであるが、伝熱体30の外周における伝熱材33の塗布領域に形成したリブ31により、伝熱材33の周方向への流動が規制されているので、伝熱材33の塗布厚さは伝熱体30の全周に亘ってほぼ均一となる。したがって、伝熱体30をパイプ10に挿入する際の摩擦抵抗低減効果が高い。
また、1本の電線を個別に伝熱体で包囲するものでは、伝熱体同士の間に空気層が生じることが懸念されるが、本実施形態では、伝熱体30が複数本の電線20を一括して包囲しているので、1本のパイプ10内に挿通する伝熱体30の数を1つだけとすることができる。これにより、伝熱体30同士の間に空気層が介在することを回避できる。
【0033】
<実施形態2>
次に、本発明を具体化した実施形態2を図9を参照して説明する。上記実施形態1では、伝熱体30の外周のリブ31を伝熱体30の軸線方向と平行な直線状に延びる形態としたが、本実施形態2の車両用シールド導電体Wbでは、伝熱体40の外周に形成した複数本のリブ41を、互いに同一ピッチの螺旋状としたものであり、リブ41間の溝42には伝熱材33が充填(塗布)されている。
伝熱体40をパイプ10に挿入する際には、伝熱材33がパイプ10の内周との摩擦抵抗により伝熱体40に対して相対的に挿入方向後方へずれていき、伝熱体40の挿入方向前端側では伝熱材33の充填量が不足することが懸念される。しかし、本実施形態2では、リブ41を螺旋状として、リブ41の外側面(溝42の内側面)が、堰となって伝熱材33の後退を規制したので、伝熱体40の前端側において、伝熱材33の充填量が不足することがなく、伝熱材33の充填量の不足に起因して伝熱体40の外周とパイプ10の内周との間に空気層が発生することが防止される。
尚、その他の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0034】
<実施形態3>
次に、本発明を具体化した実施形態3を図10を参照して説明する。上記実施形態1では、伝熱体30の外周のリブ31の横断面形状を方形としたが、本実施形態3の車両用シールド導電体Wcでは、伝熱体50の外周に形成したリブ51の横断面形状が、略円弧形、若しくはドーム形をなしている。各リブ51の最外周端縁(稜線)は、パイプ10の内周面に対しパイプ10の軸線と平行な線接触状に当接する。
尚、その他の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0035】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では1つのパイプ内に3本の電線を挿通したが、本発明によれば、1つのパイプに挿通される電線の本数は1本、2本、4本以上のいずれとしてもよい。
(2)上記実施形態では電線を芯線の外周を絶縁被覆で包囲した形態としたが、本発明によれば、伝熱体が絶縁材料からなる場合には、電線が絶縁被覆で包囲されていない形態としてもよい。
(3)上記実施形態では伝熱材を伝熱体の外周のみに塗布したが、本発明によれば、伝熱材をパイプの内周のみに塗布してもよく、伝熱体の外周とパイプの内周の両方に塗布してもよい。
(4)上記実施形態では伝熱体の外周とパイプの内周との間に伝熱材を介在させたが、本発明によれば、伝熱体の外周とパイプの内周との間に伝熱材を介在させない形態としてもよい。
(5)上記実施形態では伝熱体の外周のリブを伝熱体の全長に亘って連続する形態としたが、本発明によれば、リブが伝熱体の長さ方向において分断された形態であってもよい。
(6)上記実施形態では伝熱体の外周にリブを形成したが、本発明によれば、伝熱体の外周にリブを形成しない形態としてもよい。
(7)上記実施形態では周方向における各リブの幅寸法を周方向に隣り合うリブの間隔とほぼ同じ寸法としたが、本発明によれば、周方向における各リブの幅寸法を、周方向に隣り合うリブの間隔に比べて十分大きい寸法、又は十分小さい寸法としてもよい。
(8)上記実施形態では周方向におけるリブの幅寸法を径方向におけるリブの突出寸法に比べて十分大きい寸法としたが、本発明によれば、周方向におけるリブの幅寸法を、径方向におけるリブの突出寸法に比べて十分小さい寸法、又は径方向におけるリブの突出とほぼ同じ寸法としてもよい。
(9)上記実施形態では電線を包囲する形態で伝熱体をモールド成形したが、本発明によれば、成形済みの伝熱体に電線を挿入してもよい。この場合、伝熱体をパイプに挿通した後で、電線を伝熱体に挿入してもよい。
(10)上記実施形態では電線の絶縁被覆と伝熱体を同じ種類の合成樹脂材料としたが、本発明によれば、電線の絶縁被覆と伝熱体を異なる種類の合成樹脂材料としてもよい。
【0036】
(11)上記実施形態ではパイプ内における複数の電線で囲まれた隙間に空気溜まりが生じないようにしたが、本発明によれば、パイプ内における複数の電線で囲まれた隙間に小容積の空気溜まりが残る形態であってもよい。
(12)上記実施形態ではパイプ内で電線が俵積み状に配置されるようにしたが、本発明によれば、電線は一列に並ぶように配置されていてもよく、縦横に整列して配置されていてもよい。
(13)上記実施形態ではパイプを円形断面としたが、本発明によれば、パイプの断面形状は非円形(長円形、楕円形、台形や平行四辺形を含む概ね多角形など)としてもよい。
(14)本発明の車両用シールド導電体は、内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン)が搭載されていない電気自動車と、内燃機関が搭載されたハイブリッドタイプの電気自動車のいずれにも取り付けることができる。
(15)伝熱体の外周に形成される溝の横断面形状は、概ね方形に限らず、略円弧形や台形などの形状としてもよい。
(16)伝熱体の外周に形成されるリブの横断面形状は、概ね方形に限らず、略三角形や台形などの形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1の車両用シールド導電体の横断面図
【図2】電線の側面図
【図3】電線をモールド金型にセットした状態をあらわす横断面図
【図4】電線を包囲する形態でモールド成形した伝熱体の横断面図
【図5】伝熱体の外周に伝熱材を塗布した状態をあらわす横断面図
【図6】伝熱体と電線をシールドパイプに挿入した状態をあらわす縦断面図
【図7】電線に端末処理を施した状態をあらわす縦断面図
【図8】車両用シールド導電体を電気自動車の取り付けた状態をあらわす外観図
【図9】実施形態2の縦断面図
【図10】実施形態3の車両用シールド導電体の横断面図
【符号の説明】
【0038】
EV…電気自動車
Wa…車両用シールド導電体
10…パイプ
20…電線
30…伝熱体
31…リブ
33…伝熱材
Wb…車両用シールド導電体
40…伝熱体
41…リブ
Wc…車両用シールド導電体
50…伝熱体
51…リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車に取り付けられる車両用シールド導電体であって、
前記電気自動車に取り付けられる金属製のパイプと、
前記パイプに挿通されて前記電気自動車の動力用線路を構成する電線と、
前記パイプ内において前記電線の外周を包囲して設けられた伝熱体とを備えていることを特徴とする車両用シールド導電体。
【請求項2】
前記伝熱体の外面と前記パイプの内周面との間に、流動性を有する伝熱材が充填されていることを特徴とする請求項1記載の車両用シールド導電体。
【請求項3】
前記伝熱体の外周面には、前記電線の延長方向に沿って延びる複数本のリブが形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両用シールド導電体。
【請求項4】
前記リブが、前記伝熱体の外周面に螺旋状に巻き付く形状であることを特徴とする請求項3記載の車両用シールド導電体。
【請求項5】
前記伝熱体が、複数本の前記電線を一括して包囲する形態とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用シールド導電体。
【請求項6】
電気自動車に取り付けられる車両用シールド導電体を製造する方法であって、
前記電気自動車の動力用線路を構成する電線の外周を、合成樹脂からなる伝熱体によって包囲して伝熱体付き電線を成型するステップと、
前記伝熱体付き電線を金属製のパイプに挿入するステップとを実行することを特徴とする車両用シールド導電体の製造方法。
【請求項7】
前記伝熱体付き電線を前記パイプ内に挿入するのに先立ち、前記伝熱体の周囲に流動性を有する伝熱材を付着させ、その状態で前記伝熱体付き電線を前記パイプに挿入することで、前記伝熱体の外面と前記パイプの内周面との間に前記伝熱材を充填させることを特徴とする請求項6記載の車両用シールド導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−109642(P2007−109642A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248622(P2006−248622)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】