説明

車両用ディスクブレーキのキャリパボディ

【課題】液通孔の加工を容易且つ確実に行うことができ、生産性の向上とコストの低減とを図る。
【解決手段】複数のシリンダ孔のうちの1つのシリンダ孔8を貫通する第1液通孔17aと、他のシリンダ孔9を貫通する第2液通孔17bの先端側を交差連通させる。第1液通孔17aを小径に、第2液通孔17bを大径に形成し、第1液通孔17aの開口側に第1ブリーダ孔17cを、第2液通孔17bの開口側に第1ユニオン孔17dをそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪自動車や自動二輪車等の車両に搭載される車両用ディスクブレーキのキャリパボディに係り、詳しくは、ディスクロータの側部に配設される作用部に、シリンダ孔と該シリンダ孔に連通する第1液通孔と第2液通孔とを備えたキャリパボディの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクロータの側部に配設される作用部に、シリンダ孔と該シリンダ孔に連通する第1液通孔と第2液通孔とを備えたキャリパボディの構造として、例えば、作用部に2個のシリンダ孔を設け、キャリパボディの外側から2つのシリンダ孔を貫通し、互いに一箇所で交差連通する第1液通孔と第2液通孔とを設け、一方の液通孔の開口側にユニオン孔を、他方の液通孔の開口側にブリーダ孔を形成したものがある(特許文献1参照)。
【0003】
また、キャリパボディの液圧経路を2つに分けた2系統式のキャリパボディでは、例えば、作用部に設けた3個のシリンダ孔のうち、ディスク周方向外側に位置する2つのシリンダ孔を第1ブレーキ系統用、中央に位置するシリンダ孔を第2ブレーキ系統用とし、キャリパボディの外側から第1ブレーキ系統用の2つのシリンダ孔内を貫通し、互いに一箇所で交差連通する第1液通孔と第2液通孔とを設けて第1ブレーキ系統用の液通路としたものがある(特許文献2参照)。
【特許文献1】実開昭59−42328号公報
【特許文献2】特開2003−148524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、2本の液通孔を交差させて液通路を形成する場合、連通面積を確保するためには公差管理に手間が掛かっていた。一方、2本の液通孔を大径にすると公差管理を厳しく行わなくても連通面積を確保することはできるが、キャリパボディが大型化していた。特に、キャリパボディの液圧経路を2つに分けた2系統式のキャリパボディで、シリンダ孔を3つ以上備えているものでは、キャリパボディを大型化することなく液通孔の交差部分で充分な連通面積を確保するためには、液通孔の精密な位置決めが必要になり、加工に手間が掛かることから、コストが嵩んでいた。
【0005】
そこで本発明は、液通孔の加工を容易且つ確実に行うことができ、生産性の向上とコストの低減とを図ることのできる車両用ディスクブレーキのキャリパボディを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、ディスクロータの側部に配設される作用部に、シリンダ孔と第1液通孔と第2液通孔とを形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を前記シリンダ孔の液圧室に連通して形成し、一方の液通孔と他方の液通孔の先端側を交差連通させるとともに、前記第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を小径に、他方の液通孔を大径に形成したことを特徴としている。
【0007】
第2の発明では、ディスクロータの側部に配設される作用部に、複数のシリンダ孔と、該複数のシリンダ孔のうちの1つのシリンダ孔の液圧室に連通する第1液通孔と、他のシリンダ孔の液圧室に連通する第2液通孔とを備えた車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記第1液通孔と前記第2液通孔の先端側を交差連通させるとともに、第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を小径に、他方の液通孔を大径に形成したことを特徴としている。
【0008】
また、第3の発明では、双方の液通孔の連通面積が、小径となる一方の液通孔の断面積以上となっていることを特徴とし、第4の発明では、小径となる一方の液通孔の開口側にブリーダ孔を、大径となる他方の液通孔の開口側にユニオン孔をそれぞれ形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように第1及び第2の発明では、第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を小径に、他方の液通孔を大径に形成したことにより、双方の液通孔の精密な位置決めを行わなくても、例えば、大径となる他方の液通孔に向けて、小径となる一方の液通孔を形成すれば、第1液通孔と第2液通孔とを確実且つ容易に連通させることができることから、液通孔の加工に手間が掛からず、生産性の向上とコストの低減とを図ることができる。
【0010】
第3の発明では、双方の液通孔の連通面積が、小径となる一方の液通孔の断面積以上となっていることから、作動液の流れを損なうことがない。
【0011】
第4の発明では、大径となる液通孔の開口側にシリンダ孔に作動液を供給するユニオン孔を形成することから作動液をスムーズに液圧室に供給することができ、また、小径となる液通孔の開口側に作動液があまり流通しないエア抜き用のブリーダ孔をそれぞれ形成することにより、キャリパボディを大型化させることなく効果的に液通孔を形成することができる。さらに、ユニオン孔とブリーダ孔とが大径の液通孔と小径の液通孔とを介して連通することにより、シリンダ孔間を繋ぐ連通孔を別途設けなくても良く、加工も容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一形態例を図面に基づいて詳しく説明する。図1はディスクブレーキの断面正面図、図2はディスクブレーキの断面平面図である。なお、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスクロータ回入側と回出側とは、車両前進走行時の場合とする。
【0013】
本形態例のディスクブレーキ1は、自動二輪車のフロントブレーキ用で、ディスクロータ2の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット3と、該ブラケット3に一対の摺動ピン4,4を介して片持ち支持されるキャリパボディ5と、ディスクロータ2の両側部に対向配置される一対の摩擦パッド6,6とを備えている。
【0014】
キャリパボディ5は、3つのシリンダ孔7,8,9を2つの液圧系統に分けた3ポット2系統式で、ディスクロータ2の両側部に配設される作用部5aと反作用部5bとを、ディスクロータ2の外周を跨ぐブリッジ部5cで連結した構成となっている。作用部5aには、取付腕5d,5dが突設され、キャリパボディ5は、前記摺動ピン4,4によって、ディスク軸方向へ移動可能に支持されている。
【0015】
作用部5aと反作用部5bとの間には、前記摩擦パッド6,6がディスクロータ2を挟んで対向配置されている。各摩擦パッド6は、ライニング6aと裏板6bとを接合して構成され、裏板6bの一側方に、キャリパブラケット3のディスク回入側にディスクロータ2を跨いで懸架されるハンガーピン10を挿通し、また裏板6bの他側方を、キャリパブラケット3のディスク回出側に設けたパッドガイド溝に遊嵌して、ディスク軸方向へ移動可能に吊持される。
【0016】
作用部5aには、中央に小径の深底シリンダ孔7が、ディスク回出側に大径の浅底シリンダ孔8が、ディスク回入側に小径の浅底シリンダ孔9が形成されている。これらシリンダ孔7,8,9には、同じく大径と小径で深さの異なるピストン11,12,13が内挿され、ピストン11,12,13とシリンダ孔底部7a,8a,9aとの間に、液圧室14,15,16が画成される。ディスク回入側と回出側の前記浅底ピストン12,13を第1ブレーキ系統用ピストン、中央に配設される前記深底ピストン11を第2ブレーキ系統用ピストンとし、浅底ピストン12,13と各シリンダ孔底部8a,9aとの間にそれぞれ画成された液圧室15,16には、第1液通路17を介して作動液が供給され、ピストン11とシリンダ孔底部7aとの間に画成された液圧室14には、第2液通路18を介して作動液が供給される。また、作用部5aのディスク回入側端部には第1ユニオンボス部5eが、該第1ユニオンボス部5eよりも中央側には第2ユニオンボス部5fが、ディスク回出側端部には第1ブリーダボス部5gが、該第1ブリーダボス部5gと前記第2ユニオンボス部5fとの間には第2ブリーダボス部5hがそれぞれ突設されている。さらに、作用部5aのシリンダ孔底部側は、シリンダ孔7を他のシリンダ孔8,9より深く形成したことにより、中央部に突出部5iを有する段付き形状となっている。
【0017】
第1液通路17は、ディスク回出側のシリンダ孔8の液圧室15に連通する第1液通孔17aと、ディスク回入側のシリンダ孔9の液圧室16に連通する第2液通孔17bとを有し、第1液通孔17aと第2液通孔17bは先端側を、シリンダ孔7よりもディスク内周側で交差連通させている。つまり、第1液通孔17aと第2液通孔17bとで構成される折れ線状の第1液通路17を、シリンダ孔9とシリンダ孔8とに挟まれて配置されたシリンダ孔7の側面側(ディスク内周側の側面)を通るように形成し、シリンダ孔9の液圧室16とシリンダ孔8の液圧室15とを連通させている。第1液通孔17aは、作動液のエア抜き操作が可能な程度の小径に形成され、第1ブリーダボス部5gに開口するとともに、開口側に第1ブリーダ孔17cが形成されている。また、第2液通孔17bは液圧室15,16に速やかに作動液を供給できるように大径に形成され、第1ユニオンボス部5eに開口するとともに、開口側に第1ユニオン孔17dが形成されている。
【0018】
第1液通路17は、まず第1ユニオンボス部5e側から第2液通孔17bが切削加工され、次いで第1ブリーダボス部5g側から、第2液通孔17bに向けて第1液通孔17aが切削加工され、第1液通孔17aの先端側を第2液通孔17bの先端側に交差連通させる。
【0019】
第1液通孔17aと第2液通孔17bの径は、各液通孔17a,17bの角度,長さ,径,加工位置の加工公差を想定した状態でも、第2液通孔17bと第1液通孔17aとがずれることなく連通でき、両液通孔17a,17bの連通面積は第2液通孔17bの断面積以上となるように設定されている。
【0020】
第2液通路18は、作用部5aの前記突出部5iを利用して形成され、液圧室14に連通して第2ブリーダボス部5hに開口するブリーダ液通孔18aと、液圧室14に連通して第2ユニオンボス部5fに開口するユニオン液通孔18bとを有している。ブリーダ液通孔18aは小径に形成され、開口側に第2ブリーダ孔18cが形成され、ユニオン液通孔18bは大径に形成され、開口側に第2ユニオン孔18dが形成されている。
【0021】
これら2つの液通路17,18は、各ユニオン孔17d,18dに接続されるブレーキホース(図示せず)を介して公知の液圧マスタシリンダに連通し、例えば第1液通路17はブレーキレバーのブレーキ操作によって液圧を発生させる第1の液圧マスタシリンダに接続され、第2液通路18はブレーキペダルのブレーキ操作によって液圧を発生させる第2の液圧マスタシリンダに接続される(いずれも図示せず)。
【0022】
ブレーキレバーをブレーキ操作すると、前記第1の液圧マスタシリンダで発生した液圧が、第1液通路17によって液圧室16,15へ導入され、ピストン13,12がシリンダ孔9,8をディスクロータ方向へ前進して、作用部側の摩擦パッド6のライニング6aをディスクロータ2の一側面へ押圧する。次にこの反作用で、キャリパボディ5が摺動ピン4,4に案内されながら作用部5a方向へ移動し、反作用部5bの反力爪5jが反作用部側の摩擦パッド6のライニング6aをディスクロータ2の他側面へ押圧して制動作用が行われる。また、ブレーキペダルをブレーキ操作すると、前記第2の液圧マスタシリンダで発生した液圧が、第2液通路18によって液圧室14に導入され、ピストン11がシリンダ孔7をディスクロータ方向へ前進し、上述のように両摩擦パッド6,6のライニング6a,6aがディスクロータ2の側面へそれぞれ押圧され制動作用が行われる。
【0023】
上述のように本形態例の第1液通路17は、第1液通孔17aを小径に形成し、第2液通孔17bを大径に形成したことから、切削加工された第2液通孔17bに向けて第1液通孔17aを切削加工し、或いは、切削加工された第1液通孔17aに向けて第2液通孔17bを切削加工することにより、第1液通孔と第2液通孔とを確実且つ容易に連通させることができる。これにより、双方の液通孔17a,17bの精密な位置合わせの必要がなくなり、加工に手間が掛からず、生産性の向上とコストの低減とを図ることができる。さらに、第1液通孔17aと第2液通孔17bの径は、各液通孔17a,17bの角度,長さ,径,加工位置の加工公差を想定した状態でも、第2液通孔17bと第1液通孔17aとがずれることなく連通でき、両液通孔17a,17bの連通面積は第2液通孔17bの断面積以上となるように設定されていることから、作動液の流れを損なうことがない。また、小径の第1液通孔17aは、開口側に第1ブリーダ孔17cが形成され、大径の第2液通孔17bは、開口側に第1ユニオン孔17dが形成されることから、キャリパボディ5を大型化させることなく、且つ作動液をスムーズに液圧室15,16に供給でき、効果的に液通孔17a,17bを形成することができる。
【0024】
なお、本発明は上述の形態例のように、作用部に3個のシリンダ孔を備えたものに限らず、2個以下或いは4個以上のシリンダ孔を備えたものにも適用でき、また、1つの液圧系統で作動させるものにも適用できる。例えば、複数又は1つのシリンダ孔を貫通させて大径となる第2液通孔を穿設し、該第2液通孔の貫通した先端側と交差させるようにして、小径の第1液通孔を穿設するものでも良い。さらに、第1液通孔及び第2液通孔の双方の開口側にユニオン孔を形成しても良く、双方の液通孔が液圧室にそれぞれ開口していても良い。また、本発明は、ピンスライド型のキャリパボディに限らずピストン対向型のキャリパボディにも適用でき、シリンダ孔の径や深さも任意である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1形態例を示すディスクブレーキの断面正面図である。
【図2】同じくディスクブレーキの断面平面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、4…摺動ピン、5…キャリパボディ、5a…作用部、5b…反作用部、5c…ブリッジ部、5d…取付腕、5e…第1ユニオンボス部、5f…第2ユニオンボス部、5g…第1ブリーダボス部、5h…第2ブリーダボス部、5i…突出部、5j…反力爪、6…摩擦パッド、6a…ライニング、6b…裏板、7,8,9…シリンダ孔、10…ハンガーピン、11,12,13…ピストン、14,15,16…液圧室、17…第1液通路、17a…第1液通孔、17b…第2液通孔、17c…第1ブリーダ孔、17d…第1ユニオン孔、18…第2液通路、18a…ブリーダ液通孔、18b…ユニオン液通孔、18c…第2ブリーダ孔、18d…第2ユニオン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの側部に配設される作用部に、シリンダ孔と第1液通孔と第2液通孔とを形成した車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を前記シリンダ孔の液圧室に連通して形成し、一方の液通孔と他方の液通孔の先端側を交差連通させるとともに、前記第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を小径に、他方の液通孔を大径に形成したことを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項2】
ディスクロータの側部に配設される作用部に、複数のシリンダ孔と、該複数のシリンダ孔のうちの1つのシリンダ孔の液圧室に連通する第1液通孔と、他のシリンダ孔の液圧室に連通する第2液通孔とを備えた車両用ディスクブレーキのキャリパボディにおいて、前記第1液通孔と前記第2液通孔の先端側を交差連通させるとともに、第1液通孔と第2液通孔のいずれか一方の液通孔を小径に、他方の液通孔を大径に形成したことを特徴とする車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項3】
前記第1液通孔と前記第2液通孔の連通面積が、小径となる一方の液通孔の断面積以上となっていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。
【請求項4】
小径となる一方の液通孔の開口側にブリーダ孔を、大径となる他方の液通孔の開口側にユニオン孔をそれぞれ形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキのキャリパボディ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−146955(P2007−146955A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341652(P2005−341652)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】