説明

車両用ディスクブレーキ

【課題】簡単な構造で、キャリパブラケットに、車両前進時及び車両後退時に摩擦パッドから制動トルクを受けるトルク受部を形成することができる車両用ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】キャリパブラケット4の、シリンダ部3iよりもディスク回出側に、車両前進制動時に作用部側の前記摩擦パッド7に当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部4iと、車両後退制動時に作用部側の前記摩擦パッド7に当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部4pとを備える。キャリパブラケット4のディスク回入側に、作用部側の摩擦パッド7のディスクロータ内周側面に当接する第1パッド当接座面4mを形成し、作用部側の摩擦パッド7のディスク内周側面に、トルク伝達部7fを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車等の走行車両に用いられる車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、キャリパボディをディスクロータの一側部で車体に固設するキャリパブラケットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、キャリパブラケットに、車両前進制動時に作用部側の摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部と、車両後退制動時に作用部側の前記摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部とを備えたものがあった(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−323347号公報
【特許文献2】特開平10−159879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のものでは、キャリパブラケットに設けた車体取付部よりも車両前進時におけるディスクブレーキ回入側に、車両後退制動時に作用部側の摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部が設けられていることから、キャリパブラケットがディスク周方向に長くなっていた。
【0005】
また、特許文献2のものでは、キャリパブラケットの、車両前進時におけるディスク回入側とディスク回出側とに、車両前進時及び後退時に摩擦パッドから制動トルクを受けるトルク受部をそれぞれ形成し、作用部側の摩擦パッドのディスクロータ内周側面のディスク回入側とディスク回出側とに、前記トルク受部に当接して車両前進時及び後退時の制動トルクを伝達するトルク伝達部をそれぞれ設けていることから、キャリパブラケットや摩擦パッドの構造が複雑になっていた。
【0006】
そこで本発明は、簡単な構造で、キャリパブラケットに、車両前進時及び車両後退時に摩擦パッドから制動トルクを受けるトルク受部を形成することができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータの一側部に配置され、ピストンを収容するシリンダ部を備えた作用部と、前記ディスクロータの他側部に配置され、反力爪を備えた反作用部とをブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、該キャリパボディを、前記ディスクロータの一側部で車体に固設するキャリパブラケットに、前記シリンダ部の車両前進時におけるディスク回出側とディスク回入側とにそれぞれ配置された一対のスライドピン及び該スライドピンがそれぞれ軸線方向に移動可能に挿入される一対のスライドピン保持穴を介してディスク軸方向にスライド可能に支持すると共に、前記ディスクロータを挟んで作用部側と反作用部側とに摩擦パッドをそれぞれ配置した車両用ディスクブレーキにおいて、前記キャリパブラケットは、前記シリンダ部よりも車両前進時におけるディスク回出側に、車両前進制動時に作用部側の前記摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部と、車両後退制動時に作用部側の前記摩擦パッドのトルク伝達部に当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部とを備えていることを特徴としている。
【0008】
また、前記キャリパブラケットは、車両前進時におけるディスク回入側に、前記作用部側の摩擦パッドのディスクロータ内周側面に当接するパッド当接座面が形成され、作用部側の前記摩擦パッドのディスク内周側面に、前記トルク伝達部が形成されると好ましい。さらに、前記キャリパブラケットは、車両前進時におけるディスク回入側とディスク回出側とに、車体取付ボルトを挿通するボルト挿通孔を有する取付座面を備えた一対の車体取付部をそれぞれ備え、前記後退制動時トルク受部は、前記ディスクロータの中心と前記作用部の押圧中心とを通るディスク半径方向線と平行で、且つ、前記各ボルト挿通孔の中心をそれぞれ通る2本のディスク半径方向線の間に配置されていると好適である。また、キャリパブラケットは、ディスク回出側の車体取付部からディスク外周側に突出する支持腕と、該支持腕の先端部から前記ブリッジ部の車両前進時におけるディスク回出側に突出し、ディスクロータの外周を跨ぐスライドピン保持部とを備え、前記後退制動時トルク受部は、前記取付座面よりも反ディスクロータ側に突出して形成され、前記取付座面を除く前記支持腕の反ディスクロータ側に、前記後退制動時トルク受部の突出量に合わせて肉盛りした肉盛り部を設けたものでも良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、キャリパブラケットの、シリンダ部よりも車両前進時におけるディスク回出側に、車両前進制動時に作用部側の前記摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部と、車両後退制動時に作用部側の摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部とを備えていることから、キャリパブラケットがディスク周方向に長くなることを抑制し、また、キャリパブラケットの車両前進時におけるディスク回入側の構造が簡略化される。
【0010】
また、キャリパブラケットの車両前進時におけるディスク回入側に、作用部側の摩擦パッドのディスクロータ内周側面に当接するパッド当接座面を形成し、作用部側の前記摩擦パッドのディスク内周側面に、前記トルク伝達部が形成したことにより、後退制動時に、ディスク回出側に設けた後退制動時トルク受部に摩擦パッドが押圧され、摩擦パッドのディスク回入側がディスクロータ内周側に回動する力が発生しても、パッド当接座面と摩擦パッドのディスクロータ内周側面とが当接して、摩擦パッドの回動を抑制し、摩擦パッドを良好に支承することができる。
【0011】
さらに、キャリパブラケットの車両前進時におけるディスク回入側とディスク回出側とに、ボルト挿通孔を有する取付座面を備えた一対の車体取付部をそれぞれ備え、前記後退制動時トルク受部は、前記ディスクロータの中心と前記作用部の押圧中心とを通るディスク半径方向線と平行で、且つ、前記各ボルト挿通孔の中心をそれぞれ通る2本のディスク半径方向線の間にそれぞれ配置されることにより、キャリパブラケットに局部的な負荷が掛からないようにしながら、特に後退時において、制動トルクをキャリパブラケットで確実に支承することができる。
【0012】
また、後退制動時トルク受部は、取付座面よりも反ディスクロータ側に突出して形成され、取付座面を除く支持腕の反ディスクロータ側に、前記後退制動時トルク受部の突出量に合わせて肉盛りした肉盛り部を設けたことにより、ブラケットの重量を極力増加させることなく、剛性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの正面図である。
【図2】同じく車両用ディスクブレーキの背面図である。
【図3】同じく車両用ディスクブレーキの平面図である。
【図4】同じく車両用ディスクブレーキの底面図である。
【図5】同じく車両用ディスクブレーキの断面平面図である。
【図6】図1のVI−VI断面図である。
【図7】同じくキャリパブラケットと摩擦パッドとの位置関係を示す説明図である。
【図8】同じくキャリパブラケットの正面図である。
【図9】同じくキャリパブラケットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至図9は、本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスク回入側と回出側とは、車両前進走行時の場合とする。また、矢印Bは、本発明の車両用ディスクブレーキを車体に取り付けた際の、車体上方を示す。
【0015】
本形態例のディスクブレーキ1は、自動車用のディスクブレーキで、ディスクロータ2の一側部に配置される作用部3aと、前記ディスクロータ2の他側部に配置される反作用部3bとをブリッジ部3cで連結してキャリパボディ3を形成し、該キャリパボディ3を、ディスクロータ2の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット4に、ディスク回転方向両側部に配置される第1スライドピン5と第2スライドピン6とを介してディスク軸方向にスライド可能に支持し、前記作用部3aと反作用部3bとの間にディスクロータ2を挟んで一対の摩擦パッド7,8を対向配置している。
【0016】
キャリパボディ3は、鋳造によって形成されるもので、ディスク回入側を上方に、ディスク回出側を下方に向けた状態で、キャリパブラケット4を介して車体に取り付けられる。作用部3aのディスク回入側と回出側とには、ピン支持腕3d,3eが突設され、ディスク回出側のピン支持腕3eは、作用部3aからディスク回出方向に延出し、先端に第1スライドピン5を取り付ける雌ねじ孔3fが形成されている。ディスク回入側のピン支持腕3dは、作用部3aとブリッジ3cとが連続する位置から、ディスク半径方向内側に傾斜してディスクロータ外周に沿うように延出し、先端に、ピンブーツ10を介して第2スライドピン6を挿通させる袋穴から成るスライドピン保持穴3gが形成されている。また、作用部3aには、シリンダ孔3hを備えたシリンダ部3iが形成され、シリンダ孔3hには、コップ状に形成されたピストン9が開口部をディスクロータ側に向けて、移動可能に内挿されている。シリンダ孔3hの開口側内周部には、ダストシール11aとピストンシール11bとがそれぞれ装着されている。また、シリンダ孔3hとピストン9の底部間には液圧室12が画成され、シリンダ孔3hの底壁には、液圧室12に連通するユニオン孔とブリーダ孔を設けている。
【0017】
反作用部3bは、シリンダ孔加工用の間隙部3jを挟んだディスク回入側とディスク回出側とに、一対の反力爪3k,3kがディスク半径方向内側へ向けて並設され、各反力爪3k,3kには、円形の貫通孔3m,3mがそれぞれ貫通形成されている。反力爪3k,3kの反ディスクロータ側の前記間隙部3j側には、略矩形の凹部3n,3nが形成され、該凹部3n,3n内に前記貫通孔3m,3mが配置されている。
【0018】
キャリパブラケット4は、車体取付ボルトを挿通するボルト挿通孔4aと、該ボルト挿通孔4aの反ディスクロータ側の周囲に形成される取付座面4bとを有する車体取付部4cをディスク回入側とディスク回出側とに備えた本体部4dと、ディスク回出側の車体取付部4cからディスク外周側に突出する支持腕4eと、該支持腕4eの先端部からブリッジ部3cのディスク回出側に突出し、ディスクロータ2の外周を跨ぐスライドピン保持部4fと、ディスク回入側の車体取付部4cからディスク外周側に突出するスライドピン取付部4gとを備えている。スライドピン保持部4fは、ピンブーツ10を介して前記第1スライドピン5を挿通する袋穴から成るスライドピン保持穴4hを内部に備えると共に、摩擦パッド側外面が平面状に形成され、車両前進時に作用部側の摩擦パッド7及び反作用部側の摩擦パッド8からトルクを受ける前進制動時トルク受部4i,4iとなっている。また、支持腕先端部のスライドピン保持穴4hの開口周囲には、ピンブーツ当接用の平面加工を行った平面部4jが形成されている。スライドピン取付部4gは、本体部4dからディスクロータ2の外周縁よりもディスク内周側に突出し、先端部に第2スライドピン6を螺着する雌ねじ孔4kが形成されている。
【0019】
本体部4dは、ディスク外周側に、作用部側摩擦パッド7のディスク回入側のディスク内周側面を支承する第1パッド当接座面4mと、作用部側摩擦パッド7のディスク回出側のディスク内周側面を支承する第2パッド当接座面4nとがそれぞれ形成され、さらに、ディスク回出側の第2パッド当接座面4nのディスク回出側で、且つ、ディスクロータ半径方向内側には、第2パッド当接座面4nに対して直交すると共に、前記前進制動時トルク受部4iに対して平行な方向に、車両後退時に作用部側の摩擦パッド7からトルクを受ける後退制動時トルク受部4pが形成されている。前進制動時トルク受部4iと後退制動時トルク受部4pとは、シリンダ部3iよりもキャリパブラケット4のディスク回出側に設けられ、さらに、各ボルト挿通孔4aの中心C1,C2を通るディスク半径方向線CL1,CL2の間にそれぞれ配置されている。また、後退制動時トルク受部4pは、ディスクロータ2の中心C3とシリンダ孔3hの中心軸C4(本発明の作用部の押圧中心)とを通るディスク半径方向線CLと平行で、且つ、前記各ボルト挿通孔の中心をそれぞれ通る2本のディスク半径方向線CL3,CL4の間に配置され、さらに言うなら、ディスク半径方向線CLとディスク回出側のディスク半径方向線CL3との間に配置されている。
【0020】
本体部4d及び両取付座面4b,4bは、車体側に設けられているブラケット固着部(図示せず)との関係から、両取付座面4b,4bは面一で、両取付座面4b,4b間の本体部4dは、支持腕4eより反ディスクロータ側に突出しない形状に形成されている。一方、前進制動時トルク受部4iの作用部側、後退制動時トルク受部4p及び両当接座面4m,4nにおけるディスク軸方向寸法は、作用部側の摩擦パッド7が新品状態からフル摩耗状態に至るまでの間に、作用部側の摩擦パッド7の裏板7bがディスク軸方向に移動する範囲に対応した寸法に設定されており、後退制動時トルク受部4pの周囲及び両当接座面4m,4nの周囲は、キャリパブラケット4の本体部4dの反ディスクロータ側面から反ディスクロータ側に突出した状態で形成されている。
【0021】
また、ディスク回出側に配置される支持腕4eの反ディスクロータ側面は、前進制動時トルク受部4iの反ディスクロータ側面と面一になるように、本体部4dの反ディスクロータ側面よりも反ディスクロータ側に位置するように形成され、スライドピン保持穴周囲の平面部4jも、前進制動時トルク受部4iの反ディスクロータ側面と面一になるように形成されている。したがって、本体部4dのディスク回出側端部及び支持腕4eの反ディスクロータ側には、取付座面4bの周囲を除いて反ディスクロータ側に後退制動時トルク受部4pの突出量に合わせて肉盛りした肉盛り部4qが形成された状態になり、肉盛り部4qの一部である支持腕先端部のスライドピン保持穴4hの開口周囲に、前記肉盛り部4qの表面と面一に形成して平面加工を行った平面部が形成され、ピンブーツ10を装着するために寸法精度が求められる平面部4jのみが平面加工され、他は鋳肌のままの状態で残されている。すなわち、図8の網掛け部分に示される取付座面4b,4bと、平面部4jと、後述する第2スライドピン6のフランジ部6cが当接する当接面4sのみが加工され、他は鋳肌のままの状態で残されている。また、反ディスクロータ側に突出した後退制動時トルク受部4pのディスク回入側は、肉盛り部4qの反ディスクロータ側面から本体部4dの反ディスクロータ側面に向けて漸次薄肉となる傾斜面4rとなっており、シリンダ部3iとの干渉を避けながら、後退制動時トルク受部4pが受ける制動トルクを本体部4dに良好に伝達できるようにしている。
【0022】
このように、後退制動時トルク受部4pを本体部4dのディスク回出側に設けることにより、キャリパブラケット4のディスク回入側に後退制動時トルク受部を設けた場合に比べて、キャリパブラケット4におけるディスク回入側の形状の簡略化を図れるとともに、後退制動時の制動トルクを負担しないので肉厚を薄くすることができ、肉盛り部4qを形成したディスク回出側の強度を十分に保持しながら、キャリパブラケット4の小型軽量化を図ることができる。
【0023】
第1スライドピン5は、基端部に設けられる六角形状の工具結合用大径頭部5aと、雌ねじ孔3fに螺着される雄ねじ部5bと、スライドピン保持穴4hに挿通される軸部5cとを備え、第2スライドピン6は、基端部に設けられ、雌ねじ孔4kに螺着される雄ねじ部6aと、スライドピン保持穴3gに挿通される軸部6bと、該軸部6bと雄ねじ部6aとの間に設けられるフランジ部6cと、軸部6bの先端に形成される工具結合部6dとを備えている。
【0024】
ピストン9は、開口側の内周壁に、内周側に突出する環状突部9aが形成され、該環状突部9aからピストン開口端に向けて漸次拡径する開口側円錐面9bと、環状突部9aからピストン底部側に向けて漸次拡径してピストン内周壁に連続する底部側円錐面9cとが形成されている。
【0025】
摩擦パッド7,8は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング7a,8aと、該ライニング7a,8aを貼着した裏板7b,8bとから形成されている。作用部側の摩擦パッド7の裏板7bは、ディスク回出側に、キャリパブラケット4の前進制動時トルク受部4iに当接する耳片7cが突設され、ディスク内周側の両側部に、第1パッド当接座面4mに当接する当接面7dと、第2パッド当接座面4nに当接する当接面7eとがそれぞれ形成されている。さらに、ディスク回出側の当接面7eのディスク回出側には、ディスク内周側に突出し、前記後退制動時トルク受部4pに対向するトルク伝達部7fが形成されている。ピストン9と対向する前記裏板7bの背面には、パッドホールドスプリング13をかしめて固着するかしめ用突部7gが形成されている。かしめ用突部7gは、裏板7bのディスク半径方向中央部で、且つ、ピストン中心軸と対応する位置よりも、ディスク回入側に設けられると共に、ディスク半径方向内外に2つの頂点が並び、該2つの頂点よりもディスク回入側に1つの頂点が配置された三角形状に形成されている。
【0026】
反作用部側の摩擦パッド8の裏板8bは、ディスク回出側に前進制動時トルク受部4iに当接する耳片8cが突設されている。反力爪3k,3kに対向する裏板8bの背面中央部には、パッドスプリング14を固着するためのかしめ用突起8dが設けられ、かしめ用突起8dのディスク回出側とディスク回入側とには、反力爪3k,3kに形成した貫通孔3m,3mにそれぞれ挿入される突起8e,8eが形成されている。
【0027】
パッドホールドスプリング13は、薄い金属板を折曲して形成され、前記かしめ用突部7gをかしめることで裏板7bに固着される取付基部13aと、該取付基部13aからT字状に突出する同一長さで、同一形状の第1パッド保持片13b,13bと第2パッド保持片13cとを備え、第1パッド保持片13b,13bは、取付基部13aからディスク半径方向外側と内側とに、第2パッド保持片13cは、ディスク回入側にそれぞれ突出し、第2パッド保持片13cと各第1パッド保持片13b,13bとはそれぞれ直交する。
【0028】
さらに、第1パッド保持片13b,13b及び第2パッド保持片13cの各先端側は、それぞれピストン内周壁に向けて漸次拡開しながらピストン底部側に延出し、先端側にピストン内周壁に当接する係合部13dがそれぞれ形成され、該係合部13dよりも先端部は先細り形状に形成され、内側に向けて折曲されている。取付基部13aは、円形状に形成され、中央部に前記かしめ用突部7gに嵌着可能な三角形状のかしめ用穴部13eが形成され、該かしめ用穴部13eは、三角形の頂点が、それぞれ第1パッド保持片13b,13b及び第2パッド保持片13cの突出方向を向くように形成されている。
【0029】
パッドスプリング14は、薄い金属板を折曲して形成され、前記かしめ用突起8dをかしめることで裏板8bに固着される基部14aと、該基部14aの両側からディスク回入側とディスク回出側とに同一長さで一直線状に突出する一対の組付け片14b,14bと、各組付け片14b,14bの先端からディスク半径方向外側に突出する弾発片14c,14cとを備え、組付け片14b,14bのディスク半径方向外側で、弾発片14c,14cの近傍には、切込部14d,14dがそれぞれ形成されている。各組付け片14b,14bは、基部14aから漸次反ディスクロータ側に傾斜しながらそれぞれ突出し、先端側をディスクロータ側に折曲して、反力爪3k,3kに形成した凹部3n,3nに弾接する弾接部14e,14eが形成され、弾接部14e,14eよりも先端側は反ディスクロータ側に僅かに折曲されている。
【0030】
このように形成されたディスクブレーキ1の車体への組み付けは、作用部側の摩擦パッド7の裏板7bに設けたかしめ用突部7gに、パッドホールドスプリング13のかしめ用穴部13eを挿通し、第1パッド保持片13b,13bをディスク半径方向内外に、第2パッド保持片13cをディスク回入側にそれぞれ向けた状態で、かしめ用突部7gをかしめて前記裏板7bにパッドホールドスプリング13を固着する。次いで、キャリパボディ3のシリンダ孔3hに内挿されたピストン9の開口側からピストン9の内側に、パッドホールドスプリング13の第1パッド保持片13b,13bと第2パッド保持片13cとを挿入する。第1パッド保持片13b,13bと第2パッド保持片13cとは、開口側円錐面9bと底部側円錐面9cとに沿って撓みながらピストン内に挿入され、各係合部13dが、環状突部9aを乗り越えて環状突部9aのピストン底部側にそれぞれ係合する。これにより、ピストン9と作用部側の摩擦パッド7とがパッドホールドスプリング13を介して連結される。
【0031】
さらに、反作用部側の摩擦パッド8の裏板8bに形成した中央のかしめ用突起8dに、パッドスプリング14のかしめ用穴部14fを挿通し、組付け片14b,14bと弾発片14c,14cとを反力爪3k,3kの方向に向けた状態で、かしめ用突起8dをかしめて前記裏板8bにパッドスプリング14を固着する。そして、摩擦パッド8を反力爪3k,3kのディスクロータ側に、パッドスプリング14の組付け片14b,14bと弾発片14c,14cとを反力爪3k,3kの反ディスクロータ側にそれぞれ配置し、摩擦パッド8と共にパッドスプリング14を反力爪3k,3kのディスク内周側先端からディスク外周側に挿入する。パッドスプリング14は、組付け片14b,14bを変形させながら、弾発片14c,14cと組付け片14b,14bの先端側とが凹部3n,3nに挿入される。これにより、摩擦パッド8が反力爪3k,3k側に引き寄せられ、反作用部側の摩擦パッド8がパッドスプリング14を介して反力爪3k,3kに連結される。
【0032】
また、第2スライドピン6の工具結合部6dに工具を結合させて、雄ねじ部6aを、キャリパブラケット4に設けたスライドピン取付部4gの雌ねじ孔4kに螺着し、第2スライドピン6を反ディスクロータ側に突出させる。突出した第2スライドピン6の軸部6bに、キャリパボディ3のスライドピン保持穴3gを挿通し、第2スライドピン6を支点に、キャリパボディ3を回動させて、摩擦パッド7,8をディスクロータ2の両側に配置する。キャリパボディ3の雌ねじ孔3fとキャリパブラケット4のスライドピン保持孔4hの位置を合わせて、雌ねじ孔3f側から第1スライドピン5を挿入し、軸部5cをスライドピン保持孔4hに挿入させ、工具締結用大径頭部5aに工具を結合させ、雄ねじ部5bを雌ねじ孔3fに螺着することにより、キャリパボディ3が第1スライドピン5及び第2スライドピン6を介して、キャリパブラケット4にディスク軸方向に移動可能に取り付けられる。
【0033】
キャリパボディ3を組み付けたキャリパブラケット4は、第2スライドピン6側を上方に、第1スライドピン5側を下方に向けた状態で車体に組み付けられ、作用部側の摩擦パッド7の当接面7d,7eが第1パッド当接座面4mと第2パッド当接座面4nとにそれぞれ当接すると共に、摩擦パッド7,8の耳片7c,8cが前進制動時トルク受部4iにそれぞれ当接した状態となり、トルク伝達部7fが後退制動時トルク受部4pに対向した状態となる。
【0034】
このように組み付けられたディスクブレーキ1では、車両前進時における制動時に、昇圧された作動液が液圧室12へ供給されると、ピストン9がピストンシール11bを変形させながらシリンダ開口方向へ移動し、作用部3a側の摩擦パッド7をディスクロータ2側に押動し、摩擦パッド7のライニング7aをディスクロータ2の一側面へ押圧する。この反力によって、キャリパボディ3が第1スライドピン5と第2スライドピン6との案内で作用部3a方向へ移動し、反力爪3k,3kと一体的に反作用部側の摩擦パッド8がディスクロータ2側にスライドし、摩擦パッド8のライニング8aをディスクロータ2の他側面へ押圧する。このとき、摩擦パッド7,8は、耳片7c,8cが前進制動時トルク受部4iにそれぞれ圧接することにより、制動トルクを前進制動時トルク受部4iで良好に受けることができる。
【0035】
また、車両後退時における制動時には、車両前進時と同様に、昇圧された作動液が液圧室12へ供給されることにより、作用部3a側の摩擦パッド7のライニング7aをディスクロータ2の一側面へ、反作用部側の摩擦パッド8のライニング8aをディスクロータ2の他側面へそれぞれ押圧する。このとき、作用部側の摩擦パッド7は、トルク伝達部7fが後退制動時トルク受部4pに当接し、反作用部側の摩擦パッド8は、突起8e,8eが貫通孔3m,3mのディスク回入側内周面に当接することにより、後退時における制動時の制動トルクを後退制動時トルク受部4pと貫通孔3m,3mとで良好に受けることができる。
【0036】
さらに、制動解除時には、ピストン9がピストンシール11bの復元力でシリンダ孔3hの底部方向へ後退し、これに伴って、パッドホールドスプリング13の第1パッド保持片13b,13b及び第2パッド保持片13cを介してピストン9に連結された作用部側の摩擦パッド7が、ディスクロータ2の一側面から強制的に引き戻される。また、反作用部側の摩擦パッド8は、パッドスプリング14によって、反力爪3k,3kと一体的に反ディスクロータ側にスライドし、ディスクロータ2の他側面から強制的に引き戻される。
【0037】
本形態例は上述のように形成されており、キャリパブラケット4は、シリンダ部3iよりもディスク回出側に、車両前進制動時に作用部側の摩擦パッド7の耳片7cに当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部4iと、車両後退制動時に作用部側の摩擦パッド7のトルク伝達部7fに当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部4pとを備えていることから、キャリパブラケット4がディスク周方向に長くなることを抑制でき、また、キャリパブラケット4のディスク回入側の構造を簡略化することができる。
【0038】
また、キャリパブラケット4のディスク回入側に、作用部側の摩擦パッド7のディスクロータ内周側面に当接する第1パッド当接座面4mを形成し、作用部側の摩擦パッド7のディスク内周側面に、トルク伝達部7fを形成したことにより、後退制動時に、ディスク回出側に設けた後退制動時トルク受部4pに摩擦パッド7が押圧され、摩擦パッド7のディスク回入側がディスクロータ内周側に回動する力が発生しても、第1パッド当接座面4mと摩擦パッド7のディスクロータ内周側面とが当接して、摩擦パッド7の回動を抑制し、摩擦パッド7を良好に支承させることができる。
【0039】
さらに、前進制動時トルク受部4iと後退制動時トルク受部4pとを、各ボルト挿通孔4a,4aの中心C1,C2を通るディスク半径方向線CL1,CL2の間にそれぞれ配置し、さらに、後退制動時トルク受部4pは、ディスクロータ2の中心C3とシリンダ孔3hの中心軸C4(本発明の作用部の押圧中心)とを通るディスク半径方向線CLと平行で、且つ、前記各ボルト挿通孔の中心をそれぞれ通る2本のディスク半径方向線CL3,CL4の間に配置し、特に、ディスク半径方向線CLとディスク回出側のディスク半径方向線CL3との間に配置したことにより、キャリパブラケット4に局部的な負荷が掛からないようにしながら、特に後退時において、制動トルクをキャリパブラケット4で確実に支承することができる。
【0040】
また、後退制動時トルク受部4pは、取付座面4bよりも反ディスクロータ側に突出して形成され、取付座面4bを除く支持腕4eの反ディスクロータ側に、後退制動時トルク受部4pの突出量に合わせて肉盛りした肉盛り部4qを設けたことにより、ブラケット4の重量を極力増加させることなく、剛性の向上を図ることができる。さらに、肉盛り部4qは鋳肌のままの状態で良いことから、肉盛り部4qを簡単に形成でき、加工工数の減少を図ることができる。また、後退制動時トルク受部4pは、反ディスクロータ側に突出した肉盛り部4qの車両前進時におけるディスク回入側が、ディスク回入側に向けて漸次薄肉となる傾斜面4rとなっていることから、シリンダ部3iとの干渉を避けながら、後退制動時トルク受部4pを良好に補強することができる。
【0041】
尚、本発明は上述の形態例のように、ディスク回入側に第2スライドピンを設け、キャリパブラケットのディスク回出側に前進制動時トルク受部と後退制動時トルク受部とを配置した構造に限るものではなく、ディスク回出側に第2スライドピンを設け、キャリパブラケットのディスク回入側に前進制動時トルク受部と後退制動時トルク受部とを配置する構造でも差し支えない。さらに、双方のスライドピンを第1スライドピンの構造にしたものや、第2スライドピンの構造にしたものでも良い。また、パッドホールドスプリングの構造は、上述の形態例に限るものではなく、作用部側の摩擦パッドとピストンとを着脱可能に連結できるものであれば、どのような構造であっても差し支えなく、また、パッドホールドスプリングを省略することもできる。さらに、パッドスプリングの形状も任意であり、また、パッドスプリングで反作用部側の摩擦パッドと反力爪とを連結していなくても良く、摩擦パッドの形状やピストンの数も任意である。また、第2スライドピンに設ける工具結合部は、第2スライドピンの外周よりも内側に設けられるものであれば、どのような形状でも差し支えない。
【符号の説明】
【0042】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…反作用部、3c…ブリッジ部、3d,3e…ピン支持腕、3f…雌ねじ孔、3g…スライドピン保持穴、3h…シリンダ孔、3i…シリンダ部、3j…間隙部、3k…反力爪、3m…貫通孔、3n…凹部、4…キャリパブラケット、4a…ボルト挿通孔、4b…取付座面、4c…車体取付部、4d…本体部、4e…支持腕、4f…スライドピン保持部、4g…スライドピン取付部、4h…スライドピン保持穴、4i…前進制動時トルク受部、4j…平面部、4k…雌ねじ孔、4m…第1パッド当接座面、4n…第2パッド当接座面、4p…後退制動時トルク受部、4q…肉盛り部、4r…傾斜面、5…第1スライドピン、5a…工具締結用大径頭部、5b…雄ねじ部、5c…軸部、6…第2スライドピン、6a…雄ねじ部、6b…軸部、6c…フランジ部、6d…工具結合部、7,8…摩擦パッド、7a,8a…ライニング、7b,8b…裏板、7c,8c…耳片、7d,7e…当接面、7f…トルク伝達部、7g,8d…かしめ用突部、8e…突起、9…ピストン、9a…環状突部、9b…開口側円錐面、9c…底部側円錐面、10…ピンブーツ、11a…ダストブーツ、11b…ピストンシール、12…液圧室、13…パッドホールドスプリング、13a…取付基部、13b…第1パッド保持片、13c…第2パッド保持片、13d…係合部、13e…かしめ用穴部、14…パッドスプリング、14a…基部、14b…組付け片、14c…弾発片、14d…切込部、14e…弾接部、14f…かしめ用穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの一側部に配置され、ピストンを収容するシリンダ部を備えた作用部と、前記ディスクロータの他側部に配置され、反力爪を備えた反作用部とをブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、該キャリパボディを、前記ディスクロータの一側部で車体に固設するキャリパブラケットに、前記シリンダ部の車両前進時におけるディスク回出側とディスク回入側とにそれぞれ配置された一対のスライドピン及び該スライドピンがそれぞれ軸線方向に移動可能に挿入される一対のスライドピン保持穴を介してディスク軸方向にスライド可能に支持すると共に、前記ディスクロータを挟んで作用部側と反作用部側とに摩擦パッドをそれぞれ配置した車両用ディスクブレーキにおいて、前記キャリパブラケットは、前記シリンダ部よりも車両前進時におけるディスク回出側に、車両前進制動時に作用部側の前記摩擦パッドに当接して制動トルクを受ける前進制動時トルク受部と、車両後退制動時に作用部側の前記摩擦パッドのトルク伝達部に当接して制動トルクを受ける後退制動時トルク受部とを備えていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記キャリパブラケットは、車両前進時におけるディスク回入側に、前記作用部側の摩擦パッドのディスクロータ内周側面に当接するパッド当接座面が形成され、作用部側の前記摩擦パッドのディスク内周側面に、前記トルク伝達部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記キャリパブラケットは、車両前進時におけるディスク回入側とディスク回出側とに、車体取付ボルトを挿通するボルト挿通孔を有する取付座面を備えた一対の車体取付部をそれぞれ備え、前記後退制動時トルク受部は、前記ディスクロータの中心と前記作用部の押圧中心とを通るディスク半径方向線と平行で、且つ、前記各ボルト挿通孔の中心をそれぞれ通る2本のディスク半径方向線の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記キャリパブラケットは、ディスク回出側の車体取付部からディスク外周側に突出する支持腕と、該支持腕の先端部から前記ブリッジ部の車両前進時におけるディスク回出側に突出し、ディスクロータの外周を跨ぐスライドピン保持部とを備え、前記後退制動時トルク受部は、前記取付座面よりも反ディスクロータ側に突出して形成され、前記取付座面を除く前記支持腕の反ディスクロータ側に、前記後退制動時トルク受部の突出量に合わせて肉盛りした肉盛り部を設けたことを特徴とする請求項3記載の車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−11318(P2013−11318A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145217(P2011−145217)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】