説明

車両用ドアミラーの取り付け構造及びその取り付け方法。

【課題】窓用板状体(窓ガラス)の強度及び剛性を利用してドアミラーを窓ガラスに直接取り付けることにより、簡素な構造で部品の小型化、軽量化を達成するとともに、部品同士の位置合わせがし易く、シール性の高いドアミラーの取り付け構造を提供する。
【解決手段】車両のドアパネルの窓ガラスの角部に直接当接して取り付けられるドアミラーの取り付け構造において、ドアミラーは、ドアミラー本体部と窓ガラスと当接して本体部を支持するベース部を備え、窓ガラスはドアミラー取り付け用の嵌合孔を少なくとも三つ備え、嵌合孔は、窓ガラスに非直線状に配置され、ベース部と窓ガラスとを嵌合する嵌合手段を備え、ベース部と窓ガラスが、嵌合孔を介して嵌合手段によって係止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車外側側面に取り付けられるドアミラーの取り付け構造及びその取り付け方法とそれに用いる窓用板状体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の側方及び後方を確認するために取り付けられるミラーとして、側面前方のドアパネルの車外側に取り付けるドアミラー取り付け構造が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたドアミラーの取り付け構造は、側面前方のドアパネルのインナーパネルとアウターパネルとの間に補強部材を合わせた構造となっている。この補強部材ドアパネルに取り付けるとともに、ドアミラーのベース部をボルトとナットとで固定することにより、側面前方のドアにドアミラーを取り付けたものである。
【0004】
また近年、サイドガラスのコーナー部のドアミラー取り付け部分に切り欠きを設け、ドアミラー取り付け用の補強部材を熱可塑性樹脂などで一体成形し、その補強部材にドアミラーを取り付ける構造も提案されている(例えば特許文献2)。
【0005】
一方、車両用の窓用板状体であるサイドガラスに嵌合用の孔をあけ、直接ドアミラーを取り付けるドアミラー取り付け構造も開示されている(例えば特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−142227号公報
【特許文献2】特開2005−263030号公報
【特許文献3】独国特許発明第19520320号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような従来のインナーパネル、アウターパネルと間に補強部材を組み合わせたドアミラー取り付け構造は、部品点数が多く取り付け構造が複雑になる。このため、部品同士の位置合わせが難しく、シールが不十分となって取り付け部から空気や雨が車内に漏れこむ、風漏れ、水漏れなどの品質上の問題が起きやすい、また、取り付け工程が煩雑で難しいなどの問題があった。
【0008】
さらに、ドアミラー周辺の部品点数が多くなることにより、重量が増加するとともに製造コスト的にも不利になる。加えて、ドアミラー周辺の外観意匠も煩雑になり、すっきりと見せることができないなど、外観意匠の自由度が低下させるという問題もあった。
【0009】
特許文献2のような取り付け構造は、前述の車両本体への取り付け工程における位置合わせの問題は改善するものの、型式ごとに窓用板状体成形用の金型を設けなくてはならならず、大型の窓用板状体に適用することは経済的にも非常困難である。さらに、成形時に溶融材硬化までの時間がかかり生産性も高くない。その結果、製造コストが非常に高くなってしまう。
【0010】
また、特許文献3に開示されたドアミラー取り付け構造は、窓用板状体に二つの嵌合孔をあけてドアミラーを直接取り付ける構成である。しかし、開示されたドアミラー取り付け構造は、2本の脚部でドアミラーが直接取り窓用板状体に取り付けられた構造であり、ガラス板の脚部の接触する嵌合孔近傍に応力が集中する。このため、特許文献3に開示されたような簡素で軽量なドアミラーであれば取り付け可能であるが、近年の車両用ドアミラーで一般的な、ミラーの向きの調整機能やミラーの格納機能を備え、さらに、方向指示機能や防曇機能など大型かつ多機能で重量の重いドアミラーを取り付けることには不向きであった。これは、ウインドウガラス破損の危険性や取り付けた脚部のシール性低下を招くためである。
【0011】
そこで、本発明のドアミラーの取り付け構造及び窓用板状体は、前述の課題を解決するためになされた発明であり、窓用板状体の強度及び剛性を利用してドアミラーを取り付けることにより、簡素な構造で部品の小型化、軽量化を達成するとともに、部品同士の位置合わせがし易く、シール性の高いドアミラーの取り付け構造を提供する。同時に、窓用板状体の嵌合孔近傍の応力に対応し、ますます大型化、多機能化している様々なタイプのドアミラーが適用可能なドアミラーの取り付け構造及びその取り付け方法とそれに用いる窓用板状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、車両のドアパネルの窓用板状体の角部に、取り付け用の嵌合孔を介して、ドアミラーと該窓用板状体が直接当接して、嵌合手段によって取り付けられるドアミラーの取り付け構造において、
ドアミラーは、ドアミラー本体部と前記窓用板状体と当接して本体部を支持するベース部を備え前記窓用板状体は、非直線状に配置された嵌合孔を少なくとも三つ有し、前記嵌合手段によって前記ベース部と前記窓用板状体とが嵌合されることによって係止されるドアミラーの取り付け構造を提供する。
【0013】
本発明の第2の態様は、電気配線が、前記嵌合孔を通して挿通される態様1に記載のドアミラーの取り付け構造を提供する。
【0014】
本発明の第3の態様は、電気配線が、前記嵌合孔とは別に設けられた貫通孔を通して挿通される態様1に記載のドアミラーの取り付け構造を提供する。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記ベース部は、前記嵌合孔に挿入される脚部を備え、前記板状体の車内側に車両本体に固定された補強部材を備え、前記ベース部と前記窓用板状体と前記補強部材が、前記嵌合孔を介して前記嵌合手段によって係止される態様1、2又は3に記載のドアミラーの取り付け構造を提供する。
【0016】
本発明の第5の態様は、角部にドアミラーが直接取り付け可能な車両のドアパネルの窓用板状体であって、前記ドアミラー取り付け用の嵌合孔を少なくとも三つ備え、前記嵌合孔は、前記窓用板状体に非直線状に配置されることを特徴とする車両のドアパネルに用いる窓用板状体を提供する。
【0017】
本発明の第6の態様は、前記嵌合孔周辺部における窓用板状体の許容応力が50MPa以上である態様5に記載の窓用板状体を提供する。
【0018】
本発明の第7の態様は、前記窓用板状体は少なくとも三つの嵌合孔を備え、第二の嵌合孔の長径は第一の嵌合孔の直径よりも大きく、他の嵌合孔の直径は第二の嵌合孔の長径より大きい嵌合孔を備える態様5又は6に記載の窓用板状体を提供する。
【0019】
本発明の第8の態様は、車両のドアパネルの窓用板状体の角部に直接当接して取り付けられるドアミラーの取り付け方法であって、
前記窓用板状体は非直線状に配置されたドアミラー取り付け用の嵌合孔を少なくとも三つ備え、前記嵌合孔のうち、第二の嵌合孔の長径は第一の嵌合孔の直径よりも大きく、他の嵌合孔の直径は第二の嵌合孔の長径より大きく、ドアミラーは、ドアミラー本体部と前記窓用板状体と当接して本体部を支持するベース部を備え、さらに前記ベース部は、前記嵌合孔に対応して嵌合する脚部を備え、第一の脚部を前記窓用板状体の第一の嵌合孔に挿入する工程と第二の脚部を第二の嵌合孔に挿入してドアミラーの第一の取り付け方向の位置決めを行う工程と、他の脚部を他の嵌合口に挿入して残りの方向の位置決めを行う工程と前記嵌合孔を介して嵌合手段によりドアミラーが係止される工程と、を少なくとも備えることを特徴とするドアミラーの取り付け方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドアミラーの取り付け構造及び窓用板状体は、窓用板状体の強度及び剛性を利用してドアミラーを取り付けることにより、簡素な構造によるドアミラーの取り付け構造及び部品の小型化、軽量化を達成する。また、ドアミラーを取り付ける工程において部品同士の位置合わせがし易く作業性のよい取り付け構造を提供する。また、簡素で位置合わせのし易い取り付け構造により、シール性の高く安価なドアミラーの取り付け構造を提供する。同時に、様々な窓用板状体と様々なドアミラーが適用可能で、外観意匠の設計自由度も高く安価なドアミラーの取り付け構造及びその取り付け方法とそれに用いる窓用板状体を提供することを目的とする。
【0021】
本発明は、車両の窓用板状体にドアミラー取り付け用の嵌合孔を設け、ドアミラーのベース部に設けられた嵌合手段により、窓用板状体とドアミラーを嵌合することにより、窓用板状体の強度及び剛性を利用してドアミラーを係止するドアミラーの取り付け構造である。
【0022】
このとき、窓用板状体に嵌合孔が少なくとも三つ以上備えられ、それぞれの嵌合孔は非直線状に配置される。少なくとも嵌合孔3点によって、ドアミラーが係止されることにより、窓用板状体とドアミラー二つの部品だけで、取り付け位置を一義的に定めることが可能になる。これは同時に、車両本体へ窓用板状体を組み付ける前にドアミラーを取り付けるドアミラー先付けした窓用板状体アッセンブリーも可能にする。
【0023】
また、平坦性の高いガラスに直接ドアミラーのベース部を当接させることにより位置合わせが行われるため、嵌合部の空気や水の出入りに対するシール性の向上に寄与する。同時に、取り付け部品点数と嵌合時に位置合わせしなくてはならない部品の数が減少する。このため、位置合わせが容易になって取り付け精度が高まるとともに、ドアミラーの取り付け工程を簡素化、効率化することができ経済的に有利である。
【0024】
また、三つ以上の嵌合孔を備えることにより嵌合孔にかかる応力が分散される。これにより、板状体の破損防止に効果があるとともに、ドアミラーのベース部にかかる応力も低減できる。その結果、ベース部に必要な剛性も低減されベース部の小型化が可能になり、同時に、多機能で重量の重いドアミラーの取り付けも可能になる。
【0025】
また、従来必要であったドアミラーの取り付け部に補強部材を省略することが可能になり、金属に比べて比重の低いガラスや透明プラスチックなどによってドアミラーを係止するため、軽量化に寄与する。これらの部品点数の削減、ベース部の小型化は、ドアミラー周辺の設計自由度を高める。これらの結果、射出成形等を用いなくても、高機能で容易に精度よく取り付けが可能、かつ、完成度の高い外観意匠や運転者からの視認性を向上させたドアミラー取り付け構造を安価に実現できる。
【0026】
電気配線が、嵌合孔を通して挿通される構成においては、嵌合孔が電気配線のガイドの役割も果たすため、ドアミラーの部品点数、嵌合孔数がさらに削減でき、軽量化、コストダウンにさらに寄与する。
【0027】
電気配線が、前記嵌合孔とは別に設けられた貫通孔を通して挿通される構成においては、ドアミラーの取り付け工程において、ドアミラーの取り付けと電気配線の取り付けが個別に行えるため作業性が向上する。また、事故など不慮の状況でドアミラーの嵌合手段が破損した場合にも、電気配線への影響が小さくなり、電気配線全てが断線しない限りにおいて、ドアミラー全体の完全な脱落を防止することも可能になる。
【0028】
ドアミラーのベース部に嵌合孔に内接する脚部、車内側に補強部材を備え、ベース部と窓用板状体と補強部材が、嵌合孔を介して係止される構成においては、脚部と嵌合孔が内接することにより取り付け位置精度が向上し、取り付けが容易になるとともに、ドアミラーが車両本体により強固に係止される。また、補強部材にかかる応力も低減されるため従来の補強部材より軽量化できる。
【0029】
態様5の非直線状に配置された嵌合孔を少なくとも三つ備える窓用板状体は、窓用板状体とドアミラー二つの部品だけで、ドアミラーを係止することができ、嵌合孔により取り付け位置を一義的に定めることが可能にする。同時に、車両本体へ窓用板状体を組み付ける前にドアミラーを取り付けるドアミラー先付けした窓用板状体アッセンブリーも可能にする。また、平坦性の高いガラスに直接ドアミラーのベース部を当接させることが可能になりシール性の向上し、部品の数が削減される。また、嵌合孔周辺部にかかる応力の緩和と非直線状の配置によって、取り付け精度の向上、取り付け工程を簡素化と効率化に寄与し、コスト低減に有効な窓用板状体を提供することができる。
【0030】
ドアミラー取り付け用の嵌合孔周辺部における窓用板状体の許容応力が50MPa以上である窓用板状体は、ドアミラーの取り付けにおいて補強部材を省略した構成においてもより確実にドアミラーを係止することができる。また、取り付け後の窓用板状体の破損の防止により効果的である。
【0031】
態様7に示した形状を備えた三つ以上の嵌合孔を備える窓用板状体の構成においては、第一、第二、第三以降の嵌合孔の順にドアミラーの脚部と当接させて位置決めすることで、ドアミラーの位置決めを容易、かつ、正確に行うことを可能にする。
【0032】
態様8に示したドアミラーのベース部の設けられた脚部を第一、第二、第三以降の嵌合孔の順に挿入して位置決めするドアミラーの取り付け方法は、第一の嵌合孔に脚部を挿入することでドアミラー取り付けの基準が形成され、第二の長孔状の嵌合孔に脚部が挿入されることで一方向におけるドアミラーの位置を仮決めし、第三以降の嵌合孔に脚部が挿入されることでドアミラーが窓用板状体の面上で一義的に位置決めされる。この取り付け方法によれば、ドアミラーと窓用板状体の寸法誤差を、嵌合孔が吸収できる形状を備える。よって、正確、かつ、容易にドアミラーの取り付け行うことができ、効率的なドアミラーの取り付け方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について図を参照しながら詳細に説明する。尚、以下ウインドウガラス(窓用板状体)が車両の側面前方のドアパネルに取り付けられた例を用いて説明する。尚、ここでは、車両の取り付けられた状態のウインドウガラスにおいて上側/下側、車両の進行方向を前側/後側、窓用板状体の表裏面方向を車内側/車外側と呼ぶこととする。
【0034】
[第一の実施態様]
図1は、本発明にかかるサイドミラーの取り付け構造の例を示す断面図である。
ウインドウガラス2は、インナーパネル20とアウターパネル22に挟持され、さらに、下端部に取り付けられたモール3を介してホルダー9に固定されることによりドアパネル1に支持されている。ドアミラー10は、ウインドウガラスと当接するベース部10bとベース部10bに回転自在に取り付けられた本体部10aを備える。
【0035】
ドアミラー10は、ベース部10bがウインドウガラス2に設けられた複数の嵌合孔を介してボルト16(嵌合手段)によってウインドウガラス2の車外側面に取り付けられる。このときドアミラーベース部の当接面11とウインドウガラス2車外面7の間にはシール材12を設けてもよい。
【0036】
図2は本発明にかかるウインドウガラスの例を示す模式図である。ここで、ウインドウガラス2は、車両の前方側面のドアパネルにおいて前側に取り付けられる固定窓(フロントベンチガラス)である。ウインドウガラス2の角部には、三つの嵌合孔5が略三角形状に配設され、貫通孔6が嵌合孔5に囲まれるように備えられる。
【0037】
図3は、本発明にかかる嵌合手段の例を示す断面図である。ウインドウガラス2は嵌合孔5を備え、嵌合孔の周縁の車外面7にはシール材14が取り付けられる。ドアミラーのベース部10bに連続して形成される脚部10cが、嵌合孔5に車外側から挿入され、車内面側から挿入されたボルト16によって嵌合され、ドアミラー10がウインドウガラス2に係止される。
【0038】
図2に示したそれぞれの嵌合孔5が図3で示したようにドアミラーのベース部10bと嵌合されることにより、ウインドウガラス2にドアミラーが取り付けられる。このとき、ドアミラー10は、3点でウインドウガラス2に嵌合されているため、取り付け位置を一義的に定めることが可能になる。
【0039】
本実施の態様では、ドアミラー10とウインドウガラス2が車両本体に固定された部材を介さずに取り付けることができるため、ドアパネル(車両本体)1へウインドウガラス2を組み付ける前にドアミラーを取り付ける、ドアミラー先付けアッセンブリーが可能になる。
【0040】
また、平坦性の高いウインドウガラス2に直接ドアミラーのベース部10bを当接させることにより取り付けが行われるため、嵌合部の空気や水の出入りに対するシール性が向上する。ここで、ウインドウガラス2とドアミラーのベース部10bが直接当接するとは、シール材12を介して当接する態様を含むことは言うまでもない。
【0041】
シール材12はドアミラー10のベース部10bや脚部10cに事前に一体化するように取り付けられてもよく、取り付け時にウインドウガラス2とドアミラー10の間に挿入されてもよい。
【0042】
また、取り付け部品点数が減少したため、位置合わせが容易になって取り付け精度が高まるとともに、ドアミラーの取り付け工程を簡素化、効率化することができる。
【0043】
また、三つ以上の嵌合孔を備えることにより嵌合孔にかかる応力が分散される。これにより、板状体の破損防止に効果があるとともに、ドアミラーのベース部にかかる応力も低減できる。
【0044】
その結果、ベース部に必要な剛性も低減されベース部の小型化が可能になり、同時に、多機能で重量の重いドアミラーの取り付けも可能になる。また、従来必要であったドアミラーの取り付け部に補強部材を省略することが可能になり比重の重い金属の使用部品も減少するため軽量化にも寄与する。
【0045】
図4はウインドウガラスにかかる力の測定方法を示した模式図である。図2に示したウインドウガラス2に取り付けたドアミラーに人が寄りかかった程度の力を想定し、ウインドウガラスの車外面7から50mmの点に30kgfの荷重で測定した。このときのウインドウガラスは、厚さ3.1mm平板状の強化ガラスを用いた。嵌合孔5と貫通孔6は、図2に示した位置にそれぞれ内径16mm、30mmとなるように準備した。シール材は、ドーナツ状で外形が25mm、内径が16mm、厚さが5mmのものを用いた。
【0046】
図5に、ドアミラーからウインドウガラスにかかる力を測定した結果を示す。前述のように上側1つ、下側二つの嵌合孔5にドアミラーを取り付けた場合に、図2のA−A‘線上でウインドウガラス2にかかる力と応力の値を示している。尚、ベース部を車外側に引き抜こうとする力(以下引き抜き力及び引き抜き応力)を負で、車内側に押し付ける力(以下加圧力及び加圧応力)を正で表している。
【0047】
上側の嵌合孔にかかる引き抜き力は、最も強いところで−327N、引き抜き応力は−48N、下側の嵌合孔にかかる加圧力は、最も強いところで−327N、引き抜き応力は−48Nである。よって、嵌合孔周辺部における窓用板状体の許容応力が50MPa以上であることが必要であり、75MPa以上が好ましく、100MPa以上であればさらに好ましい。75MPa以上であれば周知の強化ガラスの製造方法で製造でき安全率が高まる。100MPa以上であれば人がうえに載った程度の荷重に耐えることができ破損の危険が大幅に低減される。
【0048】
ここでは、嵌合孔5が上側に一つ、下側に二つ配設される構成を示した。嵌合孔5は、応力を集中させたくない部位で多く設け、応力が集中してもよい部位では少ない個数でよい。また、三つ以上の嵌合孔を設けてもよい。図2の例では、下側の二つの嵌合孔5が、ウインドウガラス2の周縁部に配置され応力を緩和することにより、ウインドウガラス2の破損を効果的に防止できる。ドアミラーがウインドウガラスの下端側に取り付けられる際に好ましく適用できる。
【0049】
嵌合孔5の直径が16mmの例を示したが、嵌合孔5の直径は10〜20mmが好適である。直径が小さいと嵌合手段が取り付けにくくなったり、嵌合手段例えばボルト14の強度が不足したりするためである。また、直径が大きいとベース部10bも大きくなり、運転者の視認性を低下させる。電気配線を挿通するための貫通孔6は20〜30mm程度が好適である。直径が小さいと電気配線が取り付けにくくなり、直径が大きいと嵌合孔5との適正な距離確保が難しくなり、ウインドウガラス2の強度、剛性を低下させる。また、ドアミラー10が大きくなり、運転者の視認性を低下させる。
【0050】
電気配線を挿通するための貫通孔6を備えることにより、ドアミラー10の取り付けと電気配線の取り付けが個別に行えるため作業性が向上する。また、ドアミラー10の嵌合手段が破損した場合にも、電気配線への影響が小さくなり、完全な脱落を防止することも可能になる。
【0051】
ここでは、ドアミラー10に装備されるミラー位置調整、防曇、開閉などの機能を制御する電気配線を挿通するための貫通孔6を備える構成を示したが、嵌合孔5に電気配線を挿通して貫通孔6の機能を兼ねてもよい。ドアミラー10の部品点数、ウインドウガラス2の嵌合孔数がさらに削減でき、軽量化、コストダウンに寄与する。
【0052】
また、これらの部品点数の削減、ベース部10bの小型化は、ドアミラー周辺の設計自由度を高める。これらの結果、一体成形等を用いなくても、高機能で容易に精度よく取り付けが可能、かつ、完成度の高い外観意匠や運転者からの視認性を向上させたドアミラー取り付け構造を安価に実現できる。
【0053】
ここで用いられるウインドウガラス2は、形状的には平板状又は湾曲状のものが適用でき、構成としては強化ガラスが好適であるが、穿孔可能で前述の強度を満たす構成であれば複層ガラス、合わせガラス、金属線入りガラスなど、材質的には無機ガラスの他、ポリカーボネート類、ポリスチレン類、ポリメチルメタクリレート類等のいわゆる有機透明樹脂ガラス、これらの単独又は2種以上の積層物等を用いることもできる。
【0054】
シール材12は、公知のゴム及び発泡材料が使用可能であり、EPDM(Ethylene−Propylene diene terpolymer)が好適である。
【0055】
ドアミラー10には、公知の硬質樹脂が利用可能であり、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、POM(ポリオキシメチレン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂が好適である。
【0056】
[第二の実施態様]
図6は、本発明にかかるサイドミラーの取り付け構造の他の例を示す断面図である。
ウインドウガラス2は、インナーパネル20とアウターパネル22に挟持され、さらに、ドアミラー10の下端部に取り付けられたモール3を介してホルダー9に固定されドアパネル1に支持されている。
【0057】
ウインドウパネル2の車内側にはドアパネル1に係止された補強部材24が備えられ、
ドアミラー10は、ウインドウガラスに当接するベース部10bとベース部に回転自在に取り付けられた本体部10aを備える。ドアミラー10は、ベース部10bがウインドウガラス2と補強部材24に備えられた複数の嵌合孔を介してボルト16(嵌合手段)によって嵌合され、ウインドウガラス2の車外側面に係止される。
【0058】
図7はドアミラー取り付け部の構成の例を示す模式図である。図7(a)は従来のドアミラーの取り付け部及び補助部材を示している。従来のドアミラーの取り付け方法では、ドアミラーの取り付け部には、ドアミラーを取り付けるための補強部材34を備える。補強部材34はドアミラーを係止するための取り付けプレート34aと取り付けプレートをドアパネルに固定するための保持部34bを備える。保持部材34は、ドアミラーを係止する剛性と強度を備えた取り付けプレート34aと、それを保持可能な保持部34bであり、大きく重量も重い部材であった。
【0059】
一方、図7(b)に示した、本実施の態様では、ウインドウガラスは、前方に固定されたフロントクォーターガラス2aと後方で昇降自在に取り付けられたフロントドアガラス2bに分割されている。また、保持部材24は、取り付けプレート24aと取り付けプレートをドアパネルに固定するための保持部24bを備える。しかし、フロントクォーターガラス2aがその剛性と強度を備えて、主にドアミラー係止するため、取り付けプレート24aはドアミラーを係止するための補助的な部材である。よって、従来の取り付けプレートに比べて軽量であり、これを支える保持部24bも小型軽量化可能となった。
【0060】
本実施の形態にかかるその他構成は、前述の実施の形態の構成と共通に用いることができ、同等の効果を奏する。よって、詳細は省略する。
【0061】
次に本発明のドアミラーの取り付け方法について図8〜10を用いて説明する。
図8は、図2に示したウインドウガラスを用いたときの取り付け方法を示す平面模式図である。ウインドウガラス2は嵌合孔5を複数備え、ドアミラーのベース部10bは、嵌合孔に対応する脚部10cを備える。ドアミラーの脚部10cをウインドウガラス2に略垂直方向から嵌合孔5に挿入し、ボルト24によって嵌合係止する。
【0062】
図9は、本発明のウインドウガラスの他の構成例である。本例は、ウインドウガラス2角部にドアミラーが直接取り付け可能なドアミラー取り付け用の嵌合孔を三つ備える。第一の嵌合孔は略円形であり、第二の嵌合孔5bは楕円形で、長径は第一の嵌合孔5aの直径よりも大きく、第三の嵌合孔5cの直径は第二の嵌合孔5bの長径より大きい。
【0063】
図10は、図9に示したウインドウガラスを用いたときの取り付け方法を示す平面模式図である。嵌合孔に対応するドアミラーの第一の脚部10dは、最初にウインドウガラス2の第一の嵌合孔5aに挿入される。次に、第二の脚部(図示せず)を第二の嵌合孔5bに挿入して、図9にB−B’で示したドアミラーの第一の取り付け方向の位置決めを行う。
【0064】
次に、第三の脚部10eを第三の嵌合口5cに挿入することによりドアミラーの面方向の位置決めを行う。次に、嵌合孔を介して嵌合手段であるボルト14と脚部が嵌合されドアミラーが係止される。
【0065】
この取り付け方法によれば、第一の嵌合孔5aに第一の脚部10dを挿入することでドアミラー取り付けの基準が形成され、第二の長孔状の嵌合孔5bに第二の脚部が挿入されることでB−B’一方向におけるドアミラーの位置を仮決めし、第三の嵌合孔5cに第三の脚部10eが挿入されることで、ドアミラーがウインドウガラス2の面上で一義的に位置決めされる。この取り付け方法によれば、第二の嵌合孔5bが楕円形状であることにより、B−B’方向での嵌合孔と脚部の寸法誤差を吸収するため、容易に位置の仮決めができる。
【0066】
また、第三の嵌合孔5cが、他の嵌合孔より大きく形成されることにより、ウインドウガラス上のB−B’、C−C’方向両方向でのドアミラー10と窓用板状体2の寸法誤差を、嵌合孔5cが吸収することできる。よって、正確、かつ、容易にドアミラーの取り付け行うことができ、効率的なドアミラーの取り付け方法を提供することができる。
【0067】
ここでは、第一、第三の嵌合孔が円形、第二の嵌合孔が楕円形の例を示したが、位置決めの際にドアミラーの脚部の寸法誤差を吸収可能であればこれに限定されず四角形や三角形でもよく、他の多角形等でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両用ウインドウガラスにおいて、特に自動車の固定ウインドウガラスにドアミラーを取り付ける際に好適に適用できる。尚、以上において自動車のフロントベンチウインドウガラスを用いる例を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば自動車のリアウインドウなど車両の他の開口部、航空機、船舶等の輸送機関やビル、住宅などの建造物等において窓用板状体に直接部品を取り付ける際に利用できる。また、ここではドアミラーをウインドウガラスに取り付ける構造を例に説明したが、車両に取り付けられる他の部品、例えば種々のアンテナ、センサー、ミラーベースなどに利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のサイドミラーの取り付け構造の例を示す断面図である。
【図2】本発明のウインドウガラスの例を示す模式図である。
【図3】本発明の嵌合手段の例を示す断面図である。
【図4】本発明のウインドウガラスの力の測定方法を示した模式図である。
【図5】本発明のドアミラーからウインドウガラスの力を測定した結果である。
【図6】本発明のサイドミラーの取り付け構造の他の例を示す断面図である。
【図7】本発明のドアミラー取り付け部の構成の例を示す模式図である。
【図8】図2に示したウインドウガラスを用いたときの取り付け方法を示す平面模式図である。
【図9】本発明のウインドウガラスの他の構成例である。
【図10】図9に示したウインドウガラスを用いたときの取り付け方法を示す平面模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1:ドアパネル(車両本体)
2:ウインドウガラス(窓用板状体)
2a:フロントドアガラス
2b:フロントクォーターガラス
3:モール
5:嵌合孔
5a:第一の嵌合孔
5b:第二の嵌合孔
5c:第三の嵌合孔
6:貫通孔
7:車外面(ウインドウガラス)
9:ホルダー
10:ドアミラー
10a:本体部
10b:ベース部
10c:脚部
10d:第一の脚部
10e:第二の脚部
11:当接面(ベース部)
12:シール材(緩衝部材)
14:ボルト(嵌合部材)
16:ワッシャー(嵌合部材)
20:インナーパネル
22:アウターパネル
24:補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアパネルの窓用板状体の角部に、取り付け用の嵌合孔を介して、ドアミラーと該窓用板状体が直接当接して、嵌合手段によって取り付けられるドアミラーの取り付け構造において、
ドアミラーは、ドアミラー本体部と前記窓用板状体と当接して本体部を支持するベース部を備え
前記窓用板状体は、非直線状に配置された嵌合孔を少なくとも三つ有し、
前記嵌合手段によって前記ベース部と前記窓用板状体とが嵌合されることによって係止されるドアミラーの取り付け構造。
【請求項2】
電気配線が、前記嵌合孔を通して挿通される請求項1に記載のドアミラーの取り付け構造。
【請求項3】
電気配線が、前記嵌合孔とは別に設けられた貫通孔を通して挿通される請求項1に記載のドアミラーの取り付け構造。
【請求項4】
前記ベース部は、前記嵌合孔に挿入される脚部を備え、
前記板状体の車内側に車両本体に固定された補強部材を備え、前記ベース部と前記窓用板状体と前記補強部材が、前記嵌合孔を介して前記嵌合手段によって係止される請求項1、2又は3に記載のドアミラーの取り付け構造。
【請求項5】
角部にドアミラーが直接取り付け可能な車両のドアパネルの窓用板状体であって、
前記ドアミラー取り付け用の嵌合孔を少なくとも三つ備え、前記嵌合孔は、前記窓用板状体に非直線状に配置されることを特徴とする車両のドアパネルに用いる窓用板状体。
【請求項6】
前記嵌合孔周辺部における窓用板状体の許容応力が50MPa以上である請求項5に記載の窓用板状体。
【請求項7】
前記窓用板状体は少なくとも三つの嵌合孔を備え、第二の嵌合孔の長径は第一の嵌合孔の直径よりも大きく、他の嵌合孔の直径は第二の嵌合孔の長径より大きい嵌合孔を備える請求項5又は6に記載の窓用板状体。
【請求項8】
車両のドアパネルの窓用板状体の角部に直接当接して取り付けられるドアミラーの取り付け方法であって、
前記窓用板状体は非直線状に配置されたドアミラー取り付け用の嵌合孔を少なくとも三つ備え、
前記嵌合孔のうち、第二の嵌合孔の長径は第一の嵌合孔の直径よりも大きく、他の嵌合孔の直径は第二の嵌合孔の長径より大きく、
ドアミラーは、ドアミラー本体部と前記窓用板状体と当接して本体部を支持するベース部を備え
さらに前記ベース部は、前記嵌合孔に対応して嵌合する脚部を備え、
第一の脚部を前記窓用板状体の第一の嵌合孔に挿入する工程と
第二の脚部を第二の嵌合孔に挿入してドアミラーの第一の取り付け方向の位置決めを行う工程と、
他の脚部を他の嵌合口に挿入して残りの方向の位置決めを行う工程と
前記嵌合孔を介して嵌合手段によりドアミラーが係止される工程とを、少なくとも備えることを特徴とするドアミラーの取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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