説明

車両用ブレーキシステム

【課題】実用性の高い車両用ブレーキシステムを提供する。
【解決手段】運転者による操作力に依拠して加圧された作動液をブレーキ装置に供給可能なマスタシリンダと、ブレーキ装置に供給される作動液を加圧可能な作動液加圧装置とを備え、操作力に依拠して制動力を発生させる状態と、ブレーキ圧がマスタシリンダ圧よりより高くなるように作動液が作動液加圧装置によって加圧される状態(装置依拠加圧状態)とが選択的に実現可能な車両用ブレーキシステムにおいて、車両が停止している状態においてブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定された場合(S35,36)に、装置依拠加圧状態を実現する(S38)ように構成する。このように構成することで、車両が停止している場合であっても、運転者の意思を尊重して制動力を大きくすることが可能となり、ブレーキシステムの実用性を高くすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液加圧装置を備え、その作動液加圧装置に依拠して加圧された作動液によって制動力を発生させる車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるブレーキシステムには、ブレーキ装置に供給される作動液を加圧可能な作動液加圧装置が設けられ、その作動液加圧装置に依拠して加圧された作動液によって制動力を発生させるシステムが存在する。そのようなシステムでは、運転者によるブレーキ操作部材への操作力に依拠して加圧された作動液をブレーキ装置に供給可能なマスタシリンダが設けられ、そのマスタシリンダから供給される作動液によって制動力を発生させることも可能とされている。つまり、作動液加圧装置に依拠して制動力を発生させる状態と、運転者による操作力に依拠して制動力を発生させる状態とを選択的に実現可能なブレーキシステムが存在する。下記特許文献には、そのような2つの状態を選択的に実現可能なブレーキシステムの一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−30385号公報
【特許文献2】特開平11−198782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作動液加圧装置に依拠して加圧された作動液によって制動力を発生させることが可能なシステムにおいては、マスタシリンダによって加圧される作動液の液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という場合がある)より高い液圧の作動液をブレーキ装置に供給することが可能である。つまり、ブレーキ装置の作動液の液圧(以下、「ブレーキ圧」という場合がある)がマスタシリンダ圧より高くなるように作動液加圧装置によって作動液が加圧される状態である装置依拠加圧状態を実現することが可能とされている。上記特許文献に記載のブレーキシステムでは、通常時に、運転者による操作力に依拠して制動力を発生させる状態が実現され、車両走行時にある程度大きな制動力を発生させることが望ましい場合に、装置依拠加圧状態が実現されている。このように2つの状態が選択的に実現されることで、走行している車両を適切に停止させることが可能となっている。ただし、様々な状況下で、それら2つの状態が選択的に実現されれば、ブレーキシステムの実用性がさらに向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、上記2つの状態を選択的に実現可能な車両用ブレーキシステムの実用性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用ブレーキシステムは、車両が停止している状態においてブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定された場合に、装置依拠加圧状態を実現するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
車両が停止している状態であるにも関わらず、ブレーキ操作部材に加えられている操作力が増加するような場合、つまり、運転者がブレーキ操作部材を踏み増すような場合には、運転者は何らかの意思を持って制動力を大きくしようとしていることが多い。したがって、本発明のブレーキシステムによれば、運転者の意思に沿った制動力の増大を作動液加圧装置に依拠して大きくすることが可能となり、例えば、車両が停止している状態での運転者の負担を軽減することで、ブレーキシステムの実用性を高くすることが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項3に(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)車輪に設けられて制動力を発生させるブレーキ装置と、
運転者によって操作力が加えられるブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材に加えられる操作力に依拠して加圧された作動液を前記ブレーキ装置に供給可能なマスタシリンダと、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧可能な作動液加圧装置と、
(a)前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を許容し、前記マスタシリンダによって加圧される作動液が前記ブレーキ装置に供給される状態を実現する操作力依拠加圧状態実現部と、(b)前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を禁止し、前記ブレーキ装置の作動液の液圧であるブレーキ圧が前記マスタシリンダによって加圧される作動液の液圧であるマスタシリンダ圧より高くなるように、前記ブレーキ装置に供給される作動液が前記作動液加圧装置によって加圧される状態である装置依拠加圧状態を実現する装置依拠加圧状態実現部とを有する制御装置と
を備えた車両用ブレーキシステムであって、
前記装置依拠加圧状態実現部が、
車両が停止している状態において前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定された場合に、前記装置依拠加圧状態を実現する停止時装置依拠加圧状態実現部を有する車両用ブレーキシステム。
【0010】
車両に搭載されるブレーキシステムには、運転者による操作力に依拠して加圧された作動液によって制動力を発生させる状態と、上記装置依拠加圧状態とを選択的に実現することが可能なシステムが存在する。そのような2つの状態を選択的に実現可能なブレーキシステムでは、従来、車両走行時にある程度大きな制動力を発生させることが望ましい場合に、装置依拠加圧状態が実現され、通常時には、運転者による操作力に依拠して制動力を発生させる状態が実現されていた。このように2つの状態を選択的に実現すれば、走行している車両を適切に停止させることが可能である。ただし、車両が停止している状態であっても、ある程度大きな制動力を発生させることが望ましい場合もある。
【0011】
そこで、本項に記載された車両用ブレーキシステムにおいては、車両が停止している状態においてブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定された場合に、装置依拠加圧状態を実現している。車両が停止している状態であるにも関わらず、ブレーキ操作部材に加えられている操作力が増加するような場合、つまり、運転者がブレーキ操作部材を踏み増すような場合には、運転者は何らかの意思を持って制動力を大きくしようとしていることが多い。したがって、本項に記載のブレーキシステムによれば、運転者の意思に沿った制動力の増大を作動液加圧装置に依拠して発生させることが可能となり、例えば、車両が停止している状態での運転者の負担を軽減することが可能となる。
【0012】
本項に記載の「停止時装置依拠加圧状態実現部」は、車両が停止している状態においてブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加を認定するための認定部を有していてもよい。その認定部は、当然、ブレーキ操作部材に加えられる操作力自体によって認定してもよく、ブレーキ操作部材の操作量,操作速度,ブレーキ操作部材に加えられる操作力に依拠して加圧される作動液の圧力,その圧力の変化速度等のブレーキ操作部材に加えられる操作力を指標するものによって認定してもよい。また、本項に記載の「装置依拠加圧状態」では、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との圧力差が一定となるように作動液加圧装置によって作動液が加圧されてもよく、それらの圧力差がマスタシリンダ圧に応じて変化するように作動液加圧装置によって作動液が加圧されてもよい。具体的に言えば、マスタシリンダ圧が高くなるほど、圧力差が大きくなるように作動液加圧装置によって作動液が加圧されてもよい。
【0013】
本項に記載のブレーキシステムは、ブレーキ装置とマスタシリンダとの間を作動液が流通可能にそれらを連通させる連通路と、その連通路に設けられて、ブレーキ装置とマスタシリンダとの間の作動液の流れを許容する状態と禁止する状態とを切換える切換器とを備え、作動液加圧装置が、切換器とブレーキ装置との間において作動液を加圧するように構成されてもよい。このように構成することで、運転者による操作力に依拠して制動力を発生させる状態と装置依拠加圧状態とを適切に切換えることが可能となる。
【0014】
(2)当該車両用ブレーキシステムが、
エンジン出力の伝達経路に流体式のクラッチ機構が設けられた車両に搭載された(1)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0015】
流体継手,トルクコンバータ等の流体式のクラッチ機構が設けられた車両では、通常、クリープ現象が発生する。クリープ現象とは、エンジンのアイドリング状態において車両が動く現象であり、アイドリング状態における単位時間あたりのエンジン回転数が変化すると、アイドリング状態において車両が移動しようとする力も変化する。具体的には、例えば、エアコン等の作動に伴ってアイドリング状態におけるエンジン回転数は上昇し易く、エンジン回転数の上昇によって、アイドリング状態において車両が移動しようとする力も大きくなるのである。このため、運転者は、車両が停止している状態において、エンジン回転数が上昇すると、運転者はブレーキの効きが悪くなったと感じて、ブレーキ操作部材を踏み増す場合がある。したがって、本項に記載のブレーキシステムでは、車両停止時に上記装置依拠加圧状態を実現する効果を充分に活かすことが可能となる。
【0016】
(3)当該車両用ブレーキシステムが、前記作動液加圧装置によって加圧される作動液の液圧を制御可能に調整するブレーキ圧調整器を備え、
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記ブレーキ圧が前記マスタシリンダ圧より設定圧高くなるように、前記作動液加圧装置によって加圧される作動液の液圧を前記ブレーキ圧調整器によって調整するように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0017】
本項に記載のブレーキシステムでは、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との圧力差が一定とされており、簡便な制御則によって車両停止時の装置依拠加圧状態を実現することが可能となる。車両停止時の装置依拠加圧状態が、例えば、先に説明したクリープ現象による運転者の踏み増しによって実現される場合には、アイドリング状態でのエンジン回転数の最高値は想定することが可能であるため、必要な圧力差は予め想定可能である。そこで、そのような場合には、本項に記載の「設定圧」を、アイドリング状態でのエンジン回転数の想定される最高値に基づいて設定してもよい。
【0018】
(4)前記ブレーキ装置が、駆動輪に設けられて制動力を発生させるものであり、
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記装置依拠加圧状態の実現時に前記駆動輪が回転した場合に、前記ブレーキ圧がさらに高くなるように前記ブレーキ装置に供給される作動液を前記作動液加圧装置によって加圧するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0019】
本項に記載のブレーキシステムは、作動液加圧装置に依拠した制動力が足らない場合に、作動液加圧装置によって作動液をさらに加圧するように構成されている。したがって、本項に記載のシステムによれば、車輪の回転を確実に停止させることが可能となる。本項に記載の「駆動輪が回転した場合」とは、駆動輪が空転した場合であってもよく、駆動輪の回転に伴って車両が移動した場合であってもよい。
【0020】
(5)前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
車両が停止している状態において、前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力を指標する操作力指標量が、車両が停止した時点での前記操作力指標量より設定量多くなった場合に、前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定されたものとして、前記装置依拠加圧状態を実現するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0021】
本項に記載のブレーキシステムにおいては、操作力の増加の認定方法が具体的に限定されている。車両が停止している状態においてブレーキ操作部材に加えられる操作力の大きさは、運転者毎に異なる。また、特定の運転者であっても、停止している路面の状況等によって異なる。このため、ブレーキ操作部材の踏み増しを認定するための基準は、各状況に応じて変更する必要がある。本項に記載のブレーキシステムでは、車両が停止した時点での操作力指標量を基準としており、その基準となる指標量は各状況に応じた量となる。したがって、本項に記載のブレーキシステムによれば、どのような状況であっても、確実に操作力の増加を認定することが可能となる。
【0022】
本項に記載の「操作力指標量」は、ブレーキ操作部材に加えられている操作力を指標するものであればよく、操作力自体を始めとして、例えば、ブレーキ操作部材の操作量,操作速度,ブレーキ操作部材に加えられる操作力に依拠して加圧される作動液の圧力,その圧力の変化速度といった種々のものを、操作力指標量として採用することが可能である。また、本項に記載の「設定量」は、予め設定された特定の量であってもよく、上記基準となる操作力指標量、つまり、車両が停止した時点での操作力指標量の大きさに応じて設定される量であってもよい。
【0023】
(6)前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記作動液加圧状態の実現時に前記操作力指標量が車両が停止した時点での前記操作力指標量より少なくなった場合に、前記装置依拠加圧状態の実現を終了するように構成された(5)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0024】
本項に記載のブレーキシステムでは、車両停止時の装置依拠加圧状態の終了のタイミングが具体的に限定されている。車両が停止している状態において、運転者がブレーキ操作部材を踏み増した場合であっても、加えられている操作力が踏み増される前の操作力にまで減少すれば、運転者の制動力を増加させようとする意思は無くなっていると考えられる。したがって、本項に記載のシステムによれば、好適なタイミングで車両停止時の装置依拠加圧状態を終了することが可能となる。
【0025】
(7)前記操作力指標量が、前記マスタシリンダ圧である(5)項または(6)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0026】
本項に記載のブレーキシステムにおいては、操作力指標量が具体的に限定されている。
【0027】
(8)前記装置依拠加圧状態実現部が、
車両が走行している状態において前記ブレーキ圧を前記マスタシリンダ圧より高くすることが望ましい場合に、前記装置依拠加圧状態を実現する走行時装置依拠加圧状態実現部を有する(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0028】
本項に記載のブレーキシステムでは、車両走行時において装置依拠加圧状態を実現することが可能とされており、走行している車両を適切に停止させることが可能となっている。車両走行時において装置依拠加圧状態を実現可能なシステムは、従来から存在しており、そのようなシステムであれば、新たに装置,機構等を設けることなく、車両停止時での装置依拠加圧状態を実現することが可能である。
【0029】
車両走行時での装置依拠加圧状態は、ブレーキ圧をマスタシリンダ圧より高くすることが望ましい状況下で実現されればよく、種々の状況下で実現することが可能である。具体的に言えば、例えば、バキュームブースタによる助勢が限界に達している状況下、車両を急停止させることが望ましい状況下、車両の横滑りを抑制することが望ましい状況下等において実現することが可能である。
【0030】
(9)当該車両用ブレーキシステムが、前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力を助勢するバキュームブースタを備え、
前記マスタシリンダが、前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力と前記バキュームブースタによる助勢力とに依拠して作動液を加圧するように構成され、
前記走行時装置依拠加圧状態実現部が、
車両が走行している状態において前記バキュームブースタの助勢が限界に達した場合に、前記ブレーキ圧を前記マスタシリンダ圧より高くすることが望ましいものとして、前記装置依拠加圧状態を実現するように構成された(8)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0031】
バキュームブースタは、通常、負圧室と、その負圧室と大気とに選択的に連通させられる変圧室とを有し、負圧室内の空気圧と変圧室内の空気圧との圧力差に依拠してブレーキ操作部材に加えられる操作力を助勢する構造とされている。このため、圧力差増加時には、バキュームブースタによって助勢される力は増加するが、圧力差を増加させることができなくなると、助勢力は増加しなくなり、バキュームブースタによる助勢が限界に達することになる。このため、バキュームブースタによる助勢が限界に達すると、バキュームブースタによる助勢力が増加しなくなり、運転者がブレーキ操作に違和感を抱く虞がある。本項に記載のブレーキシステムでは、バキュームブースタによる助勢が限界に達した場合に装置依拠加圧状態が実現されることから、助勢限界時での運転者のブレーキ操作の違和感を解消することが可能となる。
【0032】
(10)当該車両用ブレーキシステムが、後輪駆動方式の車両に搭載された(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0033】
車両に搭載されるブレーキ装置においては、制動力の配分に関して、通常、前輪に設けられているブレーキ装置に多く配分されている。このため、後輪駆動方式の車両では、例えば、凍結路,積雪路等の摩擦係数の低い路面に車両が停止している状態では、非駆動輪である前輪は停止していても、駆動輪である後輪が回転してしまう場合がある。このような場合には、運転者は制動力を大きくするべく、車両が停止している状態であってもブレーキ操作部材を踏み増すことになる。したがって、本項に記載のブレーキシステムでは、車両停止時に上記装置依拠加圧状態を実現する効果を充分に活かすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例である車両用ブレーキシステムを、車両用駆動システムと共に概略的に示す図である。
【図2】図1の車両用ブレーキシステムの備えるバキュームブースタおよびマスタシリンダを示す概略断面図である。
【図3】図1の車両用ブレーキシステムの備えるブレーキアクチュエータを概略的に示す図である。
【図4】図3のブレーキアクチュエータの有する圧力制御弁を示す概略断面図である。
【図5】運転者による操作力とマスタシリンダ圧(ブレーキ圧)との関係を示すグラフである。
【図6】マスタシリンダ圧と助勢限界時圧力差との関係を示すグラフである。
【図7】マスタシリンダ圧と停止時圧力差との関係を示すグラフである。
【図8】ブレーキシステム制御プログラムを示すフローチャートである。
【図9】ブレーキシステム制御プログラムにおいて実行されるブレーキ効き特性制御実行サブルーチンを示すフローチャートである。
【図10】ブレーキシステム制御プログラムにおいて実行される停止時ブレーキ圧増加制御実行サブルーチンを示すフローチャートである。
【図11】車両用ブレーキシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0036】
<車両用駆動システムの構成>
図1に、実施例の車両用ブレーキシステム10が搭載された車両の駆動システム12を概略的に示す。駆動システム12は、エンジン20とトルクコンバータ22と変速機24とプロペラシャフト26と差動装置28とを備えている。車両前方のエンジンルーム内に設置されたエンジン20は、流体式のクラッチ機構としてのトルクコンバータ22を介して変速機24に接続されており、その変速機24は、プロペラシャフト26および差動装置28を介して、左右の後輪30RR,RLの駆動軸に接続されている。つまり、駆動システム12は、エンジン20がトルクコンバータ22,変速機24,プロペラシャフト26、差動装置28を介して駆動輪としての後輪30RR,RLを駆動する後輪駆動方式とされている。
【0037】
<車両用ブレーキシステムの構成>
また、駆動システム12を搭載する車両においては、各車輪30に対応して設けられたブレーキ装置50を備えたブレーキシステム10が搭載されている。各ブレーキ装置50は、ディスクブレーキ装置とされており、車輪30と共に回転するブレーキディスク52と、車体に取り付けられるブレーキキャリパ54と、ブレーキキャリパ54に保持されるブレーキシリンダ56(図3参照)およびブレーキパッド57(図3参照)とを含んで構成されている。
【0038】
運転者の操作力によって、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル58が操作されると、ブレーキペダル58に連結されるバキュームブースタ60によって、操作力が助勢される。さらに、助勢された操作力は、バキュームブースタ60に連結されるマスタシリンダ62に伝えられて、その内部に収容される作動液を加圧する。作動液の液圧の変化は、マスタシリンダ62から作動液配管64a,64bおよび、その作動液配管64a、64bに設けられたブレーキアクチュエータ66を通じて、各車輪30に設けられたブレーキ装置50のブレーキキャリパ54まで伝達される。ブレーキ装置50の詳しい構造についての説明は省略するが、ブレーキシリンダ56は、加圧された作動液によって作動し、ブレーキパッド57をブレーキディスク52に押し付ける。したがって、ブレーキ装置50は、ブレーキパッド57とブレーキディスク52との間に生じる摩擦によって、車輪30の回転を抑制させて車両を減速させるための制動力を発生させることが可能となっている。
【0039】
バキュームブースタ60は、負圧状態とされる負圧室70(図2参照)を備えており、その負圧室70には、吸引口72(図2参照)が設けられている。吸引口72には、連通路74が接続されており、その連通路74は、エンジン20に空気を供給するための給気配管として機能するインテークマニホルド(図示省略)に接続されている。インテークマニホルドは、その両端に開口を持ち、一方の開口は、エンジン20が空気を吸引するための吸気部に連結されており、他方の開口は、大気から空気を吸い込むための吸込口とされている。その吸込口には、エンジン20へ吸い込まれる空気の量を調整することが可能なスロットル弁(図示省略)が設けられている。このため、インテークマニホルドの内部は、スロットル弁の開度,エンジン20の回転数等に応じた負圧状態とされるのである。したがって、インテークマニホルドに接続された連通路74、および、連通路74に接続された負圧室70も負圧状態とされるのである。なお、連通路74には、チェック弁76が設けられており、そのチェック弁76は、負圧室70からインテークマニホルドへの空気の供給は許容するが、インテークマニホルドから負圧室70への空気の供給は禁止する構造とされている。
【0040】
図2は、バキュームブースタ60およびマスタシリンダ62の断面図である。バキュームブースタ60は、中空のハウジング90と、ハウジング90内に設けられたパワーピストン92とを含んで構成されている。パワーピストン92は、ハブ94とダイアフラム96とを含んで構成され、ハウジング90の内部は、ハブ94とダイアフラム96とにより、マスタシリンダ62側の負圧室70と、ブレーキペダル58側の変圧室98とに仕切られている。
【0041】
ハブ94のマスタシリンダ62の側には、凹部100が設けられている。その凹部100にはゴム製のリアクションディスク102が嵌入されており、さらに、プッシュロッド104の一端が凹部100に嵌入されている。プッシュロッド100のもう一端は、マスタシリンダ62の加圧ピストン106aと係合している。また、プッシュロッド104と並列に、圧縮コイルばね108が配設されている。
【0042】
マスタシリンダ62は、ハウジング110と、2つの加圧ピストン106a,106bとを含んで構成されている。2つの加圧ピストン106a,106bは、ハウジング110の内部において直列に配設されており、ハウジング110にそれの内部を摺動可能に嵌合されている。さらに、マスタシリンダ62には、2つの加圧ピストン106a,106bの各々に隣接して2つの加圧室114a,114bがそれぞれ設けられており、各加圧室114a,114b内には、それぞれ圧縮コイルばね116a,116bが配設されている。
【0043】
ハブ94のブレーキペダル58の側には、凹部100に連通する段付き穴118が設けられており、その内部にはリアクションロッド120が嵌入されている。リアクションロッド120は、バルブオペレーティングロッド122の一端に係合しており、バルブオペレーティングロッド122のもう一端は、ブレーキペダル58に接続されている。また、ハブ94とリアクションロッド120とは、段付き穴118において板状のストッパキー124によって結合されている。したがって、ブレーキペダル58が操作されると、バルブオペレーティングロッド122、リアクションロッド120を介してハブ94が移動させられて、さらに、ハブ94の移動によって、リアクションディスク102、プッシュロッド100を介して加圧ピストン106aが移動させられる。つまり、バキュームブースタ60とマスタシリンダ62とは、ブレーキペダル58の操作によって加圧ピストン106aを移動させるように構成されているのである。加圧ピストン106aが移動させられると、加圧室114a内の作動液が加圧されて、加圧ピストン106bが、その加圧された作動液によって移動させられる。そして、加圧ピストン106bの移動に伴って、加圧室114b内の作動液も加圧されるのである。
【0044】
加圧室114aには、図3に示すように、作動液配管64aが接続され、加圧室114bには、作動液配管64bが接続されており、作動液の圧力上昇は、2つの配管系統によって、各車輪30のブレーキシリンダ56へと伝達されている。ちなみに、作動液配管64aは、左後輪30RLおよび右後輪30RRに配置された2つのブレーキシリンダ56に接続され、作動液配管64bは、左前輪30FLおよび右前輪30FRに配置された2つのブレーキシリンダ56に接続されている。それら2つの配管系統は互いに構成が共通することから、以下、作動液配管64aを含む配管系統のみを代表的に説明し、作動液配管64bを含む配管系統については説明を省略する。
【0045】
作動液配管64aは、加圧室114aから延び出た後に二股状に分岐しており、1本の基幹配管130と2本の分岐配管132とが互いに接続されて構成されている。各分岐配管132の先端にブレーキシリンダ56が接続されている。各分岐配管132の途中には常開の電磁開閉弁である増圧制御弁134が設けられ、開状態でマスタシリンダ62からブレーキシリンダ56へ向かう作動液の流れを許容する。各分岐配管路132には、増圧制御弁134を迂回するバイパス配管136が接続され、各バイパス配管136には作動液戻り用の逆止弁138が設けられている。各分岐配管132のうち増圧制御弁134とブレーキシリンダ56との間の部分からリザーバ配管140が延びてリザーバ142に至っている。各リザーバ配管140の途中には常閉の電磁開閉弁である減圧制御弁144が設けられ、開状態でブレーキシリンダ56からリザーバ142へ向かう作動液の流れを許容する。
【0046】
リザーバ142は、作動液をスプリングによって加圧状態において収容する構造とされており、ポンプ配管146によってポンプ148の吸入側に接続されている。ポンプ148の吸入側には逆止弁である吸入弁150、吐出側には逆止弁である吐出弁152がそれぞれ設けられている。ポンプ148の吐出側と基幹配管130とを接続する補助配管154には、オリフィス156と固定ダンパ158とがそれぞれ設けられており、それらにより、ポンプ148の脈動が軽減される。
【0047】
基幹配管130には、補助配管154との接続点とマスタシリンダ62との間の部分に圧力制御弁160が設けられている。圧力制御弁160は、ポンプ148の非作動時には、マスタシリンダ62とブレーキシリンダ56との間の作動液の双方向の流れを許容し、ポンプ148の作動時には、ポンプ148からの作動液をマスタシリンダ62に逃がすとともに、その逃がすときのポンプ148の吐出圧の高さをマスタシリンダ62の液圧であるマスタシリンダ圧に基づいて変化させる構造とされている。具体的に説明すれば、圧力制御弁160は、図4に示すように、ハウジング(図示省略)と、マスタシリンダ側に設けられた弁子170と、ブレーキシリンダ側に設けられた弁座172と、それら弁子170および弁座172の相対移動を制御するソレノイド174とを有している。ソレノイド174の消磁状態においては、図4(a)に示すように、スプリング176の弾性力によって弁子170は弁座172から離間させられており、圧力制御弁160は、その状態において、マスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間での双方向の作動液の流れを許容する。つまり、消磁状態において、圧力制御弁160は開弁されており、ブレーキシリンダ56に供給される作動液の液圧であるブレーキ圧とマスタシリンダ圧とが同じとされている。
【0048】
一方、ソレノイド174の励磁状態においては、図4(b)に示すように、ソレノイド174の磁気力によって弁子170が弁座172に向かって付勢され、弁子170が弁座172に着座させられる。この際、弁子170には、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との差に基づく力F1とスプリング176の弾性力F2との和と、ソレノイド174の磁気力によって弁子170が付勢される力F3とが互いに逆向きに作用する。このような構造から、ソレノイド174の励磁状態において、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3以下である間は、圧力制御弁160は閉じており、ポンプ148からの作動液がマスタシリンダ62に流れることが阻止される。このため、ポンプ148の作動に伴ってポンプ148の吐出圧が増加し、ブレーキシリンダ56にマスタシリンダ圧より高い液圧を作用させることが可能となる。それに対し、ポンプ148の吐出圧、すなわちブレーキ圧が増加し、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3より大きくなれば、弁子170が弁座172から離間し、ポンプ148からの作動液がマスタシリンダ62に流れる。このため、ポンプ148の吐出圧、すなわちブレーキ圧は、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3より大きくなった時点のブレーキ圧に維持される。つまり、ソレノイド174の励磁状態において、ポンプ148を作動させることで、付勢力F3から弾性力F2を減じた力に相当する圧力分、マスタシリンダ圧より高い液圧を、ブレーキシリンダ56に作用させることが可能となる。
【0049】
また、弁子170が弁座172に着座させられた状態でのスプリング176の弾性力F2は一定であることから、付勢力F3の大きさ、つまり、ソレノイド174への通電量を制御することで、圧力差に基づく力F1を制御することが可能となる。つまり、ソレノイド174への通電量を制御することで、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との圧力差、詳しく言えば、ブレーキ圧からマスタシリンダ圧を減じた圧力差を制御することが可能となる。このように、圧力制御弁160は、作動液の流通を許容する状態と禁止する状態とを切換えるとともに、作動液の流通を禁止した状態においてブレーキ圧を制御可能に調整することが可能とされているのである。つまり、圧力制御弁120は、流通状態切換器とブレーキ圧調整器としての2つの機能を有しているのである。
【0050】
また、図3に示すように、基幹配管130には、圧力制御弁160を迂回するようにバイパス配管180が接続されており、そのバイパス配管180には、マスタシリンダ62からブレーキシリンダ56への作動液の流れを許容し、その逆向きの流れを阻止する逆止弁182が設けられている。また、基幹配管130のうちマスタシリンダ62と圧力制御弁160との間の部分から延びてポンプ配管146に至る補給配管184が設けられており、その補給配管184の途中には常閉の電磁開閉弁である流入制御弁186が設けられている。また、ポンプ配管146と補給配管184との接続点とポンプ配管146とリザーバ配管140との接続点との間に、補給配管184からリザーバ142に向かう作動液の流れを阻止し、その逆向きの流れを許容する逆止弁188が設けられている。なお、基幹配管130の圧力制御弁160とマスタシリンダ62との間には、マスタシリンダ圧を検出する液圧センサ190が設けられている。
【0051】
上述のような構造によって、増圧制御弁134および圧力制御弁160が開弁されるとともに、減圧制御弁144および流入制御弁186が閉弁された状態において、運転者によってブレーキペダル58が踏み込まれた場合には、加圧ピストン106a,106bの移動に伴って、加圧室114a,114b内の作動液が加圧されて、その作動液の圧力上昇が、作動液配管64a,64bを通じて各車輪30のブレーキ装置50へと伝達される。そして、各ブレーキ装置50が制動力を発生させるのである。なお、増圧制御弁134,減圧制御弁144,圧力制御弁160,流入制御弁186,リザーバ142,ポンプ148等によって、上記ブレーキアクチュエータ66が構成されている。
【0052】
また、バキュームブースタ60のパワーピストン92を構成するハブ94の内部には、図2に示すように、弁機構200が設けられている。詳しい説明は省略するが、弁機構200は、負圧室70と変圧室98との連通または遮断、あるいは、変圧室98と大気との連通または遮断を行えるように構成されている。弁機構200は、ブレーキペダル58の操作に依拠して移動させられるバルブオペレーティングロッド122に連動して、これらの連通および遮断を行うことが可能となっている。制動力を増加させるために、ブレーキペダル58に操作力が加えられている場合には、弁機構200は、負圧室70と変圧室98とを遮断し、変圧室98と大気とを連通させる状態となる。したがって、負圧室70は負圧状態となっているが、変圧室98は大気圧となる。つまり、負圧室70と変圧室98との間に圧力差が発生し、その圧力差による差圧力が、操作力によるパワーピストン92の移動方向と同じ方向に作用するため、ブレーキ操作における運転者の操作力を助勢することができるのである。
【0053】
一方、ブレーキペダル58に加えられる操作力が解除された場合には、弁機構200は、負圧室70と変圧室98とを連通し、変圧室98と大気とを遮断させる状態になる。したがって、変圧室98から負圧室70へ空気が流入し、負圧室70と変圧室98とは、負圧状態において同じ空気圧となる。つまり、負圧室70と変圧室98との間の圧力差がなくなり、操作力もなくなるため、加圧ピストン106a,106b、パワーピストン92等は、圧縮コイルばね108および圧縮コイルばね116a,116bのばね力によって、ブレーキペダル58が操作されていない場合の位置へと戻されるのである。なお、バキュームブースタ60のハウジング90には、変圧室98内の空気圧を検出する圧力センサ202が設けられている。
【0054】
本ブレーキシステム10では、図1に示すように、ブレーキ電子制御ユニット(以下、単に「ブレーキECU」という場合がある)210が設けられている。ブレーキECU210は、ブレーキアクチュエータ66の各種制御弁134,144,160,186、ポンプ148の作動を制御する制御装置であり、各ブレーキ装置50のブレーキシリンダ56に作用させる作動液の液圧を制御するものである。ブレーキECU210は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ212と、ポンプ148の有するポンプモータ214に対応する駆動回路216と、各種制御弁134,144,160,186のそれぞれに対応する複数の駆動回路218,220,222,224とを有している(図11参照)。それら複数の駆動回路216,218,220,222,224には、コンバータ226を介してバッテリ228が接続されており、ポンプ148、各種制御弁134,144,160,186に、そのバッテリ228から電力が供給される。
【0055】
さらに、複数の駆動回路216,218,220,222,224には、コントローラ212が接続されており、コントローラ212が、それら複数の駆動回路216,218,220,222,224に各制御信号を送信する。詳しくは、コントローラ212は、ポンプモータ214の駆動回路216にモータ駆動信号を送信し、増圧制御弁134,減圧制御弁144,流入制御弁186のそれぞれの駆動回路218,220,224に各制御弁を開閉するための制御信号を送信する。さらに、圧力制御弁160の駆動回路222には、圧力制御弁160の有するソレノイド174の発生させる磁気力を制御するための電流制御信号を送信する。このように、コントローラ212が各駆動回路216,218,220,222,224に各制御信号を送信することで、ポンプモータ214、各種制御弁134,144,160,186の作動を制御する。
【0056】
また、コントローラ212には、上記液圧センサ[PM]190と上記圧力センサ[PH]202とともに、シフトレバーの操作位置、つまり、P(パーキング),N(ニュートラル),R(リバース),D(ドライブ),2(セカンド),L(ロー)の各位置を検出するシフトレバー位置センサ[SR]230と、各車輪30に対して設けられてそれぞれの回転速度を検出するための車輪速センサ[VFR,VFL,VRR,VRL]232とが接続されており、各センサによる検出値は、後に説明するブレーキシステム10の制御において利用される。なお、[ ]の文字は、上記センサを図面において表す場合に用いる符号である。
【0057】
<車両用ブレーキシステムの制御>
本ブレーキシステム10において、通常、増圧制御弁134および圧力制御弁160が開弁されるとともに、減圧制御弁144および流入制御弁186が閉弁されており、運転者によってブレーキペダル58が踏み込まれた場合には、マスタシリンダ62内の作動液が加圧されて、その作動液の圧力上昇が、作動液配管64a,64bを通じて各車輪30のブレーキ装置50へと伝達される。そして、加圧された作動液によってブレーキ装置50が制動力を発生させるのである。つまり、通常、運転者による操作力およびバキュームブースタ60による助勢力によって加圧された作動液に依拠して、ブレーキ装置50が制動力を発生させるのである。
【0058】
ただし、バキュームブースタ60は、上述したように、ブレーキ操作に伴って変圧室98に大気が流入し、その変圧室98と負圧室70との間の圧力差を利用して、運転者による操作力を助勢する構造とされていることから、変圧室98内の空気圧である変圧室圧が大気圧に達するまでは助勢力は増加するが、変圧室圧が大気圧に達すると助勢力は増加しなくなる。このため、運転者による操作力が増加する際に、変圧室圧が大気圧に達するまでは操作力と助勢力との増加によってマスタシリンダ圧は増加するが、変圧室圧が大気圧に達すると操作力の増加のみによってマスタシリンダ圧は増加する。このため、運転者による操作力(踏力)Fとマスタシリンダ圧PMとの関係は、図5の実線に示すようになる。ちなみに、図中のFTは、変圧室圧が大気圧に達したときの操作力である。
【0059】
図から解るように、操作力FがそのFTを超えると、マスタシリンダ圧PMの増加勾配が急減する。増圧制御弁134および圧力制御弁160が開弁されるとともに、減圧制御弁144および流入制御弁186が閉弁された状態において、マスタシリンダ圧PMとブレーキシリンダ18に作用する作動液の液圧とは同じであるため、図の縦軸は、ブレーキシリンダ18に作用する作動液の液圧であるブレーキ圧PBと考えることができる。つまり、変圧室圧が大気圧になると、バキュームブースタ60による助勢が限界に達し、制動力の増加勾配が急減するのである。制動力の増加勾配、詳しく言えば、単位操作力あたりの制動力の増加量が減ると、運転者はブレーキの効きが悪くなったと感じて、ブレーキ操作に違和感を感じる虞があり、制動力の増加勾配の急減は望ましくない。
【0060】
そこで、本システム10では、バキュームブースタ60による助勢が限界に達しても、制動力の増加勾配が急減することなく、ブレーキの効きが悪くならないように、ブレーキ圧PBを増加させる制御、所謂、ブレーキ効き特性制御を実行している。詳しく言えば、バキュームブースタ60による助勢が限界に達しても、図5の一点鎖線に示すように、ブレーキ圧PBを変化させるべく、バキュームブースタ60による助勢が限界に達した後に、作動液加圧装置としてのポンプ148を作動させて、そのポンプ148によって作動液を加圧する制御を実行している。具体的には、バキュームブースタ60による助勢が限界に達した後に、増圧制御弁134が開弁されるとともに減圧制御弁144が閉弁された状態が維持され、流入制御弁186が開弁されるとともに、ポンプ148が作動させられる。そして、さらに圧力制御弁160のソレノイド174が励磁状態とされる。圧力制御弁160は、上述したように、ソレノイド174への通電量を制御することで、ブレーキ圧PBとマスタシリンダ圧PMとの圧力差、詳しく言えば、ブレーキ圧PBからマスタシリンダ圧PMを減じた圧力差ΔPを制御することが可能な構造とされている。したがって、その圧力差ΔPが、図5中での斜線に相当する大きさになるように、ソレノイド174への通電量を制御することで、ブレーキ圧PBを、図5の一点鎖線に示すように変化させるのである。
【0061】
本システム10では、バキュームブースタ60による助勢限界後において、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との圧力差ΔPが、図に示すように、操作力Fの増大、つまり、マスタシリンダ圧PMの増大に伴って大きくなるように、ソレノイド174への通電量を制御している。具体的には、コントローラ212のコンピュータには、図6に示すようなマスタシリンダ圧PMをパラメータとする圧力差ΔPに関するマップデータ、詳しく言えば、バキュームブースタ60の助勢限界時に生じさせるべき圧力差(以下、「助勢限界時圧力差」という場合がある)ΔPJに関するマップデータが格納されており、助勢限界時圧力差ΔPJが、そのマップデータを参照することによって決定される。ちなみに、図中のPMTは、変圧室圧が大気圧に達したときのマスタシリンダ圧である。そして、その決定された助勢限界時圧力差ΔPJに基づく力F1と圧力制御弁160の有するスプリング176の弾性力F2とを加えた力をソレノイド174が発生できるように、ソレノイド174への供給電流iが決定される。このように決定された供給電流iをソレノイド174へ通電するとともに、ポンプ148を作動させることで、ブレーキ圧PBを図5の一点鎖線に示すように変化させることが可能となり、バキュームブースタによる助勢限界の前後にかかわらず、ブレーキの効き特性を一定にすることが可能となる。
【0062】
本ブレーキシステム10では、上記ブレーキ効き特性制御を実行することで、車両走行時において、運転者にブレーキ操作に対する違和感を生じさせること無く、制動力を適切に担保することが可能となる。ただし、上記ブレーキ効き特性制御は、車両走行時において適切な大きさの制動力を発生させるためのものであり、車両が停止した後における運転者のブレーキ操作に関しては全く考慮されていない。このため、車両が停止した後には、ブレーキ効き特性制御は実行されず、運転者の操作力およびバキュームブースタ60による助勢力に依拠して制動力が発生させられる。運転者は、例えば、車両が平坦な路面等に停止している状態において、パーキングブレーキ等の補助ブレーキが操作されていなくても、小さな操作力しかブレーキペダル58に加えていない場合があり、エンジンの伝達経路に用いられる流体式のクラッチ機構が登載されている車両、例えば、AT車等の運転者であっても、クリープ現象の発生を制限可能な程度の大きさの操作力しかブレーキペダル58に加えていない場合がある。
【0063】
また、車両走行時のブレーキ操作に伴ってバキュームブースタ60が助勢限界に達しているような場合、つまり、バキュームブースタ60の変圧室98内の空気圧が大気圧となっているような場合には、ブレーキ操作が解除されない限り、変圧室98内の空気は負圧室70側に吸引されず、助勢限界に達した状態が維持される。運転者は、通常、ブレーキ操作によって車両を停止させた後に、信号待ち等で車両を停止させている状態では、そのままブレーキペダル58を踏み続けていることが多い。つまり、車両が停止している状態においては、バキュームブースタ60が助勢限界に達していることが多いのである。さらに言えば、バキュームブースタ60の負圧源であるインテークマニホルドの内部は、上述したように、エンジンの回転数等に応じた負圧状態とされている。このため、車両停止時には、インテークマニホルド内の負圧は然程高くなく、バキュームブースタ60の負圧室70内の負圧も然程高くない場合が多い。したがって、車両停止時において、バキュームブースタ60による助勢力は比較的小さい場合が多いのである。
【0064】
先に述べたAT車等におけるクリープ現象とは、エンジンのアイドリング状態において車両が動く現象であり、アイドリング状態における単位時間あたりのエンジン回転数が変化すると、アイドリング状態において車両が移動しようとする力も変化する。具体的には、例えば、エアコン等の作動に伴ってアイドリング状態におけるエンジン回転数は上昇し易く、エンジン回転数の上昇によって、アイドリング状態において車両が移動しようとする力も大きくなるのである。このため、車両停止時においてエンジン回転数が上昇すると、例えば、運転者による操作力およびバキュームブースタ60による助勢力が低い状況下において、運転者はブレーキの効きが悪くなったと感じて、ブレーキペダル58を踏み増す場合がある。つまり、車両が停止している状態においてブレーキペダル58に加えられている操作力が増加する場合がある。
【0065】
このように、車両が停止しているにも関わらずブレーキペダル58に加えられている操作力が増加するような場合には、運転者がブレーキの効きが悪くなったと感じて、ブレーキ操作に違和感を感じていることがある。そこで、本ブレーキシステム10においては、車両が停止している状態においてブレーキペダル58に加えられている操作力が増加した場合に、ブレーキ操作の違和感を早急に解消するべく、ブレーキ圧PBを増加させる制御を実行している。この車両停止時におけるブレーキ圧PBを増加させる制御、つまり、停止時ブレーキ圧増加制御と上記ブレーキ効き特性制御とは、開始条件等は異なっているが、制御方法に関しては、共通する箇所が多い。このため、停止時ブレーキ圧増加制御の説明において、制御方法の同じ部分については説明を省略あるいは簡略するものとする。
【0066】
停止時ブレーキ圧増加制御では、車両が停止している状態においてブレーキペダル58の踏み増しが行なわれたと認定された場合に、ブレーキ圧PBが、運転者による操作力およびバキュームブースタ60による助勢力に依拠して加圧される作動液の液圧、つまり、マスタシリンダ圧PMより予め設定された圧力分高くなるように、ソレノイド174への通電量が制御される。本停止時ブレーキ圧増加制御は、アイドリング状態でのエンジン回転数の上昇に伴うブレーキ操作の違和感を解消するためのものであり、アイドリング状態でのエンジン回転数の最高値は想定することが可能である。このため、予め設定される圧力である設定圧は、アイドリング状態でのエンジン回転数の想定される最高値に基づいて設定されている。
【0067】
具体的な制御に関して言えば、まず、ブレーキペダル58の踏み増しを認定するべく、車両が停止した時点でのマスタシリンダ圧である停止時マスタシリンダ圧PMSを基準圧とし、その基準圧より操作力指標量としてのマスタシリンダ圧PMが設定量α高くなったか否かを判定する。車両の停止は前輪30FR,30FLの回転速度に基づき判定しており、停止時マスタシリンダ圧PMSは、前輪30FR,30FLの回転速度が0となった時点でのマスタシリンダ圧PMとしている。そして、ブレーキペダル58の踏み増しが認定されると、ブレーキ圧PBとマスタシリンダ圧PMとの圧力差ΔP、詳しく言えば、停止時ブレーキ圧増加制御において実現されるべき圧力差である停止時圧力差ΔPTが設定圧ΔPT1となるように、ソレノイド174への通電量が制御される。このようにブレーキ圧PBが高くされることで、車両停止時における運転者のブレーキ操作の違和感を早急に解消することが可能となる。さらに、運転者による操作力が、ポンプ148によって助勢されるため、車両停止時における運転者の負担を軽減することも可能となる。なお、マスタシリンダ圧PMをパラメータとする停止時圧力差ΔPTに関するマップデータを、図7に示しておく(実線)。
【0068】
また、ブレーキ圧PBが、マスタシリンダ圧PMより設定圧ΔPT1高くされた場合であっても、駆動輪が回転してしまう場合がある。本ブレーキシステム10が搭載されている車両は、上述したように、後輪駆動方式の車両とされている。また、車両に搭載されるブレーキ装置においては、制動力の配分に関して、通常、前輪に設けられているブレーキ装置に多く配分されており、本ブレーキシステム10においても、前輪に設けられているブレーキ装置50は、後輪に設けられているブレーキ装置50より大きな制動力を発生させることが可能とされている。このため、例えば、凍結路,積雪路等の摩擦係数の低い路面に車両が停止している状態では、ブレーキ圧をある程度高くしても、駆動輪である後輪30RR,30RLが回転してしまう場合がある。
【0069】
そこで、本ブレーキシステム10では、ブレーキ圧PBがマスタシリンダ圧PMより設定圧ΔPT1高くされても駆動輪が回転してしまう場合には、ブレーキ圧PBがさらに高くなるように、ソレノイド174への通電量が制御される。具体的には、図7の一点鎖線に示すように、停止時圧力差ΔPTが、設定圧ΔPT1より高い圧力に設定された第2設定圧ΔPT2となるように、ソレノイド174への通電量が制御される。このように、停止時ブレーキ圧増加制御において、さらにブレーキ圧PBが高くされることで、車輪の回転を確実に停止させることが可能となっている。なお、マスタシリンダ圧PMが停止時マスタシリンダ圧PMSより低くなった場合には、運転者のブレーキ操作に対する違和感が解消されたものとして、停止時ブレーキ圧増加制御の実行が停止される。
【0070】
<制御プログラム>
本システム10において、バキュームブースタ60の助勢限界時に実行されるブレーキ効き制御および、車両停止時に実行される停止時ブレーキ圧増加制御は、図8にフローチャートを示すブレーキシステム制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいてコントローラ212により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0071】
本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、液圧センサ190によってマスタシリンダ圧PMが検出される。次に、S2において、ブレーキ操作がされているか否かが判定される。具体的には、マスタシリンダ圧PMが閾値を超えているか否かが判定される。マスタシリンダ圧PMが閾値を超えていると判定された場合、つまり、ブレーキ操作がされていると判定された場合には、S3において、各車輪速センサ232によって各車輪の回転速度VFR,VFL,VRR,VRLが検出され、S4において、前輪30FR,30FLの回転速度VFR,VFLが0となっているか否かが判定される。
【0072】
前輪30FR,30FLの回転速度VFR,VFLが0となっていないと判定されると、S5において、ブレーキ効き特性制御を実行するべく、図9にフローチャートを示すブレーキ効き特性制御実行サブルーチンを実行するための処理が行なわれる。このサブルーチンにおいては、まず、S21において、助勢限界時フラグFJのフラグ値が1にされているか否かが判定される。そのフラグFJは、バキュームブースタ60による助勢が限界に達しているか否かを示すフラグであり、そのフラグFJのフラグ値が1とされている場合には、助勢限界に達していることを示し、0とされている場合には、助勢限界に達していないことを示している。
【0073】
助勢限界時フラグFJのフラグ値が0にされていると判定された場合には、S22において、圧力センサ202によって変圧室圧PHが検出され、S23において、バキュームブースタ60による助勢が限界に達しているか否かが判定される。具体的には、変圧室圧PHが大気圧になっているか否かが判定される。変圧室圧PHが大気圧になっていると判定された場合、つまり、助勢限界に達していると判定された場合には、S24において、助勢限界時フラグFJのフラグ値が1にされ、S25において、変圧室圧PHが大気圧となった時点でのマスタシリンダ圧である大気圧時マスタシリンダ圧PMTが、今回の本プログラムの実行において検出されたマスタシリンダ圧PMとされる。そして、S26において、大気圧時マスタシリンダ圧PMTとマスタシリンダ圧PMとに基づいて、図6に示すようなマップデータを参照することによって助勢限界時圧力差ΔPJが演算され、S27において、制御に用いられる圧力差ΔPが、演算された助勢限界時圧力差ΔPJに決定される。
【0074】
また、S21において助勢限界時フラグFJのフラグ値が1にされていると判定された場合には、S28において、マスタシリンダ圧PMが大気圧時マスタシリンダ圧PMTを超えているか否かが判定される。マスタシリンダ圧PMが大気圧時マスタシリンダ圧PMTを超えていると判定された場合には、S26,27の処理が行なわれる。また、マスタシリンダ圧PMが大気圧時マスタシリンダ圧PMTを超えていないと判定された場合、若しくは、S23において助勢限界に達していないと判定された場合には、S29において、制御に用いられる圧力差ΔPが0に決定される。制御に用いられる圧力差ΔPが決定されると、このサブルーチンが終了する。
【0075】
また、メインルーチンのS4において前輪30FR,30FLの回転速度VFR,VFLが0となっていると判定されると、S6において、停止時ブレーキ圧増加制御を実行するべく、図10にフローチャートを示す停止時ブレーキ圧増加制御実行サブルーチンを実行するための処理が行なわれる。このサブルーチンにおいては、まず、S31において、シフトレバー位置センサ230によってシフトレバーの位置が検出され、S32において、その検出されたシフトレバーの位置がP(パーキング)若しくはN(ニュートラル)であるか否かが判定される。シフトレバーの位置がP(パーキング)若しくはN(ニュートラル)でないと判定された場合には、S33において、停止時操作力増加フラグFTのフラグ値が1にされているか否かが判定される。そのフラグFTは、車両停止時に操作力が増加したか否か、つまり、ブレーキペダル58が踏み増されたか否かを示すフラグであり、そのフラグFTのフラグ値が1とされている場合には、ブレーキペダル58が踏み増されたことを示し、0とされている場合には、ブレーキペダル58が踏み増されていないことを示している。
【0076】
停止時操作力増加フラグFTのフラグ値が0にされていると判定された場合には、S34において、前回の本プログラムの実行において検出された前輪30FR,30FLの前回回転速度VFRP,VFLPが0となっているか否かが判定される。前回回転速度VFRP,VFLPが0となっていないと判定された場合には、S35において、車両が停止した時点でのマスタシリンダ圧である停止時マスタシリンダ圧PMSが、今回の本プログラムの実行において検出されたマスタシリンダ圧PMとされる。その後、若しくは、S34において前回回転速度VFRP,VFLPが0となっていると判定された場合には、S36において、停止時マスタシリンダ圧PMSに設定量αを加えたものより、マスタシリンダ圧PMが高くなっているか否かが判定される。高くなっていると判定された場合には、S37において、停止時操作力増加フラグFTのフラグ値が1にされる。そして、S38において、制御に用いられる圧力差ΔPが、停止時圧力差ΔPTの設定圧ΔPT1に決定される。
【0077】
また、S33において停止時操作力増加フラグFTのフラグ値が1にされていると判定された場合には、S39において、後輪30RR,30RLの回転速度VRR,VRLが0となっているか否かが判定される。後輪30RR,30RLの回転速度VRR,VRLが0となっていないと判定された場合には、S40において、制御に用いられる圧力差ΔPが、停止時圧力差ΔPTの第2設定圧ΔPT2に決定される。また、後輪30RR,30RLの回転速度VRR,VRLが0となっていると判定された場合には、S41において、マスタシリンダ圧PMが停止時マスタシリンダ圧PMSより低くなっているか否かが判定される。マスタシリンダ圧PMが停止時マスタシリンダ圧PMSより低くなっていないと判定された場合には、S38の処理が行なわれる。また、マスタシリンダ圧PMが停止時マスタシリンダ圧PMSより低くなっていると判定された場合、若しくは、S32においてシフトレバーの位置がP(パーキング)若しくはN(ニュートラル)であると判定された場合、若しくは、S36においてマスタシリンダ圧PMが停止時マスタシリンダ圧PMSに設定量αを加えたものより高くなっていない場合には、S42において、制御に用いられる圧力差ΔPが0に決定される。制御に用いられる圧力差ΔPが決定されると、このサブルーチンが終了する。
【0078】
ブレーキ効き特性制御実行サブルーチン、若しくは、停止時ブレーキ圧増加制御実行サブルーチンの実行の後、メインルーチンのS7において、各サブルーチンで決定された圧力差ΔPが0であるか否かが判定される。圧力差ΔPが0でないと判定されると、S8において、その決定された圧力差ΔPに基づいて、ソレノイド174への供給電流iが決定され、その決定された供給電流iに基づく電流制御信号が駆動回路222に送信される。そして、S9において、流入制御弁186を開弁させるための制御信号が駆動回路224に送信され、S10において、ポンプモータ214を駆動させるための制御信号が駆動回路216に送信される。
【0079】
また、S2においてブレーキ操作がされていないと判定された場合には、S11において、助勢限界時フラグFJのフラグ値が0にされ、S12において、停止時操作力増加フラグFTのフラグ値が0にされる。そして、その後、若しくは、S7において各サブルーチンで決定された圧力差ΔPが0であると判定された場合には、S13において、ソレノイド174への供給電流iが0に決定され、その決定された供給電流iに基づく電流制御信号が駆動回路222に送信される。そして、S14において、流入制御弁186を閉弁させるための制御信号が駆動回路224に送信され、S15において、ポンプモータ214を停止させるための制御信号が駆動回路216に送信される。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0080】
<コントローラの機能構成>
上記プログラムを実行するコントローラ212は、それの実行処理に鑑みれば、図11に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、コントローラ212は、S14〜S16の処理を実行する機能部、つまり、マスタシリンダ圧に依拠して制動力を発生させる状態を実現する機能部、言い換えれば、運転者の操作力およびバキュームブースタ60の助勢力に依拠して加圧された作動液がブレーキ装置50に供給される状態を実現する機能部として、操作力依拠加圧状態実現部240を、S5〜S10の処理を実行する機能部、つまり、ポンプ148等に依拠して加圧された作動液がブレーキ装置50に供給される状態である装置依拠加圧状態を実現する機能部として、装置依拠加圧状態実現部242を、それぞれ備えている。
【0081】
なお、装置依拠加圧状態実現部242は、S5,S8〜S10の処理を実行する機能部、つまり、ブレーキ効き特性制御を実行することで、車両走行時に装置依拠加圧状態を実現する機能部として、走行時装置依拠加圧状態実現部244を、S6,S8〜S10の処理を実行する機能部、つまり、停止時ブレーキ圧増加制御を実行することで、車両停止時に装置依拠加圧状態を実現する機能部として、停止時装置依拠加圧状態実現部246を、それぞれ有している。さらに、停止時装置依拠加圧状態実現部246は、S34〜S36の処理を実行する機能部、つまり、車両が停止している状態において運転者による操作力の増加を認定する停止時操作力増加認定部248を有している。
【符号の説明】
【0082】
10:車両用ブレーキシステム 22:トルクコンバータ(流体式のクラッチ機構) 30RR,30RL:駆動輪 50:ブレーキ装置 58:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 60:バキュームブースタ 62:マスタシリンダ 148:ポンプ(作動液加圧装置) 160:圧力制御弁(ブレーキ圧調整器) 210:ブレーキ電子制御ユニット(制御装置) 240:操作力依拠加圧状態実現部 242:装置依拠加圧状態実現部 244:走行時装置依拠加圧状態実現部 246:停止時装置依拠加圧状態実現部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられて制動力を発生させるブレーキ装置と、
運転者によって操作力が加えられるブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材に加えられる操作力に依拠して加圧された作動液を前記ブレーキ装置に供給可能なマスタシリンダと、
前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧可能な作動液加圧装置と、
(a)前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を許容し、前記マスタシリンダによって加圧される作動液が前記ブレーキ装置に供給される状態を実現する操作力依拠加圧状態実現部と、(b)前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を禁止し、前記ブレーキ装置の作動液の液圧であるブレーキ圧が前記マスタシリンダによって加圧される作動液の液圧であるマスタシリンダ圧より高くなるように、前記ブレーキ装置に供給される作動液が前記作動液加圧装置によって加圧される状態である装置依拠加圧状態を実現する装置依拠加圧状態実現部とを有する制御装置と
を備えた車両用ブレーキシステムであって、
前記装置依拠加圧状態実現部が、
車両が停止している状態において前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定された場合に、前記装置依拠加圧状態を実現する停止時装置依拠加圧状態実現部を有する車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記ブレーキ装置が、駆動輪に設けられて制動力を発生させるものであり、
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記装置依拠加圧状態の実現時に前記駆動輪が回転した場合に、前記ブレーキ圧がさらに高くなるように前記ブレーキ装置に供給される作動液を前記作動液加圧装置によって加圧するように構成された請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
車両が停止している状態において、前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力を指標する操作力指標量が、車両が停止した時点での前記操作力指標量より設定量多くなった場合に、前記ブレーキ操作部材に加えられている操作力の増加が認定されたものとして、前記装置依拠加圧状態を実現するように構成された請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記作動液加圧状態の実現時に前記操作力指標量が車両が停止した時点での前記操作力指標量より少なくなった場合に、前記装置依拠加圧状態の実現を終了するように構成された請求項3に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項5】
当該車両用ブレーキシステムが、前記作動液加圧装置によって加圧される作動液の液圧を制御可能に調整するブレーキ圧調整器を備え、
前記停止時装置依拠加圧状態実現部が、
前記ブレーキ圧が前記マスタシリンダ圧より設定圧高くなるように、前記作動液加圧装置によって加圧される作動液の液圧を前記ブレーキ圧調整器によって調整するように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項6】
当該車両用ブレーキシステムが、
エンジン出力の伝達経路に流体式のクラッチ機構が設けられた車両に搭載された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−101641(P2012−101641A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250902(P2010−250902)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】