説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 ブレーキ・バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキ装置において、アンチロック制御時にホイールシリンダのブレーキ液圧を速やかに減圧できるようにする。
【解決手段】 アンチロック制御の非作動時には、踏力遮断弁14が開弁し、大気弁28が閉弁するので、正常時であれば電動制動装置15が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダ13を作動させ、異常時であればマスタシリンダ12が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダ13を作動させることができる。アンチロック制御の作動時に電動制動装置15が作動してホイールシリンダ13に供給するブレーキ液圧を減圧するとき、大気弁28が開弁するので、ホイールシリンダ13のブレーキ液圧を大気弁28を介してリザーバ29に逃がすことで、速やかな減圧を可能にしてアンチロック制御の応答性を高めることができる。このとき、踏力遮断弁14が閉弁するので、マスタシリンダ12がリザーバ29に連通して無負荷状態になるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の制動操作を電気信号に変換し、この電気信号に基づいて電動制動装置が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させるブレーキ・バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキ装置であって、特にアンチロック機能を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の制動操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、電動モータによりブレーキ液圧を発生する電動制動装置とを電磁弁を介して選択的にホイールシリンダに接続可能とし、通常時には運転者がブレーキペダルを踏む踏力を電気信号に変換し、この電気信号に基づいて電動制動装置が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させ、電源が失陥した異常時にはブレーキペダルに接続されたマスタシリンダが発生するブレーキ液圧で直接ホイールシリンダを作動させるブレーキ・バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキ装置が、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2005−22465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種のブレーキ・バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキ装置にアンチロック機能を持たせた場合、車輪がロック傾向になったときに電動制動装置の電動モータを逆転させてホイールシリンダに伝達されるブレーキ油圧を減圧しようとしても、ホイールシリンダが大気に開放されないために速やかな減圧が困難になり、アンチロック制御の応答性が低下してしまう可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ブレーキ・バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキ装置において、アンチロック制御時にホイールシリンダのブレーキ液圧を速やかに減圧できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、マスタシリンダおよびホイールシリンダを接続する液路を連通あるいは遮断する第1開閉弁と、第1開閉弁よりもホイールシリンダ側の液路に設けられて電気的に制御可能なブレーキ液圧を該ホイールシリンダに供給する電動制動装置と、第1開閉弁および電動制動装置間の液路とリザーバとを接続する液路を連通あるいは遮断する第2開閉弁とを備え、ホイールシリンダに供給されるブレーキ液圧を電動制動装置により減圧するアンチロック制御が可能な車両用ブレーキ装置であって、アンチロック制御の非作動時には前記第1開閉弁を開弁して前記第2開閉弁を閉弁し、アンチロック制御の作動時には前記第1開閉弁を閉弁して前記第2開閉弁を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置が提案される。
【0006】
尚、実施例の踏力遮断弁14は本発明の第1開閉弁に対応し、実施例の大気弁28は本発明の第2開閉弁に対応する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成によれば、アンチロック制御の非作動時には、第1開閉弁が開弁してマスタシリンダおよびホイールシリンダを接続する液路を連通させ、第2開閉弁が閉弁して第1開閉弁および電動制動装置間の液路とリザーバとを接続する液路を遮断するので、正常時であれば電動制動装置が発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させ、異常時であればマスタシリンダが発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させることができる。
【0008】
アンチロック制御の作動時に電動制動装置が作動してホイールシリンダに供給するブレーキ液圧を減圧するとき、第2開閉弁が開弁して第1開閉弁および電動制動装置間の液路とリザーバとを接続する液路を連通させるので、ホイールシリンダのブレーキ液圧を第2開閉弁を介してリザーバに逃がすことで、速やかな減圧を可能にしてアンチロック制御の応答性を高めることができる。このとき、第1開閉弁が閉弁してマスタシリンダおよびホイールシリンダを接続する液路を遮断するので、マスタシリンダが第2開閉弁を介してリザーバに連通するのを阻止し、マスタシリンダの無負荷状態になって運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図5は本発明の一実施例を示すもので、図1はブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(正常時)、図2はブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(異常時)、図3はブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(アンチロック制御作動時)、図4は電動制動装置の要部拡大図、図5は作用を説明するフローチャートである。
【0011】
図1に示すように、運転者により操作されるブレーキペダル11によってブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ12と、車輪を制動するホイールシリンダ13とが液路P1,P2,P3,P4,P5,P6により接続されており、液路P2および液路P3間に常開ソレノイド弁よりなる踏力遮断弁14(本発明の第1開閉弁)が配置され、液路P4および液路P5間に電動制動装置15が配置される。
【0012】
図4に示すように、電動制動装置15は、シリンダ16と、シリンダ16に摺動自在に嵌合するピストン17と、ピストン17を進退駆動するモータ18とを備える。ピストン17はスプリング41で後退方向に付勢されており、シリンダ16の内周面にはピストン17の外周面に接触する2個のシール部材42,43が設けられる。シリンダ16およびピストン17によって区画された液室19には第1ポート20および第2ポート21が設けられており、2個のシール部材42,43間に設けられて液路P4に連通する第1ポート20は、ピストン17が最後退位置にあるときにのみ連通孔17aを介して液室19に連通し、ピストン17が最後退位置から前進すると閉塞される。一方、液路P5に連通する第2ポート21はピストン17の位置に関わらずに常時開放する。
【0013】
図1に戻り、液路P1および液路P2の接続部から分岐する液路P7には常閉ソレノイド弁よりなる反力許可弁22が接続され、反力許可弁22は液路P8を介してストロークシミュレータ23に接続される。ストロークシミュレータ23は、シリンダ24に摺動自在に嵌合するピストン25をスプリング26で付勢したもので、スプリング26の弾発力は液路P8に連なる液室27の容積を減少させるように作用する。
【0014】
液路P3および液路P4の接続部から分岐する液路P9には常閉ソレノイド弁よりなる大気弁28(本発明の第2開閉弁)が接続され、大気弁28は液路P10を介してマスタシリンダ12のリザーバ29に接続される。
【0015】
液路P1、液路P2および液路P7の液圧、つまりマスタシリンダ12が発生するブレーキ液圧が第1液圧センサ30によって検出され、液路P5および液路P6の液圧、つまりホイールシリンダ13に伝達されるブレーキ液圧が第2液圧センサ31によって検出される。前記第1、第2液圧センサ30,31に加えて、ブレーキペダル11の踏み込みを検出するブレーキスイッチ32と、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサ33とが接続された電子制御ユニットUは、踏力遮断弁14、反力許可弁22、大気弁28およびモータ18の作動を制御する。
【0016】
次に、上記構成を備えた本発明の実施例の作用を、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0017】
先ずステップS1でイグニッションスイッチがONすると、ステップS2で電子制御ユニットUからの指令で踏力遮断弁14および大気弁28のソレノイドを消磁し、反力許可弁22のソレノイドを励磁する。その結果、図1に示すように踏力遮断弁14が開弁してマスタシリンダ12およびホイールシリンダ13間が連通し、大気弁28が閉弁して電動制動装置15およびリザーバ29間の連通が遮断され、かつ反力許可弁22が開弁してマスタシリンダ12およびストロークシミュレータ23間が連通する。
【0018】
この状態で運転者がブレーキペダル11を踏み込んだことをブレーキスイッチ32が検出すると、直ちに電動制動装置15のモータ18が作動してピストン17を前進させる。ピストン17の連通孔17aがシール部材42を通過した瞬間に第1ポート20が閉塞されて液路P4および液路P5間の連通が遮断され、シリンダ16の液室19に発生したブレーキ液圧が液路P5,P6を介してホイールシリンダ13に伝達されて車輪が制動される。
【0019】
このとき、液路P4が電動制動装置15のピストン17により遮断されており、大気弁28が閉弁しており、反力許可弁22が開弁しているため、運転者がブレーキペダル11を踏んでマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧はストロークシミュレータ23の液室27に伝達され、ピストン25がスプリング26の弾発力に抗して移動することで、ブレーキペダル11の踏込みに対する反力を発生させることができる。これにより、実際には電動制動装置15の駆動力でホイールシリンダ13を作動させているにも関わらず、運転者の踏力でホイールシリンダ13を作動させているのと同等の操作フィーリングを得ることができる。
【0020】
またマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧を第1液圧センサ30が検出すると、電子制御ユニットUは第1液圧センサ30が検出したブレーキ液圧と同じ液圧を液路P5,P6に発生させるべく電動制動装置15を作動させる。その結果、電動制動装置15により液路P5,P6に発生したブレーキ液圧を第2液圧センサ31が検出すると、そのブレーキ液圧が液路P1の第1液圧センサ30で検出したブレーキ液圧に一致するようにモータ18の作動をフィードバック制御することにより、ブレーキペダル11の踏力に応じた制動力をホイールシリンダ13に発生させることができる。
【0021】
上述した正常時には、踏力遮断弁14が開弁して大気弁28が閉弁しているため、大気弁28の上流側の液路P9にはマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧が作用し、大気弁28の下流側の液路P10はリザーバ29に連通しているために大気圧になる。従って、ブレーキペダル11が踏まれたときに、大気弁28の上流側および下流側の圧力を比較し、所定の圧力差が検出されない場合には、大気弁28が開弁状態に固着する故障が発生したと判断することができる。
【0022】
続くステップS3でバッテリ外れ等により電源が失陥したような異常時であると判定されると、ステップS4で反力許可弁22を消磁して閉弁する。その結果、図2に示すようにマスタシリンダ12およびホイールシリンダ13間が連通し、電動制動装置15およびリザーバ29間の連通が遮断され、かつマスタシリンダ12およびストロークシミュレータ23間の連通が遮断される。その結果、運転者がブレーキペダル11を踏み込んでマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧は、開弁した踏力遮断弁14および電動制動装置15を介してホイールシリンダ13に伝達され、車輪が制動される。
【0023】
このとき、大気弁28の閉弁によりマスタシリンダ12とリザーバ29との連通が遮断されるため、マスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧がリザーバ29に逃げることはない。また反力許可弁22の閉弁によりストロークシミュレータ23とマスタシリンダ12との連通が遮断されるため、ストロークシミュレータ23は機能を停止する。その結果、ブレーキペダル11のストロークが不必要に増加して運転者に違和感を与えるのを防止することができ、しかもマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧はストロークシミュレータ23に吸収されることなくホイールシリンダ13に伝達され、高い応答性で制動力を発生させることができる。
【0024】
しかして、電源が失陥して踏力遮断弁14、反力許可弁22、大気弁28および電動制動装置15が作動不能になっても、運転者がブレーキペダル11を踏んでマスタシリンダ12が発生したブレーキ液圧でホイールシリンダ13を支障なく作動させることができ、これにより異常時に車輪を制動して車両を安全に停止させることができる。
【0025】
ところで、本実施例のブレーキ・バイ・ワイヤ装置はアンチロック機能を備えており、4個の車輪速セン33の出力に基づいて所定の車輪がロック傾向になってスリップ率が増加したと判断されると、その車輪に対応する電動制動装置15のモータ18が作動してピストン17を後退させることにより、ホイールシリンダ13に作用するブレーキ液圧を減圧して車輪のロックを抑制する。車輪のスリップ率が減少すると、ピストン17を前進させてホイールシリンダ13に作用するブレーキ液圧を増圧して車輪の制動力を増加させる。その結果、車輪が再びロック傾向になると、上述したブレーキ液圧の減圧および増圧を短い周期で繰り返し、車輪のロックを抑制しながら制動距離の短縮が図られる。
【0026】
図5のフローチャートのステップS5でアンチロック制御が作動中でなければ、ステップS6で踏力遮断弁14は開弁状態のままとされ、大気弁28は閉弁状態のままとされる。しかしながら、ステップS5でアンチロック制御が作動中であれば、ステップS7で踏力遮断弁14は閉弁状態に切り換えられ、大気弁28は開弁状態に切り換えられる。その理由は以下のとおりである。
【0027】
上述したアンチロック制御の作動中には、ホイールシリンダ13に伝達されるブレーキ液圧を応答性良く速やかに減圧することが必要であるが、仮にアンチロック制御の作動中に踏力遮断弁14が開弁状態のままであり、大気弁28が閉弁状態のままであると、マスタシリンダ12および電動制動装置15間の液路P1〜P4がリザーバ29に開放されずに閉塞されているため、ピストン17が後退して連通孔17aがシール部材42を通過することで液路P5と液路P4とが連通しても、ホイールシリンダ13のブレーキ液圧が速やかに減圧しない可能性がある。
【0028】
しかしながら本実施例によれば、図3に示すようにアンチロック制御の作動中に踏力遮断弁14が閉弁して大気弁28が開弁するため、ピストン17が後退して連通孔17aがシール部材42を通過することで液路P5と液路P4とが連通した瞬間に、ホイールシリンダ13のブレーキ液圧を大気弁28を介してリザーバ29に逃がすことができ、これによりホイールシリンダ13を速やかに減圧してアンチロック制御の作動応答性を高めることができる。このとき、踏力遮断弁14が閉弁してマスタシリンダ12が大気弁28を介してリザーバ29に連通するのを防止することで、ブレーキペダル11の反力が失われることはない。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(正常時)
【図2】ブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(異常時)
【図3】ブレーキ・バイ・ワイヤ装置の全体構成を示す図(アンチロック制御作動時)
【図4】電動制動装置の要部拡大図
【図5】作用を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0031】
12 マスタシリンダ
13 ホイールシリンダ
14 踏力遮断弁(第1開閉弁)
15 電動制動装置
28 大気弁(第2開閉弁)
29 リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(12)と、
車輪に制動力を付与するホイールシリンダ(13)と、
マスタシリンダ(12)およびホイールシリンダ(13)を接続する液路を連通あるいは遮断する第1開閉弁(14)と、
第1開閉弁(14)よりもホイールシリンダ(13)側の液路に設けられて電気的に制御可能なブレーキ液圧を該ホイールシリンダ(13)に供給する電動制動装置(15)と、
第1開閉弁(14)および電動制動装置(15)間の液路とリザーバ(29)とを接続する液路を連通あるいは遮断する第2開閉弁(28)と、
を備え、
ホイールシリンダ(13)に供給されるブレーキ液圧を電動制動装置(15)により減圧するアンチロック制御が可能な車両用ブレーキ装置であって、
アンチロック制御の非作動時には前記第1開閉弁(14)を開弁して前記第2開閉弁(28)を閉弁し、アンチロック制御の作動時には前記第1開閉弁(14)を閉弁して前記第2開閉弁(28)を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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