説明

車両用ホイールの表面層加工用治具及び表面層加工装置並びに表面層加工方法

【課題】パテ埋めやペーパーがけや旋盤による修正加工を行わずに、又はこれらの作業に大きな負担をかけずに、効率よく、車両用ホイールのディスクに生じた微小鋳造欠陥を修復することが可能な手段を提供すること。
【解決手段】底板部62、その底板部62上に円周状に配設された縁壁部63、その縁壁部63の中心に位置して配設された突起軸部64、及びその突起軸部64の周りに5つ配設された副突起軸部65、を有する容器部材61と、車両用ホイールを容器部材61に固定するための締付部材と、底板部62及び縁壁部63で囲われた空間に収容された加工材と、を備える表面層加工用治具の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品である車両用ホイールの、ディスクの表面層を加工し、微小な鋳造欠陥を修復するために用いられる表面層加工用治具と、それが組み込まれた車両用ホイール向け表面層加工装置、更には表面層加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に燃費向上が強く求められ、加えて自動車の高級化が進んでいることから、軽量でデザイン性に優れる軽合金製の車両用ホイールが、広く使用されるようになってきている。この軽合金製車両用ホイールとしては、腐食性が小さく高い強度を有する鍛造品が知られるが、量産性に適し、材料歩留まりが高いことから、その多くは鋳造工程を経て作製される鋳造品である。
【0003】
ところが、鋳造品である軽合金製車両用ホイールでは、その表面に微小な鋳造欠陥が発生し、意匠面での品質低下を招来する場合がある。表面に現れる微小鋳造欠陥としては、大別して、孔部(あな)として現れる気孔(ピンホール)等と、突起部として現れる膨れ等と、が知られる。このような微小鋳造欠陥は、特にディスクのデザイン面に現れるものは、気付き難い極僅かな孔部や突起部であっても許されるものではない。鉄製に比べて高価な軽合金製車両用ホイールを購入する殆どの人は、外形、美観等を含む意匠性を大変重要視するからである。
【0004】
上記微小鋳造欠陥は、例えば塗装による皮膜形成によって修復し又は目立たなくすることが可能なものではない。そのため、従来は、ディスクのデザイン面に対しては、微小鋳造欠陥のうち、孔部についてはパテ埋めを特に慎重に行い、突起部についてはペーパーがけや旋盤を用いて丁寧に修正加工を施す、という大変厳格な欠陥の修復作業を行っていた。特に、ディスクのデザイン面に鋳肌をそのまま表した意匠の軽合金製車両用ホイールでは、パテ埋めを行うと表面の鋳肌感が微妙に変り得ることから、美観を低下させるおそれがあり、それを防止するために、パテ埋め作業には、多くの人的労力と時間とが費やされていた。そして、その結果、生産効率の低下という問題に直面することとなった。
【0005】
尚、かかる観点より改善を提案する先行文献は存在しないようである。
【特許文献1】特開2004−322112号公報
【特許文献2】特開2004−174604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、パテ埋めやペーパーがけや旋盤による修正加工を行わずに、又はこれらの作業に大きな負担をかけずに、効率よく、車両用ホイールのディスクに生じた微小鋳造欠陥を修復することが可能な手段を提供することにある。
【0007】
検討がなされた結果、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)を応用することによって、車両用ホイールのディスクに現れた微小鋳造欠陥を修復することが有効なのではないかとの考えに至った。この鋳物の硬化方法は、鋳物の表面に硬化材を衝突をさせることによって、鋳物(鋳造品)の表面側に、ショットピーニング処理による塑性変形層より厚い緻密層を形成し得る手段であり、この手段によれば、鋳造品に所望の機械的性質を付与することが可能である。
【0008】
ところが、車両用ホイールのディスクの表面に対して、鋳物の硬化方法を試みようと計画したところ、車両用ホイールのような大量生産品の量産工程に適用するには、その鋳物の硬化方法自体を効率よく実施することが出来る手段が新たに必要である、という現実に直面した。
【0009】
即ち、本出願人の開発した鋳物の硬化方法は、鋳造品の表面に硬化材を衝突させるために鋳造品を硬化材とともに揺動させるものであるが、これを1バッチ行う毎に、鋳造品である車両用ホイールと、それに衝突をさせる硬化材と、を揺動装置に載せ換える作業が必要になり、この作業に要する時間を考慮すると、生産効率の観点から、従来のパテ埋めやペーパーがけや旋盤による修正加工に比して大きな改善が図れない、という解決すべき課題に直面したのである(揺動装置につき特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0010】
又、実際に、車両用ホイールのディスクの表面に対して、鋳物の硬化方法を試みたところ、車両用ホイールのディスクのような広い平面に対しては、その表面に硬化材を均一に衝突をさせることは困難である、ということがわかった。
【0011】
即ち、本出願人の開発した鋳物の硬化方法では、鋳造品の表面に硬化材の衝突をさせるために鋳造品を硬化材とともに揺動させるが、この揺動が水平方向の揺動であったため(特許文献1及び特許文献2を参照)、車両用ホイールに対して鋳物の硬化方法を実施する場合には、車両用ホイールを立てて(走行状態と同じ状態にして)行う必要がある。そうすると、この揺動(運動)に関わるモーメントが大きくなり、加えて、車両用ホイールを硬化材とともに揺動をさせたときに、車両用ホイールのディスクに対する硬化材の衝突位置が、重力によって、どうしても車両用ホイールのディスクの下部に集中してしまう。そのため、車両用ホイールのディスクのデザイン面に対し、均一に、硬化材の衝突をさせることが出来ない。又、硬化材が車両用ホイールのディスクの下部に集中する結果、硬化材どうしが衝突したり、はたらかない(動かず、鋳造品の表面に衝突しない)硬化材が存在する場合があり、非効率である。そのため、車両用ホイールのディスクの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を修復するためには、車両用ホイールの置き方を変えて、繰り返し揺動をさせることが必要となり、煩雑で長時間を要することから、やはり従来のパテ埋めやぺーパーがけや旋盤による修正加工から大きな改善が図れない、という解決すべき課題に直面したのである。
【0012】
尚、従来知られたショットピーニング処理を行うと、車両用ホイールのディスクの表面は、その性状が、むしろ劣化してしまうことが判明した。この現象について研究がなされた結果、ショットピーニング処理は、車両用ホイール(鋳造品)の表面だけを処理するに止まり、車両用ホイールの表層(内部のうち表面の近傍)に存在する微小鋳造欠陥を潰すまでの効果は有していないため、ショットピーニング処理を行うと、既に表面に存在していた孔部及び突起部が変形し若しくは孔部及び突起部が不規則に削られ、又は、表層に存在していた気孔(ピンホール)が表面に現れて新たな孔部及び突起部を形成し、表面がかえって荒れてしまったのではないかと推考された。
【0013】
そこで、更に、車両用ホイールのディスクの表面に生じた微小鋳造欠陥を、効率よく修復することが可能な、量産工程に適する手段を求めて研究が重ねられ、以下に示す本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
先ず、本発明によれば、リムとディスクとを有する車両用ホイールにおけるディスクの表面層を加工するために用いられる治具であって、治具の基板である底板部、その底板部の上に円周状に配設された縁壁部(ふちかべぶ)、その円周状に配設された縁壁部の中心に位置して前記底板部の上に1つ配設された突起軸部、及びその突起軸部の周りに複数配設された副突起軸部、を有する容器部材と、その容器部材における突起軸部の先端に配設された、車両用ホイールを容器部材に固定するための締付部材と、容器部材における底板部及び縁壁部で囲われた空間に収容された、比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材と、を備える車両用ホイールの表面層加工用治具が提供される。
【0015】
本明細書において、表面層とは表面及び表層を意味し、単に表層という場合には表面を除き、表面の近傍を示すものとする。又、多面体の径は、多面体の中心を通り多面体の外面と外面とを結ぶ距離の最大値と最小値の平均とする。
【0016】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具においては、上記容器部材における突起軸部の先端に取り付けられた、円形の天板部材を、更に備えることが好ましい。
【0017】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具においては、加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。又、加工材の比重は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは5〜10である。
【0018】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品である場合に、好適に用いられる。本明細書において、軽合金とは、鋳造用のアルミニウム合金、マグネシウム合金等を指し、アルミニウム合金としては、日本工業規格(JIS)に基づくAC4C、AC4CH、AC4B、AC4D、AC2A、AC2B、AC3A等を例示することが出来る。
【0019】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象であるディスクの表面層が切削面(鋳造後、切削加工された面)である場合において、加工材は、径がφ5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0020】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象であるディスクの表面層が鋳肌面(鋳造後に加工されていない面)である場合において、加工材は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0021】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象であるディスクの表面層が切削面及び鋳肌面である場合において、加工材は、径がφ5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0022】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、リムとディスクとを有する車両用ホイールにおけるディスクの表面層を加工するために、好ましくは、後述する車両用ホイール向け表面層加工装置に組み込まれて、使用される治具である。本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、上記の通り、底板部、縁壁部、突起軸部、及び副突起軸部を有する容器部材と、締付部材と、加工材と、を備えるものとして特定されるものであり、発明特定事項に加工対象である車両用ホイールを含むものではない。しかし、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールの表面層を加工するのに用いられるものであり、使用時には必ず加工対象である車両用ホイールが組み込まれる。従って、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の各構成要素は、加工対象である車両用ホイールによって形状や大きさ等が特定されるものであり、機能も車両用ホイールとの関係によって明らかになるものである。そこで、以下に、車両用ホイールとの関係を含めて、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の各構成要素について説明する。
【0023】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、それに車両用ホイールを組み込んだ状態で、上下方向に(鉛直方向に)揺動をすることによって、加工材が車両用ホイールのディスクの表面(例えばデザイン面)に衝突するように、構成されたものである。加工材が車両用ホイールのディスクの表面に衝突することにより、車両用ホイールの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を修復し表面を平滑化し、且つ、表層に存在する微小鋳造欠陥を潰し封孔処理を行う(本明細書において、このことを表面層加工処理とよぶ)。
【0024】
容器部材は、常に加工材を収容している部材であり、車両用ホイールを容器部材に取り付けると、(車両用ホイールのディスクに貫通孔がない場合には)底板部及び縁壁部で囲われた空間が車両用ホイールのディスクで閉じられ、加工材が移動する一の閉空間が形成される。
【0025】
容器部材のうち底板部は、治具の基礎、基板となるものであり、加工材を収容する空間を縁壁部とともに形成するものである。加工材は、表面層加工用治具が(揺動せず)静止しているときには、縁壁部に囲われた底板部の上に載置されている。表面層加工用治具に車両用ホイールを組み込んで上下方向に揺動させると、加工材は、底板部と、車両用ホイールのディスク(の表面)と、に衝突し、それらの間を往復運動する。従って、底板部は、通常、平板でよいが、加工材が衝突した際の跳ね返りの方向や、往復運動する加工材のストロークを、部分的に変えるために、底板部を傾斜面で構成してもよい。底板部の大きさは、少なくとも車両用ホイールのリムのサイズより大きいことが好ましい。
【0026】
容器部材の縁壁部は、車両用ホイールを表面層加工用治具に組み込む際に、リムを受ける部分である。従って、リムのフランジの形状に合わせるため、その形状は円周状であり、枠のような形状を呈している。この円周状の縁壁部は、一定の幅を有するものであることが好ましい。サイズ(リム径)の異なる車両用ホイールに対応することが可能になるからである。又、縁壁部は、車両用ホイールと当接する部分がポリアミド系高分子樹脂材料(例えばMCナイロン:商品名)で構成されていることが好ましい。車両用ホイールを傷つけ難く、又、車両用ホイールを載置したときに車両用ホイールが縁壁部の上で安定するからである。この好ましい態様は、縁壁部の車両用ホイールと当接する部分に、ゴムシートを敷いたり、高分子樹脂塗料を塗布することによって実現することが出来る。
【0027】
容器部材の突起軸部は、車両用ホイールを表面層加工用治具に組み込む際に、ハブ穴に通じる部分である。車両用ホイールのハブ穴を突起軸部に通すことによって、車両用ホイールが位置決めされる。従って、突起軸部は、縁壁部の中心に位置して、底板部の上に1つ配設される。突起軸部の径は、車両用ホイールのハブ穴に合わせて決定される。
【0028】
容器部材の副突起軸部は、車両用ホイールを表面層加工用治具に組み込む際に、取付ボルト穴に通じる部分である。車両用ホイールの取付ボルト穴を副突起軸部に通すことによって、車両用ホイールが位置決めされる。従って、車両用ホイールの取付ボルト穴の位置、数に合わせて、突起軸部の周りに、複数(通常、4又は5)配設される。副突起軸部の径は、車両用ホイールの取付ボルト穴に合わせて決定される。
【0029】
締付部材は、上記のように、突起軸部及び副突起軸部によって位置決めされて縁壁部にリムを合わせるように載置された車両用ホイールを、容器部材に固定するために締め付けをする部材である。締付部材は、例えば、ボルト、クランプ等によって構成される。ボルトの場合には、突起軸部をナットとして機能させるため、突起軸部にねじ穴を形成しておくことが好ましい。
【0030】
天板部材は、車両用ホイールを表面層加工用治具に組み込んだときに、車両用ホイールのディスクにおける底板部とは反対側の空間を閉じる部材である。即ち、天板部材の役割は、底板部と反対側で、上記一の閉空間とは別に、他の閉空間を形成することにあり、天板部材と、(ディスクに貫通孔がない)車両用ホイールのディスク及びリムとが、底板部とは反対側のディスクより上側で、他の閉空間を形成する。従って、天板部材は、リムの内側の形状に合わせて円形であり、その大きさ(径)は、リムの内径に合わせて決定される。
【0031】
ディスクに貫通孔がない車両用ホイールを、天板部材を含む表面層加工用治具に組み込み、上記他の閉空間に加工材を入れて、全体を上下方向に揺動させれば、加工材は、車両用ホイールのディスクの両面側において、その(両方の)表面に衝突する。即ち、元々、容器部材に収容されている加工材が、底板部と、車両用ホイールのディスクの表面(例えばデザイン面)と、に衝突しながら、上記一の閉空間において往復運動する。加えて、揺動をさせる前に新たに上記他の空間に加工材を入れておけば、その加工材が、天板部材と、車両用ホイールのディスクの表面(例えば取付面、車体側の面)と、に衝突しながら、上記他の閉空間を往復運動する。
【0032】
ディスクに貫通孔がない車両用ホイールの場合には、車両用ホイールの向きを反対にして容器部材に取り付け、車両用ホイールのディスクの表面(取付面、車体側の面)を、天板部材ではなく、底板部及び縁壁部で囲って、加工材が移動する閉空間を形成してもよい。
【0033】
車両用ホイールのディスクがスポークタイプである場合には、ディスクのスポーク間に貫通孔が存在するから、そのままでは、底板部及び縁壁部と車両用ホイールのディスクとで一の閉空間が形成されず、同様に、天板部材と車両用ホイールのディスク及びリムとで他の閉空間も形成されない。この場合には、底板部、縁壁部、車両用ホイールのリム、及び天板部材によって1つの閉空間が形成され、その閉空間の中に車両用ホイールのディスクが存在する態様になる。この態様で、上下方向に揺動させると、加工材は、ディスクの貫通孔を通過しつつ、車両用ホイールのディスクの両面側において、その(両方の)表面に衝突する。即ち、元々、容器部材に収容されている加工材が、車両用ホイールのディスクの両方の表面に衝突しながら、底板部と天板部材との間を往復運動する。
【0034】
但し、車両用ホイールのディスクがスポークタイプであっても、ディスクのスポーク間の貫通孔を遮断する遮断部材を使用することによって、底板部及び縁壁部と車両用ホイールのディスクで一の閉空間を形成し、天板部材と車両用ホイールのディスク及びリムとで他の閉空間をすることが出来る。この場合には、上記一の閉空間及び他の空間に、加工材を入れておけば、その加工材が、車両用ホイールのディスクの両方の表面に衝突しながら、上記一の閉空間及び他の閉空間の中で往復運動する。
【0035】
加工材は、常に、容器部材における底板部及び縁壁部で囲われた空間に収容されている。本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に車両用ホイールを組み込んだ状態で、上下方向に揺動をすることによって、加工材は車両用ホイールにおけるディスクの表面に衝突するが、揺動を終えると、重力で自然と元の位置、即ち底板部及び縁壁部で囲われた空間に収容された状態に戻る。
【0036】
次に、本発明によれば、上記した何れかの車両用ホイールの表面層加工用治具と、その表面層加工用治具を上下方向に揺動をさせる揺動手段と、を具備する車両用ホイール向け表面層加工装置が提供される。尚、本明細書において、上下方向の揺動とは、鉛直方向の揺動を意味する。
【0037】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置においては、揺動手段が、原動機と、その原動機に接続された回転軸と、その回転軸に設けられたクランクと、そのクランクとコンロッドを介して接続される揺動板と、その揺動板に取り付けられその揺動板を上下に往復運動させる2以上の直線運動案内器と、を有する揺動機構を具備し、原動機の与えた回転運動が、回転軸に備わるクランクによって上下運動に変換され、クランクと接続された揺動板が、直線運動案内器に沿って上下に往復運動をすることにより、揺動板に固定される表面層加工用治具を上下方向に揺動をさせることが好ましい。
【0038】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、揺動機構を具備する場合には、回転軸に更に他のクランクが設けられ、そのクランクにカウンターウエイトが取り付けられているものであることが好ましい。
【0039】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、揺動機構を具備する場合には、その揺動機構が床の上に載置され、その床との間に空気ばねが備わっているものであることが好ましい。
【0040】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、揺動機構及び空気ばねを具備する場合には、揺動機構の両側であって空気ばねの真上に、振動抑制用錘が備わっているものであることが好ましい。
【0041】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、揺動にかかる振動数が、3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。
【0042】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、揺動にかかる揺動時間が、10秒以上3分以下であることが好ましい。
【0043】
次に、本発明によれば、車両用ホイールの表面に閉空間を形成し、その閉空間に比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が表面に形成された車両用ホイールを、上下方向に揺動をさせて、加工材を車両用ホイールの表面に衝突をさせる車両用ホイールの表面層加工方法が提供される。
【0044】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、上記閉空間が、平面を有する揺動容器のその平面と、車両用ホイールの表面と、を含む面によって、次に示す(1)又は(2)の何れかの態様で形成されることが好ましい。
(1)揺動容器の平面と車両用ホイールの表面とを含む面で閉空間を形成するように、平面を有する揺動容器に車両用ホイールを収容する。
(2)車両用ホイールの表面に平面を有する揺動容器を固定することによって、揺動容器の平面と車両用ホイールの表面とを含む面で閉空間を形成する。
【0045】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%以上を占めるものであることが好ましい。
【0046】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品である場合に好適に使用される。
【0047】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象である車両用ホイールの表面が切削面である場合において、加工材は、径がφ5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0048】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象である車両用ホイールの表面が鋳肌面である場合において、加工材は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0049】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象である車両用ホイールの表面が切削面及び鋳肌面である場合において、加工材は、径がφ5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めることが好ましい。
【0050】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、加工材が、少なくとも金属材料又はセラミック材料からなるものを含むものであることが好ましい。
【0051】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、加工材が、少なくとも鋼球又はジルコニア球を含むことが好ましい。
【0052】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、揺動にかかる振動数が、3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。
【0053】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法においては、揺動にかかる揺動時間が、10秒以上3分以下であることが好ましい。
【0054】
次に、本発明によれば、鋳造工程、熱処理工程、及び上記した何れかの車両用ホイールの表面層加工方法を用いた冷間加工工程又は熱間加工工程、を有する車両用ホイールの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0055】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールのリムのフランジ形状に合わせて円周状に配設された縁壁部、車両用ホイールのハブ穴に合わせて縁壁部の中心に配設された突起軸部、車両用ホイールの取付ボルト穴に合わせて突起軸部の周りに配設された副突起軸部、を有する容器部材と、その容器部材の突起軸部の先端に配設された、車両用ホイールを容器部材に固定するための締付部材と、容器部材の底板部及び縁壁部で囲われた空間に収容された加工材と、を備え、更に好ましい態様において、容器部材の突起軸部の先端に取り付けられた円形の天板部材を備えているので、車両用ホイールの表面に加工材を衝突させて表面層加工処理を行うにあたり、車両用ホイールの載せ換えが容易であり、且つ、加工材の載せ換えが不要である。そのため、表面層加工処理を、効率よく実施することが出来、車両用ホイールのような大量生産品の量産工程において表面層加工処理を行うことを可能にする、という優れた効果を奏する。
【0056】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具が存在しない場合には、表面層加工処理を行う際に、その都度、揺動をする装置に車両用ホイールを加工材とともに取り付け、処理を終えたら取り外す、という作業が必要になり、これに多くの時間を要することとなり、生産効率の観点から、車両用ホイールのような大量生産品の量産工程において表面層加工処理を行うことは困難であった。本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具を使用すれば、車両用ホイール及び加工材の載せ換えにかかる作業の負担、時間を大幅に低減することが出来、量産工程に表面層加工処理を適用することが可能になる。
【0057】
例えば、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具を、上下に揺動をする装置内に予め設置しておけば、表面層加工用治具において、締付部材を緩めて車両用ホイールを容器部材に取り付け、締付部材を締めて車両用ホイールを固定する、という作業だけで、直ぐに表面層加工処理が行える。締付部材の操作だけで、簡単に迅速に、上下に揺動をする装置に車両用ホイールを取り付け、上下に揺動をする装置から車両用ホイールを取り外すことが可能になる。突起軸部及び副突起軸部によって車両用ホイールの位置決めがなされるから、車両用ホイールを容器部材に取り付ける際に、位置の微調整は不要である。加工材は、容器部材の底板部及び縁壁部で囲われた空間であって車両用ホイールが取り付けられることによって閉空間となる場所に、常に収容されているから、新たな車両用ホイールに表面層加工処理を行うに際し、加工材を載せ換える必要がない。
【0058】
又、車両用ホイールを本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に取り付けると、即、車両用ホイールのディスクの表面に加工材を衝突させるべく加工材が往復運動する閉空間が誕生し、そこには常に加工材が収容されている。そのため、車両用ホイールを本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に取り付けた後、直ぐに、表面層加工処理を実施することが出来る。従って、車両用ホイールに表面層加工処理を施す上でのスループットが大変高い。
【0059】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具では、その好ましい態様において、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象であるディスクの表面層が鋳肌面である場合には、加工材は、比重が2以上であり、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めるものである。これら加工材の大きさの範囲は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)における硬化材(金属球(径がφ10〜20mmの鋼球又はステンレス球)又はカットワイヤ)とは一致していない。その理由は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の好ましい態様では、処理対象として車両用ホイールのディスクのデザイン面を考慮しており、加工後に鋳肌のような面が保持されることを重要視しているからである。即ち、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、加工後の車両用ホイールの表面が、殆ど鋳造後の鋳肌そのままとなり、視覚的に鋳肌感が変らないものとするために最適な加工材を見出し、これを提案している。
【0060】
加工材として、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占めるものを使用しているので、この加工材によって表面層加工処理が施された車両用ホイールの表面は、殆ど鋳造後の鋳肌そのままであり、視覚的に鋳肌感が変らない。そのため、例えばデザイン面に美しい鋳肌をそのまま表した意匠で構成される軽合金製の車両用ホイールへの対応が可能である。
【0061】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具と、それを上下方向に揺動をさせる揺動手段と、を具備するものであり、表面層加工用治具(加工材を含む)に組み込まれた車両用ホイールを上下方向に揺動をさせる具体的手段である。本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、表面層加工用治具に組み込まれた車両用ホイールを上下方向に揺動をさせることを通じて、上記した本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の効果を導くところに、自らの優れた効果が認められる。
【0062】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置を使用して、それに含まれる本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に車両用ホイールを組み込むと、ディスクに貫通孔がない車両用ホイールに対しては、車両用ホイールのディスクの両面側において、2つの閉空間が形成され、ディスクに貫通孔がある車両用ホイールに対しては、車両用ホイールのディスクの両面側において、連通した1つの閉空間が形成される。そして、揺動手段によって、表面層加工用治具に組み込まれた車両用ホイールを、上下方向に揺動をさせると、上記1つ又は2つの閉空間において、比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材が、車両用ホイールの表面に、均一に衝突をする。揺動の方向が重力方向と同じ上下方向であるため、加工材を衝突させる対象である車両用ホイールの表面が広い平面である場合であっても、その表面に加工材を均一に衝突をさせ易く、車両用ホイールの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を、容易に効率よく修復し、表面を平滑化することが可能であり、且つ、表層に存在する微小鋳造欠陥を潰し封孔処理を行うことが出来る。表面に現れていた気孔(ピンホール)を修復するのみならず、表層に存在していた気孔も車両用ホイールの表面は滑らかになる。従来行われていた大変な神経を使うパテ埋め作業やペーパーがけ又は旋盤による修正加工は不要となり、又は少なくともこれらの作業に大きな負担をかける必要はなく、それらに要する人的労力及び時間を削減することが出来、車両用ホイールの生産性が大きく向上する。
【0063】
上下方向に揺動を行う本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置によれば、車両用ホイールを加工材とともに水平方向に揺動をさせる場合のように、車両用ホイールの表面に対する加工材の衝突位置が下部に集中することはないから、車両用ホイールの表面に存在する微小鋳造欠陥を修復するために、軽合金製鋳造の置き方を変えて、繰り返し揺動をさせるといった手間は不要である。そのため、短時間で労力を要さずに、車両用ホイールの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を完全に修復することが可能である。
【0064】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、その好ましい態様により、揺動手段が、2つのクランクのうちコンロッドを介して揺動板と接続されない方のクランクにカウンターウエイトが取り付けられ、それがバランサの役目を果たし、悪振動が打ち消されるので、作業環境が改善され、工場周囲の環境への影響は低減される。又、被揺動体である表面層加工用治具に組み込まれた車両用ホイールへの負担が軽減されるから、車両用ホイールへの表面層加工処理の効果が確実に期待出来る。更に、装置自体への負担が軽減されるから、装置のメンテナンス頻度が少なくなる。
【0065】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、その好ましい態様により、揺動機構と、それが載置される床との間に、空気ばねが備わっており、更には、揺動機構の両側であって空気ばねの真上に、振動抑制用錘が備わっているので、加振力の毎秒の回数と、系の固有振動数と、の比が大きくなり、防振することが出来る。又、揺動機構の偏荷重を修正して荷重を平均化することが可能である。従って、被加工体である車両用ホイールを含む被揺動体や、装置自体への、悪振動の影響を抑制することが出来る。
【0066】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、その好ましい態様において、(上下方向の)揺動にかかる振動数が3Hz以上30Hz以下であり、揺動にかかる揺動時間が10秒以上3分以下である。これらの範囲は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)における揺動にかかる振動数(5〜20Hz)、揺動にかかる揺動時間(3〜120分)とは一致していない。その理由は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法が水平方向の揺動を行うに対し、本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置では、車両用ホイールのディスクの表面のような(中空部分ではなく)広い平面に対して処理可能なように、揺動を上下方向に行っているからである。即ち、水平方向の揺動と、上下方向の揺動と、では最適な揺動条件が異なるのであり、本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、上下方向の揺動による最適な揺動条件を見出し、これを提案している。
【0067】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールの表面に形成した閉空間に、比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、車両用ホイールを上下方向(鉛直方向)に揺動をさせて、加工材を車両用ホイールの表面に衝突をさせるので、加工材を衝突させる対象である車両用ホイールの表面が広い平面である場合であっても、その表面に加工材を均一に衝突をさせることが可能である。そのため、鋳肌のような面を保持しつつ車両用ホイールの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を、容易に効率よく修復し、表面を平滑化することが可能であり、且つ、表層に存在する微小鋳造欠陥を潰し封孔処理を行うことが出来る。
【0068】
例えば、表面に現れていた気孔(ピンホール)を修復するのみならず、表層に存在していた気孔も潰すことが出来るので、それらが新たな孔部及び突起部の発生原因になることもなく、車両用ホイールの表面は滑らかになる。大変な神経を使うパテ埋め作業やペーパーがけ又は旋盤による修正加工は不要となり、又は少なくともこれらの作業に大きな負担をかける必要はなく、それらに要する人的労力及び時間を削減することが出来、車両用ホイールの生産性が向上する。
【0069】
車両用ホイールを加工材とともに水平方向に揺動をさせる場合のように、車両用ホイールの表面に対する加工材の衝突位置が下部に集中することはないから、車両用ホイールの表面に存在する微小鋳造欠陥を修復するために、軽合金製鋳造の置き方を変えて、繰り返し揺動をさせるといった手間は不要である。そのため、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法によれば、短時間で労力を要さずに、車両用ホイールの表面全体に存在し得る微小鋳造欠陥を完全に修復することが可能である。
【0070】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、車両用ホイールの置き方を変えない一回の揺動によって、車両用ホイールのディスク部のデザイン面に対し、均一に、加工材を衝突させ、車両用ホイールのディスク部のデザイン面全体の微小鋳造欠陥を修復することが可能である。そのため、車両用ホイールの生産効率は大きく向上する。
【0071】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法では、この方法で加工を施した後の、車両用ホイールの表面は、殆ど鋳造後の鋳肌そのままであり、視覚的に鋳肌感が変らない。そのため、例えばデザイン面に美しい鋳肌をそのまま表した意匠で構成される軽合金製の車両用ホイールへの対応が可能である。
【0072】
尚、本明細書において、車両用ホイールの表面が平滑又は滑らかであるとは、平らな面であることを意味するのではなく、欠陥の存在しない鋳肌の如く、表面が一様で緩くなだらかな凹凸が形成された面であることを意味する。
【0073】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、その好ましい態様において、揺動にかかる振動数が3Hz以上30Hz以下であり、揺動にかかる揺動時間が10秒以上3分以下である。これらの範囲は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)における揺動にかかる振動数(5〜20Hz)、揺動にかかる揺動時間(3〜120分)とは一致していない。その理由は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法が水平方向の揺動を行うに対し、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法では、車両用ホイールのディスク部のデザイン面のような(中空部分ではなく)広い平面に対して処理可能なように、揺動を上下方向(鉛直方向)に行っているからである。即ち、水平方向の揺動と、上下方向(鉛直方向)の揺動と、は最適な揺動条件が異なるのであり、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、上下方向の揺動による最適な揺動条件を見出し、これを提案している。
【0074】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、その好ましい態様において、車両用ホイールが軽合金製鋳造品であり、加工対象であるディスクの表面層が鋳肌面である場合には、加工材は、比重が2以上であり、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占め、少なくとも金属材料又はセラミック材料からなるものを含む(少なくとも鋼球又はジルコニア球を含む)ものとすることが出来る。これら加工材の大きさの範囲及び加工材の材料は、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)における硬化材(金属球(径がφ10〜20mmの鋼球又はステンレス球)又はカットワイヤ)とは一致していない。その理由は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法の好ましい態様では、処理対象の1つとして車両用ホイールのディスク部のデザイン面を考慮しており、加工後に鋳肌のような面が保持されることを重要視しているからである。即ち、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法は、加工後の車両用ホイールの表面が、殆ど鋳造後の鋳肌そのままとなり、視覚的に鋳肌感が変らないものとするために最適な加工材を見出し、これを提案している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0076】
先ず、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具と、それを用いて行う表面層加工処理について説明する。図1、図2A、及び図2Bは、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図である。図1は、表面層加工用治具のうちの容器部材のみを示す斜視図であり、図2Aは、天板部材を含む平面図であり、図2Bは、図2AにおけるDD断面を表した図であり車両用ホイールを組み込んだ様子を示す断面図である。図6は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に車両用ホイールを組み込んだ状態で表面層加工処理を行っている様子を示す部分断面図である。図7は、鋳造後の車両用ホイールの表面及び表層の一部を表した断面図であり、そこには微小鋳造欠陥が存在する様子が示されている。図8は、車両用ホイールに表面層加工処理を行っている様子を表した部分断面図であり、表面層加工処理の作用を説明するための図である。尚、図7及び図8では、車両用ホイール22のディスク94の表面94aが、図6とは上下反対に描かれている。図9及び図10は、表面層加工処理を行う対象であり、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に組み込まれる車両用ホイールの一例を示す図である。図9は車両用ホイールの斜視図であり、図10は図9におけるCC断面を示す断面図である。図9及び図10に示される車両用ホイール22は、リム(インナーリム92及びアウターリム93)と、スポークタイプのディスク94と、を有し、ディスク94の面に、ハブ穴95と、取付ボルト穴96と、が形成されているものであり、(例えば)AC4CHアルミニウム合金製の鋳造品である。
【0077】
図1、図2A、及び図2Bに示される表面層加工用治具1は、容器部材61、締付部材71、加工材25、及び天板部材81を備えている。容器部材61は、底板部62と、その底板部62の上に、車両用ホイール22のアウターリム93に合わせて円周状に配設された縁壁部63と、その円周状の縁壁部63の中心に位置して配設された突起軸部64と、その突起軸部64の周りに5つ配設された副突起軸部65と、を有する。突起軸部64は、車両用ホイール22を表面層加工用治具1に組み込む際に、ハブ穴95に通じる部分であり、同様に、副突起軸部65は取付ボルト穴96に通じる部分である。車両用ホイール22のハブ穴95を突起軸部64に通し、取付ボルト穴96を副突起軸部65に通し、アウターリム93を縁壁部63で受けることによって、表面層加工用治具1において車両用ホイール22が位置決めされる。
【0078】
底板部62は、表面層加工用治具1を後述する表面層加工装置に設置するための接続部67a,67b,67c,67dを備えた平板である。底板部62は、加工材25を収容する空間を縁壁部63とともに形成するものであり、表面層加工用治具1が静止しているときには、縁壁部63に囲われた底板部62の上に加工材25が載置されている(図2Bを参照)。
【0079】
縁壁部63は、一定の幅Wを有しており(図1を参照)、且つ、アウターリム93と当接する面には高分子樹脂層が形成されている。縁壁部63は、図1に示されるような、アウターリム93と当接する面が平面の縁壁部63aであってもよいが、傾斜面であってもよい。図2Bでは、表面層加工用治具1において縁壁部のみを入れ替えたものが示されている。図2Bに示されるような、アウターリム93と当接する面が傾斜面である縁壁部63bであれば、平面の縁壁部63aより、車両用ホイール22の位置決めを行い易い。
【0080】
車両用ホイール22を容器部材61に固定するための締付部材71はボルトであり、突起軸部64の先端に配設され、突起軸部64に形成されたねじ穴66にねじ込むことによって、車両用ホイール22を締め付けて固定することが出来る。表面層加工用治具1では、円形の天板部材81が備わっており、この天板部材81の中心には、ハブ穴95に対応する穴であって突起軸部64を通す穴と、取付ボルト穴96に対応する穴であって副突起軸部65を通す穴と、が開いている。ハブ穴95を突起軸部64に通し、取付ボルト穴96を副突起軸部65に通すことによって、車両用ホイール22を容器部材61に取り付けた後に、引き続き、天板部材81を容器部材61に取り付け、その後、締付部材71をねじ穴66にねじ込むことによって、車両用ホイール22と天板部材81を一緒に固定することが可能である。
【0081】
車両用ホイール22のディスクはスポークタイプであるので、車両用ホイール22を表面層加工用治具1に組み込んだ状態において、底板部62と縁壁部63と車両用ホイール22のディスク94とによって、ディスク94の底板部62側のみには(図2Bを参照)閉空間が形成されず、底板部62、縁壁部63、車両用ホイール22のリム(主にアウターリム93)、及び天板部材81で囲われた部分に、1つの閉空間26が形成される。そして、その閉空間26の中にディスク94が存在する態様になる。
【0082】
上記態様で、車両用ホイール22を組み込んだ表面層加工用治具1を上下方向に揺動させると、図6に示されるように、加工材25が、ディスク94(のスポーク間部分)を通過しつつ、車両用ホイール22のディスク94の両方の表面94a,94bに衝突しながら、底板部62と天板部材81との間を往復運動する。
【0083】
そして、加工材25が車両用ホイール22のディスク94の表面94a(デザイン面)及び表面94b(取付面)に衝突することによって、車両用ホイール22の表面94a,94bに存在し得る微小鋳造欠陥が修復され、表面94a,94bが平滑化され、且つ、車両用ホイール22の表層に存在する微小鋳造欠陥が潰され、封孔処理が行われる(即ち、表面層加工処理がなされる)。一般に、鋳造法によって成形された鋳造品である車両用ホイール22のディスク94の(例えば)表面94aには、図7に示されるように、微小鋳造欠陥である孔部12、突起部13が生じてしまうことが多く、更に、表層部14を含む表面94aの近傍には、表面94aに現れることにより孔部12となり得る気孔11が存在していることが多い(表面94bにおいても同様である)。このように微小鋳造欠陥が存在している車両用ホイール22のディスク94の(例えば)表面94aに対して、加工材25を車両用ホイール22の表面94aに衝突をさせると、図8に示されるように、表面94aに存在していた孔部12及び突起部13は滑らかに修復され、表面94aから3mm程度の深さまでの表層部14(表面94aを除く)に存在していた気孔11は潰される(表面94bにおいても同様である)。この表層部14に存在していた気孔11が潰されることによって、新たな孔部12及び突起部13の発生原因が取り除かれる。
【0084】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具において、使用する加工材25は、比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が少なくとも含まれるものである。径がφ1.5mm未満の場合には、表面94a,94bに存在する微小鋳造欠陥を修復し表面94a,94bを平滑な面とする作用が小さくなる。又、表面94a,94bの近傍に存在する微小鋳造欠陥を封孔する作用が小さくなり、気孔11が潰れる表層部14の範囲が狭くなる。
【0085】
そして、加工材25には、カットワイヤ、金属粒、研削剤乃至研磨剤、乾燥砂、等を混合し、加工材25を2以上の混合物として用いることも出来る。又、加工材25に含まれる球状体又は多面体を、径(大きさ)の異なるものとすることも好ましい。大きさの異なるものを加工材25に混在させることにより、加工材25が、より均一に漏れなく車両用ホイール22の表面94a,94bに対し衝突及び擦り動きを繰り返すとともに、加圧されて車両用ホイール22の表面94a,94bの平滑性を向上させ得るものと考えられるからである。
【0086】
加工材25としては、例えば金属球又はセラミック球を含むものが好ましく採用される。金属球又はセラミック球を単独で用いてもよく混合して用いてもよい。金属球として鋼球、ステンレス球が例示され、セラミック球としてジルコニア球、アルミナ球が例示される。比重、硬度の観点より、より好ましい金属球は鋼球であり、より好ましいセラミック球はジルコニア球である。加工材として混合可能なカットワイヤを例示すると、φ0.6〜1.2mm×長さ0.6〜1.2mmのステンレス製カットワイヤを挙げることが出来る。
【0087】
加工材25の投入量は、閉空間26の容積に対し、体積比で概ね5%以上30%以下であることが好ましい。加工材25が閉空間26の中で自由に動き、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数が確保されることを担保するためである。5体積%未満では、加工材25は閉空間26の中で自由に動くもの、車両用ホイール22の表面94a,94bの面積に対し加工材25が少なすぎる結果、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数及び加圧力が確保されずに、車両用ホイール22の平滑化処理及び封孔処理が良好になされないおそれがあり、好ましくない。30体積%より多いと、加工材25が閉空間26の中で自由に動く範囲が限定され、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数及び加圧力が確保されずに、同じく車両用ホイール22の平滑化処理及び封孔処理が良好になされないおそれがあり、好ましくない。
【0088】
加工材25は、元々、底板部62及び縁壁部63で囲われた空間に収容されており、上下方向に揺動をする際には、車両用ホイール22のディスク94の表面94a,94bに衝突するが、揺動を終えると、重力で自然と元の位置、即ち底板部62及び縁壁部63で囲われた空間に収容された状態に戻る。
【0089】
次に、本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置について説明する。本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、上記した表面層加工用治具1と、それを上下方向に揺動をさせる揺動手段と、を具備するものであり、本発明に係る表面層加工処理を実施するための装置である。図3は、本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置の一の実施形態を示す上面図である。図4は、図3におけるA矢視図(正面図)であり、この図4にのみ、被揺動体23が、内部を透視して描かれている。被揺動体23は、加工材25が収容された容器部材61と、締付部材71と、天板部材81とを備えた表面層加工用治具1(図2A及び図2Bを参照)に、表面層加工処理の対象である車両用ホイール22を組み込んだものである。図4では、揺動板42の上に表面層加工用治具1が固定されており、その表面層加工用治具1に車両用ホイール22が組み込まれた様子が表されている。図5は、図3のB矢視図(右側面図)であり、振動抑制用錘24を除いて、揺動機構(後述する)を視た図である。このような表面層加工装置2によって、表面層加工用治具1に組み込まれた車両用ホイール22(被揺動体23)を、上下方向に揺動させることが可能である。
【0090】
図3〜図5に示される表面層加工装置2では、揺動にかかる動力は、原動機36により与えられる。原動機36で生じた回転運動が、伝導部材であるベルト35により回転軸40に伝わり、これを回転させ、その回転軸40の回転運動は、それに備わるクランク38によって往復運動に変換される。そして、クランク38とコンロッド41を介し接続される揺動板42が、直線運動案内器として設けられた4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに沿って、上下方向に、直線状の往復運動を行い、この揺動板42の往復運動によって、揺動板42の上に固定された被揺動体23は、上下方向に揺動をする。回転軸40に備わるもう1つのクランク39には、カウンターウエイト32が取り付けられており、揺動板42の往復運動及び被揺動体23の揺動にともなって発生する悪振動を打ち消し抑制する。
【0091】
表面層加工装置2では、揺動手段は、原動機36、回転軸40(クランク38,39)、コンロッド41、揺動板42、リニア軸受43a,43b,43c,43d(直線運動案内器)、及びカウンターウエイト32を有する揺動機構を具備し、その揺動機構は、台板33を介して基台53の上に載置されている。即ち、揺動機構は、台板33の上にまとめて載置され、更に、その台板33が、基台53の上に載置されている。そして、基台53の下には、防振のために4つの空気ばね31が備わり、基台53の上には、空気ばね31の真上に2つの振動抑制用錘24が備わっている。表面層加工装置2では、1つの振動抑制用錘24は、2つの空気ばね31と対応して設けられている。
【0092】
台板33には2つの軸受45が取り付けられ、回転軸40は、この2つの軸受45により、台板33と平行に、回転自在に取り付けられる。そして、回転軸40は、ベルト35を介して原動機36(の回転軸)と接続される。具体的には、原動機36(の回転軸)に設けられたプーリー37と、回転軸40に設けられたプーリー34と、をベルト35で接続して、原動機36で生じた回転運動を、回転軸40へ伝達する。インバータによる原動機36の回転制御と併せて、これらプーリー34,37の径等を変更することによって、回転軸40の回転数を制御することが出来る。そして、この回転数の制御によって、揺動板42の往復運動(即ち被揺動体の揺動)にかかる揺動数(振動数)を制御することが可能である。
【0093】
表面層加工用治具1が固定される揺動板42は、使い勝手がよく応用性に優れた平板として構成されており、4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに、移動自在に取り付けられている。リニア軸受は直線運動案内器の1つであり、往復運動を行う揺動板の案内に、例えば玉やころを用いた軸受である。
【0094】
回転軸40には、2つのクランク38,39が180°反対方向を向いて備わっている。そして、クランク38はコンロッド41を介して揺動板42と接続され、一方、クランク39にはカウンターウエイト32が取り付けられている。このようなクランク38,39の態様により、原動機36の与えた回転運動は、クランク38に接続された揺動板42の、上下方向の往復運動に変換され、揺動板42に固定された、車両用ホイール22を組み込んだ表面層加工用治具1(被揺動体23)が、悪振動を抑えつつ、上下方向に揺動をする。そうすると、その揺動によって、加工材25が、車両用ホイール22の表面94a,94bに、重力の影響を受けず偏らずに均一に衝突をし、車両用ホイール22の表面94a,94bに平滑化処理及び封孔処理が施される。
【0095】
次に、揺動条件について説明する。本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具を具備する本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置を使用して、車両用ホイールに、表面層加工処理を施す際の、好ましい揺動条件は、以下の通りである。
【0096】
上下方向の揺動における振動数は、概ね3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。より好ましい振動数は5Hz以上20Hz以下であり、特に好ましい振動数は8Hz以上15Hz以下である。加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。振動数が3Hz未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の表面94a,94bの微小鋳造欠陥を修復出来ず、又、表面94a,94bの近傍(表層)の微小鋳造欠陥を潰せず、好ましくない。又、加工材25の数にもよるが、振動数が30Hzより多くても、微小鋳造欠陥を修復し又は潰す効果は小さく、振動数を上げるために費やすエネルギー対効果は低下するため、好ましくない。尚、本明細書において、振動数とは時間あたり繰り返される揺動の回数を指し、単位はヘルツ(Hz)である。
【0097】
又、上下方向に揺動をさせる場合の揺れ幅は、概ね10mm以上120mm以下であることが好ましい。より好ましい揺れ幅は20mm以上100mm以下であり、特に好ましい揺れ幅は30mm以上80mm以下である。閉空間26の中での加工材25の移動範囲を適切に設定することを通して、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。揺れ幅が10mm未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の微小鋳造欠陥を修復出来ず又は潰せず、好ましくない。又、揺れ幅が120mmより大きくても、加工材25が底板部62及び天板部材81に接している時間が長くなるだけで、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの衝突回数は増加せず、微小鋳造欠陥を修復し又は潰す効果は大きくはない。好ましい閉空間26の高さは、30〜200mmである。
【0098】
更には、上下方向に揺動をさせる場合の延べ揺動時間は、概ね10秒以上3分以下であることが好ましい。より好ましい揺動時間は20秒以上2分以下であり、特に好ましい揺動時間は30秒以上90秒以下である。加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの延べ衝突回数を確保するためである。延べ揺動時間が10秒未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面94a,94bとの延べ衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の微小鋳造欠陥を修復出来ず又は潰せず、好ましくない。又、延べ揺動時間が3分より多くても、微小鋳造欠陥を修復し又は潰す効果は小さく、時間対効果は向上しないため、好ましくない。
【0099】
尚、上記した表面層加工用治具1及び表面層加工装置2を一の実施形態とする、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具及びそれを具備する車両用ホイール向け表面層加工装置は、鋼板を加工し市販の各部材と組み合わせて作製することが出来る。作製にあたっては、揺動条件及び処理対象である車両用ホイールの仕様に合わせて、各構成要素のサイズや材料や機械的強度(例えば回転軸の径や材料等)が適正になるように決定することが好ましい。
【実施例】
【0100】
以下、本発明について実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0101】
(実施例1)(1)鋳造材料としてAC4CH(日本工業規格)軽合金を採用し、低圧鋳造装置を使用し鋳造法によって成形して、20基の車両用ホイールを得た。そして、得られた車両用ホイールに対して、溶体化処理及び時効処理からなる熱処理を施した後、旋盤を用いて切削粗加工を施し鋳バリ等を除去した。
【0102】
(2)次に、図3〜図5に示される表面層加工装置を使用して本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を、常温において行った。具体的には、車両用ホイールのディスクのデザイン面に揺動容器を取り付けて閉空間を形成し、その閉空間へ加工材を投入し、これら車両用ホイール、揺動容器、加工材によって被揺動体を構成した。そして、この被揺動体を、表面層加工装置の揺動板の上に固定し、揺動させて、車両用ホイールのデザイン面の側に加工材を衝突させた。使用した加工材は、径がφ5mmの鋼球である。加工材の投入量は、閉空間の内容積に対し体積比で20%とした。揺動条件は、振動数が10Hz、揺れ幅が60mm、揺動時間は60秒である。
【0103】
(3)表面層の加工を終えた20基の車両用ホイールのデザイン面に照明をあて、目視検査を行い、微小鋳造欠陥の有無を検査した。結果を表1に示す。又、表面層の加工を終えた車両用ホイールのうちの1基のデザイン面の写真を、図11に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
(実施例2)本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を行うに際して、径がφ8mmの鋼球を、加工材として使用した以外は、実施例1と同様にして、(1)20基の車両用ホイールを鋳造法によって作製し、熱処理を施し、(2)本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を行い、(3)微小鋳造欠陥の有無を検査した。結果を表1に示す。又、表面層の加工を終えた車両用ホイールのうちの1基のデザイン面の写真を、図12に示す。
【0106】
(比較例1)本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、(1)20基の車両用ホイールを鋳造法によって作製し、熱処理を施し、(3)微小鋳造欠陥の有無を検査した。結果を表1に示す。又、鋳造法によって作製した(表面層の加工を施していない)車両用ホイールのうちの1基のデザイン面の写真を、図13に示す。
【0107】
(考察)表1に示される検査結果より、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を行うと、孔部及び突起部(微小鋳造欠陥)の発生数が激減することが確認出来た。従って、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法によれば、パテ埋めやペーパーがけあるいは旋盤による修正加工の負担を大きく軽減することが出来、車両用ホイールの生産効率を向上させることが可能である。
【0108】
又、図11〜図13に示されるように、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を施しても(図11及び図12を参照)、表面(デザイン面)の鋳肌感は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を施していない面(図13を参照)と殆ど変らないことがわかる。特に、加工材の径がφ5mmである実施例1では、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工方法を施していない比較例1との鋳肌感の差異は、目視で判断することは困難な程であった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具は、車両用ホイールである車両用ホイールの表面層に生じた微小鋳造欠陥を効率よく修復するための一手段として利用することが可能であり、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具によって、初めて微小鋳造欠陥の修復(表面層加工処理)を、量産工程の中の一工程として行うことが出来るようになる。特に、鋳肌のような面が保持された、欠陥のない、美しい鋳造品の車両用ホイールの製造工程に、表面層加工処理を適用する場合に、好適に利用することが出来る。
【0110】
本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置は、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具を有しており、それに組み込んだ車両用ホイールを上下方向に揺動をさせ、表面層加工処理を施す手段として、好適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、表面層加工用治具のうちの容器部材のみを示す斜視図である。
【図2A】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、天板部材を含む平面図である。
【図2B】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、図2AにおけるDD断面を表した断面図である(車両用ホイールが組み込まれている)。
【図3】本発明に係る車両用ホイール向け表面層加工装置の一の実施形態を示す上面図である。
【図4】図3に示される表面層加工装置のA矢視図(正面図)である(被揺動体が描かれている)。
【図5】図3に示される表面層加工装置のB矢視図(右側面図)である(振動抑制用錘は除かれている)。
【図6】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具に車両用ホイールを組み込んだ状態で表面層加工処理を行っている様子を表した部分断面図である。
【図7】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、鋳造後の車両用ホイールの表面及び表層の一部を表した断面図である。
【図8】本発明に係る車両用ホイールの表面層加工用治具の一の実施形態を示す図であり、表面層加工処理の作用を説明するための部分断面図である。
【図9】車両用ホイールの一例を示す斜視図である。
【図10】図9におけるCC断面を示す断面図である。
【図11】実施例における図面代替写真であり、表面層の加工を施した車両用ホイールのデザイン面の写真である。
【図12】実施例における図面代替写真であり、表面層の加工を施した車両用ホイールのデザイン面の写真である。
【図13】実施例における図面代替写真であり、表面層の加工を施していない車両用ホイールのデザイン面の写真である。
【符号の説明】
【0112】
1 表面層加工用治具、2 表面層加工装置、11 気孔、12 孔部、13 突起部、14 表層部、22 車両用ホイール、23 被揺動体、24 振動抑制用錘、25 加工材、26 閉空間、31 空気ばね、32 カウンターウエイト、33 台板、34,37 プーリー、35 ベルト、36 原動機、38,39 クランク、40 回転軸、41 コンロッド、42 揺動板、43a,43b,43c,43d リニア軸受、45 軸受、53 基台、61 容器部材、62 底板部、63,63a,63b 縁壁部、64 突起軸部、65 副突起軸部、66 ねじ穴、67a,67b,67c,67d 接続部、71 締付部材、81 天板部材、92 インナーリム、93 アウターリム、94 ディスク、94a,94b (車両用ホイールのディスクの)表面、95 ハブ穴、96 取付ボルト穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムとディスクとを有する車両用ホイールにおける前記ディスクの表面層を加工するために用いられる治具であって、
治具の基板である底板部、その底板部の上に円周状に配設された縁壁部、その円周状に配設された縁壁部の中心に位置して前記底板部の上に1つ配設された突起軸部、及びその突起軸部の周りに複数配設された副突起軸部、を有する容器部材と、
その容器部材における前記突起軸部の先端に配設された、前記車両用ホイールを前記容器部材に固定するための締付部材と、
前記容器部材における前記底板部及び前記縁壁部で囲われた空間に収容された、比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材と、を備える車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項2】
前記容器部材における前記突起軸部の先端に取り付けられた、円形の天板部材を、更に備える請求項1に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項3】
前記加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項1又は2に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項4】
車両用ホイールが軽合金製鋳造品である請求項1〜3の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項5】
加工対象である前記ディスクの表面層が切削面である場合において、前記加工材は、径がφ5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項4に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項6】
加工対象である前記ディスクの表面層が鋳肌面である場合において、前記加工材は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項4に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項7】
加工対象である前記ディスクの表面層が切削面及び鋳肌面である場合において、前記加工材は、径がφ5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項4に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工用治具と、その表面層加工用治具を上下方向に揺動をさせる揺動手段と、を具備する車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項9】
前記揺動手段が、原動機と、その原動機に接続された回転軸と、その回転軸に設けられたクランクと、そのクランクとコンロッドを介して接続される揺動板と、その揺動板に取り付けられその揺動板を上下に往復運動させる2以上の直線運動案内器と、を有する揺動機構を具備し、
前記原動機の与えた回転運動が、前記回転軸に備わる前記クランクによって上下運動に変換され、前記クランクと接続された揺動板が、前記直線運動案内器に沿って上下に往復運動をすることにより、前記揺動板に固定される前記表面層加工用治具を上下方向に揺動をさせる請求項8に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項10】
前記回転軸に更に他のクランクが設けられ、そのクランクにカウンターウエイトが取り付けられている請求項9に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項11】
前記揺動機構が床の上に載置され、その床との間に空気ばねが備わっている請求項9又は10に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項12】
前記揺動機構の両側であって前記空気ばねの真上に、振動抑制用錘が備わっている請求項11に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項13】
前記揺動にかかる振動数が、3Hz以上30Hz以下である請求項8〜12の何れか一項に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項14】
前記揺動にかかる揺動時間が、10秒以上3分以下である請求項8〜13の何れか一項に記載の車両用ホイール向け表面層加工装置。
【請求項15】
車両用ホイールの表面に閉空間を形成し、その閉空間に比重が2以上で径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した前記閉空間が表面に形成された前記車両用ホイールを、上下方向に揺動をさせて、前記加工材を前記車両用ホイールの表面に衝突をさせる車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項16】
前記閉空間が、平面を有する揺動容器のその平面と、前記車両用ホイールの表面と、を含む面によって、次に示す(1)又は(2)の何れかの態様で形成される請求項15に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
(1)揺動容器の平面と車両用ホイールの表面とを含む面で閉空間を形成するように、平面を有する揺動容器に車両用ホイールを収容する。
(2)車両用ホイールの表面に平面を有する揺動容器を固定することによって、揺動容器の平面と車両用ホイールの表面とを含む面で閉空間を形成する。
【請求項17】
前記加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項15又は16に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項18】
車両用ホイールが軽合金製鋳造品である請求項15〜17の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項19】
加工対象である前記車両用ホイールの表面が切削面である場合において、前記加工材は、径がφ5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項18に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項20】
加工対象である前記車両用ホイールの表面が鋳肌面である場合において、前記加工材は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項18に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項21】
加工対象である前記車両用ホイールの表面が切削面及び鋳肌面である場合において、前記加工材は、径がφ5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の5〜30体積%を占める請求項18に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項22】
前記加工材が、少なくとも金属材料又はセラミック材料からなるものを含む請求項15〜21の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項23】
前記加工材が、少なくとも鋼球又はジルコニア球を含む請求項15〜22の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項24】
前記揺動にかかる振動数が、3Hz以上30Hz以下である請求項15〜23の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項25】
前記揺動にかかる揺動時間が、10秒以上3分以下である請求項15〜24の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法。
【請求項26】
鋳造工程、熱処理工程、及び請求項15〜25の何れか一項に記載の車両用ホイールの表面層加工方法を用いた冷間加工工程又は熱間加工工程、を有する車両用ホイールの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−221954(P2008−221954A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61048(P2007−61048)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000116873)旭テック株式会社 (144)
【Fターム(参考)】