説明

車両用内装部品

【課題】裏当てなどを不要としながら合成樹脂製の表皮材に形成したステッチラインの縫糸のほつれを有効に抑制できるようにする。
【解決手段】表皮材2に形成したステッチライン3の両端部で縫糸をステッチライン3の形成方向と異なる方向で返し縫いすることでほつれ止め部4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材にパーツの縫い合わせを擬似的に再現したステッチラインを形成することで本皮を使用しているような外観を持たせて高級感を演出した車両用内装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内には、インストゥルメントパネルやセンターコンソール、ドアパネルなどの各種車両用内装部品が取り付けられている。これらの車両用内装部品は、質感向上を図るために、所定形状に成形された基材の表面に表皮材を被着した構造とされているものが多い。ここで、車両用内装部品の表皮材としては本皮が最も高級感があるとされているが、本皮は伸縮性に劣るために、車両用内装部品の表皮材として用いるには、複数のパーツに裁断してそれらを縫合することで基材の形状に合わせる必要があり、製造コストが嵩む。また、本皮は素材自体が高価なため、車両用内装部品の表皮材として本皮を用いると、コストアップが避けられない。
【0003】
このため、近年では、車両用内装部品の表皮材として、成形性に優れ、且つ、比較的安価に製造可能な合成樹脂製の表皮材を用いることが主流となっている。また、その合成樹脂製の表皮材の表面に絞模様を形成したり、基材のコーナー部などに対応する位置にパーツの縫い合わせを擬似的に再現したステッチラインを形成したりすることで、本皮を使用しているような外観を持たせて高級感を演出する試みもなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特公平7−4819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用内装部品の表皮材にステッチラインを形成する場合、ステッチラインの縫糸がほつれることを防止するために、車両用内装部品を車室内に取り付けたときに見えなくなる位置で縫糸を返し縫いして、ほつれ止め部を形成するようにしている。ここで、ステッチラインのほつれ止め部は、一般的に、衣服などの縫製の場合と同様、ステッチラインの両端部で縫糸をステッチライン上に重なるように返し縫いすることで形成している。
【0005】
しかしながら、合成樹脂製の表皮材に対して縫製を行う場合には、縫針によって形成される縫製孔がその形を維持したまま残るため、ステッチライン上に重なるように縫糸を返し縫いすると、縫製孔が重なって更に大きな孔を形成したり、表皮材に部分的な亀裂を生じさせたりして、ほつれ止めとして有効に機能しなくなる場合がある。このような問題への解決策として、これまでは、表皮材の裏面に布などの裏当てを貼り付け、返し縫いした部分で表皮材に縫製孔の拡大や亀裂などが生じても縫糸が裏当てに係止されるようにすることで、縫糸のほつれを防止するようにしていた。しかしながら、この方法では、裏当てが必要とされる分、更なるコストダウンを図ることが難しくなる。つまり、車両用内装部品を更に低コストで製造するためには、表皮材の裏当てなどは除去して構造をできるだけシンプルにすることが望まれるが、表皮材の裏当てを除去するとステッチラインのほつれ止めが有効に機能しなくなるため裏当てを除去することができず、このことが更なるコストダウンを図る上で障害となっていた。
【0006】
本発明は、以上のような問題を解消すべく創案されたものであって、裏当てなどを不要としながら合成樹脂製の表皮材に形成したステッチラインの縫糸のほつれを有効に抑制できるようにして、見栄えが良く高品質な車両用内装部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用内装部品は、表皮材に縫糸を縫製加工することで形成したステッチラインの両端部に、当該ステッチラインの形成方向と異なる方向で縫糸が返し縫いされてなるほつれ止め部を形成している。このほつれ止め部は、縫糸がステッチライン上に重ならないように返し縫いされるため縫製孔が重なることがなく、表皮材に縫製孔の拡大や亀裂などを生じさせない。したがって、表皮材に裏当てなどが貼付されていなくても、ステッチラインの縫糸のほつれを有効に抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用内装部品によれば、表皮材に裏当てなどを貼付することなくステッチラインの縫糸のほつれが有効に抑制されるので、コストダウンを実現しながら、見栄えの低下を抑え、高い品質を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明を適用した車両用内装部品の一部を拡大して示す斜視図である。この車両用内装部品は、質感向上のために、所定形状に成形された基材1の表面に表皮材2を被着した構造とされている。表皮材2は、例えば、パウダースラッシュ成形(粉体回転成形)、Rim成形、真空成形(凸・凹引き成形)、射出成形、射出プレス成形、射出圧縮成形、ブロー成形、ウレタンスプレー成形、押し出しプレス成形、熱プレス成形、革絞プレス成形など、既知の樹脂成形技術により基材1の表面形状に倣う形に成形された合成樹脂製の部材であり、基材1の表面に被着されている。
【0011】
表皮材2の表面は、あたかも本皮を使用しているような高級感を演出するために、本皮の表面模様に似せた絞模様に加工されている。この表皮材2表面の絞模様は、例えば、上述した各種樹脂成形で使用する成形型の表面を絞模様を反転させた表面形状に加工しておくことにより、表皮材2の成形時に同時に加工することが可能である。
【0012】
また、表皮材2には、本皮使用の場合のパーツの縫い合わせを擬似的に再現するために、縫糸を用いた縫製加工によりステッチライン3が形成されている。つまり、表皮材に本皮を使用する場合には、上述したように、予備裁断された複数のパーツの端縁同士を縫合して繋ぎ合わせ、基材の形状に倣った一体の表皮材とする必要があるが、この縫合によって表皮材の表面に形成されるステッチラインが視覚的なアクセントとなって、本皮を使用していることの高級感を与えている。本実施形態の車両用内装部品では、表皮材2自体は上述した樹脂成形技術により単一成形部材として作製されているが、この単一成形部材の表皮材2にステッチライン3を形成して複数パーツを縫い合わせているように見せかけることで、本皮使用の場合と同様の外観を持たせて高級感を演出している。
【0013】
本実施形態の車両用内装部品において、表皮材2のステッチライン3は縫糸を縫製加工することで形成されているため、縫糸のほつれを防止して見栄えを損わないようにするために、ステッチライン3の両端部、すなわち、車両用内装部品を車室内に取り付けたときに見えなくなる表皮材2のフランジ部分2aで縫製が開始される位置と縫製が終了する位置とに、ほつれ止めを形成する必要がある。ここで、一般的なステッチ縫製では、ステッチラインの両端部で縫糸をステッチライン上に重なるように返し縫いしてほつれ止めとしているが、合成樹脂製の表皮材2にこのような手法でほつれ止めを形成すると、縫針による縫製孔が重なって大きな孔が形成されたり、表皮材2に部分的な亀裂を生じさせたりして、ほつれ止めとして有効に機能しなくなる場合がある。
【0014】
そこで、本実施形態の車両用内装部品では、図2に示すように、表皮材2のフランジ部分2aでステッチライン3の縫糸をステッチライン3の形成方向とは異なる方向に返し縫いして、この部分をほつれ止め部4としている。ここで、ステッチライン3の縫糸を返し縫いする方向は、ステッチライン3の形成方向と重ならない方向であれば特に限定されないが、ほつれ止めの効果を高めるためには、折り返し角度θが例えば90°以下の鋭角になるように縫糸を返し縫いすることが望ましい。また、表皮材2のフランジ部分2aが延びる方向に合わせて縫糸を返し縫いすることで、返し縫いの距離を長く取れるようにすることも、ほつれ止めの効果を高める上で有効である。なお、図2は図1のA部を拡大して示した図であり、ステッチライン3の一方の端部に形成されたほつれ止め部4を示しているが、ステッチライン3の他方の端部にも同様のほつれ止め部4が形成されている。なお、本実施形態では、ステッチライン3を2本針のミシンで縫製しており、一度の縫製で2本の平行なステッチライン3が同時に形成され、ほつれ止め部4も同方向に折り返し形成されている。
【0015】
また、ステッチ縫製を行う作業者に対して返し縫いの方向の明確な指標を与え、ほつれ止め部4を理想的なかたちで簡便に形成できるようにするために、例えば図3に示すように、表皮材2のフランジ部2aにほつれ止め部4の形成をガイドする凹部5を予め形成しておき、この凹部5に沿って縫糸を返し縫いさせてほつれ止め部4を形成させるようにすることも有効である。なお、図3は図2におけるB−B線断面図である。このようなほつれ止め部4の形成をガイドする凹部5は、例えば、上述した表皮材2を成形する際の各種樹脂成形で使用する成形型の所定箇所、具体的には表皮材2のフランジ部2aにおけるほつれ止め部4形成予定位置に対応した箇所に突起などを形成しておくことにより、表皮材2の成形時に同時に形成することが可能である。
【0016】
また、同様に、ステッチ縫製を行う作業者に対して返し縫いの方向の明確な指標を与えて、ほつれ止め部4を理想的なかたちで簡便に形成できるようにするために、表皮材2のフランジ部2aにおけるほつれ止め部4形成予定位置の表面模様を、上述した本皮の表面模様に似せた絞模様とは異なる模様に加工しておき、この模様に沿って縫糸を返し縫いさせてほつれ止め部4を形成させるようにすることも有効である。このようなほつれ止め部4の形成をガイドする模様は、例えば、上述した表皮材2を成形する際の各種樹脂成形で使用する成形型の所定箇所、具体的には表皮材2のフランジ部2aにおけるほつれ止め部4形成位置に対応した箇所の表面をガイド模様を反転させた表面形状に加工しておくことにより、表皮材2の成形時に同時に加工することが可能である。
【0017】
なお、以上のようなほつれ止め部4の形成をガイドする凹部5やガイド模様を形成する成形型、すなわち表皮材2の成形の最の各種樹脂成形で使用する成形型の材質としては、金属製のもの、セラミック製のもの、樹脂製のものの何れもが採用可能である。
【0018】
以上説明したように、本実施形態の車両用内装部品では、表皮材2に形成したステッチライン3の両端部で縫糸をステッチライン3の形成方向と異なる方向で返し縫いすることでほつれ止め部4を形成するようにしているので、縫糸をステッチラインと重なるように折り返してほつれ止めとした場合に懸念される問題、つまり、縫製孔が重なって大きな孔が形成されたり、表皮材2に部分的な亀裂を生じさせたりして、ほつれ止め部が有効に機能しなくなるといった問題を未然に防止することができる。また、ほつれ止め部を機能させるために表皮材2の裏面に布などの裏当てを貼付する必要もなく、裏当てを除去して表皮材2をシンプルな構造とすることができる。したがって、本実施形態の車両用内装部品によれば、コストダウンを実現しながら、ステッチライン3の縫糸のほつれによる見栄えの低下を抑えて高い品質を維持することができる。
【0019】
また、縫糸をステッチラインと重なるように折り返してほつれ止めとした場合には、縫糸の重なり部分が盛り上がって、車両用内装部品を車室内に取り付ける際に隙間や段差を生じさせ、建て付け品質の低下を招くという問題も懸念されるが、本実施形態の車両用内装部品では、縫糸をステッチライン3の形成方向と異なる方向に返し縫いしてほつれ止め部4を形成しており、縫糸の重なりが生じないので、建て付け品質の低下といった問題も有効に回避することができる。
【0020】
なお、本実施形態では、合成樹脂製の表皮材2にステッチライン3を形成することを前提として説明したが、表皮材2は合成樹脂製のものに限定されることはなく、例えば、本皮製の表皮材2にステッチライン3を形成する場合のほつれ止めに関しても、本発明は有効に適用可能である。また、本実施形態では、ステッチライン3を2本針のミシンで縫製した、所謂ダブルステッチのステッチラインとして説明したが、勿論、シングルステッチのステッチラインのほつれ止めに関しても、本発明は有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した車両用内装部品の一部を拡大して示す斜視図である。
【図2】図1におけるA部を更に拡大して示す平面図である。
【図3】図2におけるB−B線断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 基材
2 表皮材
2a フランジ部
3 ステッチライン
4 ほつれ止め部
5 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材(2)にパーツの縫い合わせを擬似的に再現したステッチライン(3)が形成されてなる車両用内装部品であって、
前記ステッチライン(3)の両端部に、当該ステッチライン(3)の形成方向と異なる方向で縫糸が返し縫いされてなるほつれ止め部(4)が形成されていることを特徴とする車両用内装部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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