説明

車両用冷却装置

【課題】車両の運転状態に応じて一方の熱交換器の導入路を通過する走行風を減少させることで、他方の熱交換器の冷却性能を向上させることが可能な車両用冷却装置を提供する。
【解決手段】インタークーラ15に供給される走行風を増量すると判定されたとき、所謂ラジエータ4の冷却よりもインタークーラ15の冷却が優先される場合、ラジエータ4及びファンシュラウド5を通過する走行風量を減少させるため、エンジンルーム1内の圧力を、ラジエータ4及びファンシュラウド5を通過する走行風量を減少させる前に比べて低くできることから、この圧力差によってインタークーラダクト19に導入される走行風量を増加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの熱交換器を有する車両用冷却装置に関し、特に、車両の運転状態に応じて導入路を通過する走行風の通過量を調整可能にするものである。
【0002】
一般に、ラジエータによる冷却は車両の走行風を利用して行われるが、エンジンの冷却水温が低い時には過冷却になる可能性があるため、ラジエータグリルに開閉可能なグリルシャッタを設け、冷却水温が低い時にはグリルシャッタを閉鎖し、過冷却及び暖房機能の低下を防止するものが知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、近年、過給機が搭載された車両においては、この過給機に付随してインタークーラが装備されている。インタークーラは、ラジエータと同様に、車両の走行に伴って発生する走行風を利用して熱交換を行うため、走行風を効果的に活用する必要がある。特許文献2は、走行風に対して、ラジエータとインタークーラとを並列配置すると共に、両者の間に風量割合を調節する風量調節ガイドを設置したものが提案されている。
【0004】
特許文献2では、エンジン冷却水温が上昇したときは、ラジエータ側に流れる走行風量をそれ以前に比べて増大させると共に、高速走行時には、インタークーラ側の走行風量を増大させることで、導入する走行風を効果的に分配できる。
【0005】
【特許文献1】実開昭58−25226号公報
【特許文献2】特開2005−112186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インタークーラは、ボンネットの高さを低くする観点から、エンジンの後方に当たるトランスミッション上方に配置し、ボンネットにインタークーラ導入路開口を設けることが一般的に行われている。
【0007】
特許文献2では、インタークーラとラジエータとが並列配置であり、走行風の導入開口は隣接配置される、所謂開口領域は1つであるため風量調節ガイドを支点中心に揺動制御することが可能である。しかしながら、通常、インタークーラはエンジン後方に配置され、走行風の導入路開口はボンネット前方に設置されるのに対し、ラジエータの開口はエンジン前方のラジエータグリルの領域に配置され、走行風の導入路開口はグリル後方に位置しているため、開口領域の比率を単一の風量調節ガイドで増減することは困難である。
【0008】
本発明の目的は、異なる走行風導入路を備えた2つの熱換器を有する車両用冷却装置において、車両の運転状態に応じて一方の熱交換器の導入路を通過する走行風を減少させることで、他方の熱交換器の冷却性能を向上させることが可能な車両用冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、第1熱交換器と、この第1熱交換器に走行風を導入する第1導入路と、第2熱交換器と、この第2熱交換器に走行風を導入する第2導入路とを有し、前記第1,第2の熱交換器と熱交換を行った走行風をエンジンルーム内に放出する車両用冷却装置において、前記第1導入路を通過する走行風量を調整する風量調節手段と、車両運転状態に基づき前記第2熱交換器に供給される走行風を増量するか否か判定する増量判定手段とを有し、前記第2熱交換器に供給される走行風を増量すると判定されたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させることを特徴とする。
【0010】
請求項1の発明では、増量判定手段が第2熱交換器に供給される走行風を増量する必要があると判定したとき、第1導入路を通過する走行風量を減少させるため、エンジンルーム内の圧力を、第1導入路を通過する走行風量を減少させる前に比べて低くすることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1熱交換器はエンジン前方に配置されたラジエータであり、前記第2熱交換器はエンジン上方に配置されたインタークーラであることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2に記載の発明において、車両が所定車速よりも低く且つ加速操作が行われたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させることにより、インタークーラの開口部周りの走行風による圧力を走行風量を減少させる前に比べて低くすることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2または3に記載の発明において、前記風量調節手段は、ラジエータの上方領域を通過する走行風を調整することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項3に記載の発明において、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を有し、冷却水温度が所定値以上のとき、前記風量調節手段による走行風量減少を禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、第1導入路を通過する走行風量を調整する風量調節手段と、車両運転状態に基づき第2熱交換器に供給される走行風を増量するか否か判定する増量判定手段とを有し、前記第2熱交換器に供給される走行風を増量すると判定されたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させるため、車両の運転状態に応じて第1の熱交換器の導入路を通過する走行風を減少させることで、第2の熱交換器の冷却性能を向上させることができる。
【0016】
つまり、エンジンルーム内の圧力を、第1導入路を通過する走行風量を減少させる前に比べて低くできるため、別途電動ファン等の走行風導入機構を設けることなく、圧力差によって第2導入路に導入される走行風量を増加することができる。しかも、エンジンルーム内の圧力を利用するため、配置位置や導入路構造に拘らず、元々の構造を利用して熱交換器の冷却性能を向上できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、前記第1熱交換器はエンジン前方に配置されたラジエータであり、前記第2熱交換器はエンジン上方に配置されたインタークーラであるため、インタークーラによる吸気の冷却効率が高まり、出力が向上する。
【0018】
請求項3の発明によれば、車両が所定車速よりも低く且つ加速操作が行われたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させることにより、インタークーラの開口部周りの走行風による圧力を走行風量を減少させる前に比べて低くするため、ラジエータの冷却効果を阻害せずに、また、別途走行風導入機構を設けることなく、加速性能が向上できる。
【0019】
請求項4の発明によれば、前記風量調節手段は、ラジエータ上方を通過する走行風を調整するため、ラジエータの上方領域を通過する走行風を減少できることから、エンジン上方に設けたインタークーラの開口部周りの圧力を走行風量を減少させる前に比べて、更に低くでき、加速性能が向上できる。
【0020】
請求項5の発明によれば、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を有し、冷却水温度が所定値以上のとき、前記風量調節手段による走行風量減少を禁止するため、エンジンの冷却水上昇によるオーバーヒートを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しつつ説明する。図1及び図2は、本発明の一実施例に係る冷却装置を有するエンジンルーム内の構造を示し、図1は各機器の配置を示す正面図、図2はその側面図を示す。
【0023】
図1及び図2に示すように、エンジンルーム1内には、エンジン2、このエンジン2に連結されたトランスミッション3が設置され、これらの前方には、ラジエータ4が設けられている。このラジエータ4の後方には、ラジエータ強制冷却用の図示しない電動ファン及びこれを囲むファンシュラウド5が設けられており、このファンシュラウド5は正面視放射状の取付部材によってラジエータ4に固定されている。尚、ラジエータ4及びファンシュラウド5が第1経路に相当する。
【0024】
このファンシュラウド5の上方にはサブタンク6が設けられている。このサブタンク6は、適当な量の冷却水を常時蓄え、図示しないラジエータタンクに接続され、ラジエータタンク内の冷却水体積が温度に応じて変化した場合等にラジエータタンクから冷却水を取り込み、或いはラジエータタンクに冷却水を補充してラジエータタンク内の状態を一定に保つものである。サブタンク6の前部にはブラケットが延設されており、ラジエータ4をアッパシュラウド7に固定している。
【0025】
ラジエータ4の前方で、車両の前端部には、スリット状で走行風を前後に連通可能なラジエータグリル8が設置されている。ラジエータグリル8の上側領域には、ラジエータ4の上方領域に対応して、風量調節手段9が一体的に設けられている。風量調節手段9は、複数の板状シャッタ部材10と、このシャッタ部材10を開口位置と閉鎖位置とに回動自在に軸支する複数の回転軸11と、シャッタ部材10をリンク部材12を介して回動作動させるアクチュエータ13とから構成する。
【0026】
サブタンク6の後方には、エアクリーナ14が配置され、エアクリーナ14の下流は、図示しないスロットル弁、サージタンク、過給機及びインタークーラ15等を介してエンジン2に接続されている。エアクリーナ14の上流は、マウント部材16によって車体に支持されるフレッシュエアダクト17に接続されている。
【0027】
車体略中央部分のサブタンク6上方の位置、所謂ボンネット18裏面中央部分には、車両前後方向に延びる角筒形状のインタークーラダクト19が配置される。インタークーラダクト19は、インタークーラ15の図示しない熱交換部に走行風を吸気冷却用として導くものであり、ボンネット18の裏面に設けられた天壁20と、側壁21と、底壁22と、導入開口23と、排出開口24(インタークーラの開口部)とから構成される。尚、インタークーラダクト19が第2経路に相当する。
【0028】
導入開口23の前方には、アッパシュラウド7を利用して案内部25が形成されている。この案内部25は、前方に大きな開口面積を確保して走行風をインタークーラダクト19内に積極的に導くものであり、ボンネット18の裏面に設けられた天壁26とアッパシュラウド7とによって構成される。
【0029】
排出開口24は、エンジン2上方に位置し、エンジン2上方からダッシュパネル27に向けて熱交換を終えた走行風が排出されるように配置されている。つまり、ファンシュラウド5を通過した走行風は、ラジエータ4で熱交換を行った後、エンジン2の側方及び上方を通過し、エンジン2とダッシュパネル27とで構成される空間で排出開口24から排出された走行風と合流するよう構成されている。
【0030】
次に、図3及び図4に基づいて、本実施例に係る冷却装置の制御系について説明する。
図3のブロックに示すように、エンジン2のコントロールユニット28は、エンジン2の冷却水温を検出する冷却水温センサ29と、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ30と、車両の走行速度を検出する車速センサ31から夫々の検出信号が入力されるよう構成している。
【0031】
コントロールユニット28は、車両が所定車速、例えば時速80kmよりも低く且つ加速操作が行われたとき、インタークーラ15に供給される走行風を増量判定する増量判定部32(増量判定手段)を有している。増量判定部32が増量判定すると、コントロールユニット28がアクチュエータ13に作動指令を行い、風量調節手段9を閉弁作動させる。つまり、アクチュエータ13がリンク部材12を作動し、シャッタ部材10を閉作動することで、ラジエータグリル8を通過する走行風を減少することになり、結果的に、ラジエータ4及びファンシュラウド5を通過する走行風(A1)はシャッタ部材10の開作動時の走行風(A1+A2)に比べて減少している。
【0032】
また、コントロールユニット28は、オーバーヒート判定及び高速走行判定を行っている。図4に示すように、オーバーヒート判定では、エンジン2の冷却水温が所定温度、例えば95℃以上になったとき、強制的に風量調節手段9を開弁作動するよう構成している。高速走行判定では、車両が所定車速、例えば時速80km以上のとき、強制的に風量調節手段9を開弁作動するよう構成している。尚、オーバーヒート判定及び高速走行判定による強制開弁制御は、増量判定による風量調節手段9の閉弁作動に優先して行われる。
【0033】
次に、図5のフローチャートに基づき、本実施例に係る冷却装置の制御処理について説明する。尚Si(i=1,2…)は各ステップを示す。
まず、各センサから車速Sv、冷却水温度Tw、アクセル開度θを読み込み(S1)、S2に移行する。S2の判定の結果、冷却水温度がt1、例えば60℃以下であれば、暖機中であり、風量調節手段9を閉弁作動し(S3)、リターンする。
【0034】
S2の判定の結果、Noの場合、冷却水温度Twがt2、例えば95℃以上か判定する(S4)。S4の判定の結果、Noの場合、車速Svがs1、例えば時速80km以上か判定する(S5)。S5の判定の結果、Noの場合、乗員の加速要求があるか判定する(S6)。S6の判定の結果、Yesの場合、S3に移行する。尚、乗員の加速要求はアクセル開度θが所定開度θ1、例えば50%以上で判定しているが、アクセル開度θの変化率と併用することも可能である。
【0035】
S4の判定の結果、Yesの場合、オーバーヒートを回避するため強制的に風量調節手段9を開弁作動する(S7)。S5の判定の結果、Yesの場合、高車速で走行中であり、走行性能を維持する必要があることから、冷却水温の上昇を抑えるため、強制的に風量調節手段9を開弁作動する(S7)。S6の判定の結果、Noの場合、暖機が完了し、低車速で且つ加速要求がないため、ラジエータ4の冷却性能を優先して強制的に風量調節手段9を開弁作動し(S7)、リターンする。
【0036】
次に、本実施例に係る冷却装置の作用、効果を説明する。
インタークーラ15に供給される走行風を増量すると判定されたとき、所謂ラジエータ4の冷却よりもインタークーラ15の冷却が優先される場合、ラジエータ4及びファンシュラウド5を通過する走行風量を減少させるため、エンジンルーム1内の圧力を、ラジエータ4及びファンシュラウド5を通過する走行風量を減少させる前に比べて低くできることから、この圧力差によってインタークーラダクト19に導入される走行風量を増加することができる。
【0037】
また、車両が所定車速よりも低く且つ加速操作が行われたとき、インタークーラ15の排出開口24周りの走行風による圧力を走行風量を減少させる前に比べて低くするため、ラジエータ4の冷却効果を阻害せずに加速性能が向上できる。
【0038】
排出開口24が面している領域は、エンジン2とダッシュパネル27とボンネット18と図示しないアンダーカバーとて覆われた空間であるため、隙間が少なく、エンジンルーム1に進入した空気が滞留しやすい状態にある。特に、車両走行中は、ファンシュラウド5を通過した走行風が、排出開口24からの排出空気の進行を阻害する抵抗となる。風量調節手段9が、ラジエータ4及びファンシュラウド5の上方を通過する走行風を減少するため、エンジン上方に設けた排出開口24からの排出空気の抵抗を減少でき、エンジンルーム1内の圧力低下と合わせた相乗効果により、更に、加速性能が向上できる。
【0039】
更に、冷却水温度が所定値以上のとき、風量調節手段9による走行風量減少を禁止するため、エンジン2の冷却水上昇によるオーバーヒートを防止できる。しかも、エンジンルーム1内の開閉による圧力制御のため、機器の配置位置や走行風の導入路構造に拘らず、元々の構造を利用してインタークーラ15の冷却性能を向上できる。
【0040】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を付加して実施可能である。風量調節手段9は、本実施例の構造に限るものではなく、走行風を遮断できる機構であればよく、また、増量判定の基準については、加速要求に限られず、ラジエータの要求が低い場合を基準とかることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例に係るエンジンルーム内の各機器の配置を示す正面図である。
【図2】本発明の実施例に係るエンジンルーム内の各機器の配置を示す側面図である。
【図3】風量調節手段が閉作動したときの冷却装置の制御ブロック図である。
【図4】風量調節手段が開作動したときの冷却装置の制御ブロック図である。
【図5】本発明の実施例に係る冷却装置の制御フローである。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジンルーム
2 エンジン
4 ラジエータ
5 ファンシュラウド
9 風量調節手段
15 インタークーラ
19 インタークーラダクト
24 (インタークーラ)排出開口
29 冷却水温センサ
30 アクセル開度センサ
31 車速センサ
32 増量判定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱交換器と、この第1熱交換器に走行風を導入する第1導入路と、第2熱交換器と、この第2熱交換器に走行風を導入する第2導入路とを有し、前記第1,第2の熱交換器と熱交換を行った走行風をエンジンルーム内に放出する車両用冷却装置において、
前記第1導入路を通過する走行風量を調整する風量調節手段と、
車両運転状態に基づき前記第2熱交換器に供給される走行風を増量するか否か判定する増量判定手段とを有し、
前記第2熱交換器に供給される走行風を増量すると判定されたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させることを特徴とする車両用冷却装置。
【請求項2】
前記第1熱交換器はエンジン前方に配置されたラジエータであり、前記第2熱交換器はエンジン上方に配置されたインタークーラであることを特徴とする請求項1に記載の車両用冷却装置。
【請求項3】
車両が所定車速よりも低く且つ加速操作が行われたとき、前記第1導入路を通過する走行風量を減少させることにより、インタークーラの開口部周りの走行風による圧力を走行風量を減少させる前に比べて低くすることを特徴とする請求項2に記載の車両用冷却装置。
【請求項4】
前記風量調節手段は、ラジエータの上方領域を通過する走行風を調整することを特徴とする請求項2または3に記載の車両用冷却装置。
【請求項5】
エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段を有し、
冷却水温度が所定値以上のとき、前記風量調節手段による走行風量減少を禁止することを特徴とする請求項3に記載の車両用冷却装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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