説明

車両用制動制御装置

【課題】車両用制動制御装置において、コストの増加を抑制すると共に制動操作フィーリングの向上を図る。
【解決手段】ブレーキペダル11の操作により発生した作動油の圧力であるマスタシリンダ圧力を出力可能なマスタシリンダ13と、マスタシリンダ13とは無関係に作動油を加圧することで発生した加圧圧力を出力可能な油圧ポンプ51,52と、車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力をホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRに出力するECU101とを設けて構成し、ブレーキ踏力を検出する踏力センサ14bを設け、ECU101は、踏力センサ14bが所定踏力を検出したときに油圧ポンプ51,52を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作部材の操作により発生したマスタシリンダ圧力と、作動流体を加圧することで発生した加圧圧力とを制動力として出力可能な車両用制動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、走行中の車両を制動可能な制動装置を有しており、この制動装置は、ドライバがブレーキペダルを踏み込んだときに、制御部がその踏み込み量や踏み込み力に応じて油圧を制御し、この油圧により作動して制動力を発生させる。この車両用制動装置は、ブレーキペダルへの踏み込み量や踏み込み力により制動力を発生させるが、従来、助勢装置として、バキュームブースタやポンプが設けられている。従って、車両用制動装置は、これらの助勢装置を作動させることにより、制動時にドライバが操作するブレーキペダルへの踏力を軽減させている。
【0003】
ところで、車両用制動装置では、ブレーキペダルの踏み込みにより発生した油圧によりホイールシリンダが作動し、ブレーキパッドがディスクロータを押圧して制動力が発生する。この場合、ブレーキパッドとディスクロータとの間には、所定隙間が確保されており、ブレーキペダルの踏み込みにより油圧が発生してから、所定時間の経過後にブレーキパッドがディスクロータに接触して制動力が発生する。即ち、ブレーキペダルには、ドライバがブレーキペダルを踏み込んでから制動力が発生するまでの間に、アイドルストロークが存在することとなり、このアイドルストロークがドライバの操作フィーリングを悪化させている。
【0004】
そこで、ドライバにおける制動要求を推定し、ブレーキペダルが踏み込まれる前にホイールシリンダに所定の油圧を供給し、ブレーキパッドをディスクロータに接近させることで、アイドルストロークを減少させる制御が提案されている。
【0005】
例えば、下記特許文献1に記載されたブレーキ装置では、マスタシリンダとホイールシリンダとを連通する液圧導入経路を設け、初期作動装置が、ブレーキ開始時にホイールシリンダに所定量のブレーキ液を出力するようにしている。また、下記特許文献2に記載された車両用ブレーキ制御装置では、ブレーキペダルが無効ストローク分踏み込まれたときから、ポンプ用のモータの回転数をジャンピングに必要な分のブレーキ液が吐出できるような高回転数に設定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−061337号公報
【特許文献2】特開2007−276683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1のブレーキ装置にあっては、初期作動装置としてのアキュムレータや油圧配管、電磁バルブなどが必要となり、コストが増加してしまう。また、特許文献2の車両用ブレーキ制御装置にあっては、事前にポンプ用のモータの回転数を高回転数に設定することで、早期にジャンピングに必要なブレーキ液圧を確保することができるものの、ホイールシリンダ圧を検知してから制御するため、アイドルストロークを維持することができない。また、ジャンピング相当の油圧を維持し続けるため、油圧系の開閉弁の耐久性を確保することが必要となり、高コスト化を招いてしまう。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、コストの増加を抑制すると共に制動操作フィーリングの向上を図る車両用制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動制御装置は、ドライバが制動操作する操作部材と、該操作部材の操作により発生した作動流体の圧力であるマスタシリンダ圧力を出力可能なマスタシリンダと、該マスタシリンダとは無関係に作動流体を加圧することで発生した加圧圧力を出力可能な加圧手段と、車輪に制動力を作用させるホイールシリンダと、車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力を前記ホイールシリンダに出力する制動力制御手段と、を備える車両用制動制御装置において、前記操作部材の操作を検出する操作検出手段を設け、前記制動力制御手段は、前記操作検出手段が前記操作部材の操作を検出したときに前記加圧手段を作動する、ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の車両用制動制御装置では、前記操作検出手段は、前記操作部材の操作力を検出する操作力検出センサであり、前記制動力制御手段は、該操作力検出センサが検出した操作力が予め設定された所定操作力を超えると前記加圧手段を作動することを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用制動制御装置では、前記所定操作力とは、前記操作部材の操作が開始されてから前記マスタシリンダがマスタシリンダ圧力を出力する直前における前記操作部材の操作力であることを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用制動制御装置では、前記操作部材の制動操作に応じて前記マスタシリンダへの入力を助勢する助勢手段を有し、前記所定操作力とは、前記助勢手段が作動する直前における前記操作部材の操作力であることを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用制動制御装置では、前記制動力制御手段が前記加圧手段を作動するとき、該加圧手段による加圧圧力の上限値が設定されることを特徴としている。
【0014】
本発明の車両用制動制御装置では、前記マスタシリンダから出力されるマスタシリンダ圧力と前記加圧手段により加圧される加圧圧力の合計圧力が予め設定された所定圧力以上となったら、前記制動力制御手段は前記加圧手段の作動を停止することを特徴としている。
【0015】
本発明の車両用制動制御装置では、前記所定圧力とは、ブレーキパッドが回転部材に接触して所定の制動力が発生したときのマスタシリンダ圧力であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両用制動制御装置によれば、制動力制御手段が、車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力をホイールシリンダに出力すると共に、操作部材の操作を検出したときに加圧手段を作動している。従って、操作部材が操作されたら、加圧圧力により作動流体を加圧して出力することで、アイドルストロークを低減することとなり、コストの増加を抑制することができると共に、制動操作フィーリングの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る車両用制動制御装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御を表すフローチャートである。
【図3】図3は、ブレーキ踏力に対するペダルストロークとマスタシリンダ圧力とホイールシリンダ圧力を表すグラフである。
【図4】図4は、ペダルストロークに対するホイールシリンダ圧力を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る車両用制動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係る車両用制動制御装置を表す概略構成図、図2は、本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御を表すフローチャート、図3は、ブレーキ踏力に対するペダルストロークとマスタシリンダ圧力とホイールシリンダ圧力を表すグラフで、図4は、ペダルストロークに対するホイールシリンダ圧力を表すグラフである。
【0020】
本実施例の車両用制動制御装置において、図1に示すように、ブレーキペダル(操作部材)11には、ブレーキブースタ(助勢手段)12が接続され、このブレーキブースタ12には、マスタシリンダ13が固定されている。そして、ブレーキペダル11に、その踏み込みを検出する検出するストップランプスイッチ14aと、ブレーキ踏力を検出する踏力センサ14bが装着されている。そして、このペダルストロークセンサ14aと踏力センサ14bは、検出結果を電子制御ユニット(ECU)101に出力する。
【0021】
ブレーキブースタ12は、ドライバによるブレーキペダル11の踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生することができる。マスタシリンダ13は、内部に図示しないピストンが移動自在に支持されることで、2つの油圧室を有しており、各油圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧を発生させることができる。マスタシリンダ13の上部には、リザーバタンク15が設けられており、このマスタシリンダ13とリザーバタンク15とは、ブレーキペダル11が踏み込まれていない状態で連通し、ブレーキペダル11が踏み込まれると閉鎖され、マスタシリンダ13の油圧室が加圧される。
【0022】
マスタシリンダ13の各油圧室には、それぞれ油圧供給通路16,17が接続されており、油圧供給通路16は、ECU101により制御される油圧制御装置(油圧制御回路)102に接続されている。そして、一方の油圧供給通路16に、供給油圧を検出するマスタシリンダ圧センサ18が装着されており、検出結果をECU101に出力する。
【0023】
油圧制御装置102について具体的に説明する。各油圧供給通路16,17には、マスタカット弁19,20が装着されており、上述したマスタシリンダ圧センサ18は、油圧供給通路16におけるマスタシリンダ13とマスタカット弁19との間に配置されている。このマスタカット弁19,20は、差圧調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルオープン式であって、ECU101による通電時に閉止側に制御されることで、差圧制御可能となっている。
【0024】
一方の油圧供給通路16は、マスタカット弁19を介して連結通路21が接続され、他方の油圧供給通路17は、マスタカット弁20を介して連結通路22が接続されている。一方の連結通路21は、2つの分岐通路23,24に分岐され、他方の連結通路22は、2つの分岐通路25,26に分岐されている。そして、分岐通路23,24は、各駆動輪(図示略)にそれぞれ配置される油圧ブレーキ装置114FR,114RLを駆動するホイールシリンダ27FR,27RLに接続されている。また、分岐通路25,26は、駆動輪にそれぞれ配置される油圧ブレーキ装置114FL,114RRを駆動するホイールシリンダ27FL,27RRに接続されている。なお、ここでは、油圧配管系統をクロス配管としたが、前後配管としてもよい。
【0025】
各分岐通路23,24,25,26には、それぞれ電磁式保持弁28,29,30,31が配置されている。また、分岐通路23,24,25,26には、電磁式保持弁28,29,30,31よりホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RR側から油圧排出通路32,33,34,35が分岐しており、この油圧排出通路32,33,34,35は補助リザーバ36,37に接続されている。そして、この油圧排出通路32,33,34,35に、それぞれ電磁式減圧弁38,39,40,41が配置されている。
【0026】
この電磁式保持弁28,29,30,31は、流量調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルオープン式であって、ECU101による通電時に開度制御可能となっている。また、この電磁式減圧弁38,39,40,41は、流量調整式の電磁弁であり、所謂、ノーマルクローズ式であって、ECU101による通電時に開度制御可能となっている。
【0027】
なお、油圧供給通路16,17と連結通路21,22との間には、マスタカット弁19,20と並列して逆止弁42,43が設けられており、油圧供給通路16,17側から連結通路21,22側への作動油の流れのみ許容している。また、分岐通路23,24,25,26には、電磁式保持弁28,29,30,31と並列して逆止弁44,45,46,47が設けられており、ホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RR側からマスタカット弁19,20側への作動油の流れのみ許容している。
【0028】
各連結通路21,22から分岐して補助リザーバ36,37に接続するポンプ通路48,49が設けられ、このポンプ通路48,49の途中に、ポンプモータ50により駆動する油圧ポンプ(加圧手段)51,52が配置されると共に、この油圧ポンプ51,52よりマスタカット弁19,20側に逆止弁53,54が配置されている。また、油圧供給通路16,17から分岐して補助リザーバ36,37に接続する吸入通路55,56が設けられ、この吸入通路55,56における補助リザーバ36,37側にリザーバカット逆止弁57,58が配置されている。
【0029】
ECU101は、CPUやメモリ等からなり、格納されているブレーキ制御プログラムを実行することにより、油圧制御装置102を制御する。即ち、このECU101には、踏力センサ14bが検出したブレーキ踏力、マスタシリンダ圧センサ18が検出したマスタシリンダ圧力が入力される。そのため、ECU101は、ブレーキ踏力とマスタシリンダ圧に基づいてマスタカット弁19,20、電磁式保持弁28,29,30,31、電磁式減圧弁38,39,40,41、ポンプモータ50を制御し、ホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRへの制動油圧を調整可能となっている。
【0030】
従って、通常、マスタカット弁19,20は開弁され、電磁式保持弁28,29,30,31は開弁され、電磁式減圧弁38,39,40,41は閉弁されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込み操作すると、ブレーキブースタ12は、その踏み込み操作に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生し、マスタシリンダ13は、ブレーキ踏力とアシスト力を合わせたマスタシリンダ圧を発生する。
【0031】
ECU101は、ブレーキペダル11のブレーキ踏力に基づいてドライバの要求制動力を検出し、この要求制動力に基づいて要求油圧制動力を設定し、この要求油圧制動力に基づいて油圧制御装置102を制御する。
【0032】
この場合、増圧モードにおけるブレーキアシスト作動モードでは、例えば、マスタカット弁19及び電磁式保持弁28が開弁状態で、電磁式減圧弁38が閉弁状態のまま、ECU101は、ポンプモータ50により油圧ポンプ51を駆動制御する。すると、油圧ポンプ51は、補助リザーバ36の作動油を加圧して供給することで、マスタシリンダ13で発生したマスタシリンダ圧に加えて油圧ポンプ51による加圧圧力が、ポンプ通路48、連結通路21、マスタカット弁19、吸入通路55、補助リザーバ36を循環し、電磁式保持弁28及び分岐通路23を経由してホイールシリンダ27FRへ作用することとなり、このホイールシリンダ27FRの油圧が増圧し、制動力が更に強められる。
【0033】
このように構成された車両用制動装置では、ブレーキペダル11の踏み込みによりマスタシリンダ13により発生したマスタシリンダ圧力を、ホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRへ供給することで、このホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRが作動し、図示しないブレーキパッドがディスクロータを押圧して制動力が発生する。ブレーキペダル11が踏み込まれていないとき、ブレーキパッドとディスクロータとが接触しないように、両者の間には所定隙間が確保されており、ブレーキペダル11の踏み込みにより油圧が発生してから、所定時間の経過後にブレーキパッドがディスクロータに接触して制動力が発生する。即ち、ドライバがこのブレーキペダル11を踏み込んでから制動力が発生するまでの間に、アイドルストロークが存在するため、このアイドルストロークがドライバの操作フィーリングを悪化させている。
【0034】
そこで、本実施例の車両用制動制御装置では、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むとき、事前にホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRに所定の油圧を供給し、ブレーキパッドをディスクロータに接近させることで、アイドルストロークを減少させるフィルアップ制御(プレフィル制御)を適用している。
【0035】
即ち、本実施例の車両用制動制御装置は、操作部材としてのブレーキペダル11と、マスタシリンダ13と、加圧手段としての油圧ポンプ51,52と、ホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRと、車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力をホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRに出力する制動力制御手段としてのECU101を備えて構成され、ブレーキペダル11の操作としてのブレーキ踏力を検出する操作検出手段としての踏力センサ(操作力検出センサ)14bを設け、ECU101は、踏力センサ14bがブレーキペダル11の操作を検出したとき、具体的には、検出したブレーキ踏力が予め設定された所定操作力を超えると、油圧ポンプ51,52を作動するようにしている。
【0036】
この場合、予め設定された所定操作力とは、ブレーキペダル11の操作が開始されてからマスタシリンダ13がマスタシリンダ圧力を出力する直前におけるブレーキペダル11の踏力である。また、ブレーキペダル11の制動操作に応じてマスタシリンダ13への入力を助勢する助勢手段としてのブレーキブースタ12を設けており、所定操作力とは、ブレーキブースタ12が吸気を開始する直前におけるブレーキペダル11の踏力である。
【0037】
また、本実施例の車両用制動制御装置は、ECU101が油圧ポンプ51,52を作動するとき、この油圧ポンプ51,52による加圧圧力の上限値が設定されている。
【0038】
また、本実施例の車両用制動制御装置は、マスタシリンダ13から出力されるマスタシリンダ圧力と油圧ポンプ51,52により加圧される加圧圧力の合計圧力が予め設定された所定圧力以上となったら、ECU101は、油圧ポンプ51,52の作動を停止する。この場合、予め設定された所定圧力とは、ブレーキパッドがディスクロータ(回転部材)に接触して所定の制動力が発生したときのマスタシリンダ圧力である。この場合、マスタシリンダ圧力とホイールシリンダ圧はほぼ同等であることから、所定の制動力が発生したときのホイールシリンダ圧としてもよい。
【0039】
ここで、本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御を図2のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0040】
本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御において、図2に示すように、ドライバがブレーキペダル11を踏み込んだとき、ステップS11にて、ECU101は、踏力センサ14bが検出したブレーキ踏力Fが予め設定された所定踏力F1より大きいかどうかを判定する。ここで、ブレーキ踏力Fが所定踏力F1以下であると、ステップS16に移行することから、フィルアップ制御が禁止される。一方、ブレーキ踏力Fが所定踏力F1より大きいと判定されたら、ステップS12にて、ECU101は、マスタシリンダ圧センサ18が検出したマスタシリンダ圧力Pmが予め設定された所定マスタシリンダ圧力Pm1より小さいかどうかを判定する。ここで、マスタシリンダ圧力Pmが所定マスタシリンダ圧力Pm1より小さいと判定されたら、ステップS13にて、ECU101は、フィルアップ制御を許可する。そして、ECU101は、ステップS14にて、ポンプモータ50を作動し、ステップS15にて、マスタカット弁19,20を開放する。
【0041】
すると、油圧ポンプ51,52は、補助リザーバ36,37の作動油を加圧して供給することで、発生した加圧圧力がポンプ通路48,49、電磁式保持弁28,29,30,31、分岐通路23,24,25,26を経由してホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRへ作用し、このホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRが作動する。そのため、ブレーキパッドがディスクロータに微力で接触する。このとき、マスタシリンダ13がまだ作動していないことから、マスタシリンダ13とリザーバタンク15は連通状態にあり、リザーバタンク15の作動油が油圧供給通路16,17及び吸入通路55,56を通って補助リザーバ36,37に供給される。
【0042】
ドライバが更にブレーキペダル11を踏み込むと、マスタシリンダ13が作動を開始し、ステップS12にて、マスタシリンダ圧力Pmが所定マスタシリンダ圧力Pm1を超えたと判定され、ステップS16にて、ECU101は、フィルアップ制御を禁止する。そして、ECU101は、ステップS17にて、ポンプモータ50の作動を停止し、ステップS18にて、マスタカット弁19,20を閉止する。すると、油圧ポンプ51,52の作動が停止することで、ホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRへの油圧の供給を停止する。そのため、ブレーキパッドがディスクロータに接触した位置に保持される。
【0043】
このような本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御にて、ペダルストロークSと、ブレーキ踏力Fと、マスタシリンダ圧力Pmと、ホイールシリンダ圧力Pwの変化について説明する。
【0044】
本実施例の車両用制動制御装置における制動力制御において、図3に示すように、ドライバがブレーキペダル11を踏み込んでペダルストロークSが上昇し、このペダルストロークSが所定ペダルストロークS1になると、ブレーキ踏力Fが所定踏力F1となり、ここで、フィルアップ制御を許可することで、ホイールシリンダ圧力Pwが上昇する。このとき、マスタシリンダ13はまだ作動していないため、マスタシリンダ圧力Pmは所定マスタシリンダ圧力Pm1より小さいものとなっている。
【0045】
そして、ペダルストロークSが更に上昇し、ペダルストロークSが所定ペダルストロークS2になると、ブレーキ踏力Fが所定踏力F2となり、ここで、ブレーキブースタ12が作動し、ブレーキ踏力F3になると、マスタシリンダ13が作動を開始し、マスタシリンダ圧力Pmとホイールシリンダ圧力Pwが上昇する。このとき、ホイールシリンダ圧力Pwは、油圧ポンプ51,52の加圧圧力により制御油圧(上限値)Pwsまで上昇してから、マスタシリンダ圧力により更に上昇する。
【0046】
ブレーキ踏力Fがブレーキ踏力F4になると、マスタシリンダ圧力Pmが所定マスタシリンダ圧力Pm1、ホイールシリンダ圧力Pwが所定ホイールシリンダ圧力Pw1となり、フィルアップ制御を禁止(制御終了)することで、油圧ポンプ51,52の加圧圧力の上昇が停止する。即ち、マスタシリンダ圧力と加圧圧力による制動力制御が終了する。その後、ブレーキ踏力Fがブレーキ踏力F5になると、マスタシリンダ圧力Pmが所定マスタシリンダ圧力Pm2、ホイールシリンダ圧力Pwが所定ホイールシリンダ圧力Pw2となり、ジャンピング制御が終了し、ブレーキパッドがディスクロータに接触した位置に保持される。
【0047】
この場合、ジャンピング圧力として所定マスタシリンダ圧力Pm2が下記のような関係となるように、所定マスタシリンダ圧力Pm1と、制御油圧(上限値)Pwsが設定されている。
Pm2>Pm1+Pws
従って、ブレーキブースタ12のジャンピング制御によるオーバーシュートなしにフィルアップ制御を終了することができる。
【0048】
本実施例の車両用制動制御装置によるフィルアップ制御を実行しないときには、図4に点線で示すように、ブレーキペダル11をペダルストロークSaまで踏み込んでから、ホイールシリンダ圧力Pwが上昇することとなり、操作フィーリングが低下してしまう。一方、本実施例の車両用制動制御装置によるフィルアップ制御を実行したときには、図4に実線で示すように、ブレーキペダル11をペダルストロークSaより短いペダルストロークS1だけ踏み込むと、ホイールシリンダ圧力Pwが上昇することとなり、操作フィーリングが向上する。この場合、ペダルストロークS1は、ブレーキペダル11自体のガタ分である。
【0049】
また、本実施例の車両用制動制御装置によるフィルアップ制御を実行し、ドライバは、ブレーキペダル11に足を乗せただけで踏み込まないときには、図4に一点鎖線で示すように、ブレーキペダル11がペダルストロークS1のときに、ホイールシリンダ圧力Pwが制御圧力Pwsまで上昇し、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、ここからホイールシリンダ圧力Pw上昇することとなり、操作フィーリングが向上する。例えば、高速道路で先行車との車間距離を調整したいとき、この動作を行うと、ブレーキパッドがディスクロータに微力で接するため、ブレーキブースタ12のジャンピングにより得られる制動力より弱い制動力で微妙にコントロールすることができる。
【0050】
このように本実施例の車両用制動制御装置にあっては、ブレーキペダル11の操作により発生した作動油の圧力であるマスタシリンダ圧力を出力可能なマスタシリンダ13と、マスタシリンダ13とは無関係に作動油を加圧することで発生した加圧圧力を出力可能な油圧ポンプ51,52と、車輪に制動力を作用させるホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRと、車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力をホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RRに出力するECU101とを設けて構成し、ブレーキ踏力を検出する踏力センサ14bを設け、ECU101は、踏力センサ14bが所定踏力を検出したときに油圧ポンプ51,52を作動するようにしている。
【0051】
従って、ブレーキペダル11が操作されたら、加圧圧力により作動油を加圧して出力することで、アイドルストロークをなくすこととなり、制動操作フィーリングの向上を図ることができ、また、この場合、既存の油圧ポンプ51,52を用いることで、コストの増加を抑制することができる。
【0052】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、本発明の操作検出手段を踏力センサ14bとすることで、既存の装置によりブレーキ操作力の発生を適切に検出することができ、コストの低減と制御精度の向上を可能とすることができる。
【0053】
この場合、所定操作力を、ブレーキペダルによるブレーキ操作が開始されてからマスタシリンダ13がマスタシリンダ圧力を出力する直前におけるブレーキ踏力としている。また、この所定操作力を、ブレーキブースタ12が作動する直前におけるブレーキ踏力としてもよい。従って、リザーバタンク15の作動油をホイールシリンダ27FR,27RL,27FL,27RR側に供給することで、アイドルストロークを確実に低減することができる。
【0054】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、フィルアップ制御時に、油圧ポンプ51,52による加圧圧力の上限値(制御圧力)を設定している。従って、ドライバは、足をブレーキペダル11に乗せただけで、所定の制動力を得ることができ、車両の操作性を向上することができる。
【0055】
また、本実施例の車両用制動制御装置では、マスタシリンダ13から出力されるマスタシリンダ圧力と油圧ポンプ51,52により加圧される加圧圧力の合計圧力が予め設定された所定圧力以上となったら、油圧ポンプ51,52の作動を停止している。従って、加圧圧力の増大による違和感をなくすことができ、ドライバによるブレーキ操作フィーリングを向上することができる。
【0056】
この場合、所定圧力を、ブレーキパッドがディスクロータに接触して所定の制動力が発生したときのマスタシリンダ圧力としている。従って、エンジンブレーキより弱いブレーキ力を容易に確保することができる。
【0057】
なお、上述した実施例では、操作部材を足で操作するブレーキペダル11としたが、手で操作するブレーキであってもよい。また、油圧ブレーキ装置をブレーキパッドとディスクロータを有するディスクブレーキとしたが、ブレーキパッドとドラムとを有するドラムブレーキであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明に係る車両用制動制御装置は、フィルアップ制御時に既存の加圧手段を用いてホイールシリンダ圧力を上昇させることで、コストの増加を抑制すると共に制動操作フィーリングの向上を図るものであり、いずれの種類の制動装置に用いても好適である。
【符号の説明】
【0059】
11 ブレーキペダル(操作部材)
12 ブレーキブースタ(助勢手段)
13 マスタシリンダ
14a ストップランプスイッチ
14b 踏力センサ(操作検出手段)
15 リザーバタンク
18 マスタシリンダ圧センサ
19,20 マスタカット弁
27FR,27FL,27RL,27RR ホイールシリンダ
51,52 油圧ポンプ(加圧手段)
101 電子制御ユニット、ECU(制動力制御手段)
102 油圧制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバが制動操作する操作部材と、
該操作部材の操作により発生した作動流体の圧力であるマスタシリンダ圧力を出力可能なマスタシリンダと、
該マスタシリンダとは無関係に作動流体を加圧することで発生した加圧圧力を出力可能な加圧手段と、
車輪に制動力を作用させるホイールシリンダと、
車両の走行状態に応じてマスタシリンダ圧力及び加圧圧力を前記ホイールシリンダに出力する制動力制御手段と、
を備える車両用制動制御装置において、
前記操作部材の操作を検出する操作検出手段を設け、
前記制動力制御手段は、前記操作検出手段が前記操作部材の操作を検出したときに前記加圧手段を作動する、
ことを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項2】
前記操作検出手段は、前記操作部材の操作力を検出する操作力検出センサであり、前記制動力制御手段は、該操作力検出センサが検出した操作力が予め設定された所定操作力を超えると前記加圧手段を作動することを特徴とする請求項1に記載の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記所定操作力とは、前記操作部材の操作が開始されてから前記マスタシリンダがマスタシリンダ圧力を出力する直前における前記操作部材の操作力であることを特徴とする請求項2に記載の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記操作部材の制動操作に応じて前記マスタシリンダへの入力を助勢する助勢手段を有し、前記所定操作力とは、前記助勢手段が作動する直前における前記操作部材の操作力であることを特徴とする請求項2に記載の車両用制動制御装置。
【請求項5】
前記制動力制御手段が前記加圧手段を作動するとき、該加圧手段による加圧圧力の上限値が設定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の車両用制動制御装置。
【請求項6】
前記マスタシリンダから出力されるマスタシリンダ圧力と前記加圧手段により加圧される加圧圧力の合計圧力が予め設定された所定圧力以上となったら、前記制動力制御手段は前記加圧手段の作動を停止することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の車両用制動制御装置。
【請求項7】
前記所定圧力とは、ブレーキパッドが回転部材に接触して所定の制動力が発生したときのマスタシリンダ圧力であることを特徴とする請求項6に記載の車両用制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−247793(P2010−247793A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102221(P2009−102221)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】