説明

車両用制動制御装置

【課題】圧力源からの導入圧によるホイールシリンダ圧の昇圧の制御応答性の向上。
【解決手段】ブレーキ液圧制御を行う液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRと、ブレーキ液圧に応じた制動力を車輪に発生させる制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRと、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側のブレーキ液圧を生成する高圧発生装置30と、そのブレーキ液圧による加圧制動力制御の開始指令に基づき、当該ブレーキ液圧を液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側に供給し、ブレーキ液圧制御の実行により高圧発生装置30のブレーキ液圧に基づいた制動力を発生させる電子制御装置1と、を備え、その上流側におけるブレーキ液圧の安定度合いが今回の加圧制動力制御の開始前から高い場合に、その加圧制動力制御におけるブレーキ液圧制御の開始を許可すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の圧力源からの導入圧による制動力を車輪に発生させることが可能な車両用制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧の圧力源からの導入圧を夫々の車輪用の増圧弁(保持弁と云うこともある)の上流に供給し、その導入圧を増圧弁の開弁に伴いホイールシリンダに供給することで車輪に制動力を発生させる車両用制動制御装置が知られている。例えば、下記の特許文献1には、この種の車両用制動制御装置であって、保持弁の上流圧の検出値に対してフィルタリング処理を行うことで、その保持弁の開閉状態が変化される制御の実行時においても保持弁の上流圧を精度良く推定し、ホイールシリンダ圧の目標値に対する追従精度を高める技術が開示されている。尚、下記の特許文献2には、保持弁の上流側に設けた共通の制御弁を異なる制御則で制御し、その保持弁の上流圧の変動を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−292176号公報
【特許文献2】特開2007−137281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、増圧弁(保持弁)の上流圧の推定精度を上げることは、ホイールシリンダ圧の制御精度を高める上で重要である。しかしながら、上記特許文献1の技術では、保持弁の上流圧の検出値に対してフィルタリング処理を行っており、そのフィルタリング処理による時間遅れが発生するので、まだまだホイールシリンダ圧の目標値に対する制御応答性を高める余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、高圧の圧力源からの導入圧による制動力を車輪に発生させる際のホイールシリンダ圧の制御応答性の向上が可能な車両用制動制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、上流側からのブレーキ液の流量制御により下流側のブレーキ液圧制御を行う液圧調整装置と、この液圧調整装置の下流に配置され、ブレーキ液圧に応じた制動力を車輪に発生させる制動力発生装置と、前記液圧調整装置の上流に配置され、該液圧調整装置の上流側に供給されるブレーキ液圧を生成する圧力源と、この圧力源のブレーキ液圧による加圧制動力制御の開始指令に基づいて当該圧力源のブレーキ液圧を前記液圧調整装置の上流側に供給し、前記ブレーキ液圧制御の実行によって前記圧力源のブレーキ液圧に基づいた制動力を発生させる制動力制御装置と、を備え、前記液圧調整装置の上流側におけるブレーキ液圧の安定度合いが今回開始要求された加圧制動力制御の開始前から高い場合に、該今回開始要求された加圧制動力制御における前記ブレーキ液圧制御の開始を許可することを特徴としている。
【0007】
ここで、前記ブレーキ液圧の安定度合いは、開始要求が為された前記加圧制動力制御とは別の形態の加圧制動力制御が実行中であれば、該実行中の加圧制動力制御の実行時間に基づいて推定することが望ましい。
【0008】
また、前記実行中の加圧制動力制御における前記液圧調整装置の上流側への前記圧力源のブレーキ液圧の供給開始後、該上流側のブレーキ液圧の変動が当該ブレーキ液圧の所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まるまでの時間を前記実行中の加圧制動力制御の実行時間が超えたときに、前記ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定することが望ましい。
【0009】
また、前記実行中の加圧制動力制御における前記液圧調整装置の上流側への前記圧力源のブレーキ液圧の供給開始後、該上流側のブレーキ液圧の変動が当該ブレーキ液圧の所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まるまでの時間を前記実行中の加圧制動力制御の実行時間が超えていなければ、その差分の時間を経過した後に前記ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用制動制御装置は、液圧調整装置の上流側のブレーキ液圧が今回開始要求された加圧制動力制御の開始前から安定状態になっているならば、その加圧制動力制御におけるブレーキ液圧制御の開始を許可するので、今回開始要求された加圧制動力制御の為に液圧調整装置の上流側のブレーキ液圧が安定状態になるのを待つ必要が無く、この加圧制動力制御におけるブレーキ液圧制御の制御応答性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る車両用制動制御装置の構成について示す図である。
【図2】図2は、加圧制動力制御を開始する際の制御動作について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る車両用制動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
[実施例]
本発明に係る車両用制動制御装置の実施例を図1及び図2に基づいて説明する。
【0014】
この車両用制動制御装置は、電磁弁に電流を印加することで夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrへのブレーキ液圧(つまりホイールシリンダ圧)を増圧又は減圧させることが可能な制動システムと、この制動システムを制御対象にして制動力の制御を行う制動力制御システムと、によって構成されている。その制動力制御システムは、図1に示す電子制御装置(ECU)1によってその制御機能が構成されている。
【0015】
最初に、本実施例の制動システムの一例について図1に基づき説明する。
【0016】
ここで例示する制動システムは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力を個別に調節し得るものであり、その各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの内の少なくとも一輪のみに対して制動力を加えることもできるように構成されている。
【0017】
この制動システムは、大別すると、ブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生部5と、そのブレーキ液圧を車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に調節可能なアクチュエータとしてのブレーキ液圧調節部6と、そのブレーキ液圧を利用して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに加える制動力を発生させる制動力発生部7と、で構成する。
【0018】
具体的に、この制動システムには、図1に示す如く、運転者のブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させる液圧発生装置20と、ブレーキ液を加圧して液圧発生装置20によるブレーキ液圧よりも高圧のブレーキ液圧(アキュムレータ圧)を発生させる高圧発生装置(高圧の圧力源)30と、がブレーキ液圧発生部5として用意されている。また、この制動システムには、ブレーキ液圧調節部6の一部分を成す液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRが車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に用意されている。これら各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRは、液圧発生装置20や高圧発生装置30の発生したブレーキ液圧を調圧できるものである。また、この制動システムには、それら各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRを経たブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が夫々供給され、そのブレーキ液圧に応じた制動力を発生させる車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎の制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRが制動力発生部7として用意されている。
【0019】
先ず、液圧発生装置20は、運転者によるブレーキペダル10の操作量(以下、「ブレーキ操作量」という。)に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させるマスタシリンダ21を備えている。また、この液圧発生装置20には、ブレーキ操作量に応じたブレーキ液圧(レギュレータ圧)を発生させるハイドロブースタ22も用意されている。本実施例においては、そのマスタシリンダ21とハイドロブースタ22とを一体化したものとして例示する。
【0020】
そのマスタシリンダ21には、ブレーキペダル10の押動に伴い加圧される加圧室があり、この加圧室を介してマスタ通路101が接続されている。また、ハイドロブースタ22には、ブースタ室を介してブースタ通路102が接続されており、更に高圧発生装置30における後述するアキュムレータ33の下流側(高圧通路104)も接続されている。
【0021】
ここで、そのマスタ通路101上には、ストロークシミュレータ61とシミュレータ制御弁62とを備えたストロークシミュレータ装置60が接続されている。そのシミュレータ制御弁62は、通常時に原則として閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。その電子制御装置1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することでシミュレータ制御弁62を開弁させ、マスタ通路101からストロークシミュレータ61にブレーキ液を送る。
【0022】
更に、このマスタ通路101上におけるストロークシミュレータ装置60との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、マスタシリンダ21の加圧室と後述する主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御して、左側前輪Wflと右側前輪Wfrの夫々の液圧調整装置40FL,40FRへのマスタシリンダ圧の供給状態を制御するマスタシリンダ圧供給制御弁(以下、「マスタカット弁」という。)71が配設されている。そのマスタカット弁71は、通常時に原則として開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。
【0023】
また、ブースタ通路102上には、レギュレータ圧を検出するレギュレータ圧センサ81が接続されている。そのレギュレータ圧センサ81の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0024】
更に、このブースタ通路102上におけるレギュレータ圧センサ81との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、ハイドロブースタ22のブースタ室と主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御して、左側後輪Wrlと右側後輪Wrrの夫々の液圧調整装置40RL,40RRへのレギュレータ圧の供給状態を制御するレギュレータ圧供給制御弁(以下、「レギュレータカット弁」という。)72が配設されている。そのレギュレータカット弁72は、通常時に原則として開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。
【0025】
また、この液圧発生装置20には、リザーバ23が接続されている。そして、そのリザーバ23には、ブレーキ液が大気圧で貯留されており、且つ、リザーバ通路103が接続されている。また、この液圧発生装置20には、ブレーキ液圧が設定圧以上になった際にその余剰分を低圧側に戻すリリーフ弁24も設けられている。そのリリーフ弁24は、上流側がリザーバ23に接続され、下流側がハイドロブースタ22のブースタ室に接続されている。更に、このリリーフ弁24は、その上流側が後述する高圧発生装置30のポンプ32の上流側にも接続され、下流側がアキュムレータ33の下流側にも接続されている。
【0026】
続いて、高圧発生装置30は、図1に示す如く、モータ31と、このモータ31により駆動されてリザーバ23のブレーキ液を汲み上げ、これを加圧して吐出するポンプ32と、このポンプ32で加圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータ33と、を備えている。そのモータ31は、アキュムレータ33内の圧力(アキュムレータ圧)を所定範囲内に調節するよう電子制御装置1によって駆動制御される。この制動システムにおいては、そのアキュムレータ33内が一定の高さのアキュムレータ圧に調整されている。
【0027】
この高圧発生装置30においては、ポンプ32及びアキュムレータ33の下流側(換言するならば、高圧側)に高圧通路104が接続されている。
【0028】
ここで、その高圧通路104上には、アキュムレータ圧を検出するアキュムレータ圧センサ82が接続されている。そのアキュムレータ圧センサ82の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0029】
また、この高圧通路104上におけるアキュムレータ圧センサ82との接続部よりも下流側(車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr側)には、高圧発生装置30と主制御圧通路105との間の連通又は遮断の状態を制御して、主制御圧通路105への高圧発生装置30からの導入圧たる高いブレーキ液圧(アキュムレータ圧)の供給状態を制御するアキュムレータ圧供給制御弁(以下、「リニア増圧制御弁」という。)73が配設されている。そのリニア増圧制御弁73は、通常時に原則として閉弁状態になっている常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。このリニア増圧制御弁73は、ソレノイドに供給される電流に応じて開弁し、アキュムレータ圧が下流側(主制御圧通路105側)に伝わるようにする。
【0030】
本実施例においては、上述したマスタ通路101とブースタ通路102と高圧通路104とリザーバ通路103とがその順番で図1に示す主制御圧通路105に接続されている。その主制御圧通路105には、各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRが夫々接続されている。尚、ここで云う上流とは、各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRを中心にして見た場合、液圧発生装置20側や高圧発生装置30側のことを指す。従って、その場合の下流とは、制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RR側のことを云う。
【0031】
ここで、その主制御圧通路105上には、図1に示す如く、マスタ通路101とブースタ通路102との夫々の接続部分の間に分割制御弁74が配設され、且つ、リザーバ通路103と高圧通路104との夫々の接続部分の間にリニア減圧制御弁75が配設されている。更に、この主制御圧通路105には、その分割制御弁74を挟んだ一方の通路に左右夫々の前輪Wfl,Wfrの液圧調整装置40FL,40FRが接続されており、他方の通路に左右夫々の後輪Wrl,Wrrの液圧調整装置40RL,40RRが接続されている。その液圧調整装置40FL,40FRは、夫々に上流側制御圧通路106FL,106FRを介して一方の通路に接続される。また、液圧調整装置40RL,40RRは、他方の通路における分割制御弁74とリニア減圧制御弁75との間において、夫々に上流側制御圧通路106RL,106RRを介して接続される。その一方の通路上には、本通路のブレーキ液圧(主にマスタシリンダ圧)を検出するブレーキ液圧センサ83が接続されている。そのブレーキ液圧センサ83の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0032】
その分割制御弁74は、主制御圧通路105を二分した状態と、その分けられた双方の通路を必要に応じて連通させた状態と、を作り出すものである。この分割制御弁74は、通常時に原則として閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。この分割制御弁74は、開弁することにより、主制御圧通路105における上記の他方の通路から一方の通路へとブレーキ液を流す。
【0033】
また、リニア減圧制御弁75は、アキュムレータ圧の供給を止めた際に、各液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RRのブレーキ液圧を下げる為に用意されたものである。このリニア減圧制御弁75は、通常時に原則として閉弁状態になっている常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作を行う。このリニア減圧制御弁75は、開弁することにより、主制御圧通路105における上記の他方の通路からリザーバ通路103へとブレーキ液を流す。
【0034】
続いて、液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRについて詳述する。
【0035】
これら液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRは、前述したように液圧発生装置20や高圧発生装置30の発生したブレーキ液圧を調圧するものであって、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRに供給するブレーキ液圧を各々調整して所謂ABS制御や所謂トラクション制御等を実行させるものである。尚、その制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRとは、例えばディスクロータやキャリパ等で構成されたものやドラムやホイールシリンダ等で構成されたものである。従って、この場合のブレーキ液圧は、キャリパやホイールシリンダに供給される。
【0036】
液圧調整装置40FL,40FR,40RL,40RRの下流側は、夫々に図1に示す減圧通路107FL,107FR,107RL,107RRを介して主減圧通路108に接続されている。その主減圧通路108は、リザーバ通路103を介してリザーバ23に接続されている。
【0037】
左側前輪Wflの液圧調整装置40FLは、ブレーキ液の流量制御により制動力発生装置50FLへのブレーキ液圧を調節する流量制御弁であって、そのブレーキ液の流路を開け閉めすることでブレーキ液の流量制御を行う開閉弁を有する。具体的に、この液圧調整装置40FLは、その流量制御弁(開閉弁)として、通常時に原則として開弁状態になっている常開式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作する増圧弁NOFLと、通常時に原則として閉弁状態になっている常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1の制御指令に従って開閉動作する減圧弁NCFLと、を備えている。
【0038】
その増圧弁NOFLは、開弁状態において、液圧調整装置40FLの上流部(主制御圧通路105)と左側前輪Wflの制動力発生装置50FLを連通させる。一方、この増圧弁NOFLは、閉弁することで、液圧調整装置40FLの上流部とその制動力発生装置50FLとの間の連通を遮断する。尚、この増圧弁NOFLは、下流側に圧力を封じ込めることのないようにチェック弁41FLを備えている。
【0039】
また、減圧弁NCFLは、閉弁状態において、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLとリザーバ23との間の連通を遮断させる。一方、この減圧弁NCFLは、開弁することで、その制動力発生装置50FLとリザーバ23を連通させる。
【0040】
この液圧調整装置40FLにおいては、その増圧弁NOFLと減圧弁NCFLとの間に図1に示す左側前輪通路109FLが接続されている。その左側前輪通路109FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLにも接続されている。
【0041】
この液圧調整装置40FLは、増圧弁NOFLが開弁状態で且つ減圧弁NCFLが閉弁状態のときに、その増圧弁NOFLの上流側(主制御圧通路105及び上流側制御圧通路106FL)のブレーキ液を制動力発生装置50FLに供給する。これにより、この液圧調整装置40FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLのブレーキ液圧を増圧させ、その左側前輪Wflの制動力を増加させる(増圧モード)。また、この液圧調整装置40FLは、増圧弁NOFLと減圧弁NCFLとが夫々閉弁状態のときに、制動力発生装置50FLのブレーキ液圧(換言するならば左側前輪Wflの制動力)をそのときの大きさのまま保持する(保持モード)。また、この液圧調整装置40FLは、増圧弁NOFLが閉弁状態で且つ減圧弁NCFLが開弁状態のときに、制動力発生装置50FL内のブレーキ液をリザーバ23に戻す。これにより、この液圧調整装置40FLは、左側前輪Wflの制動力発生装置50FLのブレーキ液圧を減圧させ、その左側前輪Wflの制動力を減少させる(減圧モード)。
【0042】
残りの車輪Wfr,Wrl,Wrrの液圧調整装置40FR,40RL,40RRについては、図1に示す如く、上述した左側前輪Wflの液圧調整装置40FLと同様に構成されている。つまり、右側前輪Wfrの液圧調整装置40FRは、増圧弁NOFRと減圧弁NCFRとチェック弁41FRを備えており、右側前輪通路109FRを介して接続された右側前輪Wfrの制動力発生装置50FRに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。また、左側後輪Wrlの液圧調整装置40RLは、増圧弁NORLと減圧弁NCRLとチェック弁41RLを備えており、左側後輪通路109RLを介して接続された左側後輪Wrlの制動力発生装置50RLに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。また、右側後輪Wrrの液圧調整装置40RRは、増圧弁NORRと減圧弁NCRRとチェック弁41RRを備えており、右側後輪通路109RRを介して接続された右側後輪Wrrの制動力発生装置50RRに対するブレーキ液圧制御の増圧モード、保持モード又は減圧モードを実現させる。
【0043】
この車両用制動制御装置においては、高圧発生装置30からの高圧のブレーキ液(アキュムレータ圧)を用いた加圧制動力制御を行う場面として、所謂トラクション制御やビークルスタビリティ制御等の車両挙動制御などが挙げられる。トラクション制御とは、所謂トラクション・コントロール・システムによる制御のことであり、運転者のアクセル操作(つまり加速操作)に伴って駆動輪がスリップした際に、そのスリップ状態にある駆動輪の制動力やエンジン出力を調節し、最適な駆動力を駆動輪に対して働かせるようにするものである。加圧制動力制御は、その駆動輪の制動力を発生させる為に行われる。また、ビークルスタビリティ制御とは、所謂ビークル・スタビリティ・コントロール・システムによる制御のことであり、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの内の何れかの制御対象輪にのみ制動力を加え、これにより車両の挙動の安定化を図るものである。加圧制動力制御は、その制御対象輪の制動力を発生させる為に行われる。
【0044】
その加圧制動力制御を行うときには、その開始指令に基づきリニア増圧制御弁73と分割制御弁74を開弁させて、増圧弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上流側にアキュムレータ圧を供給し、制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)による増圧モードのブレーキ液圧制御を実行する。これにより、その制御対象輪においては、増圧弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)の上流側のアキュムレータ圧に基づいて制動力発生装置50FL(50FR,50RL,50RR)のホイールシリンダ圧が増圧し、制動力が増加する。例えば、その後、電子制御装置1は、その制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)を保持モードのブレーキ液圧制御に切り替え、増圧モードと保持モードを交互に繰り返しながら制御対象輪のホイールシリンダ圧(制動力)を目標値まで増加させる。尚、その際、電子制御装置1は、その制御対象輪が制動力の増加に伴ってロック状態になりそうならば、これを回避すべく液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)を減圧モードのブレーキ液圧制御に切り替え、ホイールシリンダ圧を減圧させて制御対象輪の制動力を低下させる。
【0045】
ところで、この制動システムは、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧を直接検出することのできる圧力センサ等の検出装置を備えていない。これが為、加圧制動力制御の実行時には、制御対象となる車輪のホイールシリンダ圧を電子制御装置1に推定させることで、ホイールシリンダ圧を目標値へと制御する。その推定の為に、電子制御装置1には、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRと減圧弁NCFL,NCFR,NCRL,NCRRにおける上下流の差圧、弁開度及び開弁時間に基づいて、制動力発生装置50FL,50FR,50RL,50RRのブレーキ液流量を積算させる。そして、この電子制御装置1には、本システム固有のブレーキ液流量とブレーキ液圧との関係にブレーキ液流量の積算値を当て嵌めて、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧を推定させる。
【0046】
ここで、その弁開度や開弁時間は、電子制御装置1の制御指令から把握できる。更に、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRにおける上下流の差圧については、その上流側と下流側のブレーキ液圧を検出又は推定することで求めることができる。上流側のブレーキ液圧は、高圧発生装置30のブレーキ液圧に大凡等しいと看做すことが可能なので、アキュムレータ圧センサ82で検出したアキュムレータ圧を用いることができる。また、この上流側のブレーキ液圧は、加圧制動力制御時にリニア増圧制御弁73が開弁しているので、ブレーキ液圧センサ83の検出値を用いることもできる。一方、下流側のブレーキ液圧は、ホイールシリンダ圧と同等であり、加圧制動力制御の開始前のホイールシリンダ圧が減圧モードの実行により大気圧等の所定のブレーキ液圧まで低下していると推定できるので、その推定値を用いればよい。加圧制動力制御の開始後の下流側のブレーキ液圧は、その推定値を初期値とし、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRと減圧弁NCFL,NCFR,NCRL,NCRRにおける弁開度及び開弁時間から推定できる。これと同様に、減圧弁NCFL,NCFR,NCRL,NCRRにおける上下流の差圧についても、その上流側と下流側のブレーキ液圧を検出又は推定することで求めることができる。上流側のブレーキ液圧は、ホイールシリンダ圧と同等なので、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの下流側のブレーキ液圧を用いればよい。また、下流側のブレーキ液圧は、リザーバ23に繋がっているので、大気圧と推定できる。
【0047】
このように、この車両用制動制御装置は、制御対象輪のホイールシリンダ圧を推定することによって、加圧制動力制御の目標値へとホイールシリンダ圧を制御できる。しかしながら、加圧制動力制御の開始直後においては、リニア増圧制御弁73と分割制御弁74の開弁に伴い供給された高圧のアキュムレータ圧によって、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側(主制御圧通路105及び上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RR)のブレーキ液圧が大きく変動するので、そのブレーキ液圧の推定は非常に困難である。また、従来のようにブレーキ液圧センサ83の検出値にノイズ除去のフィルタリング処理を施したとしても、その上流側のブレーキ液圧は、フィルタリング処理の際の時間遅れによって実際の圧力よりも非常に小さく推定される可能性があり、良好な応答性が求められる加圧制動力制御に耐え得るだけの推定精度を得られない。これが為、加圧制動力制御の開始直後においては、制御対象輪の増圧弁NOFL(NOFR,NORL,NORR)における上下流の差圧、延いては制御対象輪のホイールシリンダ圧を正しく推定することができないので、そのホイールシリンダ圧を狙いの昇圧勾配で増圧させることができず、また、そのホイールシリンダ圧の推定値のずれを引きずって、その後の加圧制動力制御の制御精度を悪化させる虞もある。従って、加圧制動力制御の開始直後は、短くとも増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧の大きな変動が収まり、その上流側のブレーキ液圧が検出や推定に耐え得る程度にまで落ち着いたと看做すことのできる時間(以下、「開始待機時間」という。)Twだけ、制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)による増圧モードのブレーキ液圧制御、即ちホイールシリンダ圧の増圧制御の実行開始を待つ必要があるので、加圧制動力制御の実質的な開始が遅れてしまい、この開始直後のみならず、その後のホイールシリンダ圧の目標値への制御にも応答等遅れを生じさせる場合がある。
【0048】
そこで、この車両用制動制御装置は、制御対象輪に対するホイールシリンダ圧の目標値への制御応答性が良好になるよう構成する。
【0049】
ここで、この車両用制動制御装置においては、例えば前述したトラクション制御における加圧制動力制御とビークルスタビリティ制御における加圧制動力制御のように、複数の形態の加圧制動力制御が用意されている。
【0050】
その何れの加圧制動力制御においても、制御対象輪のホイールシリンダ圧は、制御終了となったときに、減圧モードの実行によって大気圧又は所定のブレーキ液圧まで低下させられる。これが為、或る形態の加圧制動力制御の終了後、間を空けてから別形態の加圧制動力制御を開始するときには、開始待機時間Twの経過を待ち、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側(主制御圧通路105及び上流側制御圧通路106FL,106FR,106RL,106RR)のブレーキ液圧の安定度合いが高くなってから、制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)による増圧モードのブレーキ液圧制御、つまり制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御の開始を許可する必要がある。
【0051】
一方、或る形態の加圧制動力制御の終了後、直ぐに別形態の加圧制動力制御を開始するときには、先に行われていた加圧制動力制御によって、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧が既にアキュムレータ圧によって昇圧されており、そのブレーキ液圧の変動が所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まった安定状態にある可能性が高い。故に、このときには、その上流側のブレーキ液圧、そして制御対象輪のホイールシリンダ圧を精度良く推定でき、開始待機時間Twの経過を待たずに新たな加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧を開始しても、そのホイールシリンダ圧を精度良く且つ応答性良く目標値へと制御することができる可能性がある。従って、この車両用制動制御装置には、加圧制動力制御を開始する際に他の形態の加圧制動力制御が既に実行中であるのか否かに応じて、これから始める加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御の開始時期を設定させる。これについて、図2のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0052】
先ず、電子制御装置1は、加圧制動力制御の開始要求の有無を観る(ステップST1)。電子制御装置1は、自らが加圧制動力制御の開始要求を行っていなければ、開始要求無しとして本演算処理を一旦終わらせる。
【0053】
一方、電子制御装置1は、自らが加圧制動力制御の開始要求を行っていれば、開始要求有りとして、この加圧制動力制御とは別形態の加圧制動力制御が既に実行中であるのか否かを判定する(ステップST2)。例えば、特に雪氷路等の低摩擦係数の路面においては、ビークルスタビリティ制御による旋回姿勢の安定化が為されている状態のままコーナーの出口に差し掛かり、そのときに運転者が雑なアクセル操作を行うことでトラクション制御が介入することがある。その際には、ビークルスタビリティ制御における加圧制動力制御の実行中にトラクション制御における加圧制動力制御の開始要求が為されることになる。
【0054】
電子制御装置1は、これから始める加圧制動力制御とは別形態の加圧制動力制御が既に実行中の場合、その別形態の加圧制動力制御における上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えているのか否かの判定を行う(ステップST3)。
【0055】
その加圧制動力制御における上流圧導入時間Taとは、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側へのアキュムレータ圧の導入に伴う経過時間のことであり、加圧制動力制御の実行時間と云える。その上流圧導入時間Taの計数の起点は、電子制御装置1による加圧制動力制御の開始指令が発せられた時点であってもよく、その開始指令の後、リニア増圧制御弁73と分割制御弁74とが実際に開弁し始める時点、つまり増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側に対して実際にアキュムレータ圧が導入され始めた時点であってもよい。
【0056】
ここで、アキュムレータ圧の導入に要する時間は、アキュムレータ33内のアキュムレータ圧を可変させない限り、主に主制御圧通路105やリニア増圧制御弁73等におけるブレーキ液の通路の長さや太さなどによって決まる。これが為、開始待機時間Twは、加圧制動力制御が何れの形態のものであるのかに拘わらず一定の長さとなる。つまり、開始待機時間Twについては、予め本制動システムの固有の値として設定しておくことができる。ここでは、加圧制動力制御における増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側へのアキュムレータ圧の供給開始後、その上流側のブレーキ液圧の変動が当該ブレーキ液圧の所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まるまでの時間を開始待機時間Twとして設定する。この開始待機時間Twは、そのブレーキ液圧について高い検出精度又は推定精度を望むほど長くなるので、必要とするホイールシリンダ圧の推定精度が得られる範囲内で短めに設定することが好ましい。尚、この開始待機時間Twは、電子制御装置1による加圧制動力制御の開始指令が発せられた時点を計数の起点にしてもよく、その開始指令の後、リニア増圧制御弁73と分割制御弁74とが実際に開弁し始める時点を計数の起点にしてもよい。但し、その計数の起点は、上述した上流圧導入時間Taの計数の起点に合わせる。
【0057】
このステップST3は、実行中の別形態の加圧制動力制御における上流圧導入時間Taに基づいて、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧の安定度合いを推定するものであると云える。ここでは、その上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えていれば、ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定され、その上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えていなければ、ブレーキ液圧の安定度合いが低いと推定される。
【0058】
その上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えている場合には、実行中の加圧制動力制御において増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧が既にアキュムレータ圧によって昇圧された安定状態になっている。これが為、この場合に、電子制御装置1は、新たに開始要求が為された加圧制動力制御における制御対象輪の液圧調整装置40FL(40FR,40RL,40RR)による増圧モードのブレーキ液圧制御、つまり制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御を開始する(ステップST4)。即ち、その上流側のブレーキ液圧の安定度合いが今回開始要求された加圧制動力制御の開始前から高ければ、この今回開始要求された加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御の開始を許可する。このように、この場合には、開始待機時間Twの経過を待つことなく、新たな形態の加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御を始めることができるので、そのホイールシリンダ圧の目標値への制御応答性が向上する。また、この場合には、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧が既に安定状態にあるので、そのブレーキ液圧の検出精度や推定精度、延いては制御対象輪のホイールシリンダ圧の推定精度が既に高くなっており、新たな加圧制動力制御の開始と共に、そのホイールシリンダ圧を応答性良く目標値へと高精度に制御することができる。例えば、先に例示したビークルスタビリティ制御からトラクション制御へと変わる場合には、応答性良く且つ精度の高いトラクション制御が実現される。
【0059】
ここで、ステップST3で別形態の加圧制動力制御における上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えていないと判定された場合には、その実行中の加圧制動力制御において、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側にアキュムレータ圧の導入は始まっているが、その上流側のブレーキ液圧が安定状態にはなっていない。これが為、この場合に、電子制御装置1は、このステップST3の判定を上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えるまで繰り返す。その後、この電子制御装置1は、上記のステップST4に進み、新たに開始要求が為された加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御を開始する。この場合には、最初にステップST3の判定が行われたときの上流圧導入時間Taを「Ta=Ta1」とすると、その後ステップST3で上流圧導入時間Taが開始待機時間Twを超えたと判定されるまでに「Tw−Ta1」の差分の時間を要する。つまり、この場合には、ステップST3の判定後、その「Tw−Ta1」の差分の時間を経過した後に、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定する。従って、新たな形態の加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御は、その「Tw−Ta1」の差分の時間が経過してから開始されることになる。しかしながら、その「Tw−Ta1」の時間は開始待機時間Twよりも短いので、この場合の制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御は、開始待機時間Twの経過を待つよりも制御応答性が高くなっている。
【0060】
一方、これから始める加圧制動力制御とは別形態の加圧制動力制御が実行中でないとステップST2で判定された場合、電子制御装置1は、開始要求された加圧制動力制御を開始する(ステップST5)。これにより、この制動システムにおいては、リニア増圧制御弁73と分割制御弁74が開弁し始めるので、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側にアキュムレータ圧が供給される。
【0061】
続いて、この電子制御装置1は、その開始した加圧制動力制御における上流圧導入時間Tbが開始待機時間Twを超えているのか否かの判定を行う(ステップST6)。その上流圧導入時間Tbは、前述した上流圧導入時間Taと同等のものである。尚、このステップST6は、開始要求が為された加圧制動力制御における上流圧導入時間Tbに基づいて、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧の安定度合いを推定するものであると云える。ここでは、その上流圧導入時間Tbが開始待機時間Twを超えていれば、ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定され、その上流圧導入時間Tbが開始待機時間Twを超えていなければ、ブレーキ液圧の安定度合いが低いと推定される。
【0062】
電子制御装置1は、その上流圧導入時間Tbが開始待機時間Twを超えるまでステップST6の判定を繰り返す。つまり、ここでは、開始待機時間Twの経過を待つ。そして、この電子制御装置1は、上流圧導入時間Tbが開始待機時間Twを超えると、上記のステップST4に進み、開始した加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の増圧制御を開始する。
【0063】
以上示したように、この車両用制動制御装置においては、加圧制動力制御の開始要求が為されたときに、別の形態の加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧制御が実行中であれば、増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側のブレーキ液圧が既に安定状態にあるので、開始待機時間Twの経過を待つことなく、そして、リニア増圧制御弁73と分割制御弁74の開弁制御を行うことなく、その開始要求された加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧制御を直ぐに始めることができる。また、この車両用制動制御装置においては、加圧制動力制御の開始要求が為されたときに、別の形態の加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧制御が実行中でなくても、この別の形態の加圧制動力制御の開始に伴い増圧弁NOFL,NOFR,NORL,NORRの上流側にアキュムレータ圧が供給され始めていれば、そのアキュムレータ圧の導入を継続させることができる。つまり、その上流側のブレーキ液圧は、開始待機時間Twの経過を待たずに、早い段階で安定する。これが為、この車両用制動制御装置においては、その開始要求された加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧制御の開始待機時間を開始待機時間Twよりも短縮し、そのホイールシリンダ圧制御の開始時期を早めることができる。このように、この車両用制動制御装置は、そのホイールシリンダ圧の目標値への制御応答性を向上させることができる。
【0064】
ところで、ここでは2つの形態の加圧制動力制御の開始要求が立て続けに為された場合を例に挙げたが、仮に3つ以上の形態の加圧制動力制御の開始要求が連続して為された場合、ステップST3の上流圧導入時間Taについては、一番初めに開始要求が為された加圧制動力制御の計数の起点から今までの経過時間とすることが望ましい。何故ならば、その場合には、現在実行中の加圧制動力制御における上流圧導入時間Taを用いる場合と比較して、早く開始待機時間Twが過ぎるので、新たな加圧制動力制御における制御対象輪のホイールシリンダ圧の制御応答性が高くなるからである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明に係る車両用制動制御装置は、高圧の圧力源からの導入圧による制動力を車輪に発生させる際のホイールシリンダ圧の制御応答性の向上に適している。
【符号の説明】
【0066】
1 電子制御装置
6 ブレーキ液圧調節部
20 液圧発生装置
30 高圧発生装置
31 モータ
32 ポンプ
33 アキュムレータ
40FL,40FR,40RL,40RR 液圧調整装置
50FL,50FR,50RL,50RR 制動力発生装置
73 リニア増圧制御弁
74 分割制御弁
82 アキュムレータ圧センサ
83 ブレーキ液圧センサ
105 主制御圧通路
106FL,106FR,106RL,106RR 上流側制御圧通路
NCFL,NCFR,NCRL,NCRR 減圧弁
NOFL,NOFR,NORL,NORR 増圧弁
Wfl,Wfr,Wrl,Wrr 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側からのブレーキ液の流量制御により下流側のブレーキ液圧制御を行う液圧調整装置と、
この液圧調整装置の下流に配置され、ブレーキ液圧に応じた制動力を車輪に発生させる制動力発生装置と、
前記液圧調整装置の上流に配置され、該液圧調整装置の上流側に供給されるブレーキ液圧を生成する圧力源と、
この圧力源のブレーキ液圧による加圧制動力制御の開始指令に基づいて当該圧力源のブレーキ液圧を前記液圧調整装置の上流側に供給し、前記ブレーキ液圧制御の実行によって前記圧力源のブレーキ液圧に基づいた制動力を発生させる制動力制御装置と、
を備え、
前記液圧調整装置の上流側におけるブレーキ液圧の安定度合いが今回開始要求された加圧制動力制御の開始前から高い場合に、該今回開始要求された加圧制動力制御における前記ブレーキ液圧制御の開始を許可することを特徴とした車両用制動制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液圧の安定度合いは、開始要求が為された前記加圧制動力制御とは別の形態の加圧制動力制御が実行中であれば、該実行中の加圧制動力制御の実行時間に基づいて推定することを特徴とした請求項1記載の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記実行中の加圧制動力制御における前記液圧調整装置の上流側への前記圧力源のブレーキ液圧の供給開始後、該上流側のブレーキ液圧の変動が当該ブレーキ液圧の所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まるまでの時間を前記実行中の加圧制動力制御の実行時間が超えたときに、前記ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定することを特徴とした請求項2記載の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記実行中の加圧制動力制御における前記液圧調整装置の上流側への前記圧力源のブレーキ液圧の供給開始後、該上流側のブレーキ液圧の変動が当該ブレーキ液圧の所望の検出精度又は推定精度が得られる大きさに収まるまでの時間を前記実行中の加圧制動力制御の実行時間が超えていなければ、その差分の時間を経過した後に前記ブレーキ液圧の安定度合いが高いと推定することを特徴とした請求項2記載の車両用制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81923(P2012−81923A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231589(P2010−231589)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】