説明

車両用制御装置

【課題】エンジンにより駆動される発電機および空調装置用のコンプレッサーをそれぞれ適正に制御することにより、車両の減速時に乗員が覚える違和感を軽減しつつ、燃費性能を向上させる。
【解決手段】本発明の車両用制御装置は、発電機3の出力電圧を制御する電圧制御手段(21)と、空調装置用のコンプレッサー2の吐出容量を制御する容量制御手段(22)とを備える。上記電圧制御手段(21)は、車両の減速時に上記発電機3の出力電圧を上昇させて上記バッテリー4への充電を促進し、非減速時には上記発電機3の出力電圧を抑制するとともに、上記容量制御手段(22)は、上記発電機3の出力電圧が増大設定される車両の減速時に、上記空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断されると、冷房要求レベルに応じて定められる基本吐出容量よりも所定量低い値に上記コンプレッサー2の吐出容量を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動力により発電してバッテリーに充電電力を供給する発電機の出力電圧を制御する電圧制御手段と、エンジンにより駆動される空調装置用のコンプレッサーの吐出容量を制御する容量制御手段とを備えた車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの駆動力により発電する発電機の出力電圧(発電電圧)を、車両の減速時に上昇させてバッテリーを集中的に充電することにより、バッテリーの容量低下を防止しつつ燃費性能の向上を図ることが行われている。
【0003】
このような技術の一例として、例えば下記特許文献1に開示された発電制御システムが知られている。特に、この特許文献1では、発電機の出力電圧の上昇(それに伴う発電機の所要駆動トルクの増大)に起因して比較的大きな減速度が生じたとしても、それによって乗員が覚える違和感が小さいと予想されるときにのみ、発電機の出力電圧を上昇させることにより、乗員の違和感を軽減させるようにしている。
【0004】
一方、多くの車両には空調装置(エアコン)が設けられるが、この空調装置用の冷媒を圧送するためのコンプレッサーも、上記発電機と同様、エンジンにより駆動される。このような車両においては、従来から、減速時に生じる減速エネルギーを無駄なく回収すること等を目的として、冷媒の吐出容量が可変な可変容量コンプレッサーを上記コンプレッサーとして設け、この可変容量コンプレッサーの吐出容量を、車両の減速時に増大設定することが行われている(例えば下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−325293号公報
【特許文献2】特開2004−231097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1では、例えば運転者によりブレーキペダルが踏み込み操作されている(つまり運転者に車両を減速させる意図がはっきりと存在する)場合にのみ、発電機の出力電圧を上昇させてバッテリー充電を行うことにより、このような発電電圧の上昇に起因して想定以上の大きな減速度が生じても、乗員があまり違和感を覚えないように配慮している。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように、発電機の出力電圧を上昇させる制御をブレーキペダルの踏み込み時にのみ行うようにしたとしても、例えばこれと同時に、空調装置用のコンプレッサーの吐出容量を増大設定する上記特許文献2のような制御が行われた場合には、発電機およびコンプレッサーの所要駆動トルクがともに増大することで、乗員の想定レベルを超えた過大な減速度が発生し、乗員が違和感を覚えてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンにより駆動される発電機および空調装置用のコンプレッサーをそれぞれ適正に制御することにより、車両の減速時に乗員が覚える違和感をより軽減しつつ、燃費性能を効果的に向上させることが可能な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンの駆動力により発電してバッテリーに充電電力を供給する発電機の出力電圧を制御する電圧制御手段と、エンジンにより駆動される空調装置用のコンプレッサーの吐出容量を制御する容量制御手段とを備えた車両用制御装置であって、上記電圧制御手段は、車両の減速時に上記発電機の出力電圧を上昇させて上記バッテリーへの充電を促進し、非減速時には上記発電機の出力電圧を抑制するとともに、上記容量制御手段は、上記発電機の出力電圧が増大設定される車両の減速時に、上記空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断されると、冷房要求レベルに応じて定められる基本吐出容量よりも所定量低い値に上記コンプレッサーの吐出容量を設定することを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、車両の減速時に発電機の出力電圧を増大設定してバッテリーを集中的に充電することにより、車両減速時のエネルギーをバッテリーの充電に無駄なく利用することができ、バッテリーの容量低下を防止しつつ燃費性能の向上を図ることができる。しかも、上記出力電圧の上昇に伴い発電機の所要駆動トルクが増大したとしても、空調装置に対する冷房要求レベルが低い場合には、空調装置用のコンプレッサーの吐出容量を基本吐出量よりも低く設定してその所要駆動トルクを低減するようにしたため、発電機およびコンプレッサーの所要駆動トルクが車両の減速時にともに増大してエンジンの回転速度が急低下するといったことがなく、乗員の想定レベルを超えた過大な減速度が生じて乗員が違和感を覚えるのを効果的に防止することができる。
【0010】
本発明の車両用制御装置は、さらに、車両に備わる特定の電装品が作動中か否かを判定する作動判定手段と、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるときに、上記電装品が作動中であることが上記作動判定手段により判定されると、上記電装品による消費電力を減少させる制御を行う電気負荷調整手段とを備えることが好ましい(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、冷房要求レベルが高いためにコンプレッサーの吐出容量を下げられない状況下で、作動中の特定の電装品を停止させてその分の電気負荷を削減することにより、コンプレッサーの吐出容量を十分に確保しつつ、発電機の所要駆動トルクを低減することができる。したがって、車両の減速時に発電機とコンプレッサーとの合計の所要駆動トルクが増大して過大な減速度が生じるのを効果的に防止することができ、冷房能力を高いレベルに維持しながら減速時の乗員の違和感を効果的に軽減できるという利点がある。
【0012】
上記電圧制御手段は、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるときに、上記電装品が作動していないことが上記作動判定手段により判定されると、上記発電機の出力電圧を、上記冷房要求レベルが所定レベルよりも低いときに設定される出力電圧よりも所定量低い値に設定することが好ましい(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、特定の電装品を停止させることで発電機の所要駆動トルクを低減するという上記のような措置が採れない場合でも、発電機の出力電圧を相対的に下げることにより、コンプレッサーの吐出容量を確保して冷房能力を十分に維持しながら、減速時の乗員の違和感を効果的に軽減できるという利点がある。
【0014】
上記冷房要求レベルは、車室温度、外気温度、上記コンプレッサーの吐出側の冷媒圧力のうち少なくとも1つに基づいて判断されることが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、どの程度の冷房能力が必要かを左右する各種状態量に基づいて冷房要求レベルを適正に判断することができ、その判断結果を利用して、コンプレッサー等に関する必要な制御を適正に実施できるという利点がある。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の車両用制御装置によれば、エンジンにより駆動される発電機および空調装置用のコンプレッサーをそれぞれ適正に制御することにより、車両の減速時に乗員が覚える違和感をより軽減しつつ、燃費性能を効果的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置を概略的に示すブロック図である。本図において、1はエンジン、2はコンプレッサー、3は発電機である。コンプレッサー2および発電機3は、それぞれ、エンジン1のクランクシャフト1aに巻き掛けられたベルト5を介してエンジン1と連動連結されており、エンジン1の運転時に上記クランクシャフト1aが回転するのに伴い、上記コンプレッサー2および発電機3の各駆動軸2a,3aが回転駆動されるようになっている。
【0018】
上記コンプレッサー2は、車室内の空調を担う図外の空調装置用の冷媒を圧送する装置として設けられている。すなわち、このコンプレッサー2は、エンジン1の駆動力により駆動軸2aが回転駆動されるのに伴い、エバポレータ8から上流側の冷媒配管7Aを通じて流れてくる冷媒に圧力を加え、その冷媒を下流側の冷媒配管7Bを通じて図外のコンデンサー等に送り出すように構成されている。
【0019】
また、上記コンプレッサー2は、内蔵された制御弁6の作動により冷媒の吐出容量が変化する可変容量コンプレッサーとして構成されている。具体的には、後述するコントローラ20から制御弁6に送られるデューティ信号のデューティ比が、上記空調装置に対する冷房要求レベルに応じて増減されることにより、コンプレッサー2の吐出容量が適宜増減されるようになっている。
【0020】
上記発電機3は、その駆動軸3aとともに回転駆動される磁極を有しており、この磁極の回転により発電を行ういわゆる回転磁界型のオルタネーターとして構成されている。また、この発電機3は、そのフィールド電流(オルタネーター内の電磁石を磁化させる電流)が、後述するコントローラ20の指令に基づき増減されることにより、発電量が可変制御されるようになっている。
【0021】
上記発電機3には、蓄電装置としてのバッテリー4が接続されており、発電機3で発電された電力の一部が上記バッテリー4に蓄えられるようになっている。これら発電機3およびバッテリー4は、上記空調装置や、ランプ類(ヘッドライトやフォグランプ等)、オーディオ機器、およびエンジンの始動系・点火系の電気機器等からなる各種電装品と接続されており、これら電装品の作動電力が、上記発電機3により発電された電力、もしくはバッテリー4に蓄えられた電力によって賄われるようになっている。
【0022】
すなわち、上記発電機3の発電量は、エンジン1の回転速度や上記フィールド電流の設定値により異なるが、この発電量が電装品のトータルの電気負荷量よりも多い場合には、発電機3のみが電源として働き、余った電力が充電電力としてバッテリー4に供給される。一方、発電機3の発電量が上記電装品の電気負荷量よりも少ない場合には、発電機3による発電のみでは電装品の作動電力が不足するため、この不足分の電力がバッテリー4からの放電により賄われることになる。
【0023】
なお、図1には、車両に備わる電装品の一つを符号10で示している。詳細は後述するが、この電装品10は、作動中であっても一定の条件が成立すると強制停止される。このため、電装品10と、上記発電機3およびバッテリー4とをつなぐ配線の途中には、ON/OFF用のスイッチ11が介設されている。以下では、このように一定の条件下で強制停止される電装品10を、特定電装品10と称する。この特定電装品10としては、一時的に停止させても車両の安全性や商品性に大した影響を及ぼさないものが好適であり、例えば車体後部に設けられるリヤフォグランプがその好適例として挙げられる。
【0024】
次に、車両用制御装置の制御系について説明する。車両には、従来周知のCPUや各種メモリ等からなるコントローラ20が設けられており、このコントローラ20の指令に基づき、上記コンプレッサー2および発電機3等の動作が統括的に制御されるようになっている。
【0025】
上記コントローラ20には、車両の運転に関わる各種状態量を検出するセンサ類が電気的に接続されている。具体的に、コントローラ20には、バッテリー4に対し入出力される電流の値(つまり充放電電流の値)を検出する電流センサ12と、コンプレッサー2の吐出側の冷媒配管7B内を通る冷媒の圧力を検出する冷媒圧力センサ13と、自車両の走行速度を検出する車速センサ14と、乗員により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ15と、エンジン1のクランクシャフト1aの回転角度を検出するクランク角センサ16と、車外の温度(外気温度)を検出する外気温センサ17と、車室内の温度(車室温度)を検出する室温センサ18とがそれぞれ接続されており、これら各種センサ類の検出値が電気信号として上記コントローラ20に入力されるようになっている。
【0026】
また、上記コントローラ20は、その機能要素として、発電機制御部21、コンプレッサー制御部22、作動判定部23、および電気負荷調整部24を有している。
【0027】
上記発電機制御部21は、本発明にかかる電圧制御手段に相当し、車両の運転状態に応じて上記発電機3のフィールド電流を調節することにより、発電機3の出力電圧を増減設定するものである。より具体的に、この発電機制御部21は、車両の減速時に上記発電機3の出力電圧を上昇させてバッテリー4への充電を促進し、非減速時には発電機3の出力電圧を低下させてバッテリー4への充電を抑制するように構成されている。
【0028】
上記コンプレッサー制御部22は、本発明にかかる容量制御手段に相当し、空調装置に対する冷房要求レベル(つまり、車室内を目標温度に冷やすのに要求される冷房能力のレベル)の大小に応じて、上記コンプレッサー2からの冷媒の吐出容量を増減設定するものである。すなわち、このコンプレッサー制御部22により設定されるコンプレッサー2の吐出容量は、基本的に、上記冷房要求レベルが高いほど大きい値に設定される。以下では、このように冷房要求レベルに比例して設定される吐出容量を、基本吐出容量と称する。なお、ここでいう「冷房要求レベルに比例して」とは、冷房要求レベルに線形的に比例する場合に限定される趣旨ではなく、冷房要求レベルに応じて段階的に吐出容量が設定される場合をも含む趣旨である。
【0029】
このように、コンプレッサー制御部22は、基本的に、冷房要求レベルに比例した基本吐出容量で冷媒が圧送されるようにコンプレッサー2を制御するが、一定の条件下では、この基本吐出容量よりも所定量低い値にコンプレッサー2の吐出容量を設定する。具体的に、上記コンプレッサー制御部22は、上記発電機3の出力電圧が増大設定される車両の減速時に、上記冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断されると、上記基本吐出量よりも所定量低い値に上記コンプレッサー2の吐出容量を設定する。
【0030】
上記作動判定部23は、本発明にかかる作動判定手段に相当し、電装品の1つとしての上記特定電装品10が作動しているか否かを、この特定電装品10への供給電力の有無等に応じて判定するものである。
【0031】
上記電気負荷調整部24は、本発明にかかる電気負荷調整手段に相当し、一定の条件が成立すると上記スイッチ11に開信号を出力して上記特定電装品10への電力の供給を強制的に遮断することにより、この特定電装品10による消費電力をゼロにして、発電機3およびバッテリー4に対するトータルの電気負荷を減少させるものである。具体的に、この電気負荷調整部24は、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるときに、上記特定電装品10が作動中であることが上記作動判定部23により判定されると、上記スイッチ11を遮断して特定電装品10の作動を停止させるように構成されている。
【0032】
次に、以上のように構成されたコントローラ20により行われる制御動作の具体的内容を、図2および図3に示されるフローチャートに基づき説明する。図外のイグニッションスイッチがONにされて図2のフローチャートがスタートすると、コントローラ20は、まず、電流センサ12、冷媒圧力センサ13、車速センサ14、アクセル開度センサ15、クランク角センサ16、外気温センサ17、および室温センサ18の各検出値に基づいて、バッテリー4の充放電電流Ib、コンプレッサー2の吐出側の冷媒圧力Pc、自車両の走行速度Vs、アクセルペダルの開度θa、エンジン回転速度Ne、外気温度Ta、および車室温度Trをそれぞれ読み込む処理を実行する(ステップS1)。
【0033】
次いで、コントローラ20は、上記クランク角センサ16の検出値に基づき読み込まれた上記エンジン回転速度Neが、あらかじめ定められた所定値Ne1(例えば600rpm程度)以上であるか否かを判定することにより、エンジン1が始動したか否かを判定する処理を実行する(ステップS2)。そして、ここでYESと判定されてエンジン1が始動したことが確認された場合に、バッテリーの初期容量が確定したか否かを示すバッテリー初期容量確定フラグF1が「1」であるか否かを判定する処理を実行する(ステップS3)。
【0034】
上記ステップS3でNOと判定されてF1≠1(F1=0)であることが確認された場合、すなわち、エンジン始動後まもないためにバッテリー4の初期容量が確定していないことが確認された場合、コントローラ20は、発電機3のフィールド電流を増大させることにより、発電機3の出力電圧(発電電圧)を、バッテリー4の端子電圧(12.5V)よりも大きい所定の高出力値(例えば15V程度)に設定する処理を実行する(ステップS4)。これにより、発電機3からバッテリー4に対し多量の電流が直ちに流れ込み、バッテリー4が速やかに充電される。なお、ここで行われる出力電圧の設定処理は、上述したように、コントローラ20の発電機制御部21が担うことになる。このことは、後述するステップS22,S25,S26でも同様である。
【0035】
図4は、エンジン始動直後のバッテリー4の充放電電流Ibの変化を示すグラフである。なお、充放電電流Ibは、充電側がプラス、放電側がマイナスであるものとする。本図に示すように、エンジン1が始動すると、その直後のステップS4で急速充電が開始されることにより、バッテリー4には直ちに多量の電流が流れ込むが、時間経過に伴ってバッテリー4が満充電状態に近づくことで、電流値Ibは徐々に減少していく。そして、ある程度の時間t1が経過し、バッテリー4の充電率が例えば約95%程度になった時点で、バッテリー4に充電される電流の値Ibはある一定の値Ib1(>0)に収束することになる。なお、電流値Ibが上記所定値Ib1に収束する時間t1は、充電を行う前のバッテリー4の残容量によって変化し、充電前のバッテリー4が満充電に近いほど上記時間t1は短くなる。
【0036】
上記ステップS4でバッテリー4への急速充電が開始された後、コントローラ20は、次のステップS5に移行して、上記充放電電流Ibが、図4に示した所定値Ib1以下まで低下したか否かを判定することにより、バッテリー4の充電状態が一定の充電レベルに収束したか否かを判定する。すなわち、充放電電流Ibが所定値Ib1以下(Ib≦Ib1)になったときとは、上述したように、バッテリー4の充電状態が満充電に近いある一定の充電レベル(例えば充電率95%程度)に収束したときであるから、このときのバッテリー4の容量を初期容量SOCiとすると、上記のようにIb≦Ib1になった時点をもって、バッテリー4の容量が上記初期容量SOCiに収束したと判断することができる。
【0037】
そして、コントローラ20は、上記ステップS5でYESと判定されてバッテリー4の容量が初期容量SOCiに収束したことが確認された場合に、バッテリー初期容量確定フラグF1に「1」を入力し(ステップS6)、逆にNOと判定された場合には、バッテリー初期容量確定フラグF1に「0」を入力する(ステップS7)。
【0038】
次に、上記ステップS3でYESと判定されて上記フラグF1=1であることが確認された場合の制御動作、すなわち、バッテリー容量が一旦初期容量SOCiに収束した後に行われる制御動作について説明する。この場合、コントローラ20は、図3のステップS8に移行して、バッテリー4の残容量SOCを算出する処理を実行する。具体的に、コントローラ20は、バッテリー容量が上記初期容量SOCiに収束した時点(つまり図4に示した時点t1)を基準に、バッテリー4の充放電電流Ibを積算する等により、これまでのバッテリー4に対する充電量または放電量を算出し、これによって求まる現時点でのバッテリー容量を、バッテリー4の残容量SOCとして取得する。
【0039】
このようしてバッテリー4の残容量SOCが求まると、コントローラ20は、次のステップS9〜S11での判定処理に移行して、車両が減速中であるか否かを判定する。具体的には、上記車速センサ14により検出された自車両の速度Vsがゼロより大きい(Vs>0km/s)か否かを判定し(ステップS9)、ここでYESと判定されて自車両が停止していないことが確認されると、上記アクセル開度センサ15により検出されたスロットル開度θaが全閉(0%)であるか否かを判定する(ステップS10)。さらに、このステップS10でYESと判定されてアクセルペダルが全閉状態にあることが確認されると、エンジン回転速度Neがあらかじめ定められた所定値Ne2以上であるか否かを判定する(ステップS11)。なお、このステップS11での判定基準となる閾値Ne2は、例えば減速時に行われる燃料カット(エンジン1に供給される燃料をカットする制御)の実行領域の下限にあたる回転速度に設定され、アイドリング時の回転速度よりも若干高い値に設定される。
【0040】
以上のステップS9〜S11でいずれもYESと判定されると、コントローラ20は、車両が減速中であると判断し(ステップS12)、次のステップS13〜S16での判定処理に移行して、空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベル以上であるか否かを判定する。
【0041】
具体的に、このステップS13〜S16による判定処理では、まず、上記室温センサ18により検出された車室温度Trと、例えば乗員が空調装置を操作する等により設定された目標温度との差が、あらかじめ定められた閾値α以上であるか否かを判定し(ステップS13)、ここでYESと判定されてTr−(目標温度)≧αであることが確認されると、上記外気温センサ17により検出された外気温度Taの上昇率が、あらかじめ定められた閾値β以上であるか否かを判定する(ステップS14)。なお、外気温度Taの上昇率は、例えば、外気温度Taの今回の検出値と前回の検出値との偏差等に基づいて算出することができる。
【0042】
そして、上記ステップS14でYESと判定されて外気温度Taの上昇率≧βであることが確認されると、上記冷媒圧力センサ13により検出されたコンプレッサー2の吐出側の冷媒圧力Pcが、あらかじめ定められた閾値γ以上であるか否かを判定し(ステップS15)、ここでYESと判定されて冷媒圧力Pc≧γであることが確認されると、この冷媒圧力Pcの上昇率があらかじめ定められた閾値ε以上であるか否かを判定する(ステップS16)。なお、冷媒圧力Pcの上昇率は、例えば、冷媒圧力Pcの今回の検出値と前回の検出値との偏差等に基づいて算出することができる。
【0043】
以上のように、上記ステップS13〜S16では、車室温度Tr、外気温度Ta、および冷媒圧力Pcの各値もしくはその変化率等が所定の閾値以上であるか否かに基づいて、空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベル以上であるか否かが判定される。そして、これらステップS13〜S16のいずれかでYESと判定された場合、コントローラ20は、冷房要求レベルが所定レベル以上である判断し(ステップS17)、次のステップS18で、図1に示した特定電装品10が作動しているか否かを判定する処理を実行する。なお、ここでの判定処理は、上述したように、コントローラ20の作動判定部23が担うことになる。
【0044】
上記ステップS18でYESと判定されて特定電装品10が作動中であることが確認された場合、コントローラ20は、上記特定電装品10用のスイッチ11を遮断することにより、特定電装品10の作動を強制的に停止させてその消費電力をゼロにする処理を実行する(ステップS19)。なお、このステップS19での処理は、上述したように、コントローラ20の電気負荷調整部24が担うことになる。
【0045】
このようにして特定電装品10の作動が強制停止されると、コントローラ20は、発電機3の出力電圧を、上記ステップS4で設定したのと同じ高出力値(15V程度)に設定する処理を実行する(ステップS22)。これにより、発電機3からバッテリー4に比較的多くの電力が供給され、バッテリー4への充電が促進される。
【0046】
一方、上記ステップS18でNOと判定されて特定電装品10が作動していないことが確認された場合、コントローラ20は、発電機3の出力電圧を、上記ステップS22のときの出力電圧(15V)よりも低くかつバッテリー4の端子電圧(12.5V)よりも高い中程度の出力値(例えば13V程度)に設定する処理を実行する(ステップS25)。これにより、発電機3からバッテリー4への供給電力が上記ステップS22のときよりも少なくなり、バッテリー4への充電がやや抑制される。
【0047】
次に、冷房要求レベルを調べる上記ステップS13〜S16の処理において全てNOと判定された場合の制御動作について説明する。この場合、コントローラ20は、空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断し(ステップS20)、コンプレッサー2の吐出容量を、上述した基本吐出容量(つまり冷房要求レベルに比例して定まる基本的な吐出容量)よりも所定量小さい値に設定した上で(ステップS21)、発電機3の出力電圧を15V程度の高出力値に設定する処理を実行する(ステップS22)。なお、上記ステップS21で行われる吐出容量の低減処理は、上述したように、コントローラ20のコンプレッサー制御部22が担うことになる。
【0048】
また、車両が減速中か否かを調べる上記ステップS9〜S11のいずれかでNOと判定された場合、コントローラ20は、車両は減速していないと判断し(ステップS23)、次のステップS24で、上記ステップS8で算出したバッテリー4の残容量SOCが、あらかじめ定められた下限値Cminよりも小さいか否かを判定する処理を実行する。
【0049】
そして、上記ステップS23でYESと判定されてバッテリー4の残容量SOCが下限値Cminよりも小さいことが確認された場合、コントローラ20は、次のステップS25で、発電機3の出力電圧を13V程度の中程度の出力値に設定し、バッテリー4に対しやや緩やかな充電を行う。一方、上記ステップS23でNOと判定されてバッテリー4の残容量SOCが下限値Cmin以上であることが確認された場合には、上記ステップS25のときの出力電圧(13V)よりもさらに低い電圧として、バッテリー4の端子電圧と略同じ12.5V程度の低出力値に設定する(ステップS26)。これにより、発電機3で発電された電力はバッテリー4の充電に用いられず、バッテリー4は基本的に放電状態になる。
【0050】
以上説明したように、当実施形態の車両用制御装置は、エンジン1の駆動力により発電してバッテリー4に充電電力を供給する発電機3の出力電圧を制御する電圧制御手段としての発電機制御部21と、エンジン1により駆動される空調装置用のコンプレッサー2の吐出容量を制御する容量制御手段としてのコンプレッサー制御部22とを備える。そして、上記発電機制御部21は、車両の減速時に上記発電機3の出力電圧を上昇させて上記バッテリー4への充電を促進し、非減速時には上記発電機3の出力電圧を抑制するとともに、上記コンプレッサー制御部22は、上記発電機3の出力電圧が増大設定される車両の減速時に、上記空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断されると(ステップS13〜S16でいずれもNO)、冷房要求レベルに応じて定められる基本吐出容量よりも所定量低い値に上記コンプレッサー2の吐出容量を設定するように構成されている(ステップS21)。このような構成によれば、車両の減速時に乗員が覚える違和感をより軽減しつつ、燃費性能を効果的に向上させることができる。
【0051】
すなわち、上記実施形態では、車両の減速時に発電機3の出力電圧を増大設定してバッテリー4を集中的に充電することにより、車両減速時のエネルギーをバッテリー4の充電に無駄なく利用することができ、バッテリー4の容量低下を防止しつつ燃費性能の向上を図ることができる。しかも、上記出力電圧の上昇に伴い発電機3の所要駆動トルク(駆動軸3aを回転させるのに必要なトルク)が増大したとしても、空調装置に対する冷房要求レベルが低い場合には、空調装置用のコンプレッサー2の吐出容量を基本吐出量よりも低く設定してその所要駆動トルク(駆動軸2aを回転させるのに必要なトルク)を低減するようにしたため、発電機3およびコンプレッサー2の所要駆動トルクが車両の減速時にともに増大してエンジン1の回転速度が急低下するといったことがなく、乗員の想定レベルを超えた過大な減速度が生じて乗員が違和感を覚えるのを効果的に防止することができる。
【0052】
さらに、上記実施形態の車両用制御装置は、車両に備わる特定電装品10が作動中か否かを判定する作動判定手段としての作動判定部23と、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるとき(ステップS13〜S16のいずれかでYESのとき)に、上記特定電装品10が作動中であることが上記作動判定部23により判定されると、上記特定電装品10の作動を停止させてその消費電力をゼロにする電気負荷調整手段としての電気負荷調整部24とを備えているため、冷房要求レベルが高いためにコンプレッサー2の吐出容量を下げられない場合でも、車両に過大な減速度が生じて乗員が違和感を覚えるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0053】
すなわち、上記構成によれば、冷房要求レベルが高いためにコンプレッサー2の吐出容量を下げられない状況下で、作動中の特定電装品10を停止させてその分の電気負荷を削減することにより、コンプレッサー2の吐出容量を十分に確保しつつ、発電機3の所要駆動トルクを低減することができる。したがって、車両の減速時に発電機3とコンプレッサー2との合計の所要駆動トルクが増大して過大な減速度が生じるのを効果的に防止することができ、冷房能力を高いレベルに維持しながら減速時の乗員の違和感を効果的に軽減できるという利点がある。
【0054】
なお、上記実施形態では、特定電装品10を停止させた後に発電機3の出力電圧を高出力値に設定しているが(ステップS19→S22)、このように発電機3の出力電圧を上げた場合でも、特定電装品10での消費電力が減る分だけ発電機3からの出力電流が減少するため、これによって発電機3の所要駆動トルクを低減することが可能である。
【0055】
また、上記実施形態では、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるとき(ステップS13〜S16のいずれかでYESのとき)に、上記特定電装品10が作動していないことが作動判定部23により判定されると、上記発電機制御部21が、上記発電機3の出力電圧を、上記冷房要求レベルが所定レベルよりも低いときに設定される出力電圧(ステップS22での出力電圧)よりも所定量低い値に設定するように構成されているため(ステップS25)、特定電装品10を停止させることで発電機3の所要駆動トルクを低減するという上記のような措置が採れない場合でも、発電機3の出力電圧を相対的に下げることにより、コンプレッサー2の吐出容量を確保して冷房能力を十分に維持しながら、減速時の乗員の違和感を効果的に軽減できるという利点がある。
【0056】
また、上記実施形態では、車室温度Tr、外気温度Ta、コンプレッサー2の吐出側の冷媒圧力Pcに基づいて上記冷房要求レベルを判断するようにしたため、どの程度の冷房能力が必要かを左右する各種状態量に基づいて冷房要求レベルを適正に判断することができ、その判断結果を利用して、コンプレッサー2等に関する必要な制御を適正に実施できるという利点がある。
【0057】
なお、上記実施形態では、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるとき(ステップS13〜S16のいずれかでYESのとき)に、特定電装品10が作動中であることが作動判定部23により判定されると、スイッチ11を遮断して上記特定電装品10の作動を完全に停止させることにより(ステップS19)、特定電装品10での消費電力をゼロにして発電機3に対する電気負荷を減らすようにしたが、例えば特定電装品10に供給される電力をデューティ制御等によって調整し、上記特定電装品10での消費電力を所定量減らすことにより、発電機3に対する電気負荷の低減を図るようにしてもよい。もちろん、このようにすると電気負荷の削減効果は小さくなるが、供給電力が完全に遮断されないため、特定電装品10の最低限の作動を確保しながら電気負荷を削減できるという利点がある。
【0058】
また、上記実施形態では、車室温度Tr、外気温度Ta、および冷媒圧力Pcの各種パラメータに基づいて冷房要求レベルを判断するようにしたが、冷房要求レベルは、このうちの少なくとも1つ以上のパラメータを用いることで判断することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】上記車両用制御装置による制御動作の前半部分を示すフローチャートである。
【図3】上記車両用制御装置による制御動作の後半部分を示すフローチャートである。
【図4】エンジン始動直後の充放電電流の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジン
2 コンプレッサー
3 発電機
4 バッテリー
10 特定電装品(電装品)
21 発電機制御部(電圧制御手段)
22 コンプレッサー制御部(容量制御手段)
23 作動判定部(作動判定手段)
24 電気負荷調整部(電気負荷調整手段)
Ta 外気温度
Tr 車室温度
Pc 冷媒圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力により発電してバッテリーに充電電力を供給する発電機の出力電圧を制御する電圧制御手段と、エンジンにより駆動される空調装置用のコンプレッサーの吐出容量を制御する容量制御手段とを備えた車両用制御装置であって、
上記電圧制御手段は、車両の減速時に上記発電機の出力電圧を上昇させて上記バッテリーへの充電を促進し、非減速時には上記発電機の出力電圧を抑制するとともに、
上記容量制御手段は、上記発電機の出力電圧が増大設定される車両の減速時に、上記空調装置に対する冷房要求レベルが所定レベルよりも低いと判断されると、冷房要求レベルに応じて定められる基本吐出容量よりも所定量低い値に上記コンプレッサーの吐出容量を設定することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用制御装置において、
車両に備わる特定の電装品が作動中か否かを判定する作動判定手段と、
車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるときに、上記電装品が作動中であることが上記作動判定手段により判定されると、上記電装品による消費電力を減少させる制御を行う電気負荷調整手段とを備えたことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用制御装置において、
上記電圧制御手段は、車両が減速中でかつ冷房要求レベルが所定レベル以上であるときに、上記電装品が作動していないことが上記作動判定手段により判定されると、上記発電機の出力電圧を、上記冷房要求レベルが所定レベルよりも低いときに設定される出力電圧よりも所定量低い値に設定することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用制御装置において、
上記冷房要求レベルは、車室温度、外気温度、上記コンプレッサーの吐出側の冷媒圧力のうち少なくとも1つに基づいて判断されることを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−30494(P2010−30494A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196228(P2008−196228)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】