説明

車両用前照灯装置

【課題】従来の車両用前照灯装置では、配光切替手段においてサージが発生すると、制御手段やスイブル手段がサージの影響を受ける。
【解決手段】この発明は、ソレノイド3のハーネス22、23にダイオード5が設けられている。この結果、この発明は、ソレノイド3への通電を遮断した際に、ソレノイド3のコイルにおいて発生するサージをダイオード5により吸収することができる。これにより、この発明は、ステッピングモータ4や制御手段がサージの影響を受けず、高精度にかつ確実に作動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前照灯ユニットから照射される配光を切り替えることができ、かつ、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させることができる車両用前照灯装置(車両用前照灯システム)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AFS(Adaptive Front lighting System)のように、たとえば、前照灯ユニットから照射される配光を切り替えることができ、かつ、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させることができる車両用前照灯装置は、従来からある(たとえば、特許文献1)。以下、従来の車両用前照灯装置について説明する。従来の車両用前照灯装置は、ランプの照射配光をメインビームとサブビームとに切り替える配光切替手段と、ランプの照射方向を偏向するためのスイブル手段と、これらの手段に信号伝送路を介して接続されていて各手段を制御する制御手段と、を備えるものである。従来の車両用前照灯装置は、制御手段の制御に基づいて、配光切替手段が作動してランプの照射配光がメインビームとサブビームとに切り替わり、また、スイブル手段が作動してランプの照射方向が車両の走行状況に応じて偏向する。
【0003】
ところが、従来の車両用前照灯措置は、配光切替手段において発生するサージ(サージ電流やサージ電圧)に対する対策手段が設けられていない。このために、従来の車両用前照灯装置では、配光切替手段においてサージが発生すると、制御手段やスイブル手段がサージの影響を受ける。特に、制御手段やスイブル手段において電子機器が使用されている場合には、サージの影響が受け易い。
【0004】
【特許文献1】特開2006−182100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする問題点は、前記の従来の車両用前照灯装置では、配光切替手段においてサージが発生すると、制御手段やスイブル手段がサージの影響を受けるという点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明(請求項1にかかる発明)は、配光切替駆動ユニットのハーネスにサージアブソーバが設けられている、ことを特徴とする。
【0007】
また、この発明(請求項2にかかる発明)は、サージアブソーバが、ダイオードであって、陽極側のハーネスと陰極側のハーネスとに電気的に接続されていて、配光切替駆動ユニットと並列に配置されている、ことを特徴とする。
【0008】
さらに、この発明(請求項3にかかる発明)は、ハーネスが、サージアブソーバが設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、ハーネスのうちサージアブソーバを含む折曲部分が固定手段により固定されている、ことを特徴とする。
【0009】
さらにまた、この発明(請求項4にかかる発明)は、ハーネスが、サージアブソーバが設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、ハーネスのうちサージアブソーバを含む折曲部分が結束手段により結束されている、ことを特徴とする。
【0010】
さらにまた、この発明(請求項5にかかる発明)は、配光切替駆動ユニットがソレノイドから構成されていて、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させるスイブル駆動ユニットが制御手段の制御により駆動するステッピングモータから構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明(請求項1にかかる発明)の車両用前照灯装置は、配光切替駆動ユニットのハーネスにサージアブソーバが設けられているので、配光切替駆動ユニットにおいてサージが発生しても、そのサージがサージアブソーバによって吸収される。この結果、この発明(請求項1にかかる発明)の車両用前照灯装置は、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させるスイブル駆動ユニット、および、そのスイブル駆動ユニットを制御する制御手段がサージの影響を受けることが無い。これにより、この発明(請求項1にかかる発明)の車両用前照灯装置は、スイブル駆動ユニットおよび制御手段が高精度にかつ確実に作動することができる。
【0012】
また、この発明(請求項2にかかる発明)の車両用前照灯装置は、サージアブソーバとしてダイオードを使用するので、サージを吸収する効果が大であり、かつ、コストを安価にすることができる。しかも、この発明(請求項2にかかる発明)の車両用前照灯装置は、サージアブソーバを配光切替駆動ユニットの陽極側のハーネスと陰極側のハーネスとに簡単にかつ確実に電気的に接続することができ、組付作業性が良い。
【0013】
さらに、この発明(請求項3にかかる発明)の車両用前照灯装置は、ハーネスのうちサージアブソーバを含む折曲部分が固定手段により固定されているので、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向が追従変化する際に、配光切替駆動ユニット側のハーネスは動くが、サージアブソーバを含む折曲部分側のハーネスは動かない。このために、この発明(請求項3にかかる発明)の車両用前照灯装置は、サージアブソーバを配光切替駆動ユニット側のハーネスが動く際の衝撃から保護することができ、サージアブソーバの耐久性を向上させることができ、かつ、前照灯ユニットの光照射方向の追従変化に十分に対応することができ、前照灯ユニットの光照射方向の追従変化に影響を与えることが無い。しかも、この発明(請求項3にかかる発明)の車両用前照灯装置は、ハーネスが、サージアブソーバが設けられている付近において折り曲げられているので、配光切替駆動ユニット側のハーネスが動く際の衝撃をハーネスが折り曲げられている箇所で吸収することができ、サージアブソーバが設けられているハーネスが前記の衝撃を受けずかつ屈曲したりすることが無く、これにより、サージアブソーバの耐久性がさらに向上される。
【0014】
さらにまた、この発明(請求項4にかかる発明)の車両用前照灯装置は、ハーネスのうちサージアブソーバを含む折曲部分が結束手段により結束されているので、配光切替駆動ユニット側のハーネスが動く際の衝撃をハーネスが折り曲げられている箇所で吸収することができる。この結果、この発明(請求項4にかかる発明)の車両用前照灯装置は、サージアブソーバが設けられているハーネスが前記の衝撃を受けずかつ屈曲したりすることが無いので、簡単かつ安価な結束手段により、サージアブソーバの耐久性がさらに向上される。
【0015】
さらにまた、この発明(請求項5にかかる発明)の車両用前照灯装置は、配光切替駆動ユニットのソレノイドへの通電を遮断した際に発生するサージをサージアブソーバが確実に吸収することができるので、スイブル駆動ユニットのステッピングモータの電子制御(パルス制御)および制御手段がサージの影響を受けない。これにより、この発明(請求項5にかかる発明)の車両用前照灯装置は、スイブル駆動ユニットのステッピングモータを高精度にかつ確実に制御することができ、かつ、制御手段が高精度にかつ確実に作動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明にかかる車両用前照灯装置の実施例のうちの2例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1〜図5は、この発明にかかる車両用前照灯装置の実施例1を示す。以下、この実施例1にかかる車両用前照灯装置の構成について説明する。図1および図2中、符号1は、この実施例1にかかる車両用前照灯装置である。前記車両用前照灯装置1は、自動車(車両)の前部の左右にそれぞれ装備される。前記車両用前照灯装置1は、前照灯ユニット2と、配光切替駆動ユニット3と、スイブル駆動ユニット4と、サージアブソーバ5と、ランプハウジング(図示せず)と、図示しないランプレンズ(たとえば、素通しのアウターレンズなど)と、を備えるものである。
【0018】
前記前照灯ユニット2および前記配光切替駆動ユニット3および前記スイブル駆動ユニット4および前記サージアブソーバ5は、前記ランプハウジングおよび前記ランプレンズにより区画されている灯室(図示せず)内に、たとえば光軸調整機構(図示せず)およびまたはレベリング装置(図示せず)を介して配置されている。
【0019】
前記前照灯ユニット2は、図1〜図4に示すように、たとえば、プロジェクタタイプのヘッドランプである。また、前記前照灯ユニット2は、光源6と、リフレクタ7と、投影レンズ(集光レンズ、凸レンズ)8と、シェード9と、ばね部材(図示せず)と、フレーム部材10と、ストッパ11と、を備えるものである。
【0020】
前記光源6は、この例では、放電灯を使用する。前記放電灯は、いわゆる、メタルハライドランプなどの高圧金属蒸気放電灯、高輝度放電灯(HID)などである。前記光源6は、前記リフレクタ7にソケット機構12を介して着脱可能に取り付けられている。なお、前記光源6としては、前記放電灯以外に、ハロゲン電球、白熱電球でも良い。前記光源6は、発光部13を有する。
【0021】
前記リフレクタ7は、前記光源6からの光(図示せず)を前記投影レンズ8側に反射させるものである。前記リフレクタ7は、固定部材としてのスクリュー14により、前記配光切替駆動ユニット3および前記ストッパ11と共に、前記フレーム部材10の後側(前記光源6側)に固定保持されている。前記リフレクタ7は、前側(前記車両用前照灯1の光の照射方向側)が開口し、かつ、後側が閉塞した中空の凹形状をなす。前記リフレクタ7の後側の閉塞部の中央には、前記光源6が挿入されるための円形の透孔15が設けられている。
【0022】
前記リフレクタ7の内凹面には、アルミ蒸着もしくは銀塗装などが施されていて、反射面16が形成されている。前記リフレクタ7の反射面16は、楕円もしくは楕円を基調とした反射面、たとえば、回転楕円面や楕円を基本とした自由曲面(NURBS曲面)などの反射面(図3および図4の垂直断面が楕円面をなし、かつ、図示しない水平断面が放物面ないし変形放物面をなす反射面)からなる。このために、前記リフレクタ7の前記反射面16は、第1焦点F1と、第2焦点(水平断面上の焦線)F2と、光軸Z−Zと、をそれぞれ有する。前記リフレクタ7の前記光軸Z−Zと、前記光源6の光軸(図示せず)とは、ほぼ一致する。
【0023】
前記リフレクタ7の前記反射面16の自由曲面(NURBS曲面)は、「Mathematical Elemennts for Computer Graphics」(Devid F. Rogers、J Alan Adams)に記載されているNURBSの自由曲面(Non-Uniform Rational B-Spline Surface)である。前記リフレクタ7の前記反射面16の前記第1焦点F1は、前記光源6の前記発光部13もしくはその近傍に位置する。前記リフレクタ7の前記反射面16の前記第2焦点F2は、前記シェード9もしくはその近傍に位置する。
【0024】
前記投影レンズ8は、前記リフレクタ7の前記反射面16からの反射光(図示せず)を車両の前方に投影するものである。前記投影レンズ8は、非球面レンズの凸レンズである。前記投影レンズ8の前方側は、凸非球面をなし、一方、前記投影レンズ8の後方側は、平非球面をなす。前記投影レンズ8は、固定環状部材としてのリム17により前記フレーム部材10の前側に固定保持されている。前記投影レンズ8は、図示しないレンズ焦点(物空間側の焦点面であるメリジオナル像面)と、光軸(図示せず)と、を有する。前記投影レンズ8の焦点と前記反射面16の第2焦点F2とは、ほぼ一致し、もしくは、相互に近傍に位置する。前記投影レンズ8の光軸と、前記反射面16の光軸Z−Zとは、ほぼ一致している。なお、前記投影レンズ8の光軸と、前記反射面16の光軸Z−Zとは、左右にずれていても良い。
【0025】
前記シェード9は、前記リフレクタ7の前記反射面16から前記投影レンズ8に向かう反射光を、複数の配光パターン、たとえば、すれ違い用配光パターン(図示せず)と走行用配光パターン(図示せず)HPとが得られる複数のビーム、すなわち、ロービーム(図示せず)とハイビーム(図示せず)とに切り替えるものである。前記シェード9は、製造コストが安価である板構造(この例では、平板の薄鋼板構造)からなる。前記シェード9と前記ばね部材とは、一体構造をなす。
【0026】
前記ばね部材および前記配光切替駆動ユニット3は、前記シェード9の姿勢を、斜め上後方と斜め下前方の姿勢との間において、前記ロービームと前記ハイビームとが得られる複数の姿勢、すなわち、ロービーム姿勢とハイビーム姿勢とに切り替えるものである。前記ロービーム姿勢は、図3に示す斜め上後方の姿勢(位置)であり、前記ハイビーム姿勢は、図4に示す斜め下前方の姿勢(位置)である。
【0027】
前記配光切替駆動ユニット3は、ソレノイドから構成されている。前記ソレノイド3は、本体18と、前記本体に対して進退する進退ロッド(プランジャ)19と、から構成されている。前記本体18中には、熱伝導率が高い材質たとえば金属からなるヨーク(図示せず)とコイル(図示せず)とが収納されている。
【0028】
前記ソレノイド3は、前記ばね部材のドームの空間中に収納されている。前記ソレノイド3は、固定部材としてのスクリュー14により、前記リフレクタ7と前記フレーム部材10との間に挟み込まれて取り付けられている。この結果、前記ソレノイド3は、前記リフレクタ7および前記フレーム部材10に固定保持されている。このとき、前記ソレノイド3は、図3および図4に示すように、前記本体18が前記進退ロッド19および前記シェード9に対して前記光源6と反対側に斜め下前方に位置するように、配置されている。そして、前記前照灯ユニット2が組み付けられることにより、一体構造の前記シェード9および前記ばね部材は、前記ソレノイド3に本止めされる。
【0029】
前記ストッパ11は、固定部材としてのスクリュー14により、前記リフレクタ7と共に、前記フレーム部材10に保持固定されている。前記ストッパ11は、前記シェード9の姿勢を前記ロービーム姿勢に規制制動する。すなわち、前記ストッパ11は、図3に示すように、前記ソレノイド3が非駆動時(非通電時)において、前記ばね部材のばね力によって前記シェード9が弾性当接して、前記シェード9のロービーム姿勢を水平方向および垂直方向で規制制動するものである。
【0030】
前記ソレノイド3には、コネクタ部20が設けられている。前記コネクタ部20には、電源側のコネクタ21が着脱可能に電気的に接続されている。前記電源側コネクタ21には、2本のハーネス、すなわち、陽極側のハーネス22と陰極側のハーネス23とが接続されている。前記ハーネス22、23は、電源(図示せず)に接続されている。
【0031】
前記サージアブソーバ5は、この例では、ダイオードである。前記ダイオード5は、前記陽極側のハーネス22と前記陰極側のハーネス23とに電気的にそれぞれ接続されていて、前記ソレノイド3と並列に配置されている(図5参照)。
【0032】
前記ハーネス22、23は、前記ダイオード5が設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、前記ハーネス22、23のうち前記ダイオード5を含む折曲部分が固定手段24により前記ランプハウジングに固定されている。
【0033】
前記固定手段24は、この例では、固定クリップである。前記固定クリップ24は、たとえば、絶縁性部材や弾性部材からなる。前記固定クリップ24の一端部には、円形の取付孔(図示せず)が設けられている。また、前記固定クリップ24の他端部には、前記ハーネス22、23を通す開口部(図示せず)が設けられている。前記固定クリップ24の開口部に前記2本のハーネスコード22、23を通し、前記固定クリップ24をランプハウジングに取付孔を介してスクリュー25により固定する。
【0034】
前記前照灯ユニット2の前記フレーム部材10の上面と下面とには、回転軸26がそれぞれ垂直軸もしくはほぼ垂直軸V方向に一体に設けられている。一方、前記スイブル駆動ユニット4には、ホルダ部材27が前記前照灯ユニット2を横から跨ぐように設けられている。前記前照灯ユニット2の前記回転軸26は、前記スイブル駆動ユニット4および前記ホルダ部材27に軸受など28を介して回転可能に保持されている。
【0035】
前記スイブル駆動ユニット4は、車両の走行状況に応じて前記前照灯ユニット2から照射される光の照射方向を追従変化させるものであって、制御手段(図示せず)の制御により駆動するステッピングモータから構成されている。前記ステッピングモータ4と前記前照灯ユニット2の前記回転軸との間には、回転力伝達機構(図示せず)が設けられている。この結果、前記ステッピングモータ4を前記制御手段の制御により駆動させると、前記前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転する。
【0036】
すなわち、前記制御手段には、検出手段が接続されている。前記検出手段は、車両の走行状況の変化を検出して検出信号を前記制御手段に出力するものである。前記制御手段は、前記検出手段からの検出信号に基づいて、前記ステッピングモータ4の駆動を制御するパルス信号(制御信号)を前記ステッピングモータ4に出力するものである。前記ステッピングモータ4は、前記制御手段からのパルス信号に基づいて駆動する。これにより、前記前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転する。
【0037】
この実施例1にかかる車両用前照灯装置は、以上のごとき構成からなり、以下、この実施例1にかかる車両用前照灯装置の作用について説明する。
【0038】
まず、光源6を点灯する。すると、この光源6の発光部13から光が放射される。この光は、リフレクタ7の反射面16でシェード9および投影レンズ8側に反射される。このとき、ソレノイド3が非駆動時、すなわち、非通電状態のときには、ばね部材のばね力により、ソレノイド3の進退ロッド19が前進してかつシェード9が図3中の実線矢印方向に付勢されており、かつ、シェード9がストッパ11に弾性当接している。この結果、シェード9は、シェード9の姿勢の切替方向と異なる2方向、すなわち、水平方向および垂直方向で規制制動されている。これにより、シェード9は、図3に示すロービーム姿勢にある。
【0039】
シェード9が図3に示すロービーム姿勢にあるときには、リフレクタ7の反射面16からの反射光のうちの一部、すなわち、リフレクタ7の反射面16の主に下面側からの反射光(主に走行用配光パターンを形成する反射光)は、シェード9により遮蔽される。一方、残りの反射光は、投影レンズ8側に進み、投影レンズ8を経て、すれ違い用配光パターンとして、自動車の前方に投影(放射、照射)される。
【0040】
ここで、ソレノイド3に通電すると、ソレノイド3が駆動して、ソレノイド3の進退ロッド19がばね部材のばね力に抗して後退する。これに伴って、シェード9は、図4中の実線矢印方向に移動する。すなわち、シェード9は、図3に示す斜め上後方の位置すなわちロービーム姿勢から、図4に示す斜め下前方の位置すなわちハイビーム姿勢に切り替わる。
【0041】
すると、今まで、シェード9により遮蔽されていたリフレクタ7の反射面16の主に下面側からの反射光は、リフレクタ7の反射面16の主に上面側からの反射光と共に、投影レンズ8側に進み、投影レンズ8を経て、走行用配光パターンとして、自動車の前方に投影(放射、照射)される。
【0042】
そして、ソレノイド3への通電を遮断すると、ソレノイド3が非駆動状態となるので、弾性変形していたばね部材がばね力に弾性復帰する。この結果、シェード9は、図4に示すハイビーム姿勢から図3に示すロービーム姿勢に移動して切り替わる。これにより、走行用配光パターンHPからすれ違い用配光パターンに切り替わる。
【0043】
そして、ソレノイド3への通電を遮断するとき、ソレノイド3のコイルに逆起電力が発生する。この逆起電力は、ソレノイド3と2本のハーネス22、23を介して経いれ何時に配置されているダイオード5を通して短絡することにより吸収される。これにより、サージの発生が抑制される。
【0044】
前記のサージの吸収作用について図5を参照して説明する。図5中の直流回路において、リレーRYと並列にダイオードDを配置する。すると、スイッチSWをOFFするときに、リレーRYのコイルに発生する逆起電力をダイオードDを通して短絡することによって吸収するので、サージの発生を抑制することができる。なお、図5中の符号Bは、直流電源である。
【0045】
また、車両の走行状況が変化すると、たとえば、車両が曲がると、検出手段が車両の走行状況の変化を検出して検出信号を制御手段に出力する。その制御手段は、検出手段からの検出信号に基づいて、ステッピングモータ4にパルス信号を出力する。そのステッピングモータ4は、制御手段からのパルス信号に基づいて駆動する。これにより、前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転して、前照灯ユニット2から照射される光の照射方向(光軸Z−Z)が車両の走行状況に応じて左右に追従変化する。
【0046】
前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転する際に、ハーネス22、23のうち前照灯ユニット2側の部分は、図1中の二点鎖線に示すように、前照灯ユニット2の回転に伴って動く。一方、ハーネス22、23のうち固定クリップ24で固定されている側の部分、すなわち、ダイオード5を含む折曲部分は、図1に示すように、前照灯ユニット2が回転しても動かない。
【0047】
この実施例1にかかる車両用前照灯1は、以上のごとき構成および作用からなり、以下、その効果について説明する。
【0048】
この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ソレノイド3のハーネス22、23にダイオード5が設けられているので、ソレノイド3においてサージが発生しても、そのサージがダイオード5によって吸収される。この結果、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、車両の走行状況に応じて前照灯ユニット2から照射される光の照射方向を追従変化させるステッピングモータ4、および、そのステッピングモータ4を制御する制御手段がサージの影響を受けることが無い。これにより、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ステッピングモータ4および制御手段が高精度にかつ確実に作動することができる。
【0049】
また、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、サージアブソーバとしてダイオード5を使用するので、サージを吸収する効果が大であり、かつ、コストを安価にすることができる。しかも、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ダイオード5をソレノイド3の陽極側のハーネス22と陰極側のハーネス23とに簡単にかつ確実に電気的に接続することができ、組付作業性が良い。
【0050】
さらに、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ハーネス22、23のうちダイオード5を含む折曲部分が固定クリップ24により固定されているので、車両の走行状況に応じて前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転してその前照灯ユニット2から照射される光の照射方向が追従変化する際に、ソレノイド3側のハーネス22、23は動くが、ダイオード5を含む折曲部分側のハーネス22、23は動かない。このために、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ダイオード5をソレノイド3側のハーネス22、23が動く際の衝撃から保護することができ、ダイオード5の耐久性を向上させることができ、かつ、前照灯ユニット2の回転すなわち前照灯ユニット2の光照射方向の追従変化に十分に対応することができ、前照灯ユニット2の光照射方向の追従変化に影響を与えることが無い。
【0051】
しかも、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ハーネス22、23が、ダイオード5が設けられている付近において折り曲げられているので、ソレノイド3側のハーネス22、23が動く際の衝撃をハーネス22、23が折り曲げられている箇所で吸収することができ、ダイオード5が設けられているハーネス22、23が前記の衝撃を受けずかつ屈曲したりすることが無く、これにより、ダイオード5の耐久性がさらに向上される。
【0052】
さらにまた、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ソレノイド3への通電を遮断した際に発生するサージをダイオード5が確実に吸収することができるので、ステッピングモータ4の電子制御(パルス制御)および制御手段がサージの影響を受けない。これにより、この実施例1にかかる車両用前照灯装置1は、ステッピングモータ4を高精度にかつ確実に制御することができ、かつ、制御手段が高精度にかつ確実に作動することができる。
【実施例2】
【0053】
図6は、この発明にかかる車両用前照灯装置の実施例2を示す。図中、図1〜図5と同符号は、同一のものを示す。以下、この実施例2にかかる車両用前照灯装置について説明する。
【0054】
この実施例2にかかる車両用前照灯装置において、ハーネス22、23は、ダイオード5が設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、前記ハーネス22、23のうち前記ダイオード5を含む折曲部分が結束手段、すなわち、保護テープ29により結束されている。前記保護テープ29は、たとえば、絶縁性のものを使用する。なお、図6においては、前記ハーネス22、23および前記ダイオード5が前記保護テープ29により結束されている状態を容易に理解できるように、前記保護テープ29により結束されている前記ハーネス22、23および前記ダイオード5が図示されている。
【0055】
この実施例2にかかる車両用前照灯装置は、ハーネス22、23のうちダイオード5を含む折曲部分が保護テープ29により結束されているので、ソレノイド3側のハーネス22、23が動く際の衝撃をハーネス22、23が折り曲げられている箇所で吸収することができる。この結果、この実施例2にかかる車両用前照灯装置は、前記の実施例1にかかる車両用前照灯装置1とほぼ同様に、ダイオード5が設けられているハーネス22、23が前記の衝撃を受けずかつ屈曲したりすることが無いので、簡単かつ安価な保護テープ29により、ダイオード5の耐久性がさらに向上される。
【0056】
以下、前記の実施例1、2以外の例について説明する。前記の実施例1、2においては、切り替えられる配光としてすれ違い用配光パターンと走行用配光パターンとが得られるものである。ところが、この発明においては、切り替えられる配光として、すれ違い用配光パターンおよび走行用配光パターン以外に、たとえば、高速道路用配光パターン、雨用配光パターン、霧用配光パターンなどであっても良いし、また、3つの配光パターンが切り替えられるものでも良い。
【0057】
また、前記の実施例1においては、固定手段の固定クリップ24により、ハーネス22、23の折曲部分を固定し、また、前記の実施例2においては、結束手段の保護テープ29により、ハーネス22、23の折曲部分を結束するものである。ところが、この発明においては、ハーネス22、23の折曲部分を、固定手段の固定クリップ24により固定し、かつ、結束手段の保護テープ29により結束しても良い。
【0058】
さらに、前記の実施例1、2においては、たとえば車両が曲がると、制御手段およびステッピングモータ4の作動により、前照灯ユニット2が垂直軸もしくはほぼ垂直軸V回りに左右に回転して、前照灯ユニット2から照射される光の照射方向(光軸Z−Z)が車両の走行状況に応じて左右に追従変化するものである。ところが、この発明においては、たとえば車速や積載量の変化により車両姿勢すなわち車両の高低差が変化すると、制御手段およびオートレベリング駆動ユニットの作動により、前照灯ユニット2が水平軸もしくはほぼ水平軸回りに上下に回転して、前照灯ユニット2から照射される光の照射方向(光軸Z−Z)が車両の走行状況に応じて上下に追従変化するものであっても良いし、また、左右の追従変化と上下の追従変化とを組み合わせたものであっても良い。
【0059】
さらにまた、前記の実施例1、2においては、サージアブソーバとしてダイオード5を使用するものである。ところが、この発明においては、サージアブソーバとしてダイオード5以外のもの、たとえば、コンデンサーおよび抵抗およびダイオードを組み合わせたものや放電ギャップ式(放電管タイプ)のものを使用しても良い。
【0060】
さらにまた、前記の実施例1、2においては、ハーネス22、23はダイオード5が設けられている付近において折り曲げられているものである。ところが、この発明においては、ハーネスを、折り曲げずにそのままの状態で、固定クリップなどの固定手段により固定したり、またはおよび、保護テープなどの結束手段により結束したりしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明にかかる車両用前照灯装置の実施例1を示す平面図である。
【図2】同じく、車両用前照灯装置を示す側面図である。
【図3】同じく、ソレノイドが非通電状態であってシェードがロービーム姿勢にある状態を示す縦断面図である。
【図4】同じく、ソレノイドが通電状態であってシェードがハイビーム姿勢にある状態を示す縦断面図である。
【図5】同じく、サージアブソーバのダイオードの作用を示す説明図である。
【図6】この発明にかかる車両用前照灯装置の実施例2を示すハーネスと保護テープとの一部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 車両用前照灯装置
2 前照灯ユニット
3 ソレノイド(配光切替駆動ユニット)
4 ステッピングモータ(スイブル駆動ユニット)
5 ダイオード(サージアブソーバ)
6 光源
7 リフレクタ
8 投影レンズ
9 シェード
10 フレーム部材
11 ストッパ
12 ソケット機構
13 発光部
14 スクリュー
15 透孔
16 反射面
17 リム
18 本体
19 進退ロッド
20 コネクタ部
21 電源側コネクタ
22 陽極側のハーネス
23 陰極側のハーネス
24 固定クリップ(固定手段)
25 スクリュー
26 回転軸
27 ホルダ
28 軸受など
29 保護テープ(結束手段)
V 垂直軸もしくはほぼ垂直軸
Z−Z 光軸
F1 第1焦点
F2 第2焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前照灯ユニットから照射される配光を切り替えることができ、かつ、車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させることができる車両用前照灯装置において、
前照灯ユニットから照射される配光を切り替える配光切替駆動ユニットと、
前記配光切替駆動ユニットのハーネスに設けられているサージアブソーバと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記サージアブソーバは、ダイオードであって、陽極側の前記ハーネスと陰極側の前記ハーネスとに電気的に接続されていて、前記配光切替駆動ユニットと並列に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記ハーネスは、前記サージアブソーバが設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、前記ハーネスのうち前記サージアブソーバを含む折曲部分が固定手段により固定されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記ハーネスは、前記サージアブソーバが設けられている付近において折り曲げられていて、かつ、前記ハーネスのうち前記サージアブソーバを含む折曲部分が結束手段により結束されている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記配光切替駆動ユニットは、ソレノイドから構成されていて、
車両の走行状況に応じて前照灯ユニットから照射される光の照射方向を追従変化させるスイブル駆動ユニットは、制御手段の制御により駆動するステッピングモータから構成されている、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−135322(P2008−135322A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321564(P2006−321564)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】