説明

車両用加速抑制装置及び車両用加速抑制方法

【課題】自車両が障害物に接近する際の運転性の低下を抑えつつ加速操作の誤操作時の加速抑制をより確実に実施可能とする。
【解決手段】自車両の車速が所定値未満で、自車両進行方向前方の障害物に対する自車両の接近度合Dが、予め設定した接近度合D以上に障害物に近づいたと判定すると、運転者が加速指示するために操作する加速操作子の操作量に応じた加速指令値を抑制する。更に、上記加速指令値を抑制しているときに予め設定した設定加速操作量以上の加速操作を検出すると、加速指令値の抑制量を増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物に対する運転支援を行うための車両用加速抑制の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物の速度を制御する装置としては、例えば特許文献1に記載の安全装置がある。この安全装置では、ナビゲーション装置の地図データと現在位置の情報とから乗物が道路から外れた位置にあることを検出し、乗物の走行速度を増加させる方向のアクセル操作があり且つ乗物の走行速度が所定の値より大きいと判断されたときは、アクセルの操作に拘わらずスロットルを減速方向に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−137001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、アクセル操作の誤操作があっても運転者の意図しない車両の加速を防止することを目的としている。このとき、アクセルの操作が誤操作であるか否かの判断が課題となる。そして、上記特許文献1では、地図情報に基づき自車両が道路から外れた位置にあり且つ所定値以上の走行速度を検出しているときのアクセル踏込み操作を、アクセル誤操作の可能性があるとし、上記条件をスロットル抑制の作動条件としている。
【0005】
しかし、上述の作動条件では、道路から外れて駐車場に進入するだけで、車速によってはスロットル抑制が作動してしまい、駐車場内での運転性を悪化させてしまう。また、運転性が悪化しない程度のスロットル抑制に設定した場合には、アクセル操作の誤操作に対する抑制効果が弱くなってしまう。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、運転性の低下を抑えつつ加速操作の誤操作時の加速抑制をより確実に実施可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、自車両の走行状態が所定の状態のもとで、自車両進行方向前方の障害物に対する自車両の接近度合が、予め設定した接近度合以上に障害物に近づいたと判定すると、運転者が加速指示するために操作する加速操作子の操作量に応じた加速指令値を抑制する。更に、上記加速指令値を抑制しているときに予め設定した設定加速操作量以上の加速操作を検出すると、加速指令値の抑制量を増大する。
【発明の効果】
【0007】
自車両に対する障害物の距離(障害物への接近度合)に基づいて加速制限を行う。これによって、運転性の低下を抑えながら、アクセルペダルの誤操作があった場合に加速度抑制制御を行うことが可能となる。
また、加速抑制している状態でさらに加速操作が行われた場合には、アクセルペダルの誤操作の蓋然性が高いため、加速指令値の抑制量を増大することで、より適切に加速抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る車両の構成を示す概念図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る走行制御コントローラの構成を説明するための図である。
【図3】加速抑制作動条件判断部の処理を説明するための図である。
【図4】加速抑制量演算部の処理を説明する図である。
【図5】ステップS230の処理の具体例を示す図である。
【図6】第2加速抑制量の例を示す図である。
【図7】第1加速抑制量の例を説明する図である。
【図8】目標スロットル開度演算部の処理を説明する図である。
【図9】本実施形態におけるタイムチャート例を示す図である。
【図10】アクセル操作量に応じた加速抑制量の遷移を示す図である。
【図11】自車両が障害物に接近している例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
「第1実施形態」
(構成)
車両は、制動力を発生する制動装置、及び駆動力を発生する駆動装置を備える。
制動装置は、図1に示すように、車輪11に設けられるブレーキ装置12と、その各ブレーキ装置12に接続する配管を含む流体圧回路13と、ブレーキコントローラ14とを備える。ブレーキコントローラ14は、上記流体圧回路13を介して各ブレーキ装置12で発生する制動力を、制動力指令値に応じた値に制御する。ブレーキ装置12は、流体圧で制動力を付与する装置に限定されず、電動ブレーキ装置等であっても良い。
【0010】
駆動装置は、図1に示すように、駆動源としてのエンジン15と、エンジン15で発生するトルク(駆動力)を制御するエンジンコントローラ16とを備える。駆動装置の駆動源は、エンジン15に限定されず、電動モータであっても良いし、エンジン15とモータを組み合わせたハイブリッド構成であっても良い。
上記ブレーキコントローラ14とエンジンコントローラ16は、それぞれ上位コントローラである走行制御コントローラ10からの制動指令、駆動指令(加速指令値)の各指令値を受け付ける構成とする。ブレーキコントローラ14とエンジンコントローラ16は、加減速制御装置を構成する。
【0011】
また車両は、図1及び図2に示すように、周囲環境認識センサ1と、車輪速センサ2と、操舵角センサ3と、シフトポジションセンサ4と、ブレーキ操作検出センサ5と、アクセル操作検出センサ6と、ナビゲーション装置7を備える。また、車両は、走行制御コントローラ10を備える。
周囲環境認識センサ1は、自車両MMの周囲(少なくとも進行方向前方)の障害物を認識し、認識した周囲の状態を走行制御コントローラ10に出力する。この周囲環境認識センサ1は、例えば車両周囲に存在する他車両その他の障害物を検出可能な1又は2台以上のソナー(超音波探査装置)から構成される。周囲環境認識センサ1は、例えば車両の前部、及び後部に設けられ、自車両の前方及び後方に存在する障害物を検出することで当該障害物を認識する。
【0012】
周囲環境認識センサ1は、超音波の他、赤外線レーダ、電波式レーダによって障害物を検出する構成であっても良い。また周囲環境認識センサ1は、車両周囲を撮像可能なカメラから構成しても良い。更に、複数のセンサによって周囲環境認識センサ1を構成しても良い。更に、周囲環境認識センサ1の設置位置も、車両の前部、及び後部の他、車体屋根部やサイドミラー位置などであっても良い。
車輪速センサ2は、車輪速を検出し、検出した車輪速情報を走行制御コントローラ10に出力する。車輪速センサ2は、例えば車輪速パルスを計測するロータリエンコーダなどのパルス発生器で構成する。
【0013】
操舵角センサ3は、ステアリングホイール20の操舵角を検出し、検出した操舵角情報を走行制御コントローラ10に出力する。操舵角センサ3は、ステアリング軸などに設けられる。操向輪の転舵角を操舵角情報として検出しても良い。
シフトポジションセンサ4は、シフト位置(駆動指示位置、駐車指示位置、ニュートラル位置など)のシフト情報を検出し、検出信号を走行制御コントローラ10に出力する。
ブレーキ操作検出センサ5は、ブレーキペダル18の操作の有無や操作量を検出する。検出されたブレーキペダル操作量は走行制御コントローラ10に出力される。ブレーキペダル18は、運転者が操作する減速指示用の操作子である。
【0014】
アクセル操作検出センサ6は、アクセルペダル19の操作量を検出する。検出されたアクセルペダル操作量は走行制御コントローラ10に出力される。アクセルペダル19は運転者が操作する加速指示用の操作子である
ナビゲーション装置7は、GPS受信機、地図データベース、および表示モニタ等を備えており、経路探索および経路案内等を行う装置である。ナビゲーション装置7は、GPS受信機を通じて得られる自車両MMの現在位置と地図データベースに格納された道路情報に基づいて、自車両MMが走行する道路の種別や道路幅員等の情報を取得することができる。
【0015】
情報呈示装置は、走行制御コントローラ10からの制御信号に応じて警報その他の呈示を音声や画像によって出力する。情報呈示装置は、例えば、ブザー音や音声により運転者への情報提供を行うスピーカと、画像やテキストの表示により情報提供を行う表示ユニットとを備える。表示ユニットは、例えばナビゲーション装置7の表示モニタを流用しても良い。
【0016】
走行制御コントローラ10は、CPUと、ROMおよびRAM等のCPU周辺部品とから構成される電子制御ユニットである。その走行制御コントローラ10は、駐車のための運転支援処理を行う駐車運転支援部を備える。走行制御コントローラ10の処理のうち駐車運転支援部は、機能的には、図2に示すように、周囲環境認識情報演算部10A、自車両車速演算部10B、操舵角演算部10C、操舵角速度演算部10D、シフトポジション演算部10E、ブレーキペダル操作情報演算部10F、アクセル操作量演算部10G、アクセル操作速度演算部10H、加速抑制作動条件判断部10I、加速抑制量演算部10J、及び目標スロットル開度演算部10Kの処理を備える。これらの機能は、1又は2以上のプログラムで構成される。
【0017】
周囲環境認識情報演算部10Aは、周囲環境認識センサ1からの信号に基づき車両周囲の環境を認識する。
自車両車速演算部10Bは、車輪速センサ2からの信号に基づき車速を演算する。
操舵角演算部10Cは、操舵角センサ3からの信号に基づき操舵角を演算する。
操舵角速度演算部10Dは、操作角センサからの信号を微分処理することで操舵角速度を演算する。
【0018】
シフトポジション演算部10Eは、シフトポジションセンサ4からの信号に基づき、シフト位置を判定する。
ブレーキペダル操作情報演算部10Fは、ブレーキ操作検出センサ5からの信号に基づきブレーキ操作量を判定する。
アクセル操作量演算部10Gは、アクセル操作検出センサ6からの信号に基づきアクセルペダル19の操作量を演算する。
アクセル操作速度演算部10Hは、アクセル操作検出センサ6からの信号を微分処理することでアクセルペダル19の操作速度を演算する。
【0019】
次に、加速抑制作動条件判断部10Iの処理について、図面を参照しながら説明する。加速抑制作動条件判断部10Iは、図3に示す処理を予め設定したサンプリング時間毎に行う。
ステップS110では、加速抑制作動条件判断部10Iは、上記周囲環境認識情報演算部10Aで演算した周囲環境認識情報から、自車両周囲の障害物情報を取得する。より具体的には、周囲環境認識センサ1として設けられたカメラによって自車両の周囲を撮像し、その撮像した画像から、駐車枠を検出する。そしてその駐車枠内には障害物が存在しておらず、かつその駐車枠周辺にある障害物を自車両周囲の障害物情報として取得する。
【0020】
次にステップS120では、上記ステップS110で取得した自車両周囲画像に基づいて、自車進行方向前方の障害物の有無を判断する。障害物が有ると判断した場合にはステップS130に移行する。一方、障害物が無いと判断した場合には、加速抑制作動条件非成立と判断してステップS190に移行し、ステップS190において、加速抑制作動条件判断結果(=加速抑制作動条件非成立)を加速度制限値演算部に出力する。障害物の有無の判断は、自車両MMに対し予め設定した距離やエリア内に障害物が存在するか否かで判断する。
【0021】
次にステップS130では、上記自車両車速演算部10Bより自車両MMの車速を取得する。
次にステップS140では、上記ステップS130で取得した自車両車速に基づいて、自車両車速条件判断を行う。例えば自車両車速が予め設定した値未満の場合にはステップS150に移行し、自車両車速が上記予め設定した値以上の場合には、加速抑制作動条件非成立と判断してステップS190に移行し、ステップS190にて加速抑制作動条件判断結果(=加速抑制作動条件非成立)を加速抑制量演算部10Jに出力する。上記予め設定した値は、例えば15[km/h]とする。
【0022】
次にステップS150では、上記ブレーキペダル操作情報演算部10Fから、ブレーキペダル操作情報を取得する。
次にステップS160では、上記ステップS150で取得したブレーキペダル操作情報に基づいて、ブレーキペダル操作の判断を行う。ブレーキペダル操作がないと判断した場合にはステップS170に移行する。一方、ブレーキペダル操作があると判断した場合には、加速抑制作動条件非成立と判断してステップS190に移行し、ステップS190にて、加速抑制作動条件判断結果(=加速抑制作動条件非成立)を加速抑制量演算部10Jに出力する。
ステップS170では、上記アクセル操作量演算部10Gから、アクセル操作量を取得する。
【0023】
次にステップS180では、上記ステップS170で取得したアクセル操作量に基づいて、アクセル操作量判断を行う。例えばアクセル操作量が予め設定した値以上の場合は加速抑制作動条件成立と判断する。一方、アクセルペダル操作が上記予め設定した値未満の場合には、加速抑制作動条件非成立と判断してステップS190に移行し、ステップS190にて、加速抑制作動条件判断結果を加速抑制量演算部10Jに出力する。ここで、上記予め設定した値は、例えば、アクセルペダル19のアクセル開度の3[%]に相当する操作量に設定する。
【0024】
次にステップS183では、自車前後の障害物情報を取得する。
次にステップS186では、上記ステップS183で取得した自車前後障害物情報に基づいて、障害物との接近度合Dの演算を行う。演算した障害物との距離を接近度合Dとする。そして、障害物との接近度合Dが予め設定した値以下の場合には加速抑制作動条件成立と判断する。一方、障害物との接近度合Dが予め設定した値よりも大きくて、回避動作を行うのに十分な場合は、加速抑制作動条件非成立と判断する。上記予め設定した値は、例えば3.5mに設定する。
ここで、接近度合Dは、距離自体である必要はない。例えば、自車両が現在の障害物の位置に到達する到達時間TTCなどのリスクポテンシャルを、接近度合Dの値としても良い。
ステップS190では、加速抑制作動条件判断結果を加速抑制量演算部10Jに出力する。
【0025】
次に、上記加速抑制量演算部10Jの処理について、図面を参照しながら説明する。加速抑制量演算部10Jは、図4に示す処理を予め設定したサンプリング時間毎に行う。
ステップS210では、上記加速抑制作動条件判断部10Iから加速抑制作動条件判断結果を取得する。
次にステップS220では、加速抑制処理選択情報を取得する。上記ステップS220は、例えば上記アクセル操作量演算部10Gからアクセル操作量を、上記アクセル操作速度演算部10Hからアクセル操作速度を、上記加速抑制作動条件判断部10Iから加速抑制作動条件判断結果を取得する。
【0026】
次にステップS230では、上記ステップS220で取得した加速抑制処理選択情報に基づいて、加速抑制処理を選択する。具体的には、第2加速抑制処理の作動条件が成立したと判断した場合はステップS240に移行する。第2加速抑制処理の作動条件が成立せず且つ第1加速抑制処理の作動条件が成立したと判断した場合にはステップS250に移行する。更に、第2加速抑制処理及び第1加速抑制処理の作動条件がともに成立していない場合には、ステップS260に移行する。
【0027】
上記ステップS230の処理、特に第2加速抑制処理の作動条件、第1加速抑制処理の作動条件の判定について図5を参照して説明する。
まずステップS231において、前回の制御サイクルでの判定処理時に第2加速抑制処理が作動していたか否かを判断する。前回の制御サイクルでの判定で第2加速抑制処理が作動していた場合にはステップS233へ移行する。前回の制御サイクルでの判定で第2加速抑制処理が作動していなかった場合にはステップS235へ移行する。
【0028】
ステップS233では、前回第2加速抑制処理が作動していた場合の第2加速抑制処理の作動終了判断を行う。具体的には、上記ステップS220で取得したアクセル操作量に基づいてアクセル操作が行われていると判断した場合は、第2加速抑制の作動を継続すると判定してステップS240へ移行する。一方、アクセル操作が行われていないと判断した場合は、再度作動条件判断を行うためにステップS235に移行する。
【0029】
ステップS235では、第1加速抑制処理の作動条件の判断を行う。例えば、上記ステップS210で取得した加速抑制作動条件判断結果が条件成立と判断している場合には、第1加速抑制処理の作動条件成立と判断してステップS237に移行する。一方、加速抑制作動条件判断結果が条件非成立と判断している場合には、ステップS260に移行する。
【0030】
ステップS237では、第2加速抑制処理作動条件の判断を行う。例えば、下記条件(a〜c)を全て満足する場合には、第2加速抑制処理の作動を行うと判定してステップS240に移行する。それ以外の場合はステップS250に移行する。
a:上記ステップS210で取得した加速抑制作動条件判断結果が条件成立
b:上記ステップS220で取得したアクセル操作量が予め設定した設定操作量(例えばアクセル開度が50[%])以上
c:アクセル操作速度が予め設定した操作速度(例えば200[%/sec])以上
そして、図4におけるステップS240では、上記ステップS220で取得した情報に基づいて第2加速抑制量を演算し、ステップS270に移行する。
【0031】
第2加速抑制量の演算方法は、例えば次のように実施する。すなわち、上記ステップS220で取得したアクセル操作量に基づいて、加速抑制量が予め設定した設定抑制量より大きくならないような加速抑制量を演算し、ステップS270に移行する。具体的には、図6に示すように、予め設定した値未満の加速操作量に対しては加速操作に応じたスロットル開度を演算し、予め設定した値以上の加速操作(アクセル操作)に対しては加速操作に拘わらず加速スロットル開度(加速指令値)が10[%]より大きくならないように加速抑制量を演算する。図6中、実線が、通常時つまり抑制をしていない状態での、アクセル操作量とスロットル開度とを示す。また一点鎖線が、第2加速抑制を実施した場合におけるアクセル操作とスロットル開度の関係を示す。すなわち、検出したアクセル操作量における、実線と一点鎖線との差分が第2加速抑制量となる。
【0032】
またステップS250では、上記ステップS220で取得した情報に基づいて第1加速抑制量を演算し、ステップS270に移行する。第1加速抑制量の演算方法について説明する。上記ステップS220で取得したアクセル操作量に基づいて、アクセル操作量に応じてスロットル開度が大きくなるように演算するように第1加速抑制量を演算し、ステップS270に移行する。具体的には、図7に示すように、アクセル操作量が大きくなることに応じてスロットル開度(加速指令値)が大きくなるように演算する。ここで、第1加速抑制量は、アクセル操作量に対して第2加速抑制量より抑制量が小さく加速が大きい加速抑制量、抑制を行っていない通常時より抑制量が大きく加速が小さいスロットル開度になるように加速抑制量を演算する。図7中、実線が、通常時つまり抑制をしていない状態での、アクセル操作量とスロットル開度とを示す。また一点鎖線が、第2加速抑制を実施した場合におけるアクセル操作とスロットル開度の関係を示す。すなわち、検出したアクセル操作量における、実線と二点鎖線との差分が第1加速抑制量となる。
【0033】
ここで、図7に示すように、第2加速抑制量は第1加速抑制量よりも大きく、図6及び図7に示すように、第1加速抑制量及び第2加速抑制量は、ともにアクセル操作量が大きいほど大きくなるように設定されている。
またステップS260では、アクセルの操作に対して加速抑制を行わない加速抑制量を演算し、ステップS270に移行する。本実施形態では、加速抑制を行わない加速抑制量はゼロに設定する。
ステップS270では、上記ステップS202で演算した加速抑制量を目標スロットル開度演算部10Kに出力する。
【0034】
次に、上記目標スロットル開度演算部10Kの処理について、図面を参照しながら説明する。目標スロットル開度演算部10Kは、図8に示す処理を予め設定したサンプリング時間毎に行う。
まずステップS310では、上記加速抑制作動条件判断部10Iから、加速抑制作動条件判断結果を取得する。
次にステップS320では、上記アクセル操作量演算部10Gから、アクセル操作量を取得する。
次にステップS330では、上記加速抑制量演算部10Jから、加速抑制量を取得する。
【0035】
次にステップS340では、上記ステップS310で取得した加速抑制作動条件判断結果と、上記ステップS320で取得したアクセル操作量と、上記ステップS330で取得した加速抑制量に基づいて、目標スロットル開度を演算する。例えば、加速抑制作動条件が非成立である場合は、加速抑制を行わない通常通りのアクセル操作量に基づいたスロットル開度を目標スロットル開度とする。一方、加速抑制作動条件が成立している場合は、加速抑制量に基づいたスロットル開度を目標スロットル開度とする。
【0036】
例えば下記式によって、目標スロットル開度θ*を求める。
θ* = θ1−Δθ
ここで、θ1は、アクセル操作量に応じたスロットル開度を示し、Δθは、加速抑制量を示す。
次にステップS350では、上記ステップS340で演算された目標スロットル開度θ*をエンジンコントローラ16に出力する。
エンジンコントローラ16は、取得した目標スロットル開度θ*となるように、スロットル開度を制御する事で、駆動源であるエンジンを制御する。
【0037】
(動作その他)
本実施形態の処理によるタイムチャートの例を図9に示す。
この図9に示す例では、自車両進行方向前方の障害物を検出し(t1)且つ車速が予め設定した設定速度以下の状態になると(t2)、障害物に対する自車両MMの接近度合Dの判定を行う。そして、図9に示す例では、障害物に対する自車両MMの接近度合Dが予め設定した値以下となると(t3)、障害物に予め設定した接近度合D以上に接近したと判定して加速抑制の作動状態となる。
【0038】
この加速抑制の作動状態のときに、運転者がアクセル操作を行うと、そのアクセル操作に応じた加速指令値(スロットル開度)を抑制する。更に、この加速抑制を実施している状態で、アクセル操作量が予め設定した操作量以上となると(t4)、加速指令値の抑制量を増大する。本実施形態では、予め設定したスロットル開度以下抑えるように加速抑制を行う結果、図10に示すように、アクセル操作量が予め設定した操作量を越える前に比較して、実際のスロットル開度が小さく抑制される。この結果、運転者によるアクセルペダル19の誤操作に対する加速抑制がより有効に実行されることとなる。
【0039】
ここで、図10は、アクセルペダルの操作量に応じた加速抑制御のスロットル開度(加速指示量)の遷移の例を示す。図10に示す例では、加速抑制処理が第2加速抑制処理に移行してもアクセルペダルが戻されて、第1加速抑制処理の加速抑制量と第2加速抑制処理の加速抑制量が等しくなった時点で、第1加速抑制処理に遷移する。
【0040】
以上のように、例えば図11に示すように、自車両前方に存在する壁などの障害物を検出する。そして、その障害物への接近度合Dが予め設定した接近度合以上まで当該障害物に接近することを、加速抑制の作動条件とする。この結果、自車両MMが例えば道路から外れて駐車場に進入しても、障害物への接近度合Dが予め設定した値以下となるまでは加速抑制を行わないので、その分、運転性の低下を抑えることが出来る。逆に、障害物への接近度合Dが予め設定した値以下となった後は、加速抑制を行うことで、アクセルペダル誤操作時の加速抑制効果の高い加速抑制を実現することが可能となる。
【0041】
また、障害物への接近度合Dが予め設定した値以下となった場合と、その後さらに加速操作が行われてアクセルペダル誤操作の可能性がより高い場合とに分けて、2段階の加速抑制を行う。この結果、運転性の低下を抑えながらアクセルペダル誤操作時の加速抑制効果の高い加速抑制を行うことが可能となる。
また、障害物に接近する状態で、加速操作量に応じてスロットル開度が大きくなる際に、通常よりスロットル開度が小さくなるように加速抑制を行う。すなわち、加速操作量が大きくなるにつれて加速抑制量を大きくすることで、運転性の低下が少なく、加速の抑制効果の高い加速抑制を行うことが可能となる。加速操作が小さい状態では加速抑制量が小さいので運転性低下が少なく、加速操作が大きい状態で加速抑制量が大きくなって加速抑制効果が高くなる。
【0042】
更に、大きな加速操作を行って、第2加速抑制状態となると、予め設定した値以上にはスロットル開度が大きくならないように加速抑制を行う。この結果、加速操作の誤操作によって運転者の意図しない加速が発生することを抑制でき、事故を回避・軽減する効果の高い加速抑制を行うことが可能となる。なお、第2加速抑制状態となっても、加速操作量が予め設定した値未満まで小さくなれば、第1加速抑制状態となる。
【0043】
このように、障害物に接近する状態で大きな加速操作を行った場合には、第1の加速度抑制処理による加速抑制量よりも抑制量の大きい加速抑制を第2加速抑制処理として行うことによって、運転者の加速操作の誤操作による意図しない加速が発生することを抑制できる。この結果、障害物に対する運転支援の効果を奏する加速抑制を行うことが可能となる。
また、加速操作量としてアクセルペダル19の操作量とアクセルペダル操作の速度を検出することにより、加速操作の誤操作と通常操作との区別をより精度良く行うことができ、運転性の低下が少なく、加速の抑制効果の高い加速抑制を実現することが可能となる。
【0044】
ここで、周囲環境認識情報演算部10Aは周囲環境認識手段を構成する。アクセル操作量演算部10G及びアクセル操作速度演算部10Hは、加速操作量検出手段を構成する。自車両速度演算部、操舵角演算部10C、操作角速度演算部、ブレーキペダル操作情報演算部10F、アクセル操作量演算部10G、アクセル操作速度演算部10Hは、自車両走行状態検出手段を構成する。加速抑制作動条件判断部10Iは駐車枠進入操作検出手段を構成する。加速抑制量演算部10J及び目標スロットル開度演算部10Kは、第1加速度抑制手段及び第2加速度抑制手段を構成する。
アクセルペダル19は、加速操作子を構成する。スロットル開度は、加速指令値を構成する。
【0045】
(本実施形態の効果)
(1)走行制御コントローラ10は、検出されている自車両の走行状態のもとで、少なくとも自車両進行方向前方の障害物との距離に基づき、予め設定した接近度合D以上に当該障害物に近づいたと判定すると、上記加速操作子の操作量に応じた加速指令値(スロットル開度)を抑制する。走行制御コントローラ10は、上記加速指令値を抑制しているときに予め設定した設定加速操作量以上の加速操作(アクセルペダル操作)を検出したら加速指令値の抑制量を増大する。
【0046】
このように、障害物との距離に基づいて加速制限を行う。この結果、運転性の低下を抑えながら、アクセルペダルの誤操作があった場合に効果の高い加速度抑制制御を行うことが可能となる。
また、障害物との距離に基づいて第一加速度制限処理を実施し、その後さらに加速操作が行われると加速抑制を増大することにより、効果の高い加速抑制制御を行うことが可能となる。
これによって、障害物に対する運転支援が可能となる。例えば、障害物に近づけて自車両を駐車する際に、より確実且つより安定して目的位置に駐車するように支援可能となる。
【0047】
(2)走行制御コントローラ10は、上記加速指令値を抑制しているときに予め設定した設定加速操作量以上の加速操作を検出した場合は、上記加速指令値を予め設定した上限加速指令値以下に抑える。
この構成によれば、運転者が大きな加速操作を行っても、その加速操作による加速指令値を、予め設定した値以上には大きくならないように加速抑制を行う、これによって、加速操作の誤操作によって運転者の意図しない加速が発生することを抑制できる。この結果、障害物に接近して駐車する際などにおける運転支援を可能となる。
【0048】
(3)走行制御コントローラ10は、加速操作子の操作量及び当該加速操作子の操作速度の少なくとも一つを加速操作量として検出する。
加速操作量としてアクセルペダルの操作量、若しくはアクセルペダル操作の操作速度を検出する。これによって、加速操作の誤操作と通常操作との区別をより正確に行うことができ、運転性の低下が少なく、加速の抑制効果の高い制御を実現することが可能となる。
【0049】
(4)周囲環境認識センサ1は、超音波、赤外線レーダ、電波式レーダ、及びカメラのうちの少なくとも1つを使用して障害物との距離を検出する。
自車前後の障害物との距離を検出する方法として、超音波、赤外線レーダ、電波式レーダ、カメラの中の少なくとも1つもしくはその組み合わせを用いることで、ドライバが自車前後に位置する障害物へ接近しているかどうかを適切に判定することができる。すなわち、相対的に自車両に接近する障害物をより確実に検出することが可能となる。
【0050】
(5)自車両の走行状態を車速で検出する。これによって、加速抑制装置として専用のセンサを設けることなく、適切な加速抑制制御を行うことができる。
(6)自車両の周囲を撮像するカメラを設け、カメラで撮像した画像から駐車枠を検出し、該駐車枠内には障害物が存在しておらず、駐車枠の周囲に存在する障害物がある場合に、その障害物との距離を検出する。
この結果、より適切に駐車状態を検出し、加速抑制制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 周囲環境認識センサ
10 走行制御コントローラ
10A 周囲環境認識情報演算部
10B 自車両車速演算部
10C 操舵角演算部
10D 操舵角速度演算部
10E シフトポジション演算部
10F ブレーキペダル操作情報演算部
10G アクセル操作量演算部
10H アクセル操作速度演算部
10I 加速抑制作動条件判断部
10J 加速抑制量演算部
10K 目標スロットル開度演算部
11 車輪
12 ブレーキ装置
14 ブレーキコントローラ
15 エンジン
16 エンジンコントローラ
19 アクセルペダル
D 接近度合
MM 自車両
θ* 目標スロットル開度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が加速指示するために操作する加速操作子の操作量によって、自車両を加速させる加速指令値を抑制することで、自車両の駆動力を抑制制御する車両用加速抑制装置であって、
自車両の走行状態を検出する自車両走行状態検出手段と、
少なくとも自車両進行方向前方の障害物と自車両との距離を検出する障害物距離検出手段と、
上記加速操作子の加速操作量を検出する加速操作量検出手段と、
上記自車両走行状態検出手段が検出した走行状態のもとで、上記障害物距離出手段が検出した障害物との距離に基づき、予め設定した接近度合以上に当該障害物に近づいたと判定すると、上記加速操作子の操作量に応じた加速指令値を抑制する第1加速度抑制手段と、
上記第1加速度抑制手段により加速指令値を抑制しているときに上記加速操作量検出手段の検出に基づき予め設定した設定加速操作量以上の加速操作を検出したら、第1加速度抑制手段による抑制よりも大きく加速指令値を抑制する第2加速度抑制手段と、
を有することを特徴とする車両用加速抑制装置。
【請求項2】
上記第2加速抑制手段は、上記加速指令値を予め設定した上限加速指令値以下に抑えることを特徴とする請求項1に記載した車両用加速抑制装置。
【請求項3】
上記加速操作量検出手段は、加速操作子の操作量及び当該加速操作子の操作速度の少なくとも一つを加速操作量として検出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用加速抑制装置。
【請求項4】
上記障害物距離検出手段は、超音波、赤外線レーダ、電波式レーダ、及びカメラのうちの少なくとも1つを使用して、障害物との距離を検出することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両用加速抑制装置。
【請求項5】
上記自車両走行状態検出手段が検出する自車両の走行状態は、自車両の車速であり、
上記第1加速度抑制手段は、上記自車両の車速が所定値未満且つ、予め設定した接近度合以上に障害物に近づいたと判定すると、上記加速操作子の操作量に応じた加速指令値を抑制することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した車両用加速抑制装置。
【請求項6】
自車両の周囲を撮像するカメラを更に設け、
上記障害物距離検出手段は、上記カメラで撮像した画像から駐車枠を検出し、該駐車枠内には障害物が存在しておらず、駐車枠の周囲に存在する障害物がある場合に、その障害物との距離を検出することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載した車両用加速抑制装置。
【請求項7】
自車両進行方向前方の障害物に対する自車両の接近度合が、予め設定した接近度合以上に障害物に近づいたと判定すると、運転者が加速指示するために操作する加速操作子の操作量に応じた加速指令値を抑制し、
更に、上記加速指令値を抑制しているときに予め設定した設定加速操作量以上の加速操作を検出すると、加速指令値の抑制量を増大することを特徴とする車両用加速抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−250674(P2012−250674A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126662(P2011−126662)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】