説明

車両用排水構造及びこれを用いた車両用フードエアバッグ装置の排水構造

【課題】ボックス状のケースにグロメットを使ってワイヤハーネスを通す場合に低コストな方法で排水性能を高めることができる車両用排水構造及びこれを用いた車両用フードエアバッグ装置の排水構造を得る。
【解決手段】ボックス状に形成されたエアバッグケースロア32の後端側の側壁部32Bには、上縁から底面32A’に亘って略V字状の凹部38が絞り成形によって形成されている。従って、底面32A’と凹部38の底面部38Bとは面一になっている。この凹部38にはグロメット40が嵌合されており、グロメット40と凹部38の底面部38Bとの間に排水路44が形成されている。従って、低コストな方法でエアバッグケースロア32の底部に水が溜まらないようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用排水構造及びこれを用いた車両用フードエアバッグ装置の排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用フードエアバッグ装置に関するものではないが、ダッシュパネルに形成した貫通孔にグロメットを装着させ、そのグロメットの軸芯部に形成された挿通孔にワイヤハーネスを通すことにより、エンジンルームとキャビンとの間でワイヤハーネスが配索されるようにした技術が開示されている。さらに、この技術では、エンジンルーム側に配索されるワイヤハーネス部分から内部に水が浸入し、電線間の隙間を通ってキャビンに水が浸入するのを防止するために、グロメットの挿通孔の形状をU字状にすると共に、当該U字状の挿通孔の底部とエンジンルームとを連通する水抜き用の分岐路を設け、水がグロメット内を通る際に分岐路を伝ってエンジンルーム側へ排水されるようにしている。
【特許文献1】実開平6−43953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記先行技術も防水構造としては有意義なものと思われるが、今仮にこの先行技術を例えば、車両用フードエアバッグ装置のエアバッグケースのようなボックス状のケースに適用しようとした場合、充分な排水効果が得られず、コスト的にも不利になるといった課題が生じる。
【0004】
すなわち、水はボックス状のケースの底部に溜まるので、なるべくケースの底面に近い位置にグロメットを装着させることになるが、グロメットをケースの側壁部に嵌合させるための嵌合代を貫通孔の周囲に確保しなければならないので、ケースの底面よりも若干上側に貫通孔を形成せざるを得ない。そうすると、ケースの底面から挿通孔の下縁までの範囲に溜まった水は排水できないことになる。従って、先行技術は、この点において改善の余地がある。
【0005】
また、ボックス状のケースの側壁部に貫通孔を形成するためには、ケースの製造用の金型の構造が複雑になる。従って、型コストが嵩むという不利がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、ボックス状のケースにグロメットを使ってワイヤハーネスを通す場合に低コストな方法で排水性能を高めることができる車両用排水構造及びこれを用いた車両用フードエアバッグ装置の排水構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る車両用排水構造は、車両の車室外において被水する可能性がある位置に設置されるボックス状のケースと、このケースの任意の側壁部に形成され、当該側壁部の上縁からケースの底面に亘って開口された凹部と、この凹部に装着されると共にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えており、凹部に装着された状態ではケースの底面との間に排水路を形成するグロメットと、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、衝突体との衝突時にガスを発生させるガス発生手段と、このガス発生手段から発生されたガスが供給されることにより膨張してフード上に展開されるエアバッグと、フードの下面側に配置され、ガス発生手段及び折り畳み状態のエアバッグを収容するボックス状のエアバッグケースと、を有する車両用フードエアバッグ装置に適用される排水構造であって、前記エアバッグケースの側壁部に形成され、当該側壁部の上縁からエアバッグケースの底面に亘って開口された凹部と、この凹部に装着されると共にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えており、凹部に装着された状態ではエアバッグケースの底面との間に排水路を形成するグロメットと、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造において、前記凹部は、略V字状に形成されて一対の傾斜部を備えており、前記グロメットには、当該一対の傾斜部に差し込まれる溝が形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造において、前記グロメットには、前記排水路の排水方向側に離間した位置にてエアバッグケースの底面よりも下方へ垂下する縦壁が設けられている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造において、前記エアバッグケースの底壁部の下方には、カウルルーバからエンジンルーム側へ延出されたカウルルーバ延出部に取り付けられかつエアバッグケースの底壁部の下面との間をシールするシール部材が配設されており、さらに、前記グロメットには、当該シール部材よりも排水路の出口側に位置されてシール部材側への水の流入を防止するリップ部が設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造において、前記カウルルーバには、前記リップ部に端部が接してリップ部と共に前記シール部材への水の流入を防止する止水壁が形成されている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項1記載の本発明によれば、ケースの任意の側壁部にはその上縁からケースの底面に亘って開口された凹部が形成されており、当該凹部にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えたグロメットが装着される。装着後の状態では、ケースの底面とグロメットとの間に排水路が形成される。従って、ボックス状のケースが車両の車室外において被水する可能性がある位置に設置され、ケース内に水が入り込んだ場合には、ケースの底面に流入した水は、排水路から排水される。その結果、ケース内に水が溜まることはない。
【0014】
また、本発明では、ボックス状のケースの側壁部にグロメット装着用の貫通孔を形成するのではなく、側壁部の上縁からケースの底面に亘って開口された凹部を形成する構成であるため、ケースを製造するための金型構造が複雑になることもない。
【0015】
請求項2記載の本発明によれば、歩行者等の衝突体と衝突すると、ガス発生手段によってガスが発生される。発生したガスは折り畳み状態でエアバッグケース内に収容されたエアバッグ内に供給され、エアバッグを膨張させる。これにより、エアバッグがフード上へ膨張展開される。その結果、膨張展開したエアバッグに歩行者等の衝突体が受け止められ、衝突時の衝突エネルギーが吸収されて歩行者等の衝突体が車体から受ける反力を下げることができる。
【0016】
ここで、本発明では、エアバッグケースの側壁部にはその上縁からエアバッグケースの底面に亘って開口された凹部が形成されており、当該凹部にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えたグロメットが装着される。装着後の状態では、エアバッグケースの底面とグロメットとの間に排水路が形成される。従って、ボックス状のエアバッグケースがフードの下面側に配置された結果、エアバッグケース内に水が入り込んだ場合には、エアバッグケースの底面に流入した水は、排水路から排水される。その結果、エアバッグケース内に水が溜まることはない。
【0017】
また、本発明では、ボックス状のエアバッグケースの側壁部にグロメット装着用の貫通孔を形成するのではなく、側壁部の上縁からエアバッグケースの底面に亘って開口された凹部を形成する構成であるため、エアバッグケースを製造するための金型構造が複雑になることもない。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、凹部は略V字状に形成されて一対の傾斜部を備えており、グロメットには当該一対の傾斜部に差し込まれる溝が形成されているので、一対の傾斜部及びグロメットの溝の傾斜角度を変えることにより、エアバッグケースの側壁部の凹部に対するグロメットの取付高さを変更することができる。グロメットの取付高さが変更されると、グロメットとエアバッグケースの底面との間に形成される排水路の深さ及び幅が変わるので、排水量をコントロールすることができる。
【0019】
請求項4記載の本発明によれば、グロメットに、排水路の排水方向側に離間した位置にてエアバッグケースの底面よりも下方へ垂下する縦壁を設けたので、降雨時や洗車時等にカウルルーバ内に溜まった水がエアバッグケース側の排水路を直撃するのを避けることができる。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、カウルルーバからエンジンルーム側へカウルルーバ延出部が延出されており、当該カウルルーバ延出部にシール部材が配設されている。このシール部材によって、カウルルーバとエアバッグケースの底壁部の下面との間がシールされ、エンジンルーム側への水の浸入が防止される。
【0021】
ここで、本発明では、グロメットに、シール部材よりも排水路の出口側に位置されてシール部材側への水の流入を防止するリップ部が設けられているため、仮にグロメットの縦壁を越えても、リップ部で防水されてシール部材側ひいてはエンジンルーム側への水の浸入を防ぐ効果がある。
【0022】
請求項6記載の本発明によれば、カウルルーバに、グロメットのリップ部に端部が接してリップ部と共にシール部材への水の流入を防止する止水壁を形成したので、リップ部と止水壁とから成る防水壁の設置範囲が長くなる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用排水構造は、ボックス状のケースにグロメットを使ってワイヤハーネスを通す場合に低コストな方法で排水性能を高めることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項2記載の本発明に係る車両用フードエアバッグ装置の排水構造は、ボックス状のエアバッグケースにグロメットを使ってワイヤハーネスを通す場合に低コストな方法で排水性能を高めることができるという優れた効果を有する。
【0025】
請求項3記載の本発明に係る車両用フードエアバッグ装置の排水構造は、排水性能のチューニングを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【0026】
請求項4記載の本発明に係る車両用フードエアバッグ装置の排水構造は、排水性能をより一層高めることができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項5記載の本発明に係る車両用フードエアバッグ装置の排水構造は、止水壁を三重(縦壁、リップ部、シール部材)に設けることができ、排水性能を格段に高めることができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項6記載の本発明に係る車両用フードエアバッグ装置の排水構造は、リップ部の防水効果をより強化することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る車両用フードエアバッグ装置のシール構造の実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0030】
図1には、組付状態の車両用フードエアバッグ装置10を車両前後方向に沿って切断した状態を側方から観た縦断面図(図4の1−1線断面図)が示されている。また、図2には、車両用フードエアバッグ装置10を図1とは異なる位置で切断した状態を側方から観た縦断面図(図4の2−2線断面図)が示されている。さらに、図3には、本実施形態に係る車両用フードエアバッグ装置10を搭載した車両12の斜視図が示されている。また、図4には本実施形態に係る車両用フードエアバッグ装置10の要部を拡大した斜視図が示されており、更に図5には当該車両用フードエアバッグ装置10の要部を分解した斜視図が示されている。
【0031】
図1〜図3に示されるように、車両用フードエアバッグ装置10は、車両12のエンジンルーム13を開閉するフード14の後端側に車両幅方向に沿って配設されている。フード14は、フード外板を構成すると共にフード14の意匠面を構成するフードアウタパネル16と、フードアウタパネル16に対して所定距離だけ車両下方側に離間した位置に配設されてフード内板を構成するフードインナパネル20と、を含んで構成されている。
【0032】
フードアウタパネル16の後端側には、フード幅方向(車両幅方向)に沿って長いバッグ膨出用開口部18が形成されている。なお、バッグ膨出用開口部18は、平面視で略矩形状に形成されている。これに対応して、図1に示されるように、フードインナパネル20におけるバッグ膨出用開口部18と対向する位置には、バッグ膨出用開口部18と同様形状とされた組付用開口部であるフードインナ側開口部26が形成されている。
【0033】
図1及び図2に示されるように、上記バッグ膨出用開口部18の下方側には、エアバッグモジュール22が配設されている。エアバッグモジュール22は、上下二分割構造のエアバッグケース30を備えている。図4及び図5にも示されるように、エアバッグケース30の下部側を構成するエアバッグケースロア32はボックス状に形成されており、車両幅方向に沿って長い底壁部32Aと、この底壁部32Aの周縁部から立設された4つの側壁部32Bと、これらの側壁部32Bの上端周縁部に形成されたフランジ部32Cと、によって構成されている。一方、エアバッグケース30の上部側を構成するエアバッグケースアッパ34は、略筒状に形成されており、エアバッグケースロア32の4つの側壁部32Bと上下に連接される4つの側壁部34Aと、これらの側壁部34Aの下端周縁部に形成されたフランジ部34Bと、によって構成されている。
【0034】
上記エアバッグケースロア32のフランジ部32C上にエアバッグケースアッパ34のフランジ部34Bが載置され、四隅に形成されたボルト挿通孔36(図4及び図5参照)内へ図示しないボルトが挿入されてナット締めされることにより、エアバッグケース30が一体となってフードインナパネル20に固定されている。なお、エアバッグケースアッパ34のフランジ部34Bとフードインナパネル20のフードインナ側開口部26の周縁部との間には、スポンジ等のシール材27が介在されている。また、エアバッグケース30がフードインナパネル20に組付けられた状態では、エアバッグケースアッパ34がフードインナ側開口部26の上側に位置し、エアバッグケースロア32はフードインナ側開口部26の下側に位置されている。
【0035】
上述したエアバッグケース30内には、略円柱形状に形成されたガス発生手段としてのインフレータ58が車両幅方向を長手方向として配置されていると共に、所定の折り畳み方によって折り畳まれたエアバッグ60が収容されている。
【0036】
なお、インフレータ58としては機械着火式、電気着火式のいずれを使用してもよく、又ガス発生剤封入タイプ、高圧ガス封入タイプのいずれでも適用可能である。また、インフレータ58の周壁部の所定位置には、複数のガス噴出孔がインフレータ58の周方向に形成されている。
【0037】
また、エアバッグ60は、一例として、図3に示されるように、複数の円筒状のセルから成り車両幅方向に沿って扁平に展開する本体部60Aと、この本体部60Aの両サイドに連通されかつフロントピラー66側へ延長された左右一対の延長部60Bと、によって構成されている。エアバッグ60が膨張展開した状態では、本体部60Aによってフード14の後端部14A及びカウル(更にウインドシールドガラス64の下端部)が覆われると共に、左右の延長部によってフロントピラー66の下部が覆われるようになっている。
【0038】
一方、図1及び図2に示されるように、エアバッグケース30の上方側開放部である開放側端部28、即ちバッグ膨出用開口部18は、カバーであるエアバッグドア48によって開放可能に塞がれている。具体的には、バッグ膨出用開口部18はフードアウタパネル16の一般面16Aに対して車両下方側へ一段下がる段差形状に形成されており、エアバッグドア48はこの段差部50に納まる厚さ及び大きさに形成されている。なお、エアバッグドア48の後端部には図示しない展開ヒンジ部が一体に形成されており、エアバッグケースアッパ34の後端側の側壁部34Aに図示しないボルト及びナットで固定されている。従って、エアバッグドア46は、展開ヒンジ部の締結点を中心として展開ヒンジ部を塑性変形させながら、フード後方側へ展開される構成である。
【0039】
ここで、上述した車両用フードエアバッグ装置10の排水構造について詳細に説明する。
【0040】
図5に示されるように、上述したエアバッグケースロア32の後端側の側壁部32Bの所定位置には、略V字状に形成された凹部38が一体に形成されている。凹部38は絞り成形により形成されており、フランジ部32Cから下り勾配で傾斜する一対の傾斜部38Aと、これらの傾斜部38Aの下縁同士を繋ぐ底面部38Bと、によって構成されている。凹部38の底面部38Bは、エアバッグケースロア32の底面32A’と高さが等しく面一になっている。
【0041】
上記凹部38には、弾性材料(例えば、ゴム製)によって構成されたグロメット40が車両後方側から差し込まれて嵌合されている。図6に示されるように、グロメット40は、凹部38に嵌合可能な上下逆向きの等脚台形状に形成された本体部40Aと、この本体部40Aの下部を覆うように本体部40Aの外周部に一体に形成された額縁部40Bと、を備えている。本体部40Aと額縁部40Bの両側部間には、エアバッグケースロア32の板厚に略一致する溝幅の溝部42が左右一対形成されており、この左右一対の溝部42に凹部38を形成する左右一対の傾斜部38Aが差し込まれることにより、グロメット40が凹部38に嵌合されている。図1に示されるように、グロメット40が凹部38に嵌合された状態では、グロメット40の本体部40Aの下面40A’(図1及び図6参照)と凹部38の底面部38Bとの間に所定の隙間が形成されてこの隙間が排水路44(図1参照)として用いられるようになっている。
【0042】
上記グロメット40の本体部40A及び額縁部40Bには、これらを肉厚方向へ貫通する貫通孔46が形成されている。この貫通孔46には、インフレータ58と接続されたワイヤハーネス47が挿通されて支持されるようになっている。なお、このようにグロメット40にワイヤハーネス47を支持させるのは、エアバッグケースロア32のフランジ部32Cのエッジ等でワイヤハーネス47が傷付くのを防止するため、及び降雨時及び洗車時等に後述するカウルルーバ56内に流入した水がエアバッグケースロア32の凹部38から勢い良くエアバッグケースロア32内へ流れ込むのを防止するためである。
【0043】
また、上記額縁部40Bの下部後端側には、車両後方側へ鉤状に張出された張り出し部52が一体に形成されている。この張り出し部52の後端に位置する縦壁52Aは、上述した排水路44を塞ぐ位置に垂下されている。つまり、縦壁52Aの下端部は凹部38の底面部38Bよりも下方に位置されている。
【0044】
さらに、額縁部40Bの下部側には、額縁部40Bよりも一回り大きいリップ部54が一体に形成されている。リップ部54は断面形状がコ字状とされており(図1参照)、概ね本体部40Aと同一の前後方向寸法とされている。組付状態では、カウルルーバ56からエアバッグケースロア32の下方に延出されたカウルルーバ延出部56Aの先端部に取付けられたシール部材67と縦壁部52Aとの間にリップ部54が配置されている。また、図2に示されるように、グロメット40が配設されない部位では、カウルルーバ56のカウルルーバ延出部56Aの途中部位に車両上方側へ突出する凸部68が形成されており、かかる凸部68はグロメット40のリップ部54に隣接して車両幅方向に連続的に配置されるようになっている。
【0045】
(作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0046】
車両12が歩行者等の衝突体と前面衝突すると、インフレータ58が作動して複数のガス噴出孔からガスが噴出される。このため、エアバッグケース30内に折り畳み状態で格納されたエアバッグ60が膨張し、エアバッグドア48を下面側から押圧する。エアバッグドア48に作用するバッグ膨張圧が所定値に達すると、エアバッグドア48は展開ヒンジ部を中心としてフード外方側(ウインドシールドガラス64側)へ展開される。これにより、フード後端側に形成されたバッグ膨出用開口部18が開放されて、図3に示されるように、エアバッグ60が車両平面視で略コ字状になるように膨張展開される。その結果、膨張展開したエアバッグ60の本体部60A或いは延長部60Bに、フード上方側から歩行者等の衝突体が受け止められることにより、前面衝突時の衝突エネルギーが吸収されて歩行者等の衝突体がボディーから受ける反力を下げることができる。
【0047】
ここで、本実施形態では、エアバッグケースロア32の後端側の側壁部32Bに、上縁に位置するフランジ部32Cからエアバッグケースロア32の底面32A’に亘って開口された略V字状の凹部38が形成されており、当該凹部38にワイヤハーネス挿通用の貫通孔46を備えたグロメット40が装着される。装着後の状態では、エアバッグケースロア32の底面32A’とグロメット40との間に排水路44が形成される。従って、ボックス状のエアバッグケース30がフード14の下面側に配置された結果、エアバッグケースロア32内に水が入り込んだ場合には、エアバッグケースロア32の底面32A’から排水路44を通って図1の矢印Aで示されるように排水される。その結果、エアバッグケース30内に水が溜まることはない。
【0048】
また、本実施形態では、ボックス状のエアバッグケースロア32の側壁部32Bにグロメット装着用の貫通孔を形成するのではなく、側壁部32Bの上縁のフランジ部32Cからエアバッグケース30の底面32A’に亘って開口された凹部38を絞り成形によって形成する構成であるため、エアバッグケース30を製造するための金型構造が複雑になることもない。
【0049】
以上より、本実施形態によれば、ボックス状のエアバッグケース30にグロメット40を使ってワイヤハーネス47を通す場合に低コストな方法で排水性能を高めることができる。
【0050】
また、本実施形態では、凹部38は略V字状に形成されて一対の傾斜部38Aを備えており、グロメット40には当該一対の傾斜部38Aに差し込まれる溝部42が形成されているので、一対の傾斜部38A及びグロメット40の溝部42の傾斜角度を変えることにより、エアバッグケースロア32の側壁部32Bの凹部38に対するグロメット40の取付高さを変更することができる。グロメット40の取付高さが変更されると、グロメット40とエアバッグケースロア32の底面32A’との間に形成される排水路44の深さ及び幅が変わるので、排水量をコントロールすることができる。その結果、本実施形態によれば、排水性能のチューニングを容易に行うことができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、グロメット40に、排水路44の排水方向側に離間した位置にてエアバッグケースロア32の底面32A’(凹部38の底面部38B)よりも下方へ垂下する縦壁52Aを設けたので、降雨時や洗車時等にカウルルーバ56内に溜まった水がエアバッグケースロア32側の排水路44を直撃するのを避けることができる。その結果、本実施形態によれば、排水性能をより一層高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、カウルルーバ56からエンジンルーム13側へカウルルーバ延出部56Aが延出されており、当該カウルルーバ延出部56Aにシール部材67が配設されている。このシール部材67によって、カウルルーバ56とエアバッグケースロア32の底壁部32Aの下面との間がシールされ、エンジンルーム13側への水の浸入が防止されている。
【0053】
ここで、上記を前提として、本実施形態では、グロメット40に、シール部材67よりも排水路44の出口側に位置されてシール部材67側への水の流入を防止するリップ部54が設けられているため、仮に水がグロメット40の縦壁52Aを越えても(縦壁52Aで堰き止められた水がシール部材67側へ流れてきても)、リップ部54で防水されてシール部材67側への水の浸入を防ぐことができる。その結果、本実施形態によれば、止水壁を三重(縦壁52A、リップ部54、シール部材67)に設けることができ、排水性能を格段に高めることができる。換言すれば、エンジンルーム13側へ水が浸入するのをより効果的に抑制又は防止することができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、カウルルーバ56に、グロメット40のリップ部54に端部が接してリップ部54と共にシール部材67への水の流入を防止する止水壁としての凸部68を形成したので、リップ部54と止水壁とから成る防水壁の設置範囲が長くなる。その結果、本実施形態によれば、リップ部54の防水効果をより強化することができる。
【0055】
〔本実施形態の補足説明〕
上述した本実施形態では、エアバッグ60が膨張展開すると、フード14の後端部14A及びカウルのみならず、(ウインドシールドガラス64の下端部や)左右のフロントピラー66の下部をも覆う構成としたが、少なくともフード14の後端部14A(フードアウタパネル16の後端部)及びカウルを覆う構成であればよい。
【0056】
また、上述した本実施形態では、グロメット40にリップ部54を一体に形成したが、エンジンルーム内に配設される補機類のレイアウトとの関係でリップ部54の配設位置に車両上下方向のスペースをある程度確保できる場合には、図7に示されるように、リップ部54を設けずに、カウルルーバ70のカウルルーバ延出部70Aの途中部分に車両上方側へ突出する凸部72を一体に形成してもよい。
【0057】
さらに、上述した本実施形態では、エアバッグケース30がエアバッグケースアッパ34とエアバッグケースロア32とによって構成されていたが、これに限らず、上下に分割しないボックス状のエアバッグケースに対して本発明を適用してもよい。その場合、ボックス状のエアバッグケースが一部品で構成されるか、複数部品を組み合わせて構成されるかは任意であり、いずれの場合も本発明の「エアバッグケース」の概念に含まれる。
【0058】
また、上述した本実施形態では、エアバッグケースロア32の側壁部32Bに絞り成形によって凹部38を形成したが、これに限らず、鋳物でエアバッグケースを鋳造成形した際に凹部38を形成する構成を採ってもよいし、樹脂成形でエアバッグケースを製作した際に凹部38を形成する構成を採ってもよい。
【0059】
さらに、上述した本実施形態では、凹部38が略V字状に形成されているが、これに限らず、「凸」の字を上下逆向きにした形状等の凹部にしてもよい。
【0060】
また、上述した本実施形態では、車両用フードエアバッグ装置10に本発明を適用したが、これに限らず、被水する可能性がある位置に配置されるボックス状のケースであって、ワイヤハーネスを通す必要があるものであれば、本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態に係る組付状態の車両用フードエアバッグ装置を車両前後方向に沿って切断した状態を側方から観た縦断面図(図4の1−1線断面図)である。
【図2】車両用フードエアバッグ装置を図1とは異なる位置で切断した状態を側方から観た縦断面図(図4の2−2線断面図)である。
【図3】図1に示される車両用フードエアバッグ装置の非作動状態を実線で作動状態を二点鎖線でそれぞれ示す車両の外観斜視図である。
【図4】エアバッグケースロアの凹部にグロメットが装着された状態を示す要部拡大斜視図である。
【図5】エアバッグケースロアの凹部にグロメットを装着する前の状態を示す要部拡大斜視図である。
【図6】グロメットを単品で示す拡大斜視図である。
【図7】別の実施形態を示す図1に対応する縦断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10 車両用フードエアバッグ装置
12 車両
13 エンジンルーム
14 フード
30 エアバッグケース(ケース)
32A 底壁部
32A’ 底面
32B 側壁部
32C フランジ部
38 凹部
38A 傾斜部
40 グロメット
42 溝部
44 排水路
46 貫通孔
47 ワイヤハーネス
52A 縦壁
54 リップ部
56 カウルルーバ
56A カウルルーバ延出部
58 インフレータ(ガス発生手段)
60 エアバッグ
67 シール部材
68 凸部(止水壁)
70 カウルルーバ
70A カウルルーバ延出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室外において被水する可能性がある位置に設置されるボックス状のケースと、
このケースの任意の側壁部に形成され、当該側壁部の上縁からケースの底面に亘って開口された凹部と、
この凹部に装着されると共にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えており、凹部に装着された状態ではケースの底面との間に排水路を形成するグロメットと、
を有することを特徴とする車両用排水構造。
【請求項2】
衝突体との衝突時にガスを発生させるガス発生手段と、
このガス発生手段から発生されたガスが供給されることにより膨張してフード上に展開されるエアバッグと、
フードの下面側に配置され、ガス発生手段及び折り畳み状態のエアバッグを収容するボックス状のエアバッグケースと、
を有する車両用フードエアバッグ装置に適用される排水構造であって、
前記エアバッグケースの側壁部に形成され、当該側壁部の上縁からエアバッグケースの底面に亘って開口された凹部と、
この凹部に装着されると共にワイヤハーネス挿通用の貫通孔を備えており、凹部に装着された状態ではエアバッグケースの底面との間に排水路を形成するグロメットと、
を有することを特徴とする車両用フードエアバッグ装置の排水構造。
【請求項3】
前記凹部は、略V字状に形成されて一対の傾斜部を備えており、
前記グロメットには、当該一対の傾斜部に差し込まれる溝が形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造。
【請求項4】
前記グロメットには、前記排水路の排水方向側に離間した位置にてエアバッグケースの底面よりも下方へ垂下する縦壁が設けられている、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造。
【請求項5】
前記エアバッグケースの底壁部の下方には、カウルルーバからエンジンルーム側へ延出されたカウルルーバ延出部に取り付けられかつエアバッグケースの底壁部の下面との間をシールするシール部材が配設されており、
さらに、前記グロメットには、当該シール部材よりも排水路の出口側に位置されてシール部材側への水の流入を防止するリップ部が設けられている、
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造。
【請求項6】
前記カウルルーバには、前記リップ部に端部が接してリップ部と共に前記シール部材への水の流入を防止する止水壁が形成されている、
ことを特徴とする請求項5記載の車両用フードエアバッグ装置の排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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