説明

車両用油圧式変速機の制御装置

【課題】発熱を抑制するとともに、制御内容を複雑にすることなく発進時の動力源の負荷の増大を抑制できる制御装置を提供する。
【解決手段】可変容量型の油圧ポンプと、可変容量型の油圧モータと、それら油圧ポンプと油圧モータとの間の油圧を調圧可能な調圧弁とを備え、出力部材に伝達されるトルクが油圧ポンプおよび油圧モータの押出容積と油圧とに応じて変化する車両用油圧式変速機の制御装置において、運転者の発進意志を検出する発進検出手段(ステップS4)と、発進意志が検出された時点からの経過時間を検出する経過時間検出手段(ステップS4,S5)と、前記経過時間と要求駆動力とに基づいて調圧弁を通過させるべき油量を算出する調圧弁流量算出手段(ステップS6)と、前記油量を吐出するように油圧ポンプおよび油圧モータを制御するポンプ・モータ制御手段(ステップS7,S8,S9)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧を利用して動力を伝達することにより変速比を連続的に変化させることのできる車両用油圧式変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンなどの動力装置によって油圧ポンプを駆動し、その油圧ポンプで発生した圧油を油圧モータに供給すれば、油圧を介して動力を伝達することができ、またその油圧を制御することにより、伝達するトルクもしくは動力を適宜に、また連続的に変化させることができる。すなわち、油圧を利用して動力を伝達するとともに、変速比を連続的に変更可能な無段変速機を構成することができる。その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されている車両用油圧式無段変速機は、エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプと油圧閉回路を介して連結されるとともに駆動輪を駆動する固定容量型もしくは可変容量型の油圧モータと、油圧閉回路の油圧を調圧するリリーフバルブ手段とを有し、油圧ポンプから圧油が供給されて駆動される油圧モータの駆動力を受けて、車両が走行駆動されるように構成されている。
【0003】
そしてこの特許文献1に記載されている車両用油圧式無段変速機は、クリープ状態でブレーキが作動されたときに、燃費の低下やアイドル回転振動および油圧振動の増加等を抑制するために、ブレーキが解放された状態を検出した場合に、リリーフバルブ手段により油圧閉回路における油圧ポンプの吐出側の油路内の油圧を、所定油圧より高い油圧に調圧するようになっている。
【0004】
また、特許文献2には、入力軸に連結された油圧ポンプと出力軸に連結された油圧モータとの間に形成された油圧閉回路に、油圧ポンプの吸入口および吐出口間の短絡路が接続され、その短絡路に、短絡路を開閉するためのクラッチ弁(リリーフ弁)が設けられた車両用油圧式変速機のクラッチ装置が記載されている。この特許文献2に記載されている車両用油圧式変速機のクラッチ装置は、車両の発進時におけるエンジンの吹き上がりを防止するために、スロットル開度とエンジン回転数とに基づいてクラッチの開度を変更するように構成されている。
【0005】
そして、特許文献3には、圧力流体を相互に授受できる少なくとも一対の可変容量型流体圧ポンプモータと、それぞれの可変容量型流体ポンプモータによって伝達されるトルクを出力部材に伝達する少なくとも2つの伝動機構と、それぞれの伝動機構を動力伝達が可能な状態と動力伝達が不可能な状態とに切り替える切替機構とを備え、いずれかの伝動機構の変速比で決まる固定変速段と、各可変容量型流体ポンプモータ同士の間で圧力流体を介して伝達する動力を変化させることによる無段変速状態とを設定することができる変速機が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−166620号公報
【特許文献2】特開昭61−207228号公報
【特許文献3】特開2006−266493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている変速機は、リリーフバルブ手段により、油圧閉回路に設けられたリリーフ弁の開度を変更することによって駆動力を制御している。すなわち、上記のような油圧閉回路に設けられたリリーフ弁は、伝達トルクの上限を設定するとともに、リリーフ弁の開度を制御することにより伝達トルクすなわち駆動力が制御される。例えば、車両がブレーキにより制動されている状態では、リリーフ弁は開放されて油圧閉回路内の圧力が低減される。そして、ブレーキが解放され、車両が発進して車速が上昇していくのに伴い、リリーフ弁は次第に閉じるように制御される。
【0008】
そのため、登坂路や凹凸路など走行抵抗が大きい状態で発進する場合などのように、ブレーキが解放されて車両が発進した後に、車速が上昇するのに長い時間がかかる場合は、通常の発進時と比較して、リリーフ弁が開放された状態(半開放状態も含む)が長くなる。その結果、油圧閉回路の圧油がリリーフ弁を介してリリーフされる時間が長くなり、効率が低下したり、あるいはリリーフ弁での発熱が増大したりする可能性があった。
【0009】
このことに対して、リリーフ弁の開度を変更してリリーフ弁の流量を制限することにより、上記のような効率の低下やリリーフ弁の発熱等の問題を回避することができる。しかしながら、その場合は、リリーフ弁における油圧が上昇することによりエンジンに対する負荷が増大し、その負荷の増加に対応して、エンジン出力を増大する制御を実行させる必要が生じる。その結果、エンジンの制御内容が煩雑になってしまうとともに、エンジン出力を増大することによる燃費悪化のおそれがあった。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、互いに閉回路で連結された油圧ポンプおよび油圧モータを使用した車両用の油圧式変速機において、閉回路での発熱および効率の低下を抑制するとともに、制御内容を複雑にすることなく発進時の動力源に対する負荷の増大を抑制できる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源が出力した動力によって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、その油圧ポンプに対して圧油を相互に授受可能に閉回路で連通されるとともに、前記油圧ポンプが出力した圧油が供給されて駆動されることにより出力部材に動力を出力する可変容量型の油圧モータと、前記油圧ポンプと油圧モータとの間の油圧を調圧可能な調圧弁とを備え、前記出力部材に伝達されるトルクがこれらの油圧ポンプおよび油圧モータの押出容積と油圧とに応じて変化する車両用油圧式変速機の制御装置において、運転者による車両の発進意志を検出する発進検出手段と、前記発進検出手段により前記発進意志が検出された時点からの経過時間を検出する経過時間検出手段と、前記経過時間検出手段により検出された前記経過時間と前記車両に対する要求駆動力とに基づいて前記調圧弁を通過させるべき油量を算出する調圧弁流量算出手段と、前記調圧弁流量算出手段により算出された前記油量を吐出するように前記油圧ポンプおよび油圧モータを制御するポンプ・モータ制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記発進検出手段が、前記車両が制動装置により制動されて停車している際に、前記制動装置による制動が解除されたことを検出することによって前記発進意志を検出する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0013】
そして、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記油圧ポンプおよび油圧モータは、それぞれ油圧ポンプとしての機能と油圧モータとしての機能とを兼ね備えた可変容量型の油圧ポンプモータを含むことを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、運転者による車両の発進意志が検出されると、その発進意志が検出された時からの経過時間が計測され、その経過時間と、例えばアクセル開度やスロットル開度などで代表される要求駆動力とに基づいて、調圧弁を通過させるべき油量が求められる。そして、その求められた油量のオイルが実際に調圧弁を通過するように、油圧ポンプおよび油圧モータが制御される。したがって、油圧ポンプおよび油圧モータを制御することにより、調圧弁の設定圧を変更することなく、発進意志からの経過時間に応じて、車両の駆動力が適切に制御される。そのため、リリーフ弁での発熱や効率の低下を回避もしくは抑制できるとともに、制御内容を複雑にすることなく発進時の動力源に対する負荷の増大を抑制することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、車両が制動されて停止している状態で、その制動装置による制動が解除されることにより、運転者による車両の発進意志が有ると判断される。したがって、制動装置の作動状態を検出することにより、容易に、運転者による車両の発進意志を検出することができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、可変容量型の油圧ポンプと油圧モータとが、それら両方の機能を併せ持った可変容量型の油圧ポンプモータによりそれぞれ構成される。そのため、それらが設けられた油圧回路における油圧の伝達方向の自由度を増大し、出力部材へトルクを伝達する際の形態を多様化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする車両用油圧式変速機について説明すると、この発明で対象とする車両用油圧式変速機は、一例として、可変容量型油圧ポンプモータ式の無段変速機であり、少なくとも2つの動力伝達経路を備えており、それら両方の動力伝達経路を介して、動力源から出力部材にトルクを伝達できるように構成され、その結果、動力源と出力部材との回転数の比である変速比を連続的に変化させることのできる変速機である。より具体的には、各動力伝達経路は、ポンプおよびモータのそれぞれとして機能する可変容量型油圧ポンプモータを備えており、その容量(押出容積)に応じたトルクを伝達するように構成され、さらにそれぞれの可変容量型油圧ポンプモータが作動油を相互に授受できるように連通されている。したがって、一方の可変容量型油圧ポンプモータをポンプとして機能させることにより、その押出容積に応じたトルクが動力源から出力部材に伝達され、同時に、一方の可変容量型油圧ポンプモータから他方の可変容量型油圧ポンプモータに圧油が供給されて他方の可変容量型油圧ポンプモータがモータとして機能する。すなわち、圧油を介した動力伝達が、並行して行われる。そのトルクが他方の動力伝達経路を介して出力部材に伝達される。その結果、出力部材に伝達されるトルクは、各動力伝達経路を介して伝達されるトルクの合計になり、しかも圧油を介して伝達されるトルクは、各押出容積に応じて変化するので、結局は、変速比が連続的に変化することになる。
【0018】
各動力伝達経路は、それぞれ互いに変速比の異なるギヤ対や巻き掛け伝動機構などの伝動機構を備えることができ、一方の動力伝達経路のみを介して出力部材にトルクを伝達する場合には、変速機の全体としての変速比は、その動力伝達経路における伝動機構の変速比で決まる。このような変速比を仮に固定変速比と称すると、固定変速比を設定している状態では、圧油を介した動力の伝達が生じないので、動力の損失が生じにくく、効率のよい伝動状態となる。なお、いずれかの伝動機構のみをトルク伝達に関与させるようにするために、クラッチ機構などの切替機構を各伝動機構に含ませることが好ましく、あるいは動力源もしくは出力部材と伝動機構との間に切替機構を設けることが好ましい。
【0019】
この発明で対象とする可変容量型油圧ポンプモータ式の無段変速機は、圧油を介して動力を伝達するように構成されているので、ハイドロスタティック・トランスミッション(HST)として構成した変速機であってもよいが、上述したように機械的な動力伝達によって変速比を設定する機能を兼ね備えたハイドロスタティック・メカニカル・トランスミッション(HMT)として構成されたものであることが好ましい。そのメカニカルトランスミッションの部分は、必要に応じて適宜の構成とすることができ、常時噛み合っているギヤ対をクラッチ機構もしくは同期連結機構によって選択する構成の機構や、複数の遊星歯車機構もしくは複合遊星歯車機構によって複数の変速比を設定できる構成などを採用することができる。また、可変容量型油圧ポンプモータは、動力源と出力部材との間に直列に介在させる構成以外に、反力手段として可変容量型油圧ポンプモータを用いる構成とすることもできる。
【0020】
この発明で対象とする可変容量型油圧ポンプモータ式の無段変速機の構成を図1に基づいて説明する。図1に示す構成例は、車両VE用の変速機TMとして構成した例であり、差動機構を動力分配機構として使用するとともに、伝動機構として複数のギヤ対を使用し、したがって可変容量型油圧ポンプモータが反力機構となっている例であって、伝達するべき動力(エネルギ)の形態を変更せずに設定できるいわゆる固定変速比として3つの前進段および1つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、図1において、動力源1に連結されている入力部材2と同一の軸線上、もしくはこれに平行な軸線上に、動力を分配し、また伝達および遮断する機構が配置されている。
【0021】
ここで、動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両VEに使用されている一般的な動力源であってよい。以下の説明では、動力源1を仮にエンジン1と記す。また、入力部材2はエンジン(E/G)1の出力した動力を伝達できる部材であればよく、ドライブプレートや入力軸であってよい。以下の説明では、入力部材2を入力軸2と記す。これらエンジン1と入力軸2との間に、ダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させることができる。なお、符号3はサブポンプあるいはチャージポンプなどと称されるオイルポンプで、変速機TM内部の各部への潤滑油の供給や、後述する各油圧ポンプモータとの間に形成されている油路への圧油の補給などのために使用されるものである。
【0022】
前記各軸線上に配置されている機構は、入力された動力をそのまま出力し、あるいはその一部をそのまま出力するとともに、他の動力を、エネルギ形態を変換して出力し、さらには空転して動力の伝達を行わないように構成された伝動手段の一種である。図1に示す構成例では、差動機構と、これに反力を与えかつその反力の可変な反力機構とによって構成されている。差動機構は、要は、3つの回転要素によって差動作用を行うものであればよく、歯車やローラを回転要素とした機構であり、そのうちの歯車式差動機構としてはシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を使用することができる。また、反力機構は、選択的にトルクを出力できる機構であればよく、油圧などの流体式のポンプモータや電気的に動作するモータ・ジェネレータなどを用いることができる。
【0023】
図1に示す構成例では、差動機構としてシングルピニオン型遊星歯車機構が用いられ、また反力を生じさせるための反力機構(この発明の油圧モータに相当する)として可変容量型油圧ポンプモータが用いられている。以下の説明では、エンジン1および入力軸2に平行な第1ドライブ軸4と同一軸線上に配置された遊星歯車機構を仮に第1遊星歯車機構5と記し、また油圧ポンプモータを仮に第1ポンプモータ6と記す。さらに、第1遊星歯車機構5と同様に、エンジン1および入力軸2に平行な第2ドライブ軸7と同一軸線上に配置された遊星歯車機構を仮に第2遊星歯車機構8と記し、また油圧ポンプモータを第2ポンプモータ9と記す。なお、第1ポンプモータ6を図にはPM1と記し、第2ポンプモータ9を図にはPM2と記してある。
【0024】
第1遊星歯車機構5は、外歯歯車であるサンギヤS1と、これと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤR1と、これらのサンギヤS1とリングギヤR1とに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリアC1とを回転要素するシングルピニオン型の遊星歯車機構である。前記の入力軸2に第1カウンタギヤ対10のカウンタドライブギヤ10Aが取り付けられており、これに噛み合っている一方のカウンタドリブンギヤ10Bが、リングギヤR1に連結されている。すなわち、リングギヤR1に入力軸2が第1カウンタギヤ対10を介して連結されている。したがってリングギヤR1が入力要素となっている。
【0025】
また、サンギヤS1に反力機構としての第1ポンプモータ6のロータ軸6Aが接続されている。したがってサンギヤS1が反力要素となっている。そして、キャリアC1に第1ドライブ軸4が接続されている。そして、この第1ドライブ軸4は、後述する複数の伝動機構および切替機構により、この変速機TMの出力軸となっているドリブン軸11との間で選択的にトルク伝達可能な状態にされる構成となっている。すなわち、キャリアC1が第1ドライブ軸4および各伝動機構ならびに切替機構を介してドリブン軸11に連結されるようになっている。したがってキャリアC1が出力要素となっている。なお、上記の第1ドライブ軸4は、この第1遊星歯車機構5を挟んで第1ポンプモータ6とは軸線方向で反対側に配置されている。
【0026】
第1ポンプモータ6は、押出容積を変更できる可変容量型であり、図1に示す構成例では、押出容積をゼロから正負のいずれか一方向に変化させることのできるいわゆる片振り型のものであり、第1遊星歯車機構5に対してエンジン1側(図1の左側)に、第1遊星歯車機構5と同一軸線上に配置されている。この種の第1ポンプモータ6としては、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
【0027】
一方、第2遊星歯車機構8は、上記の第1遊星歯車機構5と同様の構成であって、サンギヤS2とリングギヤR2とこれらに噛み合っているピニオンギヤを自転および公転自在に保持しているキャリアC2とを回転要素とし、これら3つの回転要素によって差動作用を行うシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0028】
そして上記の第1遊星歯車機構5と同様に、入力軸2に取り付けられたカウンタドライブギヤ10Aに噛み合っている他方のカウンタドリブンギヤ10Cが、スタート(S)シンクロ12を介してリングギヤR2に連結されている。このスタートシンクロ12は、いわゆる発進用切替機構を構成しており、第2遊星歯車機構8のリングギヤR2とエンジン1との間を選択的にトルク伝達可能な状態にするとともに、リングギヤR2の回転を規制すること、すなわちリングギヤR2を固定することができるように構成されている。したがってリングギヤR2が入力要素となっている。
【0029】
また、サンギヤS2に反力機構としての第2ポンプモータ9のロータ軸9Aが接続されている。したがってサンギヤS2が反力要素となっている。そして、キャリアC2に第2ドライブ軸7が接続されている。そして、この第2ドライブ軸7に第2カウンタギヤ対13のカウンタドライブギヤ13Aが取り付けられており、このカウンタドライブギヤ13Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ13Bがドリブン軸11に連結されている。すなわち、キャリアC2が第2ドライブ軸7および第2カウンタギヤ対13を介してドリブン軸11に連結されている。したがってキャリアC2が出力要素となっている。
【0030】
なお、上記の第1カウンタギヤ対10および第2カウンタギヤ対13は、それぞれ、いわゆる入力用伝動機構および出力用伝動機構を構成しており、これは、摩擦車を利用した伝動機構やチェーンもしくはベルトなどを使用した巻き掛け伝動機構に置き換えることも可能である。
【0031】
第2ポンプモータ9は、押出容積を変更できる可変容量型であり、この図1に示す構成例では、特に押出容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型のものであり、第2遊星歯車機構8と同一軸線上で、かつ上述した第1ポンプモータ6の半径方向で外側に隣接して配置されている。この種の第2ポンプモータ9としては、第1ポンプモータ6と同様に、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
【0032】
ここで、発進用切替機構としてのスタートシンクロ12について説明すると、このスタートシンクロ12は、例えば同期連結機構(シンクロナイザー)や噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)もしくは摩擦式クラッチからなるものであって、図1には同期連結機構からなるスタートシンクロ12が記載されている。このスタートシンクロ12は、第2遊星歯車機構8のリングギヤR2に一体のハブにスプライン嵌合したスリーブ12Sを備えており、このスリーブ12Sを挟んだ両側に、前述の第1カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Cおよび例えば変速機TMのケーシング(図示せず)に固定された固定部材14に一体化させたスプラインが配置されている。
【0033】
具体的には、スリーブ12Sの図1の左側に、第1カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Cに一体化させたスプラインが配置され、スリーブ12Sの図1の右側に、固定部材14に一体化させたスプラインが配置されている。したがって、スタートシンクロ12は、そのスリーブ12Sを図1の左側に移動させることにより、第1カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Cを第2遊星歯車機構8のリングギヤR2に連結し、スリーブ12Sを図1の右側に移動させることにより、第2遊星歯車機構8のリングギヤR2を固定部材14に連結してリングギヤR2の回転を規制する、すなわちリングギヤR2を固定し、さらにスリーブ12Sを中央に位置させることにより、カウンタドリブンギヤ10Cあるいは固定部材14とも係合しないニュートラル状態となるように構成されている。
【0034】
各ドライブ軸4,7から動力が伝達されるドリブン軸11は、各ドライブ軸4,7と平行になるように、また入力軸2と同一軸線上に配置されている。したがって、図1に示す変速機TMは、その主要部分が、特に第1ドライブ軸4およびドリブン軸11の2本の軸からなるいわゆる2軸構造になっている。そして、第1ドライブ軸4および第2ドライブ軸7とドリブン軸11との間には、異なる変速比を設定するための複数の伝動機構が設けられている。これらの各伝動機構は、トルクの伝達に関与した場合にそれぞれの回転数比に応じて、入力軸2とドリブン軸11との間の変速比を設定するためのものであり、歯車機構や巻き掛け伝動機構、摩擦車を使用した機構などを採用することができる。図1に示す構成例では、前進走行のための3つのギヤ対15,13,16と後進走行のためのギヤ対17とが設けられている。
【0035】
上記の第1ドライブ軸4に取り付けられた各ギヤ対15,16,17における従動ギヤ15B,16B,17Bが、ドリブン軸11に回転自在に嵌合して支持されている。すなわち、リバース従動ギヤ17Bは、このリバース従動ギヤ17Bとリバース駆動ギヤ17Aとの間に配置されたアイドルギヤ17Cに噛み合った状態でドリブン軸11に回転自在に嵌合し、リバース従動ギヤ17Bの回転方向とリバース駆動ギヤ17Aの回転方向とが同じになるように構成されている。また、第1速従動ギヤ15Bは、第1速駆動ギヤ15Aに噛み合った状態でドリブン軸11に回転自在に嵌合し、かつリバース従動ギヤ17Bに隣接して配置されている。さらに、第3速従動ギヤ16Bは、第3速駆動ギヤ16Aに噛み合った状態でドリブン軸11に回転自在に嵌合し、かつ第1速従動ギヤ15Bに隣接して配置されている。
【0036】
これらのギヤ対15,16,17を選択的に動力伝達可能な状態にするための切替機構が設けられている。この切替機構は、各ギヤ対15,16,17を第1ドライブ軸4とドリブン軸11とのいずれかに選択的に連結する機構であり、したがって従来の手動変速機などにおける同期連結機構(シンクロナイザー)を使用することができ、あるいは噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)や摩擦式クラッチなどを使用することができる。また、上記の従動ギヤをドリブン軸11に一体的に取り付けた場合には、駆動ギヤを第1ドライブ軸4に対して回転自在とし、その駆動ギヤを第1ドライブ軸4に対して選択的に連結するように第1ドライブ軸4側に切替機構を設けることができる。
【0037】
図1に示す構成例では、切替機構として同期連結機構が使用されており、上記のリバース従動ギヤ17Bに隣接して第1シンクロ18が配置されている。また、第1速従動ギヤ15Bと第3速従動ギヤ16Bとの間に第2シンクロ19が配置されている。これらのシンクロ18,19は、従来の手動変速機で用いられているものと同様であって、ドリブン軸11に一体のハブにスリーブがスプライン嵌合され、そのスリーブを軸線方向に移動することにより次第にスプライン嵌合するチャンファーもしくはスプラインが各従動ギヤに一体に設けられ、さらにスリーブの移動に伴って、従動ギヤ側の所定の部材に次第に摩擦接触して回転を同期させるリングが設けられている。
【0038】
したがって第1シンクロ18は、そのスリーブ18Sを図1の左側に移動させることにより、リバース従動ギヤ17Bをドリブン軸11に連結し、またスリーブ18Sを中央に位置させることにより、リバース従動ギヤ17Bとは係合しないニュートラル状態となるように構成されている。また、第2シンクロ19は、そのスリーブ19Sを図1の右側に移動させることにより、第1速従動ギヤ15Bをドリブン軸11に連結し、またスリーブ19Sを図1の左側に移動させることにより、第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸11に連結し、さらにスリーブ19Sを中央に位置させることにより、いずれの従動ギヤ15B,16Bにも係合しないニュートラル状態となるように構成されている。
【0039】
上記の各シンクロ18,19、および前述のスタートシンクロ12の各スリーブ18S,19S、およびスリーブ12Sは、リンケージ(図示せず)を介して手動操作によって切換動作させるように構成することができ、あるいはそれぞれに個別に設けたアクチュエータ(図示せず)によって切換動作させるように構成することができる。また、各ポンプモータ6,9の押出容積、あるいは各アクチュエータの動作は、後述する電子制御装置(ECU)29によって電気的に制御されるようになっている。
【0040】
また、第2ドライブ軸7とドリブン軸11との間には、前述のように、第2カウンタギヤ対13が配置されている。すなわち第2ドライブ軸7の図1での右側の先端に、第2カウンタギヤ対13のカウンタドライブギヤ13Aが取り付けられていて、そのカウンタドライブギヤ13Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ13Bが、ドリブン軸11の図1での左側の先端に取り付けられている。
【0041】
つぎに、上記の各ポンプモータ6,9を制御するための油圧回路について説明する。各ポンプモータ6,9は、圧油を相互に受け渡すことができるように、油路20,21によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート(吸入口)6S,9S同士が油路20によって連通され、また吐出ポート(吐出口)6D,9D同士が油路21によって連通されている。したがって各油路20,21によって閉回路が形成されている。
【0042】
この閉回路を形成している各油路20,21には、オイルを補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)22が設けられている。このチャージポンプ22は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述した動力源1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン23からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
【0043】
そのチャージポンプ22の吐出口は、前記閉回路における油路20と油路21とにそれぞれチェック弁24,25を介して連通されている。なお、これらのチェック弁24,25は、チャージポンプ22からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ22の吐出圧を調整するためのリリーフ弁26が、チャージポンプ22の吐出口に連通されている。このリリーフ弁26は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合に開いてオイルをオイルパン23に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ22の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
【0044】
さらに、第1ポンプモータ6の吸入ポート6Sと油路21との間に、リリーフ弁27が設けられている。すなわち、第1ポンプモータ6と並列に、各油路20,21を連通させるようにリリーフ弁27が設けられている。このリリーフ弁27は、第1ポンプモータ6の吸入ポート6S、または第2ポンプモータ9の吸入ポート9Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力すなわち設定圧に維持するように構成されている。言い換えれば、リリーフ弁27は、油路21の圧力が予め設定した圧力(設定圧)以上高い場合に開いて排圧するように構成されている。
【0045】
また、第2ポンプモータ9の吐出ポート9Dと油路20との間に、リリーフ弁28が設けられている。すなわち、第2ポンプモータ9と並列に、各油路20,21を連通させるようにリリーフ弁28が設けられている。このリリーフ弁28は、第2ポンプモータ9の吐出ポート9D、または第1ポンプモータ6の吐出ポート6Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力(設定圧)に維持するように構成されている。言い換えれば、リリーフ弁28は、油路20の圧力が予め設定した圧力(設定圧)以上高い場合に開いて排圧するように構成されている。
【0046】
そして、これらリリーフ弁27,28は、開弁方向にスプリング(図示せず)によって押圧されているスプールなどの弁体(図示せず)に対して、スプリングとは反対方向に制御圧を作用させ、さらに油路20もしくは油路21の油圧をスプリングと同方向に弁体に対して作用させるように構成されている。そしてその制御圧(制御信号)を、特には図示しないが、ソレノイドで発生させた電磁力やソレノイドバルブで制御された油圧などによって発生させるようになっている。
【0047】
より具体的には、これらリリーフ弁27,28は、制御圧を高くしていわゆる調圧レベルすなわち設定圧(リリーフ圧)を高くすることにより油路20もしくは油路21の油圧を高くして、油路20と油路21との間の差圧(油圧差)を大きくできるように構成されている。言い換えると、リリーフ弁27(もしくは28)の設定圧を高くすることにより、そのリリーフ弁27(もしくは28)の上流側と下流側との間の差圧を大きくするようになっている。
【0048】
また、これらリリーフ弁27,28は、制御圧を低くして所定の下限圧力になると、油路20と油路21とを直接連通させて、油路20と油路21との間の差圧をほぼゼロとするように構成されている。したがって、図1に示す構成では、ポンプとして機能するポンプモータ6(もしくは9)の吐出圧あるいはそれに関連する軸トルクを、ソレノイドバルブ等を介して電気的に制御できるように構成されている。すなわち、これらリリーフ弁27,28は、それぞれポンプモータ6(もしくは9)とポンプモータ9(もしくは6)との間の油圧を調圧可能な、この発明の調圧弁に相当する制御弁である。
【0049】
そして、上記の各ポンプモータ6,9の押出容積や各シンクロ12,18,19を電気的に制御するための電子制御装置(ECU)29が設けられている。この電子制御装置29は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や動作部材のストロークなどの検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて各ポンプモータ6,9の押出容積を設定し、あるいは各シンクロ12,18,19を動作させるための指令信号等を出力するように構成されている。
【0050】
つぎに、上述した変速機TMの作用について説明する。図2は、いずれかのギヤ対15,13,16,17のギヤ比で決まる各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)6,9、および各シンクロ12,18,19の動作状態をまとめて示す図表(作動表)であって、この図2における各ポンプモータ6,9についての「0」は、容量(押出容積)を実質的にゼロとし、そのロータ軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている(ロックしている)状態を示している。さらに「PUMP」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当する第1あるいは第2のポンプモータ6,9はポンプとして機能している。また、「MOTOR」は、一方のポンプモータ6(もしくは9)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当する油圧ポンプモータ9(もしくは6)は軸トルクを発生している。
【0051】
そして、各シンクロ12,18,19についての「右」、「左」は、それぞれのスリーブ12S,18S,19Sの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「N」は該当するシンクロ12,18,19をOFF状態(中立位置)に設定している状態を示し、斜体の「N」は引き摺りを低減するためOFF状態(中立位置)に設定していることを示す。
【0052】
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル状態を設定する際には、各ポンプモータ6,9の押出容積がゼロとされ、また各シンクロ12,18,19がOFF状態とされる。すなわちそれぞれのスリーブ12S,18S,19Sが中央位置に設定される。したがって、第1シンクロ18および第2シンクロ19がOFF状態に設定されることにより、第1ドライブ軸4とドリブン軸11との間に配置されているギヤ対15,16,17は、いずれもドリブン軸11に連結されていない状態となり、エンジン1もしくは第1ポンプモータ6から第1遊星歯車機構5および第1ドライブ軸4を経由してドリブン軸11に至る動力伝達経路からはドリブン軸11へ動力が伝達されない状態となる。
【0053】
また、スタートシンクロ12がOFF状態に設定されることにより、第2遊星歯車機構8および第2ポンプモータ9にはエンジン1からの動力が伝達されない状態となり、そのためエンジン1もしくは第2ポンプモータ9から第2遊星歯車機構8および第2ドライブ軸7を経由してドリブン軸11に至る動力伝達経路からはドリブン軸11へ動力が伝達されない状態となる。したがって、ドリブン軸11にはいずれの経路からも動力が伝達されないニュートラル状態となる。
【0054】
このとき、第1ポンプモータ6はいわゆる空回り状態となるため、第1遊星歯車機構5のリングギヤR1にエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤS1に反力が作用しないため、出力要素であるキャリアC1に連結されている第1ドライブ軸4にはトルクが伝達されない。そして、第2遊星歯車機構8へはエンジン1からのトルクは伝達されず、また第2ポンプモータ9はトルクが入力されることも出力することもなく停止しているため、第2遊星歯車機構8の出力要素であるキャリアC2に連結されている第2ドライブ軸7にはトルクが伝達されない。その結果、上記のように変速機TMはニュートラルの状態になる。
【0055】
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ18をOFF状態に設定したままで、第2シンクロ19のスリーブ19S、スタートシンクロ12のスリーブ12Sが、それぞれ、図1の右側に移動させられる。したがって、第1速従動ギヤ15Bがドリブン軸11に連結され、また第2遊星歯車機構8のリングギヤR2が固定部材14に連結される。その結果、第1ドライブ軸4とドリブン軸11とが第1速ギヤ対15を介して連結され、また第2遊星歯車機構8のリングギヤR2が固定される。
【0056】
すなわち、ギヤ対の連結状態としては、第1速を設定する状態となる。そして、図3の共線図で示すように、第2遊星歯車機構8のリングギヤR2が固定されるので、第2遊星歯車機構8は、サンギヤS2にロータ軸9Aを介して第2ポンプモータ9の出力したトルクが入力された場合にそのサンギヤS2の回転数に対して第2遊星歯車機構8の出力要素であるキャリアC2の回転数が減速される減速機構、言い換えると、サンギヤS2にロータ軸9Aを介して第2ポンプモータ9の出力したトルクが入力された場合にそのサンギヤS2のトルクに対して第2遊星歯車機構8の出力要素であるキャリアC2のトルクが増幅される減速機構として機能する状態となる。
【0057】
したがって、車両VEの発進時に、シフトポジションが走行ポジションに切り替えられることにより、エンジン1の動力が第1遊星歯車機構5および第1ドライブ軸4ならびに第1速ギヤ対15を介してドリブン軸11に伝達される動力伝達経路と、第2ポンプモータ9の出力したトルクが第2遊星歯車機構8で増幅されて第2ドライブ軸7および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介してドリブン軸11に伝達される動力伝達経路との2つの動力伝達経路が形成されることになる。
【0058】
この状態では、車両VEが未だ停止しているので、第1遊星歯車機構5では、キャリアC1が停止している状態でリングギヤR1にエンジン1から動力が入力され、したがってサンギヤS1がリングギヤR1の回転方向とは反対の方向に回転する。この状態で、各ポンプモータ6,9の押出容積を次第に大きくし、先ず、第1ポンプモータ6をポンプとして機能させて油圧を発生させる。すると、それに伴う反力が第1遊星歯車機構5におけるサンギヤS1に作用するので、キャリアC1にこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが現れる。その結果、第1速ギヤ対15を介してドリブン軸11に動力が伝達される。
【0059】
上記の第1ポンプモータ6はいわゆる逆回転してポンプとして機能しているから、その吸入ポート6Sから圧油を吐出し、これが第2ポンプモータ9の吸入ポート9Sに供給される。その結果、第2ポンプモータ9がモータとして機能し、そのロータ軸9Aからいわゆる正回転方向のトルクが出力され、そのトルクが第2遊星歯車機構8におけるサンギヤS2に入力される。このとき、第2遊星歯車機構8は、上記のようにリングギヤR2が固定されてキャリアC2を出力要素とする減速機構として機能するので、サンギヤS2に入力されたトルクは、第2遊星歯車機構8で増幅されて第2ドライブ軸7および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介してドリブン軸11に伝達される。すなわち第2ポンプモータ9から出力されたトルクが増幅されてドリブン軸11へ伝達される。
【0060】
このように、車両VEの発進時には、エンジン1から入力された動力の一部が第1遊星歯車機構5および第1速ギヤ対15を介してドリブン軸11に伝達され、また他の動力が圧油の流動の形にエネルギ変換され、これが第2ポンプモータ9に伝達され、さらにこの第2ポンプモータ9から第2遊星歯車機構8および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介してドリブン軸11にトルクが増幅されて伝達される。すなわち、車両VEの発進時には、いわゆる機械的な動力伝達と流体を介した動力伝達が行われ、しかも流体を介した動力伝達の際にはトルクが増幅されて、これらの動力を合算した動力がドリブン軸11に出力される。
【0061】
上記のような動力の伝達状態では、ドリブン軸11に現れるトルクは、第1速ギヤ対15を介した機械的伝達のみの場合のトルクより大きくなり、したがって変速機TMの全体としての変速比は、第1速ギヤ対15によって決まるいわゆる固定変速比より大きくなる。また、その変速比は、流体を介した動力の伝達割合に応じて変化する。そのため、第2遊星歯車機構8におけるサンギヤS2およびこれに連結されている第2ポンプモータ9の回転数が次第にゼロに近づくのに従って流体を介した動力伝達の割合が低下し、変速機TMの全体としての変速比は第1速の固定変速比に近づく。そして、第1ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第1速となる。
【0062】
この状態で第2ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ9が空転するとともに、第1ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第2ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構5のサンギヤS1にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構5ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリアC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸4および第1速ギヤ対15を介して、出力軸としてのドリブン軸11に伝達される。こうして固定変速比である第1速が設定される。
【0063】
この第1速の状態でスタートシンクロ12をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ12Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ19のスリーブ19Sを図1の右側に移動させたまま、また第1シンクロ18をOFF状態に設定したまま、スタートシンクロ12のスリーブ12Sを図1の左側に移動させて、第1カウンタギヤ対10のカウンタドリブンギヤ10Cを第2遊星歯車機構8のリングギヤR2に連結すれば、入力軸2が、第1カウンタギヤ対10および第2遊星歯車機構8および第2ドライブ軸7および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介してドリブン軸11に連結されるので、固定変速比である第2速へのアップシフト待機状態となる。一方、スタートシンクロ12のスリーブ12Sを図1の右側に移動させて第2遊星歯車機構8のリングギヤR2を固定して、第2遊星歯車機構8をサンギヤS2への入力に対してキャリアC2から出力する場合の減速機構として機能する状態にしておけば、第1速より大きい変速比を設定するダウンシフト待機状態となる。
【0064】
第1速から第2速へのアップシフト待機状態では、第2ポンプモータ9およびこれに連結されているサンギヤS2がリングギヤR2とは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ9の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ9がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS2に作用する。その結果、リングギヤR2に入力されたトルクとサンギヤS2に作用する反力とを合成したトルクがキャリアC2に作用し、これが正回転し、かつその回転数が次第に増大する。言い換えれば、エンジン1の回転数が次第に引き下げられる。そのキャリアC2から第2ドライブ軸7および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介してドリブン軸11にトルクが伝達される。
【0065】
第2ポンプモータ9がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート9Sから第1ポンプモータ6の吸入ポート6Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ6がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構5のサンギヤS1に作用する。第1遊星歯車機構5のリングギヤR1にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS1に作用するトルクとが合成されてキャリアC1から第1ドライブ軸4に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸11にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。
【0066】
そして、第2ポンプモータ9の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構8および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機TMの全体としての変速比は、第1速ギヤ対15で決まる変速比から第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第2速となる。
【0067】
この状態で第1ポンプモータ6の押出容積がゼロに設定されるので、第1ポンプモータ6が空転するとともに、第2ポンプモータ9がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第1ポンプモータ6によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ9は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構8のサンギヤS2にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構8ではサンギヤS2を固定した状態でリングギヤR2に動力が入力されるので、出力要素であるキャリアC2にはこれをリングギヤR2と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2ドライブ軸7および第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を介して、出力軸としてのドリブン軸11に伝達される。こうして固定変速比である第2速が設定される。
【0068】
この第2速の状態で第2シンクロ19をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ19Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ6を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ19のスリーブ19Sを図1の左側に移動させて第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸11に連結すれば、固定変速比である第3速へのアップシフト待機状態となる。一方、第2シンクロ19のスリーブ19Sを図1の右側に移動させて第1速従動ギヤ15Bをドリブン軸11に連結しておけば、第1速へのダウンシフト待機状態となる。
【0069】
第2速から第3速へのアップシフト待機状態では第1ポンプモータ6およびこれに連結されているサンギヤS1がリングギヤR1とは反対の方向に回転している。したがって第1ポンプモータ6の押出容積を正の方向に増大させると、第1ポンプモータ6がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS1に作用する。その結果、リングギヤR1に入力されたトルクとサンギヤS1に作用する反力とを合成したトルクがキャリアC1に作用してこれが正回転し、そのトルクが第1ドライブ軸4および第3速ギヤ対16を介して出力軸であるドリブン軸11に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
【0070】
第1ポンプモータ6がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート6Sから第2ポンプモータ9の吸入ポート9Sに供給される。そのため、第2ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第2遊星歯車機構8のサンギヤS2に作用する。第2遊星歯車機構8のリングギヤR2にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS2に作用するトルクとが合成されてキャリアC2から第2ドライブ軸7および第2カウンタギヤ対(第2速ギヤ対)13に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸11にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。
【0071】
そして、第1ポンプモータ6の回転数が次第に低下することにより、第1遊星歯車機構5および第3速ギヤ対16を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機TMの全体としての変速比は、第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13で決まる変速比から第3速ギヤ対16で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合や第1速から第2速にアップシフトする場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第1ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第3速となる。
【0072】
この状態で第2ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ9が空転するとともに、第1ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第2ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構5のサンギヤS1にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構5ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリアC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸4および第3速ギヤ対16を介して、出力軸としてのドリブン軸11に伝達される。こうして固定変速比である第3速が設定される。
【0073】
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り替えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、スタートシンクロ12のスリーブ12Sが図1の右側に移動させられて、第2遊星歯車機構8のリングギヤR2が固定部材14に連結され、リングギヤR2が固定された状態にされる。また、第1シンクロ18のスリーブ18Sが図1の左側に移動させられて、リバース従動ギヤ17Bがドリブン軸11に連結され、さらに、第2シンクロ19がOFF状態に設定される。すなわち、入力軸2から第1遊星歯車機構5および第1ドライブ軸4ならびにリバースギヤ対17を経由してドリブン軸11に到る動力伝達経路と、第2ポンプモータ9のロータ軸9Aから第2遊星歯車機構8および第2ドライブ軸7ならびに第2速ギヤ対(第2カウンタギヤ対)13を経由してドリブン軸11に到る動力伝達経路との2つの動力伝達経路が形成される。
【0074】
この状態で第1ポンプモータ6の押出容積を次第に増大させる。また、第2ポンプモータ9の押出容積を、上述した前進段(前進走行)の場合とは反対の負の方向に次第に増大させる。車両VEが停止している状態ではドリブン軸11は回転していないから、これに連結された第2ポンプモータ9は停止している。これに対して、第1遊星歯車機構5では第1ドライブ軸4に連結されているキャリアC1が固定されている状態でリングギヤR1にエンジン1から動力が入力されるから、サンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ6がリングギヤR1とは反対方向に回転している。
【0075】
したがって、第1ポンプモータ6のトルク容量を次第に増大させると、第1ポンプモータ6がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力がサンギヤS1に作用するので、出力要素であるキャリアC1にはこれを前進走行時と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸4に伝達される。この第1ドライブ軸4とドリブン軸11との間に配置されているリバースギヤ対17は、アイドルギヤ17Cを備えているので、第1ドライブ軸4が前進走行時と同方向に回転すると、ドリブン軸11はこれとは反対の方向に回転し、したがって後進走行することになる。
【0076】
つぎに、この発明の変速機TMの制御装置による制御例について説明する。前述したように、この発明で対象とする可変容量型油圧ポンプモータ式の変速機TMは、例えば、登坂路や凹凸路での発進時などのように、ブレーキが解放されてから車速が上昇するまでに長い時間がかかる場合は、通常の発進時と比較して、リリーフ弁が開放もしくは半開放された状態が長く継続される。その結果、効率の低下やリリーフ弁の発熱などの問題があった。そこで、この発明の制御装置では、車両VEの発進時にブレーキが解放されてからの経過時間を検出し、そのブレーキ解放からの経過時間と、アクセル開度などの要求駆動力の代表値とから、各ポンプモータ6,9の押出容積(吐出流量)に対する各リリーフ弁27,28によりリリーフされるオイルの流量の割合の目標値を設定して、その目標値に実際の各リリーフ弁27,28を通過するオイルの流量が一致するように、各ポンプモータ6,9の押出容積を制御するように構成されている。
【0077】
図4は、この発明の制御装置による制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図4において、先ず、変速機TMのシフトレンジが駆動レンジ(駆動ポジション)であるか否かが判断される(ステップS1)。ここでの駆動レンジとは、車両VEを前進もしくは後進させる際に設定されるシフトレンジであり、例えば、D(ドライブ)レンジ、L(ロー)レンジ、R(リバース)レンジのことである。
【0078】
変速機TMのシフトレンジが駆動レンジでないこと、例えば、変速機TMのシフトレンジがN(ニュートラル)レンジ、あるいはP(パーキング)レンジであることによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、ブレーキの解放時間、すなわちブレーキが解放された後の経過時間を計測するブレーキ解放経過時間タイマの計測値をクリアした後、このルーチンを一旦終了する。
【0079】
これに対して、変速機TMのシフトレンジが駆動レンジであること、すなわち、変速機TMのシフトレンジがD(ドライブ)レンジ、あるいはL(ロー)レンジ、あるいはR(リバース)レンジなどであることによって、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS3へ進み、各リリーフ弁27,28が開放されているか否かが判断される。
【0080】
ここで、各リリーフ弁27,28の開放状態とは、各リリーフ弁27,28が所定の比率で開放される半開放も含んだ状態のことであり、したがって、各リリーフ弁27,28がいずれも完全に閉止されていることにより、このステップS3で否定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、ブレーキ解放後経過時間タイマの計測値をクリアした後、このルーチンを一旦終了する。
【0081】
これに対して、各リリーフ弁27,28が完全に閉止されていないこと、すなわち各リリーフ弁27,28が完全に開放されていること、もしくは半開放されていることにより、ステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、車両VEのブレーキが解放されているか否かが判断される。車両VEのブレーキの解放状態の判断は、例えば、ブレーキスイッチ(図示せず)のON・OFF信号に基づいて判断することができる。すなわち、ブレーキスイッチがOFFの場合に車両VEのブレーキは解放されていると判断し、ブレーキスイッチがONの場合に車両VEのブレーキは作動していると判断することができる。
【0082】
車両VEのブレーキが解放されていないことにより、このステップS4で否定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、ブレーキ解放後経過時間タイマの計測値をクリアした後、このルーチンを一旦終了する。
【0083】
これに対して、車両VEのブレーキが解放されていることにより、ステップS4で肯定的に判断された場合には、ステップS5へ進み、ブレーキ解放後経過時間タイマが制御周期分だけ増加させられる。
【0084】
続いて、各リリーフ弁27,28の目標リリーフ割合Rrlf_refが求められる(ステップS6)。リリーフ割合Rrlfとは、各リリーフ弁27,28を通過するオイルの流量に対する各リリーフ弁27,28からリリーフされるオイルの流量の割合である。言い換えれば、各ポンプモータ6,9のオイルの吐出流量に対する各リリーフ弁27,28によりリリーフされるオイルの流量の割合である。そして、この目標リリーフ割合Rrlf_refは、例えば、アクセル開度毎に、平坦路での発進における各リリーフ弁27,28のリリーフ割合Rrlfの時間に対する推移を予め図5に示すようなマップに記憶しておき、アクセル開度およびブレーキ解放後経過時間タイマの検出値に基づいて、その図5に示すマップを用いて求めることができる。
【0085】
また、変速機TMの目標変速比γpm_refが算出される(ステップS7)。具体的には、変速機TMの入力軸回転数をNin、出力軸回転数をNout、各リリーフ弁27,28が閉じていると仮定した場合の第1ポンプモータ6の押出容積と第2ポンプモータ9の押出容積との比から決まる値である変速機TMの変速比(入力軸回転数と出力軸回転数との比)をγpmとすると、各リリーフ弁27,28のリリーフ割合Rrlfは、
Rrlf=Nin−Nout×γpm
として表すことができ、この関係式より、目標リリーフ割合Rrlf_refを実現する変速比すなわち目標変速比γpm_refは、
γpm_ref={Nin×(1−Rrlf_ref)}/Nout
として求めることができる。
【0086】
目標変速比γpm_refが算出されると、その目標変速比γpm_refを実現する各ポンプモータ6,9の押出容積Q1,Q2が求められる(ステップS8)。これら各押出容積Q1,Q2は、例えば、図6に示すような、変速機TMの変速比γpmに対する各ポンプモータ6,9の押出容積Q1,Q2の関係を示すマップから求めることができる。
【0087】
そして、上記のステップS8で求められた各押出容積Q1,Q2に基づいて、各ポンプモータ6,9が制御される。具体的には、各ポンプモータ6,9の押出容積がそれぞれ押出容積Q1,Q2となるように、例えば各ポンプモータ6,9の制御部を動作させるリニアソレノイドの電流制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0088】
以上のように、この発明の制御装置によれば、車両VEのブレーキが作動して車両VEが制動されて停止している状態で、そのブレーキによる制動が解除されることにより、運転者による車両の発進意志が検出される。例えば、ブレーキスイッチのON・OFF信号を検出し、ブレーキスイッチがOFFにされたことを検出した場合に、運転者による車両の発進意志が有ると判断することができる。
【0089】
そして、運転者による車両VEの発進意志が検出されると、その発進意志が検出された時からの経過時間が計測され、その経過時間と、例えばアクセル開度やエンジン1のスロットル開度などで代表される要求駆動力とに基づいて、各リリーフ弁27,28を通過させるべきオイルの流量が求められる。そして、その求められた流量のオイルが実際に各リリーフ弁27,28を通過するように、各ポンプモータ6,9の押出容積がそれぞれ制御される。したがって、各ポンプモータ6,9の押出容積を制御することにより、各リリーフ弁27,28の設定圧を変更することなく、発進意志が検出されてから、すなわち車両VEのブレーキが解放されてからの経過時間に応じて、車両VEの駆動力が適切に制御される。そのため、各リリーフ弁27,28での発熱や効率の低下を回避もしくは抑制することができ、また、エンジン1の制御内容を複雑にすることなく、車両VEの発進時におけるエンジン1に対する負荷の増大を抑制することができる。
【0090】
例えば、登坂路や不整地などの走行抵抗が大きい路面で発進する場合は、平坦路などでの通常の発進に比べて大きな駆動力が必要になり、発進のためにブレーキが解放された後に車速が上昇する時間が、通常よりも長くかかる。このとき、従来の制御では、ブレーキ解放後の経過時間が増大することにより、各リリーフ弁27,28でオイルがリリーフされ続ける時間が長くなり、その結果、油圧回路での発熱が多くなる。また、多量のオイルがリリーフされ続けることによる効率の低下が生じてしまう。これに対して、この発明の制御によれば、リリーフ割合Rrlfを目標値に近づけるために、目標変速比γpm_refが大きく設定されるため、その結果、変速機TMの入力トルクに対する出力トルクの比が大きくなり、車両VEの駆動力を増大させることができる。そのため、発進時に大きな駆動力が要求される場合であっても、運転者による調整操作が行われることなく、車両VEの駆動力を自動的に適切な大きさに制御することができる。
【0091】
また、車両VEの駆動力が制御される際には、各リリーフ弁27,28の設定圧は変化させられず、そのためエンジン1に対する負荷もほぼ一定で変化しないので、駆動力を制御するためにエンジン1の出力を増減させる必要がない。その結果、エンジン1の燃費の低下や、エンジンストールを回避することができ、また、エンジン1の制御構造を簡素化することができる。
【0092】
さらに、車両VEの駆動力の補正のために、例えば路面勾配、路面μ、路面の凹凸、あるいは操舵角などの情報を必要としていないので、それらを検出するための特別なセンサ類を設けなくともよく、装置の構造を簡素化し、コストアップを回避することができる。
【0093】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS4の機能的手段が、この発明の発進検出手段に相当し、ステップS4,S5の機能的手段が、この発明の経過時間検出手段に相当する。また、ステップS6の機能的手段が、この発明の調圧弁流量算出手段に相当し、ステップS7,S8,S9の機能的手段が、この発明のポンプ・モータ制御手段に相当する。
【0094】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、対象とする変速機は、図1に示す構成以外のものであってもよく、例えば、図7に示すように、油圧のみによってエンジン1の動力をデファレンシャル30を介して駆動輪31に伝達し、かつ変速を行うように構成した変速機であってもよい。すなわち、静圧式変速機(ハイドロスタティック・トランスミッション:HST)であってもよい。また、図8に示すように、歯車機構32、33を主体とした変速機構と並列にHSTを設けて、全体として無段階に変速できるように構成した変速機であってもよい。また、図1に示す例では、前進3段・後進1段の固定変速比を設定できるように構成されているが、この発明で対象とする変速機は、固定変速比の数がそれよりも多くてよく、あるいは反対に少なくてもよい。
【0095】
また、ポンプモータをシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構などの差動機構に対する反力機構として用いる場合、その押出容積をゼロから一方向にのみ増大できるいわゆる片振り型のものに限らず、正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型のポンプモータを使用することもできる。その場合、歯車機構は、図1と異なる構成とすることができる。
【0096】
また、ポンプモータや差動機構ならびにギヤ対などの伝動機構の配列は、必要に応じて適宜変更することができる。またさらに、動力源は一方の差動機構に直接連結する替わりに、前述したカウンタギヤ対のアイドルギヤに連結してもよい。さらに、ギヤ対に替えてベルトやチェーンなどの機構を用いてもよい。そして、この発明における動力源は、エンジンである必要はなく、電気モータであってもよく、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせたハイブリッド駆動装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】この発明で対象とする変速機の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】図1に示す変速機で各変速比を設定する際の各ポンプモータおよび各シンクロの動作状態をまとめて示す図表である。
【図3】この発明で対象とする変速機の発進時における各回転部材の動作を示す共線図である。
【図4】この発明の制御装置における制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートにおけるステップS6の制御で用いられるマップの一例である。
【図6】図4のフローチャートにおけるステップS8の制御で用いられるマップの一例である。
【図7】この発明で対象とする変速機のその他の例を模式的に示すスケルトン図である。
【図8】この発明で対象とする変速機のその他の例を模式的に示すスケルトン図である。
【符号の説明】
【0098】
1…エンジン(動力源)、 6…第1ポンプモータ(油圧ポンプもしくは油圧モータ)、 9…第2ポンプモータ(油圧ポンプもしくは油圧モータ)、 11…ドリブン軸(出力部材)、 20,21…油路、 27,28…リリーフ弁(調圧弁)、 29…電子制御装置(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源が出力した動力によって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、その油圧ポンプに対して圧油を相互に授受可能に閉回路で連通されるとともに、前記油圧ポンプが出力した圧油が供給されて駆動されることにより出力部材に動力を出力する可変容量型の油圧モータと、前記油圧ポンプと油圧モータとの間の油圧を調圧可能な調圧弁とを備え、前記出力部材に伝達されるトルクがこれらの油圧ポンプおよび油圧モータの押出容積と油圧とに応じて変化する車両用油圧式変速機の制御装置において、
運転者による車両の発進意志を検出する発進検出手段と、
前記発進検出手段により前記発進意志が検出された時点からの経過時間を検出する経過時間検出手段と、
前記経過時間検出手段により検出された前記経過時間と前記車両に対する要求駆動力とに基づいて前記調圧弁を通過させるべき油量を算出する調圧弁流量算出手段と、
前記調圧弁流量算出手段により算出された前記油量を吐出するように前記油圧ポンプおよび油圧モータを制御するポンプ・モータ制御手段と
を備えていることを特徴とする車両用油圧式変速機の制御装置。
【請求項2】
前記発進検出手段は、前記車両が制動装置により制動されて停車している際に、前記制動装置による制動が解除されたことを検出することによって前記発進意志を検出する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用油圧式変速機の制御装置。
【請求項3】
前記油圧ポンプおよび油圧モータは、それぞれ油圧ポンプとしての機能と油圧モータとしての機能とを兼ね備えた可変容量型の油圧ポンプモータを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用油圧式変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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