説明

車両用流体加熱器

本発明は車両用流体加熱器(3)、特に自動車用温水ヒーターに関する。この車両用流体加熱器(3)は熱交換器(8)と電熱ヒーターユニット(9)を備え、熱交換器(8)は加熱対象流体の流路を画定する熱伝導性本体及び該熱伝導性本体の前端部と後端部をそれぞれ封止する一対の密封カバー(16a, 16b)を有し、少なくとも一方の密封カバー(16a)には本体内に流体流れを確立させる入口と出口が設けられ、ヒーターユニット(9)は熱伝導性本体の熱伝導面に接合されている。各密封カバー(16a, 16b)は圧力を受けて変形可能な材料からなると共に流体加熱器の外囲を形成するハウジングによって定位置に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、少なくとも1つの熱交換器と少なくとも1つの電熱ヒーターユニットとを備え、該熱交換器が加熱すべき流体のための少なくとも1つの流路を画定する少なくとも1つの熱伝導性本体及び該熱伝導性本体の前端部と後端部をそれぞれ封止する一対の密封カバーを有し、少なくとも一方の密封カバーには前記本体内に流体流れを確立させる入口及び/又は出口が設けられ、ヒーターユニットが熱伝導性本体の熱伝導面に接合されている形式の車両用流体加熱器、特別には自動車用温水ヒーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた形式の車両用流体加熱器は、例えば特許文献1(米国特許出願公開第2008/0138052号明細書)に開示されている。この特許文献1は、自動車の風防窓や前照灯のスクリーン面を適用対象として、着氷した雪や霜を融解するために自動車の風防等スクリーン面上に噴霧できる温水を生成可能とした自動車用温水ヒーターに関するものである。この従来技術による自動車用温水ヒーターは、加熱すべき水が通流可能な流路を画定するアルミニウム製熱交換器を備えている。この熱交換器の外表面には複数箇所の伝熱面が設けられ、各伝熱面にはそれぞれ帯状電熱ヒーターユニットが装着される。これらのヒーターユニットは帯状電極板と帯状電熱ヒーターエレメントとの積層体からなり、ヒーターユニットの電熱ヒーターエレメントには、PTCストーン(正の温度係数をもつセラミック抵抗素子)が用いられている。熱交換器の内部には、水を通流可能な複数の流路が画定され、各流路の前端部と後端部はそれぞれ端部密封カバーで封止されている。
【0003】
上述の従来技術の車両用流体加熱器は、或る一定量の加熱されたスクリーン面洗浄液を通常は60℃〜70℃の予め定められた設定温度で要求操作に応じて送給するように設計されている。この従来技術における熱交換器は、洗浄液の流路を画定する液体用容器として設計されている。通常、この熱交換器は、設定温度に達したら例えば自動車の風防スクリーン面に噴射されるスクリーン面洗浄液を60〜70ccの容量で収容している。
【0004】
このような車両用流体加熱器は風防窓や前照灯のスクリーン面に対する霜取りや洗浄のための洗浄液を加熱する以外の目的にも用いることができるのは勿論である。即ち、このような車両用流体加熱器を用いて、特に周囲温度が低温のときに潤滑オイルを予熱してその粘度を下げたり、或いはディーゼル燃料の凍結を解除したりすることもできる。
【0005】
また、一般に車両用洗浄液噴射システムにおいては周囲温度が常温のときでも加熱された洗浄液を供給することにより洗浄効果を高めることができる。温水又は加熱洗浄液は冷温洗浄液よりも良好な洗浄効率を発揮することは一般によく知られていることである。
【0006】
ところで、車両用のスクリーン面洗浄装置は、通常は幅広い温度範囲で外気に曝されるものである。しかも、スクリーン面の洗浄機能は、典型的には氷点下の条件下で利用される可能性が最も高い。通常、液相の洗浄液が固体へ相変化することを防ぐ目的で洗浄液には洗剤だけではなくアルコール等の凍結防止剤も含有されている。洗浄液の貯留タンク内に電熱ヒーターを配設することも知られている。
【0007】
しかしながら、これらの対策を講じてもなお洗浄液の凍結を回避できないことが多い。この場合、氷の成長による膨張によって洗浄液供給系の全ての構成要素に恒久的な構造上の損傷が生じるく恐れがある。その結果として生じる損傷は、洗浄液の漏出、構造材料の破損や降伏、或いは全体的な機能不良を引き起こす可能性がある。
【0008】
このような課題は、例えば、熱伝導性本体内の流路を介して洗浄液に熱を供給する流体加熱器を開示している特許文献2(米国特許第6889005号明細書)で取り扱われている。この従来技術では、加熱源は熱伝導性本体に熱を与えるべく該本体の内部に配置されている。即ち、加熱源を内部に埋め込んだ熱伝導性本体の内部流路に流れる洗浄液は該本体から熱を吸収する。凍結による加熱器の損傷を防ぐため、流路容積拡張部材が熱伝導性本体内の流路の上端開口面を覆って取りつけられている。この流路容積拡張部材は、形状記憶特性を有する圧縮可能な発泡体によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0138052号明細書
【特許文献2】米国特許第6889005号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主目的は、より優れた対凍結保護機能を有する車両用流体加熱器を提供することにある。本発明の更なる目的は、既に特許文献1で開示されている熱交換器の有利な設計を継承しつつ上記主目的を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のこれらの目的並びにその他の目的は、少なくとも1つの熱交換器と少なくとも1つの電熱ヒーターユニットとを備え、該熱交換器が加熱すべき流体のための流路を画定する少なくとも1つの熱伝導性本体及び該熱伝導性本体の前端部と後端部をそれぞれ封止する一対の密封カバーを有し、少なくとも一方の密封カバーには前記本体内に流体流れを確立させる入口及び/又は出口が設けられ、ヒーターユニットが熱伝導性本体の熱伝導面に接合されている形式の車両用流体加熱器、特に自動車用温水ヒーターによって解決される。特に本発明による車両用流体加熱器は、各密封カバーが流体加熱器の外囲を形成するハウジングによって定位置に保持されていることを特徴とする。
【0012】
上記ハウジング自体に断熱特性を持たせ、以てハウジング自体で既に対凍結保護機能が達成されるすようにすることができる。また、このような設計を採用することにより、ハウジングによって定位置に保持されるダイアフラム型密封カバーを採用することが可能となる。
【0013】
本発明の好適な一実施形態によれば、少なくとも一方の密封カバーが圧力を受けて変形可能な可撓性材料又は合成ゴム材からなっている。この密封カバーは、洗浄液の相変化が起きたときにはそれによって熱伝導性本体内の流路と流体容器(熱交換器)外部との間に封止が起きないように設計される。氷が形成されると洗浄液の体積が8〜10%増加することは周知である。本発明による係る設計においては、密封カバーとしてダイアフラム又は隔膜構造を利用することが可能である。
【0014】
これに関連して、熱交換器の主に金属材料からなる熱伝導性本体の前端部と後端部の双方を密封カバーによって閉鎖することが特に有利である。凍結温度下の状態になると、金属製の熱伝導性本体は熱伝導率が高いため洗浄液の相変化は先ず該本体の中心部から始まることが予測できる。凍結が熱伝導性本体の内部から前端部及び後端部へ向かって進んでも、前端部及び後端部の各密封カバーは外方へ向かってアーチ状に湾曲変形可能である。
【0015】
本発明による車両用流体加熱器の別の好適な実施形態においては、少なくとも一方の密封カバーをその変形時に前記ハウジングに対して少なくとも部分的に支持する少なくとも1つの弾性裏当て部材が設けられている。この裏当て部材は、通常の作動条件下においては付加的な支持部として、但し密封カバーの反復的撓曲時においては該カバーのダイアフラム又は隔膜構造の疲労を防止する部材として利用することができる。このような弾性裏当て部材は、弾性発泡体、特に独立気泡の発泡体(フォーム)で構成することができる。
【0016】
熱交換器の外囲を形成するハウジングは、1つの裏当て部材を受け入れる少なくとも1つのキャビティを備えていることが好ましい。この場合、可撓性の密封カバーは凍結条件下においてハウジングの前記キャビティ内で撓曲変形できるように設計される。このキャビティの内部は、前述のように密封カバーのダイアフラム又は隔膜構造の疲労を防ぐために独立気泡の弾性発泡体からなる裏当て部材で満たされていることが好ましい。
【0017】
本発明の別の好適な一実施形態によれば、ハウジングが互いにスナップ嵌合連結部によって連結される複数の部分からなっている。
【0018】
ハウジングは、少なくとも胴部本体と該胴部本体にスナップ嵌合連結部で連結される第1と第2の端部キャップとからなるものとすることができ、この場合、第1の端部キャップには電気接続部を、第2の端部キャップには流路連結部を装備することができる。ハウジングの胴部本体には、熱交換器を受け入れる区画と、電気回路ユニットの基板を収納するための別の区画とを設けることができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態によれば、各密封カバーが前記熱交換器の熱伝導性本体内に一連の順序の流体流れを確立させるために該本体内の流路の少なくとも2つの区間の間の連通流路を形成している。この場合、区間同士の密封機能を果たすのは熱伝導性本体内の区間仕切壁と密封カバー内面の嵌合溝であるが、これらの間の密封構造は、密封カバーが氷点下の条件下で変形している間は密封が解除されることになる。
【0020】
本発明の更に有利な実施形態によれば、ハウジングの第2の端部キャップの流体連結部が熱交換器の一方の密封カバーに設けられた流路開口内に延在して該流路開口に封着されたニップルの形態を有している。
【0021】
本発明の更に有利な実施形態によれば、各密封カバーが前記熱交換器の熱伝導性本体内に一連の順序の流体流れを確立させるために該本体内の流路の少なくとも2つの区間の間における流路の連通を阻止する封止部材又はシール溝を備え、該封止部材が各密封カバーの変形下においても前記ハウジングによって定位置に保持されている。
【0022】
本発明を例示のための添付図面を参照して詳述すれば以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】自動車用スクリーン面洗浄装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明による車両用流体加熱器の外観を示す斜視図である。
【図3】密封状態にある熱交換器の斜視図である。
【図4a】密封カバーを外した状態の熱交換器の斜視図である。
【図4b】本発明の別の実施形態による熱交換器の斜視図である。
【図5】ヒーターユニットの斜視図である。
【図6a】本発明による車両用流体加熱器の縦断面図である。
【図6b】同じく車両用流体加熱器の横断面図である。
【図7】図6aの車両用流体加熱器の右側部分の拡大断面図である。
【図8】図6aの車両用流体加熱器の左側部分の拡大断面図である。
【図9a】同じく車両用流体加熱器の電気制御用回路基板と熱交換器との接続部を示す拡大断面図である。
【図9b】図4bに示した実施形態による車両用流体加熱器の同様の接続部を示す拡大断面図である。
【図10】本発明による車両用流体加熱器の分解斜視図である。
【図11】制御装置と組み合わされた電熱ヒーターの機能接続ブロック図である。
【図12】サンプリング抵抗器による電圧測定用の測定回路の回路図である。
【図13a】グラフ1はPTCストーンの抵抗値と該PTCストーンの実際の温度との関係を示す線図である。
【図13b】グラフ2は定電圧印加時におけるPTCストーンの通過電流値と該PTCストーンの実際の温度との関係を示す線図である。
【図13c】グラフ3はPTCストーンに電圧を印加したときのPTCストーンの実際の温度と経過時間との関係を示す線図である。
【図13d】グラフ4は矩形波制御信号の電圧波形の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、車両用風防窓スクリーン面洗浄装置の主要構成を示す概略の説明図であり、この洗浄装置は、洗浄液タンク1、洗浄液電動ポンプ2、車両用流体加熱器3、及び図示しない自動車の風防窓に付設されたスクリーン面洗浄ノズル4からなる。通常のスクリーン面洗浄動作時には、洗浄液は洗浄液タンク1から電動ポンプ2によって車両の風防窓へ向かって導出される。洗浄液は、これ以外にも、ヘッドランプ、リアランプ、或いはその他の洗浄対象のスクリーン面にも送給可能であることは述べるまでもない。洗浄液は加熱器3のモジュールに対してその入口ポート5を通して送り込まれ、加熱器からは出口ポート6を通して送り出される。図1から判るように、入口ポート5は電動ポンプ2にフレキシブルホース7で接続されている。同様に、出口ポート6も別のフレキシブルホース7で洗浄ノズル4に接続されている。図1において、風防窓スクリーン面洗浄装置は単なる例示の目的で極めて簡略化されて示されている。
【0025】
洗浄液タンクは、通常は−40〜40℃程度に想定される周囲温度の洗浄液を収容している。この車両用流体加熱器3は、後述するように60〜70ccの範囲内の容量で洗浄液を収容可能である。車両用流体加熱器3は、50〜70℃の範囲内で予め定められた設定温度、好ましくは殆どの冬期用混合洗浄液で一般的に知られているアルコールの気化温度よりも低い温度に加熱されたスクリーン面洗浄液を要求操作に応じて送給するように設計されている。車両を始動させると、車両用流体加熱器は自身の設定温度にまで洗浄液を加熱するように設計されている。これは、車両の運転キャビン内にて発光ダイオード(LED)表示器により視覚表示される。利用者のために、随意操作による霜取り、或いは自動霜取りモードによる自動的な霜取りのいずれでも霜取りを開始することが可能とされている。例えば、車両運転キャビン内の霜取りスイッチが瞬間的に押されると、加熱器のモジュールがワイパー制御ユニットに信号を送り、これを受けてワイパー制御ユニットが洗浄液電動ポンプ2に信号を送ってポンプを作動させ、加熱された洗浄液が、数回、一般に4〜6回のショットに分けて洗浄ノズルから噴射される。このとき同時に、洗浄プロセスを補うようにワイパーが作動される。
【0026】
この車両用流体加熱器は、熱交換器8と、電熱ヒーターユニット9と、制御回路ユニット10とを備え、これら全ての部品は共通の1つのハウジング11内に収容されてモジュール化されている。ハウジング11は、3つの部分、即ち、胴部本体11aと、第1の端部キャップ11bと、第2の端部キャップ11cとからなっている。第1と第2の端部キャップ11b、11cは、それぞれ胴部本体11aに対し、スナップ嵌合連結部12によって連結されている。
【0027】
このハウジングは、熱可塑樹脂性材料で例えば射出成形により製作可能である。
【0028】
特に図2から判るように、第2の端部キャップ11cは二つのニップル13を備えており、これらニップルは、一方が入口ポート5、他方が出口ポート6を構成する。第1の端部キャップ11bには、車両側と加熱器3との電気接続を確立させる端子コネクタ14が設けられている。
【0029】
図3と図4a及び図4bから判るように、この車両用流体加熱器の中枢部分は熱交換器8であり、この熱交換器は、その胴部がアルミニウムの押出形材からなる熱伝導性本体によって構成され、この熱伝導性本体の内部には、該本体の前端部と後端部を封止状に閉鎖する2つの密封カバー16aと16bと共に洗浄液を一連の順序の流れとして熱交換器内に流すための複数の流路15a〜15dが区画形成されている。
【0030】
図3において斜め左下方の手前に向いている端面部を熱交換器8の熱伝導性本体の前端部と呼び、斜め右上方の奥に向いている端面部を熱交換器8の熱伝導性本体の後端部と呼ぶ。各密封カバー16a、16bは、熱伝導性本体の前端部及び後端部における封止機能と、流路15の各隣接区画を相互に封止する機能とを果たしている。
【0031】
図6bから判るように、流路15aは熱交換器8の熱伝導性本体前端部において密封カバー16aによって隣の流路15bに対して封止されているが、熱交換器8の熱伝導性本体後端部においては、密封カバー16bが流路15aと隣の流路15bとの連通部を形成する一方で、流路15bを隣の流路15cに対して封止している。また、熱交換器8の熱伝導性本体前端部において、密封カバー16aは流路15bと隣の流路15cとの連通部を形成する一方で、流路15cを隣の流路15dに対して封止している。更に熱交換器8の熱伝導性本体後端部において、密封カバー16bが流路15cと隣の流路15dとの連通部を形成している。
【0032】
更に、密封カバー16aは入口開口17aと出口開口17bとを備えている。
【0033】
密封カバー16aと16bは、天然又は合成ゴム等、圧力を受けて弾性変形可能な材料からなると共に一種のダイアフラム又は隔膜として機能し、前述のように凍結状態における洗浄液の体積変化を補償する。これらの密封カバー16aと16bは、本実施形態においては、熱交換器の熱伝導性本体前端部と後端部に被さって緩く嵌合すると共に、以下により述べるようにハウジング11により定位置に保持されている。
【0034】
熱交換器8のアルミニウム押出形材で製作した熱伝導性本体内部に一連の順序で延在する流路15a、15b、15c、15dを形成するため、密封カバー16a、16bはダイアフラム形式の橋絡部50a、50bを備えている。この場合、前端部側の密封カバー16aは流路15bと15cとの相互の連通部を形成する1つの橋絡部50aを備えているのに対し、後端部側の密封カバー16bは2つの橋絡部50b、50bを備え、これら橋絡部50b、50bの一方が流路15aと15bとの相互の連通部を、また他方が流路15cと15eとの相互の連通部を形成している。各ダイアフラム橋絡部50a、50bの外周縁は、それぞれ対応する密封カバーに一体形成された全周封止リム51で一体に囲まれている。
【0035】
図6bの横断面図に詳細を示したように、各密封カバーの封止リム51には外側全周溝52と内側全周溝53が形成されている。内側全周溝53は熱伝導性本体側の各流路15a、15b、15c、15dの周縁壁端部を封止状態で受け入れ、一方、外側全周溝52は組立状態においてハウジング胴部本体11aに装着された第1の端部キャップ11bと第2の端部キャップ11cの各位置決めウェブ54を受け入れている。橋絡部50a、50bが内部洗浄液の凍結による膨張で撓曲しても、密封リム51自体は端部キャップ11b、11c側の位置決めウェブ54によって適正な定位置に保持され、従って密封カバー16a、16bの封止機能に有意な影響を及ぼすことなく内部洗浄液の膨張/収縮を許容可能である。
【0036】
前述のように、熱交換器8はアルミニウム材等の熱伝導性材料からなる本体によって胴部が構成されている。熱交換器8の本体両面には、それぞれ電熱ヒーターユニット9が装着されている。これらのヒーターユニット9は、熱を伝えるように熱硬化性シリコン系接着剤によって熱交換器本体の上面と底面の両面にそれぞれ接着されている。各ヒーターユニット9はそれぞれ積層構造のものである。好適な実施形態では、これらのヒーターユニット9は正の抵抗温度係数(PTCR)をもつセラミック抵抗素子で構成されるが、これ以外にも、通電発熱特性を有するポリマー抵抗材料を用いた帯状ヒーターや、通電発熱特性を有する被覆又は裸電熱ワイヤーの形態のものをヒーターユニット9として用いることができる。
【0037】
好適な実施形態におけるヒーターユニットは、図5に示すように、複数のセラミック抵抗素子20を表裏から挟んで保持した金属積層フレーム19と、該フレームの表面金属層に接合された陰極接触板21と、フレームの裏面金属層に接合されて陰極接触板21に対して絶縁された陽極接触板22とを備えている。
【0038】
フレーム19には内側に切り込まれた空隙部23が設けられているが、この空隙部の機能については後述する。
【0039】
さて、ヒーターユニット9は、ヒーターエレメントとして1つ以上の正の抵抗温度係数をもつセラミック抵抗素子20(以下、PTCストーンと称する)と、例えば定格電圧13VでPTCストーン20に電力を導く陰極接触板21及び陽極接触板22とを備えている。陽極接触板22は陽極端子であって熱交換器8の本体に直接接触し、従って陽極接触板はフレーム19で定位置に保持された各PTCストーン20の陽極側表面に対しては該フレーム裏面の陽極側金属層を介して導通している。また、陰極接触板21は陰極端子であって各PTCストーン20の陰極側表面に接触しているフレーム表面の陰極側金属層に接合されており、従って全てのPTCストーン20は両端子間に並列接続されている。
【0040】
以上のような構造の熱交換器8は、内部に収容される洗浄液中に静電荷が蓄積されないように、特にその熱伝導性胴部本体が車両側のアース(GND)に接地接続される。
【0041】
ここで用いているPTCストーン20は、自身の温度上昇に対して導電性が反比例する特性を有する半導体である。このため、ヒーターユニット9が低温時にはPTCストーン20の導電率は高く、PTCストーン20には比較的大きな電流が流れるので発生される熱エネルギーは大きい。他方、PTCストーン20の温度が上昇すると、それに応じてPTCストーン20の導電率が低下し、発生される熱エネルギーが低下する。このように、PTCストーン20はそれ自体で素子に固有の動作温度を維持する特性(温度自己調整特性)を示し、従って、ヒーターユニット9のヒーターエレメントとしてPTCストーン20を用いることにより、サーモスタットやサーモヒューズ等による過熱保護手段を付設する必要がなくなる利点がある。PTCストーン20は、例えば65℃、或いは135℃など、種々の異なる定格温度の製品が市場から入手可能である。
【0042】
図13aのグラフ1は、PTCストーン20の抵抗値R(Ω)と該PTCストーン20の実際の温度THE(℃)との関係を示している。前述のように、PTCスト0−ン20が低温の状態ではその抵抗値Rは小さい。その結果、PTCストーン20には大電流が流れ、それによって大量に生成される熱エネルギーがPTCストーン20を熱することになる。グラフ1から判るように、PTCストーン20の抵抗値Rは、その実際の温度THEの上昇に伴って増加する。PTCストーン20の実際温度THEが素子に固有の定格動作温度範囲の最大値に達すると抵抗値が最大となり、通過電流の低下により発熱温度が低下するので、PTCストーン20の抵抗値RはPTCストーン20の温度低下に応じて低下する。これによりPTCストーン20の通過電流が増加し始め、この電流の増加により再びPTCストーン20が熱せられ、その結果、PTCストーン20の抵抗値Rが増加する。このような自律的な温度調整機能により、静特性としてのPTCストーン20の通過電流I(A)は、図13bのグラフ2に示したように、実際の温度THEの上昇に伴って緩やかに低下するので、生成される熱エネルギーも低下する。このような自律的メカニズムにより、PTCストーン20はその最高発熱温度を素子に固有の最高動作温度に対して制限する自律機能を有している。
【0043】
ヒーターとして利用する場合、PTCストーン20は或る一定の使用環境条件下において電力消費量がPTCストーン20の熱放散量と等しくなるような平衡状態に到達させることが可能である。
【0044】
PTCストーン20は、使用環境条件に応じて平衡状態に達する電力消費量に自ら適応し、例えば熱放散が増加すると(即ち、冷却)、平衡状態にあるPTCストーン20の通過電流が増加する。ひとたびPTCストーン20に電力が供給されると、PTCストーンは直ちに自身の固有の最高動作温度に達しようとする。最初は温度が急上昇するが、PTCストーン20の実際温度THEの上昇に伴って上昇率は緩やかになる。このPTCストーン20の実際温度THE(℃)と通電時間(秒)との関係を図13cのグラフ3に示す。
【0045】
好適な実施形態においては、ヒーターユニット9はスクリーン面洗浄液を例えば65℃の設定温度まで加熱するように設計されている。これは、定格温度65℃のPTCストーン20を用いることによって達成可能である。但し、この場合は、PTCストーン20をその定格温度まで加熱してスクリーン面洗浄液を同じ目標温度に加熱するのに比較的長い時間を要する。加熱されたスクリーン面洗浄液は、スクリーン面の着雪/着霜を除去したり、或いは温暖な季節においても洗浄効果を高める目的で用いられる。
【0046】
また別の実施形態においては、目標温度135℃のPTCストーン20を用いて該PTCストーン20の加熱に要する時間を短縮している。この場合、PTCストーン20は温度上昇率が高い範囲内で動作するので、PTCストーン20を目標温度65℃まで加熱するに要する時間を短縮することができる。PTCストーン20と制御回路ユニット10との機能接続ブロック図を図11に示す。
【0047】
制御回路ユニット10は制御装置31とスイッチングユニット32と備えている。先ず最初の段階においてPTCストーン20の実際の抵抗値が測定される。これは、PTCストーン20の抵抗測定で行われるが、後に詳述するように、具体的にはサンプリング抵抗器34における電圧/電流測定によって果たすことができる。制御装置31は好ましくはマイクロプロセッサからなり、その内部メモリーに予め記憶された比較テーブル又はアルゴリズムにより測定結果をPTCストーン20の実際の温度にマッピングする。その後、PTCストーン20の実際の温度が調節可能な目標温度と比較され、この目標温度は、本実施形態では65℃である。次の段階では、制御装置31がパルス幅変調による可変パルス幅の制御信号33を生成する。制御信号33のパルス幅のデューティ比は、PTCストーン20の実際の温度に依存して無段階に変調制御される。制御信号33は、PTCストーン20への導電度を制御するスイッチングユニット32を制御する。本実施形態において、スイッチングユニット32はMOSFET29によって構成されている。制御信号33がONの期間中はスイッチングユニット32がPTCストーン20に電力を供給し、PTCストーン20が更に加熱されるようにする。制御信号33がOFFの期間中は、スイッチングユニット32によりいかなる電力もPTCストーン20に供給されず、従ってPTCストーン20が更に加熱されることはない。このようにして、制御装置31はPTCストーン20の温度が上昇し過ぎた場合に制御信号33のON期間を短かくする。このメカニズムを用いてPTCストーン20の実際の温度が例えば65℃に制限される。
【0048】
図13dのグラフ4は、パルス幅のデューティ比が可変制御されている制御信号33の一例を示す。グラフ4から判るように、制御信号33は一連の矩形波インパルスからなっている。最初のPTCストーン20の初期加熱時では制御信号33はパルス幅のデューティ比が無限大でON期間が連続する一定信号であり、OFF期間は存在しない。PTCストーン20が調節可能な目標温度の65℃に達すると、制御装置31は制御信号33のパルス幅のデューティ比を小さくしてPTCストーン20の加熱を弱める。PTCストーン20が目標温度の65℃を超えた場合には、制御装置20はパルス幅のデューティ比が零で連続するOFF期間のみによって構成される制御信号33を生成し、PTCストーン20が更に熱せられることがないようにする。PTCストーン20の温度が65℃未満に低下すると、制御装置31は再び制御信号33のパルス幅のデューティ比を大きくしてPTCストーン20を加熱する。
【0049】
前述のように、最初の段階においてPTCストーン20の実際の抵抗値が測定される。これは、本実施形態では13mΩの抵抗値を有するサンプリング抵抗器34における電圧測定により果たされる(図12参照)。このサンプリング抵抗器34はPTCストーン20と直列に接続されている。PTCストーン20とサンプリング抵抗器34との直列回路の両端に印加される入力電圧を固定すると、サンプリング抵抗器34における電圧降下はPTCストーン20の抵抗値に直接比例する。サンプリング抵抗器34の両端に現れる電圧降下が演算増幅器35に入力される。当業者には周知のように、演算増幅器35の増幅率はバイアス抵抗器36、37、38により設定可能である。測定されたサンプリング抵抗器34における電圧降下は演算増幅器35で増幅されて制御装置31に入力される。制御装置31は、この増幅されたサンプリング抵抗器35における電圧降下を予め内部メモリーに格納されている比較テーブルやアルゴリズムによりPTCストーン20の実際の温度にマッピングする。
【0050】
図6aに示すように、ハウジング11は熱交換区画24と制御ユニット区画25を備えており、制御回路ユニット10だけでなく熱交換器8もハウジング11の内部に完全に封止状態で収容されている。この場合、熱交換区画24はハウジング11の内部に前端側キャビティ26と後端側キャビティ27を画定しており、これらのキャビティの内部では、熱交換器8に緩く嵌合している弾性変形可能な密封カバー16a、16bが、例えば洗浄液中の凍結防止剤濃度が不足する場合に生じうる洗浄液の相変化に際して撓曲できるようになっている。
【0051】
この場合、密封カバー16a、16bのダイアフラム機能によって凍結時の洗浄液体積の膨張に対する最適な防護機能が保証されることに注目すべきである。
【0052】
図7と図8に示すように、密封カバー16aと16bの各外端面周縁部はハウジング11に当接し、それにより密封カバー16aと16bがハウジング11によって適正位置に保持されるようになっている。
【0053】
これに代えて、密封カバー16a、16bを接着剤その他で熱交換器8に固着することもできるが、その場合はハウジングを設ける必要がなくなる。
【0054】
図6aと図6bから判るように、ハウジングの後端側に向いている密封カバー16bの外端面周縁部は熱交換区画24内のハウジング構造に当接し、これに対して熱交換器の前端部における密封カバー16aの外端面周縁部はハウジング11の第2の端部キャップ11cに当接している。前端側キャビティ26と後端側キャビティ27の内部には、それぞれ弾性裏当て部材28が充填配置されている。この弾性裏当て部材28は、弾性発泡体、好ましくは独立気泡発泡体からなる。
【0055】
同様に図6aから判るように、ハウジング後端側の第1の端部キャップ11bは車両用流体加熱器3の電気接続用の端子コネクタ14を備えている。
【0056】
電熱ヒーターユニットへの電力の供給は、制御回路ユニット10の基板上にスイッチングユニット32のスイッチング素子として配置されたMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)29を介して行われる。この制御回路ユニット10の基板上には、制御装置31のマイクロプロセッサを含むマイクロコントローラ(図示しない)も配置されている。
【0057】
MOSFET29を使用することにより、セラミック抵抗素子(PTCストーン)20の電力制御を低損失で効率よく行えることが確認されている。
【0058】
本発明によれば、動作中にMOSFET29から放出される熱は熱交換器8の外面に伝導される。一つの好適な実施形態(図9a)においては、MOSFET29から動作中に放出される熱がヒートシンクを介して熱交換器8の外面に伝導される。図9aに示す実施形態におけるヒートシンクは、熱伝導性の良好な弾性金属ストリップ30として設計されている。この金属ストリップ30は、例えば銅又はその他の熱伝導性材料により製作することができる。金属ストリップ30は熱交換器8の側面18に直接的に接合されており、この金属ストリップの接合のための経路を確保するために電熱ヒーターユニット9の積層金属フレーム19には内側に切り込まれた空隙部23が設けられている。
【0059】
一方、図4bと図9bに示した別の実施形態においては、MOSFET29が熱交換器8に直接的に装着されており、MOSFET29から放出される熱が熱交換器及び/又は電熱ヒーターユニットに直接伝導されて洗浄液の加熱に利用されるようになっている。この場合、MOSFET29は熱交換器8の熱伝導性胴部本体11a上で電気的に絶縁しておくことが望ましく、例えばMOSFET29と熱交換器8との間に高い誘電率の中間層(例えばAl2O3)を介装することが好ましい。MOSFET29はPTCストーンに接合してもよい。制御回路ユニット10とMOSFET29との電気的接続は端子コネクタ55によって確立することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 洗浄液タンク
2 洗浄液電動ポンプ
3 車両用流体加熱器
4 洗浄ノズル
5 入口ポート
6 出口ポート
7 フレキシブルホース
8 熱交換器
9 電熱ヒーターユニット
10 制御回路ユニット
11 ハウジング
11a 熱伝導性本体
11b 第1の端部キャップ
11c 第2の端部キャップ
12 スナップ嵌合連結部
13 ニップル
14 端子コネクタ
15a〜15d 流路
16a、16b 密封カバー
17a 入口開口
17b 出口開口
18 側面
19 積層フレーム
20 セラミック抵抗素子
21 陰極接触板
22 陽極接触板
23 空隙部
24 熱交換区画
25 制御ユニット区画
26 前端側キャビティ
27 後端側キャビティ
28 弾性裏当て部材
29 MOSFET
30 金属ストリップ
31 制御装置
32 スイッチングユニット
33 制御信号
34 サンプリング抵抗器
35 演算増幅器
36 抵抗器
37 抵抗器
38 抵抗器
50a、50b 橋絡部
51 全周封止リム
52 外側全周溝
53 内側全周溝
54 位置決めウェブ
55 端子コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの熱交換器(8)と少なくとも1つの電熱ヒーターユニット(9)とを備え、前記熱交換器(8)が加熱すべき流体のための流路(15a〜15d)を画定する少なくとも1つの熱伝導性本体と該熱伝導性本体の前端部及び後端部をそれぞれ封止する一対の密封カバー(16a、16b)とを有し、少なくとも一方の密封カバーには前記熱伝導性本体内に流体の流れを確立させる入口又は出口或いはそれらの両方が設けられている車両用流体加熱器(3)において、各密封カバー(16a、16b)が流体加熱器の外囲を形成するハウジング(11)によって定位置に保持されていることを特徴とする車両用流体加熱器。
【請求項2】
少なくとも一方の密封カバー(16a、16b)が圧力を受けて変形可能な可撓性材料又は合成ゴム材からなることを特徴とする請求項1に記載の車両用流体加熱器。
【請求項3】
少なくとも1つの弾性裏当て部材(28)によって少なくとも一方の密封カバー(16a、16b)を少なくともその変形時に前記ハウジング(11)に対して少なくとも部分的に支持していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用流体加熱器。
【請求項4】
弾性裏当て部材(28)が、弾性発泡体又は独立気泡発泡体からなることを特徴とする請求項3に記載の車両用流体加熱器。
【請求項5】
ハウジング(11)が、1つの裏当て部材(28)を受け入れる少なくとも1つのキャビティを備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用流体加熱器。
【請求項6】
ハウジング(11)が、互いにスナップ嵌合連結部(12)によって連結される複数の部分からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用流体加熱器。
【請求項7】
ハウジング(11)が、少なくとも胴部本体(11a)と該胴部本体(11a)にスナップ嵌合連結部で連結される第1と第2の端部キャップ(11b、11c)とからなり、第1の端部キャップ(11b)が電気接続部を備え、第2の端部キャップ(11c)が流路連結部を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用流体加熱器。
【請求項8】
各密封カバー(16a、16b)が、前記熱交換器(8)の熱伝導性本体の内部に一連の順序の流体流れを確立させるために該本体内の流路の少なくとも2つの区間(15a、15b、15c)の間の連通流路を形成していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用流体加熱器。
【請求項9】
前記流体連結部が、一方の密封カバー(16a)に設けられた流路開口(17a、17b)内に延在して該流路開口に封着されたニップル(13)の形態を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の車両用流体加熱器。
【請求項10】
各密封カバー(16a、16b)が、前記熱交換器の熱伝導性本体内に一連の順序の流体流れを確立させるために該本体内の流路の少なくとも2つの区間(15a、15b、15c)の間における流路の連通を阻止する封止部材又はシール溝(53)を備え、該封止部材が各密封カバー(16a、16b)の変形下においても前記ハウジング(11)によって定位置に保持されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の車両用流体加熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図13d】
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【公表番号】特表2012−512376(P2012−512376A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541098(P2011−541098)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010919
【国際公開番号】WO2010/069354
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511150137)カウテックス テクストロン シーブイエス リミテッド (1)
【出願人】(511150148)ディービーケイ オメガ エレクトロニック テクノロジー(グヮンチュー)リミテッド (1)
【Fターム(参考)】