説明

車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法

【課題】加工性を向上させて製造コストの低減化を図ることができる車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法を提供する。
【解決手段】ユニオン孔3を、シリンダ孔2aより小径に形成すると共に、ユニオン孔3の軸線CL2をシリンダ孔2aの中心軸CL1と平行で、且つ、シリンダ孔の中心軸CL1に対して変位させた状態で、シリンダ本体2のシリンダ孔底部を貫通して液圧室2jに開口させる。ユニオン孔3の内周面にバンジョーボルト10を螺着する雌ねじ部3aを形成する。ユニオン孔3の内周面の一部に連続してシリンダ孔2aのシリンダ孔底部側内周面に補給通路2mを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二・三輪車等のブレーキを液圧で作動させる車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法に係り、詳しくは、シリンダ孔の底部側が開口した凹部を有するプランジャを、シリンダ孔の内周に設けたカップシールを介してシリンダ孔に摺動可能に内挿したプランジャタイプの車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プランジャタイプの車両用液圧マスタシリンダとして、シリンダ本体に形成したシリンダ孔に、シリンダ孔の底部側が開口した凹部を有するプランジャを、シリンダ孔の内周に設けたカップシールを介してシリンダ孔に摺動可能に内挿し、前記プランジャとシリンダ孔底部との間に液圧室を画成し、シリンダ本体の周壁に、前記液圧室に開口するユニオン孔を設けたものがあった。さらに、制動解除時に、作動液をリザーバから液圧室に補給して、プランジャを良好に初期位置まで戻すために、カップシールよりもシリンダ孔底部側に補給通路を備えたものがあり、制動解除時に、作動液がリザーバからカップシールを撓ませながら、カップシール溝と補給通路とを介して液圧室に流入できるようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、シリンダ本体の周壁に、ユニオン孔を設けた車両用液圧マスタシリンダとして、シリンダ本体の周壁にユニオンボス部を突設し、該ユニオンボス部に、ユニオンボルトを螺着する雌ねじ部と、シリンダ本体に開口する小径の出力ポートとを備えたユニオン孔が形成されたものがあった(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−126930号公報
【特許文献2】特開2005−125988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献のものでは、シリンダ本体の周壁のカップシールから外れた位置にユニオンボス部を突設し、該ユニオンボス部に雌ねじ部と小径の出力ポートとを備えたユニオン孔を設けることから、ユニオン孔を加工する方向とシリンダ孔や補給通路を加工する方向とが異なり、シリンダ本体を加工する工程が多くなることから、製造コストが嵩んでいた。
【0006】
そこで本発明は、加工性を向上させて製造コストの低減化を図ることができる車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用液圧マスタシリンダは、シリンダ本体に形成した有底のシリンダ孔に、該シリンダ孔の底部側が開口した凹部を有する有底筒状のプランジャを、シリンダ孔の内周に設けたカップシールを介して摺動可能に内挿し、該プランジャとシリンダ孔の底部との間に液圧室を画成し、前記シリンダ本体に、前記液圧室に開口するユニオン孔と、制動解除時に作動液をリザーバから前記液圧室に補給する補給通路とを備えると共に、前記プランジャを非作動位置に復帰させるためのリターンスプリングの一端を前記プランジャの凹部底面に、他端を前記シリンダ孔の底面にそれぞれ着座させた車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記ユニオン孔は、前記シリンダ孔より小径で、該ユニオン孔の軸線を前記シリンダ孔の中心軸と平行で、且つ、シリンダ孔の中心軸に対して変位させた状態で、前記シリンダ本体のシリンダ孔底部を貫通して前記液圧室に開口すると共に、内周面にユニオンボルトを螺着する雌ねじ部が形成され、前記補給通路は、前記ユニオン孔の内周面の一部に連続して前記シリンダ孔のシリンダ孔底部側内周面に形成されることを特徴としている。また、前記ユニオンボルトは、液圧配管の先端に接続されるバンジョーボルトであってもよく、さらに、前記ユニオン孔は前記リターンスプリングの外周側に開口していると好適である。
【0008】
また、本発明の車両用液圧マスタシリンダの製造方法は、鋳造にて形成した前記シリンダ本体に前記ユニオン孔の下穴を形成する下穴加工工程の際に、該下孔をシリンダ孔内部まで延長して前記補給通路を形成した後、前記下孔のシリンダ孔底部部分に前記雌ねじ部となる雌ねじを加工する雌ねじ加工工程を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用液圧マスタシリンダ及び車両用液圧マスタシリンダの製造方法によれば、ユニオン孔を、シリンダ孔より小径で、ユニオン孔の軸線をシリンダ孔の中心軸と平行で、且つ、シリンダ孔の中心軸に対して変位させた状態で、シリンダ本体のシリンダ孔底部を貫通して液圧室に開口させ、さらに、補給通路を、ユニオン孔の内周面の一部に連続してシリンダ孔のシリンダ孔底部側内周面に形成したことにより、シリンダ孔とユニオン孔と補給通路の加工方向が、シリンダ孔の軸線方向の加工となり、さらに、ユニオン孔と補給通路とを1つの加工工程で形成することができ、加工性の向上を図ることができる。さらに、ユニオン孔は下穴をシリンダ孔内に貫通形成し、雌ねじ部を形成するだけで良いことから、製造コストの低減化を図ることができる。
【0010】
また、ユニオン孔をリターンスプリングの外周側に開口させることにより、リターンスプリングがシリンダ孔の底面に着座する面積を確保でき、リターンスプリングを良好に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用液圧マスタシリンダの断面図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【図3】車両用液圧マスタシリンダの製造工程を示す説明図である。
【図4】車両用液圧マスタシリンダの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び図2は本発明の車両用液圧マスタシリンダの一形態例を示す図である。この車両用液圧マスタシリンダ1は、シリンダ本体2に有底のシリンダ孔2aが形成され、シリンダ孔2aの底部の図1における上部外側にはシリンダ孔2aの中心軸CL1と平行な方向にユニオンボス部2bが突設され、該ユニオンボス部2bにユニオン孔3が形成されている。シリンダ本体2の上部には、シリンダ孔2aに連通する液通孔2cを備えたボス部2dが突設され、該ボス部2dには、シール部材4を介してリザーバ(図示せず)に連結されるコネクタ5が取り付けられる。さらに、シリンダ本体2の下部には、車体取付用の取付ブラケット2e,2eが突設されると共に、シリンダ孔開口側には、プッシュロッド6の先端側が挿入される大径孔2fを備えた大径筒部2gが連設されている。
【0013】
シリンダ孔2aには、プランジャ7が第1カップシール8と第2カップシール9とを介して摺動可能に内挿され、第1カップシール8は、前記液通孔2cよりもシリンダ孔底部側のシリンダ孔2aの内周面に形成される第1シール溝2hに、第2カップシール9は、液通孔2cよりもシリンダ孔開口側のシリンダ孔2aの内周面に形成される第2シール溝2iにそれぞれ嵌着され、シリンダ孔2a底部と第2カップシール9との間に液圧室2jが画成されている。また、第1シール溝2hと第2シール溝2iとの間のシリンダ孔2aの内周面には、前記液通孔2cに連続する補給室2kが形成されている。
【0014】
ユニオンボス部2bには、軸線CL2がシリンダ孔2aの中心軸CL1と平行で、且つ、反車体取付け側に突出した状態でシリンダ孔底部に開口する前記ユニオン孔3が形成され、該ユニオン孔3は、ユニオンボス部2bの外端面に開口する大径の雌ねじ部3aと、該大径雄ねじ部3aに連続し、シリンダ孔底部に開口する小径の液通孔3bとを備えている。雌ねじ部3aには、可撓性の液圧配管11の先端に固着されたバンジョー12を介して、バンジョーボルト10が螺合される。さらに、シリンダ孔2aには、ユニオン孔3の反車体取付け側の内周面に連続して、シリンダ孔2aの中心軸CL1と平行で、第1シール溝2hに至る補給通路2mが形成されている。
【0015】
バンジョー12は、液圧配管11の端部にカシメ固定される固定管12aと、バンジョーボルト10によってユニオンボス部2bに固定されるリング体12bと、これらを繋ぐ小径の頸部管12cとから成っており、頸部管12cとリング体12bとに亘って液圧配管11に連通する通孔12dが形成されている。バンジョーボルト10は、六角頭部10aから突出する軸部の先端側外周に雄ねじ10bが刻設され、軸部の内部には、液圧室2jと前記リング体12bの通孔12dとに連通する液通孔10cが形成され、液圧室2jは、ユニオン孔3,バンジョーボルト10の液通孔10c,バンジョー12の通孔12dを介して液圧配管11と連通している。
【0016】
プランジャ7は、シリンダ孔底部側に開口する凹部7aを有する有底筒状に形成され、凹部7aの底面とシリンダ孔2aの底面との間には、非作動状態のプランジャ7を予め設定された所定の初期位置に復帰させるリターンスプリング13が配置され、該リターンスプリング13の一端が凹部7aの底面に、他端がシリンダ孔2aの底面にそれぞれ着座すると共に、リターンスプリング13を組み付けた状態で、前記ユニオン孔3は、リターンスプリング13の外周側に開口している。また、プランジャ7のシリンダ孔開口側の外面には、プランジャ7を押動させる前記プッシュロッド6が当接する球状凹部7bが形成されている。さらに、凹部7aの周壁には、該周壁の内外を貫通し、非作動状態の初期位置で、液圧室2jと補給室2kとを連通する小径の連通ポート7cが周方向に複数形成されている。プッシュロッド6は、前記球状凹部7bに当接する半球状の大径頭部6aが、前記大径孔2fからシリンダ孔2a内へ差し込まれ、大径孔2fの内周に形成した係着溝2nに係着した止め輪14とリテーナ15とで抜け止めされている。
【0017】
このように形成された液圧マスタシリンダ1は、図1に示されるように、非作動時には、リターンスプリング13の弾発力によって、プランジャ7の連通ポート7cが第1カップシール8よりもシリンダ孔開口側に位置する初期位置に保持され、連通ポート7cを介して液圧室2jと補給室2kとが連通し、リザーバと液圧室2jとの間を、液通孔2c,補給室2k及び複数の連通ポート7cを介して作動液が流通可能な状態となっている。
【0018】
制動時に、プッシュロッド6がプランジャ7をシリンダ孔底部側に押動すると、プランジャ7がリターンスプリング13を圧縮しながらシリンダ孔2a内をシリンダ孔底部方向へ前進し、連通ポート7cが第1カップシール8を通過し、液圧室2jと補給室2kとの連通状態が遮断された時点から液圧室2jに液圧が発生し始め、昇圧された作動液は、ユニオン孔3,バンジョーボルト10の液通孔10c,バンジョー12の通孔12dを通って液圧配管11へ供給される。
【0019】
制動を解除すると、リターンスプリング13の弾発力により、プランジャ7が初期位置まで復帰する。プランジャ7がシリンダ孔開口部側に移動(後退)する際に、リザーバから第1カップシール8を撓ませながら、作動液が第1シール溝2hと補給通路2mとを介して液圧室2jに流入し、プランジャ7を良好に後退させる。
【0020】
次に、図3及び図4に基づいて、上述のような車両用液圧マスタシリンダ1の製造方法について説明する。図3に示すように、鋳造後のシリンダ本体2には、大径筒部2g側から、大径孔2fと係着溝2nとが切削加工され、次いで、シリンダ孔2aの内周面及びシリンダ孔2aの内周面に第1シール溝2hと第2シール溝2iとが切削加工される(シリンダ孔加工工程)。さらに、図4に示すように、ユニオンボス部2b側から、シリンダ軸線方向のユニオン孔3の下穴3cがシリンダ孔2aの底部に開口するように、段付き工具16により、穿設されると共に、この下穴3cをシリンダ孔2aの内部まで延長して補給通路2mが形成される(下穴・補給通路加工工程)。次いで、ユニオン孔3の下穴3cに雌ねじ部3aが加工される(雌ねじ加工工程)。さらに、ボス部2dには、シリンダ軸と直交方向の液通孔2cがシリンダ孔2aの周壁に開口するように穿設される(液通孔加工工程)。
【0021】
このように、上述の形態例では、シリンダ孔2aの切削加工と、ユニオン孔3の下穴3cの切削加工と、補給通路2mの切削加工とを、シリンダ中心軸方向の加工とすることができ、さらに、ユニオン孔3の下穴3cの切削加工と補給通路2mの切削加工とを1つの工程(下穴加工工程)で同時に行うことができることから、加工性が向上し、コストの削減化を図ることができる。さらに、ユニオン孔3は、リターンスプリング13を組み付けた状態で、リターンスプリング13の外周側に開口していることから、リターンスプリング13がシリンダ孔2aの底面に着座する面積を確保でき、リターンスプリング13を良好に組み付けることができる。
【0022】
尚、本発明は上述の形態例のように、ユニオン孔にバンジョーボルトを螺着するものに限らず、ユニオンボルトを螺着するものでも良い。また、ユニオン孔はシリンダ孔底部のどの位置に開口していても良く、補給通路もユニオン孔の開口位置に応じて、ユニオン孔の内周面の一部に連続して、シリンダ孔のどの位置に形成されていても良い。さらに、本発明は、2つのプランジャを備えたタンデム型液圧マスタシリンダにも適用することができる。また、ユニオン孔の下穴を形成する工具は任意であり、上述の形態例のように段付き形状でなくても良い。
【符号の説明】
【0023】
1…車両用液圧マスタシリンダ、2…シリンダ本体、2a…シリンダ孔、2b…ユニオンボス部、2c…液通孔、2d…ボス部、2e…取付ブラケット、2f…大径孔、2g…大径筒部、2h…第1シール溝、2i…第2シール溝、2j…液圧室、2k…補給室、2m…補給通路、2n…係着溝、3…ユニオン孔、3a…雌ねじ部、3b…液通孔、3c…下穴、4…シール部材、5…コネクタ、6…プッシュロッド、6a…大径筒部、7…プランジャ、7a…凹部、7b…球状凹部、7c…連通ポート、8…第1カップシール、9…第2カップシール、10…バンジョーボルト、10a…六角頭部、10b…雄ねじ、10c…液通孔、11…液圧配管、12…バンジョー、12a…固定管、12b…リング体、12c…頸部管、12d…通孔、13…リターンスプリング、14…止め輪、15…リテーナ、16…段付き工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体に形成した有底のシリンダ孔に、該シリンダ孔の底部側が開口した凹部を有する有底筒状のプランジャを、シリンダ孔の内周に設けたカップシールを介して摺動可能に内挿し、該プランジャとシリンダ孔の底部との間に液圧室を画成し、前記シリンダ本体に、前記液圧室に開口するユニオン孔と、制動解除時に作動液をリザーバから前記液圧室に補給する補給通路とを備えると共に、前記プランジャを非作動位置に復帰させるためのリターンスプリングの一端を前記プランジャの凹部底面に、他端を前記シリンダ孔の底面にそれぞれ着座させた車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記ユニオン孔は、前記シリンダ孔より小径で、該ユニオン孔の軸線を前記シリンダ孔の中心軸と平行で、且つ、シリンダ孔の中心軸に対して変位させた状態で、前記シリンダ本体のシリンダ孔底部を貫通して前記液圧室に開口すると共に、内周面にユニオンボルトを螺着する雌ねじ部が形成され、前記補給通路は、前記ユニオン孔の内周面の一部に連続して前記シリンダ孔のシリンダ孔底部側内周面に形成されることを特徴とする車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記ユニオンボルトは、液圧配管の先端に接続されるバンジョーボルトであることを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
前記ユニオン孔は前記リターンスプリングの外周側に開口していることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の前記ユニオン孔及び前記補給通路を有する車両用液圧マスタシリンダの製造方法において、鋳造にて形成した前記シリンダ本体に前記ユニオン孔の下穴を形成する下穴加工工程の際に、該下孔をシリンダ孔内部まで延長して前記補給通路を形成した後、前記下孔のシリンダ孔底部部分に前記雌ねじ部となる雌ねじを加工する雌ねじ加工工程を行うことを特徴とする車両用液圧マスタシリンダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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