説明

車両用灯具の樹脂部品

【課題】薄肉化による軽量化とコストダウンを図りつつ、ショートショットやウェルドラインの発生を防いで外観品質の向上を図ることができる車両用灯具の樹脂部品を提供すること。
【解決手段】樹脂の射出成形によって得られる部品であって、意匠部3Aの周縁に外周部3Bを屈曲形成し、該外周部3Bの先端部に該外周部3Bよりも厚肉のシール脚部3Cを形成して成るヘッドランプ(車両用灯具)のレンズカバー(樹脂部品)3において、前記シール脚部3Cに凹部3aを形成する。ここで、レンズカバー3の意匠部3Aの肉厚Aと外周部3Bの肉厚B及び前記シール脚部3Cの厚さC=(C1+C2)/2(C1:最小肉厚、C2:最大肉厚)の間に、
A≧B
B≦C≦A(但し、A=B=Cを含まない)
なる大小関係が成立するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の射出成形によって得られるレンズカバー等の車両用灯具の樹脂部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ヘッドランプ等の車両用灯具には、図7〜図9に示すような透明なレンズカバーによって不図示のハウジングの前面開口部が覆われており、このレンズカバーは樹脂の射出成形によって得られている。
【0003】
ここで、図7はレンズカバーの正面図、図8は図7のD−D線断面図、図9は図7のE−E線断面図であり、図示のレンズカバー103は、車両の前面に露出する意匠面部103Aと、該意匠面部103Aの周縁から車両後方(図8の右方)に向かって折り曲げられた外周部103Bと、該外周部103Bの先端部に一体に形成されたシール脚部103C及び該シール脚部103Cと前記外周部103Bとの間に外側方に向かって垂直に立設されたリブ部103Dを有している。尚、ヘッドランプが車両に組み付けられた状態では、レンズカバー103の外周部103Bとシール脚部103C及びリブ部103Dは、不図示のフロントフードとフロントバンパの各端縁によって覆われて外部には露出しない。
【0004】
斯かるレンズカバー103は、一般にはポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂の射出成形によって製造されるが、その射出成形にはサイドゲート方式とダイレクトゲート方式とがある。レンズカバーを例えばサイドゲート方式によって製造する場合、2分割された固定金型と可動金型によって形成されるキャビティにゲートから溶融樹脂が充填され、この充填された溶融樹脂が冷却されて固化することによって図7に示すような形状のレンズカバー103が得られる。
【0005】
尚、樹脂の射出成形方法に関して特許文献1〜3等には、薄肉の成形品を短い成形サイクルで得る方法やウェルドラインの発生を防ぐ方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−195472号公報
【特許文献2】特開平10−076555号公報
【特許文献3】特開2007−323914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、ヘッドランプ等の車両用灯具に対する軽量化とコストダウンの要求が強く、その要求を満たすためにレンズカバー等に対する軽量化が望まれている。例えば、図7〜図9に示すレンズカバー103の軽量化を図るためには、その肉厚を薄くする必要がある。
【0008】
しかしながら、レンズカバー103の意匠面部103Aと外周部103B及びシール脚部103Cの肉厚を従来よりも薄くしても、図8及び図9に示すように、断面積が他の部位よりも大きな駄肉部a,bが存在するため、当該レンズカバー103をサイドゲート方式によって射出成形する場合、金型のキャビティへと流入した溶融樹脂が断面積が大きくて流動抵抗の小さな駄肉部a,bから先に流れ、意匠面部103Aへ溶融樹脂が回りにくいという問題があった。この結果、樹脂が充填し切れないために図10(a)に示すようなショートショットが発生したり、図10(b)に示すような樹脂の袋閉じによってウェルドラインが発生する等の不具合が生じていた。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、薄肉化による軽量化とコストダウンを図りつつ、ショートショットやウェルドラインの発生を防いで外観品質の向上を図ることができる車両用灯具の樹脂部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、樹脂の射出成形によって得られる部品であって、意匠部の周縁に外周部を屈曲形成し、該外周部の先端部に該外周部よりも厚肉のシール脚部を形成して成る車両用灯具の樹脂部品において、前記シール脚部に凹部を形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記意匠部の肉厚Aと前記外周部の肉厚B及び前記シール脚部の厚さC=(C1+C2)/2(C1:最小肉厚、C2:最大肉厚)の間に、
A≧B
B≦C≦A(但し、A=B=Cを含まない)
なる大小関係が成立することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記外周部と前記シール脚部との間にリブ部を立設し、該リブ部の肉厚DをD<1.5mmとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の樹脂部品において駄肉が発生していたシール脚部に凹部を形成したため、この凹部によって駄肉の発生が防がれ、これに対応して金型内のキャビティに断面積が大きくて樹脂の流動抵抗が小さな部分(樹脂が先回りする部分)が生じず、ゲートからキャビティ内へと射出される溶融樹脂がキャビティ全域に亘ってほぼ均一に流れ込む。このため、軽量化とコストダウンを目的として樹脂部品を薄肉化しても、射出成形によって得られる樹脂部品の特に意匠面部に樹脂の充填不足によるショートショットや袋閉じによるウェルドラインが発生することがなく、該樹脂部品の外観品質が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るレンズカバーを備えたヘッドランプの側断面図である。
【図2】本発明に係るレンズカバーの正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2のB−B線断面図である。
【図5】図2のC−C線断面図である。
【図6】本発明に係るレンズカバーの射出成形に使用される金型の断面図である。
【図7】従来のレンズカバーの正面図である。
【図8】図7のD−D線断面図である。
【図9】図7のE−E線断面図である。
【図10】従来のレンズカバーの発生していた成形不良の例を示す図であり、(a)はショートショットの発生を示すレンズカバーの正面図、(b)はウェルドラインの発生を示すレンズカバーの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明に係る樹脂部品の一形態としてのレンズカバーを備えたヘッドランプの側断面図、図2はレンズカバーの正面図、図3は図2のA−A線断面図、図4は図2のB−B線断面図、図5は図2のC−C線断面図である。
【0017】
図1に示すヘッドランプ1は、車両前部の左右に組み付けられるものであって(図1には一方のみ図示)、ハウジング2とその前面開口部を覆う透明なレンズカバー3によって画成される灯室4内には、光源であるバルブ5と、該バルブ5から出射される光を反射させて車両前方(図1の左方)へと向けるリフレクタ6が収容されている。
【0018】
ところで、図2〜図5に示すように、本発明に係るレンズカバー3は、車両の前面に露出する意匠面部3Aと、該意匠面部3Aの周縁から車両後方(図3及び図4の右方)に向かって折り曲げられた外周部3Bと、該外周部3Bの先端部に一体に形成されたシール脚部3C及び該シール脚部3Cと前記外周部3Bとの間において外側方に向かって垂直に立設された複数のリブ部3Dを有している。ここで、複数のリブ部3Dは、図2に示すように、レンズカバー3の外周の一部に部分的に形成されている。尚、ヘッドランプ1が車両に組み付けられた状態では、レンズカバー3の外周部3Bとシール脚部3C及びリブ部3Dは、不図示のフロントフードとフロントバンパの各端縁によって覆われて外部には露出しない。
【0019】
他方、図1に示すように、ハウジング2の前面開口部に周縁には前方に向かってV字状に開く嵌合凹部2aが一体に形成されており、この嵌合凹部2aにはレンズカバー3のシール脚部3Cが前方から嵌め込まれている。尚、レンズカバー3の複数のリブ部3Dは、シール脚部3Cをハウジング2の嵌合凹部2aに嵌め込む際に該嵌合凹部2aの端面に当接してシール脚部3Cの嵌め込み代を規制するストッパとして機能し、これによってレンズカバー3のハウジング2に対する位置決めが正確になされる。
【0020】
而して、本実施の形態では、レンズカバー3は軽量化とコストダウンのために全体的に薄肉化されているが、図3及び図5に示すように、シール脚部3Cのリブ部3Dが形成されている部分には凹部3aが部分的に形成されており、シール脚部3Cの凹部3aが形成された箇所は他の部位よりも更に薄肉化されている。又、シール脚部3Cを先端を細くした略楔形状としている。これは、図示しない車両用灯具のハウジングの外周部に設けた嵌合溝内にシール脚部3Cを嵌合させ、ホットメルト等の接着剤にて固定した際にホットメルタ等の接着剤が楔形状を越えて凹部3aまでその一部が回り込むようにして、レンズカバー3を強固に固定するためである。図3において凹部3aとは、この略楔形状としたシール脚部3Cの最も厚さの厚い部分とリブ3Dとの間において薄肉化した部分である。
【0021】
具体的には、レンズカバー3の意匠面部3Aの肉厚A、外周部3Bの肉厚B、シール脚部3Cの肉厚C=(C1+C2)/2(C1は楔形状の先端側肉厚、C2派楔形状の最大肉厚)、それぞれA=1.8mm、B=1.4mm、C=1.7mm(C1=1.2mm、C2=2.2mm)に設定されており、これらの肉厚A,B,Cの間には、
A≧B
B≦C≦A … (1)
(但し、A=B=Cを含まない)
なる大小関係が成立している。
【0022】
又、レンズカバー3のリブ部3Dの肉厚Dは、1.4mmに設定されており、
D<1.5mm … (2)
なる関係が成立している。
【0023】
更に、レンズカバー3の凹部3aの肉厚Eは、1.2mmに設定されており、A〜Eの間には、
E<A,B,C,D … (3)
A−E≦0.3mm … (4)
なる関係が成立している。ここで、A−Eを0.3mm以下としたのは、レンズカバー3の凹部3aと意匠面部3Aとの厚みの相違が大き過ぎると、レンズカバー3全体に亘ってほぼ均一に溶融樹脂が流れにくくなるからである。尚、車両用灯具としての強度を得るために肉厚Eは少なくとも0.5mm以上の厚みとするのが好ましく、全体の均一性の観点からC1と同一若しくはそれ以下の肉厚とした、0.5mm≦E≦1.2mmに設定するのが好適である。
【0024】
以上のように構成されたレンズカバー3は、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂の射出成形によって製造されるが、以下、サイドゲート方式による射出成形法によってレンズカバー3を製造する方法を図6に基づいて説明する。
【0025】
図6は金型の断面図であり、図示の金型10は、2分割された固定金型11と可動金型12を備えており、これらの固定金型11と可動金型12を合わせて形成されるキャビティ13は図1及び図2に示すレンズカバー3の形状に相当する空間を構成しており、このキャビティ13には、レンズカバー3の意匠面部3Aを成形する部分(以後、「意匠面部分」と称する)13Aと、外周部3Bを成形する部分(以後、「外周部分」と称する)13Bと、シール脚部3Cを成形する部分(以後、「シール脚部分」と称する)13C及びリブ部3Dを成形する部分(以後、「リブ部分」と称する)13Dが設けられている。これにより、レンズカバー3全体として深さが浅い箱形状、意匠面部3Aが箱形状の底部に相当、とみなすことができるキャビティ13を形成することになる。
【0026】
而して、金型10を用いたサイドゲート方式による射出成形法においては、不図示の成形機から固定金具11の射出口14に溶融樹脂が射出されると、この溶融樹脂は、コールドランナー15を通ってゲート16からキャビティ13へと流入する。そして、キャビティ13に流入した樹脂は、キャビティ13のシール脚部分13Cから外周部分13B及びリブ部分13Dを経て意匠面部分13Aへと順次回るが、本実施の形態では、成形されるレンズカバー3のシール脚部3Cに凹部3aを形成したため、この凹部3aによってレンズカバー3での駄肉の発生が防がれ、これに対応して金型10内のキャビティ13に断面積が大きくて樹脂の流動抵抗が小さな部分(樹脂が先回りする部分)が生じない。このため、ゲート16からキャビティ13内へと射出される溶融樹脂がキャビティ13の全域に亘ってほぼ均一に流れ込む。
【0027】
そして、キャビティ13に充填された溶融樹脂が冷却されて固化すると、製品として図1及び図2に示す形状のレンズカバー3が得られるが、前述のようにキャビティ13内へと射出される溶融樹脂がキャビティ13の全域に亘ってほぼ均一に流れ込むため、軽量化とコストダウンを目的としてレンズカバー3を薄肉化しても、射出成形によって得られるレンズカバー3の特に意匠面部3Aに樹脂の充填不足によるショートショットや袋閉じによるウェルドラインが発生することがなく、該レンズカバー3の外観品質が高められる。
【0028】
以上はリブ部3Dを設けた箇所について説明したが、レンズカバー3の外周部分の全体に亘ってリブ部3Dを設けなくても良い。図4はリブ部3Dを設けない箇所を示すものである。図4においても、A,B,C及びEの肉厚については、先に述べたようにA=1.8mm、B=1.4mm、C=1.7mmとし、凹部3aの肉厚EをE=1.2mmとしている。従って、図4において凹部3aとは、略楔形状としたシール脚部3Cの最も厚さの厚い部分と意匠面部3Aとの間において最も薄肉化した部分であり、楔形状の近傍に設けるのが好適である。
【0029】
尚、以上は簡略化のために金型10を固定金型11と可動金型12で構成したが、レンズカバー3のシール脚部3Cに形成される凹部3aの成形にはスライド金型が必要になる。又、凹部3aの断面形状は四角形に限らず、V字形やU字形等の任意の形状を採用し得る。
【0030】
更に、以上は本発明をヘッドライトのレンズカバーに対して適用した形態について説明したが、本発明は、ヘッドライト以外の他の任意の車両用灯具の樹脂部品に対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 ヘッドランプ(車両用灯具)
2 ハウジング
2a ハウジングの嵌合凹部
3 レンズカバー(樹脂部品)
3A レンズカバーの意匠面部
3B レンズカバーの外周部
3C レンズカバーのシール脚部
3D レンズカバーのリブ部
3a レンズカバーの凹部
4 灯室
5 バルブ
6 リフレクタ
10 金型
11 固定金型
12 可動金型
13 キャビティ
13A キャビティの意匠面部分
13B キャビティの外周部分
13C キャビティのシール脚部分
13D キャビティのリブ部分
14 固定金型の射出口
15 コールドランナー
16 ゲート
A レンズカバーの意匠面部の肉厚
B レンズカバーの外周部の肉厚
C レンズカバーのシール脚部の肉厚
D レンズカバーのリブ部の肉厚
E レンズカバーの凹部の肉厚


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の射出成形によって得られる部品であって、意匠部の周縁に外周部を屈曲形成し、該外周部の先端部に該外周部よりも厚肉のシール脚部を形成して成る車両用灯具の樹脂部品において、
前記シール脚部に凹部を形成したことを特徴とする車両用灯具の樹脂部品。
【請求項2】
請求項1記載の発明において、前記意匠部の肉厚Aと前記外周部の肉厚B及び前記シール脚部の厚さC=(C1+C2)/2(C1:最小肉厚、C2:最大肉厚)の間に、
A≧B
B≦C≦A(但し、A=B=Cを含まない)
なる大小関係が成立することを特徴とする請求項1記載の車両用灯具の樹脂部品。
【請求項3】
前記外周部と前記シール脚部との間にリブ部を立設し、該リブ部の肉厚DをD<1.5mmとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用灯具の樹脂部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−146227(P2011−146227A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5704(P2010−5704)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】