説明

車両用照明灯具

【課題】発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ミラー部材の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行う構成とした場合であっても、ハイビーム用配光パターンの中心光度を十分に高める。
【解決手段】ミラー部材18を、その上向き反射面18aの前端縁18a1が投影レンズ12の後側焦点Fを通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動させる構成とする。その上で、リフレクタ16の前方側に、発光素子14からの光を第1の位置にあるミラー部材18の上向き反射面18aへ向けて反射させる第2リフレクタ36を配置し、また、ミラー部材18の下方近傍に、ミラー部材18が第2の位置へ移動したとき第2リフレクタ36からの反射光を投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材38を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、発光ダイオード等の発光素子を光源とする車両用照明灯具として、例えば「特許文献1」に記載されているようなプロジェクタ型の灯具ユニットが知られている。
【0003】
すなわち、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子からの光を、その上方側に配置されたリフレクタにより投影レンズへ向けて反射させる構成となっている。
【0004】
その際、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、投影レンズの後方側に、リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置された構成となっており、このミラー部材は、その上向き反射面の前端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から前方へ変位した第2の位置との間で移動し得る構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−80605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、ミラー部材の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行うことが可能となるが、ロービーム用配光パターンを形成しているリフレクタからの反射光を用いてハイビーム用配光パターンも形成するように構成されているので、ハイビーム用配光パターンの中心光度を十分に高めることができない、という問題がある。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ミラー部材の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行う構成とした場合であっても、ハイビーム用配光パターンの中心光度を十分に高めることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、リフレクタおよびミラー部材の他に、所定の第2リフレクタおよび第2ミラー部材を備えた構成、あるいは、所定の第4および第5リフレクタを備えた構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0009】
すなわち、本願第1の発明に係る車両用照明灯具は、
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子と、この発光素子の上方側において該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの後方側に、上記リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置されており、
上記ミラー部材を、該ミラー部材の上向き反射面の前端縁が上記投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動させるアクチュエータを備えており、
上記リフレクタの前方側に、上記発光素子からの光を、上記第1の位置にある上記ミラー部材の上向き反射面へ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、
上記ミラー部材の下方近傍に、上記ミラー部材が上記第2の位置へ移動したとき、上記第2リフレクタからの反射光を上記投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材が配置されている、ことを特徴とするものである。
【0010】
また、本願第2の発明に係る車両用照明灯具は、
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子と、この発光素子の上方側において該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの後方側に、上記リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置されており、
上記ミラー部材を、該ミラー部材の上向き反射面の前端縁が上記投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動させるアクチュエータを備えており、
上記リフレクタの前方側に、上記発光素子からの光を、上記第1の位置にある上記ミラー部材の後方に位置する点に略収束させるように反射させる第4リフレクタが配置されており、
上記ミラー部材の後方側に、上記ミラー部材が上記第2の位置へ移動したとき、上記第4リフレクタからの反射光を上記投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第5リフレクタが配置されている、ことを特徴とするものである。
【0011】
上記「発光素子」とは、略点状に面発光する発光チップを有する素子状の光源を意味するものであって、その種類は特に限定されるものではない。
【0012】
上記「第2リフレクタ」は、リフレクタと一体で形成されていてもよいし別体で形成されていてもよい。
【0013】
上記「第2の位置」は、第1の位置から下方へ変位した位置であって、この第2の位置へミラー部材が移動したとき、本願第1の発明においては、第2ミラー部材が第2リフレクタからの反射光を投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させることが可能な位置、また、本願第2の発明においては、第5リフレクタが第4リフレクタからの反射光を投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させることが可能な位置であれば、その具体的な位置は特に限定されるものではない。
【0014】
上記「アクチュエータ」によるミラー部材の移動の具体的態様は特に限定されるものではなく、例えば回動や直線往復動等が採用可能である。
【0015】
上記「第4リフレクタ」は、リフレクタと一体で形成されていてもよいし別体で形成されていてもよい。また、この「第4リフレクタ」からの反射光が略収束する点は、第1の位置にあるミラー部材の後方に位置する点であれば、その具体的な位置は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0016】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子からの光を、その上方側に配置されたリフレクタにより、投影レンズへ向けて反射させる構成となっているが、その投影レンズの後方側には、リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置されており、そして、このミラー部材は、アクチュエータにより、その上向き反射面の前端縁が投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動する構成となっているので、ロービームとハイビームとのビーム切換えを行うことが可能となる。
【0017】
すなわち、ミラー部材が第1の位置にあるときには、ロービーム用配光パターンを形成することが可能となり、また、ミラー部材が第2の位置に移動したときには、ハイビーム用配光パターンを形成することが可能となる。
【0018】
その上で、本願第1の発明に係る車両用照明灯具においては、リフレクタの前方側に、発光素子からの光を第1の位置にあるミラー部材の上向き反射面へ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、また、ミラー部材の下方近傍には、ミラー部材が第2の位置へ移動したとき第2リフレクタからの反射光を投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材が配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0019】
すなわち、ミラー部材が第2の位置へ移動したときに形成されるハイビーム用配光パターンは、リフレクタで反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される基本配光パターンと、第2リフレクタおよび第2ミラー部材で順次反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される付加配光パターンとの合成配光パターンとして形成されることとなる。
【0020】
その際、付加配光パターンは、第2ミラー部材の上向き反射面から投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射した光により形成されることとなるので、ハイビーム用配光パターンの中心光度を高めることができる。
【0021】
このように本願第1の発明によれば、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ミラー部材の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行う構成とした場合であっても、ハイビーム用配光パターンの中心光度を十分に高めることができる。
【0022】
なお、本願第1の発明において、ミラー部材が第1の位置にあるときには、その上向き反射面に到達した第2リフレクタからの反射光は、この上向き反射面で反射した後にリフレクタや第2リフレクタに到達したとしても、その反射光は灯具前方へ向かう光とはならない。したがって、ロービーム用配光パターンは、リフレクタで反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される基本配光パターンにより形成されることとなる。
【0023】
これに対し、リフレクタと第2リフレクタとの間に、第1の位置にあるミラー部材で反射した第2リフレクタからの反射光を、投影レンズへ向けて反射させる第3リフレクタが配置された構成とすれば、ロービーム用配光パターンを、リフレクタで反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される基本配光パターンと、第2リフレクタ、ミラー部材および第3リフレクタで順次反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される付加配光パターンとの合成配光パターンとして形成することができる。
【0024】
その際、第3リフレクタからの反射光が投影レンズに到達するようにするためには、この反射光を投影レンズの後側焦点からある程度上方に離れた位置を通過させる必要がある。そして、このようにした場合には、付加配光パターンは基本配光パターンの下部領域に形成されることとなる。
【0025】
この付加配光パターンは、ロービームにおいては、ロービーム用配光パターンを車両前方路面を近距離領域まで明るく照射する配光パターンとして有効に活用することができる。一方、仮に、この付加配光パターンがハイビームにおいて形成されたとすると、車両前方路面の近距離領域が明るくなりすぎてしまい、遠方視認性が損なわれてしまうこととなる。しかしながら、この付加配光パターンは、ミラー部材が第2の位置へ移動したときには形成されることはないので、このような事態が発生してしまうのを未然に防止することができる。
【0026】
一方、本願第2の発明に係る車両用照明灯具においては、リフレクタの前方側に、発光素子からの光を第1の位置にあるミラー部材の後方に位置する点に略収束させるように反射させる第4リフレクタが配置されており、また、ミラー部材の後方側には、ミラー部材が第2の位置へ移動したとき第4リフレクタからの反射光を投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第5リフレクタが配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0027】
すなわち、ミラー部材が第2の位置へ移動したときに形成されるハイビーム用配光パターンは、リフレクタで反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される基本配光パターンと、第4および第5リフレクタで順次反射して投影レンズに到達した発光素子からの光により形成される付加配光パターンとの合成配光パターンとして形成されることとなる。
【0028】
その際、付加配光パターンは、第4リフレクタで反射して第1の位置にあるミラー部材の後方に位置する点に略収束した後、第5リフレクタで反射して投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向かう光により形成されることとなるので、ハイビーム用配光パターンの中心光度を高めることができる。
【0029】
このように本願第2の発明によれば、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ミラー部材の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行う構成とした場合であっても、ハイビーム用配光パターンの中心光度を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明の第1実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII−II線断面図であって、上記車両用照明灯具をミラー部材が第1の位置にある状態で示す図
【図3】上記車両用照明灯具をミラー部材が第2の位置にある状態で示す、図2と同様の図
【図4】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図であって、同図(a)はロービーム用配光パターン、同図(b)はハイビーム用配光パターンを示す図
【図5】本願発明の第2実施形態を示す、図2と同様の図
【図6】上記第2実施形態を示す、図3と同様の図
【図7】上記第2実施形態の作用を示す、図4と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0032】
まず、本願発明の第1実施形態について説明する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。また、図2は、図1のII-II 線断面図である。
【0034】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された投影レンズ12と、この投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された発光素子14と、この発光素子14を上方側から覆うように配置され、該発光素子14からの光を投影レンズへ12へ向けて光軸Ax寄りに反射させるリフレクタ16と、を備えたプロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されている。さらに、この車両用照明灯具10は、投影レンズ12の後方側に、リフレクタ16からの反射光の一部を上方側へ反射させるためのミラー部材18が配置された構成となっている。
【0035】
この車両用照明灯具10は、車両用前照灯の一部として組み込まれた状態で用いられるようになっており、車両用前照灯に組み込まれた状態では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0036】
投影レンズ12は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであって、その後側焦点Fを含む焦点面である後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。
【0037】
この投影レンズ12は、リング状のレンズホルダ22に固定されており、このレンズホルダ22は、ベース部材24に支持されている。このベース部材24は、ミラー部材18を下方側から囲むように形成されており、その上面は光軸Axを含む水平面上に位置している。
【0038】
発光素子14は、白色発光ダイオードであって、横長矩形状の発光面を有する発光チップ14aと、この発光チップ14aを支持する基板14bとからなっている。その際、発光チップ14aは、その発光面を覆うように形成された薄膜により封止されている。そして、この発光素子14は、その発光チップ14aが光軸Ax上において鉛直上向きになるようにして、かつ、その長辺方向を車幅方向と一致させるようにして配置された状態で、ベース部材24の光源支持部24aに位置決め固定されている。
【0039】
リフレクタ16の反射面16aは、光軸Axと同軸の長軸を有するとともに発光素子14の発光中心を第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そして、この反射面16aは、発光素子14からの光を、鉛直断面内においては投影レンズ12の後側焦点Fのやや前方位置において略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置を後側焦点Fからかなり前方へ変位させるように構成されている。このリフレクタ16は、その反射面16aの周縁下端部においてベース部材24の上面に固定されている。
【0040】
ミラー部材18は、水平方向に延びる略平板状の部材として構成されており、その前端部には下向きフランジ部が形成されている。
【0041】
このミラー部材18の上面は、後側焦点Fの位置から光軸Axに沿って後方へ延びる上向き反射面18aとして構成されている。この上向き反射面18aは、ミラー部材18の上面にアルミニウム蒸着等による鏡面処理を施すことにより形成されている。
【0042】
これにより、ミラー部材18は、その上向き反射面18aにおいて、リフレクタ16の反射面16aから投影レンズ12へ向かう反射光の一部を上向きに反射させて投影レンズ12に入射させ、これらを下向き光として投影レンズ12から出射させるようになっている。
【0043】
このミラー部材18の上向き反射面18aは、光軸Axよりも左側(車両用照明灯具10の正面視では右側)に位置する左側領域が光軸Axを含む水平面で構成されており、光軸Axよりも右側に位置する右側領域が、短い斜面を介して左側領域よりも一段低い水平面で構成されている。この上向き反射面18aの前端縁18a1は、投影レンズ12の後側焦点面に沿って延びるように形成されている。
【0044】
ミラー部材18は、車幅方向に延びる回動軸線Ax1回りに回動し得るように構成されている。その際、この回動軸線Ax1は、発光素子14と投影レンズ12の後側焦点Fとの略中央における光軸Axよりも下方に位置している。
【0045】
ミラー部材18の車幅方向両端部には、後方斜め下方へ延びる1対のレバー部18bが形成されている。そして、このミラー部材18は、その1対のレバー部18bの先端部において、回動軸線Ax1に沿って延びる軸部材26に固定されている。この軸部材26は、ベース部材24に固定支持されたアクチュエータ28に連結されている。
【0046】
このアクチュエータ28は、ビーム切換えスイッチの操作により駆動して、軸部材26と共にミラー部材18を回動させるようになっている。そして、この駆動ユニット28の駆動により、ミラー部材18は、その上向き反射面18aの前端縁18a1が投影レンズ12の後側焦点Fを通る位置にある第1の位置(すなわち図2において実線で示す位置)と、その前端縁18a1が後側焦点Fから下方へ変位した第2の位置(すなわち図2において2点鎖線で示す位置)とを採り得るようになっている。
【0047】
図3は、ミラー部材18が第2の位置にあるときの車両用照明灯具10を示す、図2と同様の図である。
【0048】
図2および3に示すように、リフレクタ16の前方側には、発光素子14からの光を、第1の位置にあるミラー部材18の上向き反射面18aへ向けて反射させる第2リフレクタ36が配置されている。
【0049】
この第2リフレクタ36の反射面36aは、該反射面36aで反射した発光素子14からの光を、第2ミラー部材38の上向き反射面38aに関して、投影レンズ12の後側焦点Fと面対称となる点Aまたはその近傍に収束させるように形成されている。
【0050】
また、ミラー部材18の下方近傍には、このミラー部材18が第2の位置へ移動したとき、第2リフレクタ36からの反射光を投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材38が配置されている。
【0051】
この第2ミラー部材38は、灯具前方へ向けて下向きに傾斜した上向き反射面38aを有する平板状の部材として構成されており、その下端部には下方へ延びる支持部38bが形成されている。そして、この第2ミラー部材38は、その支持部38bにおいてベース部材24に固定されている。
【0052】
さらに、リフレクタ16と第2リフレクタ36との間には、第1の位置にあるミラー部材18の上向き反射面18aで反射した第2リフレクタ36からの反射光を、投影レンズ12へ向けて反射させる第3リフレクタ46が配置されている。
【0053】
この第3リフレクタ46の反射面46aは、該反射面46aで反射したミラー部材18からの反射光を、上下方向に関しては平行光に近い光として反射させるように形成されている。その際、この第3リフレクタ46の反射面46aは、該反射面46aからの反射光が投影レンズ12に到達するようにするため、この反射光が投影レンズ12の後側焦点Fからある程度上方に離れた位置を通過するような表面形状に設定されている。
【0054】
これら第2リフレクタ36および第3リフレクタ46は、リフレクタ16と一体で形成されている。
【0055】
図4は、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図であって、同図(a)はロービーム用配光パターンPL、同図(b)はハイビーム用配光パターンPHを示す図である。
【0056】
同図(a)に示すように、ロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを鉛直方向に通るV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V−V線よりも左側の自車線側部分が、この下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。
【0057】
このロービーム用配光パターンPLにおいて、下段カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。これは光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びていることによるものである。そして、このロービーム用配光パターンPLにおいては、エルボ点Eを囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZLが形成されている。
【0058】
このロービーム用配光パターンPLは、リフレクタ16で反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される基本配光パターンPL0と、第2リフレクタ36、ミラー部材18および第3リフレクタ46で順次反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される付加配光パターンPLAとの合成配光パターンとして形成されるようになっている。
【0059】
基本配光パターンPL0は、ロービーム用配光パターンPLの基本的な形状を構成する配光パターンであって、リフレクタ16で反射した発光素子14からの光によって投影レンズ12の後側焦点面上に形成された発光素子14の像を、投影レンズ12により上記仮想鉛直スクリーン上に反転投影像として投影することにより形成されるようになっている。その際、カットオフラインCL1、CL2は、ミラー部材18の上向き反射面18aの前端縁18a1の反転投影像として形成されるようになっている。また、ホットゾーンHZLは、主としてミラー部材18の上向き反射面18aでの反射光により形成されるようになっている。
【0060】
一方、付加配光パターンPLAは、下段カットオフラインCL1の下方において基本配光パターンPL0と重複するようにして左右方向に大きく拡がる拡散配光パターンとして形成されている。
【0061】
この付加配光パターンPLAは、基本配光パターンPL0の下部領域に形成されるが、これは、第3リフレクタ46の反射面46aが、その反射光を投影レンズ12の後側焦点Fからある程度上方に離れた位置を通過させるように形成されていることによるものである。
【0062】
同図(b)に示すように、ハイビーム用配光パターンPHは、基本配光パターンPH0と付加配光パターンPHAとの合成配光パターンとして形成されている。そして、このハイビーム用配光パターンPHにおいては、H−Vの下方近傍の点を中心にしてホットゾーンHZHが形成されている。
【0063】
基本配光パターンPH0は、リフレクタ16からの反射光によって形成される配光パターンであって、ロービーム用配光パターンPLの基本配光パターンPLAを、そのカットオフラインCL1、CL2の上方側まで拡げた形状を有している。
【0064】
この基本配光パターンPH0が、基本配光パターンPLAをそのカットオフラインCL1、CL2の上方側まで拡げたような配光パターンとなるのは、ミラー部材18が第2の位置に移動したときには、リフレクタ16からの反射光の一部がミラー部材18により上方側へ反射することなく、他の反射光と同様、そのまま投影レンズに入射することによるものである。
【0065】
この基本配光パターンPH0においては、H−Vの下方近傍の点を中心にしてホットゾーンHZHが形成されている。その際、この基本配光パターンPH0においては、ミラー部材18からの上向き反射光が得られなくなった分だけ、その中心光度が基本配光パターンPLAの中心光度よりも低い値となっている。
【0066】
一方、付加配光パターンPHAは、第2リフレクタ36および第2ミラー部材38で順次反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される配光パターンである。この付加配光パターンPHAは、H−Vの下方近傍の点を中心にして左右方向に僅かに拡がるスポット状の配光パターンとして形成されている。これは、第2リフレクタ36が、その反射面36aで反射した発光素子14からの光を、第2ミラー部材38の上向き反射面38aに関して、投影レンズ12の後側焦点Fと面対称となる点Aまたはその近傍に収束させるように構成されていることによるものである。
【0067】
本実施形態において形成されるハイビーム用配光パターンPHは、その基本配光パターンPH0については、ミラー部材18からの上向き反射光が得られなくなった分だけ、その中心光度が基本配光パターンPLAの中心光度よりも低い値となるが、ハイビーム用配光パターンPH全体としては、スポット状の付加配光パターンPHAが重畳されるため、ロービーム用配光パターンPLよりも大幅に中心光度が高いものとなっている。
【0068】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0069】
本実施形態に係る車両用照明灯具10は、投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された発光素子14からの光を、その上方側に配置されたリフレクタ16により、投影レンズ12へ向けて反射させる構成となっているが、その投影レンズ12の後方側には、リフレクタ16からの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材18が配置されており、そして、このミラー部材18は、アクチュエータ28により、その上向き反射面18aの前端縁18a1が投影レンズ12の後側焦点Fを通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動する構成となっているので、ロービームとハイビームとのビーム切換えを行うことが可能となる。
【0070】
すなわち、ミラー部材18が第1の位置にあるときには、ロービーム用配光パターンPLを形成することが可能となり、また、ミラー部材18が第2の位置に移動したときには、ハイビーム用配光パターンPHを形成することが可能となる。
【0071】
その際、本実施形態に係る車両用照明灯具10においては、リフレクタ16の前方側に、発光素子14からの光を第1の位置にあるミラー部材18の上向き反射面18aへ向けて反射させる第2リフレクタ36が配置されており、また、ミラー部材18の下方近傍には、ミラー部材18が第2の位置へ移動したとき第2リフレクタ36からの反射光を投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材38が配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0072】
すなわち、ミラー部材18が第2の位置へ移動したときに形成されるハイビーム用配光パターンPHは、リフレクタ16で反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される基本配光パターンPH0と、第2リフレクタ36および第2ミラー部材38で順次反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される付加配光パターンPHAとの合成配光パターンとして形成されることとなる。
【0073】
その際、付加配光パターンPHAは、第2ミラー部材38の上向き反射面38aから投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射した光により形成されることとなるので、ハイビーム用配光パターンPHの中心光度を高めることができる。
【0074】
このように本実施形態によれば、発光素子14を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具10において、ミラー部材18の移動によりロービームとハイビームとのビーム切換えを行う構成とした場合であっても、ハイビーム用配光パターンPHの中心光度を十分に高めることができる。
【0075】
なお、本実施形態において、ミラー部材18が第1の位置にあるときには、その上向き反射面38aに到達した第2リフレクタ36からの反射光は、この上向き反射面38aで反射した後にリフレクタ16や第2リフレクタ36に到達したとしても、その反射光は灯具前方へ向かう光とはならない。
【0076】
本実施形態においては、リフレクタ16と第2リフレクタ36との間に、第1の位置にあるミラー部材18で反射した第2リフレクタ36からの反射光を、投影レンズ12へ向けて反射させる第3リフレクタ46が配置されているので、ロービーム用配光パターンPLを、リフレクタ16で反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される基本配光パターンPL0と、第2リフレクタ36、ミラー部材18および第3リフレクタ46で順次反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される付加配光パターンPLAとの合成配光パターンとして形成することができる。
【0077】
その際、この付加配光パターンPLAは、基本配光パターンPL0の下部領域に形成されることとなるので、ロービーム用配光パターンPLを車両前方路面を近距離領域まで明るく照射する配光パターンとすることができる。一方、この付加配光パターンPLAは、ミラー部材18が第2の位置へ移動したときには形成されないので、ハイビーム用配光パターンPHについては、車両前方路面の近距離領域が明るくなりすぎてしまわないようにすることができる。そしてこれにより、第3リフレクタ46が配置されたことによってハイビームでの遠方視認性が損なわれてしまうのを未然に防止することができる。
【0078】
上記実施形態においては、ロービーム用配光パターンとして、左配光のロービーム用配光パターンPLを形成する場合について説明したが、右配光のロービーム用配光パターンを形成する場合においても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0079】
次に、本願発明の第2実施形態について説明する。
【0080】
図5および6は、本実施形態に係る車両用照明灯具110を示す、図2および3とそれぞれ同様の図である。
【0081】
これらの図に示すように、この車両用照明灯具110は、その基本的な構成は、上記第1実施形態の場合と同様であるが、上記第1実施形態の第2リフレクタ36、第3リフレクタ46および第2ミラー部材38の代わりに、第4リフレクタ136および第5リフレクタ156を備えている点で、上記第1実施形態の場合と異なっている。
【0082】
本実施形態においては、リフレクタ16の前方側に第4リフレクタ136が配置されるとともに、ミラー部材18の後方側に第5リフレクタ156が配置されている。
【0083】
具体的には、第4リフレクタ136の反射面136aは、該反射面136aで反射した発光素子14からの光を、第1の位置にあるミラー部材18の後方に位置する点Bまたはその近傍に収束させるように形成されている。すなわち、この反射面136aは、発光素子14の発光中心を第1焦点とするとともに点Bを第2焦点とする回転楕円面で構成されている。その際,点Bは、光軸Ax上またはその近傍に位置設定されている。この第4リフレクタ136は、リフレクタ16と一体で形成されている。
【0084】
また、第5リフレクタ156の反射面156aは、第4リフレクタ136からの反射光を投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射させるように形成されている。すなわち、この反射面156aは、点Bを第1焦点とするとともに後側焦点Fを第2焦点とする回転楕円面で構成されている。この第5リフレクタ156は、ベース部材24と一体で形成されている。
【0085】
図7は、本実施形態に係る車両用照明灯具110から前方へ照射される光により、上記仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す、図4と同様の図である。
【0086】
同図(a)に示すロービーム用配光パターンPLは、リフレクタ16で反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される配光パターンであって、図4(a)に示すロービーム用配光パターンPLにおける基本配光パターンPL0と同様の配光パターンである。
【0087】
一方、同図(b)に示すハイビーム用配光パターンPHは、基本配光パターンPH0と付加配光パターンPHBとの合成配光パターンとして形成されている。そして、このハイビーム用配光パターンPHにおいては、H−Vの下方近傍の点を中心にしてホットゾーンHZHが形成されている。
【0088】
基本配光パターンPH0は、リフレクタ16からの反射光によって形成される配光パターンであって、ロービーム用配光パターンPLを、そのカットオフラインCL1、CL2の上方側まで拡げた形状を有している。
【0089】
付加配光パターンPHBは、第4リフレクタ136および第5リフレクタ156で順次反射して投影レンズ12に到達した発光素子14からの光により形成される配光パターンである。この付加配光パターンPHBは、H−Vの下方近傍の点を中心にして左右方向に僅かに拡がるスポット状の配光パターンとして形成されている。これは、第4リフレクタ136の反射面136aで反射して点Bまたはその近傍に収束した発光素子14からの光が、第5リフレクタ156の反射面156aで投影レンズ12の後側焦点Fまたはその近傍へ向けて反射するように構成されていることによるものである。
【0090】
本実施形態において形成されるハイビーム用配光パターンPHは、その基本配光パターンPH0については、ミラー部材18からの上向き反射光が得られなくなった分だけ、その中心光度がロービーム用配光パターンPLの中心光度よりも低い値となるが、ハイビーム用配光パターンPH全体としては、スポット状の付加配光パターンPHBが重畳されるため、ロービーム用配光パターンPLよりも大幅に中心光度が高いものとなっている。
【0091】
このように本実施形態においても、上記第2実施形態の場合と略同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
なお、上記各実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0093】
10、110 車両用照明灯具
12 投影レンズ
14 発光素子
14a 発光チップ
14b 基板
16 リフレクタ
16a、36a、46a、136a、156a 反射面
18 ミラー部材
18a、38a 上向き反射面
18a1 前端縁
18b レバー部
22 レンズホルダ
24 ベース部材
24a 光源支持部
26 軸部材
28 アクチュエータ
36 第2リフレクタ
38 第2ミラー部材
38b 支持部
46 第3リフレクタ
136 第4リフレクタ
156 第5リフレクタ
A、B 点
Ax 光軸
Ax1 回動軸線
CL1 下段カットオフライン
CL2 上段カットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
HZH、HZL ホットゾーン
PH ハイビーム用配光パターン
PH0、PL0 基本配光パターン
PHA、PHB、PLA 付加配光パターン
PL ロービーム用配光パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子と、この発光素子の上方側において該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの後方側に、上記リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置されており、
上記ミラー部材を、該ミラー部材の上向き反射面の前端縁が上記投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動させるアクチュエータを備えており、
上記リフレクタの前方側に、上記発光素子からの光を、上記第1の位置にある上記ミラー部材の上向き反射面へ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、
上記ミラー部材の下方近傍に、上記ミラー部材が上記第2の位置へ移動したとき、上記第2リフレクタからの反射光を上記投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第2ミラー部材が配置されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記リフレクタと上記第2リフレクタとの間に、上記第1の位置にある上記ミラー部材の上向き反射面で反射した上記第2リフレクタからの反射光を、上記投影レンズへ向けて反射させる第3リフレクタが配置されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された発光素子と、この発光素子の上方側において該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記投影レンズの後方側に、上記リフレクタからの反射光の一部を上向きに反射させるためのミラー部材が配置されており、
上記ミラー部材を、該ミラー部材の上向き反射面の前端縁が上記投影レンズの後側焦点またはその近傍を通るように配置される第1の位置と、この第1の位置から下方へ変位した第2の位置との間で移動させるアクチュエータを備えており、
上記リフレクタの前方側に、上記発光素子からの光を、上記第1の位置にある上記ミラー部材の後方に位置する点に略収束させるように反射させる第4リフレクタが配置されており、
上記ミラー部材の後方側に、上記ミラー部材が上記第2の位置へ移動したとき、上記第4リフレクタからの反射光を上記投影レンズの後側焦点またはその近傍へ向けて反射させる第5リフレクタが配置されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−134139(P2012−134139A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263324(P2011−263324)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】