説明

車両用燃料電池の再利用システム

【課題】使用済み車両用燃料電池の再利用を図る。
【解決手段】車両用燃料電池の再利用システムは、使用済み車両用燃料電池の出力が、規定値以下であるか否か、電力値が測定され判定され(S110)、使用済み車両用燃料電池の出力が規定値以下の場合、使用済み車両用燃料電池のスタックを分解するか否かを判定し(S112)、分割する場合、抜き出した部分スタックを低出力用途用の燃料電池に簡単に再加工する(S114)か、又は、使用済み車両用燃料電池をそのまま使用する場合には低出力用途の出力値に適合するように付属部品(例えばガス量調整手段)を調整し(S116)、低出力用途用に出力が調整された燃料電池の出力基準値を測定して判定し(S118)、出力基準値以下であれば再利用する(S120)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用燃料電池の再利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭載用の燃料電池として、例えば、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質として用い燃料極及び空気極に白金触媒を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC)や、電解質として酸化物イオンの透過性の高い安定化ジルコニアやランタン・ガリウムのペロブスカイト酸化物などのイオン伝導性セラミックを用いた固体酸化物型燃料電池(SOFC)が使用されるようになってきた。
【0003】
一方、車両から取り外された使用済みの燃料電池は、通常、廃棄される際にリサイクル機構又はリサイクル業者によって、上記燃料電池に用いられているレアメタルが採取され、回収されたレアメタルが転用されているのみである。
【0004】
また、車両に搭載されている燃料電池を家庭用燃料電池として共用するために、車載の燃料電池と家庭用燃料電池との互換性を持たせるシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−327404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
使用済み車両用燃料電池は、使用済みであったとしても、家庭用又は業務用の燃料電池の要求出力より遙かに高い出力を有している。一方、現状では、小型で且つ高出力可能な車両用燃料電池を使用済みとして解体して廃棄している状態であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、使用済み車両用燃料電池をそのまま又は簡単な分割作業のみで再利用する車両用燃料電池の再利用システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の車両用燃料電池の再利用システムは以下の特徴を有する。
【0009】
(1)使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、使用済み車両用燃料電池を車両以外の低出力用途用電池として再利用する車両用燃料電池の再利用システムである。
【0010】
従来のように、使用済み車両用燃料電池を解体することなく、低出力用途用の燃料電池として再利用され、解体作業も不要となり、廃棄費用も大幅に削減される。また、既に出力や特性の理解されている燃料電池を再利用するため、低出力用途に安心して転用することができる。
【0011】
(2)上記(1)に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、前記使用済み車両用燃料電池には、予め使用前に又は使用済み後に、使用済み車両用燃料電池に供給される燃料ガス量を低出力領域に適合するガス量に調整可能な燃料ガス供給量調整手段と、使用済み車両用燃料電池に供給される酸化剤ガス量を低出力領域に適合するガス量に調整可能な酸化剤ガス量調整手段と、が付設されている車両用燃料電池の再利用システムである。
【0012】
低出力領域に適合するガス量に調整可能な燃料ガス供給量調整手段と酸化剤ガス量調整手段とが、予め使用前に又は使用済み後に車両用燃料電池に付設されているので、例えば家庭用又は業務用への転用が容易である。
【0013】
(3)上記(2)に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、前記使用済み車両用燃料電池には、予め使用前に又は使用済み後に、使用済み車両用燃料電池に印加される電圧を調整して出力電流値を可変にする電圧調整手段が付設されている車両用燃料電池の再利用システムである。
【0014】
使用電流値が異なる用途にも転用が可能になる。
【0015】
(4)使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、複数のセルを積層してスタック化した使用済み車両用燃料電池から一部分の複数セルからなる部分スタックを抜き出し再加工した再加工燃料電池を、車両以外の低出力用途用電池として再利用する車両用燃料電池の再利用システムである。
【0016】
低出力領域の用途に応じて使用済み車両用燃料電池を一部加工するだけで、再利用することができる。したがって、再利用コストも最小限に抑えることができる。
【0017】
(5)上記(4)に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、使用前の車両用燃料電池は、複数のセルを積層してなる部分スタックが予め複数個集積されて構成されている車両用燃料電池の再利用システムである。
【0018】
予め、車両用燃料電池が、複数のセルを積層してなる部分スタックを複数個集積して構成されているので、再利用用途に応じ、部分スタックの個数を選択し簡便に再組立して再利用することができる。これにより、加工作業が簡便であるため、再利用コストをさらに抑制することができる。
【0019】
(6)上記(1)から(5)に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、車両以外の低出力用途が、家庭用コジェネシステム又は業務用電気機器への電力供給システムである車両用燃料電池の再利用システムである。
【0020】
近年、家庭用コジェネシステムの試験的な運用もあり、今後再利用先としても有望であるとともに、クリーンエネルギーの観点から業務用への転用も有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、使用済み車両用燃料電池をそのまま又は簡単な加工のみで低出力用途に再利用できる車両用燃料電池の再利用システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0023】
本実施の形態の車両用燃料電池の再利用システムは、使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、使用済み車両用燃料電池を車両以外の低出力用途用電池として再利用する車両用燃料電池の再利用システムである。
【0024】
ここで、本明細書において『燃料電池』とは、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質として用い燃料極及び空気極に白金触媒を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC)や、電解質として酸化物イオンの透過性の高い安定化ジルコニアやランタン・ガリウムのペロブスカイト酸化物などのイオン伝導性セラミックを用いた固体酸化物型燃料電池(SOFC)を含む意味であり、また、車両搭載に可能であれば、さらにアルカリ電解質型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池、バイオ燃料電池を含む意味である。
【0025】
本実施の形態の車両用燃料電池の再利用システムにおける燃料電池システムの一例を図1を用いて説明する。図1に示すように、燃料電池システムは、複数のセル12を積層してなるスタック状の燃料電池100と、燃料ガス貯留手段22と、燃料ガス貯留手段22から燃料電池100に供給される燃料ガス量を低出力領域に適合可能に調整する燃料ガス供給量調整手段20と、酸化剤ガス貯留手段32と、酸化剤ガス貯留手段32から使用済み車両用燃料電池に供給される酸化剤ガス量を低出力領域に適合可能に調整する酸化剤ガス量調整手段30と、が設けられている。
【0026】
さらに、本実施の形態の車両用燃料電池の再利用システムにおける燃料電池システムは、図1に示すように、予め使用前に又は使用済み後に、使用済み車両用燃料電池に印加される電圧を調整して出力電流値を可変にする電圧調整手段40が設けられている。これにより、使用電流値が異なる用途にも転用することができる。ここで、電圧調整手段40は、使用済み後に燃料電池に付設加工されてもよいが、予め使用前の燃料電池に設けられていていることが好ましい。予め設けられていることにより、上述同様、使用済み車両用燃料電池の再利用時の再加工作業がなく、低出力用途への転用が容易になる。
【0027】
また、本実施の形態における他の車両用燃料電池の再利用システムにおける燃料電池システムは、使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、複数のセルを積層してスタック化した使用済み車両用燃料電池から一部分の複数セルからなる部分スタックを抜き出し再加工した再加工燃料電池を、車両以外の低出力用途用電池として再利用する。
【0028】
上述のように一部分の複数セルからなる部分スタックを抜き出すことにより、低出力用途に応じた出力調整を行うことができる。また、燃料電池は使用により劣化が促進したセル群と劣化が抑制されたセル群とが存在する場合があり、例えば劣化が抑制されたセル群からなる部分スタックを抜き出し再加工することにより、低出力用途に適した出力を有する燃料電池を再構築することができる。
【0029】
また、図2に示すように、本実施の形態の他の車両用燃料電池の再利用システムにおける使用前の車両用燃料電池200が、複数のセル12を積層してなる部分スタック10を予め直列に接続して複数個集積した構成としてもよい。この構成により、部分スタック10の性能低下度や低出力用途の出力に応じて、部分スタック10の個数を選択し簡便に再組立して再利用することができる。これにより、加工作業が簡便であるため、再利用コストをさらに抑制することができる。
【0030】
また、本実施の形態において、車両以外の低出力用途は、例えば、家庭用コジェネシステム、又は業務用電気機器への電力供給システム、又は電源スタンドにおける電力供給システムなどが挙げられる。ここで、『コジェネシステム』とは、従来の電力会社の発電システムとは異なり、次世代のクリーンエネルギーとして、電力使用者の敷地内で発電し、発電時に得られた熱エネルギーも有効利用するというシステムであり、エネルギー効率を70〜80%まで高めることができるというシステムをいう。なお、家庭用コジェネシステムにおける要求出力電力量は、通常2〜5kWで平均3kW程度であり、また、業務用電気機器への電力供給システムにおける要求出力電力量は、例えば10kW程度であり、電源スタンドにおける電力供給システムにおける要求出力電力量は、例えば30kW程度である。
【0031】
次に、本実施の形態における車両用燃料電池の再利用のフローについて、図3を用いて説明する。まず、車両より取り外された使用済み車両用燃料電池の出力が、規定値以下であるか否か、電力値が測定され判定される(S110)。車両への継続使用を考慮し、上記規定値は70kW、車種に応じて50kW、小型車への継続使用を考慮すれば好ましくは30kWである。
【0032】
使用済み車両用燃料電池の出力が、規定値を超える場合には、この使用済み車両用燃料電池は、再度車両に搭載して再利用する(S130)。一方、使用済み車両用燃料電池の出力が規定値以下の場合、例えば、低出力用途の出力値、使用済み車両用燃料電池内の性能低下セルが存在するか否か、図2に示すように予め部分スタック直列接続集積体からなる燃料電池か否かを考慮し、使用済み車両用燃料電池のスタックを分解するか否かを判定する(S112)。分割する場合、抜き出した部分スタックを低出力用途用の燃料電池に簡単に再加工する(S114)。一方、使用済み車両用燃料電池をそのまま使用する場合には、図1に示すような低出力用途の出力値に調整可能な付属部品、例えば供給されるガス量調整手段20,30を使用後に付設するか又は使用前に予め設けておき、このガス量調整手段20,30のガス供給量を、低出力用途の出力値に適合した供給量に調整する(S116)。
【0033】
上述のように、低出力用途用に出力が調整された燃料電池の出力基準値を測定して判定し(S118)、出力基準値以下であれば再利用する(S120)。一方、出力基準値を超える場合には、再度燃料電池のスタックを分割するか否かを判定し(S112)、燃料電池の出力を調整して(S114又はS116)、再度低出力用途用に出力が調整された燃料電池の出力基準値を測定し判定する(S118)。ここで、出力基準値は、低出力用途により異なり、例えば、家庭用コジェネシステムにおける出力基準値は、5kW、好ましくは3kW程度であり、また、業務用電気機器への電力供給システムにおける出力基準値は10kW程度であり、電源スタンドにおける電力供給システムにおける出力基準値は30kW程度に設定される。
【0034】
なお、本実施の形態では、使用済み車両用燃料電池の再利用先を、車両用燃料電池の出力よりも低出力の用途を例示して説明したが、これに限るものではなく、例えば、車両搭載時に必要な出力値を考慮し、出力の低下した使用済み車両用燃料電池を2つ以上直列に接続して再利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の車両用燃料電池の再利用システムは、燃料電池を用いる用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、例えば車両搭載用の燃料電池の再利用用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の車両用燃料電池の再利用システムにおける燃料電池システムの一例を示す概要図である。
【図2】本発明の他の実施の形態における使用前の車両用燃料電池の構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における車両用燃料電池の再利用システムに関する再利用フローの一例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
10 部分スタック、12 セル、20 燃料ガス供給量調整手段、22 燃料ガス貯留手段、30 酸化剤ガス量調整手段、32 酸化剤ガス貯留手段、40 電圧調整手段、100 燃料電池、200 使用前の車両用燃料電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、使用済み車両用燃料電池を車両以外の低出力用途用電池として再利用することを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、
前記使用済み車両用燃料電池には、予め使用前に又は使用済み後に、
使用済み車両用燃料電池に供給される燃料ガス量を低出力領域に適合するガス量に調整可能な燃料ガス供給量調整手段と、
使用済み車両用燃料電池に供給される酸化剤ガス量を低出力領域に適合するガス量に調整可能な酸化剤ガス量調整手段と、が付設されていることを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、
前記使用済み車両用燃料電池には、予め使用前に又は使用済み後に、使用済み車両用燃料電池に印加される電圧を調整して出力電流値を可変にする電圧調整手段が付設されていることを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。
【請求項4】
使用済み車両用燃料電池の出力値が継続使用のための出力規定値より低い場合、複数のセルを積層してスタック化した使用済み車両用燃料電池から一部分の複数セルからなる部分スタックを抜き出し再加工した再加工燃料電池を、車両以外の低出力用途用電池として再利用することを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、
使用前の車両用燃料電池は、複数のセルを積層してなる部分スタックが予め複数個集積されて構成されていることを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載の車両用燃料電池の再利用システムにおいて、
車両以外の低出力用途が、家庭用コジェネシステム又は業務用電気機器への電力供給システムであることを特徴とする車両用燃料電池の再利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−27240(P2010−27240A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183996(P2008−183996)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】