説明

車両用空気調和装置

【課題】乗車率の高い場合においても、客室内の温度環境を快適に制御することのできる車両用空気調和装置を提供する。
【解決手段】圧縮機及び室外熱交換器と、室内熱交換器及び絞り弁とを冷媒配管で接続して冷凍サイクル装置が形成され、車両1の屋根2に設置されて車両1の客室3の天井4に設けたリターン空気吸込み口7の下流側にリターン温度センサ11が設けられ、客室3内の温度を所定温度に制御する車両用空気調和機20と、客室3の天井4に設けられて客室3内の空気を撹拌する横流ファン25とを備え、この横流ファン25の近傍に横流ファン温度センサ26を設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等の車両に設けられた車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8及びそのB−B断面である図9に示すように、鉄道等の車両に設けられた車両用空気調和機20は、通常、車両等1(図には、先頭車両1aと中間車両1bとが示してある)の屋根2の上に、ケーシングに覆われて設置される。このケーシング内は、図示してないが、例えば、室外送風室と室内送風機室とが設けられており、室外送風機室には室外熱交換器、室外送風機や圧縮機などが設けられ、ケーシングには外気導入口が設けられている。また室内送風機室には室内熱交換器、室内送風機や絞り弁などが設けられ、ケーシングには外気吸込み口が設けられており、室内送風機の吐出口は後述のダクト5内に開口している。そして、これら室外送風室と室内送風機室の機器は、冷媒配管により接続されて冷凍サイクル装置を構成している。
【0003】
4は車両1の客室3の上部に設けられた天井で、屋根2との間において幅方向の中央部にはダクト5が形成されており、ダクト5の天井4には車両用空気調和機20の室内送風機による調和空気の吹出し口6が設けられており、また、ダクト5の両側の天井4には車両用空気調和機20の室内送風機室に連通するリターン空気吸込み口7が設けられて、その下流側にはフィルタ8が設置されている。9は客室3内に設けられた座席、10は吊革である。
【0004】
11はリターン空気吸込み口7の下流側に設置されたリターン温度センサ、12は客室3の壁面に設置された壁部温度センサで、両温度センサ11,12によって検出された温度情報は、屋根2と天井4との間に設けられた車両用空気調和機20の空調制御器21に送られる。13は車両1の床下に設けられてその情報が空調制御器21に送られる車両情報制御装置で、応荷重センサ14の検出情報が入力される。
【0005】
上記のような車両用空気調和機20が搭載された車両1において、客室3を冷房する場合は、リターン温度センサ11からの温度情報、暖房時には壁部温度センサ12からの温度情報と、これらの温度情報と車両情報制御装置13からの冷房又は暖房の設定温度、乗車率などの情報とによって、空調制御器21により冷凍サイクル装置が制御され客室3内の温度が所定温度に調節される。
【0006】
ここで、乗車率とは、車両の乗車定員に対して、実際に乗車している人数の割合を云う。例えば、乗車率100%とは、すべての座席9が埋まり、かつ、吊革10がある程度まで埋っている状態の場合を云う。しかし、実際の乗車率を測定することは困難なので、車両1の床下に設けた応荷重センサ14により概算の乗車率を算定している。
【0007】
このような車両用空気調和装置に、空調機の吹出し部に吹出し部温度センサ、吸入部に吸込部温度センサを設け、その検出温度が所定温度より高い場合は熱負荷が大きいと判断し、満車状態などにより熱負荷が大きい場合には冷房運転を行うようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−348780号公報(第2、3頁、図1、2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8、図9に示す従来の車両用空気調和機20、あるいは特許文献1に記載された車両用空気調和装置においては、ラッシュ時(この場合は、乗車率150%と考える)に、リターン温度センサ(又は吸入部温度センサ)によって検出した温度情報は、実際の客室内の温度に対応しない場合が多く、特に、リターン温度センサ(又は吸入部温度センサ)と立席客の位置が離れているため、客室内、特に立席客に対して快適な温度制御を行うことができなかった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、ラッシュ時のように乗車率の高い場合においても、客室内の温度環境を快適に制御することのできる車両用空気調和装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両用空気調和装置は、圧縮機及び室外熱交換器と、室内熱交換器及び絞り弁とを冷媒配管で接続して冷凍サイクル装置が形成され、車両の屋根に設置されて該車両の客室の天井に設けたリターン空気吸込み口の下流側にリターン温度センサが設けられ、前記客室内の温度を所定温度に制御する車両用空気調和機と、前記客室の天井に設けられて該客室内の空気を撹拌する横流ファンとを備え、前記横流ファンの近傍に横流ファン温度センサを設置したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乗車率の高い場合でも、客室内の温度環境を快適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る車両用空気調和装置が設けられた鉄道等の車両の模式図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2の要部の拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る車両用空気調和装置による客室温度の制御例の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る車両用空気調和装置による客室温度の他の制御例の説明図である。
【図6】客室の座席客、立席客及び乗車人員の変化を算定した乗車率のグラフである。
【図7】乗車率の変化とこれに伴うリターン温度センサ、横流温度センサの検出温度の割合を示すグラフである。
【図8】従来の車両用空気調和機が設けられた鉄道等の車両の模式図である。
【図9】図8のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る車両用空気調和装置が設けられた鉄道等の車両の模式図、図2は図1のA−A断面図、図3は図2の要部の拡大図である。なお、図8、図9に示した従来技術と同じ部分には、これと同じ符号が付してある。
【0015】
本実施の形態は、図8、図9で従来技術として説明した車両用空気調和機20が設けられた車両1において、車両用空気調和機20とは別に、車両用空気調和機20からの調和空気の吹出しに干渉しない位置の天井4に、複数の凹部15を設けてファン室16を形成し、このファン室16に横断流送風機25(以下、横流ファンという)を設置すると共に、ファン室16の下部開口部にグリル17を設けたものである。
【0016】
そして、横流ファン25の吸込み側又はグリル17の下流側(以下、横流ファン25の近傍という)のいずれかの風路内に横流ファン温度センサ26a又は26b(以下、単に26と記すことがある)を設置したものである(図には、両温度センサ26a,26bが示してあるが、いずれか一方でよい)。
【0017】
上記のように構成した本実施の形態によれば、車両用空気調和機20により、例えば客室3内を冷房中に横流ファン25を運転すれば、客室3内の空気をグリル17から吸い込み、吹出口から客室3内に吹き出して客室3内の空気を撹拌するので、客室3内の温度を快適な状態に保つことができる。
【0018】
この場合、横流ファン25は立席客に近い位置にあり、かつ客室3内の空気を撹拌するため、その近傍に設置した横流ファン温度センサ26によって立席客の体感温度を確実に検出することができるので、この温度情報を空調制御器21に送ることにより、横流ファン25による客室3内の空気の撹拌と相俟って、客室3内の環境を快適に制御することができる。
【0019】
前述のように、横流ファン温度センサ26を、横流ファン25の吸込み側又はグリル17の下流側のいずれかに設ける場合を示したが横流ファン温度センサ26を横流ファン25の吸込み側に設ける場合は、配線を容易に行うことができ、グリル17の下流側に設ける場合は、客室3内の温度をより正確に検出することができる。
【0020】
本実施の形態によれば、客室3の天井4に客室3内の空気を撹拌する横流ファン25を設けると共に、横流ファン25の近傍に横流ファン温度センサ26を設け、客室3の乗車率が高い場合は、車両用空気調和機20は、この横流ファン温度センサ26が検出した温度情報を利用して客室3内を所定の温度に制御するようにしたので客室3内の環境を快適に維持することができる。
【0021】
[実施の形態2]
本実施の形態は、実施の形態1のように車両用空気調和機20と横流ファン25とによって構成した車両用空気調和装置により客室3の温度を制御する場合、横流ファン25が運転されているときは、横流ファン温度センサ26が検出した温度情報に基いて客室3の温度制御を行い、あるいは、客室3の乗車率に応じて、リターン温度センサ11の検出温度T1と、横流ファン温度センサ26の検出温度T2との100分率による割合を変えた温度情報に基いて客室3の温度制御を行うようにしたものである。このような客室3の温度制御の例を以下に説明する。
【0022】
<制御例1>
横流ファン25を運転すると客室3内の空気が撹拌されるため、横流ファン25の近傍に設けた横流ファン温度センサ26により、客室3内の温度をより正確に検出することができる。
よって、横流ファン25を運転した場合は、図4に示すように、車両用空気調和機20は、横流ファン温度センサ26が検出した温度情報に基いて客室3内を所定の温度に制御する。
【0023】
<制御例2>
乗車率が高い場合(例えば、150%程度)は、客室3内は乗客の身体が密着しており、このため、座席客と立席客とでは体感温度に差を生じる。そこで、例えば、乗車率が150%以下の場合は、車両用空気調和機20はリターン温度センサ11が検出した温度T1を客室3内の温度情報として使用し、乗車率が150%を超えたときは、横流ファン温度センサ26が検出した温度T2を客室3内の温度情報として使用して、客室3内を所定の温度に制御する。なお、前者の場合は横流ファン25の稼動の有無に関係がなく、後者の場合は横流ファン25は運転しているものとする。
【0024】
<制御例3>
また、図5に示すように、乗車率が例えば50%以下の場合は、リターン温度センサ11が検出した温度T1を車両用空気調和機20の温度情報として使用し、乗車率が例えば50%を超えて150%以下の場合は、リターン温度センサ11の検出温度T1の50%に、横流ファン温度センサ26の検出温度T2の50%を加えた温度を温度情報として使用する。さらに、乗車率が例えば150%を超えた場合は、横流ファン温度センサ26の検出温度T2を温度情報として使用し、客室3内を所定温度に制御する。このように、乗車率に応じて温度情報を段階的に切替える。なお、少なくとも乗車率が例えば50%を超えた場合は、横流ファン25は運転しているものとする。また、上記の説明では、温度情報を3段階に切替える場合を示したが、4段階以上に切替えてもよい。
【0025】
<制御例4>
本制御例は、リターン温度センサ11と横流ファン温度センサ26の検出温度T1,T2のそれぞれの何%かを加えて、車両用空気調和機20の温度情報とする場合、加える両者の温度の割合を連続的に切り替えるようにしたものである。
図6は1車両当りの定員を160名(座席数60名)と仮定して、座席客、立席客及び乗車人員の変化を算定した乗車率のグラフである。
【0026】
また、図7は乗車率の変化に伴って、リターン温度センサ11と横流ファン温度センサ26の検出温度T1,T2に基いて、車両用空気調和機20へ送る場合の温度情報の割合を示すグラフである。
ここで、温度情報を構成する横流ファン温度センサ26の検出温度T2の割合αは、
α=立席客人員/乗車人員
であり、リターン温度センサ11の検出温度T1の割合βは、
β=1−α
となる。
よって、車両用空気調和機20への温度情報は、
温度情報=β×T1+α×T2
となる。
【0027】
図から明らかなように、本制御例によれば、車両用空気調和機20へ送られる温度情報は、乗車率が例えば75%の場合は、リターン温度センサ11の検出温度T1と、横流ファン温度センサ26の検出温度T2の割合はそれぞれ50%であり、乗車率がそれより低い場合は、リターン温度センサ11の検出温度T1の割合が、横流ファン温度センサ26の検出温度T2の割合より高くなる。
【0028】
一方、乗車率が75%より高くなると、その割合が逆転して、リターン温度センサ11の検出温度T1の割合が、横流ファン温度センサ26の検出温度T2の割合より低くなり、例えば乗車率が150%の場合は、前者が約25%、後者が約75%となる。
【0029】
本実施の形態は、車両用空気調和機20へ送る温度情報を、乗車率の変化に対応して変えるようにし、この温度情報に基いて客室3内の温度を所定温度に制御するようにしたので、客室3内の環境を常により快適に維持することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 車両、2 車両の屋根、3 客室、4 天井、6 吹出し口、7 リターン空気吸込み口、11 リターン温度センサ、16 ファン室、17 グリル、20 車両用空気調和機、21 空調制御器、25 横流ファン、26 横流ファン温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機及び室外熱交換器と、室内熱交換器及び絞り弁とを冷媒配管で接続して冷凍サイクル装置が形成され、車両の屋根に設置されて該車両の客室の天井に設けたリターン空気吸込み口の下流側にリターン温度センサが設けられ、前記客室内の温度を所定温度に制御する車両用空気調和機と、前記客室の天井に設けられて該客室内の空気を撹拌する横流ファンとを備え、
前記横流ファンの近傍に横流ファン温度センサを設置したことを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記横流ファン温度センサを、前記横流ファンの吸込み側に設置したことを特徴とする請求項1記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記横流ファン温度センサを、前記横流ファンの下方に設けたグリルの下流側に設置したことを特徴とする請求項1記載の車両用空気調和装置。
【請求項4】
前記横流ファンを運転したときは、前記横流ファン温度センサで検出した温度を前記車両用空気調和機への温度情報とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
前記客室の乗車率が所定の値を超えたときは、前記横流ファンを運転して前記横流ファン温度センサで検出した温度を前記車両用空気調和機への温度情報とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
前記横流ファンを運転して、前記リターン温度センサで検出した温度と、前記横流ファン温度センサで検出した温度とを乗車率に対応した割合で合計し、該合計した温度を乗車率に応じて段階的に切替えて、前記車両用空気調和機への温度情報とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項7】
前記横流ファンを運転して、前記リターン温度センサで検出した温度と、前記横流ファン温度センサで検出した温度とを乗車率に対応した割合で合計し、該合計した温度を乗車率に応じて連続的に切替えて、前記車両用空気調和機への温度情報とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項8】
前記横流ファン温度センサの検出温度の割合αを、立席客人数/乗車人数で算出し、前記リターン温度センサの検出温度の割合βを1−αで算出して、前記車両用空気調和機への温度情報を次式で算出することを特徴とする請求項7記載の車両用空気調和装置。
β×リターン温度センサの検出温度+α×横流ファン温度センサ

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−121398(P2012−121398A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272368(P2010−272368)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】