説明

車両用空調システム

【課題】可変容量圧縮機の回転速度が変化したときに、圧縮機の駆動トルクのオーバーシュートが防止されて安定に動作し、この結果として、車両のドライバビリティ、燃費及び車室の快適性の向上をもたらす車両用空調システムを提供する。
【解決手段】車両用空調システムは、膨張弁(26)の開度を調整する開度制御手段と、可変容量圧縮機(100)の回転速度の変化を予知する回転速度変化予知手段とを備える。開度制御手段は、回転速度変化予知手段によって予知された可変容量圧縮機(100)の回転速度の変化が閾値を超えたとき、予知された可変容量圧縮機(100)の回転速度の変化が始まるよりも前に、予知された回転速度の変化方向に対応して膨張弁(26)の開度を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調システムは、冷凍サイクルを実行するシステム(冷凍サイクルシステム)を有する。冷凍サイクルシステムは、作動流体としての冷媒が循環する循環路を有し、循環路には、圧縮機、放熱器(凝縮器)、膨張器(膨張弁)及び蒸発器が順次介挿される。
圧縮機の動力(駆動トルク)は、エンジンからベルトを介して伝達される。このため、車両の制御という観点からみれば、圧縮機は負荷となり、特に外気温度が高いときに、加速性能を含む車両のドライバビリティや、燃費に影響を及ぼす。
【0003】
一方、車両用空調システムの制御という観点からみれば、エンジンの回転速度の変化は、圧縮機の回転速度の変化をもたらし、冷凍サイクルを不安定にし、車室温度のばらつきをもたらす。
そこで、例えば特許文献1が開示する車両用空気調和装置においては、車両が加速状態であると判定された時に、コンプレッサがオフにされる。あるいは、コンプレッサが可変容量である場合、加速状態であると判定された時に、その容量が小にされる。これにより、車両加速時には加速が優先させられ、加速性能が確保されるものと考えられる。
【0004】
ところで可変容量の圧縮機としては、例えば、ピストンタイプの外部制御式の可変容量圧縮機が広く利用されている。
この種の可変容量圧縮機には、容量制御弁が備え付けられ、容量制御弁に供給される駆動電流は、外部の制御装置によって制御される。制御装置は、冷凍サイクルシステムにおける吸入圧力、若しくは、所定の2点間の圧力差(例えば、吐出圧力と吸入圧力との圧力差)が目標値に近付くように駆動電流を調整する。駆動電流に応じて容量制御弁の開度が変化するのに伴い、圧縮機のクランク室の圧力が増減され、これによって吐出容量が変化する。
【0005】
一方、特許文献2は、圧縮機の駆動トルクを演算する方法に特徴を有する冷凍サイクルの制御方法を開示している。この制御方法では、可変容量圧縮機の冷媒高圧側圧力と冷媒低圧側圧力との差圧を決める第1の電気信号と、電子膨張弁の冷媒流量を決める第2の電気信号とから、差圧及び冷媒流量が推定される。そして、推定したこれらの値及びエンジンの回転数から、圧縮機の駆動トルクが演算される。これにより、圧縮機の駆動トルクが正確に推定されると考えられている。
【0006】
その上で、特許文献2の制御方法では、自動車の加速走行時に、圧縮機の駆動トルクが小さくなるように第1の電気信号及び第2の電気信号が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2612334号公報
【特許文献2】特開2004−34943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1が開示する車両用空気調和装置においては、車両が加速し始めてから、則ち、圧縮機の回転速度が上昇し始めてから、制御装置がコンプレッサをオフにするか又はその吐出容量を小さくする。このため、例えば、AT車における急加速時の自動シフトダウンなど、エンジン回転速度が急激に変化するような場合には、圧縮機の動力を迅速に低減することができない。特にピストンタイプの可変容量圧縮機を用いているときには、容量制御弁の駆動電流を変更してから、実際に吐出容量が変化するまでに時間差があることから、なおさら圧縮機の動力を迅速に低減することができない。
【0009】
このように、圧縮機の吐出容量の変化がエンジンの回転速度変化に追い付かない場合、圧縮機の動力のオーバーシュートが発生する。このオーバーシュートは、車両のドライバビリティの悪化を招き、また、省燃費化のための細やかなエンジン制御に悪影響を及ぼす。
更に、圧縮機の吐出容量の変化がエンジンの回転速度変化に追い付かない場合、感温式の膨張弁を用いていれば、蒸発器の圧力低下により膨張弁の開度が変化し、冷凍サイクルシステム全体のバランスが変化する。この結果として、冷凍サイクルシステムが不安定になり、車室の快適性が損なわれる虞がある。
【0010】
一方、特許文献2が開示する方法においても、車両が加速し始めてから、第1の電気信号及び第2の電気信号が制御される。このため、特許文献1の場合と同様に、エンジン回転速度が急激に変化するような場合には、圧縮機の動力を迅速に低減することができない。
また、第1の電気信号及び第2の電気信号を同時に制御した場合、特にピストンタイプの可変容量圧縮機を用いているときには、容量制御弁の駆動電流を変更してから、実際に吐出容量が変化するまでに時間差があることから、制御が不安定になり、冷媒循環量及び差圧が目標値に収束しない、いわゆるハンチング現象が生じてしまう。
【0011】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、可変容量圧縮機の回転速度が変化したときに、圧縮機の駆動トルクのオーバーシュートが防止されて安定に動作し、この結果として、車両のドライバビリティ、燃費及び車室の快適性の向上をもたらす車両用空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、車両に設けられた冷媒が循環する循環路に順次介挿された、可変容量圧縮機、放熱器、開度を外部から制御可能な膨張弁及び蒸発器と、前記可変容量圧縮機の吐出容量を調整するための容量制御弁と、前記容量制御弁に供給する駆動電流を調整して前記容量制御弁の開度を調整し、これにより前記可変容量圧縮機の吐出容量を制御する容量制御手段と、前記膨張弁の開度を調整する開度制御手段と、前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を予知する回転速度変化予知手段とを備え、前記可変容量圧縮機は、前記車両のエンジンの動力によって作動させられ、前記開度制御手段は、前記回転速度変化予知手段によって予知された前記可変容量圧縮機の回転速度の変化が閾値を超えたとき、予知された前記可変容量圧縮機の回転速度の変化が始まるよりも前に、予知された回転速度の変化方向に対応して前記膨張弁の開度を変更することを特徴とする車両用空調システムが提供される(請求項1)。
【0013】
好ましくは、前記容量制御手段が前記駆動電流を変更してから前記可変容量圧縮機の吐出容量が変化するまでに要する時間を応答時間としたとき、前記開度制御手段は、前記閾値を超える前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を前記回転速度変化予知手段が予知したときから起算して前記応答時間が経過するまでの間に、前記膨張弁の開度を変更する(請求項2)。
【0014】
好ましくは、前記容量制御手段は、前記圧縮機に吸入される前記作動流体の吸入圧力の目標値に対応して定まる値に等しくなるよう、前記駆動電流を調整し、前記容量制御弁は、前記吸入圧力を検知して、前記吸入圧力が前記目標値に近付くように前記容量制御弁の開度を調整する感圧器を有する(請求項3)。
好ましくは、回転速度変化予知手段は、車両のアクセル開度及びアクセル開度の変化量のうち少なくとも一方に基づいて、前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を予知する(請求項4)。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1の車両用空調システムによれば、可変容量圧縮機の回転速度の変化が開始するよりも前に、膨張弁の開度を変更することで、循環路における作動流体の流量(循環量)が調整される。つまり、回転速度の増減に対応して作動流体の流量が適当に調整される。これにより、圧縮機の駆動トルクのオーバーシュートが防止される。この結果として、車両用空調システムの動作が安定になり、車両のドライバビリティ、燃費及び車室の快適性が向上する。
【0016】
請求項2の車両用空調システムによれば、予知された可変容量圧縮機の回転速度の変化が閾値を超えたとき、可変容量圧縮機の吐出容量が変更される前に、必ず膨張弁の開度が調整される。すなわち、可変容量圧縮機の吐出容量の制御に優先して、膨張弁の開度が制御される。膨張弁の開度を変更してから作動流体の循環量が変化するまでに要する時間は、可変容量圧縮機の吐出容量の応答時間よりも短いため、膨張弁の開度の制御を優先させることで、作動流体の循環量が時宜を得て的確に調整され、車両用空調システムの動作が一層安定になる。
【0017】
請求項3の車両用空調システムによれば、膨張弁の開度調整によって作動流体の循環量が変更されると、感圧器が吸入圧力の変化を検知し、容量制御弁の開度を変更する。この結果として、特に容量制御手段が駆動電流を変更しなくても、圧縮機の駆動トルクのオーバーシュートが的確に防止される。
請求項4の車両用空調システムによれば、回転速度変化予知手段によって、回転速度の変化が確実に予知される。この結果として、圧縮機の駆動トルクのオーバーシュートが確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態の車両用空調システムが適用された車両の概略構成を示す図である。
【図2】図1の車両用空調システムに適用された冷凍サイクルシステムの概略構成を、圧縮機の縦断面とともに示す図である。
【図3】図2の圧縮機における容量制御弁の接続状態を、容量制御弁の断面とともに示す図である。
【図4】図1の車両用空調システムにおける、容量制御弁の駆動電流と吸入圧力との関係を示すグラフである。
【図5】図1の車両における信号の入出力関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、第1実施形態の車両用空調システムを適用した車両の概略を示し、この車両用空調システムによれば車室10内を所望の設定温度にて冷房可能である。
車両用空調システムは冷凍サイクルを実行する冷凍サイクルシステム12を備え、冷凍サイクルシステム12は、作動流体としての冷媒を循環させる循環路14を有する。
循環路14は、エンジンルーム16から隔壁17を貫通して機器スペース18に渡っている。機器スペース18は、車室10の前方部分にインストルメントパネル20により区画されている。エンジンルーム16内を延びる循環路14の部分には、圧縮機100、放熱器(凝縮器)24、レシーバ・ドライヤ25及び膨張弁26が、冷媒が流れる方向にて順次介挿される。機器スペース18内を延びる循環路14の部分には、蒸発器28が介挿されている。なお、レシーバ・ドライヤ25は省略してもよい。
【0020】
圧縮機100は、エンジン29と機械的に連結され、エンジン29から供給される動力によって作動させられる。圧縮機100は、好ましくはピストンタイプ(往復動式)の可変容量圧縮機であり、図2に示したように、容量制御弁200を内蔵している。
より詳しくは、圧縮機100は、例えば斜板式のクラッチレス圧縮機である。圧縮機100はシリンダーブロック101を備え、シリンダーブロック101には、複数のシリンダボア101aが形成されている。シリンダーブロック101の一端にはフロントハウジング(クランクケース)102が連結され、シリンダーブロック101の他端には、バルブプレート103を介してリアハウジング(シリンダヘッド)104が連結されている。
【0021】
シリンダーブロック101及びフロントハウジング102はクランク室105を規定し、クランク室105内を縦断して駆動軸106が延びている。駆動軸106は、クランク室105内に配置された環形状の斜板107を貫通し、斜板107は、駆動軸106に固定されたロータ108と連結部109を介してヒンジ結合されている。従って、斜板107は、駆動軸106に沿って移動しながら傾動可能である。
【0022】
ロータ108と斜板107との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最小傾角に向けて付勢するコイルばね110が装着されている。斜板107を挟んで反対側の駆動軸106の部分、即ち斜板107とシリンダーブロック101との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最大傾角に向けて付勢するコイルばね111が装着されている。
【0023】
駆動軸106は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通し、駆動軸106の外端は、動力伝達装置としてのプーリ112に連結されている。プーリ112は、ボール軸受113を介してボス部102aによって回転自在に支持され、外部駆動源としてのエンジン29のプーリとの間にベルト115が架け回される。
ボス部102aの内側には軸封装置116が配置され、軸封装置116は、フロントハウジング102の内部と外部とを遮断している。駆動軸106はラジアル方向及びスラスト方向にベアリング117,118,119,120によって回転自在に支持され、エンジン29からの動力がプーリ112に伝達され、プーリ112の回転と同期して回転可能である。
【0024】
シリンダボア101a内にはピストン130が配置され、ピストン130には、クランク室105内に突出したテール部が一体に形成されている。テール部に形成された凹所130a内には一対のシュー132が配置され、シュー132は斜板107の外周部に対し挟み込むように摺接している。従って、シュー132を介して、ピストン130と斜板107とは互いに連動し、駆動軸106の回転によりピストン130がシリンダボア101a内を往復動する。
【0025】
リアハウジング104の内部には、吸入室140及び吐出室142が区画形成され、吸入室140は、バルブプレート103に設けられた吸入孔103aを介してシリンダボア101aと連通可能である。吐出室142は、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介してシリンダボア101aと連通可能である。なお、吸入孔103a及び吐出孔103bは、図示しない吸入弁及び吐出弁によってそれぞれ開閉される。
【0026】
シリンダーブロック101の外側にはマフラ150が設けられ、マフラケーシング152は、シリンダーブロック101に一体に形成されたマフラベース101bに図示しないシール部材を介して接合されている。マフラケーシング152及びマフラベース101bはマフラ空間154を規定し、マフラ空間154は、リアハウジング104、バルブプレート103及びマフラベース101bを貫通する吐出通路156を介して吐出室142と連通している。
【0027】
マフラケーシング152には吐出ポート152aが形成され、マフラ空間154には、吐出通路156と吐出ポート152aとの間を遮るように逆止弁170が配置されている。逆止弁170は、吐出通路156側の圧力とマフラ空間154側の圧力との圧力差に応じて開閉する。具体的には、圧力差が所定値より小さい場合閉作動し、圧力差が所定値より大きい場合開作動する。
【0028】
したがって吐出室142は、吐出通路156、マフラ空間154及び吐出ポート152aを介して循環路14の往路部分と連通可能であり、マフラ空間154は逆止弁170によって断続される。一方、吸入室140は、リアハウジング104に形成された吸入ポート104aを介して循環路14の復路部分と連通している。
リアハウジング104には、容量制御弁(電磁制御弁)200が収容され、容量制御弁200は給気通路160に介挿されている。給気通路160は、吐出室142とクランク室105との間を連通するようにリアハウジング104からバルブプレート103を経てシリンダーブロック101にまで亘っている。
【0029】
一方、吸入室140は、クランク室105と抽気通路162を介して連通している。抽気通路162は、駆動軸106とベアリング119,120との隙間、空間164及びバルブプレート103に形成された固定オリフィス103cからなる。
また、吸入室140は、リアハウジング104に形成された感圧通路166を通じて、給気通路160とは独立して容量制御弁200に接続されている。
【0030】
容量制御弁200は、図3に示すように、弁ユニットとソレノイドユニットとからなる。弁ユニットは、略円筒形状の弁ハウジング202を有し、弁ハウジング202の内部には弁孔204が形成されている。弁孔204は、弁ハウジング202の軸線方向に延び、弁孔204の一端は出口ポート206に繋がっている。出口ポート206は、弁ハウジング202を径方向に貫通しており、弁孔204は出口ポート206及び給気通路160の下流側部分を介してクランク室105と連通している。
【0031】
弁ハウジング202のソレノイドユニット側には弁室208が区画され、弁孔204の他端は弁室208の端壁にて開口している。弁室208内には、略円柱形状の弁体210が収容され、弁体210は、弁室208内を弁ハウジング202の軸線方向に移動可能である。弁体210の一端が弁室208の端壁に当接することにより、弁体210は弁孔204を閉塞可能であり、弁室208の端壁は弁座として機能する。
【0032】
また、弁ハウジング202には入口ポート212が形成され、入口ポート212も弁ハウジング202を径方向に貫通している。入口ポート212は、給気通路160の上流側部分を介して吐出室142と連通している。入口ポート212は、弁室208の周壁にて開口しており、入口ポート212、弁室208、弁孔204及び出口ポート206を通じて、吐出室142とクランク室105とは連通可能となっている。
【0033】
更に、弁ハウジング202には、ソレノイドユニットと反対側に感圧室214が区画され、感圧室214の周壁には感圧ポート216が形成されている。感圧ポート216及び感圧通路166を通じて、感圧室214は吸入室140と連通している。また、感圧室214と弁孔204との間には軸方向孔218が設けられ、軸方向孔218は、弁孔204と同軸上を延びている。
【0034】
弁体210の他端には、感圧ロッド220が一体且つ同軸に連結されている。感圧ロッド220は、弁孔204及び軸方向孔218内を延び、感圧ロッド220の先端部は、感圧室214内に突出している。感圧ロッド220は先端側に大径部を有しており、感圧ロッド220の大径部は、軸方向孔218の内周面によって摺動可能に支持されている。従って、感圧ロッド220の大径部によって、感圧室214と弁孔204との間の気密性が確保されている。
【0035】
感圧室214の端壁は、弁ハウジング202の端部に圧入されたキャップ222により形成され、キャップ222は段付きの有底円筒状をなす。キャップ222の小径部には、支持部材224の筒部が摺動自在に嵌合され、キャップ222の底壁と支持部材224との間には強制開放ばね226が配置されている。
感圧室214内には感圧器228が収容され、感圧器228の一端が支持部材224に固定されている。従って、キャップ222は、支持部材224を介して感圧器228を支持している。
【0036】
感圧器228はベローズ230を有し、ベローズ230は、弁ハウジング202の軸線方向に伸縮可能である。ベローズ230の両端はキャップ232,234によって気密に閉塞され、ベローズ230の内部は、真空状態(減圧状態)に保たれている。また、ベローズ230の内部には、圧縮コイルばね236が配置され、圧縮コイルばね236は、ベローズ230が伸長するように、キャップ232,234を相互に離間する方向に付勢している。
【0037】
感圧器228のキャップ234は、アダプタ238を介して感圧ロッド220に当接可能であり、感圧室214内の圧力が低下して感圧器228が伸長した場合、感圧ロッド220を介して弁体210が開弁方向に付勢される。
なお、弁ハウジング202に対するキャップ222の圧入量は、容量制御弁200が所定の動作をするように調整される。
【0038】
一方、ソレノイドユニットは、弁ハウジング202に同軸的に連結された略円筒形状のソレノイドハウジング240を有し、ソレノイドハウジング240内には、略円筒形状の固定コア242が同心上に配置されている。固定コア242の一端部は、弁ハウジング202の端部に嵌合して弁室208を区画するとともに、弁体210を摺動自在に支持している。
【0039】
固定コア242の中央部から他端部に亘る部分には、有底のスリーブ244が嵌合されている。スリーブ244の底壁と固定コア242の他端との間には、コア収容空間246が区画され、コア収容空間246には可動コア248が配置されている。可動コア248は、スリーブ244によって摺動自在に支持され、ソレノイドハウジング240の軸線方向に往復動可能である。
【0040】
弁体210の他端には、固定コア242内を延びるソレノイドロッド250の一端が当接し、ソレノイドロッド250の他端部は、可動コア248と一体に固定されている。従って、弁体210は、可動コア248に連動して閉弁方向に移動する。可動コア248とスリーブ244の底壁との間には、圧縮コイルばね252が配置され、圧縮コイルばね252は、可動コア248及びソレノイドロッド250を介して弁体210を閉弁方向に常時付勢する。
【0041】
スリーブ244の周囲には、ボビン253に巻回された状態で円筒形のコイル(ソレノイドコイル)254が配置され、ボビン253及びコイル254は、一体に成型された樹脂部材255によって囲まれている。ソレノイドハウジング240、固定コア242及び可動コア248はいずれも磁性材料で形成されて磁気回路を構成し、一方、スリーブ244は非磁性のステンレス系材料で形成されている。
【0042】
ここで、固定コア242の先端部の根元には、径方向孔256が形成され、弁ハウジング202には、径方向孔256と感圧室214とを連通する連通孔258が形成されている。また、固定コア242の中央部及び他端部の内径は、弁体210及びソレノイドロッド250の外径よりも大きく、感圧室214とコア収容空間246との間は、固定コア242の中央部及び他端部の内側、径方向孔256及び連通孔258を介して連通している。
【0043】
従って、弁体210の一端面には、クランク室105の圧力(クランク圧力Pc)が開弁方向の力として作用し、一方、弁体210の他端面には吸入室140の圧力(吸入圧力Ps)が閉弁方向の力として作用する。
容量制御弁のソレノイド254には、エアコン制御装置(A/C制御装置)32が電気的に接続され、エアコン制御装置32は、ソレノイド254に供給される駆動電流Iの電流量を調整することによって、圧縮機100の吐出容量を調整する。エアコン制御装置32は、例えば、ECU(電子制御装置)等の電気回路によって構成することができる。
【0044】
容量制御弁200を採用した場合、吐出容量の制御方式としては、圧縮機100が吸入する冷媒の圧力(吸入圧力)Psを制御するPs制御方式が採用される。なお、容量制御弁の種類に応じて、圧縮機100が吐出する冷媒の圧力(吐出圧力)と吸入圧力との差(Pd−Ps差圧)を制御する差圧制御方式を採用することもできる。
図4は、容量制御弁200に供給される駆動電流Iと吸入圧力Psとの関係を示している。Ps制御方式では、種々の情報から吸入圧力Psの目標値Pssが設定され、目標値Pssに対応する大きさの駆動電流Iがソレノイド254に供給される。これにより、容量制御弁200の開度は、吸入圧力Psが目標値Pssに近付くように設定される。この一方で、吸入圧力Psを検知する感圧器228が、吸入圧力Psに応じて伸長して開度を微調整し、吸入圧力Psの変動を補償する。
【0045】
再び図1を参照すると、凝縮器24の近傍にはコンデンサファン33が配置され、車両の走行による車両前方からの風、コンデンサファン33からの風、又は、これらの両方によって、凝縮器24を通過する冷媒は冷却される。
膨張弁26は自身を通過する冷媒を膨張させる。膨張弁26は、例えば電子式膨張弁である。膨張弁26の開度は可変であり、エアコン制御装置32によって調整される。
【0046】
蒸発器28は、空調ユニットハウジング34内に配置され、空調ユニットハウジング34内には、ブロワファン36及びヒータコア(図示せず)も配置されている。また、空調ユニットハウジング34の入口には、内外気切換ダンパ38が配置され、空調ユニットハウジング34の出口には、吹出口切換ダンパ(図示せず)が配置されている。
蒸発器28を通過する冷媒は、ブロワファン36からの風によって加熱され、蒸発する。この一方で、ブロワファン36からの風は、蒸発器28によって冷却されて冷風になり、この冷風が車室10内に吹き出すことで、車室10が冷房される。
【0047】
また、冷凍サイクルシステム12は、種々の情報を検知するセンサ群として、外気温度センサ42、蒸発器出口空気温度センサ44、コンデンサファン電圧センサ45、蒸発器入口冷媒温度センサ46、及び、蒸発器出口冷媒温度センサ48を有する。これら外気温度センサ42、蒸発器出口空気温度センサ44、コンデンサファン電圧センサ45、蒸発器入口冷媒温度センサ46、及び、蒸発器出口冷媒温度センサ48は、それぞれエアコン制御装置32と電気的に接続されている。
【0048】
一方、車両全体の動作を制御する車両制御システムは、車両制御装置(エンジン制御装置)50を備え、車両制御装置50も、ECU等の電子回路によって構成することができる。車両制御装置50は、主に、車室10に配置されたアクセルペダル52、図示しないブレーキペダル、及び、シフトレバー等を介した乗員による入力に基づいて、エンジン29を適当に制御する。
【0049】
車両制御システムは、好ましくは、アクセル開度センサ54を備え、アクセル開度センサ54は、乗員によるアクセルペダル52の踏み込み量を検知する。
図5は、上述した容量制御弁のソレノイド254、エアコン制御装置32、車両制御装置50及びセンサ群の間における、信号の入出力を示している。
車両制御装置50には、アクセル開度センサ54によって検知された、アクセルペダル52の踏み込み量が入力される。そして、車両制御装置50は、アクセルペダル52の踏み込み量及びその変化に基づいて、エンジン29に供給される燃料の量(空燃比)及び点火時期等を適切に制御する。
【0050】
具体的には、車両制御装置50は、踏み込み量が増大方向に大きく変化したとき、乗員が加速を指示していると判断し、その指示の程度に応じて、燃料の量を増やすとともに点火時期を進角させる。逆に、踏み込み量が減少方向に大きく変化したとき、乗員が減速を指示していると判断し、その指示の程度に応じて、燃料の量を減らすとともに点火時期を遅角させる。
【0051】
一方、車両制御装置50は、車速及びエンジン29の回転速度の信号を出力し、これらの信号は、エアコン制御装置32に入力される。
また、エアコン制御装置32には、操作パネルを介して、車室10の設定温度等が入力されるとともに、外気温度センサ42、蒸発器出口空気温度センサ44、及び、コンデンサファン電圧センサ45によってそれぞれ検知された、外気温度、蒸発器出口空気温度、及び、コンデンサファン電圧が入力される。これらの入力された情報に基づいて、エアコン制御装置32は、容量制御弁のソレノイド254に供給される駆動電流の目標値を設定し、この目標値に実際の値が近付くように駆動電流を調整する。これにより、可変容量圧縮機100の吐出容量が所定の値に調整される。
【0052】
一方、エアコン制御装置32には、蒸発器入口冷媒温度センサ46、及び、蒸発器出口冷媒温度センサ48によってそれぞれ検知された蒸発器入口冷媒温度及び蒸発器出口冷媒温度が入力され、エアコン制御装置32は、これらの入力された情報に基づいて、蒸発器28の出口での冷媒の過熱度を検知する。そして通常、エアコン制御装置32は、検知した過熱度が所定の値になるように、膨張弁26の開度を調整する。所定の値は、予め決定することが可能であり、例えば冷凍サイクルの成績係数が最大になるように決定される。
【0053】
なお、膨張弁26の開度調整は、例えば、膨張弁26のソレノイドに供給される制御電流を調整することにより実施可能であり、例えば、制御電流のパルス幅を変調するPWM制御によって調整することができる。
更に、エアコン制御装置32にも、アクセル開度センサ54によって検知された、アクセルペダル52の踏み込み量が連続的若しくは間欠的に入力される。エアコン制御装置32は、入力されたアクセルペダル52の踏み込み量の変化に基づいて、エンジン29の回転速度の変化、換言すれば、圧縮機100の回転速度の変化を、それが実際に変化するよりも前に検知する。
【0054】
そして、予知した圧縮機100の回転速度の変化量(回転加速度)が、予め設定された閾値を超えたとき、エアコン制御装置32は、予知した圧縮機100の回転速度の変化が始まるよりも前に、回転速度の変化方向及び変化量に対応して、循環路14における冷媒の流量(循環量)が変化するように膨張弁26の開度を変更する。
具体的には、エアコン制御装置32は、圧縮機100の回転速度の変化量が上限閾値を超えて上昇すると予知したときには、循環量が少なくなるように膨張弁26の開度を縮小方向に変更し、エンジン29の回転速度の変化量が下限閾値を超えて下降すると予知したときには、循環量が増えるように膨張弁26の開度を増大方向に変更する。
【0055】
そして、エアコン制御装置32は、所定期間だけ膨張弁26の開度を変更した後、再び、入力された情報に基づいて演算された過熱度が所定の値になるよう膨張弁26の開度を調整する。
上述したエアコン制御装置32は、圧縮機100の回転速度の変化の予知、予知した結果と閾値との比較、並びに、比較結果に基づいた圧縮機100の回転速度変化前の膨張弁26の開度変更を行うようプログラムすることにより、構成することができる。
【0056】
かくして上述した車両用空調システムによれば、エンジン29の回転速度の変化が開始するよりも前に、膨張弁26の開度を変更することで、循環路14における作動流体の流量(循環量)が調整される。つまり、回転速度の増減に対応して冷媒の流量が適当に調整される。これにより、圧縮機100の駆動トルクのオーバーシュートが防止される。この結果として、車両用空調システムの動作が安定になり、車両のドライバビリティ、燃費及び車室10の快適性が向上する。
【0057】
また、上述した車両用空調システムによれば、膨張弁26の開度調整によって冷媒の循環量が変更されると、容量制御弁200の感圧器228が吸入圧力Psの変化を検知し、容量制御弁200の開度を変更する。この結果として、特にエアコン制御装置32が駆動電流を変更しなくても、圧縮機100の駆動トルクのオーバーシュートが的確に防止される。
【0058】
本発明は、上述した一実施形態に限定されることはなく、種々の変形が可能である。
例えば、一実施形態では、圧縮機100の回転速度の上昇及び下降が予知されたときに、膨張弁26の開度をそれぞれ減少及び増大させたが、少なくとも圧縮機100の回転速度の上昇が閾値を超えると予知された場合に、膨張弁26の開度を減少させればよい。また、構成を簡単にするために、膨張弁26の開度を減少させるときに、いつでも、0ではない最小の開度にしてもよい。
【0059】
一実施形態では、予知された圧縮機100の回転速度の変化の開始時期よりも前に膨張弁26の開度が変更されたけれども、好ましくは、開始時期から起算して容量制御弁200の応答時間τが経過するよりも前に、膨張弁26の開度が変更される。応答時間τとは、容量制御弁200に供給される駆動電流を変更してから圧縮機100の吐出容量が変化するまでに要する時間である。
【0060】
この好ましい態様によれば、予知された可変容量圧縮機100の回転速度の変化が閾値を超えたとき、可変容量圧縮機100の吐出容量が変更される前に、必ず膨張弁26の開度が調整される。すなわち、可変容量圧縮機100の吐出容量の制御に優先して、膨張弁26の開度が制御される。膨張弁26の開度を変更してから冷媒の循環量が変化するまでに要する時間は、容量制御弁200の応答時間τよりも短いため、膨張弁26の開度の制御を優先させることで、冷媒の循環量が時宜を得て的確に調整され、車両用空調システムの動作が一層安定になる。
【0061】
一実施形態では、アクセルペダル52の踏み込み量(アクセル開度)に基づいて、圧縮機100の回転速度の変化量を予知したけれども、アクセルペダル52の踏み込み量、踏み込み量の変化量、及び、踏み込み速度のうち1つ以上に基づいて、圧縮機100の回転速度の変化を予知してもよい。この場合、アクセル開度センサ54によって踏み込み量及び踏み込み速度を検知するようにすればよい。
【0062】
また、エンジン29又は圧縮機100の回転速度が変化するよりも前に、膨張弁26の開度を変更することが可能であれば、他の手段によって圧縮機100の回転速度の変化を予知してもよい。則ち、車両用空調システムは、圧縮機100の回転速度の予知手段(回路)を有していればよい。
【符号の説明】
【0063】
26 膨張弁
32 エアコン制御装置(容量制御手段、開度制御手段、回転速度変化予知手段)
100 可変容量圧縮機
200 容量制御弁
228 感圧器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた冷媒が循環する循環路に順次介挿された、可変容量圧縮機、放熱器、開度を外部から制御可能な膨張弁及び蒸発器と、
前記可変容量圧縮機の吐出容量を調整するための容量制御弁と、
前記容量制御弁に供給する駆動電流を調整して前記容量制御弁の開度を調整し、これにより前記可変容量圧縮機の吐出容量を制御する容量制御手段と、
前記膨張弁の開度を調整する開度制御手段と、
前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を予知する回転速度変化予知手段と
を備え、
前記可変容量圧縮機は、前記車両のエンジンの動力によって作動させられ、
前記開度制御手段は、前記回転速度変化予知手段によって予知された前記可変容量圧縮機の回転速度の変化が閾値を超えたとき、予知された前記可変容量圧縮機の回転速度の変化が始まるよりも前に、予知された回転速度の変化方向に対応して前記膨張弁の開度を変更する
ことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記容量制御手段が前記駆動電流を変更してから前記可変容量圧縮機の吐出容量が変化するまでに要する時間を応答時間としたとき、
前記開度制御手段は、前記閾値を超える前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を前記回転速度変化予知手段が予知したときから起算して前記応答時間が経過するまでの間に、前記膨張弁の開度を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記容量制御手段は、前記圧縮機に吸入される前記作動流体の吸入圧力の目標値に対応して定まる値に等しくなるよう、前記駆動電流を調整し、
前記容量制御弁は、前記吸入圧力を検知して、前記吸入圧力が前記目標値に近付くように前記容量制御弁の開度を調整する感圧器を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記回転速度変化予知手段は、車両のアクセル開度及びアクセル開度の変化量のうち少なくとも一方に基づいて、前記可変容量圧縮機の回転速度の変化を予知することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−163021(P2010−163021A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6434(P2009−6434)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】