説明

車両用空調装置

【課題】自動空調運転での暖房サイクル運転と冷房サイクル運転との遷移域における車室内温度の制御性の向上および冷凍サイクルの効率向上を図る車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車室内の空気調節を自動で行う車両用空調装置は、ヒートポンプ式冷凍サイクル20の運転、エアミックスドア8の作動およびPTCヒータ40の通電を制御する制御装置50を備える。制御装置50は、自動空調運転において、暖房サイクル運転に切り替わる前の冷房サイクル運転時および暖房サイクル運転から切り替わる冷房サイクル運転時にPTCヒータ40に通電し、空調ケース1内を流れる空気を加熱することにより車室内への吹出し風の温度調節を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内への送風空気を加熱する補助加熱手段とヒートポンプ式冷凍サイクルの運転とによって車室内の暖房を実施する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置の一例として、ヒートポンプ式冷凍サイクルによる暖房運転を補助し暖房性能を高める電気ヒータを備えた装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に記載のヒートポンプ式冷凍サイクルは、コンプレッサ11、メインコンデンサ12、サブコンデンサ13、膨張弁14および蒸発器15を順に環状に接続して構成されている。そして、特許文献1に記載の車両用空調装置では、外気導入モードが選択されているときに外気温度が所定の閾値より小さい場合には電気ヒータ27に通電してサブコンデンサ13の加熱不足分を補うようにし、一方、冷房時には蒸発器15で内気または外気を冷却するとともにサブコンデンサ13での加熱を抑制するようにしている。
【0003】
また、この従来の車両用空調装置において自動空調運転を行う場合、目標吹出し温度が高温であるマックスホット時には、冷凍サイクルの暖房サイクル運転において回転数制御あるいはON−OFF制御によってコンプレッサ11の回転数を制御したり、エアミックスドア26の開度制御を行ったりして所望温度の暖房を提供する。また、目標吹出し温度が低温である冷房時には冷房サイクル運転においてコンプレッサ11の容量制御、あるいはエアミックスドア26の開度制御を行うことで、所望温度の冷房を提供する。
【特許文献1】特開平8−268035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は、特許文献1のような従来の車両用空調装置において自動空調運転を行った場合の、冷媒の運転サイクルと吹出し温度との関係を示したチャートである。図5に示すように、暖房サイクル運転時の吹出し温度の最低値と冷房サイクル運転時の吹出し温度の最高値との間には温度差があり、吹出し温度が不連続となる領域が生じることになる。これは、暖房サイクル運転での吹出し温度の最低値が、コンプレッサ11の最低回転数またはON−OFF制御による吹出し温度を低下させる限界と、エアミックスドア26の制御によるコンプレッサ11の吐出圧力を低下させる限界とによって制限されるからである。
【0005】
したがって、暖房サイクル運転と冷房サイクル運転の遷移域で起こる上記温度域では吹出し温度を所望の温度に制御することができず、車室内温度の制御性が悪化し、乗員に対して不快感を与えるという問題があった。また、この暖房サイクル運転のI運転域(コンプレッサ11のON−OFF制御とエアミックスドア26の制御による運転)と冷房サイクル運転とでは、コンプレッサの吐出圧力に大きな差があり、冷凍サイクルの効率が悪化することになる。特に特許文献1に記載の膨張弁14が自在に冷媒圧力を調整できる機能を持たない機構であった場合(例えば固定絞り、定圧式膨張弁等)には、機構が簡単で低コストであるいった利点があるものの、上記問題点が顕著になる。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであり、自動空調運転での暖房サイクル運転と冷房サイクル運転との遷移域における車室内温度の制御性の向上および冷凍サイクルの効率向上を図る車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。すなわち第1の発明は、冷媒を吸入し吐出する圧縮機(21)、圧縮機(21)から吐出された冷媒が流入し暖房サイクル運転時には車室内へ送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(22)、暖房サイクル運転時に加熱用熱交換器(22)で冷却された冷媒を減圧する減圧装置(24)、暖房サイクル運転時に減圧装置(24)で減圧された冷媒を蒸発させて吸熱し、冷房サイクル運転時に放熱する室外熱交換器(25)、および除湿を行う暖房サイクル運転時と前記冷房サイクル運転時に内部を流れる冷媒の吸熱作用によって車室内への前記送風空気を冷却する冷却用熱交換器(30)を有するヒートポンプ式冷凍サイクル(20)と、一方側に空気取入口(3,4)が形成され、他方側に、送風空気が車室内に向けて通過する吹出し開口(11,12)が形成され、空気取入口(3,4)と吹出し開口(11,12)との間に送風空気が通過する通風路(6,7)を有する空調ケース(1)と、空気取入口(3,4)から取り入れた送風空気を、加熱用熱交換器(22)を通過する空気と加熱用熱交換器(22)を通らない空気とに分けてその風量比率を調整する風量比率調整手段(8)と、空調ケース(1)の内部に設けられ通電されることにより発熱して送風空気を加熱する電気式補助加熱手段(40)と、ヒートポンプ式冷凍サイクル(20)の運転、風量比率調整手段(8)の作動、および電気式補助加熱手段(40)の通電を制御する制御装置(50)と、を備えて、車室内の空気調節を自動で行う車両用空調装置に係る発明である。
【0008】
そして、当該制御装置(50)は、自動空調運転において、暖房サイクル運転に切り替わる前の冷房サイクル運転時および暖房サイクル運転から切り替わる冷房サイクル運転時に、電気式補助加熱手段(40)に通電することにより送風空気を加熱する。
【0009】
この発明によれば、冷房サイクル運転における最大吹出し温度を電気式補助加熱手段(40)に通電することにより上昇させるので、冷房サイクル運転における吹出し温度制御可能範囲を拡大することが可能となり、暖房サイクル運転での吹出し温度制御可能範囲との間の制御不能範囲を低減することができる。したがって、暖房サイクル運転と冷房サイクル運転との遷移域における車室内温度の制御性の向上および冷凍サイクルの効率向上を図ることができる。
【0010】
また、制御装置(50)は、演算により算出した目標吹出し温度が、空調ケース(1)内に吸い込まれる空気の温度(T1)より高く、閾温度(T2)より低い場合には、ヒートポンプ式冷凍サイクル(20)を冷房サイクルで運転するとともに、電気式補助加熱手段(40)に通電することが好ましい。
【0011】
冷房サイクル運転時は室外熱交換器に流れる外気の温度によって圧縮機の吐出圧力が決まるため、加熱用熱交換器の吹出し温度は外気温度程度までしか上昇しない。本発明では、空調ケース内に吸い込まれる空気が外気である場合でも、冷房サイクル運転において電気式補助加熱手段に通電することによって吹出し空気を加熱して吹出し温度を上昇させ、吹出し温度の不連続性を解消することができる。これによって暖房サイクル運転の最低吹出し温度が外気温度よりも高い状況でも冷房サイクル運転と暖房サイクル運転との遷移域で連続的な吹出し温度の制御を実現することができる。
【0012】
また、制御装置(50)は、暖房サイクル運転において圧縮機(21)をON−OFF制御し、さらに風量比率調整手段(8)を制御することによって圧縮機(21)の回転数を最も小さくしたときに得られた吹出し温度を求め、このようにして求めた吹出し温度を上記閾温度(T2)として採用することが好ましい。
【0013】
暖房サイクル運転で低下させることのできる吹出し温度の限界点は冷凍サイクルの構成、仕様にかかわってくるが、本発明によれば、これをより正確に求めることができるので、制御不能範囲をなくすようにすることができる。したがって、電気式補助加熱手段への通電タイミングの精度向上、車室内温度の制御性向上、およびスムーズな吹出し温度の制御を実現できる。
【0014】
また、電気式補助加熱手段(40)は加熱用熱交換器(22)よりも送風空気の下流側に配置され、制御装置(50)は、電気式補助加熱手段(40)を通過する前の空気温度と、電気式補助加熱手段(40)による発熱量とによって閾温度(T2)を算出することが好ましい。この発明によれば、制御困難な吹出し温度状態をより確実に検出することができる。
【0015】
また、上記減圧装置(24)は固定式の膨張弁であることが好ましい。これによれば、コスト的に安価な冷凍サイクルであっても、冷房サイクル運転と暖房サイクル運転との遷移域で制御不能な温度範囲をなくすようにでき、サイクルの効率面および車室温度の制御性に優れた冷凍サイクルを提供することができる。
【0016】
なお、上記各技術的手段や特許請求の範囲の各請求項における括弧内の符号は、後述する実施形態の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態である第1実施形態について図1から図4にしたがって説明する。図1は本実施形態に係る車両用空調装置の構成を示した概略図である。図2は、車両用空調装置における制御構成を示したブロック図である。図1において、黒塗り太矢印は暖房サイクル運転時の冷凍サイクル内の冷媒流れを示しており、斜線太矢印は除湿サイクル運転時の冷凍サイクル内の冷媒流れを示しており、白抜き太矢印は冷房サイクル運転時の冷凍サイクル内の冷媒流れを示している。
【0019】
本実施形態の車両用空調装置は、ヒートポンプ式冷凍サイクル20および電気式補助加熱手段であるPTCヒータ40を備え、図1に示す構成部品を用いて空調運転を行うものであり、例えばハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池車等に使用することができる。電気式補助加熱手段は、入力(通電量)に対して入力分と同程度の出力(発熱量)が得られるエネルギー損失の少ない機器を選択することが好ましく、本実施形態ではその一例としてPTCヒータ40を採用する。
【0020】
内部に空気の通風路を備える空調ケース1は、車室内前方のインストルメントパネルの裏側に設けられている。空調ケース1には一方側に空気取入口である外気吸入口3および内気吸入口4が形成され、他方側に車室内に吹き出される空気調節された空気(以下、空調空気とする)が通過するフット吹出し開口11、フェイス吹出し開口12、デフ吹出し開口(図示せず)が少なくとも形成されている。
【0021】
フット吹出し開口11は車室内の乗員の足元に吹き出される空調空気が通過する開口であり、フェイス吹出し開口12は車室内の乗員の上半身に向かって吹き出される空調空気が通過する開口であり、デフ吹出し開口は車両のフロントガラスの内面に吹き出される空調空気が通過する開口である。これらの各開口は、それぞれ吹出しダクト(図示せず)を介して車室内空間に接続されており、吹出し開口切替えドア(図示せず)によって吹出しモードに対応して開閉される。外気吸入口3と内気吸入口4は内外気切替えドア10により、空気取入れモードに対応してその開放、閉鎖が切替え自在に行われる。
【0022】
空調ケース1は、一方側に、内外気切替えドア10を備える内外気切替箱と、その吸込部が外気吸入口3と内気吸入口4に接続されている送風機5とを備えている。例えば、冬季等の暖房時には、外気取入れモードを行うことにより外気吸入口3から湿度の低い外気を導入し、通風路を通して空調してフロントガラスの内面に吹き出すことにより防曇効果を高めることができる。また、内気モードを行うことにより内気吸入口4から温度の高い内気を導入し、通風路を通して空調し乗員の足元に向けて吹き出すことにより暖房負荷を軽減することができる。
【0023】
送風機5は遠心多翼ファン(例えばシロッコファン)とこれを駆動するモータとからなり、遠心多翼ファンの周囲はスクロールケーシングで囲まれている。また、空調ケース1は複数のケース部材からなり、その材質は例えばポリプロピレン等の樹脂成形品である。
【0024】
送風機5の吹出口は、遠心多翼ファンの遠心方向に延びるように設けられた通風路に接続されている。この通風路は、送風空気の上流側から順に、冷却用熱交換器である蒸発器30が横断する通路と、蒸発器30の送風空気下流側からフット吹出し開口11に向かって延びるフット吹出し側通路6および蒸発器30の送風空気下流側からフェイス吹出し開口12に向かって延びるフェイス吹出し側通路7と、フット吹出し側通路6とフェイス吹出し側通路7とを流れてきた空気が混合される空気混合部と、からなっている。フット吹出し側通路6とフェイス吹出し側通路7は、空調ケース1内に設けられた仕切り壁13によって区画され、空調ケース1内部の横断方向に並ぶように配されている。
【0025】
送風機5よりも送風空気の下流側における空調ケース1内の通風路には、上流側から下流側に進むにしたがい順に、蒸発器30、ヒータコア9、凝縮器22(加熱用熱交換器)、PTCヒータ40(電気式補助加熱手段)が配置されている。
【0026】
蒸発器30は送風機5直後の通路全体を横断するように配置されており、送風機5から吹き出された空気全部が通過するようになっている。蒸発器30は冷房運転時や除湿運転時において内部を流れる冷媒の吸熱作用によって、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7に流入する手前の送風空気を除湿したり冷却したりする冷却用熱交換器として機能する。蒸発器30の空気が通過する入口部(蒸発器30の上流側部位)には、空調ケース1内に吸い込まれた空気の温度(例えば外気温度、内気温度等)を検出する蒸発器前温度センサ14が設けられている。蒸発器前温度センサ14によって検出された信号は制御装置50に入力される。
【0027】
ヒータコア9は少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置するように蒸発器30よりも送風空気の下流側に配置されている。ヒータコア9は暖房サイクル運転時において、内部を流れる車両走行用エンジンの冷却水の熱を利用して周囲の空気を加熱する熱交換器として機能する。
【0028】
凝縮器22は、少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置して配置されており、ヒータコア9よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。凝縮器22は暖房サイクル運転時、除湿サイクル運転時および冷房サイクル運転時において内部を流れる冷媒の放熱作用によってフット吹出し側通路6を流れる送風空気を加熱する加熱用熱交換器として機能する。
【0029】
PTCヒータ40は、少なくともその伝熱部分がフット吹出し側通路6のみに位置して配置されており、凝縮器22よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。PTCヒータ40は暖房サイクル運転や冷房サイクル運転においてフット吹出し側通路6を流れる送風空気を加熱する補助的な加熱手段である。PTCヒータ40は、通電発熱素子部を備え、通電発熱素子部に通電されることによって発熱し、周囲の空気を暖めることができる。
【0030】
この通電発熱素子部は、耐熱性を有する樹脂材料(例えば、66ナイロンやポリブタジエンテレフタレートなど)で成形された樹脂枠の中に複数個のPTC素子を嵌め込むことにより構成したものである。また、PTCヒータ40は、さらに通電発熱素子部からの発熱を伝達する熱交換フィン部を有してもよい。この熱交換フィン部は、アルミニウムの薄板を波形状に成形したコルゲートフィンと、このコルゲートフィンを一定の形状に保つとともにPTC素子や電極板との接触面積を確保するアルミニウムプレートと、をろう付け接合することにより構成したものである。
【0031】
PTCヒータ40よりも下流側のフット吹出し側通路6には、つまり、空気混合部に流入する手前のフット吹出し側通路6にはこの通路から流出する空気の温度を検出する通路出口温度センサ15が設けられている。通路出口温度センサ15によって検出された信号は制御装置50に入力される。
【0032】
蒸発器30よりも下流側であってヒータコア9や凝縮器22よりも上流側の通風路には、蒸発器30を通過した空気を、凝縮器22を通る空気と凝縮器22を迂回する空気とに分けたり、切り替えたりして、これらの空気の風量比率を調整できるエアミックスドア8が設けられている。
【0033】
エアミックスドア8は、アクチュエータ等によりそのドア本体位置を変化させることで、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7のそれぞれの一部または全部を塞ぐことができる。そして、エアミックスドア8によるフット吹出し側通路6の開度は、フット吹出し側通路6の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。また、エアミックスドア8によるフェイス吹出し側通路7の開度は、フェイス吹出し側通路7の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。
【0034】
ヒートポンプ式冷凍サイクル20は、冷凍サイクル内を流れる冷媒(例えば、R134a、CO等)の状態変化を利用することにより、冷房用の蒸発器30と暖房用の凝縮器22によって冷房、暖房および除湿を行うことができる。
【0035】
ヒートポンプ式冷凍サイクル20の構成部品は、図1に示すように冷媒を吸入して吐出する圧縮機21と、暖房サイクル運転時に圧縮機21から吐出された冷媒と空気とを熱交換させて空気を加熱する凝縮器22と、暖房サイクル運転時に凝縮器22から流入した冷媒を減圧する減圧装置としての膨張弁24と、暖房サイクル運転時に膨張弁24で減圧された冷媒を蒸発させる室外熱交換器25と、室外熱交換器25から圧縮機21への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁26と、冷媒を気液分離するアキュムレータ27と、であり、これらを配管により環状に接続することによりサイクルが形成されている(暖房サイクル運転経路(圧縮機21→凝縮器22→三方弁23→膨張弁24→分岐部32→室外熱交換器25→電磁弁26→アキュムレータ27→圧縮機21))。
【0036】
さらにヒートポンプ式冷凍サイクル20には、除湿サイクル運転経路(膨張弁24→分岐部32→分岐部34→電磁弁31→蒸発器30→アキュムレータ27→圧縮機21)が各構成部品を配管により環状に接続することによって形成されている。この除湿サイクル運転経路は、除湿サイクル運転時に膨張弁24で減圧された冷媒が室外熱交換器25に流入しないで蒸発器30に流入した後、アキュムレータ27を経由して圧縮機21に吸入される経路である。また、凝縮器22の下流側に接続された配管の途中には、三方弁23が設けられている。
【0037】
さらに、ヒートポンプ式冷凍サイクル20には、冷房サイクル運転経路(凝縮器22→三方弁23→分岐部33→室外熱交換器25→分岐部32→分岐部33→電磁弁28→膨張弁29→蒸発器30→アキュムレータ27→圧縮機21)が各構成部品を配管により環状に接続することによって形成されている。冷房サイクル運転経路は、三方弁23を分岐部33側の流路に切り替えることによって、冷房サイクル運転時に凝縮器22で送風空気と熱交換して冷却された冷媒が膨張弁24を通らないで分岐部33を通って室外熱交換器25に流入し、電磁弁28によって開放された流路を通り膨張弁29で減圧された後、蒸発器30に流入し、アキュムレータ27を経由して圧縮機21に吸入される経路である。
【0038】
室外熱交換器25は車両の車室外に配置されており、室外ファンにより強制的に送風される外気と冷媒とを熱交換する。膨張弁24および膨張弁29は固定絞り等の固定式膨張弁(例えばキャピラリチューブ)、定圧式膨張弁、機械式膨張弁等で構成される。機械式の場合は感温筒を備え、室外熱交換器25出口や蒸発器30出口の冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつように出口冷媒温度をフィードバックし適切な弁開度によって冷媒流量を制御する温度作動方式を採用する。固定式膨張弁を採用した場合には、凝縮器22の出口に固定絞りが直接接続され、凝縮器22の出口冷媒を固定絞りで直接減圧、膨張させるアキュムレータサイクルが構成されることになる。そして、この減圧後の低圧冷媒を蒸発器30で吸熱して蒸発させ、この蒸発器30を通過した冷媒をアキュムレータ27に流入させ、このアキュムレータ27で蒸発器30の出口冷媒の気液を分離し、アキュムレータ27内のガス冷媒を圧縮機21に吸入させることができる。
【0039】
圧縮機21は、回転数制御およびON−OFF制御が可能である。圧縮機21はインバータにより周波数が調整された交流電圧が印加されてそのモータの回転速度が制御される。インバータは車載バッテリから直流電源の供給を受け、制御装置50により制御されている。圧縮機21は冷媒の圧縮容量を可変できる可変容量式の圧縮機でもある。圧縮機21には、吐出容量を変化させる容量制御機構である容量制御弁が設けられている。容量制御弁は、電磁駆動式の弁であり、例えば、デューディ制御により冷媒の供給通路を繰り返して開閉することができる開閉弁である。容量制御弁は、制御装置50により容量制御信号としてON−OFFの二値からなるデューティ信号形式の電流が供給されることにより、その開弁時間が制御される。
【0040】
制御装置50からの容量制御信号により、容量制御弁が作動し、圧縮機21のケース内の制御圧力Pcが変化する。この制御圧力Pcが変化すると、ピストン等のストロークが変化して圧縮機21の容量が変化することになる。
【0041】
デューティ信号は、短時間毎にON、OFFを繰り返すパルス状波形の電流の信号である。信号のON、OFFは、容量制御弁の開弁、閉弁に対応する。圧縮機21の容量は、容量制御弁の開弁させたときは減少し、閉弁させたときは増加する。つまり容量を小さくする必要があるときは開弁時間を長くする信号を送り制御圧力Pcを上昇させ、容量を大きくする必要があるときは開弁時間を短くする信号を送りPcを低下させる。このようにパルス信号のデューティ比を変化させることにより、圧縮機21の容量を無段階に変化させて自由に制御することができる。
【0042】
制御装置50は、車室内の空調を制御する装置であり、マイクロコンピュータと、車室内前面に設けられた操作パネル51上の各種スイッチからの信号や、蒸発器前温度センサ14、通路出口温度センサ15、外気温センサ、蒸発器温度センサ、吐出圧センサ、室外熱交換器25の出口の冷媒温度センサ等からセンサ信号が入力される入力回路と、各種アクチュエータに出力信号を送る出力回路と、を備えている。マイクロコンピュータは、ROM(読み込み専用記憶装置)、RAM(読み込み書き込み可能記憶装置)等のメモリおよびCPU(中央演算装置)等から構成されており、操作パネル51等から送信された運転命令に基づいた演算に使用される各種プログラムを有している。
【0043】
制御装置50は、エアコン環境情報、エアコン運転条件情報、および車両環境情報を受信してこれらを演算し、圧縮機21の設定すべき容量を算出する。そして、制御装置50はエアコン制御のアンプでもあり、容量に適合するデューティ信号の容量制御信号を電流として容量制御弁に出力し、圧縮機21の容量を制御する。
【0044】
乗員が操作パネル51を操作して空調装置の運転・停止および設定温度などの操作信号などが制御装置50に入力され、各種センサの検出信号が入力されると、それに応じて圧縮機21、送風機5、PTCヒータ40、電磁弁26,28,31等の各機器の運転が制御装置50によって制御される。
【0045】
次に、上記構成に係る車両空調装置の各運転モード(冷房、暖房、除湿)の作動を説明する。操作パネル51のエアコンスイッチがON状態のとき、制御装置は圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべき運転モードを冷房運転と判定すると、三方弁23の流通方向を分岐部33側(図1の破線)、電磁弁28を開状態、電磁弁26および電磁弁31を閉状態に制御する。さらに制御装置50は、冷房運転であるので吹出しモードがフェイス吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0046】
冷房サイクル運転時の冷媒の流れは図1に白抜き太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の空気に熱を奪われて冷却されるが、吹出しモードがフェイス吹出しであるため凝縮器22の周囲を通過する送風量は少なく冷却度合いは大きくない。そして冷媒は、三方弁23によって分岐部33を通過して室外熱交換器25に流入し、室外熱交換器25内を通るときに室外ファンにより送風された空気に熱を奪われて冷却され霧状冷媒となる。
【0047】
その後、霧状冷媒は電磁弁28を通った後、膨張弁29で減圧されて蒸発器30に流入し、送風機5によって空調ケース1内の通風路を流れる送風空気から吸熱して蒸発器30内で蒸発し、冷媒はアキュムレータ27で気液分離された後、圧縮機21に吸入される。蒸発器30で吸熱され冷却された冷風はさらに通風路を進んで主にフェイス吹出し開口12から乗員の上半身に向けて吹き出されて車室内を冷房する。
【0048】
次に、暖房サイクル運転が行われた場合の冷媒の流れを説明する。制御装置50は操作パネル51のエアコンスイッチがON状態のとき、圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべきモードを暖房サイクル運転と判定すると、三方弁23の流通方向を膨張弁24側、電磁弁26を開状態、電磁弁28および電磁弁31を閉状態に制御する。さらに制御装置50は、暖房運転時であるので吹出しモードが設定温度に応じてフット吹出し、またはデフ吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0049】
暖房サイクル運転時の冷媒の流れは図1に黒塗り太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の送風空気に熱を奪われて冷却され凝縮される。そして冷媒は、膨張弁24に流入し、膨張弁24によって室外熱交換器25出口で冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつような冷媒圧力に減圧され、また膨張弁24が固定絞り弁である場合は所定の低圧に減圧される。このように膨張弁24によって低圧に減圧された冷媒は分岐部32を通過して室外熱交換器25に流入し、室外熱交換器25内を通るときに室外ファンにより送風された空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器25で蒸発したガス冷媒は分岐部33を経由して電磁弁26を通りアキュムレータ27で気液分離された後、圧縮機21に吸入される。
【0050】
暖房サイクル運転時に空調ケース1内に取り込まれた低温の空気(例えば冬期の外気)は、蒸発器30を通過した後、エアミックスドア8によって主にフット吹出し側通路6を流れ、凝縮器22によって加熱され温風となる。そして、暖房時にデフ吹出しモードが行われる場合は、この温風は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向けて吹き出される。また、暖房時にフット吹出しモードが行われる場合は、この温風は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたフット吹出し開口11を通って乗員の足元に向けて吹き出される。
【0051】
また、暖房サイクル運転時のバイレベルモードが行われる場合は、空調ケース1内に取り込まれた低温の空気はエアミックスドア8によって、フット吹出し側通路6およびフェイス吹出し側通路7のそれぞれを流れる空気に適切な風量比率で分けられることになる。そして、フット吹出し側通路6を流れる低温の空気は、凝縮器22によって加熱された温風になった後、さらにPTCヒータ40によって加熱されて温度上昇し、空気混合部でフェイス吹出し側通路7を流れてきた低温の空気と混ざり合って温度調節され、フット吹出し開口11を通って乗員の足元に向けて吹き出される。他方、フェイス吹出し側通路7を流れる低温の空気は、凝縮器22等の加熱手段を通らないため加熱されることなく、低温のまま空気混合部でフット吹出し側通路6で加熱されてきた温風と混ざり合って温度調節され、フェイス吹出し開口12を通って乗員の上半身に向けて吹き出される。このようにして、乗員の上半身と足元とに適切な温度差(例えば10〜15℃)のある空気が吹き出されるので、乗員に対し頭寒足熱(足元が暖かく、頭部付近が涼しい)の空調を提供することができる。なお、目標とする空気温度が高い場合には、ヒータコア9による加熱を積極的に実施するとよい。
【0052】
次に、除湿サイクル運転が行われた場合の冷媒の流れを説明する。制御装置50は操作パネル51のエアコンスイッチがON状態のとき、圧縮機21を起動し、そして乗員が設定した温度と各種センサから受信した信号とから運転すべきモードを除湿運転と判定すると、三方弁23の流通方向を膨張弁24側、電磁弁31を開状態、電磁弁26および電磁弁28を閉状態に制御する。さらに制御装置50は、除湿運転時であるので主にデフ吹出しまたはフット吹出しやリアフット吹出しとなるように吹出し開口切替えドアを制御する。
【0053】
除湿サイクル運転では蒸発器30および凝縮器22に冷媒が流れ、空調ケース1内の送風空気はまず蒸発器30で冷却、除湿され、その後に凝縮器22で加熱されて温風となる。この温風は主にデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向かって吹き出され、防曇効果を発揮するとともに車室内を除湿暖房する。
【0054】
除湿サイクル運転時の冷媒の流れは図1に斜線の太矢印で示した流れであり、圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器22に流入し凝縮器22内を通るときに周囲の送風空気に熱を奪われて冷却され凝縮される。そして冷媒は膨張弁24で減圧され、膨張弁24の出口で冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつような冷媒圧力に減圧され、その後、室外熱交換器25に流入しないで分岐部32,34を通過して蒸発器30に流入する。蒸発器30内部では、送風機5によって空調ケース1内の通風路を流れる送風空気から吸熱して蒸発し、アキュムレータ27で気液分離されてから圧縮機21に吸入される。
【0055】
蒸発器30で吸熱されて冷却、除湿された空気は、さらに通風路を進んで凝縮器22によって加熱される。この空気は凝縮器22を通過した後、吹出し開口切替えドアによって開放されたデフ吹出し開口を通ってフロントウィンドウの内面に向けて吹き出される。
【0056】
次に、自動空調運転について、図3および図4にしたがって説明する。図3は、自動空調運転における運転サイクルと吹出し温度との関係を示したチャートである。図4は自動空調運転の流れを示したフローチャートである。まず、操作パネル51等の操作により制御装置50に自動空調運転命令が入力されると、空調制御処理が開始され、制御装置50はROM,RAMなどのメモリに記憶された制御プログラムをスタートさせてRAMに記憶されるデータなどを初期化する。
【0057】
そして制御装置50は、操作パネル51、各種センサからの信号を読み込み、ROMに記憶されたプログラムを用いて車室内に吹き出す空気の目標吹出し温度TAOを演算するとともに、送風機5のブロワレベル(送風空気の風量)を演算する(ステップ1)。
【0058】
次に制御装置50は、ステップ1で演算した目標吹出し温度TAOが空調ケース1内に吸い込まれる空気の温度T1以下であるか否かを判定する(ステップ2)。このT1は、蒸発器前温度センサ14によって検出される温度である。外気モードのときは外気が外気吸入口3から吸い込まれるため、T1は外気温度である。内気モードのときは内気が内気吸入口4から吸い込まれるため、T1は車室内の空気温度である。目標吹出し温度TAOがT1以下であると判定された場合には、制御装置50は、前述の冷房サイクル運転を開始するとともに、ステップ1で算出した目標吹出し温度TAOを満たすように圧縮機21の容量制御、エアミックスドア8の開度制御、およびその他の各部の制御を実施する(ステップ3)。このステップ3での運転は、図3に示す冷房サイクル運転での運転域Iに相当する。
【0059】
逆に、目標吹出し温度TAOがT1より高いと判定された場合には、制御装置50は、さらに目標吹出し温度TAOが閾温度T2以下であるか否かを判定する(ステップ4)。閾温度T2は、T1よりも大きな値であって、暖房サイクル運転で制御可能な最低吹出し温度であり、あらかじめ制御装置50に記憶されている。また、T2は、暖房サイクル運転において圧縮機21をON−OFF制御するとともに、エアミックスドア8の開度を制御することによって圧縮機21の回転数を最も小さくしたときに得られる吹出し温度でもあり、制御装置50はこの吹出し温度を算出して求め、閾温度T2に採用して記憶し、ステップ4での判定に用いる。
【0060】
そして、目標吹出し温度TAOが閾温度T2より高いと判定された場合には、制御装置50は、前述の暖房サイクル運転を開始するとともに、ステップ1で算出した目標吹出し温度TAOに応じて、その他の各部の制御に加え、圧縮機21のON−OFF制御およびエアミックスドア8の開度制御(図3に示す暖房サイクル運転の運転域Iに相当)、圧縮機21のON−OFF制御(図3に示す暖房サイクル運転の運転域IIに相当)、圧縮機21の回転数制御(図3に示す暖房サイクル運転の運転域IIIに相当)のいずれかを実施する(ステップ5)。
【0061】
逆に、目標吹出し温度TAOが閾温度T2以下であると判定された場合には、制御装置50は、前述の冷房サイクル運転を開始するとともに、ステップ1で算出した目標吹出し温度TAOを満たすために、圧縮機21の容量制御、エアミックスドア8の開度制御、およびその他の各部の制御に加え、PTCヒータ40に通電することにより車室内への送風空気を加熱する(ステップ6、図3に示す冷房サイクル運転の運転域IIに相当)。
【0062】
ステップ6で実施する冷房サイクル運転の運転域IIは、従来装置の暖房サイクル運転では下げることができず冷房サイクル運転では上げることのできない吹出し温度を制御することができる運転域となる。言い換えれば、暖房サイクル運転時は吹出し温度を圧縮機の回転数によって制御しているが、圧縮機の最低回転数には制限があるため吹出し温度の下限には限界がある。一方、冷房サイクル運転での凝縮器22によるリヒートでは外気温度が低い場合等には凝縮器22での冷媒圧力が上がらず吹出し温度の上限には限界がある。このような状況が図3の冷房サイクル運転の運転域IIである。
【0063】
この運転域IIは、暖房サイクル運転に切り替わる前の冷房サイクル運転時や暖房サイクル運転から切り替わる冷房サイクル運転時でもあり、この制御困難な吹出し温度域で上記ステップ6の処理を実行することにより、吹出し温度を連続的に可変制御できるようになり、車室内温度の制御性について特有の効果が得られる。また、上記ステップ6の処理は、図3に示すように冷房サイクル運転の運転域IIにおける圧縮機21の吐出圧力を抑制することになるので、冷凍サイクルの効率が良化し有効である。
【0064】
また、T2として上記のような閾温度を用いてもよいし、通路出口温度センサ15によって検出された実測温度を用いてもよい。すなわち、制御装置50は、ステップ4において、ステップ1で演算した目標吹出し温度TAOが通路出口温度センサ15の検出温度以下であるか否かを判定し、判定結果によって上記の各処理を実行する。またT2として、PTCヒータ40を通過する前の空気温度と、PTCヒータ40による発熱量とによって閾温度T2を算出してもよい。この場合のT2は、PTCヒータ40を通過する前の空気温度に、PTCヒータ40による発熱量から算出した空気の温度上昇分を加えて算出される温度である。これによれば、制御不能な吹出し温度範囲をより確実に検出することができる。
【0065】
本実施形態の車両用空調装置の制御装置50は、自動空調運転において、暖房サイクル運転に切り替わる前の冷房サイクル運転時および暖房サイクル運転から切り替わる冷房サイクル運転時にPTCヒータ40に通電し、空調ケース1内を流れる空気を加熱することにより車室内への吹出し風の温度調節を行う。
【0066】
これにより、冷房サイクル運転における最大吹出し温度をPTCヒータ40に通電することにより上昇させるので、冷房サイクル運転における吹出し温度の制御可能範囲を拡大することが可能となり、暖房サイクル運転での吹出し温度の制御可能範囲との間の制御不能範囲をなくして車室内温度の制御性を優れたものにすることができる。また、暖房サイクル運転と冷房サイクル運転との遷移域における冷凍サイクルの効率の向上も図れる。
【0067】
また、制御装置50は、演算により算出した目標吹出し温度が、蒸発器30の吸込み空気の温度T1より高く、閾温度T2より低い場合には、冷房サイクル運転を実施するとともに、PTCヒータ40に通電する。これによれば、空調ケース1内に吸い込まれる空気が外気である場合でも、冷房サイクル運転とPTCヒータ40の作動によって吹出し空気を加熱して吹出し温度を上昇させ、吹出し温度を制御可能にすることができる。
【0068】
また、制御装置50は、暖房サイクル運転において圧縮機21をON−OFF制御し、さらにエアミックスドア8の開度を制御することによって圧縮機21の回転数を最も小さくしたときに得られた吹出し温度を求め、このようにして求めた吹出し温度を上記閾温度T2として採用してもよい。これによれば、制御不能な吹出し温度の範囲をより正確に求めることができる。
【0069】
また、制御装置50は、ステップ4において、ステップ1で演算した目標吹出し温度TAOが通路出口温度センサ15の検出温度以下であるか否かを判定するようにしてもよい。これにより、制御困難な吹出し温度状態をより確実に検出することができる。
【0070】
また、膨張弁24を固定式の膨張弁で構成することにより、コスト的に安価な冷凍サイクルであっても、冷房サイクル運転と暖房サイクル運転との遷移域で制御不能な温度範囲をなくして、サイクルの効率面および車室温度の制御性に優れた冷凍サイクルが得られる。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態において電気式補助加熱手段としてPTCヒータ40を採用しているが、これに限定するものではない。電気式補助加熱手段は、通電されることにより、発熱体等から発熱して周囲の空気や物体を加熱できれば他の装置でもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、PTCヒータ40を凝縮器22よりも送風空気の下流側に配置しているが、凝縮器22よりも送風空気の上流側に配置するようにしても、暖房サイクル運転との遷移域にあたる冷房サイクル運転時において吹出し温度を上昇させる効果を奏することに変わりはない。
【0074】
また、上記実施形態の空調ケース1には、他方側にフット吹出し開口11、フェイス吹出し開口12およびデフ吹出し開口が形成されているが、この他、リアフット吹出し開口等が形成されてもよい。リアフット吹出し開口は車室内の後席乗員の足元に吹き出される空調空気が通過する。空調ケース1に形成されたこれらの各開口は、それぞれ吹出しダクトを介して車室内空間に接続されており、また吹き出しモードに対応して吹出し開口切換ドア(図示せず)によって開閉されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の構成を示した概略図である。
【図2】同車両用空調装置における制御構成を示したブロック図である。
【図3】同車両用空調装置の自動空調運転における、運転サイクルと吹出し温度との関係を示したチャートである。
【図4】同車両用空調装置の自動空調運転の流れを示したフローチャートである。
【図5】従来の車両用空調装置の自動空調運転における、運転サイクルと吹出し温度との関係を示したチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1…空調ケース
3…外気吸入口(空気取入口)
4…内気吸入口(空気取入口)
6…フット吹出し側通路(通風路)
7…フェイス吹出し側通路(通風路)
8…エアミックスドア(風量比率調整手段)
11…フット吹出し開口(吹出し開口)
12…フェイス吹出し開口(吹出し開口)
20…ヒートポンプ式冷凍サイクル
21…圧縮機
22…凝縮器(加熱用熱交換器)
24…膨張弁(減圧装置)
25…室外熱交換器
30…蒸発器(冷却用熱交換器)
40…PTCヒータ(電気式補助加熱手段)
50…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入し吐出する圧縮機(21)、前記圧縮機(21)から吐出された冷媒が流入し暖房サイクル運転時には車室内へ送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(22)、前記暖房サイクル運転時に前記加熱用熱交換器(22)で冷却された冷媒を減圧する減圧装置(24)、前記暖房サイクル運転時に前記減圧装置(24)で減圧された冷媒を蒸発させて吸熱し、冷房サイクル運転時に放熱する室外熱交換器(25)、および除湿を行う暖房サイクル運転時と前記冷房サイクル運転時に内部を流れる冷媒の吸熱作用によって車室内への前記送風空気を冷却する冷却用熱交換器(30)を有するヒートポンプ式冷凍サイクル(20)と、
一方側に空気取入口(3,4)が形成され、他方側に、前記送風空気が前記車室内に向けて通過する吹出し開口(11,12)が形成され、前記空気取入口(3,4)と前記吹出し開口(11,12)との間に前記送風空気が通過する通風路(6,7)を有する空調ケース(1)と、
前記空気取入口(3,4)から取り入れた前記送風空気を、前記加熱用熱交換器(22)を通過する空気と前記加熱用熱交換器(22)を通らない空気とに分けてその風量比率を調整する風量比率調整手段(8)と、
前記空調ケース(1)の内部に設けられ通電されることにより発熱して前記送風空気を加熱する電気式補助加熱手段(40)と、
前記ヒートポンプ式冷凍サイクル(20)の運転、前記風量比率調整手段(8)の作動、および前記電気式補助加熱手段(40)の通電を制御する制御装置(50)と、
を備えて、前記車室内の空気調節を自動で行う車両用空調装置であって、
前記制御装置(50)は、自動空調運転において、前記暖房サイクル運転に切り替わる前の冷房サイクル運転時および前記暖房サイクル運転から切り替わる冷房サイクル運転時に、前記電気式補助加熱手段(40)に通電することにより前記送風空気を加熱することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置(50)は、目標吹出し温度を演算して算出し、
前記演算された目標吹出し温度が、前記空調ケース(1)内に吸い込まれる空気の温度(T1)より高く、閾温度(T2)より低い場合には、前記ヒートポンプ式冷凍サイクル(20)を冷房サイクルで運転するとともに、前記電気式補助加熱手段(40)に通電することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御装置(50)は、前記暖房サイクル運転において前記圧縮機(21)をON−OFF制御し、前記風量比率調整手段(8)を制御することによって前記圧縮機(21)の回転数を最も小さくしたときに得られる吹出し温度を求め、前記求めた吹出し温度を前記閾温度(T2)として採用することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記電気式補助加熱手段(40)は前記加熱用熱交換器(22)よりも送風空気の下流側に配置され、
前記制御装置(50)は、前記電気式補助加熱手段(40)を通過する前の空気温度と、前記電気式補助加熱手段(40)による発熱量とによって前記閾温度(T2)を算出することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記減圧装置(24)は固定式の膨張弁であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−202736(P2009−202736A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46661(P2008−46661)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】